偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
伊良草優里は《魔法少女》としての経験が浅い。
これまで行った《魔法少女》との戦いも一方的に相手を倒す物が多かったらしい。
《相手の魔法少女》からソウルジェムを奪い取るとそのまま河へ突き落としてからソウルジェムを砕いていたらしい。
なお本人は相手の《魔法少女》を殺したとは思っていなかった。
勝手に溺れ死んだと思っているとキュウたんは言っていた。
「綾女さんは知っていますかぁ?」
目の前で余裕の笑みを浮かべた伊良草優里が語り掛けて来る。
「ソウルジェムを砕くと魔力が拡散しちゃうんですよぉ~。アタクシねぇ、その光景が花火みたいに凄く綺麗だと知っているんですよぉ。それも極上の花火ですよぉ。今まで5人のソウルジェムを砕いて花火を見たけれど、どれも千差万別の形容し難い一瞬の美しさを見せてくれるんですよぉ!まさに究極の芸術ですよぉ!一瞬の美と言うモノですねぇ!」
余裕ぶって自らの言葉に酔っている伊良草優里を尻目に私は2つの《魔法の種》を右手と左手に1つずつ生成していた。
「万華鏡の様にぃ、たった1度しか見られないから見せて下さいよぉおおおお!」
伊良草優里の言葉に答える事無く足に魔力を込めて一気に跳躍し伊良草優里との距離を詰め左手の《魔法の種》から箒を出現させると伊良草優里を突く体勢を取る!
蔑む様な表情を見せた伊良草優里は魔力を集中させた《カスターネ》で箒の突きを防いだ!
魔力がぶつかり合い周囲に放出された魔力が流れ出てしまう。
徐々に押されているのを感じ取った私は正面を見据えたまま魔力の流れに合わせて身体を後ろに飛び退かせた!
同時に身を捻ると私に対して魔力の勢いを高め過ぎていた伊良草優里はそのまま前に仰け反り転びそうになる。
そこへ私は右手で握った《魔法の種》を伊良草優里の身体に撃ち込んだ!
撃ち込まれたと同時に伊良草優里の表情が変化する。
「うっぐっあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
悲鳴を上げて地面に倒れ込んだ伊良草優里だったが、直ぐに悲鳴は止んでふら付きながらも立ち上がった。
(やはり《痛みの種》『ペインシード』の効きは《魔法少女》には悪いか)
痛みの種は刺さった相手に強制的に痛みを感じさせる《魔法の種》である。
今回、私が使用したのは私が生きていく上で味わった全ての痛みを凝縮した物だった。
しかし痛覚遮断を出来る《魔法少女》にはやはり効きが悪かった。
そう結論付け伊良草優里を見据える。
その瞳は怒りに満ちていた。
「やりますねぇ。アタクシ、こんなに強い痛みを感じたのは久しぶりですよぅ。お礼に綾女さんも花火にしてやるわぁ!」
怒りを隠す事無く突撃して来る伊良草優里に対して私は箒の穂先を向け右手に新しい《魔法の種》を生成していた。
鋭く尖った箒の穂先を次々と伊良草優里に撃ち込む。
伊良草優里は避ける事無く放たれた穂先を次々と《カスターネ》で切り落とし私に向かって来る。
後、1・2歩で私に近付ける所まで来た時、穂先を撃ち込むと同時に僅かにタイミングをずらして右手の《魔法の種》を投げ付けていた。
《カスターネ》で穂先を切り落とした伊良草優里の身体に《魔法の種》は簡単に差し込まれ体内に入り込んで行った。
「!?」
驚き私から距離を取る伊良草優里だったがその衣装の色が次々と黒く染まって行く。
「なっ何をしたぁ!?」
着ていた衣装の色が自分の意に反して変わった事に伊良草優里は戸惑っていた。
その様子が面白くて私もつい口元に笑みを浮かべて説明する事にした。
「簡単よ。私の魔法であなたの着ている衣装の色を変えただけよ」
《魔法の種》の一種、《黒色の種》『ブラックシード』の効果は単純に撃ち込まれたモノの色を黒く変化させるだけである。
それ以外に効果は存在しない。
けれど伊良草優里に攻撃を当てられたと言うのは重要だった。
伊良草優里は《黒色の種》の効果を知らない。
ただ黒くなっただけでは無く他の効果も生じると考えて余裕を無くさせるのが目的でもあった。
追い討ちを掛ける様に言葉を続ける。
「白百合のドレスが穢れたわね。でも、あなたには黒百合がお似合いよ」
「なんですってぇ!?」
「黒百合の花言葉は呪い。傲慢で恨みを買い続けるあなたには相応しいわ」
「ッ!?」
その言葉を聞いた瞬間に伊良草優里は真っ直ぐに突っ込んで来た。
準備をするまでも無い。
伊良草優里が突っ込んで来た方向に合わせて左手で握る箒を突くだけで良かった。
柄にあるスイッチを押すと鋭い穂先が次々と飛び出して行く!
自分に向かって来る脅威に気が付いた伊良草優里は一瞬、目を大きく見開くと同時に一気に魔力を上昇させると穂先を《カスターネ》で次々と切り落として行った。
急激に動きが速くなった事に驚いたが箒の柄に残っていた2発目の穂先を発射する。
箒の穂先は二段階に分けて発射する事が出来る。
1発、撃って仕留められなかったとしても2発目で仕留められる様に常に残弾を残して戦う様にしていた。
けれど伊良草優里の予想以上の能力に対して私は残弾を残していられ無かった。
嫌な予感を感じながら2発目に放った穂先に対して伊良草優里はそのまま鋭く尖った穂先の放たれた方向に突っ込んで来た。
最低限の部分だけを防御して叫びながら私に向かって来る。
「綾女すぅぁんを殺してぇ、あの子をアタクシのモノにしてやるぅう!」
怒りの余りに発音が乱れている。
それ程、綺麗な言葉使いでは無いが正直、聞いていて不快だった。
「あなたに朱奈は渡さない」
決意を言葉にして告げ新たな《魔法の種》を右手に生成し右手を右胸にあるソウルジェムに重ねる。
《魔法の種》が私のソウルジェムに取り込まれたのを感じた私は近付いて来る伊良草優里に対して構えた。
右手で右胸にある私のソウルジェムを外すと同時に伊良草優里に向かって投げ付けた!
驚いた伊良草優里の顔が目に映る。
最初は攻撃だと思ったのか伊良草優里は私のソウルジェムを避けたが、避けながら投げられたのが私のソウルジェムだと分かると驚愕の表情を一転させ残虐な笑みを浮かべて右手で握る《カスターネ》を振り上げて私のソウルジェムに振り下ろそうとした!
瞬間、視点を切り替える。
私に向かって来る伊良草優里を見つめる視点から残虐な笑みを浮かべた伊良草優里が《カスターネ》を至近距離からソウルジェムに振り下ろそうとしている視点に切り替え魔力を放出させる。
「づぅあぁ!?」
伊良草優里の表情が再度、驚愕に包まれているのが見える。
無理も無い。
無防備に投げられたと思った私のソウルジェムから魔力が放出され《カスターネ》を防いだ。それだけなら大した驚きは無かったかも知れない。
けれど私のソウルジェムから魔力が凝縮され人型を成したのだ。
驚かない筈が無い。
それは《半透明な私》、筒地綾女の姿を成していた。
《カスターネ》に込めていた力が緩まり伊良草優里は思わず倒れこんだ私の体の方向に退いていた。
《半透明な私》が一歩動くのに合わせて更に退く。
「なぁっ何なんだぁ!?」
口汚い声を上げて《半透明な私》に《カスターネ》を向ける伊良草優里を見て内心、旨くいったと思っていた。
今の私は、ソウルジェムから生じる魔力によってもう1つの肉体、いわば分身を生じさせている。
しかし殆どの《魔法少女》はこんな事を出来ないし、行わない。
一般的な《魔法少女》はソウルジェムから生じた魔力を自信の肉体を媒体として通す事によって魔力を使用する事が出来る。
けれど、私は《魔法の種》の1つ、魂の種=ソウルシードの効果によって一定時間だけ肉体と言う媒体を解さずに魔力を使用する事が出来た。
魔力によって肉体を構成する言わば《魔力体》とでも言うべき姿である。
この姿には幾つかのメリットがある。
《魔力体の私》には物理攻撃は殆ど意味を成さない。
私が認識しない物質の物理的な攻撃は完全にすり抜けてしまうからだ。
逆を言えば認識している物体ならば触れる事も出来る。
勿論、急所であるソウルジェムの周辺は濃い魔力で硬質化されており、物を認識しようとしまいが簡単に破壊される事は無かったが。
「ばぁけぇもぉのぉがあぁ!!」
狂乱した伊良草優里が《魔力体の私》に向かって《カスターネ》を振り下ろして来た。
《魔力体の私》は左腕で防御しようとする。
けれど《カスターネ》が触れる直前に身体を残して左腕だけの構築を解除して《カスターネ》の鋭い刃を通り抜けさせた。
《魔力体の私》は左腕を再構築しながら伊良草優里に一歩踏み出す。
「!?」
驚き更に後退する伊良草優里を見て愉快な気持ちが込み上げて来る。
笑みを浮かべて更に近付く。
伊良草優里が冷静であれば勝機が存在したかも知れなかった。
この《魔力体》は魔力で出来ている。
ならば魔力の一点集中攻撃等を行えば倒す事は容易かったのだ。
冷静さを失った伊良草優里が更に後退して行く。
半透明な私は左手に箒の形をした魔力を生成する。
《魔力体》の状態では瞬時に武器を生成し放つ事も可能だった。
最も、既に勝敗は決している。
この箒を使う必要性が無かったが、更に追い詰める為に見せ付けるべきだと感じていた。
狂乱しながらも意地からか、伊良草優里は《カスターネ》を構え直して《魔力体の私》に備えていた。
(もう時は満ちた)
同時に骨ごと肉が裂けられる音がして伊良草優里の身体が背後から貫かれていた。
魔力を集中した左手の突きによる物だ。
「えっぅ!?」
驚く伊良草優里だったが背後からその身体を貫いた左手は首筋にあるネックレスの形をした山吹色のソウルジェムを強奪すると、伊良草優里の身体から左手を抜いた。
血を流して倒れ込む伊良草優里の瞳には、自信の山吹色のソウルジェムを左手で握り締める私の姿が写っていた筈だった。
確かに私は《魔力体》となってソウルジェムから滲み出る魔力を使って身体を構成していた。
と言っても元の肉体を動かせない訳では無い。
有効範囲内であるなら私は元の肉体を動かす事が出来るので意思を直結したまま視点と肉体を2つに分ける事も可能だった。
元の姿に戻って倒れる伊良草優里を見ながら《魔力体の私》は元の肉体に近づくと身体を重ね合わせた。
肉体の私と半透明な私が重なり合うのは奇妙な気分だった。
血だらけの左手の中にある伊良草優里のソウルジェムには既に私の魔力によって強制的にその機能を停止させられている。
《魔法の種》の1つ、《停止の種》=ストップシードの効果だった。
伊良草優里のソウルジェムを握り締めると同時に《停止の種》を差し込む。
《停止の種》が差し込まれたと同時にソウルジェムはその機能を一定時間だけ停止してしまう。
直ぐに私は足に魔力を集中すると跳躍を繰り返してソウルジェムの有効範囲から距離を取った。
ソウルジェムを私が握り締めている以上、伊良草優里を無力化したのは確実だったが念には念を入れておく。
これで伊良草優里の肉体は完全な死体となり処分される事だろう。
誰もいない夜道に降り立つと私は自分が勝利した事に喜びを感じていた。
「やあ。綾女。どうやら旨く行ったみたいだね」
声のする方向に視線を向けると塀の上にキュウたんが現れていた。
「ええ。あなたからの任務通りに伊良草優里は始末したわ。この通り」
キュウたんが肩に乗ってくるのを見計らって私は左手で握っていた山吹色のソウルジェムを見せた。
「うん。確かにこれは伊良草優里のソウルジェムだね。このソウルジェムは一体、どうするんだい?」
キュウたんの抱いた疑問は最もな物だった。
普通の《魔法少女》ならばソウルジェムを複数、持ち歩いた所でメリットは存在しない。
「折角、手に入れてみたんだから少し実験をしてみるわ。自分のソウルジェムでは出来ない様な実験が行えそうじゃない」
「そうだね。確かに綾女の言うとおりだよ。伊良草優里のソウルジェムならどんな実験を行っても問題は無いからね。綾女の好きな様に実験をすると良いよ。ただ、出来れば僕にもデータは提供して欲しいけどね」
「構わないわよ。さて・・・。このソウルジェム。どうしてくれようかしら?」
左手に乗せたソウルジェムを街灯の明かりに照らしてみる。
山吹色の輝きを見つめて、私は勝利を味わっていた。
○
「朱奈。何処に行く?今日は朱奈の行きたい方向に進んでみましょう」
「うーん。じゃあこっち?」
「こっちね。じゃあ行きましょう」
朱奈と2人で手を繋いで私達は歩道を歩いていた。
歩きながら太陽の輝きが目に入った時、今朝、ホテルで見たニュースを思い出した。
伊良草優里の遺体は朝、公園を散歩していた人に見つかり死亡が確認されたと言う。
身体に外傷が見つかった為に警察では他殺の方向で捜査を進めているとニュースキャスターは語っていた。
けれど私にはそれだけで十分だった。
これで伊良草優里の復活はあり得なくなった。
彼女のソウルジェムは私のポケットに入っている。
どんな実験をするのかはまだ決めあぐねていたが、幾つか候補はある。
そんな事を思いながら歩いているとふと目にした交番の脇にある張り紙の中にある物を見つけて立ち止まってしまった。
「綾女ちゃん。どうしたの?」
朱奈に声を掛けられたけど私は直ぐに答えられなかった。
そこにあったのは前の私、××××の捜索願だった。
私が中学生の時に学校の行事で撮った写真を使い捜査本部の連絡先等が書かれていた。
一瞬、魔法の力で家族に捜索願を出すのを止めさせようか思ったが直ぐにその考えを捨てた。
私は今、朱奈と生きている。
もう元の家族と会う必要は無かった。
「綾女ちゃん!」
少し大きな声を出して私の様子を窺う朱奈に私は笑顔を向ける事にした。
「ああ。ごめんなさい。ちょっと思う事があって凝視しちゃったの」
「思う事って?」
「こう言う行方不明な人って言うのは《魔女》や《使い魔》の犠牲になった人もいるのよ。そうした人達は永遠に行方不明のままだって聞いた事があるわ。《魔法少女》も戦いに敗れてしまえば・・・」
そう言って言葉を切って朱奈の方を見た。
少し言葉が過ぎたかも知れない。
表情が少し怯えていた。
「ごめんなさい。大丈夫よ。私はずっと朱奈の傍にいるわ」
「うん。綾女ちゃん。わたしを一人ぼっちにしないで」
「ええ。じゃあ行きましょう」
「うん」
気を取り直して私は朱奈と再び歩き続けた。
旅はまだ続く。
いつか終わるのかも知れないが、まだその時では無い。