偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA   作:ジャックノルテ

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第19話 苦しいけど望まない・・・

《ワルプルギスの夜》から逃亡した次の日の夜・・・。

 私の泊まっているホテルの屋上で私とキュウたんは雑談兼、近況報告をしていた。

「それでキュウたん。タツナミ町の様子はどうなっているの?ニュースでは住民が全滅したとあったけれどあの場にいた《他の魔法少女》はどうなったのかしら?」

「そうだね。ニュースで言われている通りに住民は全滅したよ。《他の魔法少女》だけど・・・。数人は生き残ったみたいだね。でも指揮官である瑞光璃阿が存在しない以上、《グロリオーサ》が壊滅したのは間違いないね」

「その指揮官のソウルジェムを持っているのは私だからね」

 言いながら右の掌を思いっきり開いて視界に入れる。

 右手の中指には白い宝石が嵌ったオレンジ色の指輪が嵌められていた。

「そのソウルジェムはどうするつもりだい?」

「そうね。瑞光璃阿が持つ解析能力は魅力的だから限定的でも良いから私の物に出来ないか実験をしてみるわ」

「ふーん。実に興味深い試みだね。それはそうと綾女。どうして伊良草優里のソウルジェムを瑞光璃阿の身体に差し込んだんだい?あれは一体、どう言う意図があった実験なんだい?」

 表情を変えなくても視線をコントロールする事でキュウたんは私の行動に興味があると示しているみたいだった。

 その興味に答える事にしよう。

「簡単よ。私は肉体を捨ててソウルジェムから放出される魔力で身体を構成する《魔力体》になれるでしょう?もし自分の体が破壊されても他人の身体を乗っ取れれば更に魔法の幅が広がると思わない?その為の実験なのよ」

 そう。私には《魔力体》と言うソウルジェムから放出される魔力だけで肉体を構成する普通の《魔法少女》では持ち得ない、もう1つの肉体を持っていると言えた。

 しかしこの《魔力体》は結局の所、魔力が枯渇すれば維持も出来なくなると言う諸刃の剣だった。

 その弱点を補う為に考えたのが他人の肉体を乗っ取れないかと言う事だった。

《魔力体》となった状態で他人の肉体を乗っ取る事が出来れば《魔力体》の活動する幅は広がる事に繋がる。

 伊良草優里のソウルジェムに加工を施して瑞光璃阿に突き刺したのはその検証実験とも言える。

 魔力で生成したナイフに伊良草優里のソウルジェムを接続して伊良草優里のソウルジェムから魔力枝が伸びて刺された相手の肉体を乗っ取る様に作り上げていた。

《ワルプルギスの夜》との戦いで使うつもりは無かったがぶっつけ本番ながら良い効果を発揮していたと言える。

 これなら《魔力体》となった際に他人の肉体を乗っ取るのも容易だと思えた。

「そう言えば伊良草優里はどうなったの?」

 正直、あの状況の中で伊良草優里が生き残っているとは私には思えなかった。

 何せ自分の体では無い瑞光璃阿の肉体を使わされているのだ。

 旨く魔法が使えない可能性もある。

「生き残った《魔法少女》の中に伊良草優里もいるよ。最も体は瑞光璃阿のままだけどね」

「意外ね・・・。生き残るとは思わなかったわ」

 正直、伊良草優里が生き残ろうと、どうでも良かった。

「ただ・・・。伊良草優里は綾女を狙っているよ。どうやら復讐をしたいらしい。何か僕には理解出来ない恨み辛みとでも言えばいいのかな?そうした事を口走りながら綾女を探しているよ」

「そうなの・・・」

「驚かないのかい?一応伝えておくと僕は綾女の居場所を教えてはいないよ」

 キュウたんは私が驚かない事に首をかしげている様だった。

「別に良いのよ。伊良草優里の事は。それにもう手は打ってあるわ。伊良草優里はもう私に勝つ事は出来ないわ」

 確信を持ってそう告げる事が出来た。

「それはどういう事だい?」

「時が来れば分かるわ。私が復讐される事を想定しない訳、ないでしょう」

 少し意地悪な回答をしながら私は伊良草優里に肉体を奪われた瑞光璃阿の事を考えていた。

 日本において最強とも言える《魔法少女隊、グロリオーサ》。

 栄光の花言葉を名前に掲げた《グロリオーサ》は正に次々と栄光を成し遂げていた。

《ワルプルギスの夜》に勝てなかったとは言え、他の街に出現した有名な《魔女》を次々と討伐して行ったのだ。

 名に恥じぬ活躍はしていたと思う。

 最も私が壊滅させるのに手を貸してしまったが・・・。

 私は昨日、電車の中で瑞光璃阿が契約に至った経緯をキュウたんとの雑談で知ったのでもう一度、反芻してみる事にした。

(それにしても皮肉な事になった)

 と言うのが私の素直な感想だった。

 瑞光璃阿と伊良草優里には小さな因縁が存在していたから・・・。

 

 順を追って話すと契約をする前、瑞光璃阿には2つ年が離れた《魔法少女》でもある妹の『利奈』がいた。

『利奈』が契約をしたのは姉である璃阿が自分を庇って交通事故にあって意識不明の重体に陥った事が原因でもあった。

 キュウたんと出会った『利奈』は躊躇う事無く願った。

 

 

「お姉ちゃんの命を助けて欲しい!」

 

 

『利奈』の願い通りに姉である瑞光璃阿は意識不明の重体から奇跡的な回復を遂げた。

 その後、『利奈』は誰にも内緒で《魔法少女》として1人で戦っていた。

 優秀で人柄も良い姉を尊敬し自身は多くの人々を守る為に自分を捨てて『利奈』は戦っていた。

 でもそんな『利奈』の戦い方が《他の魔法少女》にとって目障りな事もまた事実だった。

 暫くして瑞光璃阿は、日課にしていたジョギングの最中に訪れた海辺の公園で《魔女》の作り出した結界に飲み込まれてしまった。

狼狽して《使い魔》に襲われる瑞光璃阿を助け出したのが《魔法少女》となった『利奈』だった。

 驚く瑞光璃阿を物陰に隠れさせた『利奈』は、同盟関係にあった《2人の魔法少女》と一緒に《魔女》に戦いを挑んだ。

 完璧な連携によって《魔女》を追い込んだ時、《魔女》を正面に迎え撃っていた『利奈』ごと《2人の魔法少女》は止めの一撃を放った。

 その強力な一撃は驚愕の表情を浮かべた『利奈』の身体を貫き、次いで《魔女》の身体をも貫き2つの命を確実に葬った。

 結界が消え去りその場は元の海辺の公園に戻った。

 木の陰に隠れる瑞光璃阿の目の前では《2人の魔法少女》が、命の灯火が消えかかり倒れている『利奈』を見下ろし告げていた。

「私達、あんたみたいに《使い魔》まで狩る、ごっこ遊びに付き合うつもりは無いから」

 既に虫の息である『利奈』に残酷な言葉を浴びせて《2人の魔法少女》は去って行った。

「『利奈』!」

《2人の魔法少女》が去るのを見て直ぐに飛び出した瑞光璃阿は妹である『利奈』に駆け寄り抱き起こした。

 けれど『利奈』のソウルジェムは半ば砕けていた。

 ソウルジェムの秘密を知っていれば助からないのは明白だった。

 けれど瑞光璃阿は、その事をまだ知らない。

 必死に『利奈』に言葉を掛け続ける。

 不意に傷付いた『利奈』の口から言葉が漏れた。

 小さな言葉だったが瑞光璃阿にも音は伝わっていた。

 

 

 

「お姉ちゃんみたいになれなかった・・・」

 

 

 

 その瞬間に『利奈』は死んだ。

 泣き叫び『利奈』の身体を強く抱き締める瑞光璃阿だったが妹が生き返る事は無かった。

 葬儀の済んだ後、瑞光璃阿は、部屋から殆ど出ずに過ごしていた。

 両親は『利奈』の死から逃れる様に仕事に没頭して行ったのも瑞光璃阿の心を傷付けていた。

「『利奈』の死はそんなに軽い物なの?『利奈』は愛されてなかったの!?」と。

 やがて一ヶ月が過ぎた時、瑞光璃阿は『利奈』が、自分を守る為に《魔女》と戦っていたのを思い出して再び海辺の公園に向かい、あの時の事を調べようとしていた。

 公園の中を歩き『利奈』が死んだ場所に行くが何も無かった。

 ただ雑草が生い茂るだけだった。

「どして何も無いの?璃阿は『利奈』に死んで欲しく無かった!」

 悔しくて涙を流し木に持たれかかった瑞光璃阿は天を仰いでいた。

「その言葉は本当かい?瑞光璃阿」

 急に自分に向けられた声に驚いた瑞光璃阿の前にキュウたんが木の陰から姿を現した。

 驚き声を失う瑞光璃阿にキュウたんは言葉を続けた。

「僕の名前はキュウべえ。君の妹である『利奈』を《魔法少女》にした存在と言えば分かり易いかな?」

 その言葉を聞いた瞬間に瑞光璃阿はキュウたんを強い力で掴み上げた。

「どして『利奈』を殺したの!?あなたが死ぬ様に仕向けたの!?」

「そうじゃない。『利奈』が死んだ事に僕の責任がある事が事実だよ。けどね・・・。君に本当の覚悟があるのなら『利奈』を生き返らせる事だって出来るよ」

 当惑の表情を見せる瑞光璃阿にキュウたんは言葉を続けた。

「君が僕と契約してくれれば、僕は君の願いを1つだけ叶えてあげる。『利奈』の蘇生を望むなら生き返らせる事だって出来るよ・・・」

 キュウたんと瑞光璃阿の間から言葉が途切れ沈黙が訪れる・・・。

 

 

「・・・。駄目」

「どうしてだい?」

 やっと紡ぎ出した瑞光璃阿の言葉にキュウたんは首を傾げた。

「死が生の終着点なのにそれを変えるのは許されない。璃阿はそれを望まない。苦しいけど望まない・・・」

 葛藤を滲ませながら瑞光理亜は言葉を紡ぐ。

「じゃあ君には望みが無いのかい?」

「璃阿に望みが無い訳じゃ無い。だから教えて・・・。《魔法少女》に関する事を出来るだけ教えて」

「分かった。君が契約をしようとしまいと、僕から今説明出来る事はしてあげるよ」

 キュウたんは瑞光璃阿に《魔法少女》に関する事を教えた。

 ただし教えた内容には、《魔女化》に関する事を省いた形となっていた。

 契約によって願いを叶え、その対価として《魔女》や《使い魔》と戦う。

《魔法少女》の魂はソウルジェムに変換され肉体から100メートル離れると機能停止すると言う事実。

 そして《魔法少女》は魔力を維持する為にグリーフシードが必要だがグリーフシードの数は限られている為に《魔法少女》同士の縄張り争いが常に起こっていると言う事を・・・。

 話を聞いた次の日に瑞光璃阿はキュウべえを自分の部屋に呼び出した。

「璃阿の願いが決まりました」

「分かった。瑞光璃阿。君はその魂を対価として一体、何を望むんだい?」

 キュウたんの問い掛けに瑞光璃阿は少しの間、決意を固める様に何も言わなかったが直ぐに答えた。

「璃阿は他者を指揮下に置きたい。任意の、自らが選んだ相手を自らの指揮下に相手から進んで入り忠誠を誓う能力が欲しい!」

 光が部屋の中、一面に輝く。

 魂がソウルジェムへと変化する事を表す光だ。

「契約は成立だ。さあ。受け取って。それが君の望んだ奇跡だよ」

 瑞光璃阿は光に手を伸ばし己のソウルジェムを掴んだ。

 その姿は瑞光璃阿の願望を投影したへ煌びやかな軍服を身に纏った姿へと変化して行く。

 これが瑞光璃阿の契約した経緯だった。

 契約して直ぐに瑞光璃阿は自らの住む街から電車で5駅程離れた別の街へと向かった。

 自身の魔法の性能を知る為である。

「どうして自分の住んでいる街で魔法を試さないんだい?」

「璃阿は自分の魔法(まほお)の規模を確実に知りたい。それに璃阿は『利奈』を殺した二人だけは確実に璃阿の指揮下に起きたいのです。その為にも魔法(まほお)を試す必要(ひつよお)があります」

「なるほど。それなら丁度良い相手がいるよ。この気配は《使い魔》だね」

 キュウたんに促されて瑞光璃阿は《使い魔》のいる結界に入り込んだ。

 瑞光璃阿の《魔法少女》としての武器はグルズと言われる先端に煌びやかな装飾の施された打撃武器だった。

 特に先端に埋め込まれた宝石が起こす光の反射や華美で細かい装飾による空気の流れの変化等によって周囲で展開されるほぼ全ての状況を完全に把握出来るという物だった。

《使い魔》の動きを監察し死角となる部分を見つけ打撃を加える!

 ただ一撃で《使い魔》を倒す事が出来て結界は消滅した。

「でも《魔法少女》が相手では、どおなるか分かりませんね。璃阿は《魔法少女》と戦いたいと思います」

「もしかして気が付いているのかい?」

 言いながらキュウたんは瑞光璃阿の傍から距離を取った。

「ええ。分かっています。璃阿を見ている《魔法少女》がいる事を」

 瑞光璃阿が崩れる結界から現実世界に期間したと同時に一人の少女が背後に突如として現れた。

「アタクシの事、気が付いていたんだぁ。じゃああなたも砕けて貰おうかなぁ!」

 怪物の剣、カスターネを使い所々に黒い刺繍が施されている白いドレスを身に纏い身体の要所に赤色の鎧で飾り付け、王冠を被りネックレスとなったソウルジェムを首から下げる傲慢な《魔法少女》。

 伊良草優里の猛攻に瑞光璃阿は防戦一方となり反撃する事も出来ない。

「反撃も出来ないんですかぁ!?少し反撃して下さいよぉ!」

 カスターネで体の要所を切られ動きが鈍った瑞光璃阿を伊良草優里は蹴り飛ばし地面に踏み付ける。

 瑞光璃阿は反撃する事すら出来なかった。

 圧倒的な実力の差があったからだ。

 ただ自身に向けられる暴力に冷静に観察していた。

「このまま砕けて貰いましょうかねぇ!」

 瑞光璃阿の左手に腕輪の形で付けられた白とオレンジの輝きを見せるソウルジェムに伊良草優里のカスターネの刃が突き付けられる。

 瑞光璃阿は何の反応も示さない。

 否。示さないのではなく示せないほどに瑞光璃阿は弱っていた。

 それを感じ取ったのか伊良草優里は不満そうな表情を見せた。

「つまらないですねぇ。あなたには砕く価値も無いですよぉ。花も咲かせられない花なんてゴミと一緒ですよぉ」

 そう告げると伊良草優里はその場を去って行った。

 2人は二度と会う事は無かった。

 何故なら伊良草優里はこの街には偶然、立ち寄っただけだった。

 そして数ヵ月後には筒地綾女によってソウルジェムを奪われていたからだった。

 だがこの伊良草優里との遭遇こそが瑞光璃阿に自身の戦闘能力の低さ、集団による戦闘の必要性をも自覚させる結果となった。

 それから数時間後に瑞光璃阿は自身の魔法を一般人に向かって試し一般人を指揮下に置き何処までの行動を出来るのかを試した。

 結果的には指揮下に置かれた人間は余程の事が無い限り瑞光璃阿の命令を確実に守ると言う事が判明していた。

「璃阿の言うとおりに人が動く・・・。璃阿には1人で《魔法少女》と戦う能力はありません。だから璃阿は指揮者となります。無数の《魔法少女》を璃阿の指揮下に置いて有効活用するのが良いと考えます」

「なるほど・・・。それが璃阿の考えか。僕も反対はしないよ。璃阿の思うとおりに行動すると良いよ」

 キュウたんの言葉を聞いて瑞光璃阿は行動を開始した。

 まずは自分の街にいる『利奈』を殺した《2人の魔法少女》を指揮下に置く。

《2人の魔法少女》は簡単に瑞光璃阿の指揮下に入る事を了承した。

 妹を殺した事を指摘すると《2人の魔法少女》はこれからの《魔女》や《使い魔》との戦いで償うとも約束をした。

 瑞光璃阿の魔法によって指揮下に入っている以上、嘘は付けなかった。

 心の底から抱く忠誠心から《2人の魔法少女》はそう発言をしていた。

 それから瑞光璃阿は各地で《魔女》を討伐する為に、指揮下に置いた《魔法少女》と共に放浪を続けた。

 放浪中に出会った《魔法少女》の内、使える能力を持っていれば自らの元にスカウトをした。

 ただしスカウトと言っても奇跡から作られた魔力を用いない能力を使っている為に半ば強制的だったが・・・。

 数ヵ月後には瑞光璃阿が率いる《魔法少女》の数は10数人に達していた。

 陣形を組み、最低限の魔力だけで戦う瑞光璃阿達は圧倒的な数の力で次々と《魔女》を討伐して行った。

 やがて・・・。

 ある海に面した地方都市に出現した《名前を知られた魔女》。

 通称《シーサーペント》。

《ワルプルギスの夜》と同じ様に誰もが倒す事を諦めていた《シーサーペント》を瑞光璃阿と指揮下の《魔法少女達》は、指揮と集団の力で打ち破った。

《シーサーペント》を倒した事が瑞光璃阿の自信へと繋がり宣言した。

「今から我々のチーム名は・・・。《グロリオーサ》。我々は《魔法少女隊、グロリオーサ》です」

 この《シーサーペントの討伐》以後が《魔法少女隊、グロリオーサ》の始まりだった。

 それから数ヵ月後には筒地綾女や《呪いの右目》を持った少女、朱奈とも遭遇する。

 ただし朱奈は気絶していて瑞光璃阿と《グロリオーサ》の事は知らない。

 朱奈から解析した《呪いの右目》の力を転用する事で《グロリオーサ》は次々と《魔女》を討伐して行く。

 まさしく栄光の花言葉を持つ花の名前を使った様にグロリオーサは次々と栄光を成し遂げて行った。

 なお《グロリオーサ》のメンバーが活動する為の資金等に関しては『利奈』を殺した《2人の魔法少女》が比較的裕福な家庭だった為に一家を丸ごと指揮下に置く事で資金面での問題は解決していた。

 情報を収集して各地で《魔女》を討伐する《グロリオーサ》は比較的有名な存在だった。

 でも、もう《グロリオーサ》は存在しない。

《ワルプルギスの夜》との戦いに敗れ壊滅した。

 実際には私が壊滅させた様なモノだったが・・・。

 

 

 

 

「そう言えば綾女と一緒に作った映像を使って見たけど旨く行ったよ」

 瑞光璃阿の事を思い出していると徐にキュウたんが話し掛けて来た。

「それってもしかして昨日、作った映像の事?」

「うん。契約するかどうか悩んでいる少女に作った映像を見せたら直ぐに契約に応じてくれたよ。本当に綾女の発想には頭が上がらないよ」

「へー。あれで契約しちゃう子もいるのね」

 私は少しだけ戸惑っていた。

 正直、あんな映像を見せて契約が旨く行くと思っていなかったらだ。

 

 昨日、私は《ワルプルギスの夜》から逃走後、朱奈の待っているホテルに戻る為に長い時間を電車の中で過ごす事になった。

 電車を使ったのは余程の悪天候でも無い限り電車が動く事を確信していたからだ。

 飛行機は悪天候で動かなくなる事もある。

 けれど電車の中では割と暇だったので、キュウたんとテレパシーを解してお喋りをしていた。

 これなら他人に聞かれる心配も無いのでどんな内容でも話す事が出来る。

 窓際の指定席に座る私の膝の上にキュウたんは大人しく座っていた。

「キュウたん。思うんだけど、私と契約する前に見せて貰った映像があるじゃない。あれってもっとカッコイイのは無いのかしら?私ならもう少しヒロイックな映像を作って《魔法少女》の候補者に見せるわ」

「そうなのかい?僕としてはあれで十分だと思うけど・・・。じゃあ綾女の意見を参考にして作ってみる事にするよ」

「そうね・・・。なら言いたい事は言わせて貰うわよ。そうね・・・。まずは配役だけどあんな《妖精みたいな魔法少女》じゃなくてもっと英雄的な活躍をした子が良いわね・・・。例えば・・・。《ジャンヌ・ダルク》なんてどうかしら?」

「うん。彼女は僕達、インキュベーターにとっても極めて興味深い固体だったからね。データは十分に存在するよ」

 キュウたんからの返答に私は満足していた。

《ジャンヌ・ダルク》が《魔法少女》だった事を知っている背景には、私が朱奈の生まれるまでに数日の間にキュウたんから《魔法少女》に関する様々な知識を聞いていたからだった。

 その中には人類の歴史に転機をもたらした《魔法少女達》の情報も含まれていた。

 西暦1420年代のフランスの百年戦争、真っ只中に現れた奇跡の少女。

 

―乙女(ラ・ピュセル)ジャンヌ―

 

 当時は《キューブ》と名乗っていたキュウたんから聞いた《ジャンヌ・ダルク=タルト》と言う少女の人生は非常に興味深いモノだった。

《タルト》の戦いの始まりから終わりまで見て尚、非常に興味深い存在だった。

 特にキュウたんが珍しく他者に敬称を付けると言う珍しい行動からもそう思える。

《タルト》と共に戦う仲間達、《リズ》、《メリッサ》、《エリザ》。

 そして敵である《ラピヌ》、《ミヌゥ》、《コルボー》。

 いずれも魅力的な能力を持っており自分の魔法で再現を試みたが旨くは行かなかった。

 やはり私の魔法は作り出すという事に特化している為に形を真似る事は出来ても奇跡から来る能力まで真似る事は難しかった。

 ふと話が逸れている事に気が付いて話を戻す事にする。

「まずは・・・。やっぱりヒロイックな印象を与える為にも《ジャンヌ》が1人で《使い魔》と《魔女》を続けて倒すと言うシーンが良いと思うわ」

「なるほどね。確かに、人間は英雄談を好むからね」

「そう。だから《ジャンヌ》が1人で《使い魔》と《魔女》を倒すシーンが必要だけど該当する様な都合の良いシーンは、キュウたんが見せてくれた記憶には無いのよね・・・。だから・・・」

 そこで言葉を切ってキュウたんの瞳を見つめる。

「捏造しちゃうのよ。キュウたんならそれ位、簡単でしょ?私が監督してあげるから」

「ふーん。でもこれって嘘になるんじゃないかい?」

「嘘じゃあ無いわ。脚色と言った所よ」

「訳が分からないよ。でも綾女が嘘じゃないと言うのなら嘘ではないんだね」

 その言い方にちょっと引っ掛かりを感じたが今は脇に置いて置く事にする。

「まず導入部はこうね・・・。《ジャンヌ》がヴォ―クルールで《リズ》と一緒に《魔女》や《使い魔》と戦った映像があるわね。あの映像の中で《使い魔》と戦うのを《リズ》から《ジャンヌ》に変更するのよ。映像になるべく違和感が無い様に《ジャンヌ》の動きは同じ様に《使い魔》と戦う別の映像から取るのよ。あっそうそう。《ジャンヌ》には『クロヴィスの剣』を持たせておいてね。《魔女》との戦いのシーンでは必殺の『ラ・リュミエール』を放って貰う事になるんだから」

「じゃあ綾女の言うとおりに映像を作ってみるよ。こんな感じかい?」

 私の脳内にキュウたんが私の指示通りに作った映像が流れて来る。

 

 私の脳内にはヴォ―クルールの砦が目の前に広がり内部へと視界は変わって行く。

ヴォ―クルール砦内部の通路から5体の錆色の鎧=《使い魔》が地面から様々な武器を持って這い出て来た。

 鎧の隙間からは薔薇の蔦が這い出て薔薇の蔦が鎧を動かしている様に見える。

 その時、1人の少女=《ジャンヌ》が5体の《使い魔》に切り込んだ。

 ちゃんと私の指示通りに《クロヴィスの剣》を持ち純白の衣装に身を包み次々と《使い魔》を切り倒して行った。

《使い魔》を倒すと視界が移りヴォ―クルール砦の広場へと変わる。

砦の広場からは突如として薔薇の蔦が巨大な人型をした《魔女》が現れた。

《ジャンヌ》が決意を固めた表情に呼応する様に持っていた剣が光り輝き始めた。

けれども《魔女》は怯む事無くその巨大な拳で《ジャンヌ》を殴り付けた。

《魔女》に殴られた《ジャンヌ》はそのまま吹き飛ばされ砦の壁に激突した。

 さすがに無傷とは行かず顔から僅かに血を流している。

 これは私の演出だ。

 誰しもが《ジャンヌ》の様な強固な防御壁を持っているとは限らないから少しは傷付くシーンも必要だと考えたからだ。

決意を固めた《ジャンヌ》は光り輝く剣を輝きに包ませ光の槍へ変化させ構えた。

必殺の魔法の構えを!

 

「ラ・リュミエール!」

 

《ジャンヌ》がそう叫び光の槍を投擲すると《魔女》はたったの一撃で消滅した。

 それと同時にヴォ―クルールの砦に光が戻り《ジャンヌ》は安殿の表情を見せていた。

 

 そこで映像は終わった。

「これなら問題無いわね。キュウたん。ご苦労様」

「そうだね。でもこの映像は1人で戦う内容だから複数人で契約を行う場合には使えないんじゃ無いかな?」

「そうね。個人で契約を行う場合には問題が無いけれど数人なら確かに問題ありね。それなら数人に映像を見せる際には《ジャンヌ達4人》が《フクロウの魔女》と戦うシーンを見せたら良いと思うわ。ただし《ミヌウ》と《ラム》のいるシーンは除外してね」

「なるほど。じゃあ早速、誰かに見せてみるよ」

「でも見せるなら相手を観察しなきゃ駄目よ。相手によって見せない事も契約に繋がるかも知れないんだから」

「分かったよ。その辺は僕なりに吟味してみるよ」

「後はキュウたん次第で映像の調整を行えば良いのよ」

 

 そうしたキュウたんとの会話が昨日の出来事だった。

「私と一緒に作ったと言う事は《ジャンヌ》が1人で戦う映像を見せたのね?」

「うん。あの映像を見せたらやる気を出して簡単に契約を結んでくれたよ。この映像は本当に便利だね」

「・・・。正直、そこまで旨く行くとは思わなかったわ。でもランダムに適当な《魔法少女》の映像を見せるよりは効果的でしょ」

 私の抱く素直な感想だった。

「綾女の言うとおりだね。やはり綾女の様な協力者が僕には欠かせないよ」

「まあ褒め言葉として受け取っておくわ」

 腕時計を見ると0時を回ったので私は部屋に戻る事にした。

「キュウたん。私はそろそろ部屋に戻る事にするわ」

「分かった。じゃあ1つだけ綾女にお願いがあるんだけど良いかい?」

「珍しいわね。キュウたんがお願いなんて。任務では無いのね?」

「うん。任務じゃあないよ。簡単なお願いだよ。この先にある、あすなろ市には出来れば立ち入って欲しくは無いんだ。綾女の為にも立ち入らない方が良い」

「どうして?」

「今、あすなろ市では非常に興味深い出来事が起こっていてね。なるべく外界からの影響を取り除いて起きたいんだ」

「良いわよ。あすなろ市へ立ち入らなければ良いのね?」

「うん。そうだよ。綾女」

「でもキュウたん。今度、その出来事は詳しく聞かせて貰うわよ」

「そうだね。今度、綾女にも話してあげるよ。綾女からの意見も聞きたいからね」

「ありがとう。キュウたん」

 雑談を終えるとキュウたんと別れて私は部屋へと戻った。

 既に朱奈はベッドに安らかな寝顔を見せている。

「朱奈・・・。私は・・・。あなたを1人には・・・」

 そこから先の言葉を私は言えなかった。

 本当は・・・。あなたを1人にはさせないと言いたかった。

 でも言えなかった。

 私はいつか《魔女》と化す《魔法少女》なのだから・・・。

 

 




綾女の作ったジャンヌ・ダルクの映像を見て契約を結んだ少女の話は執筆するかも知れません。
次回は再び、すずね☆マギカの舞台、ホオズキ市。
意外な人物と綾女の関わりを描きます。
それでは次回を待て!
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