偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
《ワルプルギスの夜》と遭遇してから数ヵ月後・・・。
私とキュウたんは宿泊しているホテルの屋上にいた。
「キュウたん。どうかしら?」
「うん。綾女が普段、使う分としてはこれで十分だと思うよ」
肩に乗り込むキュウたんの返答を聞きながら私は左手で握っている箒に目を落とした。
瑞光理亜の持つ優れた解析能力を欲しいと思い、武器である箒の柄の先端部分、穂先とは逆の部分に瑞光理亜のソウルジェムから解析した解析能力を移植していた。
これによって私の箒は武器としてだけでは無く周囲を探るセンサーにもなったのだ。
「これ良いわね。この能力なら相手の《魔法少女》の魔法も解析して自分の物にする事も出来るわね」
「確かに綾女の言うとおり、優れた解析能力を持っている《魔法少女》は相手の魔法を解析して自分の物にする傾向があるね。あすなろ市にいる《プレイアデス星団》の様に」
キュウたんからもこの間、同じ事を聞いていた。
《プレイアデス星団》・・・。
あすなろ市を守る《魔法少女チーム》。
ただ、現在の《プレイアデス星団》はキュウたんから反逆した存在とも言えた。
「そうね。彼女達の行動も興味があるけど、まだその時じゃあ無いわね」
特に《プレイアデス星団》の行っている実験に興味を抱いていた。
キュウたんにも告げていない私の求めている事に繋がる様な気がしていた。
いずれ時が来れば《プレイアデス星団》へ会いに行くにも悪くないと感じていた。
「それはそうと綾女。綾女に依頼された件だけど・・・。1人、候補を見つけたよ」
「見つかったの。相手は了承したの?」
「うん。綾女が提示した条件で構わないと言ってるよ」
「随分と気前が良いわね。それで・・・。彼女は何処にいるの?」
「ここから少し離れたホオズキ市にいるよ」
「ホオズキ市ね・・・」
無意識に表情が硬化した様な気がした。
ホオズキ市は朱奈の生まれたリンドウ市の隣町である。
私はリンドウ市で余り良い思いでを持っていなかったが朱奈と私が出会った大切な場所との意識はあった。
(そう言えば前にホオズキ市を守る《魔法少女》と戦った事があったわね。確かツバキって名前だったかしら・・・)
思い出を思い出しながら私はキュウたんに告げた。
「じゃあ、明日にもリンドウ市に行く事にするわ。会うのは深夜が良いわね。キュウたん。案内は頼むわね」
「分かった。じゃあ夜になったら案内するね。それじゃあ僕はこれで失礼させて貰うよ」
キュウたんはそう言って去って行った。
私が会おうとする彼女。
提示した条件。
それら全ては朱奈の為だった。
「楽しみね。私は手に入れなきゃいけない魔法があるんだから」
《魔法少女姿》の私の眼下に夜のネオンが輝いていた。
○
「ここへ来るのも久しぶりね」
「うん・・・」
私と朱奈はリンドウ市内にあるホテルに宿泊していた。
けれどベッドに座る朱奈は少し塞ぎ込んでいる様子だった。
それはあの《ワルプルギスの夜》と遭遇して帰って来てからそんな様子を見せる様になっていた。
きっと私が原因に違いは無かった。
そう思いながらもどうやって朱奈を慰めるか私は悩んでいた。
「ねえ。綾女ちゃん」
考えていると朱奈の方から声を掛けて来たので努めて笑顔で朱奈の方を向く。
「どうしたの?」
「《魔法少女》のお仕事ってそんなに忙しいの?夜中にいつも綾女ちゃんがいないから・・・」
(そう言う事・・・)
どうやら朱奈は夜中にいつも私がいなくなっている事に気が付いて不安になっているみたいだった。
「そうね・・・。近場に《魔女》や《使い魔》がいれば鬱陶しいから退治に行くけど・・・。やっぱり私がいないのは不安?」
黙って朱奈は頷いた。
「わたし・・・。やっぱり夜に1人でいるの・・・。怖いの・・・」
そう言って朱奈は私の手を握る力を強めていた。
「確かにこの所、《魔女》や《使い魔》が多いから金曜日以外にも退治に行っていたわね。ごめんなさい。朱奈。あなたがそんなに寂しくしているなら・・・。なるべく夜には出ない様にするわ」
私の答えを聞いても朱奈の顔色は冴えない。
どうしたものかしら?と思っていると朱奈が口を開いた。
「駄目だよ・・・。《魔女》や《使い魔》を放って置いたら人が死じゃうんでしょ?そんなの駄目だよ。わたしが寂しいのは我慢するから《魔女》や《使い魔》が出たら綾女ちゃんは退治に行かなきゃ駄目だよ」
言いながら朱奈はとうとう泣き出してしまった。
私は黙って朱奈の隣に腰を降ろして朱奈を抱き寄せた。
「朱奈・・・。本当に良いの?私は朱奈が寂しいと言うのなら《魔女》や《使い魔》との戦いなんてやめたって良いのよ。本当に戦いに行って良いの?」
「良いの。だってわたしが我慢すれば・・・。誰かが助かるならわたし・・・」
朱奈は優しい。
良い事だとも思う。
けれど優し過ぎる・・・。
(朱奈は私が死んだ後に1人で生きて行けるのだろうか?)
強い不安を感じながら私は朱奈を慰めていた。
○
深夜になると私はホテルの部屋を出た。
昼間の事があったので正直、部屋を出るのを少し躊躇ってしまったが、これも全て朱奈の為だと自分に言い聞かせてホテルを出た。
「キュウたん。出て来て」
私がそう呟くと直ぐに道の脇からキュウたんが現れて私を先導した。
「やあ。綾女。彼女は既に公園で待っているよ」
「分かったわ。待たせても悪いから行きましょう」
私はキュウたんの後に付いて彼女との待ち合わせ場所の公園に向かった。
今、私と朱奈が泊まっているホテルはリンドウ市とホオズキ市の境にある駅前に存在しておりホオズキ市までは歩いて10分と言う所だった。
彼女とは初めて会う。
私は人付き合いがそれ程、得意では無かったが初対面の人間ともそれなりに話を行う事は可能だと思っていた。
しかし私が提示した条件を飲むとキュウたんが言っていたが本当にそうだろうか?
もしも戦闘になった場合にはさっさと逃げた方が良いと思えた。
私の提示した条件通りの能力を持っているのだとしたら厄介な相手だと感じていた。
公園に辿り着くと彼女はまだ到着していない様だった。
ベンチに座るとキュウたんを膝の上に乗せて彼女を待つ事にした。
「キュウたん。彼女はまだ来ていないの?」
「いいや。もう来ているよ」
キュウたんの言葉を受けて周囲を見渡すが人の姿は見えなかった。
念の為に魔力による探知も行ったが彼女の存在を感じる事が出来なかった。
「へえー。お姉さんが私と取引したいって言う人なんだ。随分と背が高いんだね」
突如として真横から少女の声がしたと思うと私が座るベンチの真横に1人の少女が座っていた。
全身から放出する魔力、普段着とは程遠い服装から《魔法少女》である事は明白だった。
胸に装着している蝶の形を施されたソウルジェムが印象的だった。
驚き硬直した私に向かって《魔法少女》は悪戯っぽい笑みを浮かべて言葉を続けた。
「どう?今のが、お姉さんが欲しがっていた魔法を使ってあげたんだよ。私はね、相手の意識や記憶を操れるからこんな風に脅かす事なんて簡単なんだよ」
その言葉を聞いてこの《魔法少女》こそ取引相手である彼女だと確信した。
「凄いわね。まるで分からなかったわ。ここまで完璧な記憶捜査を使える《魔法少女》とは始めて会ったわ。名前を聞いても良いかしら?」
「うーん。お姉さんの好きに呼んだら良いよ。私は別に本名を名乗るつもりは無いから。お姉さんだって今、使っている名前は本名じゃ無いんでしょ?」
どうやら私の事はある程度、キュウたんから聞いているらしかった。
「そうね。じゃあ記憶を操作する魔法にちなんで《メモリー》と呼ばせて貰うわ」
「それで良いよ。でも、お姉さんは私が本気で取引に応じると思っているの?記憶を操作出来るんだから取引に応じたと見せかける事も出来るんだよ」
《メモリー》は余裕とも言える表情で私を見ていた。
確かに《メモリー》の能力ならばそうする事も容易いだろう。
けどこの場に現れていると言う事から取引に応じるつもりではあると思えた。
後は少しの言葉遊びに付き合う事にしよう。
「《メモリー》。私はあなたの目的には興味が無いわ。それは、あなたも同じでしょう?お互いの事に関心が無く、取引にしか関心が無いんだから、ここに来た。違う?」
《メモリー》の目を真っ直ぐに見つめて、そう言うと《メモリー》の表情に初めて笑みが浮かんだ。
「お姉さんは見た目通りに落ち着いた人なんだ。良いよ。取引の通りにお互いの魔法を相手に教え合う。私はそれで構わないよ」
「じゃあ明日の夜からまず私の魔法を教えるけど構わないかしら?」
「良いよ。私は別に今からでも構わないけどね」
「今日はもう遅いから明日の夕方からにしましょう。じゃあ18時にここで待ち合わせましょう」
「良いよ。それじゃあまた明日」
そう言って《メモリー》は現れた時と同じ様に、その姿を消してしまった。
けれど私は十分な手応えを感じていた。
《メモリー》は私との取引に100%応じると。
「キュウたん。取引の仲介、ご苦労様。大変だったでしょ?」
膝の上に乗せていたキュウたんに声を掛ける。
「そうでも無いさ。彼女。《メモリー》とは他にも約束があるからね。《メモリー》にとっても今回の取引は有効だと判断したから仲介したのさ。それと、もう1つ聞きたいんだけど。綾女が抱く《メモリー》の印象はどうだい?」
珍しくキュウたんが私にそんな事を聞いて来た。
もしかして任務と関わりがあるのだろうか?
「キュウたん。もしかして《メモリー》は任務の対象なの?」
「まだ決まった訳じゃ無いよ。ただもしそうなら綾女に任務を依頼したいんだ」
私は少し考えて見る。
今の所、《メモリー》にはキュウたんを裏切る印象は無い。
ただ会話をしていて少し感情の落差が大きい性格の様に感じていた。
感情の落差が大きい性格の持ち主はふとしたきっかけで暴走する事もある。
けれど今の所は、暴走しそうな印象は無かった。
「今の所は大丈夫じゃ無いかしら?ただ仮に任務になったとして私じゃ勝ち目は無いから断わるわよ」
返答を聞いてもキュウたんは特にこれといった反応を見せなかった。
「分かった。それじゃあ僕も経過観察に止めておくよ。僕としても綾女の様に僕達に協力的な《魔法少女》には死んで欲しくないからね。それじゃまたね」
そう言ってキュウたんは私の膝の上から降りると何処かに行ってしまった。
「明日から忙しくなるわね」
そう呟くと私もホテルへの帰路に着いた。
○
次の日の夕方から私は《メモリー》に自分の魔法を教え始めていた。
朱奈にはこの地区の《魔法少女》と協議の為に出かけると伝えた。
寂しそうな目をした朱奈には申し訳無いと思ったが最終的には朱奈の為になると思い直して私は公園に向かった。
話は逸れたが私が提示した《メモリー》との取引でもまず私の魔法を教えると言う条件としていたから当然の事とも言えた。
まずは《魔法の種》(マジカルシード)の生成を教える事にした。
夜の公園で《メモリー》に手を翳す私の前には同じ様に前方に手を翳す《メモリー》の姿が会った。
なお時間が深夜である事と私達2人は《魔法少女》としての姿をしていた為に《メモリー》の魔法で私達の姿は見えない様にしている。
「《魔法の種》の生成はこんな感じよ。分かる?今、送ったのがその情報よ」
「うん。凄く分かり易い。こんな教え方をするなんて。お姉さんは頭が良いんだね」
そう言いながら《メモリー》の手に《極少の魔法の種》が作られ握り締めると同時に両手には《メモリー》の精神を象徴する様な凶悪な形をした手裏剣が作られていた。
「うん。良いね。前より鋭くなっているのが私にも分かる。それに」
そう言って《メモリー》が武器を消滅させた。
けれど武器を構成していた魔力は殆ど、《メモリー》の体内に戻っていた。
「ただ武器を生成するだけじゃ魔力を無駄遣いするのと同じだけど、1度《魔法の種》を経由して生成すれば極力無駄を省く事が出来るなんて凄い」
《メモリー》は私の魔法を気に入った様だった。
「気に入ってくれた様で安心したわ。私の魔法は作る事に特化しているから大体の武器や物体を作るのは簡単なのよ。でもね精神的な作用を持つ物だと生成が難しいのよ。強制的に命令を聞かせる《アポイントシード》を生成出来るけど前後の記憶が残っちゃうのよね」
その言葉を聞いて《メモリー》が顔をしかめた。
流石に不快に思ったのは私にも分かったので肝心の部分を説明する事にする。
「安心して。《アポイントシード》は《魔法少女》に殆ど効果が無いから」
取り繕う様な言い方だったが《メモリー》は安心した様だった。
「じゃあ明日からお姉さんに私の魔法を教えてあげるよ」
笑みを浮かべる《メモリー》に私はテレパシーを送った。
これから話す内容は余りキュウたんに知らせない方が良いと思ったからだ。
(ねえ《メモリー》。あなた、キュウたんに何かしたの?)
テレパシーを聞いて《メモリー》は表情を強張らせた。
(お姉さん。何を言っているの?)
テレパシーでも《メモリー》が探られている事に不快感を抱いているのは分かる。
(もしキュウたんの機嫌を取りたいのなら協力するわよ。あなたの魔法ならキュウたんに対して十分、協力が出来る筈なんだから)
(どう言う事?)
私の真意を計りかねている《メモリー》に対して私は話を続ける事にした。
(《メモリー》の魔法なら誰か適当な・・・。《魔法少女》としての素質がある少女に対して記憶を操作する事で契約を結ばせる事だって出来るでしょう?例えば事故にあって腕か足が無くなったから戻したいと願わせるとか)
私の言葉を聞いて流石に《メモリー》も少しだけ顔をしかめた。
(お姉さん。案外、残酷なんだね。私でもそんな発想は出来なかったよ。あれは!?)
私にテレパシーを返した直後に突然、《メモリー》は駆け出すと公園の出口の方へと向かった。
そして公園の前を通ろうとした1人の少女に向かって魔法を使うと公園内に誘導して意識を失わせた。
倒れる少女を抱き止める《メモリー》に私は声を掛けた。
「どうしたの。《メモリー》。その子に何かあるの?」
「お姉さんには関係無いよ。ただこの街には来て欲しく無い人だから・・・。私の目的の邪魔となる人だし記憶を改竄して返せば」
「待って。その子、使えるかも知れないわ」
制止を掛けた私に《メモリー》は怪訝な表情を浮かべた。
「さっき話した実験。この子で行うなんてどうかしら?あなたにとってこの子が大切な存在なら被験者にする事も無いと思うけど」
沈黙が私と《メモリー》の間に降りた。
けれど直ぐに《メモリー》は暗い笑みを浮かべて答えた。
「あはははッ!別に大切な人じゃない。実際、嫌いだし。あーあ。ここに来なければ良かったのに」
その言葉から《メモリー》がこの少女に対して好感を抱いていないのが分かった。
「それじゃあ、キュウたんを呼んで見ましょうか。キュウたん。出て頂戴」
私がそう告げると暫くしてキュウたんが公園に現れた。
「やあ。綾女に《メモリー》。僕に何か用事かい?」
「単刀直入に聞くわ。この少女に《魔法少女》としての素質はあるの?」
私の質問にキュウたんは少女を見つめた。
良く見ると少女の髪は胸の辺りまで伸びていて印象的だった。
「そうだね・・・。十分、素質があるよ。でもそれを知ってどうするんだい?」
「こう言う事よ」
私は先程、《メモリー》に説明した事をキュウたんにも説明した。
「なるほど。確かに《メモリー》の魔法を使えば十分に可能だね。良い発想だよ。綾女」
「ありがとう。キュウたん。じゃあ早速、始めましょうか」
「待って」
それまで黙っていた《メモリー》が急に口を挟んだ。
「やるのならここじゃなくて隣のリンドウ市でやって欲しいな。ホオズキ市でやられると私の目的の邪魔になりかねないから」
「そうね。《メモリー》の目的を邪魔するつもりは無いから移動しましょうか」
「うん。僕としても場所は何処でも良いからね」
気絶している少女を《魔法の種》で生成した大型のスーツケースに詰め込むと私と《メモリー》、キュウたんはリンドウ市に向かった。
この公園からリンドウ市は10分で辿り着く。
しかし場所に関しては何処か人気の無い場所が望ましかった。
暫く歩いて人気の無い公園を見つけるとその場所にする事にした。
「じゃあ始めましょうか。まずは《メモリー》がこの少女の記憶と意識を操作して。この公園を偶然訪れて《魔女》に襲われて死ぬほどの苦しみを味わっていると言う風に。後、私と《メモリー》の姿が見えない様にも」
少女を地面に寝かせながら私は実験の進め方を告げた。
「分かった。でも私だけが魔力を消耗するのは割に合わないと思うけど?」
《メモリー》の指摘は確かだった。
私は特に有効な魔法を所持していない。
「じゃあこれをあげるわ」
ポケットからまだ新品のグリーフシードを取り出すと《メモリー》に投げ渡した。
「これでチャラって事で良いかしら?」
《メモリー》は少し驚いた表情を見せていた。
「お姉さん。気前が良いんだね。良いよ。それじゃあ始めるよ!」
笑みを浮かべた《メモリー》が手を翳した瞬間に地面に寝かせた少女の表情が苦しげな物に変わる。
同時に手足の肌が露出している部分は目に見えて青痣が出来て行った。
「あっああああああああ!」
少女は雄叫びとも言える叫びを浴びて苦しげに呼吸をしている。
身体を必死に揺するも痛みからは逃れられない筈だった。
やがて呼吸の音が小さくなって行き虫の息とも取れる状態に陥っていた。
「キュウべえ。今だよ」
《メモリー》にそう告げられたキュウべえは少女に近付いて行く。
「やあ。日向楓(HINATA KAEDE)。君は今、命の危機に瀕している。けど僕と契約をしてくれれば、その命を助ける事が出来るよ。どうするんだい?」
答えはとっくに決まっていると感じながら私は笑みを作らずにはいられなかった。
それとキュウたんのテレパシーはやっぱり便利だと感じられた。
相手の名前の漢字を含めて頭に入って来るのは本当に便利だった。
「あ・・・て・・し・は、生きた・・い!」
その瞬間に光がその場に輝き始めた。
「契約は成立だ。さあ、受け取って。それが君と僕との契約の証だよ!」
キュウべえに促されて楓と言われた少女は自分の元へ下りてくるソウルジェムへ手を伸ばした。
「これで十分ね。後はキュウたんに任せて大丈夫でしょ。行きましょ」
ソウルジェムが形成された時点で私は役目を終えたと考えて《メモリー》にこの場を離れる事を促した。
「私はやる事が出来たから、お姉さんは先に帰って良いよ」
理由は分からないが《メモリー》は私を帰したがっているらしい。
特に問題も無いので乗る事にした。
「分かったわ。それじゃ明日、同じ時間に公園で会いましょう」
「今度は私がお姉さんに魔法を教える番だから遅れないでね」
「ええ。また明日」
私と《メモリー》はそう言って分かれた。
どうやら《メモリー》は私との約束は守るつもりらしい。
ホテルに向かっていると不意にキュウたんが私の前に現れた。
どうやら別個体のキュウたんらしい。
「あら。キュウたん。どうしたの?今日の実験に何か問題があったの?」
「特に問題は無いよ。ただああ言った強制的な契約の方法は魔法の質が平均的になりがちで目新しい変化が生じないから出来れば今後は謹んで欲しいな」
「そうなの。まあ今の所は日向楓さん以外に行うつもりは無いわ」
私の本心だった。
「それはそうと綾女。1つ知らせたい事があるんだ」
「どうしたの?」
「伊良草優里が君を探している。それもかなり近い位置にいるよ。出来たらここを離れた方が良いんじゃないかい?」
(なるほど。そう言う事か)
伊良草優里。
私がキュウたんからの依頼でソウルジェムを奪った《魔法少女》。
今は《別の魔法少女》、瑞光璃阿の身体で私が蘇らせた。
「別に問題は無いわ。来たら返り討ちにするだけよ。最も彼女じゃ《私に勝つ事は出来ない》でしょうけどね」
「綾女がそう言うなら問題は無いと思うけど・・・。僕からは警告はしたから気を付けてね。彼女はどんな動きをするのか僕にも予想は付かない」
「そうね。気を付ける事にするわ」
そう言った時、私の頭にまた新しい実験が浮かんだ。
伊良草優里には最後まで役に立って貰う事にしよう。
どうせ元には戻らないのだから。
「そうだわ。キュウたん。私が良いと言ったら伊良草優里に私の居場所を教えてあげて。もしかしたら私から彼女を招くかも知れないけど」
「どうするつもりだい?」
身振りからキュウたんが困惑しているが私にも分かる。
「簡単よ。伊良草優里には私の考える最後の実験に付き合って貰うのよ」
思わず笑みが浮かぶ。
恐らくだがこの実験は必ず成功するだろう。
過去、同じ事をした《魔法少女》が存在して旨く行っているのだから。
「分かった。綾女の言うとおりにするよ。それじゃまたね。綾女」
そう言ってキュウたんは去って行った。
全ては明日、《メモリー》に記憶と意識を操作する魔法を習ってからだ。
だが必ず旨く行くと私は確信していた。
全ては朱奈の為に。
思いを新たにして私はホテルへの帰路に着いた。
次回、伊良草優里との戦いが終わる。
綾女の目的とは?
そして《メモリー》の正体とは?(すずねを読むと解るよね(笑))
待て!次回!