偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
夜の公園の片隅にあるベンチで私とキュウたんは報告兼、雑談をしていた。
私とキュウたんは、お互いに起こった近況を定期的に雑談等を交えながら情報交換をしていた。
けれどキュウたんが不意に言い始めた一言が私の興味を強く引いた。
「それは本当なの?キュウたん」
興奮を隠せない私の声に対してキュウたんはいつもと変わらない声で答えた。
「うん。間違いない。確実と言ってもいい。明後日には現れるよ。《ワルプルギスの夜》は」
《ワルプルギスの夜》・・・。
最大、最強と言われる《最悪の魔女》・・・。
《魔法少女達》の間で流れる噂の中で必ず一度は耳にする存在・・・。
最も《ワルプルギスの夜》の実物を見て生還した《魔法少女》は殆どいなかった。
《魔法少女》の寿命は、それ程、長い訳でも無いので証言者の消失から噂が一人歩きしている印象もあった。
「何処の街に現れるの?」
「ここからかなり離れた場所だからここは安全だよ。どうして、そんな事を聞くんだい?」
「決まってるじゃない。見に行くのよ。噂通りの存在かどうか確かめてみたいわ」
私の返事を聞いたキュウたんは不思議な物を見る様な目で私を見ている。
慣れてくると感情が無いと言う割にキュウたんは時々、こう言った視線の変化に気が付く事が出来た。
そうは言ってもキュウたんとは既に2年程、仕事を共にしている。
朱奈以外で私と行動を共にするのはキュウたん位だ。
「綾女がそう言うなら場所は教えるよ。でも本当に行くのかい?僕としては、なるべく行って欲しくは無いのだけれど・・・」
「遠くから見るだけよ。勿論、キュウたんにも付き合って貰うわよ」
「分かったよ。でも朱奈はどうするんだい?流石に連れて行くのは危険過ぎると思うよ」
「そうよね・・・。その辺は旨く説得してみるわ。じゃあ場所を教えて頂戴」
「場所はね・・・」
キュウたんが私に告げた場所は今いる場所から、かなり離れた場所だった。
移動する魔法を持たない私では公共の交通機関を使うしか無い。
私の計算では往復に半日も掛かる。
《ワルプルギスの夜》が噂通りの《魔女》なら尚更、朱奈を連れて行く訳には行かなかった。
今回はホテルで留守番をして貰うのが無難だろう。
ただ寂しがりやで人見知りの朱奈をどう説得するのかは難しいと感じていた。
「まあ良いわ。それも明日、考えるわ。そろそろ戻る事にするわ。お休み。キュウたん」
「分かった。お休み。綾女」
キュウたんと分かれて私は夜の公園を後にした。
歩きながら考える。
今回、私は自分の持つ好奇心を優先して考えている。
普段なら愛する朱奈の事を優先して考えている。
けれど今回は違った。
キュウたんには話さなかったが、何故だか分からないが朱奈に愛情を抱くのであれば見に行かなければならない気がした。
理由を確かめる為にも私は《ワルプルギスの夜》を見に行かなければならないと心に決めていた。
○
翌日・・・。
私が窓辺から視線を室内に移すと朱奈は机に向かって勉強をしていた。
例の事を切り出したいが切っ掛けが必要だった。
けれど今では無い。
どうしたものかと思っていると私はふと今日が日曜日だと思い出した。
朱奈が自主的に勉強を行ってくれるのは良いが、たまには息抜きも必要だと私は思っていた。
「朱奈。今日、日曜日だし勉強は良いから遊びに行きましょう」
私がそう声を掛けると朱奈は少し戸惑った様な表情を見せた。
「えっ?でも・・・」
「良いから行きましょう」
そう言って私は少し強引に朱奈の手を引っ張るとそのままホテルの外に向かった。
その日は気の向くままに、動物園を見に行ったりショッピングをしてから部屋に戻った。
「今日は楽しかったわね。朱奈」
「うん。楽しかったよ」
私とベッドに並んで腰掛けている朱奈はまだ戸惑いを見せていた。
ちょっとズルイかも知れないが、そろそろ良いだろう。
「ねえ。朱奈。少しお願いがあるんだけど」
「えっ?お願いって?」
朱奈はキョトンとした表情を見せた。
やはり朱奈はどんな表情を見せても可愛い。
もう少し凝視していたいが、そこは我慢する。
これ以上、例の事を告げるのを先延ばしするのは避けたい。
「実はね・・・。朱奈には少し留守番を頼みたいのよ」
「留守番って?」
「明日になったら私はちょっと遠い所まで魔女退治に行かなきゃ行けないの。とても遠い所だから帰って来るのは速くても明後日になると思うわ」
「えっ?じゃあ、わたし・・・。1人で?」
「そうなの。朱奈1人でホテルに留守番して欲しいのよ」
私がそう告げた瞬間に朱奈は私に抱き付いて来た。
「やだ!綾女ちゃんと一緒にいたい!」
目を固く閉じて精一杯の力で私の身体を抱き締める朱奈は普段見せない表情をしていてやはり愛らしかった。
私はそっと朱奈の頭を撫でながら説得の為に言葉を紡いで行く事にした。
「ごめんなさい。朱奈。けど今度の魔女退治はとても危険な物になりそうなの。朱奈を連れては行けないのよ。《魔法少女》である以上、大規模な集まりには私も行かなきゃいけないの。解って?」
そっと朱奈の頭を撫で背中をさすり私が告げられる最大限かつ背一杯の説得の言葉を告げた。
朱奈は黙っていた。
私もこれ以上の言葉を話す事が出来ず黙っていた。
「綾女ちゃん・・・。絶対に帰って来る?」
朱奈は涙目になりながら求めて来た。
必ず帰って来る事を。
私を求めてくれている。
その思いが心を満たし自然と満面の笑みを浮かべて答えた。
「ええ。私は必ず朱奈の元に帰って来るわ。お土産も買って来てね」
「うん。お土産は無理して買わなくても良いから必ず帰って来て!」
「帰るわ。私が帰る場所は・・・」
少しの間だけ言葉を切った。
朱奈は次の言葉を聞こうと私を凝視している。
「朱奈の元しか無いんだから」
「ありがとう。綾女ちゃん」
私と朱奈は自然と抱き締めあった。
お互いの温もりを感じあって私は・・・。
自分の抱く愛を確かめていた。
○
次の日・・・。
朱奈と2人で朝食をレストランで食べ終えると私は出発する事にした。
「じゃあ朱奈。行って来るわ。明日には帰って来るから」
「うん。綾女ちゃん。行ってらっしゃい・・・」
答える朱奈の顔は少し沈んでいた。
やはり私と離れる事に不安を感じているのかも知れなかった。
「大丈夫。明日の夜には帰って来るから。ねっ?」
頭を撫でながらそう言うと朱奈はようやく自分を押さえる事が出来たのか頷いた。
「じゃあ行ってくるわ」
そう言って私は部屋のドアを開いた。
「綾女ちゃん・・・。またね・・・」
後ろから朱奈は精一杯の励ましの言葉とも取れる事を私に言ってくれた。
「ええ。また明日」
不安そうな朱奈に向かって振り返って手を振り笑顔を向けて私はドアを閉めた。
「そうそう。忘れない様にと」
そう言いながら私は《魔法の種》を左手に生成した。
種類は封印(シール)。
この《封印の種》は打ち込まれた建物に魔力による防壁を生成して外敵である《魔女》や《使い魔》の侵入を防ぐ事が出来た。
魔法の効果は注ぎ込んだ魔力量によって調節する事も出来る。
今回は明日までで十分だろう。
突き刺すと同時に《封印の種》はそのまま見えなくなった。
魔力によってカモフラージュをしていたが、魔力を持つ《魔法少女》でなければ見破る事は出来ない筈だった。
「さて・・・。これで良いわね。食事の方は昨日、今日で買い込んだ分があるから大丈夫よね。お金は渡した財布の中に入っている分もあるから大丈夫。それから・・・」
自分を安心させる為、朱奈を留守番させる為に行った準備に問題は無いかどうか呟きながら確認し私は駅に向かって足を進めた。
○
幾つかの電車を乗り継ぎ半日掛けて、私は周囲を山に囲まれた港町、タツナミ町に辿り着いた。
既に《ワルプルギスの夜》が現れる前兆なのか空には雲が多い曇り空だった。
タツナミ町は温泉街として発展した歴史があり私もテレビで見た事がある位だった。
街中を歩いていると雰囲気が良い町だと私も感じ取る事が出来た。
(今度、朱奈を連れて来ようかしら?)
そうまで考えた所でハッとした。
明日にはタツナミ町は《ワルプルギスの夜》によって壊滅させられる。
《ワルプルギスの夜》が一度、現れてしまえば、確実にこのタツナミ町は滅んでしまう。
少し勿体無い気がしたが仕方の無い事とも思えた。
この世に《魔女》が存在する以上、《魔女》によって滅ばれる町もある。
《魔法少女》が世界の全てを守れる訳では無いのだ。
「私達は手の届く範囲しか守る事が出来ない・・・」
呟きながら私は朱奈の事を思い出していた。
1人で大丈夫だろうか?
もし本当に何かあれば、朱奈のいるホテルを見張っているキュウたんがネットワークを介して連絡してくれる手筈となっていた。
「キュウたん!」
「僕を呼んだかい?」
私が名を告げると同時に私の視界にある路地裏からキュウたんが姿を現した。
「朱奈の様子はどうなの?」
「特に異常は無いよ。部屋から出ずに勉強をしているよ」
「そうなの」
答えた私の肩にキュウたんが乗っかって来る。
良く見るといつもより色が焼けている感じがする。
「キュウたん。もしかして日焼けしたの?」
「うん。この身体も有機物で出来ているから僕も日に焼ける事はあるよ」
「意外ね。てっきり何の変化もしないと思っていたわ」
「心外だな。僕だってこの地球上に存在する有機物で身体を構成しているんだよ。生物に起こる現象なら僕にも起こるよ」
キュウたんは割と正論を言っていた。
けれどキュウたんの身体がどうなっているか分からない以上、あまり信じていなかった。
「そう言えば《ワルプルギスの夜》はどうなの?」
「うん。僕の予想通り明日の昼には現れるよ。でも・・・。人間は本当に変わっているね。勝てるかどうか分からない相手にも戦いを挑もうとする《魔法少女》もいるんだからね」
今のキュウたんの言葉に違和感を覚えた。
私は戦うつもりでここに来た訳では無い。
「どういう事?もしかして私以外にもここに来ている《魔法少女》がいるの?」
「うん。彼女は《ワルプルギスの夜》を倒すつもりだよ。いいや。彼女達か」
「彼女達?」
私が答えた時、正面から数十人の少女達が歩いて来たのを見て道の端っこに移った。
少女達は同じ学校の生徒達なのか同じ様な文様が施された、言わば制服を着ていた。
けれど異様だった。
皆が皆、同じ様な笑顔を向けて1つの方向に向かって一糸乱れずに歩いている。
良く見ると彼女達は全員、銀色の指輪をしていた。
ソウルジェムが変化した指輪を!
それに良く見れば見覚えのある少女もいる。
もしかして彼女達は・・・。
「貴女は」
不意に声を掛けられてその方向を見つめると数十人の少女達の真ん中にいた一人の少女が私の方に向かって来た。
その顔を見た時、私は驚きを表さずにいられなかった。
忘れられない。
あの時、《朱奈の持つ呪いに興味を抱かなかった魔法少女!》
「確か瑞光璃阿(ズイコウリア)と《魔法少女チーム》の《グロリオーサ》だったわね?」
「璃阿と仲間達を覚えていて下さり、ありがとざいます。筒地綾女さん」
冷や汗を流しながら答える私に白く所々にオレンジ色のラインが入った髪を揺らし瑞光璃阿は丁寧に頭を下げた。
警戒心を露わにする私に対して瑞光璃阿の態度は言葉使いとは裏腹に冷めた態度だった。
確かに余裕を見せられるのかも知れない。
何たって今、彼女と同じ制服を着る数十人の少女達は全員、瑞光璃阿の指揮下にいる《魔法少女》なのだから。
戦う事になれば確実に勝ち目は無かった。
「どしてこの場に来たのですか?ここで何が起こるのか知ってこの場に来ているのですか?」
「《ワルプルギスの夜》を見に来たのよ。《最大最強の魔女》となれば《魔法少女》なら誰だって興味を持つでしょう」
私の答えに瑞光璃阿は冷めたと言うよりも冷静な瞳で私を見ていた。
「そですか。では見ていて下さい。我々、《グロリオーサ》が《ワルプルギスの夜》を討伐するのを」
そう言って瑞光璃阿は取り巻きの《魔法少女達》を連れて立ち去って行った。
その姿を見ながら私は自分が冷や汗を出していた事に気が付いていた。
「ねえ。キュウたん。《グロリオーサ》と瑞光璃阿がいるなんて聞いてないわよ」
「そうだね。伝えるのが遅かったよ。ごめんね。綾女」
「あなた・・・。簡単に謝罪するのはどうかと思うわよ」
少し呆れ気味に告げる私に向かってキュウたんは少し首を傾げた。
「そうなのかい?じゃあ次からは気を付ける事にするよ」
反省したのかどうかも感じられないキュウたんの態度はさて置き再び視線を前に向けると私の目に銭湯の看板が眼に入った。
ここは温泉地で有名なので銭湯も温泉を引いていると評判だった。
「じゃあキュウたん。罰として私と温泉に付き合って貰うけど良いわよね?」
少し怒気を込めた声でキュウたんに告げるとキュウたんは頷いた。
「良いよ。僕もこの後、予定は無いから綾女に付き合っても構わないよ」
キュウたんを肩に乗せたまま私は銭湯に入って行った。
料金を番頭のおばちゃんに支払って脱衣所で衣類を脱ぐとわたしは真っ直ぐにキュウたんと一緒に浴室へと向かった。
浴室内にある流しの前で身体を洗っているとキュウたんが風呂桶にお湯を入れて自らの手足で全身を洗っているのが見えた。
しかしちゃんと汚れを落とせているか私には微妙に思えた。
「キュウたん。そんなんじゃ汚れは落ちないだろうから今日は私が身体を洗って上げるわ」
「良いのかい?綾女。それじゃあ任せるよ」
答えたキュウたんを私は屈んでタオルを使って全身をゴシゴシと擦った。
「綾女。少し力が入り過ぎじゃ無いかい?」
どうやらキュウたんにも痛覚が存在するらしい。
感情の響きは感じられないが少し痛がっている様子を見せていた。
「私はそんなに力を入れているつもりは無いわ。あなた日焼けしてるんじゃない?」
実際、私はそこまで力を入れてキュウたんの身体を擦っている訳でも無かった。
「日焼けをすると皮膚が腫れちゃうから洗う時、痛くなるのよ。もしかしてずっと日向にいたの?」
「そう言えば綾女が来るまでは、このタツナミ町の様子をずっと屋根の上から観察していたよ」
(どーみてもそれが原因じゃない)
内心、そう思いながらも私は更にキュウたんの身体から汚れを落とす為に擦る手の力を強めた。
「綾女。人間の身体がデリケートな様に僕の身体だって代わりが幾らでもあるからと言って、ぞんざいに扱うのはどうかと思うよ。もっと丁寧に扱ってよ」
「・・・。あのねえ。これから湯船に浸かるんだから出来るだけ汚れを落とさないと温泉宿に失礼でしょ」
キュウたんの抗議を無視してキュウたんの耳をタオルで擦る。
ふと耳に付いている輪を見てどうしたものかと思ったが輪を含めて丁寧に擦って汚れを落としてあげた。
キュウたんは観念したのか抵抗する事は無かった。
「これで良いでしょ。じゃあ入りましょ」
「・・・。次からはもっと力を抜いて洗って欲しいな」
「感情が無いなら気にならないんじゃないかしら?」
私が旨く切り返すとキュウたんは流石に反論する事は無かった。
事前に案内に合った様に露天風呂の方に向かって見ると露天風呂には丁度、誰もおらずキュウたんと2人だけで入る事も出来た。
「ふう。良い湯だわ」
温泉に浸かりながら癒しを感じていた。
この温泉は肌にも良いと聞いている。
真横を見ると比較的浅い場所で温泉に浸かるキュウたんは何故かもぞもぞと身体を擦っていた。
「どうしたの?キュウたん。もしかして皮膚が染みるの?」
「うん。どうにもこの皮膚が染みると言う感覚にメリットは感じられないね。僕は上がらせて貰うよ」
「駄目よ」
そう言って私は上がろうとしたキュウたんを両手で強引に自分の胸元に抱き寄せた。
「まださっきのお詫びが済んでないでしょ。たまには私とお風呂に付き合いなさい」
「えー?綾女。僕だって全身の皮膚が痛いからこれ以上、温泉はちょっと・・・」
キュウたんは抗議の意味で手足を少しばたつかせている。
「私の言う事を聞いてくれないの?あなたと契約をした《魔法少女》なのに?」
「いや。それは綾女以外にもたくさん」
「でも私は私だけでしょ。私、筒地綾女はオンリーワンの存在なんだから」
「それはそうだけど・・・」
流石にキュウたんは観念したのか手足をばたつかせるのを止めた。
「ふふ」
「どうしたんだい?」
不意に漏らした私の笑い声にキュウたんは反応を見せた。
「そうね。私がこう言う風に一緒にお風呂に入る相手なんてキュウたんを除けば朱奈位だなと思って」
「そうなのかい?」
「ええ。そう言えばキュウたんは僕って言うから大抵の《魔法少女》は男の子だと思っているんでしょ?」
「そうだね。最も僕には性別なんて存在しないけどね」
確かにそうだ。
キュウたんの予想通りの返答を聞きながら次の言葉を繋ぐ。
「でも男の子だったら凄く羨ましい状況じゃない?異性にこんな風に抱き寄せられるなんて?」
「僕には理解が出来ないよ・・・」
キュウたんは流石に呆れた様子を見せていた。
「そうね。でもその理解が出来ない所がキュウたんらしいと私は思うわ」
「君は本当に変わってるね・・・」
変わらないキュウたんの答えを私は心から楽しんでいた。
楽しみながらも私の心の中では瑞光璃阿に対する不安は燻っていた。
第18話へ続く
ワルプルギスの夜と激突する魔法少女隊グロリオーサ!
その中で綾女の選ぶ行動とは!?
待て次回!?
2018年5月30日
同じ漢字を使うキャラを出した為、漢字を被らないようにする為に瑞光理亜の漢字を璃阿に変更しました。