偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
「綾女ちゃん。ここって・・・」
「そうよ。ここで私と朱奈は出会ったのよ」
私と朱奈は1年振りにリンドウ市にある公園を訪れていた。
懐かしいと言う感慨はあった。
けれど全ては過ぎ去った過去の事。
今の私は愛する朱奈と共に生きる事だけに目を向けていた。
「でもここで私がお巡りさんに保護された時、綾女ちゃんはいなかったよ?」
朱奈が指摘した通りに今、2人で佇んでいる公園で朱奈は婦警さんに保護された。
あの時の事を言うべきか言わないべきか悩んだが1年と言う時が過ぎて区切りが付いた
ので私は朱奈を助けられなかった事を話す事を決めていた。
「実はね・・・。あの時、朱奈は結界に取り込まれていたのよ。私は朱奈を助ける為に《魔女》と戦って《魔女》を倒したんだけど、その時には朱奈は警察官に保護されていたの。私がもっと強ければ朱奈に辛い思いをさせずに済んだかもしれないのに・・・」
事実は伝えるが私の都合で少し言い換えて置く。
「そんな事・・・。無い」
暫くすると朱奈がそう答えて来た。
「確かに施設の人達が死んじゃったのは辛かったけど、綾女ちゃんが助けてくれたから・・・。わたしがいるの。綾女ちゃん。自分を責めないで!悪いのはわたしっ。ひっく」
言いながら朱奈は途中で泣き出してしまった。
「朱奈。泣いても良いのよ。泣き止むまで付き添ってあげるから」
私は朱奈の手を引いて近くのベンチに行き2人で座り朱奈が泣き止むのを待った。
1時間程して朱奈は落ち着きを取り戻した。
「さて。朱奈。そろそろ戻りましょう」
「うん」
小さく朱奈が頷くのを見ると周囲を見渡した。
旨い具合に人はいない。
《魔法少女》としての姿に変身すると朱奈をお姫様抱っこの形で抱えた。
「じゃあ行くわよ!」
小さく頷いて朱奈は目を瞑った。
それを合図に私は足に魔力を集中して跳躍する。
朱奈は抱えられて移動する時には目を瞑る様にしていた。
聞いてみると目まぐるしく景色が変わるのが怖くて目を開けてられないからだと言っていた。
そんな怖がりな一面を見せる朱奈は本当に可愛らしかった。
私の嘘偽り無い本当の気持ち。
(朱奈には秘密にしておこう)
そう思いながら跳躍を繰り返し私と朱奈は山林地帯に作った野営地へと戻った。
「朱奈。着いたからもう大丈夫よ」
声を掛けると朱奈は固く閉じていた両目を開いた。
それに合わせて私は朱奈を地面に降ろして上げた。
「綾女ちゃん。ありがとう」
「良いのよ。それじゃあそろそろ準備をしましょう」
私の告げた言葉を聞いて朱奈は表情を強張らせた。
「うん・・・」
朱奈の表情は暗くなって行く。
(無理も無いか・・・)
後、数時間で朱奈が《魔女》を引き寄せる明日になる。
午前0時になったと同時に朱奈は《魔女》を引き寄せて結界に閉じ込められてしまう。
3月の下旬は暦の上では春といえたが、まだまだ冬の寒さが尾を引いている時期でもあった。
《魔女》の作り出す結界の内部の体感温度は基本的には外と変わらない。
つまり結界の中に入ると言っても真冬なら厚着をしておかないと、体調を崩し易いと言えた。
それに加えて私が《魔女》を倒すのにどれ位の時間が掛かるのかは分からない。
結界が入り組んでいれば丸々一日使ってようやく倒す事もある位だ。
だからこそ朱奈が《魔女》を引き寄せる時には季節に適した服装と一日分の食料と水等が入ったリュックを持たせる事にしていた。
リュックには朱奈を守る為の魔法も施してある。
万一、朱奈に私以外の何かが近付いた場合、防護壁が発動する《魔法の種》を仕掛けた。
言うなれば《自動防御の種》(オートシールドシード)。
これだけの準備をしていれば朱奈が結界に閉じ込められても問題は無いと思えた。
「朱奈。元気を出して。少し速いけど食事にしましょう」
努めて明るい声を出した私を見て朱奈は小さく頷いて一緒にテントに入った。
コンビニで買って来た弁当を2人で食べたけれど朱奈の表情は暗いままだった。
食事を終えて片付けを済ませて朱奈の様子を再び見てみる。
やはり暗いままだ。
(もう少し励ましたい)
衝動とも取れる思いを押し止める事無く私は朱奈の背後から朱奈を抱き締めた。
「綾女ちゃん!?」
朱奈は背後からでも分かる位に顔を真っ赤にして驚いていた。
「朱奈。大丈夫よ。私が直ぐに助けてあげるから。だから元気を出して・・・」
私の懇願とも取れる言葉を聞いて朱奈は直ぐに言葉を返さなかった。
2人の呼吸の音だけがテントの中に響いている。
「綾女ちゃん。ごめんなさい。わたし・・・。いつも綾女ちゃんに助けられているのに・・・。わたし・・・」
「良いのよ。だってそれは私が選んだ事なんだから。でもね、やっぱり朱奈には元気でいて欲しいの。やっぱり朱奈には笑顔でいて欲しいから・・・」
「うん。わたし・・・。元気出す」
返答を聞いて背後から抱き締めた朱奈を解放した。
私に向き直った朱奈は少し固いけど笑顔を見せていた。
「ありがとう。朱奈。でも、本当に辛い時は我慢しなくて良いのよ」
「うん。ありがとう。綾女ちゃん」
朱奈の頭を撫でながら私はこれから始まる《魔女》との戦いに向けて気を引き締めていた。
○
深夜・・・。
後、数分で日付が入れ替わろうとしている時に私と朱奈は公園に赴いていた。
テントにいる状態で結界に巻き込まれるとテントが結界内に入ってしまい、結界の崩壊とう同時にテントが消滅してしまう事があった。
流石に深夜に野営地が無くなってしまうのは困るので事前に野営地から離れた場所で《魔女》が引き寄せられる様にしていた。
「もう直ぐね。朱奈。大丈夫?」
「うん。大丈夫」
私の隣で答えた朱奈だったけれど、その表情は余り冴えない。
不意に私の腰に手を伸ばして抱き付いて来た。
拒む事はしないが《魔女》が引き寄せられれば、私と朱奈は引き離され、離れた場所で実体化してしまう。
朱奈もその事は分かっている筈だった。
でも怖くて堪らないのだろう。
もう何度も繰り返して来た事だけども慣れる事は永遠に無いのかも知れない。
そう思い朱奈に視線を向ける。
震えているのが私にも分かった。
不安を和らげようと朱奈の頭に手を伸ばして撫で様とした時、《魔女》の持つ魔力を感じた。
「綾女ちゃん!」
朱奈が私の方を向いて来る。
右目に施された呪いから魔力が滲み出ているのが私にも解る。
「大丈夫。直ぐに迎えに行くわ」
私がその言葉を告げると同時に私と朱奈は結界に飲み込まれてしまった。
結界を構成する《魔女》の魔力に流されて朱奈と離れ離れになったのを自覚しながら私は《魔法少女》としての姿に変身した。
同時に全身から魔力を放出して《魔女》の魔力によって流されるのを防ぎその場に留まった。
周囲を見渡すと《魔女》の異空間に入った事は直ぐに解った。
独特の雰囲気を持つこの空間は視認しただけで直ぐに解る。
不意に目の前に影が横切った為に左手に《魔法の種》を出現させ握ると箒が出現した。
躊躇無く箒の穂先をその場に撃ちこむ!
その場にいたのは《使い魔》だった。
苦しげな声をあげて消滅する《使い魔》に目もくれる事無く私は先を急ぐ事にした。
朱奈の位置はリュックに施した《魔法の種》の残留魔力から感じる事が出来る。
その方角に向かって私は足を進めたが、違和感を覚えて立ち止まった。
何となくだが、感じられる違和感を口に出して呟いてみる。
「見られている?」
呟くと同時に疑念は深まり周囲を見渡してみる。
けれどここは《魔女》の結界内。
結界の主である《魔女》が、侵入者を監視していてもおかしくは無かった。
再び歩を進める事にする。
途中で現れた《使い魔》に対して苦戦する事は無かった。
まるでセーターの様な形をした《使い魔》に対して何も感じる事無く機械的に退治して行った。
順調に私は朱奈のいる大まかな方角に向かって進み続けていた。
やがて・・・。
最下層と思しき場所で私は《魔女》と対峙した。
その《魔女》はまるでミシンの様な姿をしていた。
「《ミシンの魔女》と言う事ね」
同時に走る。
一気に《ミシンの魔女》に向かって走り出す。
他の階層から現れた私に対して《ミシンの魔女》が驚いた様に身体を動かすが私は気にする事無く箒の穂先を向けた。
柄にあるスイッチを押す事で次々と鋭い穂先が撃ち出されて《ミシンの魔女》の身体に突き刺さって行く。
苦痛に叫ぶ《ミシンの魔女》は身体から無数の針や糸、ボタンを飛び出させて私に向けて来た。
向かって来る針や糸、ボタンの内、避けられる物は避け交わせない物には対処を行う。
私に向かって来るボタンに対して私は右手に《魔法の種》を生成するとボタンの方向に投げ付け横に跳躍する。
投げられた《魔法の種》=《爆発の種》は爆発を起こしてボタンを木っ端微塵にした。
一瞬、攻撃が止んだ隙を付いて周囲を調べる。
《魔法少女》は自信の魔力をアンテナとして周囲の様子を知る事が出来る。
「朱奈はいないのね」
これだけ大きな結界なら考えられる事だった。
恐らく別の階層に朱奈はいるのだろう。
怒りの様子を見せた《ミシンの魔女》が迫って来る。
右手に二種類の《魔法の種》を精製する。
まずは1つを投げ付ける。
そして次いでもう1つ、時間差を置いて投げ付けた。
最初に投げた《魔法の種》が《ミシンの魔女》に当たって水が吹き出て来た。
びしょ濡れとなった《ミシンの魔女》に次いでもう1つの《魔法の種》がぶつかる。
当たると同時に雷が迸った!
投げた《魔法の種》は《水の種》(アクアシード)と《雷の種》(ブロントシード)。
イオンやミネラルを含み電気を通し易い水を発生させる《水の種》と雷を再現した《雷の種》。
2つの内、《水の種》の生成は簡単だったが《雷の種》の生成は大変だった。
雷がどの程度の威力を持つか知る必要があり、私は嵐の夜に意図的に送電線の上に上ると魔力で雷を誘導し、自らの身体で威力を確かめた。
キュウたんは呆れていたけれど、身体を張ったこの実験のお陰で《雷の種》の威力は本物の雷と同じ威力を持つ事に成功していた。
「そろそろね!」
私が《ミシンの魔女》に向かって飛び出すと同時に《ミシンの魔女》の全身に放たれていた雷は消滅した。
《雷の種》の雷は一分間しか発動しない。
一分では短いと思うかも知れないが雷は普通、瞬間的に発生するエネルギー。
そのエネルギーが一分間とは言え連続して放たれれば普通の人間なら即死だろう。
《魔女》にとっては致命傷となるかは分からない。
けれど大抵は動きを止める事が可能だった。
近付きながら左手で握る箒の穂先を右手で握り、穂先を投げ捨てる。
同時に右手に新たな《魔法の種》を生成し握る。
新たな穂先が右手に出現して左手で握る柄の先端に取り付ける。
十分な距離まで近付き柄のスイッチを押した!
同時に鋭い穂先が無数に伸びて《ミシンの魔女》の身体を次々と刺し貫き穴だらけにしてしまった。
「どうやら旨く言った様ね」
新しい《魔法の種》=《伸びる穂先の種》(エクステンドビットシード)の威力は私のイメージ通りと言えた。
更に私が柄を回すと《ミシンの魔女》は細切れとなり結界は魔力の霧散と言う現象から崩壊した。
グリーフシードが落ちるのを見逃さなかった私は穂先を元に戻すとグリーフシードを拾い上げた。
同時に私はまだ誰かに見られている事を感じ取った。
(誰?《魔女》ではないとしたら一体!?)
慎重に周囲を探ろうとした時、頭の中に声が響いた。
(へえ。アタクシに見られていた事に気付くなんてぇ・・・。今までのお子様よりはぁ強いのねぇ)
慎重に周囲を見渡し武器を構え直す。
「でも背後はぁ取れたぁ」
言われて後ろを振り返るとそこには魔力を見せ付ける様に放出させる少女がいた。
何の動作を感じる事無く白いドレスの様な服を纏った《魔法少女》が立っていたのだ。
驚愕した私は思わず飛び退き武器を構え直した。
落ち着いて相手を観察してみる。
相手の顔には見覚えがある。
確か名前は・・・。
「アタクシはぁ。この街を縄張りにする《魔法少女》ですぅ。私の名前はぁ」
「伊良草優里(いらくさゆり)でしょ。知ってるわ」
「へえぇ。アタクシも有名なんですねぇ!」
私が名前を言い当てた事に少し歪んだ笑みを見せた伊良草優里は余裕の態度を崩す事は無かった。
「じゃあ、アタクシのお願いを聞いて下さいますぅ?」
「お願いによるわね」
答えながら伊良草優里への観察は怠らない。
「簡単ですよぉ。筒地綾女さん。アナタが保護している《呪いの右目を持った少女》を引き渡して下さいぃ。ただそれだけなんですからぁ」
「そんなの聞くと思うの?」
思わず怒気が出て伊良草優里を威圧してみる。
伊良草優里にはそんな威圧は効果が無い様だった。
「あの子をアタクシに下さいなぁ。そうすれば全ては解決するんですからぁ」
「出来る訳が無いでしょ」
「そうしますよぉ。だって誰もアタクシには勝てないんですからぁ!」
伊良草優里はそう言って全身を覆う魔力を高めた。
私以上の魔力だと感じ取るまでも無かった。
大きな力の差を私は感じていた。
(勝てるかしら・・・?)
冷や汗が流れた事を感じ取り一瞬、迷っている自分に気付いて気持ちを切り替える。
勝てるかどうかではなく勝たなければならないのだ。
愛する朱奈を守る為に。
「ふふふぅ。勝てるか迷ってるんでしょうぅ?良いですよぉ。考える時間をあげますぅ。明日までに返答を下さいぃ。それまでなら待って差し上げますぅ」
一瞬、迷った私の心を見透かす様に語った伊良草優里はそのまま去って行った。
足に魔力を集中しての跳躍であり《魔法少女》ならば簡単に出来る事でもあった。
暫くその方向を睨んでいたが朱奈の事を思い出して直ぐに周囲を探知して見る。
少し歩いた先に朱奈の背負うリュックのに施した魔力を感じる。
魔力を足に込めて小刻みな跳躍を行い朱奈のいるであろう方向に向かって行く。
大木の根元で立ち竦む朱奈が見えた。
「朱奈!」
「綾女ちゃん!」
箒を手放し両手を広げて私は朱奈の元に飛んで行く。
朱奈も両手を広げて私の元に向かって来る。
抱き締めて朱奈の温もりを感じ取る。
「遅くなってごめんなさい」
「良いの。来てくれたからな良いの・・・」
(ああ。そうだ。私は朱奈を守る為なら何だって出来る。たとえ相手がどんなに絶対的な存在でも私は倒す事が出来る・・・)
愛する朱奈を守る為に伊良草優里を倒す。
たった一つのかけがえの無い愛を守る為の戦いが始まる。
第14話へ続く