偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
泣き疲れた朱奈が私の真横で寝袋に入って安らかな寝息を立てている。
「せめて・・・。いい夢を見ると良いわね」
そう呟くと私はテントの外に出た。
「キュウたん。いるんでしょう?出てらっしゃい」
低く出した私の声に応じる様に木の陰からキュウべえことキュウたんがひょいと現れた。
「やあ。綾女。どうだい?朱奈の様子は?」
(ええ。朱奈は予定通りに助けられたわ)
キュウたんを視認すると同時に私は声を出すのを止めてテレパシーで話を進めた。
これなら朱奈が万一、起きてしまったとしても私とキュウたんの会話が聞かれる心配が無い。
私は朱奈にキュウたんとの会話を聞かせるつもりも無かったしキュウたんと会わせるつもりも無かった。
もっとも朱奈には《魔法少女》になる事が出来ない様にしていた為にキュウたんの姿を見る事は出来ないと思うが・・・。
(綾女。君はこれからどうするつもりだい?)
(そうね。なるべく《他の魔法少女》のいる土地を避けて朱奈と2人で旅をするつもりよ。足の向くまま、気のむくままにね)
答えながら私はキュウたんのいる木に寄り掛かった。
まだ3月の夜は寒く地面に座る気にはなれない。
(キュウたんなら《他の魔法少女》の縄張りは知っているんでしょう?)
(うん。知っているよ)
(キュウたんが私に縄張りの場所を教えてくれれば私は楽に移動が出来ると言う事よ)
(まあ別に良いけど・・・。ただ僕は常に《魔法少女》の動向を知っている訳では無いよ。僕の数も限られているから提供できる情報が外れる事もある。その事は承知してくれるね?)
(構わないわ。予想なんてモノは1つの物差しに過ぎないわ)
(それなら僕からも質問を良いかい?)
(何かしら?)
キュウたんからの質問と言うのも興味がある。
(朱奈と2人で旅をすると言うけれどお金はどうするんだい?綾女はもう家には帰らないんだろう?どうやってお金を手に入れるつもりだい?)
(そんなの簡単じゃない。私は《魔法少女》よ。普通の人間じゃ勝つ事は出来ないじゃない。ちょっと締め上げれば直ぐにお金を出すわ。ほら)
そう答えながら私はポケットから財布を取り出しキュウたんの方に見せた。
財布の中には10万円が入っている。
中学を卒業したばかりの私が持つのはあり得ない金額だった。
(そのお金はどうしたんだい?もしかして誰かを襲ったのかい?)
(ええ。昨日と一昨日に繁華街の方に足を伸ばして柄の悪い連中を痛め付けて手に入れたお金よ。まあ成功報酬と言った所ね)
(でもその方法でお金を得るのは効率的では無いんじゃ無いかな?魔法を使えばもっと楽にお金を手に入れられると思うけど・・・)
(分かっているわ。その為の魔法も今、研究中よ。暫くの間なら私の力だけで十分な筈よ)
(ふーん。綾女は本当に変わっているね)
(そうでも無いと思うけど?)
私が真上を見上げるとキュウたんは興味深そうに私を見つめていた。
キュウたんの背後には枝と葉が広がり空を見る事は出来なかった。
○
朝、目を覚ますと見慣れたテントの骨組みが目に入った。
寝袋の中から横を向くと隣では朱奈が寝袋の中で安らかな寝顔を見せていた。
私は寝袋から出ると朱奈の額にそっと手を乗せた。朱奈の体温を素手で感じて安らかな気持ちになる事が出来た。
そのままテントを出ると外を見てみた。
外は林の中からも解る程、青空が広がり晴天だった。
青空を見ながら私は私の愛する伴侶と共に自由に生きて行く。
今、私の人生は幸せの中にある。そんな確信を感じる私は自然と笑みを浮かべていると感じていた。
テントの中に戻って朝食の準備を始める。
準備と言っても事前に買って来ておいた食事を用意するだけだが。
準備を行っていると朱奈が目を覚ました。
「うーん。・・・。良い匂い?あっ!綾女さん。じゃなくて綾女ちゃん!」
そう言って朱奈は寝袋から出て来た。
その服装は一般的な子供服と言われる服装のままである。
正直、もっと可愛らしい服装をさせてあげたいと私を思っていた。
きっと朱奈にはもっと可愛らしい服装が似合うだろう。
「おはよう。朱奈。朝食が出来ているわよ」
私は朱奈の前に朝食を並べた。朝食は数個のロールパンとクリームパン。
それと前日にコンビニで購入したサラダと缶コーヒーだった。
「食べましょう。じゃあ朱奈。いただきます」
「綾女さん。いただきます」
私達はそう言って朝食を食べ始めた。
朱奈は丁寧にロールパンを千切って食べた。箸を使ってサラダを食べる様子を見ながら朱奈の指先はとても細く折れ易そうで頼り無さげに見えた。
心の底から守りたいと思う存在。
それが私にとっての朱奈と言う存在だった。
そう思いながら私はサラダにドレッシングをかけるとお箸を使って食べていた。
朱奈は缶コーヒーを一口啜ると少し顔をしかめた。
しかめた顔もカワイイと感じていたが流石にそれを伝えてしまう程、無自覚な人間では無かった。
この気持ちは私の心の中にそっと閉まっておく。
(まだ朱奈には速かったかしら?)
そう思いながら普段は飲まないブラックの缶コーヒーを飲んで私も少し顔をしかめてしまった。
(私にもまだ速かったかしら?)
そう思って朱奈を見ると朱奈は私を見て微笑んでいた。
それを見て私もつい笑ってしまった。
「お互い、コーヒーはまだ速いみたいね」
「うん。私にもまだ速いみたい」
私達はお互いに笑いあっていた。
それはとても他愛無いかけがえの無い大切な事だった。
私は今まで家族や友人と過ごして来てこう言った事を感じた事が無かった。
だから今、愛する人と感じられるこの瞬間を大切に感じた。
「あの・・・。綾女ちゃん・・・」
「どうしたの朱奈?」
朝食を終えると朱奈が私に話しかけて来た。
けど下を向いて少し怯えている様でもあった。
「わたし・・・。記憶が無いから・・・。これ以上、綾女ちゃんと一緒にいても迷惑を掛けるだけかも知れないから・・・。だからわたし」
「朱奈・・・。ここを出て行こうなんて考えなくて良いわ」
「え?」
私の言葉に朱奈は驚きの表情を見せていた。
「私もね、そろそろここを引き払おうと思っていたのよ」
「でも・・・・。わたし・・・」
「朱奈。私はね《流浪の魔法少女》なの。何処へ行くのも決めず足任せに気分の赴くままに旅をしているわ。だからね。朱奈は私と記憶を探す旅をしない?」
私の提案に朱奈は直ぐに答え無かった。
少しの間、沈黙が私達の間に降りた。
「綾女ちゃん。本当に良いの?わたしを一緒に旅に連れてってくれるの?」
沈黙を破って答えた朱奈の顔は喜びと不安が入り混じった表情をしていた。
その顔にも愛しさを感じながら私は答えた。
「ええ。私は朱奈と共に旅をしたいわ。私と一緒に世界を回りましょう。そうしたら何時か、あなたの記憶も戻るかも知れない。だから私と旅立ちましょう」
「うん。わたし・・・。綾女ちゃんと旅に出る!」
私と朱奈はお互いの両手を取って喜びを分かち合った。
「じゃあ早速、準備をしましょう。朱奈。ちょっとテントから出て」
私に促されて朱奈はテントを出た。
次いで私も黒いコートを着るとリュックを背負ってテントを出る。出て私は2週間の間、使用したテント等の道具に左手を翳した。
同時にテントや寝袋等の道具はそのまま赤と青の光に包まれて私の手の中に飛んで来た。
テントや寝袋等の物を、私は自信の魔力を注ぎ込む事で《魔法の種》へと変化させる事が可能だった。
手の中にある《魔法の種》をリュックの中にあるプラスチック製のケースにしまうと私は朱奈に向き直った。
朱奈は私の使う魔法に興味津々と言った様子を見せていた。
少し寒さを感じて私は朱奈の為に用意していた物があったのに忘れていた。
「外はまだ寒いからこれを着ると良いわ」
そう言って私は鞄の中から1つの《魔法の種》を取り出すと強く握り締めた。
同時に私の左手には子供用のボアベンチコートが出現した。
「これを着ると良いわ」
「綾女ちゃん。ありがとう。こんなにしてくれて本当にありがとう」
「良いのよ。朱奈の為なら・・・。さあ、行きましょう」
言いながら私は朱奈に左手を伸ばした。
「うん。行こう。綾女ちゃん」
朱奈も素直に私の左手を握り締める。ほんのりと冷たさの残る手だった。
私と朱奈は2人で手を取り合って林を抜けて公園に出るとそのまま道路に出た。
「食後の運動も兼ねて駅まで歩きましょうか」
「うん!」
朱奈は笑顔で答えてくれたがこれにはもう1つだけ理由があった。
実は朱奈に着させたボアベンチコートには魔法が施してある。
それはボアベンチコートを着た朱奈の顔が他の顔に見えると言う作用が働いていた。
警察に保護された以上、朱奈の存在は警察に知られていると考えておいた方が良い。
だからこそ暫くの間は朱奈の姿を覚えられない様に工夫する必要があった。
歩いて暫くすると私の実家周辺に辿り着いた。目に付く範囲でも警察官の動きが何時もより活発だった。
警察官が私と朱奈を見たが何の変化も示さなかった。
どうやらボアベンチコートに仕込んだ《魔法の種》、偽りの種(ディスグイスシード)の作用は問題無しと見て良かった。
また同級生ともすれ違った。
けれど誰も私が××××だとは気が付かなかった。
時々、擦れ違った私の顔を改めて覗き込んで来た人もいたけれど私の顔を見て落胆した表情を見せていた。
きっと××××を探していたのかも知れなかった。
でも××××はもういない。
私は筒地綾女。愛する朱奈を守る《流浪の魔法少女》なのだから。
駅に着くと私は鉄道路線全般で使える電子マネーを2枚、購入した。
「ねえ。朱奈。どっちの路線に乗りたい?」
改札口を抜けてホームを降りる前に私は朱奈に問い掛けた。
「うーん。こっちかな?」
朱奈が差したのは人が少ない方だった。
「そう。じゃあ行きましょう。朱奈が行きたいと思う方向に手掛かりがあるかも知れないから」
「うん!」
私達は2人で手を繋いでホームに降りた。
今日、私は朱奈と共に新たな人生の扉を開いたのだった。