偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
「綾女ちゃん。怖い顔をしてどうしたの?」
不意に朱奈が話し掛けて来て私は考え事を止めて視線を朱奈に向けた。
朱奈は勉強をしながら心配そうな目で私を見ている。
「ごめんなさい。ちょっと考え事をしているの」
慌てて笑顔を作ってそう答えると私は視線を窓の外に戻して昨日からの事を思い出していた。
昨日、伊良草優里と会った後、私は大木の根元で立ち尽くす朱奈を連れて野営地へ戻り一晩を明かした。
昼間になると朱奈を連れてリンドウ市内にある予約していたホテルに移った。
部屋の中で朱奈には勉強をさせて私はずっとあの《魔法少女》、伊良草優里の事を考えていた。
(伊良草優里・・・。私は彼女を知っている・・・)
彼女と初めて会ったのは私が中学三年生の時だった。
放課後に1人で廊下を歩いていると一年生の少女が前から歩いて来た。
胸に付けているクラスを示すバッチの色から一年生である事は分かった。
擦れ違おうとした時に少女は足を縺れさせ、倒れ込んだ。
私は思わず左手で少女を支えた。
「大丈夫?」
「すみません・・・」
そう答えた暗い印象を見せた少女こそが伊良草優里だった。
その時は私も何も知らなかった。
けれど数日が過ぎると学校内に噂が流れていた。
転校して来た一年生の伊良草優里はニュースで話題になった陸上少女では?と言う噂だ。
ニュースの概要はこんな感じだったと思う。
ある学校に将来を渇望された陸上部に所属する少女がいた。
ところが少女の才能に嫉妬した上級生に片足を刺されてしまい陸上選手としての生命を絶たれてしまった。
当時、ニュースやワイドショーで連日の様に特集が成された為に私も覚えていた。
確かにあの時、擦れ違った少女は足を少し引きずっていたのかも知れなかった。
苗字と名前も報道された物と違うが病気で体育は全て見学し足を引きずっていると言うのがこの噂の信憑性を高めている様だった。
けれど所詮、噂は噂だった。
瞬く間に広がって瞬く間に飽きられ誰も口にしなくなる。
そんな程度の噂だった。
けれど昨日、確かに私に襲い掛かって来た《魔法少女》は伊良草優里だった。
暗そうな少女があそこまで傲慢に変化するとすれば奇跡か契約以外に思い当たる事は無かった。
(そう言えばキュウたんが言っていたわね。《魔法少女》としての契約を行った少女の性格が変化する傾向があると)
(僕を呼んだかい?)
突如としてキュウたんからテレパシーが来た事に驚きテレパシーの放たれた方角を見つめると窓枠の外側にキュウたんが現れていた。
こんな近くにキュウたんが現れた事に気が付かなかった自分に苦笑しながらテレパシーを返した。
(呼んだ訳では無いのだけど・・・。何か用かしら?)
(うん。少し話がしたいんだけど良いかな?)
(良いわ。ただし場所を変えましょう。ここでは話し辛いから。近くの公園で話しましょう)
(分かったよ。ホテルの入り口で待っているね)
キュウたんの返事を聞くと私は窓枠から朱奈に視線を戻した。
朱奈は一生懸命に勉強をしている様子である。
「朱奈。私は少しこの辺りをパトロールして来るから1人でお留守番をお願いね」
「うん。わたし、勉強してる・・・」
少し怖がっている朱奈の返事を聞くとどうやら私の顔は強張っているらしい。
この埋め合わせは後で行おう。
そのままホテルを出た私は近くの公園に向かった。
公園にはキュウたんが既にベンチに座って待っていた。
(待たせたわね)
テレパシーでそう告げると私はキュウたんの隣に座った。
(今日は・・・。綾女に任務を頼みたいんだ)
任務・・・。
それはキュウたんと私の取り決めた隠語だった。
その意味する所はキュウたんにとって都合の悪い《魔法少女》及び、その関係者の抹殺。
私は条件の会う時だけキュウたんの依頼によって任務を行っていた。
ただし条件が合わなければやらないし、やらないからと言ってキュウたんも責める事が無い。
《魔法少女》が本職とすれば気楽な副業とも言えた。
(内容によるわよ。その事は分かっているんでしょう?)
任務を確かに行っていたが、朱奈の呪いが発動する日と被れば私は断わっていた。
勿論、キュウたんもその事を承知の上で任務を頼んでいる。
成功しようと失敗しまいとキュウたんに損は無いからだ。
(この街を縄張りにする《魔法少女、伊良草優里》を倒して欲しい。方法は綾女に任せるよ)
(丁度良いわね。私も伊良草優里を倒したいと思っていた所なのよ。もしかして昨日、遭遇したのも知っているの?)
(勿論、知っているよ。ただ僕としては昨日、会おうと会うまいと今日、綾女に任務を頼むつもりだったからね。渡りに船といった所かな?)
ことわざを使うキュウたんに思わず苦笑しながら私は既に答えを決めていた。
(良いわ。今回の任務は行う事にするわ。早速、作戦会議を始めましょうか)
○
泊まっているホテルの部屋の前で私は深呼吸して気持ちを整える。
(これで大丈夫。もう割り切れた筈)
そう思い開錠して部屋のドアを開いた。
「ただいま。朱奈」
「綾女ちゃん。お帰りなさい。綾女ちゃん。それケーキ?」
朱奈は私の右手で抱えている取っ手付きの紙の箱に目を輝かせていた。
「そうよ。これは朱奈の大好きなケーキよ」
(これで埋め合わせは成功ね)
旨く言った事を表情には表さずに私はケーキの入ったケースを机の上に置いて開いた。
開くと中からはチョコレートケーキとチーズケーキが2つずつ入っていた。
「さっきはずっとケーキの事で考え事をしてたのよ。どっちのケーキが良いかって。でもどうせならチョコレートケーキもチーズケーキも両方買ってしまえば良いだけの話よね」
既に朱奈は視線をチョコレートケーキとチーズケーキに移して目を輝かせていた。
「早速、食べましょうか」
「うん!」
私は窓際にある机の上にケーキを並べた。
向かい側の席に朱奈が座るのを見て伝えたい事を言った。
「ねえ。朱奈。昨日は私と朱奈が始めて会ってから一年経ったでしょう?」
「うん」
「だからね。このケーキは記念のケーキ。私と朱奈が出会った記念のケーキでもあるしもう1つ意味があるの」
「もう1つの意味って?」
首を傾げた朱奈に対して私は微笑みを作り告げた。
「朱奈。あなたにも誕生日がいるでしょう?だから私と朱奈が出会った昨日こそが朱奈の誕生日。だから朱奈は昨日で11歳ね」
朱奈は驚きを見せていた。
「わたし・・・。自分の事はずっと10歳だと思ってた。記憶が無いから誕生日も無いと思ってた・・・」
「朱奈だって成長してるじゃない。始めてあった時より背が少し伸びてるわ。だからね。これは記憶が戻るまでの仮の誕生日よ。昨日が朱奈の誕生日。だから誕生日、おめでとう。朱奈」
たちまち朱奈の目に涙が溢れて来た。
少し涙もろ過ぎると思うと同時にそんな朱奈の様子も可愛いと思っている私がいた。
早速、椅子に座っている朱奈の背後に立って頭を撫でて落ち着かせる。
「ひっく。綾女ちゃん。わたし、綾女ちゃんから色々な物を貰ってるのに何も返してない。わたし・・・。嬉しいけどどうしたら良いの?」
「朱奈。私はね。朱奈が傍に居てくれる。それだけで本当に嬉しいのよ。今まで私と一緒に生きてくれる人はいなかったから・・・」
「わたし・・・。記憶が戻っても戻らなくても綾女ちゃんの傍を離れたくない!」
言いながら朱奈は椅子に座りながら私に抱きついて来る。
必死な朱奈の様子を見ながら私は思っていた。
(もし私が伊良草優里に倒されてしまえば朱奈を悲しませてしまう。この笑顔を守る為にも私は・・・。負ける訳には行かない)
朱奈を落ち着かせながら私は戦いに対する決意を新たにしていた。
もう迷いは無い。
伊良草優里を倒す事に・・・。
○
深夜になり朱奈が眠りに付くと同時に私は音を立てない様に気を付けながらホテルの部屋を出た。
出る時に魔法による防護壁を部屋に施して置いた。
普段はこんな事はしないが今回は万一の事を考えて施す事にした。
ホテルを出ると迷う事無く山林地帯の近くにある朱奈と始めて出会った思い出の公園に向かった。
公園内には誰もいない。
直ぐに《魔法少女》に変身すると同時にベンチに座った。
(まだ30分ある。と言っても油断は出来ないわね)
私は30分後に伊良草優里とここで会う事になっていた。
キュウたんに伝言を伝える様に頼み、キュウたんからも伊良草優里が了承したと言うテレパシーを受け取っていた。
時間が過ぎるのを遅く感じると自覚するも特にする事が無いので夜空を見ていた。
汚い大気の所為で星が霞んで見える。
人間の作り出した文明に寄る物だと思うと何とも言えない気持ちに至る。
「人間の文明って本当にどうしようも無いわね。発展の為に自分の首を自分で絞めるなんて」
思わず声に出して呟いていた。
「へぇー。案外、綾女さんはぁ、面白い事を言いますねぇ」
声のする方向に目を向けると私が戦うべき相手、伊良草優里が歩いて来た所だった。
改めて伊良草優里の外見を観察して見る。
パーマを掛けた山吹色の髪を肩まで伸ばしている。
灰色の眼つきは誰でも分かる様な傲慢さを隠そうともしていない。
口元には傲慢な笑みも浮かんでいる。
服装は私が通っていた中学校と同じ制服を着ていた。
ただしスカートを校則が示すギリギリのラインまで短く加工する等、自信の傲慢さを隠そうともしていない。
結論から言えば傲慢なガキと言う事になる。
「あなたと共感するなんて以外ね。伊良草優里」
「それなんですよぉ。どうして、綾女さんはアタクシを知っているんですかぁ?アタクシは綾女さんと会った事はぁ、無い筈なのにぃ?」
聞きながらも、眼つきから答えはどうでも良いと思っているのは確かだった。
「あなた、有名なのよ。あれだけソウルジェムを砕いていればね」
伊良草優里の顔付きが少しだけ変化した。
傲慢の色は変わらず癇に障った様な表情を見せていた。
「知っているんですかぁ?」
「ソウルジェムを五つ砕いたのは知っているわ」
(そして5人、殺した事も)
私の言葉を聞いたと同時に伊良草優里は右手から山吹色のソウルジェムを取り出すとそのまま《魔法少女》としての姿に変身した。
改めて観察すると白いドレスに所々に黒い刺繍が施されている。
ここまでは昨日、私が見た姿と同じだった。
けれど、更に身体の要所に赤色の鎧が付けられて行く。
最後に王冠を被りネックレスとなったソウルジェムが装着され傲慢な瞳で私を見つめる。
どうやら昨日、私が見た姿は本気の姿では無かったらしい。
伊良草優里が右手を掲げると同時に魔力が形を成して剣となった。
その剣もごてごてと装飾が成された傲慢な武器でもあった。
「じゃあぁ。綾女さんが6人目と言う事ですねぇ!」
既に魔力は迸り戦いの準備が整った事を表していた。
私もベンチから立ち上がり左手に箒を出現させた。
「この怪物の剣、《カスターネ》で綾女さんを敗北させて上げますよぉ。ジェムを砕いてあの子もアタクシが貰い受けますぅ」
良く見ると伊良草優里の持つ剣=《カスターネ》の柄頭と言うべき部分には怪物の飾りが施されていた。
確かに怪物の剣に見える。
「いいえ。あなたはここで死ぬのよ。ジェムクラッシャーの伊良草優里。あなた、私が戦いを挑む理由が朱奈の事だけだと思っているの?」
「どういう意味ですかぁ?」
初めて伊良草優里の表情に怪訝な色が浮かんだ。
「私はね、副業としてキュウたんにとって都合の悪い《魔法少女》の殺害も請け負ってるのよ。あなた、《魔法少女》に相応しく無いわ」
「言いますねぇ!」
叫び跳躍した伊良草優里は《カスターネ》を私に振り下ろして来た。
左手の箒で受け止めようとした。
ところが箒の柄が切断され《カスターネ》の刃が私の身体に振り下ろされた。
切られながらも後ろに飛び退いた私は片膝の姿勢で伊良草優里から視線を逸らさなかった。
「へぇー。綾女さんも痛覚遮断を出来るんだぁ?けど、それだけじゃアタクシには勝てませんよぉ!」
言いながら威圧的に魔力を上昇させる伊良草優里を見ながら昼間に行ったキュウたんとの会話を思い出す。
○
「自分が認識した他者よりも任意に優れる事?」
「そうさ。それが伊良草優里の願った願いだよ」
私とキュウたんは公園のベンチで作戦会議をしていた。
キュウたんが私に任務を依頼する際には必ず相手の持つ能力等、提供出来るだけの情報を予め提供すると言う取り決めをしていた。
ちなみに今、行っているテレパシーは盗聴を防ぐ為に私がキュウたんの手を繋いで行う有線方式の為に盗聴される心配は一切無い。
「その願い故に伊良草優里は誰よりも優れている。けれどその優れた能力を任意で抑えて隠す事も出来る」
「何故、能力を隠す必要があるの?」
「恐らくだけど伊良草優里は以前、高い能力を見せ付けてしまったが故に嫉妬され足を切られた。その時の経験が元で自分の持つ高い能力を他者に見せない様にしているんじゃないかな?僕には良く分からないけどね」
感情が分からないキュウたんらしい答えでもあった。
「伊良草優里はソウルジェムの秘密に気が付いているの?」
「ジェムの有効範囲が100メートルだと言うのは知っているよ。ただソウルジェムがグリーフシードに変化する事には気が付いてないよ」
なるほど。どうやら根本的な部分には気が付いていない様である。
「伊良草優里の奇跡は戦いの中でどう言った効果を発揮するの?」
「彼女の奇跡は戦いの中では常に相手の魔力よりも高い魔力を発揮する。特に単純なぶつかり合いにおいては効果を発揮するだろうね。感情による増幅や意識を使った増幅と違って自動での増幅だからまともに戦うのは避けた方が良いと思うよ」
「そんな能力じゃあソウルジェムは直ぐに穢れるんじゃ無いの?」
「自動での増幅で賄われる魔力は彼女自身の魔力じゃあ無いよ。奇跡によって生じる魔力だ。だから魔力その物はかなりの量を持っていると見て良いよ」
「それじゃあ弱点は無いの?弱点があるのなら手っ取り早いと思うわ」
「弱点ね。そうだね。僕が一番、弱点だと思うのは、彼女は不意の攻撃に弱い事。幾ら自動で魔力が強化されていると言っても不意打ちには対処し切れていない。経験地が不足していると言うのが僕の認識かな」
「それなら何とかなるわね。それじゃあ、伊良草優里対策の魔法の組み立てにも付き合って貰うわよ」
「良いよ。これは僕から依頼した任務だからね。綾女の要望には答えてあげるよ」
第15話へ続く