偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
伊良草優里との戦いから数ヶ月が経過した。
繰り返す様だが、私と朱奈は相変わらずの旅を続けていた。
街を移動する度にその街を縄張りとする《魔法少女》との諍いも発生したけれど、私は持っているグリーフシードを1つ、引き渡す事と、その街を次の日には出て行くと言う二つの条件を示す事で諍いを避けていた。
それでも避けられない場合には死なない程度に相手の《魔法少女》を痛め付けた。
(最も朱奈が見ている前では決してそんな真似はしない。朱奈の見ている前では話し合いでなるべく事を収める)
私は《魔法少女》を殺す事はしない。
何故ならキュウたんが選んだ魔女の卵である《魔法少女達》を私が殺してしまう理由が無いから。
私の友達であるキュウたんの作り出した《魔法少女》を殺す事はしない。
キュウたんからの任務か、愛する朱奈を狙う様な相手でなければ。
それが私、筒地綾女にとっての根源的なルールでもあった。
ただ流浪を続けていると時には変わった《魔法少女》と出会う事も会った。
大体の《魔法少女》が自己中心的な一面を見せているにも関わらず正義を成そうとする《魔法少女》に。
今回の出来事は、その一例とも言える。
○
その日、私と朱奈は見滝原市の展望台を訪れていた。
「わあー。凄く高い。綾女ちゃん。凄く綺麗だよ」
望遠鏡を覗きながら朱奈は私にそう言った。
「ええ。朱奈。良かったわね」
答えながら笑みを浮かべ私はここを訪れて良かったと思っていた。
本来、見滝原市は通過するだけのつもりだったのだが乗っていた電車から見えた高い塔に朱奈が関心を抱いて見滝原駅で下車してみた。
その塔は展望台だと知り私と朱奈は展望台に入ってみる事にした。
私は朱奈の喜ぶ顔を見て気分を良くしていた。
朱奈には笑顔が似合う。
笑った朱奈の顔は乾いた大地を潤わす恵みの水の様でもあった。
今、着ている赤いワンピースが赤みの入った髪の毛を映えさせ朱奈を輝かせていた。
「!」
そこまで思った時、私は近くで魔力を感じ取った。
ここからではそれが《魔女》か《使い魔》かの判別は出来なかったが近くにいる事だけは確かだった。
不快に思った。
私と朱奈の蜜月を邪魔するこの魔力に私は怒りすら覚えていた。
自らの手で裁きを下したいと思いに駆られていた。
「朱奈。私は少し気になる事があるからここで待っていてくれる?」
とたんに朱奈の笑顔が少し曇った。
かなり顔を強張らせたのかも知れない。
朱奈を怖がらせない様にもう少し注意しないといけない。
「うん。良いよ。綾女ちゃん・・・。近くに《魔女》がいるの?」
朱奈は少し怯えていた。
《呪いの右目》を持つが故に見たくも無い人の死を見続けていたからだろうか?
とにかく朱奈は死と言う現象を怖がっていた。
それはもしかしたら失うと言う事への恐怖なのかも知れなかった。
ある意味では朱奈は生まれてからずっと恐怖を抱いていたのかも知れない。
本当は何も無い過去を失ったと思い、思い出せないと思い込む事から来る恐怖。
それが朱奈を怖がらせているのかも知れなかった。
けれどこれは私が推測する朱奈の感情でありそれが本当に正しい事かは解らなかった。
朱奈の心理を魔法で分析すれば分かるかも知れなかったが知ろうとは思わなかった。
「ええ。近くに《魔女》がいるみたいだから退治してくるわ。朱奈に怖い思いをさせたくは無いから」
少し虚偽が混じった発言だったけれど朱奈を守る為には仕方ないと私は割り切っていた。
「綾女ちゃん・・・。お願いだから、帰って来て!」
「分かっているわ。朱奈」
私はそう言ってすれ違い様に朱奈の頭を撫でると、そのまま展望台を出ると近くの路地にある魔力を追った。
しかし近付いて行くに連れてその魔力が経験から言って、十中八九《使い魔》の物だと感じると私のやる気は削がれて行った。
(《使い魔》ならば倒す必要性も無いし戻ろうかしら)
そう思った時、《使い魔》の結界が揺れたのを感じ取った。
それは《魔法少女》の魔力によるものでしかあり得ない現象だった。
(誰かが《使い魔》と本気で戦っている!?)
《使い魔》の作った稚拙な結界を揺らすほどの魔力を使い《使い魔》と戦っている《魔法少女》がいる!?
私の知る限りそんな《魔法少女》は今まで1人もいなかった。
大抵の場合、殆どの《魔法少女》は《使い魔》を相手に無駄な魔力を使う事を良しとせず《使い魔》を見逃す事が殆どだった。
ただし例外もあった。
それは《魔法少女》になりたての新人だった。
しかし新人レベルでは余程の才能が無い限り《使い魔》レベルとは言え結界を揺らす程の魔法を使える筈が無かった。
そこまで考えて私は自分が好奇心を抱いている事に気が付いた。
新人で無いとすればどんな《魔法少女》か?
私は好奇心に従い《魔法少女》としての姿に変身すると結界へと入って行った。
結界に入って直ぐに私は左手に《魔法の種》を通じて武器である箒を出現させて穂先を前に向けながら結界の奥へと進んでいった。
数匹の《使い魔》が出現したが、私の放った箒の鋭い穂先に刺され消滅して行った。
結界の最深部の手前に辿り着きそっと通路から最深部を窺うと、そこではこの結界を作り出した《使い魔》と相対する黄色い立てロールを施した髪が印象的な、《黄色い髪の魔法少女》が映画に出て来る様な古風で装飾の施された銃を構えていた。
私の見ている前で黄色い髪の魔法少女は手に持った銃から魔力を帯びた弾丸を次々と《使い魔》に発射していた。
一見するとその攻撃は《使い魔》に次々と回避されていたが地面にある弾痕から黄色いリボンが次々と伸びて来ると《使い魔》を拘束した。
(つまり今まで撃っていた弾丸は当たっても外れても効果を発揮すると言う訳だったのね。それにこの戦い方から見ると新人では無いわね)
私がそう分析をしていると《黄色い髪の魔法少女》は持っていた銃に魔力を溜めていた。
「これで終わりよ!」
《黄色い髪の魔法少女》が、そう叫ぶと構えた銃から今までに溜められた魔力が装飾の施された銃を通して一気に発射された。
ところが《使い魔》は全身から刃物を出現させると拘束していた黄色いリボンを切り刻むと《黄色い魔法少女》の攻撃を回避すると。そのまま全身から生えた刃物を《黄色い髪の魔法少女》に向けようとした。
《黄色い髪の魔法少女》は驚きの余り動く事が出来ない。
(仕方ないわね)
とっさに私は物陰から飛び出すと持っていた箒の鋭い穂先を《使い魔》に発射した。
針の様に鋭い私の箒の穂先は次々と《使い魔》の背中に突き刺ささり《使い魔》は大きな悲鳴を上げた。
悲鳴を上げる《使い魔》の近くで《黄色い魔法少女》は驚きの余り立ち竦んでいた。
「何をしてるの?速く撃ちなさい!」
「はっはい」
私の叱咤にハッとなった《黄色い魔法少女》は再び持っていた銃に魔力を込めて《使い魔》に向けて発射した。
避けようとする《使い魔》の足元に私は再び箒の穂先を放った。
私の攻撃で足止めをされた《使い魔》は《黄色い魔法少女》の止めの一撃で大きな悲鳴を残して消滅し結界は崩壊した。
場所が路地裏に戻ると私は魔力を無駄にしない為に《魔法少女》としての変身を解いた。
それに倣ってか、《黄色い髪の少女》も《魔法少女》としての変身を解いた。
《黄色い魔法少女》はチェックのスカートに赤いリボンが印象的な制服姿となった。
外見から判断すると中学生らしい。
ふとキュウたんがロリコンなのでは無いかと頭を過ぎったがキュウたんが第二次性長期の少女を狙って契約していた事を思い出してその考えを捨てた。
(もし第二次性長期だけに拘っていたら私なんて対象外だし)
そう思っていると《黄色い髪の魔法少女》の方から声を掛けて来た。
「あの。先程はありがとうございます。あなたのお陰で助かりました」
「良いのよ。私もたまたま通りがかっただけなのだから」
そう答えながら私は《黄色い髪の魔法少女》が素直に助けられた事を喜んでいる事を見て《魔法少女》が普段持っている縄張り意識が希薄なのを感じた。
その事を確かめるべく意地悪な質問をぶつけてみる。
「1つ質問したいのだけれどあなた、何故、《使い魔》を本気で相手にしていたの?魔力の無駄使いじゃ無いのかしら?」
私の質問に《黄色い髪の魔法少女》は表情を強張らせた。
「そんな!?《使い魔》だって人を襲うんですよ。放っておける訳、無いじゃないですか!」
《黄色い魔法少女》の声色と表情には自分の言った言葉に迷いを持っていない事を示していた。
(正義を貫こうとする《魔法少女》か・・・。珍しいわね・・・)
私は今まで出会った《魔法少女達》とは異なる考えを持つ《黄色い魔法少女》に好感を抱いていた。
自分の出来ない事を行う存在に好感を抱く。
人間としての当然の心理とも言えた。
だからこそ忠告を与える必要を感じた。
「なら1つだけ忠告するわ。もしその考えを間違っていないと思っているのならあなたの縄張りであるこの街をしっかりと守りなさい。縄張りを守れない様な《魔法少女》が信念を貫ける訳が無いんだから」
「縄張りってそんな!?」
困惑する《黄色い髪の魔法少女》に私はきつい言葉を続ける事にした。
「それが現実なのよ。あなたはもっと《魔法少女》の現実を知った方が良いわ」
そう言って私は《黄色い髪の魔法少女》に背を向けて路地を後にしようとした。
「待ってください!」
《黄色い髪の魔法少女》は背後から再び私に声をかけた。
「何かしら?」
振り返った私に《黄色い髪の魔法少女》は困惑の表情を浮かべながらも質問を投げ掛けて来た。
「それなら、あなたはこの街に何をしに来たんですか?」
(確かにそれは気になるわよね)
そう思いながら素直に答える事にした。
「ただの観光よ。私はこの街を奪うつもりが無いわ。直ぐに出て行くから安心して」
そう言って私は困惑する《黄色い髪の魔法少女》を路地に残してその場を離れた。
走って直ぐに見滝原の展望台に戻った。
幸いチケットの半券を提示すれば再入場は可能だった。
焦る気持ちを押さえてエレベーターに乗り込む。
人は殆どおらず私、一人だった。
高ぶる気持ちを押さえて速く展望台に付く様に願っていた。
展望台に付いて直ぐに周りを見渡すと朱奈は不安げにベンチに腰掛けて俯いていた。
「朱奈。待たせたわね」
私が声を掛けると朱奈は輝く様な表情を浮かべて顔を上げた。
「綾女ちゃん!」
そう言って朱奈はベンチから走ると私に抱き付いて来た。
周囲の人の目を気にせず私は朱奈を抱き締め頭を撫でた。
「待たせてごめんなさい」
「1人で寂しかったの。お願いだからわたしを1人にしないで・・・」
「ええ。ずっと一緒よ。朱奈」
そう言いながら私は朱奈に笑顔を向けた。
朱奈も私の表情に釣られたのか笑顔になった。
けれど私はずっと一緒には朱奈とは居られないと言う事に気が付いていた。
だって私は《魔法少女》。
いずれは《魔女》となってしまうのだから。
けれど今の私はその考えを打ち捨てて朱奈を愛でる事にした。
「それじゃあ。そろそろ今夜の宿に行きましょう」
「うん」
私の言葉に朱奈が頷いたのを見て私と朱奈は手を繋いで展望台を見た。
歩いている途中でもずっと手を離さなかった。
その様子を見て怪訝な表情を浮かべる人もいたけれど、正直どうでも良かった。
ただ朱奈と歩ける。
それだけでも私は幸せだった。
歩いていて公園に差し掛かった時、朱奈が足を止めた。
「朱奈。どうしたの?」
公園のある一点を凝視して足を止めたのを見た私も朱奈と同じ方向を見てみる。
そこには一組の家族がいた。
眼鏡を掛けた父親と思しき男性が赤ちゃんを抱っこしていた。
その隣では母親と思しきスーツを着た女性とピンク色の髪を生やした少女が公園を散歩していると思しき様子があった。
幸せそうな、理想的な家族の姿がそこには写っていた。
私が一緒に過ごしたつまらない家族とは程遠い、幸せそうな家族の姿があった。
「ねえ。綾女ちゃん」
「どうしたの?」
神妙な朱奈の声に私の声色も少し緊張する。
「わたしにもあんな風な・・・。家族がいたのかな?」
朱奈の言葉を聞いて私はその思いを理解した。
実際には何の過去も存在しないが、朱奈は記憶を失っていると私が思わせている。
きっと自分にもあんな家族がいたのかも知れないと思っているかも知れなかった。
「きっといるわ。朱奈にもきっと家族がいる筈よ」
「じゃあどうしてわたしを探さないのかな?探している筈だよ!」
確かに朱奈が指摘する様に家族がいるのなら探している筈でもあった。
一年以上の旅をしていて朱奈が疑問に思わない筈が無かった。
「もしかしたら朱奈に呪いが掛かっている様に家族にも呪いが掛かっているのかも知れないわね。だから朱奈の事を探していない。いえ。思い出せないのかも知れないわ」
嘘だった。
咄嗟に付いた嘘だ。
けれどこの嘘で朱奈が安心してくれるならそれで良い。
それが私の思いだった。
「わたし・・・。どうしたら良いの?」
「?」
急に朱奈は疑問を投げ掛けて来た。
「もしわたしの両親がわたしを探してい見つけたら、わたしはどうしたら良いのかな?両親の元へ帰らなきゃ駄目なの?そしたら綾女ちゃんとお別れしなきゃ行けないの?」
言いながら朱奈は両目から涙を流していた。
「大丈夫よ。私は何があっても朱奈の傍にいるわ。例え本当の家族が見つかったとしても私は決して朱奈の傍を離れないわ」
片膝を付いて朱奈と目線を合わせて頭を撫でてあげると朱奈は少し落ち着いた様だった。
両手で涙を擦る様子も可愛く見えた。
でもこの事は朱奈には内緒にしておこう。
朱奈が可愛く見える時は本人にとっては余りよろしく無い時らしい。
私の心の内にそっとしまって置く事にする。
「ねえ。綾女ちゃんには家族がいないの?」
朱奈からの唐突な質問に私は少し表情を強張らせたのを自覚した。
私の家族。
確かに存在はした。
けれど私は朱奈と生きる為に家族を捨ててしまった。
そんな事は話せる訳が無い。
再び偽りを話す事に嫌悪を覚えたけれど、私が苦しむだけで朱奈の笑顔が守れるのならば安い物だった。
「そうね。私の家族はもういないわ。私には朱奈だけが全てよ」
私の言葉を聞いて朱奈は何と言ったら良いのか形容しがたい表情を見せた。
その表情には嬉しさと戸惑いが入り混じっている様に見えた。
流石にこれ以上、朱奈に質問を重ねては困るので話を切り替えてこの場所からの移動を促す事にした。
「さあ。もう行きましょう。日が暮れる前に今夜の宿に行きましょう」
立ち上がりながらそう告げて朱奈の手を握る。
「うん。綾女ちゃん。変な事を言ってごめんなさい・・・」
「良いのよ。私はずっとあなたの傍にいてあげるわ」
視線を先程の家族連れのいた方向に戻すと、先程の家族連れはいなかった。
あんな風に幸せそうな家族ならば守ってあげても良いと、私は思っていた。
私が過ごした家族よりも柔らかい雰囲気に包まれていたからだ。
でもこの見滝原市にいる限りは先程、出会った《黄色い髪の魔法少女》が何とかするだろう。
何たって彼女は《使い魔》を本気で倒す珍しい《魔法少女》なのだから。
けれど私は守るべき対象は直ぐ傍にいる。
朱奈を守る為に私は戦い続ける。
その命が尽きる日まで・・・。
黄色い髪の魔法少女はマミさんです。
イメージとしてはポータブルのマミさんルートで、マスケット銃を精製出来る様になった後。
杏子が弟子になる以前です。