偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA   作:ジャックノルテ

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第10話 旅はまだ始まったばかりだから・・・

 あれから三日が経過した。

 私と朱奈の旅には何も問題は無かった。

 いいや。訂正する。

 1つだけ問題が生じていた。

 現在進行形で。

 私の頭の中にはその問題をどうするのかを考えるだけで手一杯の状態だった。

「綾女ちゃん。どうしたの?」

 椅子に座ってホテルの一室にある窓から外を見ながら考え事をしていた私に朱奈は話し掛けて来た。

「ちょっと考え事をしているのよ」

 私は心配させまいと笑みを浮かべて答えたがベッドに座ってテレビを見ていた朱奈の表情は冴えなかった。

「もしかして昨日の事?」

 朱奈の表情は見る見る内に暗くなって行った。

 何か言葉を口に出して誤魔化そうとしたけれど止めた。

 それでは私が朱奈に嘘を付いてしまう事になる。

 私が朱奈に嘘を付くのは必要だと感じた時だけだ。と言っても時と場合にもよるが・・・。

とにかく今は嘘を付く必要を感じなかった。

「ばれちゃった?そうなの。昨日の事を少し考えていたのよ」

 バツが悪そうに私が笑みを浮かべると朱奈は立ち上がって私の向かい側の椅子に座った。

 その表情は深刻と言うのが誰でも分かる物だった。

「やっぱりわたしのせいなのかな・・・」

「いいえ。朱奈が悪いんじゃ無いわ。悪いのは私何だから」

 苦笑して答えながら私は昨日の事を思い出していた。

 

 

 

 

 昨日、私と朱奈は朝食を食べ終えるとホテルに荷物を置いて周辺の散策に出ていた。

 2人で道を歩いていると朱奈が色々な物に驚く様子が可愛くて私はとても重要な事に気が付かなかった。直ぐにその事は気付く事になるのだが・・・。

「もしもし。ちょっと良いですか?」

 突然、後ろから話し掛けられて驚いたけれど振り向いた私は二重に驚きを味わった。

 私と朱奈に話し掛けて来たのは制服に見を固めた警察官だった。

「隣のお嬢さんはどう見ても小学生ですよね?学校はどうしたんですか?」

「それは」

 言われて私は言葉に詰まってしまった。

 そうだ。今は春休みが終わって四月の平日。普通の小学生なら学校に行っている筈の時間帯。こんな時間帯に朱奈が外を出歩いていれば補導の対象となるのは必定だった。

「説明を出来ないんですか?ちょっとお話を聞かせて貰ってもよろしいですか?」

「綾女ちゃん!」

 私の真後ろに隠れた朱奈が怖がって私の手を握り返してきた。

 仄かな温かみを感じながらも私にはそれを楽しむ余裕は無かった。

 警察の職務質問を受けたとしても私には答えられる住所や電話番号は無い。

 朱奈も同じだ。この子には帰るべき場所が無い。

それにもしかしたら朱奈は警察に保護された時の記録が残されている危険性がある。

このままでは私にとって良くない事が起こる。

そう判断すると同時に私は警察官に背を向けると瞬時に朱奈をお姫様抱っこの状態で抱えて走り出した。

「朱奈!逃げるわよ!」

「えぇ!?」

「待ちなさい!?」

 私に突然、抱えられて朱奈は驚いていた。同時に警察官も私が突然、逃げ出した事に意表を突かれた形となっていた。

 朱奈を抱えて走る私。追い駆けて来る警察官。

 人通りが決して多いとは言えない道を走る私と朱奈は嫌でも注目を集めていた。

 路地を見つけると私は瞬時に朱奈と一緒に路地へ入り込んだ。

 同時に魔力を脚に集中して真上に跳躍する!

 朱奈を抱えたまま私はビルの屋上に降り立っていた。

「ふう。これで何とか撒けたわね」

 ビルの屋上からそっと下を見下ろすと私と朱奈を見失った警察官がウロウロとしていた。

「もう大丈夫よ。朱奈」

 私が抱き抱えていた朱奈に視線を落とすと朱奈は固まっていた。

「朱奈?大丈夫なの?」

「あっ綾女ちゃん・・・。急に飛び上がるなんて・・・。怖かったよ!」

 そう言って朱奈は私に両の手を伸ばして抱きついて来た。

 目に涙を浮かべている。

「ごめんなさい。警察を撒くには私にはあれしか思い付かなかったの・・・」

「怖いから急に飛び上がらないで!」

「ええ。次は急に飛び上がったりしないわ。でも、ここから降りるには飛び降りなきゃ行けないから朱奈は目を瞑った方が良いかも知れないわ」

「えっ!?待って!まだ飛び降りないで!ドキドキするから少し待って!」

「良いわよ。朱奈が良いと言ったら私は朱奈を抱えて飛び降りる事にするわ」

 結局、朱奈のドキドキが収まったのはそれから一時間後だった。

 ドキドキが収まるまで朱奈は私から離れる事も出来なかった。

 幸い警察官は既にいなかったのでホテルに戻るのは簡単だった。

 ホテルに戻りながら私は考えていた。

 私は実年齢よりも上の年齢に見られる事が多く、180cmと言う背丈の所為で初対面の人からは既に成人していると勘違いされる事も多かった。

 だからホテルで部屋を取るのもスムーズに行えたのかも知れなかった。

 けれど朱奈は身長も外見もどうみても小学生だ。

 確かに平日の午前中に街を歩いていれば補導されてしまう。

 これからは外に出歩く時も時間を見計らって行かなければならないと私は感じていた。

 

 

 

 

 昨日の事を思い出しながら正面に視線を戻して私の向かい側で座っている朱奈の様子を見てみる。

 少し暗い表情をしているが落ち着いた様子でもあった。

 付けっ放しになっているテレビから音がしていたが私は意に介さなかった。

不意に朱奈は窓の外に注意を向けたので私も窓の外に視線を向けた。

 そこには色とりどりのランドセルを背負う小学生達が集団下校している様子が見えた。

「ねえ。綾女ちゃん。あの子達は学校で勉強をして家に帰ろうとしているんだよね?」

「そうね。小学生だからそれが普通よね」

 言いながら私は小学生が下校する時間ならば朱奈と2人で散歩に出ても問題は無いなと思っていた。

 平行して普通と言う言葉を軽々しく朱奈に話した事に後悔を覚えていたが・・・。

「わたし・・・。勉強をしなくて良いのかな?」

 意表を付いた朱奈の言葉に私は少し驚いていた。

 確かに朱奈は10歳位の人が持つ知識は持っている。

 けれど朱奈だって人間なのだ。向上したいと言う気持ちが《勉強をしなくても良いのかな?》と言う言葉を言わせたのかも知れなかった。

(そっか・・・。朱奈も勉強をしたいのね・・・。真面目な子ね・・・。そうだわ!)

 妙案が私の頭に閃いていた。

「朱奈。明日の午前中から私があなたの勉強を見てあげるわ」

「え?」

「勉強をしたいんでしょ?任せなさい。私が先生になって勉強を教えてあげるわ」

「でも教科書やノートが無いよ」

「それ位、私が買ってあげるわ。勉強したいんでしょ?」

 私にそう言われて朱奈はコクリと頷いた。

(素直な良い子ね)

 そう思って私は身を乗り出すと椅子に座っている朱奈の頭を撫でた。

「勉強をしたいと言えるなんて朱奈はとても良い子ね」

「そうなの?」

「ええ。じゃあ早速、教科書とノートを買いに行きましょう」

「うん!」

 テレビを消すと私達は直ぐに教科書とノートを買いに出た。

 朱奈は10歳位との事だったのでとりあえず小学校4年生の教科書を一通り買い揃えてみた。勿論、忘れずに筆記用具とノートも2、3冊購入した。

「じゃあ朱奈。勉強を始めましょうか」

「うん」

 朱奈が素直に頷いたのを見てまず私はノートを指し示した。

「まずはノートに名前を書く事から始めましょうか」

 促された朱奈はノートに名前を書こうとマジックを当てようとしてが止めてしまった。

「綾女ちゃん。どうしよう。わたし、シュナって名前だけど漢字が解んない!?」

 そうか。朱奈は自分の名前が朱奈とは知っているけれど名前の漢字を知らないのか。

 なら私が名前に相応しい漢字を与える必要がある。

「そうね。じゃあ私が付けて上げるわ。そうね。シュナと言う名前に相応しい漢字は・・・」

 そう言いながら私は手持ちのノートにシャーペンで簡潔に書いた。

 既に名前の漢字は私の中では決まっていたので朱奈に伝えるいいチャンスでもある。

 

 朱奈

 

「これがわたしの名前?」

「そうよ。赤みの掛かった朱奈の髪の毛にあやかった名前よ。この漢字が私は相応しいと思うわ」

「うん。綾女ちゃん。ありがとう。これが私の名前を表す漢字なんだね!」

 そう言って朱奈は嬉しそうに自分を表す漢字をノートにマジックで書いた。

「そう言えば綾女ちゃんの漢字はどんな漢字なの?」

「私のはね・・・」

 朱奈の名前の隣に私の名前を書いた。

 

 筒地綾女

 

「これが私を表す漢字ね」

 私の新しい名前は今までの教育と辞書等を元に書き易さと覚え易さを重視して考えていた。

 だから筒地の漢字も簡単な物を選んでいるし綾女は確か漫画か小説にいた登場人物が使っていた漢字をそのまま使っていた。

「これが綾女ちゃんの漢字。わたし、ちゃんと覚えるよ!」

 朱奈は嬉しそうに自分の漢字と私の漢字をノートに繰り返し書いていた。

 少し恥ずかしかったけれど朱奈が嬉しいのなら良いかと私は思っていた。

(今日はお祝いにケーキを買ってあげようかしら?)

 ふと窓の外を見ると曇りになっていたので天気が気になった私はテレビを付けてニュース番組にチャンネルを合わせた。

 するとニュースではリンドウ市において失踪した××××に対する広い範囲での情報提供を呼び掛けるニュースが流れていた。

 私の同級生や両親がテレビのインタビューに応じていたらしかったけれどbボタンで天気を確かめた私は直ぐにテレビを消して笑顔を作ると朱奈に向き直った。

「それじゃあ勉強を始めましょうか」

「うん」

 笑顔で答える朱奈はとても愛らしかった。

 だから私も出来る限りの愛を与えよう。

 

 

 

 

 夜になって朱奈が眠りに付くと私は音を立てずに部屋を出た。

 ホテルを出て路地裏に行くと周囲にテレパシーを放った。

(キュウたん。いるんでしょ?直ぐに来て)

「やあ。綾女。何か用かい?」

 そう言って道端からキュウたんが私の元に現れた。

「これから夜の研究をするから付き合ってくれないかしら?」

「良いよ。一体、何を研究しようと言うんだい?」

 キュウたんは少し首を傾げながら私の肩に乗っかって来た。

「そうね。魔力によって人を操る事を研究しようかしら?」

 言葉を発すと同時に左手の中に《魔法の種》を出現させる。

「これは・・・。新しい《魔法の種》だね。種類はなんだい?」

「これはね、アポイントよ。つまり命令。それも強制的に私の言う事を聞くと言う」

 私の説明にキュウたんは耳を傾けたので説明を続ける。

「この《魔法の種》を刺された人間は私の命令を拒む事が出来ないの。受け入れる事しか出来ないわ。昨日から適当に出歩いている人間に刺してみてどれ位の命令を聞くか試したわ。結果は良好ね。自殺とか精神的に大きな苦痛を与える様な事以外ならどんな命令でも聞いてくれるわ。お金を出してと言えば持っている分を私にくれるし、警察官を殴れと言えば警察官を殴ったわ。魂に直接、魔力を注入して操る魔法だから《魔法少女》には効き難いと思うけれど一般人には最適な威力を持っているんじゃないかしら?」

 少し考えた様子を見せてキュウたんは口を開いた。

「これは綾女の様な暮らしをするのには便利な魔法じゃ無いかな?僕にはこの魔法の利点は無駄なトラブルを未然に防ぐ事が出来るという点だと思うけどどうなんだい?」

 キュウたんの答えは簡潔で的確だった。

 私も私の考えを告げてみる。

「そうね。それもあるわ。お金を稼ぐ事が出来ないのなら誰かを襲って奪うのが効率的よね。でも誰かを襲い続ければいつか警察にも目を付けられて生活がし難くなるのは目に見えているわ。この《魔法の種》なら簡単に持って来させる事が出来るわ」

「この《魔法の種》を刺された人間の記憶はどうなるんだい?」

「そこが問題なのよ。どうも前後の記憶が残っちゃうみたいなのよね。だから《魔法の種》に刺された人間の事だけは認識出来ないと言う機能を加えようと思うのよ。それなら記憶の問題が解決出来ると思うから。キュウたん。どう思う?」

「良いと思うよ。前後の記憶が定かで無ければ綾女への追及も少ないだろうしね。ところで・・・。あれが《魔法の種》を植え付けた人間かい?」

 キュウたんの言葉に合わせて脇に視線を移すと一人の男が歩いて来ていた。

 スーツを着ている中年の男だ。身なりはしっかりとしているが視線ははっきりとしていない。けれど手に封筒を持っている。

 腕時計の時間を確認すると時間通りだった。

「時間通りね」

 告げながら左手を差し出す。

 男が封筒を私に渡して来た。

 受け取ると同時に男に新たな《魔法の種》を差し込んだ。

 種類は停止。

 男が地面に倒れ込んだのを見届けると私はキュウたんを肩に乗せたまま歩き出した。

「綾女。あの男から何を受け取ったんだい?」

「ああ。預金を全部戴いたのよ。これだけあれば何も問題は無いわね」

 封筒を開いて見てみると札束が1つ入っていた。

「これでアポイントシードの効能は確かめられたわ。魔法を使うのって本当に楽しいわね。キュウたん」

「僕には解らないけれど綾女が楽しめるのなら良いんじゃ無いかな?」

「そうよね。楽しければ問題は無いわよね」

 キュウたんに答えながら私は帰路に着くべく路地裏を後にした。

 

 

 

 

 私が部屋に戻ると朱奈は健やかな寝息を立てて眠っていた。

 音を立てない様に近付いて私は朱奈の頭を撫でた。

「大丈夫よ。朱奈。旅はまだ始まったばかりだから・・・」

 呟いて私ももう1つのベッドに横になった。

 目を閉じながら私はこれからの旅に思いを巡らせていた。

 資金面の問題は解決した。

 これからは私と朱奈は何者にも縛られる事無く旅を続けられる。

 そして・・・。

 私は未来に夢を抱いて眠りへと落ちて行った。

 

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