偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
キュウたんを肩に乗せたまま温泉を後にした私は山間の方角に足を向けた。
周囲に誰もいない事を確認すると真上に跳躍してみる。
山間に空き地を見つけると、その方角に向かって強く魔力を放出させて空き地に降り立った。
「まずはこれね」
まず私は左手に1つの《魔法の種》を生成した。
種類はステルス!
生成した《魔法の種》を、そのまま地面に突き刺す。
ステルスシードの効果によって撃ち込まれた場所は、半径3メートル内は普通の人には認識も出来ず魔力を持たない人は近付けなくなった。
最も《魔法少女》相手には殆ど意味を成さない魔法だったが休む場所を確保するのには丁度良い魔法だった。
続いてテントの種を地面に撃ち込み拠点を確保するとテントの中に入って座り込んだ。
座りながら目の前に来たキュウたんを手慰みに抱き寄せた。
相変わらず良い抱き心地だった。
「瑞光璃阿と《グロリオーサ》か・・・。ねえキュウたん。彼女達が《ワルプルギスの夜》に勝てるの?」
「まず無理だろうね」
間髪入れずにキュウたんはそう答えた。
抱き心地が良いのにこう言った答え方だけは相変わらずドライだ。
「それ・・・。瑞光璃阿には伝えたの?」
「伝える必要を感じなかったから伝えてないけど伝えた方が良いのかい?」
「まあ。キュウたんの好きにしたら良いと思うわ」
少し呆れてキュウたんを見下ろしながら私は瑞光璃阿の事を思い出していた。
(そう。あれはもう半年位前だったかしら・・・)
○
半年前・・・。
旅を始めたばかりの頃に私は朱奈が《右目の呪い》で引き寄せた《魔女》に苦戦を強いられていた。
結界の浅い階層で《使い魔》の大群に遭遇した私はその場に足止めさせられていた。
「この!いい加減に!」
苛立ちから魔力で覆った箒を真一文字に大きく振るう。
そうする事で多数の《使い魔》を倒す事が出来た。
「朱奈。待っていて。直ぐに」
一刻も速く朱奈の元へ向かおうと足に力を入れると、同時に結界は崩れた。
「なっ!?」
驚き足を止めた私だったが直後に大きな魔力を複数感じた。
それも《魔法少女》の魔力だった。
私の周囲は元の河川敷へと戻って行く。
周囲を見渡すと無数の武器を構えた《魔法少女》がまるで私を包囲する様にこの場に現れていた。
現れた少女の中に朱奈がいない事を視認すると朱奈を探そうと歩き出そうとした時、
「貴女が探しているのはこの《呪いの右目》を持つ少女(ショオジョ)ですか?」
と私に向かって声が掛けられた。
随分と妙な口調だと感じながら声のする方向を見ると白く所々にオレンジ色の入った髪を生やした、まるで時代錯誤な煌びやかな軍服を身に纏った《魔法少女》が朱奈を抱き抱えていた。
抱き抱えられた朱奈は目を閉じていた。
「朱奈!」
私が思わず駆け出そうとした時、周囲にいる《他の魔法少女達》が私に向かって武器を向けて来た。
その数はざっと見て15人もいる。
幾ら何でも私、一人では勝ち目が無いと悟らせるには十分過ぎた。
お陰で思考は冷静となる。
「大丈夫(だいじょぶ)です。この少女(ショオジョ)は生存してます。ただ眠っています」
不意に《白い髪の少女》がそう告げて来た。
聞きながら私は、ほっと胸を撫で下ろした。
「心配されてますか。質問を良いですか?この少女(ショオジョ)は貴女にとって何ですか?」
質問が多くて詮索好きな少女だと私は感じていた。
けれど答えを偽るつもりは無い!
「その子は・・・。私の愛する存在。私の全てと言っても良いわ!」
《白い髪の少女》は私に目を合わせて来た。
強く睨み返す。
「そですか。ならこの少女(ショオジョ)はお返しします」
「えっ?」
意外な返答に戸惑ってしまった。
既に朱奈の持つ《呪いの右目》は多くの《魔法少女》に存在を知られていた。
何度か朱奈を奪おうとする《魔法少女》との戦闘を私は経験していた。
「愛する少女(ショオジョ)をお返しします」
《白い髪の少女》は朱奈を抱えて私の前に近付き差し出した。
いぶかしんだ私だったが朱奈を取り戻す事は優先して素直に受け取る事にした。
武器を消滅させると言うリスクを負ったが朱奈には変えられない。
「何故、朱奈を素直に返してくれるの?」
私は正直な疑問を《白い髪の少女》にぶつけられずにはいられなかった。
《軍服の少女》は少しだけ考える素振りを見せて答えた。
「そですね。貴女がもし、この少女(ショオジョ)・・・。朱奈さんを、ただ《魔女》を集める為の道具として使っていたら貴女を璃阿の指揮下に加えていました。でも貴女は愛する少女(ショオジョ)と答えた。貴女の気持ちに愛があるのなら璃阿には。いいえ。我々、《グロリオーサ》は愛を引き裂く事はいたしません。それに呪いの解析は終わりました」
そう告げると《白い髪の少女》が手を上げた。
合図に合わせて回りにいた《魔法少女達》は次々と変身を解いて去って行く。
「待って!」
先程まで私と話していた《白い髪の少女》を呼び止めた。
振り返る《白い髪の少女》に言葉を続けて行く。
「私は筒地綾女よ。朱奈を助けた恩人の名前位、教えてくれても良いんじゃない?」
気持ちに嘘は無いが、名前さえ知ればキュウたんからどういった相手なのか情報を得る事が出来ると私は計算していた。
「璃阿は・・・。瑞光璃阿。《魔法少女隊 グロリオーサ》を率いる指揮官の瑞光璃阿です」
丁寧に答えて頭を提げると瑞光璃阿は朱奈を抱える私を残して仲間を連れてそのまま去って行った。
これが私と瑞光璃阿が初めて出会った日の出来事だった。
○
その後、瑞光璃阿は配下の《グロリオーサ》が朱奈から回収した呪いのデータを用いる事によって擬似的な呪いを魔法陣として作り上げると各地で効率的に《魔女》を討伐して行っているのはキュウたんから聞かされた。
絶対的な指揮官である瑞光璃阿の元に統率される《魔法少女隊 グロリオーサ》の戦闘能力は絶対的だった。
瑞光璃阿の持つ
《任意の、自らが選んだ相手を自らの指揮下に相手から進んで入り忠誠を誓う》
と言う魔法の効果もあって《グロリオーサ》は日本における《魔法少女チーム》としては絶対的な強さを発揮し次々と各地に存在する《強大な魔女》を討伐して行った。
余談となるがキュウたんからの話では地球上にも同様の《魔法少女チーム》が幾つか存在しているが《グロリオーサ》の様に短期間でここまでの戦闘能力を見せる《魔法少女チーム》は珍しいと語っていた。
また日本以外の地域にいる《魔法少女チーム》は、民族性の違いや政治的な因縁等、様々な対立要因からお互いの潰し合いを行っていると聞いていた。
話を戻すと瑞光璃阿が願った奇跡は《任意の、自らが選んだ相手を自らの指揮下に相手から進んで入り忠誠を誓う》と言う物だった。
ある意味では物凄く遠回しな願いと私には感じられた。
そもそも相手を洗脳する奇跡を願った方が手っ取り早いと感じた位だ。
そんな奇跡を願ったのは瑞光璃阿の過去が要因なのかも知れなかった。
キュウたんからの情報提供によって私は瑞光璃阿の過去を詳しく知っていた。
キーン!
突如として急速に感じ取った強大な魔力が私を現実に引き戻した。
何時の間にか眠っていた私は意識がはっきりとしないままにテントの外に出た。
(遂に来たのね・・・)
キュウたんを抱えたまま外へ出た私の眼前で空は黒く染まり激しい風雨と雷が生じ始めていた。
直ぐにテントを畳み《魔法の種》に戻すと私は起きたキュウたんを肩に乗せるとそのまま目に付いた大きな建物の屋上に跳躍した。
「キュウたん。《グロリオーサ》は既に動いているの?」
「うん。既に臨戦態勢を整えて《ワルプルギスの夜》が現れると思われる方角で待ち伏せをしているよ」
キュウたんの冷静な分析を聞きながら私も視力や聴力を超えた魔力感覚で探りを入れて見るが距離が離れすぎているせいか旨く行かなかった。
「キュウたん。あなたと接続させて貰えない?《グロリオーサ》の動きが感じられるだけで良いわ」
「良いよ。僕に触れていれば分かるよ」
キュウたんの言葉と同時に私の脳内に極めて鮮明な《グロリオーサ》が活動する姿が見えて来た。
キュウたんとの接続とは大雑把に言えばキュウたんことインキュベーターの持つ優れた観察能力=センサーを私が借り受けていると言うのが適切な表現だ。
インキュベーターの持つ感知能力は1つの方向に向けた時、優れた能力を発揮する。
頭の中に《グロリオーサ》の様子が映し出された。
《グロリオーサ》は、避難が終わった街中にある広場で陣形を組んでいるらしい。
その陣形の様な並びにどう言った意味があるのか私には謀りかねたが、《グロリオーサ》には意味があるらしい。
中心には薄い笑みを浮かべた瑞光璃阿の姿があった。
そして前触れも無くそれは現れた。
「あはははははははははははは」
どれ位の時間を数えたのかも忘れさせる程、強力な魔力を放出させ不快な笑い声と共にそれは現れた。
《最強、最悪の魔女》。
《ワルプルギスの夜》が・・・。
黒雲の中から現れた《ワルプルギスの夜》に対し、私が抱いた気持ちはただ1つだけだった。
恐怖。
ただ恐怖だけを感じていた。
圧倒的な魔力の差を、キュウたんの優れたセンサーによって私はまざまざと感じさせられた。
何度も実戦を経験した。
その度に死ぬかも知れないと言う瞬間はあった。
けれど勝利して生き残る事が出来た。
キュウたんからの依頼で、インキュベーターの意に添わない《魔法少女》からソウルジェムを奪い放置し続ける事で《魔女化》させると言う残酷な行動もやってのけた。
不愉快な言動を示した人間を痛め付けると言う残虐な事もやった。
それでも・・・。
結局、自分が生き残れたのは、ただ運が良かっただけだと思い知らされていた。
身体が震えるのを必死に抑えながら必死に《ワルプルギスの夜》を改めて見つめる。
もう私は、《ワルプルギスの夜》に対して勝つ事は出来ないと思い知らされた。
「私ってこんなにちっぽけな存在だったのね・・・」
巨大な力の前に私の心は屈服していた。
既に戦おうと言う気持ちも無かった。
最初は《ワルプルギスの夜》が噂ほどの実力が無ければ退治しても良いと思っていたが既にそんな気持ちは掻き消えていた。
今、私の心にあるのは死ぬかもしれないと言う恐怖だけだった。
これ以上、この場にいる事は無いと思い撤退しようとした時、《グロリオーサ》が《ワルプルギスの夜》に向かって攻撃を仕掛けた!
遠距離魔法の使い手が次々と魔法による狙撃を行っている。
身体の表面で爆発が次々と起こるが《ワルプルギスの夜》は意に介する事無くこちらに進んで来る。
「何を考えてるの!?」
「無理も無いね。瑞光璃阿の持つ優れた情報把握能力を持ってしても《ワルプルギスの夜》の表層的な魔力しか感じ取れないみたいだね。綾女は僕と接続しているから《ワルプルギスの夜》の魔力を完全に感じ取れるけれど・・・」
キュウたんが私の疑問に答えたが、私は聞いていなかった。
正直、《ワルプルギスの夜》を刺激すれば厄介な事態になるのは私にも感じ取れた。
長距離からの狙撃魔法の効果が薄いと見ると瑞光璃阿は《ワルプルギスの夜》に対して魔法陣を生成し向けた。
同時に《ワルプルギスの夜》が瑞光理亜と《グロリオーサ》のいる方向に向かって進んで行く。
瑞光理亜の生成した魔法陣からは朱奈に施した呪いに近い魔力を感じ取れた。
そう言えば瑞光璃阿は呪いを解析したと言っていた。
これがその成果なのかも知れなかった。
「《右目の呪い》を応用したのね。けど・・・。どうするつもり?」
私の疑問に答えるかの様に《グロリオーサ》の陣形内部に別の魔法陣が生成され、同時に《数人の魔法少女》が光に包まれると共に《ワルプルギスの夜》の間近に移動して次々と手に持った剣や槍、斧、鞭、銃による攻撃を行いながら瞬間的な移動を繰り返し《ワルプルギスの夜》の身体を傷付けて行く。
一見すると強力な攻撃であり《グロリオーサ》が押している様にも見えたが、キュウたんと接続している私には《ワルプルギスの夜》が殆どダメージを受けていない事が感じられた。
「瞬間的な移動魔法を応用しているみたいだね。それにしてもこれだけの数の《魔法少女》に移動魔法を施せるとは・・・。瑞光璃阿の指揮力も伊達では無いね」
キュウたんの言葉を耳半分に聞きながら私は既にこの場を離れる為の準備を行った。
左手に《魔法の種》から箒を生成し穂先を外す。
外されたふだん使っている鋭い針の様な穂先は私の周囲に浮かび使いたい時には、穂先だけを武器として使う事も可能だった。
今回はあくまでも逃げる為の準備。
右手に新たな《魔法の種》を生成し右の掌で握ると、そこにはまるで多段式のロケットのブースター部分を模した新しい穂先が出来ていた。
利き腕でない右手で起用に左手で握る箒の柄に接続すると準備は完了した。
この新しい穂先は見た目通りの効果を発揮する。
一定方向への絶大な加速を行える。
ただ試した事はまだ無かったが・・・。
「じゃあ。キュウたん。ここから離れましょうか」
そう告げた時に、私は周囲に生じた不気味な魔力に気が付いた。
(《ワルプルギスの夜》の魔力がこの周辺まで広がって来ている!?)
驚いた私が《ワルプルギスの夜》の方角に目を向け直すと直ぐに分かった事があった。
「あはははははははははははは」
《ワルプルギスの夜》は笑っていた。
何故だか私はそこに感情の様な物を感じ取る事が出来た。
《ワルプルギスの夜》が抱く感情なのかは分からない。
けれど私は何故かそう思っていた。
その感情は・・・。嘲りだった。
何をしても運命は変わらない。
《魔法少女》はいずれ絶望して、あの《魔女》の様になると・・・。
そう告げている様な気がした。
《ワルプルギスの夜》が周囲に展開させた魔力から流れる感情に当てられた私は暫く動く事が出来なかった。
これが致命的なミスになるとも知れずに・・・。
不意に目の前の景色が歪んだ。
《魔法少女》として戦っていれば何度も経験する歪みだった。
「しまった!?まさか結界を張られた!?」
ようやく頭の回転が事態に追い付き私は直ぐに周囲を見渡すが、既にこのタツナミ町全体は、《ワルプルギスの夜》が生成した白と黒の無機質な結界に飲み込まれていた。
街1つを丸々、飲み込む結界等、聞いた事が無かった為に私は驚きを隠せなかった。
「こんなに巨大な結界を張るなんて・・・。やはり《最強、最悪の魔女》の異名は伊達では無かった様だね」
キュウたんが答えると同時に私の目の前に、まるで《魔法少女》の様な姿をした《使い魔》が生成され私に向かって来ようとした。
瞬時に私の周囲に浮かんでいた鋭い針の様な穂先が、私の意志に基づいて動くと出現した《使い魔》を、鋭い針の様な穂先を全て発射して《使い魔》を針山にして消滅させた。
同時に穂先を全て発射して丸坊主となった穂先も消失し私は周囲を探っていた。
幸いまだキュウたんとの接続を切っていない為に結界の強度等を推し量る事が出来た。
「これは・・・。破れない事は無いけど破ろうとすれば瞬時に《使い魔》が出現する仕組みね」
「そうだね。これじゃあ綾女が脱出するのは難しいね」
「そうね・・・。どうしようかしら・・・」
今の所、私の周囲に《使い魔》が再び出現する事は無さそうだった。
つまり・・・。
ここから無事に脱出する為には、囮となる《魔法少女》が必要だと私は感じていた。
《グロリオーサ》の方に目を向けると瑞光璃阿を中心に陣形を組んで現れる《使い魔》に対処しつつ《ワルプルギスの夜》にも次々と攻撃を加えている。
結界からは出ようとしていないが《ワルプルギスの夜》に攻撃を仕掛けている為に次々と《使い魔》が出現している様だ。
キュウたんの感覚を借りて除き見ている私にも《グロリオーサ》の敗北が時間の問題だと悟らせるには十分だった。
既に結界に巻き込まれた一般人が犠牲となっている。
「どうせ敗北するのなら《グロリオーサ》を利用したいわね・・・。問題は瑞光璃阿の能力か・・・」
《任意の、自らが選んだ相手を自らの指揮下に相手から進んで入り忠誠を誓う》
この魔法は確かに驚異的だった。
下手をすれば私だって瑞光璃阿の指揮下に入ってしまうのだ。
「私の持っている《魔法の種》じゃあ《魔法少女》の動きを一時的に止める事が出来ても、現状の打破には繋がらないわね・・・。どうしたら・・・」
何気なく右手で自分の額を人差し指と中指で撫でた時、目に入って来た物を見て私は閃きを得ていた。
今、私は《魔法少女》として姿に変身しておりソウルジェムは左胸に装飾具の様に装着されている。
けれど私の右手の中指には、もう1つのソウルジェムが変化した指輪が装着されていた。
綺麗な山吹色の宝石が施されたそのソウルジェムは私が以前、戦った《魔法少女》、伊良草優里の物だ。
このソウルジェムには幾つかの改良が施してある。
それを試すのに今はちょうど良い機会かも知れない。
既に《グロリオーサ》は《ワルプルギスの夜》から出現した《使い魔》に対処するだけで手一杯となっていた。
瑞光璃阿の表情にも薄くではあるが、焦りの色が見えた。
チャンスだと思った。
「キュウたん。脱出する為の手筈は整ったわ。しっかりと掴まった方が良いわよ?」
「何をするんだい?」
「見てれば分かるわ」
そう言って私は左手で握っていた箒を地面から水平に構えたまま、真横に動かした。
心を落ち着かせて柄にあるスイッチを思いっきり押した!
同時に柄の、本来は穂先の付いている部分に付いているロケット穂先が火を噴き私は一気に飛んでいた。
否。正確には飛んでいると言うよりも引っ張られていた。
「クッ・・・」
思わず呻き声を出しながらも必死に私の肩に掴まるキュウたんの事を自覚しながら瑞光璃阿のいる方角へと突っ込んで行った。
普段の瑞光璃阿の状況認識能力ならば私が突っ込んで来る事に意識を割いて対処行動を取る事が可能だったかも知れない。
けれど《ワルプルギスの夜》を相手にしている今の状況では突っ込んで来る私に対処は出来なかった。
指揮下にある《他の魔法少女達》も《使い魔》や《ワルプルギスの夜》へ対処するだけで動けない。
今の状態こそ私がこの結界から脱出する為に必要な手が打てる筈だった。
もう一度、箒の柄にあるスイッチを押してロケット穂先のエンジンを止めると同時に足に魔力を集中して一気に瑞光璃阿の真正面へと飛び込んだ。
舞い上がる土煙で周囲は見えなくなったが、私は迷う事無く瑞光璃阿の真正面に駆けた。
「貴女は!?」
驚く瑞光璃阿の身体に私は右手から具現化させたナイフを真正面から胸の真ん中に渾身の力を込めて突き刺していた。
刺したのはただのナイフでは無い。
そのナイフには加工の施した山吹色のソウルジェムが接続されており、刺された瑞光璃阿には直ぐに刺された事で発動する魔法の効果が現れた。
瑞光璃阿の身体から白とオレンジの輝きを放つソウルジェムが落ちて来たと同時に瑞光璃阿は《魔法少女》としての姿を解かれて、その場に倒れ込んだ。
周囲にいる《グロリオーサ》の《魔法少女達》は突如として瑞光璃阿の指揮下から外れ現状に戸惑っているが見える。
(聞きなさい!全ての《魔法少女!》。あそこいる《魔女》は《ワルプルギスの夜》。戦っても勝ち目は無いわ。死にたくなければ逃げなさい!)
私はキュウたんの力を借りて広範囲へとテレパシーを送った。
直ぐに戸惑いの感情が周囲から溢れて来たが鬱陶しいのでテレパシーのリンクを切った。
周囲の《魔法少女達》は《使い魔》に殺されたり逃亡を図ったりと様々な行動を取り始め状況は極度の混乱に陥っていた。
瑞光璃阿のソウルジェムを拾い上げた時、瑞光璃阿がよろめきながら立ち上がり私に向かって、怪物の剣カスターネで突いて来た!
だが足元がしっかりとしてない状態での突きは成功せずにそのまま倒れ込んでしまった。
見る見るうちに瑞光璃阿の髪の色が山吹色へと染まって行く。
「ぐっ・・・。何ですぅ。この違和感はぁ。何が起きたんですかぁ?」
瑞光璃阿の身体から出る声は、瑞光璃阿のモノでは無かった。
私にとって不愉快な感情を思い出させる愚か者の声。
「案外、旨く行くものね。久しぶりの現実はどう?伊良草優里」
そう。私は伊良草優里を生き返らせた。瑞光璃阿と言う《面倒な能力を持つ魔法少女》との無駄な戦いを避けて確実に脱出する為に伊良草優里に別人の肉体を与えて蘇生させた。
最もこの魔法には別の目的の為に作り途中の中途半端な魔法だったが。
「筒地綾女ぇ!アタクシに何をした!?」
「話す必要は無いわ」
そう言って私はその場から離れた。
脱出のチャンスを逃す訳には行かない。
「待ぁてえぇ!?」
叫びながら瑞光璃阿の身体で蘇った伊良草優里は魔力で生成したカスターネを片手に私に迫ろうとしたが、追い着く事は無かった。
直後に3体の《使い魔》が出現して伊良草優里に襲いかかった。
「このぉ!アタクシの邪魔をするなぁ!」
カスターネを振り回して《使い魔》との戦いに夢中になった伊良草優里の隙を付いて私は《ワルプルギスの夜》が出現させた結界の端に来ていた。
「ここなら良いわね」
箒に魔力を集中して思いっきり横一文字に大振りをした!
同時に結界の壁は破壊され現実世界への出口が構成されていた。
「たっ助けて!?」
叫び声に背後を見ると《使い魔》に追われた《魔法少女》がこっちに向かって来ていた。
無駄に戦いたく無かった私は右手に《魔法の種》を生成すると直ぐに投げ付けた。
種類は痛み。
《魔法の種》を打ち込まれた《魔法少女》は、声にならない悲鳴をあげ、その場に崩れ落ち《使い魔》に襲われた。
躊躇う事無く私は出口を通って現実世界へと戻った。
けれどまだ完全に逃亡に成功した訳では無い。
現実世界では《ワルプルギスの夜》が具現化した際に呼応して生じた台風が未だ燻っているのだ。
「綾女。さっきのは一体?」
「その事は後で話すわ」
答えながら私は真上に向かって思いっきり跳躍し、箒に跨ると柄にあるスイッチを握り締めた!
先程と同じ用に箒の穂先から火が吹き出ると向けていた方向に向かって一気に飛んで行く。
その分、絶大な圧力が私とキュウたんに掛かっていたが今度は魔力を旨く調節する事で私とキュウたんに掛かる圧力を緩和する事が出来た。
と言うかキュウたんは幾らでも予備がいるのだから助けなくても良かった気がした。
けれど私の精神的な感覚的にそれは容認出来なかった。
(キュウたん。この方角にある鉄道の駅は分かるでしょう?)
圧力の掛かっている時はテレパシーでの会話が適切だと感じる。
(分かるよ。この魔法の持続力は少ないみたいだね)
(こんな高速移動を、そう何度も出来る訳が無いでしょ)
(それもそうだね。駅の場所はここだよ)
キュウたんが返事と一緒に駅の場所を示す地図を脳内に送り込んで来た。
移動中の私とキュウたんを表示しながらだ。
脳内にインターネットの地図を表示している様で面白いが余り楽しんでいる余裕も無い。
表示によるとそろそろ駅に近付くので魔法を解く必要がある。
駅から少し離れた山間を選んで箒の穂先から出る炎を止めた。
改めて視界を戻すと私は山間に落花していた。
今度は箒の穂先を下に向けて徐々に強めながら炎を噴出させる。
徐々に落花する速度は緩んで行き私は安全に地面に着地する事が出来た。
幸いここは山間にある林の中なので恐らく目撃はされていない。
「さて・・・。じゃあキュウたん。朱奈の元へ帰るまで付き合って貰うわよ」
ソウルジェムの穢れをグリーフシードで落としながらそう告げてもキュウたんの表情は何時もと変わらなかった。
「良いけど。どうしてだい?」
私が投げ付けたグリーフシードを背中の丸い部分で受け止めながらキュウたんも疑問をぶつけて来る。
「そりゃあ、帰りの電車の中でも話し相手が欲しいからよ。私が寂しがりやなのを忘れちゃったの?」
「分かった。付き合うよ」
半ば強引にキュウたんからの了承を得た私はキュウたんを連れて駅に向かった。
幸いと言って良いのか、この場所では《ワルプルギスの夜》が引き起こした台風の影響は少ない様だった。
余計なトラブルが起きない内に離れる事にする。
それから私は半日位の時間を掛けて朱奈が待っているホテルへと戻った。
勿論、途中でお土産のお菓子を買って。
電車の中ではキュウたんと瑞光璃阿の事や私が行っている実験の事、それにこれからの事を話し合ったが、長くなりそうなので別の機会に話す事にする。
今はとにかく朱奈に会いたかった。
キュウたんと別れて真っ直ぐにホテルの部屋へと向かう。
ドアの前に来て深呼吸をするとドアを開いた。
「朱奈。ただいま」
努めて笑顔を作って私が部屋に入ろうとした時、顔をくしゃくしゃにしながら走って来た朱奈が私に抱き付いて来た。
「綾女・・・ちゃん。お帰り・・なさい。もうわたしを一人ぼっちにしないで。1人で・・・。寂しかったよ!」
泣き出した朱奈を見て流石に私は申し訳無い気持ちに晒された。
「ごめんなさい。朱奈。もうこんな遠出はしないわ」
抱き付いたままの朱奈の頭を撫でであやしながら私はベッドに座り込んだ。
朱奈は私の胸に顔を埋めて抱き付いたままである。
「よしよし。朱奈。私がいなくて寂しかったのよね?」
「う・・・ん。だって・・・。こんなに長い間、1人でいるなんて・・・。怖いよ・・・」
朱奈の受け答えを聞きながら私は朱奈の精神の問題点を感じ取っていた。
孤独を恐れ過ぎる。
恐らくは私が朱奈に施した《右目の呪い》によって見たくもない死を見続け恐怖の体験をし続けてしまったが故に自分を庇護する私に依存し過ぎていると感じ取れた。
以前の私ならこんな事が起こっても気にせず、むしろ朱奈が自分だけを見ている事を嬉しがったかも知れないが今は違っていた。
《ワルプルギスの夜》との対峙が私を変えてしまった。
私は死ぬ。
そして《魔女》となる。
でも・・・。
私は朱奈を孤独にはしたくなかった。
朱奈と別れたくは無かった。
けれどその願いは叶いそうに無い。
だって私は《魔法少女》なのだから・・・。
「綾女ちゃん?」
ふと見ると涙を滲ませた目で朱奈が私を見ている。
私に守られている事を普通の事だと思っている・・・。
親に守れられる事が当たり前だと思う赤ちゃんの様だった。
「こうやって抱き締めると朱奈は赤ちゃんみたいね」
思った事をそのまま口にする事が良くない時もある。
その事を私は自分の心で知る事になった。
「えぇー!?」
そう言って朱奈は私から離れて立ち上がると涙目に口を少しだけへの字に曲げて言った。
「わたし・・・。赤ちゃんじゃ無いもん!」
顔を真っ赤にして朱奈はそのままバスルームへと駆け込んで鍵を閉めて閉じ篭ってしまった。
「今のは良くなかったわね・・・」
自分の失態に苦笑しながらバスルームの前に言ってドアをノックした。
「朱奈。赤ちゃんは言い過ぎたわ。ごめんなさい。だからここを開けて出て来て」
「綾女ちゃんの・・・。いじわる!」
帰って来た返答はこうだった。
正直、言われて不快感は無い。
と言うよりも先程の朱奈が起こった表情や今の一生懸命に悪口を言った朱奈も私には可愛らしく感じられた。
今回は全面的に私が悪いので私は電気を付けたまま自分のベッドで横になった。
根比べとなった以上、待つ他無い。
待っている間に身体を休める事にする・・・。
それから1時間近く経過してから朱奈はバスルームから出て来た。
最初、朱奈は私の向かい側にあるベッドに潜り込んでいたが暫くして私のベッドに潜り込んで来た。
「綾女ちゃん・・・。さっきはごめんなさい・・・」
朱奈は小さな声で私に謝罪をして来た。
何か言おうと思ったけれど、考えている間に朱奈が寝息を立て始めたので私からの返事は朝に告げる事にした。
私が朱奈を許さない訳が無いのだから。
いずれ迫る《魔女化》の事を頭の隅に押しやって掌に感じられる朱奈の温もりを私は楽しむ事にした。
逃避していると感じていた。
《魔女化》と言う現実からの逃避を・・・。
今回は少し長くなりました。
瑞光璃阿の過去や綾女の行った実験等の詳細は次回、明らかになります。
次回はあの《伝説の魔法少女》が登場します。
では次回を待ってて下さい。