偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
木曜日の深夜・・・。
後、数分で金曜日に至る時、私は朱奈が保護された施設の近くに隠れて様子を窺っていた。
金曜日になれば朱奈の右目に施された《呪い》が発動してあの施設は結界に飲み込まれる。
施設の人達を巻き込むのは申し訳無いがこれも私と朱奈が出会う為に必要な犠牲だと割り切る事にした。
施設に保護された朱奈の事はキュウたんを通して聞いていた。
婦人警官に保護された朱奈は一通りの検査を終えてこの施設に送られていた。
自分の名前以外、覚えていない記憶喪失と診断された朱奈は施設の中では非常に大人しい性質を見せていた。
回りにいる知らない人々に朱奈は隠し切れない怯えを見せながらも暮らしていた。
後少し・・・。
後少し・・・。
(来た!)
右手に付けた腕時計を見ながら私の眼前で施設が結界に飲み込まれた事を確認した。
朱奈の持つ《右目の呪い》が発動した証だった。
《魔法少女》としての姿に変身すると跳躍を繰り返して強引に結界に乗り込んだ!
全身を魔力で覆ってバリアにして結界の壁を突き破り床に降り立った私の前に《使い魔》と思しき怪物が数匹、襲って来た。
左手に箒を出現させ魔力を穂先に集中させ次々と《使い魔》を刻んで行く。
脇から数十匹の《使い魔》が私に向かって来ている。
箒の穂先を数十匹の《使い魔》に向けて箒の柄にある引き金を躊躇無く引いた。
鋭い針となった穂先が次々と発射され《使い魔》を貫き消滅させた。
「朱奈・・・。待っていて・・・」
決意を新たにすると私は結界の最深部へと足を向けた。
途中、立ちはだかる《使い魔》を躊躇無く私は倒して行った。
「たっ助けて!」
ふと脇に目を向けると施設の職員と思しきおばさんが《使い魔》に襲われ私に助けを求めていた。足元には他にも居た施設の職員と思しき人や子供が食い散らかされているのが見えた。
右手に魔力を集中させて《魔法の種》を作り出し投げ付ける。
種類は・・・。停止!
(停止の種=ストップシード!)
私に《魔法の種》を撃ち込まれたおばさんはその場に崩れ落ちた。
気を失ったのだ。
暫くは目覚めない。
もっとも気を失っている間に《使い魔》に捕食されて二度と目を覚ます事は無いが・・・。
再び私は歩を進める事にした。助けると言う選択肢は私の中に存在しなかった。
もし助けてしまえば朱奈の事を知る人物が存在する事になってしまう。
朱奈を助けてここから離れた後、私は朱奈と旅に出るつもりだった。
だからこそ朱奈の事を探そうとする人間は少ない方が良い。
出来ればいない方が良いが警察の持っている記録だけはどうにもならないだろう。
だから目に付いた生存者は気を失わせ運に任せる。
殺害も検討したが今の私が優先するべきは朱奈の安否だった。
最深部へと向かい歩を速める。
私がこの結界の最深部に付いた時、朱奈は既に目覚めていた。
物陰からそっと様子を窺う。
一般的な子供服を着た朱奈は怯えて立つ事も出来ない様子だった。
その脇を《蝙蝠の様な魔女》が鎮座していたが妙な事に朱奈に危害を加えていなかった。
と言うよりも朱奈に対してまるで関心を抱いていない様子だった。
「やっぱりキュウたんの言うとおりだったのね・・・」
一週間前に朱奈が誕生して初めて《呪い》を発動させた時もあの場にいた《珊瑚の魔女》は朱奈に対して危害を加えなかった。
どうやら朱奈の持つ《呪い》の反作用によって朱奈は《魔女》や《使い魔》からは同類と認識されているらしい。
しかしだ。これから私が《蝙蝠の様な魔女》と戦った際に行った私の攻撃に巻き込まれないとも限らない。
新たな《魔法の種》を右手に出現させ朱奈の足元に向かって投げ付ける!
(防御の種=ディフェンスシード!)
その瞬間、朱奈の身体は私の魔力によって作られた防護壁に包まれた。
赤と青の光からなる防御壁に包まれた朱奈は怯えながらも驚いていた。
「なに?」
周囲を見渡した朱奈を見て私は物陰から出ると臨戦態勢を取った自分の姿を《蝙蝠の様な魔女》と朱奈の眼前に晒した。
「だっ誰!?」
「怯えなくて良いわ。私はあなたを助けに来たの」
「えっ!?」
私の言葉を聞いて朱奈は困惑の色を浮かべる。
言葉を交わす間に《蝙蝠の様な魔女》は私に向かって翼を大きく振った。
同時に無数の風が私の身体を切り裂いた。
痛覚遮断をしていた為に痛みは無かったが全身を覆っていた魔力の防護壁を破ったのは驚きだった。
次に驚きは怒りに変わる。
「やってくれたわね!」
跳躍して飛び回りながら左手で構えた箒の穂先を《蝙蝠の様な魔女》に向けて引き金を引く!
次々と穂先が鋭い針の様な弾となって《蝙蝠の様な魔女》の身体に撃ち込まれ、その動きを鈍らせていた。
続いて右手から新たな《魔法の種》を精製し《蝙蝠の様な魔女》に投げ付ける!
(爆発の種=エクスプロージョンシード!)
大きな音と同時に《蝙蝠の様な魔女》が落花して来るのが見えた。
いくら《魔女》でも真横から予兆無く起こった爆発には対処出来なかった様である。
続けて新たな《魔法の種》を《蝙蝠の様な魔女》の落花した近くに投げ付ける。
(拘束の種=アーレストシード!)
すると種の投げられた場所から魔力によって作られた縄が無数に生えて《蝙蝠の様な魔女》を拘束した。
「止め!」
拘束から逃れようと身体を揺する《蝙蝠の様な魔女》に対して私は最後の一撃の為に全身の魔力を左手に握った箒に集中する。握られた箒の色は赤と青の輝きを増して行く。
(今だ!)
感じたままに右足から駆け出す!近付き目の前に迫った、拘束された《蝙蝠の様な魔女》を魔力で輝く箒で一閃した!
「ぐぎゃああああああああ」
大きな悲鳴を上げ《蝙蝠の様な魔女》はグリーフシードを残してその巨体を消滅させた。
結界は崩壊しグリーフシードを拾い上げた私はようやく朱奈の方を見た。
朱奈は怯えきって私の方を見ていた。
周囲を見るとこの場所は朱奈が保護された施設の建物内に戻っている。
魔力で強化された私の感覚は周囲に人の気配を感じ取れなかった。
(つまり・・・。生存者はいないと言う事ね・・・)
蛍光灯が再び灯ったのを見て私は朱奈に向かって一歩ずつ歩み寄った。
「だっ誰なの?なっ何が起きたの?」
涙を流し極度の混乱に襲われた朱奈は私に向かってそう叫ぶだけで精一杯の様だった。
(可哀想・・・。私が弱かったせいであなたに必要の無い苦しみを押し付けちゃったのね・・・)
朱奈から視線を逸らした私は自分の頬を涙が伝ったのを感じた。
(私も苦しんでいると言う事ね・・・)
視線を戻すと朱奈は私が泣いた事を見て困惑している様子だった。
朱奈の脇に移動した私は持っていた箒を消失させると朱奈の背中と足に自分の両手を滑り込ませてお姫様抱っこの体勢で朱奈を持ち上げた。
「行きましょう。ここは私とあなたのいるべき場所じゃ無い」
「え!?」
怯える朱奈に対して私は笑顔を作って向けたつもりだったけれど旨く作れたのかどうかは分からなかった。
開けっ放しとなっている窓から私は困惑する朱奈を抱えて跳躍して行った。
それは普通の人々が暮らす世界と私達、2人の暮らす世界の隔絶を表していた。
○
跳躍を繰り返して朱奈を抱えた私は隠れ住んでいるテントに戻った。
抱き抱えられた朱奈は私に抵抗する事は無かったがその顔は困惑を表していた。
まだ底冷えのする季節だったので直ぐに朱奈と2人でテントに入った。
直ぐに朱奈には毛布を羽織らせた。
「さて・・・。これで大丈夫ね。落ち着いた?」
頷いた朱奈を見ると私は予め水筒に入れて用意していた暖かいお茶を朱奈に渡すと朱奈は少しずつ口に含んだ。その様子からどうやら少し落ち着いたらしい。
「あの・・・。お姉さんは何者なの?」
そう言えば私は朱奈に対してまだ自分の名前を名乗っていなかった。
「私ね・・・。私は筒地綾女。あなたの名前は?」
「えっと・・・。わたしはシュナ」
少し戸惑い気味に朱奈は自分の名前を告げた。
その様子からもしかしたらまだ自分の名前に馴染んでいないのかも知れなかった。
「そう。朱奈。良い名前ね。私の職業は《魔法少女》と言う所よ」
「魔法・・少女?」
私の答えを聞いて朱奈は少し首を傾げていた。
「ええ。さっき私が倒した怪物。あれは《魔女》と言うの。私はその《魔女》を倒す《魔法少女》よ」
朱奈は私の答えを聞いて驚いた表情を見せていた。悩ましげな表情にも可愛さが見えている朱奈を改めて私は喜びを感じていた。一週間を経てようやく取り戻した人生の伴侶なのだ。全ての挙動に私は一喜一憂していた。
「どうして・・・。わたしをここに連れて来たの?施設の人達はどうなったの?」
急に叫んだ朱奈に驚いた私だったけれど、そんな朱奈の様子も良いと私の心は感じていた。どう答えるかを反射的に思考した私はちょっと辛かったけれど答える事にした。
(出来れば余り辛い事は話したくないけど仕方ないわね)
「施設の人達は死んだわ。私が来た時にはもう・・・」
わざと目を伏せて私は朱奈と目を離した。視線を交わすと私が嘘を付いている事が見抜かれるのではと恐れたからだ。
「そっそんな・・・。どうしてなの?どうして!?」
激しい朱奈の叫びに視線を戻すと朱奈は悲しみを帯びた瞳で私を見つめていた。
悲しみを晴らして上げなければいけない。
「それはね・・・。あなたの右目に《呪い》が存在するから」
「《呪い》!?そんな・・・」
言葉を紡げない朱奈は俯いてしまった。
ショックが大き過ぎたのかも知れないが話し続ける事を私は選んだ。
これからの事を考えれば話しておいた方が良い。
「あなたの右目にある《呪い》は《魔女》を引き寄せてしまうの。その魔力の波長から見て一週間に1度、《魔女》や《使い魔》を引き寄せるみたいね」
「また・・・。あんな化け物が来るの?」
「ええ。必ず現れるわ。あなたを求めて」
「怖い!」
朱奈は自分の身体を自分の手で守る様に両手で自分の肩を掴み全てを拒絶する様に瞼を閉じた。少し怖がらせすぎたのかも知れない。私は直ぐに抱き寄せたいと言う思いを抱いたけれどそれを押し止め再び口を開く。
「大丈夫よ」
「?」
困惑した朱奈が私に向けて顔を向ける。
その目を真っ直ぐに見つめて私は答えた。
「私があなたを守ってあげるわ。《魔法少女》である私が《魔女》や《使い魔》からあなたを守ってあげるわ。朱奈」
力強く、自信に溢れた私の言葉を聞いて朱奈の表情が少し和らいだ様に見えた。
「本当に私を守ってくれるの?またあの化け物が来ても私を守ってくれるの?」
目に涙を浮かべながら朱奈が私に問い掛ける。
「ええ。守ってあげるわ。それが今の私が心から望む事だから」
出来るだけの笑顔を見せ私は答えた。答えながら朱奈を抱き寄せる。朱奈は力を抜いて私に抵抗する事は無かった。拒否し無いと言う事は私の事を認めているのかも知れなかった。嬉しさが込み上げて来る。
「もう・・・。私が怖い思いはさせないわ・・・」
「うっうぅ―っ!」
声を殺して泣きだした朱奈を私は抱き締め小さい子をあやす様に頭を撫でていた。
とにかく落ち着くまで泣かせ続けた。
落ち着くと朱奈は顔を上げて私の事を見てきた。
「ありがとう。綾女さん」
「さんなんて付けなくても良いわよ。そう言う呼ばれ方、慣れてないから」
事実でもあった。私は朱奈からさん付けで呼ばれたくは無かった。
だから・・・。こちらから私好みの呼び方に誘導する事にした。
「綾女ちゃんと呼んでくれると嬉しいわ」
「じゃあ・・・。ありがとう。綾女ちゃん」
初めて朱奈は私に笑顔を見せてくれた。
それに釣られて私も心からの笑顔を作る事が出来た。
「ええ。それで良いわ。私はあなたを守る《魔法少女》の綾女ちゃんよ」