偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA   作:ジャックノルテ

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今回の話は朱奈の視点が殆んどを占める為に外伝扱いとしました。


幕間 優しい嘘も必要と言う事かしら?

 SIDE 朱奈

 その日はわたしの大嫌いな金曜日だった。

どうして金曜日が嫌いかと言うとその日、わたしは必ず《魔女の結界》に閉じ込められてしまうからだ。

わたしは《結界》に閉じ込められるのは大嫌いだった。

けれどわたしの《右目に込められた呪い》がある限り、わたしは毎週、金曜日には必ず《魔女》を引き寄せて結界に閉じ込められてしまう。

今もわたしは《魔女》の結界の中で体育座りをして周囲を見ない様に頭を膝に埋もれさせていた。

そうしないと、この結界の中を移動する《使い魔》か《魔女》に誰かが殺されるのをまた見てしまうから。

誰かが、死ぬ所を見たくない。

けれど《呪いの右目》を持っている限り、わたしは《魔女》を引き寄せて結界に閉じ込められてしまう。

こんな普通では有り得ない事にわたしが絶えられるのは、結界の中にいるわたしを必ず助けに来る、大切な人が、わたしにはいたから。

それは《魔法少女》の筒地綾女ちゃん。

わたしの大切な人がいつも私を助けに来てくれるから・・・。

だから・・・。

わたしは結界の中でも、綾女ちゃんが迎えに来てくれる事を信じられるから耐える事が出来るんだと思っていた・・・。

 

 

 

 どれ位の時間が経過したのだろう?

 腕時計を周囲の不気味な景色を見つめるのが嫌でわたしはずっと膝の中に顔を埋めていた。

「朱奈」

不意に声をかけられて顔を上げるとそこには《魔法少女》として服装に身を包み左手で箒を持った綾女ちゃんがいた。

「綾女ちゃん!怖かったよ!」

「遅くなってごめんなさい。朱奈。さあ。帰りましょう」

そう言って綾女ちゃんは右手を私の目の前に差し出した。

わたしがその右手を握ろうとした時《黒い何か》が綾女ちゃんの右手に絡まって来た。

肉が焼ける音と同時に嫌な臭いが鼻腔に届いた。

それと同時に綾女ちゃんが苦痛に顔を歪ませた。

「綾女ちゃん!」

「朱奈!下がって!」

 思わず叫んだわたしを制して綾女ちゃんは跳躍してわたしから少し離れると左手で持った箒で右手に絡まっている《黒い何か》を突き飛ばした。

綾女ちゃんが、そのまま箒の穂先を《黒い何か》に向けると穂先が数本、《右手に絡んだ何か》に突き刺さって行きました。

鋭い穂先にその身体を突き刺された《黒い何か》が苦しげな声を上げると同時に結界は崩れてここは元の路地裏に戻りました。

わたしは直ぐに立ち上がって綾女ちゃんに駆け寄って左手を両の手で握った。

「綾女ちゃん!大丈夫!」

「平気よ。朱奈。これ位、どうって事、無いわ」

答えながら上げた綾女ちゃんの右手からは血がダラダラと流れていました。

「ヒッ」

わたしが小さく悲鳴を上げたのを聞いた綾女ちゃんは右腕に視線を移した。

そこで出血している事に気が付いたのか右腕が急に青く輝き始めました。

青い光に包まれた綾女ちゃんの右腕は大きな傷跡は残ったけど血が止まって肘を動かして動くのに支障が無い事を確かめるとわたしの頭を撫でた。

「怖がらせごめんなさい。もう大丈夫よ」

「あっ綾女ちゃん・・・。大丈夫なの?」

わたしは恐る恐る綾女ちゃんに聞きました。

「大丈夫よ。傷跡が残ったけどこんなのは対した事じゃ無いわ。さあ帰りましょう」

綾女ちゃんは何時もと変わらない笑顔でわたしにそう言ってくれました。

「うん」

小さく頷いたわたしの右手を綾女ちゃんは左手で握ると路地を出て行こうと歩み始めた。

同時に綾女ちゃんは《魔法少女》としての服装からTシャツ、Gパン、スニーカーの夏服へと服装を戻した。

Tシャツから伸びる右腕には先程の大きな傷跡が目立っていた。

それを見るとわたしは・・・。

綾女ちゃんに傷を負わせてしまった事を・・・。

わたしは・・・。

何も綾女ちゃんに言う事が出来なかった。

わたしの手を握る綾女ちゃんの横顔はいつもと変わりは無かったけれど私にはそれが・・・。

それがちょっと怖かったの。

そう思いながらわたしと綾女ちゃんは手を繋いで暗い路地裏を後にした。

 

 

 

 

「朱奈。先に湯船に入っても良いわよ」

「うん。わたし入ってる・・・」

わたしは綾女ちゃんに促されて湯船に浸かった。

湯船からは丁寧に自分の髪の毛を洗う綾女ちゃんの姿が見える。

ここは私と綾女ちゃんが泊まっている部屋にある備え付けのバスルーム。

わたしと綾女ちゃんは宿泊しているホテルに戻るとまずお風呂に入った。

綾女ちゃんに指先から足の裏まで丁寧に洗って貰ってわたしの身体はサッパリとした。

身体は清潔になったけれどでも綾女ちゃんに身体と髪を洗って貰うのは正直、恥ずかしかった。

出来れば、自分で洗いたかったけれど綾女ちゃんが洗いたがるので断わる事が出来なかった。

綾女ちゃんは長い髪を洗うのに時間を懸けているのでわたしが先に湯船に入っていた。

湯船からわたしは綾女ちゃんの方を見ていた。

右手には先程負った大きな傷跡が見える。

髪を洗っている綾女ちゃんが目を閉じているのを盗み見るとわたしは綾女ちゃんの全身を見つめた。

右肩から薄い傷が背中に一直線に刻まれている。

足にも何かが刺さったような跡が見えた。

全身の何処かしらに綾女ちゃんは傷を負っていた。

わたしが理由を知っている物や知らない物を含めて。

(わたしのせいで怪我したのかな・・・)

そう思うとわたしは綾女ちゃんの方を直視出来なくなって湯船の中に使っている自分の身体を見ていた。

わたしの身体は目立つ様な大きな傷は無い。

でもそれは何時も綾女ちゃんがわたしを庇って戦ってくれているからかも知れなかった。

そう思うとわたしはとても悲しくなって湯船の中で俯いてしまいました。

「朱奈。どうしたの?」

不意にそう言って綾女ちゃんは湯船に入って来た。

わたしの身体と向かい合う様に綾女ちゃんは湯船に浸かりました。

湯船の中ではわたしと綾女ちゃんの身体が触れ合う、この時、いつも胸がドキドキする。

きっと驚いているだけだとわたしは思っていた。

「何でもないよ。綾女ちゃん」

「本当に?もしかして朱奈。怪我をしたのを隠してはいないでしょ?」

そう言って綾女ちゃんは湯船の中で胡座を組むと体育座りをしていたわたしを優しく引き寄せました。

そしてわたしの全身をくまなく見つめるとわたしの髪の毛に手を入れて頭を見るとわたしの顔を左右から見ていました。

暫くして綾女ちゃんはわたしを離してくれました。

「別に怪我をしている訳じゃ無いみたいね。どうして俯いたりしたの?」

「何でもないよ」

「そんな訳、無いでしょ。朱奈が俯くのは何か自分で責任を感じた時よ。もしかしてこの右腕の傷を気にしているの?」

そう言って綾女ちゃんはわたしの目の前に大きな傷跡が付いた右腕を掲げました。

「だってその・・・。綾女ちゃんは痛くないの?」

わたしの質問に綾女ちゃんは少し思案した様子を見せました。

「そうねえ。今まで朱奈には話してなかったけれど《魔法少女》はね、痛みを魔力で緩和する事が出来るのよ。だからこれ位の痛みだったら大した事は無いわ。だから朱奈が責任を感じちゃう必要は無いのよ」

「うん・・・」

綾女ちゃんにそう言われてわたしは頷いたけれど・・・。

わたしは、やっぱり綾女ちゃんの右腕に大きな傷がある事に責任を感じていました。

その事を綾女ちゃんに告げる勇気も持っていないわたしは・・・。

凄く弱虫に思えました・・・。

 

 

 

 

 闇の中でわたしはずっと顔を手で覆って蹲っていた。

 迎えに来てくれる綾女ちゃんを待って、わたしはずっと蹲っていた。

 泣きそうになるのを必死に堪えながらその時を待ってた。

「朱奈。待たせたわね」

わたしが顔を上げると、暗闇の中で満面の笑みを浮かべた綾女ちゃんが立って左手をわたしに伸ばしていた。

「綾女ちゃん!」

蹲っていたわたしは、喜んで綾女ちゃんの手を取ろうとしたが、目の前の綾女ちゃんが全身を暗闇に覆われてしまった。

わたしは悲鳴を上げて一瞬、手を引っ込めてしまうとその間に綾女ちゃんは暗闇の中に呑まれてしまった。

慌てて綾女ちゃんの手を掴もうと意を決して暗闇の中に手を入れようとしたけど暗闇の中にわたしの手は入る事は無かった。

 途方にくれて立ち尽くすわたしの後ろに大きな音が響いて何かが落ちて来たのがわたしにも分かった。

嫌な予感がして恐る恐る振り返ると、そこには体中から血を流した綾女ちゃんが倒れていた。

綾女ちゃんの身体から血が流れ出てわたしの足元まで覆って行く。

「えっ!?」

 悲鳴すらあげられないまま、わたしは絶望の余り手で顔を覆って目の前の景色から目を背けようとした。

けれど出来ない。

どんなに目を閉じても綾女ちゃんが血を流して倒れている風景が頭から離れない。

心の中は荒れ狂い、ただわたしの声にならない悲鳴だけが頭の中に響いていた。

 

 

 

 

「あっ!?」

小さな悲鳴と共にわたしは目を覚まして夢を見ていた事に気付きました。

そっと目の前を見るとわたしの隣でバスローブ姿の綾女ちゃんが眠っていました。

わたしと綾女ちゃんは時々、こうやって一緒のベッドで眠ったりしている。

綾女ちゃんの温もりを感じながら眠るのが、わたしは大好きだった。

けど、こんな悪夢を見た後だと、わたしは、その事を素直に喜べなかった。

そっと布団の中に頭を潜らせてはだけたバスローブの間から綾女ちゃんの胸にわたしの耳を当てて見た。

綾女ちゃんの身体は温かくて規則的な心音を感じる事が出来た。

「良かった・・・。綾女ちゃんは生きている・・・」

けれど、わたしはさっき見た悪夢のせいで綾女ちゃんが生きている事に素直に喜びを見出せなかった。

また金曜日がくれば綾女ちゃんはわたしの為に《右目の呪い》が引き寄せた《魔女》や《使い魔》と戦ってしまう。

戦えば綾女ちゃんは何時かわたしの目の前で死んでしまうかも知れない・・・。

そう思うと怖くて怖くて堪らなくなってわたしは布団から綾女ちゃんを起こさない様にそっと出て来ました。

時間は朝の6時。

綾女ちゃんは大抵、8時頃に起きて来るのでまだ起きる事はありませんでした。

わたしは音を立てない様に気を使ってパジャマから赤いワンピースに着替えました。

小さな音を立てながら靴を履くと玄関に向かって歩いてドアの前で綾女ちゃんが寝ているベッドを振り返った。

本当はこんな事をしたくは無いけれどわたしは綾女ちゃんに傷付いて欲しくは無い・・・。

だからわたしは決心していた。

心に決めた事を実行に移そうとしていた。

「綾女ちゃん・・・。ごめんなさい。わたし・・・。綾女ちゃんが傷付くのを見たくないの・・・。だから・・・」

わたしは小声でそう言うと部屋のドアを開いてホテルの通路に出た。

幸い、部屋の鍵はオートロックである為にわたしがドアを閉めれば自動で鍵を閉める仕組みとなっていた。

けれど閉じられたドアはわたしと綾女ちゃんの隔絶を表している様でわたしは途端に涙ぐんでしまった。

 涙を拭いながらわたしはホテルを出る事にした。

幸いツアー客等がたくさんいて、わたしが1人でホテルを抜け出しても誰も気にする事は無かった。

わたしはとにかく綾女ちゃんと泊まったホテルを離れようとひたすらに1人で歩いた。

知らない道をひたすらにがむしゃらに歩いた。

曲がりくねった道をがむしゃらに歩いて路地へ入ったりして自分が何処にいるのかも解らなくなっていた。

その内にわたしは暑さから疲れて何処かの家の塀に寄り掛かっていた。

季節は初夏でありもう直ぐ夏が始まる筈だった。

時計を持っていないのでどれ位、歩いたのかも解らない。

けれど疲れたから少し休みたかった。

そう思ってふと脇道を見ると林道の様な道が見えた。

(あそこにある木の根元で少し休もう)

そう思うと、わたしは林道に植えられている木の陰にハンカチを敷いて座ると木に寄り掛かって腰を降ろした。

朝食を食べずに出て来た事を思い出したわたしは途端に疲れて疲労に身を委ねてそのまま前後不覚に眠ってしまった。

 

何処かで話し声が聞こえて来る・・・。

そう思ってわたしは目を覚ました。

体を起こすと知らないベッドの上に眠らされていた。

「ここは何処?」

思わずわたしは声に出してそう呟いてしまいました。

部屋にはわたしが寝ていたのを含めてベッドが2つ並んでいて学校の教科書等が机の上に無造作に置かれていた。

わたしは躊躇いがちにベッドから降りると1つしか無い部屋のドアを開いて廊下へ出て見た。

廊下の先では誰かが何かを話し合っている声がわたしにも聞こえて来た。

それは大人の男性と女の子の声だった。

「お父さん。あの女の子、一体どうするの?」

「そうだね。疲れて眠っているだけの様だったから目を覚ましてから事情を聞いて見ようと思うんだ」

「事情って何?」

「教会の植木の側で眠っているなんて何か事情があると私は思うんだ。それに困っている人を助けるのは牧師の仕事だからね」

そこまで聞いてわたしはここが教会だと知った。

とにかく助けて貰ったお礼を言わなきゃいけない。

そう思って躊躇いながら廊下から顔を出した。

「あの!」

 わたしが出て来たのを見て女の子と牧師さんが少しだけ驚いた顔を見せた。

「おや?もう大丈夫なのかい?」

「はい。助けてくれてありがとうございます」

わたしはそう言って黒い牧師服を着て顎髭を生やした牧師さんとその娘である《赤い髪の女の子》に丁寧に頭を下げた。

「あんた。何で木の根元で寝てたのさ?掃き掃除の時に妹が見つけて大騒ぎだったんだよ」

「ごめんなさい。わたし・・・。疲れて、つい木の根元で寝てしまったの・・・」

「家出でもしたの?」

《赤い髪の女の子》に図星を付かれたわたしは顔を合わせる事が出来なくてつい俯いてしまった。

その時、わたしのお腹が鳴った。

「どうやらお腹が空いている様だね。簡単な物しか無いが良ければ食べておきなさい」

そう言って牧師さんはパンとスープの簡単な食事をテーブルの上に用意してくれた。

空腹に逆らう事が出来ずわたしは牧師さんと《赤い髪の女の子》が座るテーブルの空いている席に座って食事を頂く事にした。

「頂きます」

手を合わせてわたしは牧師さんが用意したパンとスープを食べた。

食事の味はとても美味しかった。

素朴な食事だったけど、とても美味しく感じる事が出来た。

「さて・・・。食事も終わった事だしそろそろ名前を教えて貰っても良いかな?」

わたしが食べ終えた食器を片付けながら牧師さんはそう聞いて来た。

「わたし・・・。わたしの名前は朱奈」

 躊躇いながらもわたしは自分の名前を告げる事にした。

 食事まで施して貰いながら自分の名前を名乗らないのは失礼に当たると思えたからだ。

「朱奈ちゃんか。良い名前だね。苗字は?」

「えっと・・・」

とっさにわたしは苗字を答える事が出来なかった。

そう言えばわたしは苗字を持っていなかった。

持っていないと言うよりも知らなかった。

記憶を失ってからわたしは本当の苗字を忘れていたからこそ、朱奈と言う自分の名前だけで過ごしていた。

(最も感じは綾女ちゃんに付けて貰ったが)

「何だい?まさか苗字が無いなんて言わないよね?」

《赤い髪の女の子》は怪訝な表情でわたしを見ていた。

睨んでいる様にも見えるその瞳が少し怖くてまたわたしは俯いてしまった。

「ふむ・・・。言いたくない事情があるのなら私は無理に聞き出そうとは思わないよ。けれど、どうして教会の植木の根元で倒れていたんだい?」

牧師さんにそう言われて、わたしはどう答えようか悩んでいました。

《魔法少女》の事は綾女ちゃんから口止めされているし、話しても信じて貰えない様な気がした。

だからわたしは話しても問題の無い部分だけを掻い摘んで事情を話す事にした。

これなら嘘を付いている訳では無いので、少しは気が楽だった。

「わたし・・・。記憶喪失なの・・・。一年以上、前の記憶が無いの。でもわたしを助けてくれる優しいお姉ちゃんがいるのだけれど、わたしを守ろうとして右手に傷跡が残る怪我をしてしまったの・・・。わたしはそれが嫌で逃げてきちゃったの・・・。わたしといるとお姉ちゃんが、また傷ついちゃう気がして・・・」

そうまで言ってわたしは目に涙を溜めて泣き出してしまっていた。

「そうなのか・・・。それはとても悲しい事だね」

牧師さんもそう言って目から一筋の涙を流していた。

「父さん!ああっ。もう。あんたが泣くから父さんも泣いちゃったよ」

《赤い髪の女の子》は少し呆れ気味にわたしと牧師さんを見ていた。

「けれどね・・・。朱奈ちゃん。そのお姉さんは君を守ろうとして怪我をしてしまったんだね?」

「はい・・・」

 牧師さんの質問にわたしは素直に頷いた。

「きっとそのお姉さんは君がいなくなった事を心配している筈だよ。確かに傷を負ったかも知れないけれど大切な人を守る為なら私も傷を負っても平気だ。ほら。私の右腕を見て見なさい」

そう言って牧師さんは右腕の袖を捲くりました。

そこには真一文字に縫われた古傷がありました。

「お父さん!その傷!」

《赤い髪の女の子》の声にはわたしでも分かる様な驚きの色が混じっていた。

「そうだよ。これは、お母さんを助ける時に負った傷だよ。私はね昔、結婚した後にお母さんと買い物に出かけた時に大きな地震に出くわした時が遭ったんだ。その時、私は咄嗟にお母さんを守る為に私の体全体を使ってお母さんを庇ったんだ。その時に落ちて来たガラスで切ったのがこの傷なんだ」

そう言って牧師さんは懐かしそうに自分の右腕にある古傷を見つめていた。

「痛くなかったんですか?」

「痛かったよ。けれど私はそれ以上に自分の大切な人を守れた事の方が嬉しかったんだ。確かに傷跡は残ってしまった。けれど私はその事に後悔を感じたりはしていない。朱奈ちゃんの大切なお姉さんもきっとそう思ってくれているんじゃないのかな?」

牧師さんにそう言われてわたしは綾女ちゃんの事を思った。

果たして綾女ちゃんもそう思ってくれているのだろうか?

その時、不意に呼び鈴が鳴り響いた。

「誰だろう?すまないがちょっと出てくるよ」

牧師さんはそう言って玄関の方に向かって行った。

「ほら。これやるから元気出せよ」

《赤い髪の女の子》は冷蔵庫から赤いりんごを取り出すとわたしに1つ渡して来た。

「ありがとう・・・」

「父さんの話は難しくて良く分からないけど私も家族を守る為なら少し位の傷を負っても良いと思うんだ。それにあたしもお姉ちゃんだからなんとなくだけどあんたのお姉ちゃんの気持ちが分かるよ」

《赤い髪の女の子》は私を励ましている様だった。

その時、牧師さんが背後に誰かを伴って部屋に戻って来た。

「朱奈ちゃん。お姉さんが迎えに来たよ」

牧師さんが背後に伴って来たのは綾女ちゃんだった。

「朱奈。迎えに着たわよ」

「綾女ちゃん・・・。わたし、綾女ちゃんに聞きたい事があるの!」

わたしは思い切って聞いてみる事にした。

綾女ちゃんが本当に傷跡を気にしていないかどうかを。

「何を聞きたいの?」

「その。えっと・・・」

聞こうとしたわたしだったけど《赤い髪の女の子》と牧師さんがいて恥ずかしくて話を切り出せなかった。

「どうやら私達はお邪魔のようだね。良ければ礼拝堂で話したらどうかね?この時間は使う予定が無いないから2人だけで話せる筈ですよ」

牧師さんはわたしの様子を察して言って提案してくれました。

「そうね・・・。じゃあ牧師さん。ありがたく礼拝堂をお借りします」

綾女ちゃんがそう言ったのを聞いて牧師さんと《赤い髪の女の子》に連れられてわたしと綾女ちゃんは礼拝堂に入った。

「私は入り口で待っているのでゆっくりと話し合って下さい」

そう言って牧師さんは《赤い髪の女の子》と一緒に礼拝堂から出て行きました。

手近の椅子にわたしと綾女ちゃんは2人で並んで座りました。

「朱奈。私に聞きたい事って何?」

綾女ちゃんはわたしの方を向いて聞いてきました。

わたしも綾女ちゃんの顔を見てちゃんと質問をしました。

「その・・・。綾女ちゃんは本当に右腕に傷が付いた事を後悔していないの?」

わたしはずっと言いたかった事を綾女ちゃんの方を向いてはっきりと言葉にした。

少し驚いた様子を見せた綾女ちゃんだったけれど薄く微笑みながら口を開いた。

「ええ。後悔なんてしていないわ」

綾女ちゃんはきっぱりと言い切りました。

途端にわたしの目には涙が溢れてわたしは思わず綾女ちゃんに抱き付いてしまいました。

「綾女ちゃん。ありがとう・・・。わたしを助けてくれてありがとう」

「良いのよ。朱奈。人は傷を背負って生きて行く者なのよ。たとえば・・・。そうねえ。ちょっとここを見て」

そう言って綾女ちゃんは自分の前髪を捲り上げた。

そこには良く見ると縫い傷の様な傷がありました。

「これはね、私が自転車に乗って横転した時に切った痕よ」

「痛くなかったの?」

「痛かったわ。自分のミスが原因だけど私はこの傷を負った事も今は後悔していないわ。初めのうちは後悔していたけれど傷を自分への戒めと思ってからは後悔する事は無くなったわ」

「戒めって?」

「次は同じ過ちを繰り返さないと言う誓いの事よ。朱奈だって転んで膝を擦り剥いたりしたでしょう?」

「うん・・・。この間も転んだ」

 言われてわたしは恥ずかしく俯きそうになったのを必死に押さえ込んだ。

 今はまだ綾女ちゃんとお話をしている最中である。

「でも転んで膝を擦り剥いてからは余り転ばない様になったでしょう?」

「そう思うよ」

「それと同じ事なのよ。人生と言うのは痛みを伴う経験が次々と降って沸いてくるわ。けれど痛みを、ただ痛いと言うだけで拒絶したんじゃそれは戒めにならないわ。痛みを受け入れた上で同じ事を繰り返さないと強く思う事が大事なのよ」

「うん・・・。わたし・・・。今日の事を戒めにする。もう綾女ちゃんの前から黙っていなくなったりしない!」

「それで良いのよ。朱奈」

そう言って綾女ちゃんは嬉しそうにわたしの頭を撫でてくれた。

「さあ。牧師さん達にお礼を言って帰りましょう」

「うん」

わたしが頷くのを見た綾女ちゃんはわたしの右手を左手で握って2人で礼拝堂を出た。

礼拝堂の扉の外では牧師さんと《赤い髪の女の子》が待っていてくれた。

「どうやら話は終わったみたいですね」

「はい。どうもお世話になりました」

綾女ちゃんが丁寧にお辞儀したのを見てわたしも慌てて頭を下げた。

「困っている人を助けるのが私の務めですから。それはそうと朱奈ちゃんは記憶をなくしているそうですね」

「ええ。確かに朱奈は記憶を無くしています」

「事情は良く分かりませんが神様はいつかきっと朱奈ちゃんの記憶を戻してくださいます。だからこれからも2人で仲良くして下さい」

「私・・・。綾女ちゃんと仲良くする!」

 そう言ってわたしは綾女ちゃんの手を強く握った。

 それを感じ取った綾女ちゃんの笑みが深まった気がする。

「ありがとう。朱奈。それじゃあ・・・。どうもありがとうございます」

再度、綾女ちゃんとわたしは2人で頭を下げて教会の玄関から出て外に至る道に歩を進めた。

わたしが後ろを振り返ると教会の前に《赤い髪の女の子》と牧師さんが手を振っていた。

「元気でなー」

《赤い髪の女の子》がそう言うのを聞いて私はポケットに入れていたりんごを思い出した。

(このりんごは後で綾女ちゃんと半分こしよう)

思いながらわたしは自分にも父親と母親。

つまり両親がいるのかなと思った。

「ねえ。綾女ちゃん」

「なあに。朱奈」

「わたしの両親もあんな風に優しい人なのかな?」

「きっと優しい人の筈よ。だって朱奈の両親なのよ」

「もしもわたしの記憶が戻って本当の家族が見つかってわたしが両親の元に帰っても綾女ちゃんはずっと側にいてくれる?」

「ええ。居てあげるわ。私はずっと貴方の側にいてあげるから」

「ありがとう。綾女ちゃん」

わたしが綾女ちゃんの方を向くと綾女ちゃんはわたしに笑顔を向けてくれた。

その笑顔を見てわたしは今、幸せなんだと感じる事が出来た。

SIDE 筒地綾女

 

「今日はそう言う事が会った訳よ。キュウたん」

そう言いながら私は膝に抱いているキュウたんにそう語りかけた。

時間は深夜。

私とキュウたんは今、私と朱奈が宿泊しているホテルの屋上で雑談兼、定期報告を交わしていた。

《流浪の魔法少女》である私もキュウたんとは定期的な報告や雑談を交わしていた。

 最も任務があればキュウたんの方から接触して来る事もあるが。

「ふーん。そうなのかい。でも綾女。朱奈をどうして簡単に見つける事が出来たんだい?」

キュウたんは一通りの話を聞いてそこが気になる様でもあった。

「簡単よ。今まで離さなかったけど、朱奈が着る服にいつもこれを仕込んでいたのよ」

言いながら私は左の手の平に《魔法の種》を出現させた。

「この風見野市位ならこの《追跡の種》=チェイスシードが付いていれば朱奈が何処にいるかは直ぐに解るわ。《魔女》や《使い魔》を探してパトロールする様にソウルジェムの反応に従って歩けば朱奈を見つけられると言う訳よ」

「でも綾女。君は朱奈を愛しているんだろう?なのに何故、行動を監視する様な真似をするんだい?」

 キュウたんの質問が的確なので少しだけ顔をしかめながら私は答える事にした。

「ちょっと違うわね。この欠片は朱奈が《結界》に閉じ込められた時に直ぐに見つけられる様にする為に作った物よ。基本的には朱奈が《結界》に閉じ込められた時しか反応を探らないわ。けど今日みたいに朱奈が家出をしたら話は別と言う事よ」

「なるほどね。でも綾女。どうして朱奈には両親がいるかもなんて嘘をつくんだい?朱奈は奇跡によって誕生したんだから両親なんている訳、無いじゃないか」

「そうね・・・。時には優しい嘘も必要と言う事かしら?」

「なんだい?それは」

「キュウたんには良く解らないかも知れないけれど事実をありのまま伝えて相手が苦しむ位なら嘘をついて偽りの幸福を与えた方が良いと言う事よ。つまりは・・・。感情の問題と言う事ね」

 感情の問題とわざわざキュウたんに指摘したのはキュウたんことインキュベーターが人間の感情を理解出来ないと言う事を知っているからだ。

「なるほど・・・。時には嘘をつく事が良い結果に繋がるのか・・・。綾女。君との会話はやはり参考になるよ」

「光栄だわ。キュウたん。私もあなたとの会話はスッキリするわ」

「どういう事だい?」

「人はね秘密を抱える事を苦痛に思う物なのよ。だからキュウたんと話すと秘密が無くなるみたいでスッキリするわ」

「僕で良ければいつでも話を聞いてあげるよ。綾女」

「ええ。私もあなたと話すのを楽しみにしているわ。キュウたん」

深夜の屋上で私とキュウたんの雑談は暫く続いた。

暫くして綾女がホテルの部屋に戻ると朱奈は安らかに眠っていた。

「綾女ちゃん・・・」

ふと朱奈は寝言を発した。

寝言を聞いた綾女は朱奈の隣で横になった。

そして朱奈の肩に手をやって朱奈の寝顔を見つめた。

寝顔はとても安らかな物だった。

「朱奈。私はあなたを決して離したりしないわ」

 




《赤い髪の女の子》は杏子です。
時間軸としては契約を行う前の杏子と言うシーンです。
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