偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA   作:ジャックノルテ

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第21話 私の勝利は揺るがない

 

「本当に便利ね。この魔法。《メモリー》。すてきなプレゼントをありがとう」

「お姉さんの役に立ったんならそれで良いよ。でもお姉さんがここまで出来るとは思わなかったよ」

《魔法少女》としての姿でベンチに座る私と《メモリー》の視線に写るのは歩道において他者の目を気にせずに全力で殴り合う2人の男だった。

 

 両者に面識は無い。

 ただの通りすがりだ。

 ちょうど目の前を通っていたから私の新しい魔法の餌食となって貰った。

 記憶と意識の操作。

 私は2人の男の記憶を改竄した。

 

 殴っている男が自分を殺そうとしている。

 逃げても殺されるだけ。

 殺さなきゃ殺される!

 

 と言う記憶と意識の操作を行い2人の男は全力で殴り合いをしていた。

 サイレンが聞こえたから直に警察官がくるからそう長くは続かないだろうと私は踏んでいた。

「短期間でこんなに覚えが速いなんて。お姉さんのその魔法はとても便利だね」

「ええ。やっぱり応用って大切よね」

 そう言って私は左手で握っている箒に目を落とした。

 この箒には今、瑞光理亜から奪った解析魔法が施されている。

 相手の魔法を解析して自分が使える事も、対処する事も可能だった。

 また自分が解析したデータを、この場合は《メモリー》に送る事で自分の魔法を《メモリー》に教えるのにも役立っていた。

 今は《メモリー》の持つ記憶操作の力を解析して自分で使える様にしていた。

 最も解析したとしても魔法は本人の願いが反映されて具現化する。

 仕組みを解き解し要素の一つ一つから使える様になったとしてもコピーした魔法は所詮、コピーに過ぎない。

 成長は殆どしないと言う事だ。

 けれど今の状態でも十分な力を発揮していた。

 これなら私の抱く真の目的。

朱奈の為にも役に立つと確信していた。

「感謝するわ《メモリー》。この魔法があれば、私のこれからの目的を果たす事が出来るわ」

「私はお姉さんの目的を知らないけど喜んで貰えたならそれで良いけど」

 答える《メモリー》の表情は少し冷めていた。

 もしかしたら自分と同じ能力を持った相手に警戒を抱いているのかも知れなかった。

 話題を逸らす様に私は次の事を提案する事にした。

 まだ《メモリー》とは共同で行いたい実験が幾つか存在していた。

「そうだ。《メモリー》。明日、私の考える実験に付き合ってくれないかしら?恐らくあなたの役にも立つわ」

「それってどう言う実験なの?」

「それはね」

 私は概ねの実験方法を《メモリー》に語って聞かせた。

 この実験は昨日、日向楓を契約させた時から考えていた実験だった。

話を聞く内に《メモリー》の表情からは冷めた部分が消えて熱心に話を聞き始めていた。

「ふぅん。お姉さんは本当に応用が上手だね。私じゃそんな事、考え付かなかったよ」

《メモリー》の目には初めて私に対する賞賛とも言える感情が見えた気がした。

「そうでも無いわ。切っ掛けがあれば閃く事よ」

 ある程度の謙虚さを表す事にする。

 あからさまに喜んで相手の気を悪くさせては本末転倒だ。

「じゃあ私はお姉さんの言うとおりの記憶を用意すれば良いんだね?」

「ええ。必要な物はもう渡しているし問題は無いでしょう?」

「うん。それじゃあ私は準備をするからお姉さん。また明日、同じ時間にね」

 そう言って《メモリー》はベンチから立ち去って行った。

 私はそのまま座りながらテレパシーを周囲に送ってキュウたんを呼び出した。

「やあ。綾女。僕に用ってなんだい?」

 そう言ってキュウたんは脇の茂みから直ぐに現れた。

「簡単な事よ。伊良草優里に私の居場所を伝えて頂戴。それと決着を付けようとも」

 私の宣言を聞きキュウたんは首を傾げた。

「綾女・・・。本気で言っているのかい?伊良草優里は綾女への復讐心でより魔力を増大させ実戦経験も更に積んでいる。もう綾女では勝てないかも知れないよ。それとも・・・。綾女の言う《私に勝つ事は出来ない》と言う言葉に余程の自信があるのかい?」

 キュウたんの言葉に私は黙ったまま頷いた。

「ふーん。分かった。綾女が良いというのなら伝える事にするよ」

「ただし時間は明日のこの時間、この場所。それ以外の時間に来る様なら私は姿を隠すとも伝えて頂戴」

「分かった。綾女の言うとおりに伊良草優里には伝えておくよ。他に何かあるかい?」

「そうね。1つデータを提供して欲しいの。《過去の魔法少女》のデータよ。相手は・・・」

 キュウたんにそれを伝えると再び首を傾げた。

「なるほど。綾女の行おうとしている事が大体、理解出来たよ。それじゃあデータを提供するよ」

 キュウたんの瞳が赤く輝いたと同時に私の頭の中に欲しかったデータが流れ込んで来た。

「ありがとう。キュウたん。それじゃ明日は必ずキュウたんも来なさいよ。面白いモノが見れる事を保障するわ」

「うん。僕も楽しみにしているよ。またね」

 私達はその言葉を切っ掛けに別れて帰路に付いた。

 

 

 

 

「綾女ちゃん。その服はどうしたの?」

「似合ってるでしょ。これから夜はこう言う服装で外へ行く事にするわ」

 椅子に座っている朱奈は着替えた私の服装に驚いている様だった。

 普段なら私はTシャツにジーンズ、その上にカーディガンを羽織る位のラフな服装を好んで着用していた。

 けれど今、着用しているのは細身の黒いスーツだった。

 ただし私に合うサイズのスーツが市販されていない為に特注品に近い物だった

 スーツを着て深夜に歩いていても私はその背の高さもあって未成年に見られる事は無かった。

 黒い色を選んだのには理由がある。

《魔法少女》としての戦いになった際には喪服としての意味合いも込めて黒を選んでいた。

「外へ行くの?もう遅いのに?また《魔女》か《使い魔》が出たの?」

「そんな所ね。だから朱奈は先に眠っていて。帰りは遅くなるかも知れないから」

 そう言って私が部屋を出ようと朱奈に背を向けた時、朱奈が急に背中から腰に抱き付いて来た。

「朱奈。どうしたの?」

「行かないで。だって・・・。最近、綾女ちゃんは夜になると1人で外に行ってる・・・。そんなに《魔女》や《使い魔》が出ているの?前は金曜日にしか戦わない時もあったのに。どうしてなの?綾女ちゃんは他にも何かをしているの?わたしに何かを隠しているの?」

 朱奈は数々の質問を私にぶつけて来た。

 正直、答えられる内容では無かった。

 

 私が取引によって魔法を手に入れている事。

 これから物凄く残酷な行動を起こす事。

 朱奈が奇跡によって誕生した事。

 朱奈に数々の嘘を付いている事。

 

 隠している事が多過ぎた。

 朱奈に答える事は出来ない。

 私は答えないと言う選択をした。

「朱奈。ごめんなさい。答えられないわ・・・」

 朱奈が私の腰に回していた手の力が弱くなったのを感じると私は朱奈の方へ振り返りしゃがみ込んで朱奈と視線を合わせた。

「でもね・・・。私は行かなきゃ行けないの。《魔法少女》である以上、避けられない問題なの。だから御免なさい」

 告げながら朱奈の頭を撫でて立ち上がる。

「どうしてなの?どうしてわたしを1人にしちゃうの?」

 涙目の朱奈が私に問い掛けて来る。

 どう答えるか悩んだがこれからの事を思って厳しく答える事にした。

「朱奈。命の法則って分かる?」

 朱奈は首を横に振った。

「親が死に子供が死にその子供が死ぬ。年上の生物から死んで行く。これが命の法則なの。だから私が朱奈より速く死ぬのは間違い無いわ。だから1人でいる事に慣れなさい。私もいつか命を失う日が来るのよ」

 ハッとした朱奈はどうしたら良いのか分からないと言う表情を見せていた。

 努めて笑顔を作り朱奈の頭を撫でると私はそのまま部屋を出た。

 ホテルを出ると真っ直ぐに公園へと向かう。

 幸い待ち合わせの30分前に出ようとしてので十分に間に合う。

 公園には待ち合わせの5分前に辿り着いた。

 既にベンチには《メモリー》が座っていた。

「時間通りだね。お姉さん」

「あなたもね《メモリー》。例の記憶は準備出来ているの?」

「大丈夫だよ。何時でも書き換えが出来るよ」

《メモリー》の返答に私は満足していた。

 私の新しい魔法も既に出来ている。

 後は伊良草優里が来るだけ・・・。

(久しぶりですねぇ)

 そう思った時、特徴的な喋り方をする声が耳に入った。

 少し音が変わったかの様な印象を受けたがこれは身体を違う物を使っている所為だろうと推測する事が出来た。

 テレパシーのする方向を向くと、瑞光璃阿の肉体で活動する伊良草優里が私と《メモリー》の前に現れた。

 その表情は瑞光璃阿が見せない歪んだ笑みを浮かべて手足には治療の魔力が旨く機能していないのか多くの傷跡が付けられていた。

 更には髪の色が瑞光璃阿の白とオレンジから山吹色へと変わっていた。

 戦いでのみ付けられる特徴的な傷跡を見て直ぐに悟る事が出来た。

 多くの戦いを行ったと言うのは伊達では無い。

 伊良草優里が更なる実戦経験を積んだのは確かだ。

「久しぶりね。瑞光璃阿さん。じゃなくて伊良草優里」

 ワザと名前を言い直して反応を窺ってみる事にする。

 引きつった笑みを見せた伊良草優里は直ぐに動かなかった。

 どうやら怒りを抑える事を学んだらしい。

「それはぁ、間違いじゃあ無いですからねぇ。認める事にしますぅ。戦う前に幾つか質問がありますけど良いですかぁ?」

「良いわよ」

「その子は誰ですかぁ?アタクシは綾女さんと戦いに来たんですよぉ。仲間がいるなんて聞いてないですねぇ」

「この子は仲間じゃないわ。彼女は《メモリー》。今回の戦いの見届け人と言った所よ。これから行われる戦いに介入する事は無いわ」

 丁寧に《メモリー》の事を説明して無駄を省く事にする。

 最も伊良草優里の能力では《メモリー》に勝つ事は難しいと思える。

「うん。確かに私はこのお姉さんの戦いを見に来ただけだから気にしないで。たとえお姉さんが死んだ所で仇を討とうとも思わないから」

 脇を盗み見ると《メモリー》は本気の笑みを浮かべていた。

 つまり今の発言は真実を発言したと確信出来る。

(だからこそあなたを信じられるのよ。《メモリー》)

 あなたが私を見捨てると言い切れるからこそ私はあなたを信じられる。

「そうですかぁ。じゃあ気にしなくて良いですねぇ。じゃあ次の質問ですよぉ。アタクシの。この身体は何ですかぁ!?どうしてアタクシの身体がこんな価値の無い女の肉体に変わっているんですかぁ!?」

 伊良草優里のでは無い、瑞光璃阿の肉体から激情を帯びた抑えられない魔力が迸る。

 この様子なら質問をし終えるまで戦いが始まる事も無いだろうと思い答える事にした。

「そうね。じゃあ答えてあげるわ。その様子だとその身体の元の持ち主、瑞光璃阿の事は知っているのね?私が《ワルプルギスの夜》と遭遇した時に囮役が必要だったから瑞光璃阿の肉体にあなたのソウルジェムを植え付けたのよ。瑞光璃阿を無力化する事で《魔法少女隊、グロリオーサ》を混乱状態に貶める為に。お陰で私は生き残る事が出来たわ。最もあなたが生き残ったのは予想外だったけど」

 答えを聞いて伊良草優里はまだ黙っている。

 まだ質問があるのだろうか?

「そんな勝手なことですかぁ。あれからアタクシがどんな目に遭ったと思ってるんですかぁ?瑞光璃阿と思われて、洗脳された事への怒りを次々とぶつけられたんですよぉ!アタクシが瑞光璃阿では無いと言っても信じずアタクシを奴隷の様に扱ったぁ。始めは旨く魔法が使えませんでしたけどぉ、徐々に馴染んでからあいつ等を殺してやりましたぁ。でもぉ。元はと言えば綾女さんの所為でしょうがぁ!アタクシにあの子も渡せばそれで済んだんですよぉ!」

 叫び伊良草優里が魔力を放出と言うよりも撒き散らした。

 自らの激情の赴くままに。

「渡さないわ。朱奈は渡さない。それにもうあなたは死んだも同然なんだからもう覚悟を決めたらどう?」

 私の挑発に青筋が出来たのが見える。

 伊良草優里が激情の赴くままに何かを言おうとしたが突然、地面に片膝を付くと頭を抑えた。

「アタっアタクシ・・・。そおではない。り・・。璃阿は・・・。指揮者。《グロリオーサ》の・・・。皆は何処?ここは?」

 伊良草優里の髪、否。瑞光璃阿の髪の色が元の白とオレンジに戻って行く。

「どうなってるの?」

 脇から怪訝な表情をした《メモリー》が声を掛けてくる。

「恐らく。あの《魔法少女》。伊良草優里はさっきも説明したとおり、《別の魔法少女、瑞光璃阿》の肉体を使って動いているわ。もしかしたら瑞光璃阿の肉体、脳に残っている記憶が伊良草優里のソウルジェムに反作用で蝕んでいるのかも知れないわね。これは予想外ね」

 目の前で苦しむ、瑞光璃阿の肉体で動く伊良草優里を見てそう推測した。

 身体がイメージ通りに動かなかったのもそれが理由なのだろう。

 動きが止めた瑞光璃阿の肉体が天を仰ぐ。

「りっ璃阿の仲間・・・。あっ。アタクシはぁ・・・。アタクシはぁ・・・。綾女に復讐したぁいぃー!」

 叫び瑞光璃阿の髪の色は山吹色へと染まり憎しみの視線を私に向けて来た。

 復讐心によって瑞光璃阿の記憶を押さえ込んだ伊良草優里は今度こそ私に本気の敵意を向けて来ていた。

「さて。じゃあ始めましょうか。最も勝敗は既に決しているけど」

 告げながら私は《魔法少女》としての姿に変身する事無くベンチから立ち上がった。

「何ですかぁ?変身しないんですかぁ?アタクシだって変身するのぐらいはぁ、待ちますよぉ?」

 抑えられない怒りが瑞光理亜の表情を歪ませている。

 伊良草優里の憎しみが、反映されているからだ。

「必要無いわ。私の勝利は揺るがない」

 ベンチから離れて伊良草優里の正面に立ち静かに宣言する。

 まだ離れた位置にいる伊良草優里は襲って来ない。

 どうやら私に言われた言葉に戸惑っていた様だったが怒りの表情を向き出すとそのまま《魔法少女》としての姿に変身し跳躍すると私に向かって魔力で具現化したカスターネを振り下ろそうとした。

 ここまで私は冷静に物事を観察していた。

 左手を胸の前に翳すと左の親指と中指を弾いてパチン!と魔力を込めて弾いた。

「ぐはぁ!?」

 響き渡る瑞光璃阿の肉体で動く伊良草優里の悲鳴。

《メモリー》も驚きの様子を見せるが私には予想通りの出来事だった。

 瑞光璃阿の肉体から突如として無数の針が身体の内部から突き出して動きを完全に封じてしまった。

「だから言ったでしょう?私の勝利は揺るぎ無いと」

 瑞光璃阿の肉体を持つ伊良草優里は余りの痛みにのたうち回っているのを冷静に観察しながら笑みを浮かべた私はそう告げた。

「何がどうなっているのかな?お姉さん。説明してよ」

私の傍に歩いて来た《メモリー》が質問して来る。

「簡単よ。私は伊良草優里のソウルジェムを瑞光璃阿の肉体に接続する時に魔力で生成したナイフを瑞光璃阿の肉体に刺すと言う方法を使ったわ。強制的にソウルジェムを別の肉体に接続させる為にナイフからは全身にソウルジェムから擬似的な魔力神経が伸びるわ。その時に作られた魔力神経に私が魔法の発動条件を施していたのよ。私が指を鳴らしたら針となって身体を貫く様に。それと痛覚遮断も無効化して一時的に完全に魔力を押さえ込める様にと」

「へえー。お姉さんは最初からそうするつもりでいたんだ?」

「当たり前じゃない。最も私を探したりしなければこんな事にはならなかったのに」

 僅かだが哀れみを見せる私に《メモリー》は不思議そうな表情を見せていた。

「それより仕上げをしましょう。例の記憶を書き込んであげて」

「そうだね。どうせ苦しむのなら速く終わらせてあげないとね」

 そう言って《メモリー》が右手を翳すと同時に小さな魔法陣が生成されて行く。

 蝶の紋章が描かれた魔法陣だ。

 それと同時に瑞光璃阿の肉体に宿る伊良草優里の表情が筆舌にし難い苦しみの固まりと言った表情へと変化して喚き始める。

 今、《メモリー》が伊良草優里に書き込んだのはグリーフシードから解析した絶望の記憶。

 脳の構造が同じである以上、人間が抱く感情はパターン化が可能だった。

 グリーフシードの内部に残っている絶望の感情だけを解析して伊良草優里に書き込む。

 そんな事が可能なのは《メモリー》の魔法があってこそ可能だった。

 最早、言語ですらないその喚きにはただ1つの感情しか感じられ無かった。

 絶望と苦しみ。

 ただそれだけだった。

(これなら私が用意した魔法を使う事も無いかしら?)

 そう思って私が観察し続けていると遂に伊良草優里のソウルジェムが絶望に飲まれた。

 場の雰囲気が一変して負の気配に包まれた。伊良草優里のソウルジェムの内部からおぞましい何かが蠢いているのが感じられる。

 直後、瑞光璃阿の肉体が浮かび上がるとソウルジェムがグリーフシードへと変化して伸びていった黒い蔦が瑞光璃阿の肉体を取り込み変形させ行き別のモノへと変化して行く。

 そう。《魔女化》だ。

 伊良草優里は完全に《魔女》へと変貌し始めてしまった。

「あれ?どうして身体まで巻き込んで《魔女化》したのかな?キュウべえからの話じゃソウルジェムがグリーフシードに変化した時には肉体は残されるって聞いたけど?」

《メモリー》が疑問に思うのも無理は無かった。

「たぶん、強制的にソウルジェムと他人の肉体を接続させた時にソウルジェムを身体に埋め込んで外れない様にしたからその影響かも知れないわね」

 私が答えると同時に結界が広がって行く。

 次いで《伊良草優里の魔女》はその身体を生成して行く。

「久しぶりに《魔女退治》か。でもお姉さんの事だからもう手は打ってあるんでしょ?」

「鋭いわね。《メモリー》。当たり前じゃない」

 完全に《魔女》と化した伊良草優里が私達に攻撃を仕掛けようとした時、私は再び左手の親指と中指を弾いてパチンと鳴らした。

 今度は《伊良草優里の魔女》の身体を無数の針が体内から伸びて貫き、その身体を完全に動かなくした。

 直ぐに結界が崩壊すると同時に《伊良草優里の魔女》の肉体をも消滅させた。

「グリーフシードを落とさなかったね」

「そうね。実験の為とは言えジェムを酷使し過ぎていたから仕方が無いわね。でもお陰で次からは邪魔な《魔法少女》を《魔女》にする事が出来るわ」

 冷静に物事を分析する事が出来ている事に私は満足していた。

「ひっい!?」

 その時、少女の悲鳴が私と《メモリー》の耳に入った。

 公園の入り口に視線を移すとそこには朱奈が私達を見て立ち尽くしていた。

「朱奈!?」

 どうして朱奈がここに着ているのだろう?

 公園の周囲には予め《メモリー》の魔法によって周囲の人々は公園に近付かず公園での出来事に関心を持たない様にしていた。

 私と《メモリー》、伊良草優里だけがこの場に入れる筈だった。

 頭が混乱して直ぐに私は行動を起こせなかった。

「あーあ。仕方ないなぁ」

《メモリー》はそう告げると同時に跳躍して朱奈の脇に移動すると右手を翳した。

 同時に朱奈は目を閉じて倒れ込むが《メモリー》が脇から両手で支えた。

「ふう。お姉さんの知り合いみたいだから眠らせるに止めといたよ」

《メモリー》は朱奈を抱き抱えて私の前に連れて来た。

「ごめんなさい。まさかこの場所に朱奈が来るとは思わなかったわ。《メモリー》の魔法でこの場は封印されてたのに・・・。多分、朱奈が持っている《右目の呪い》の効果が強すぎて《伊良草優里の魔女》に反応してこの場に入れてしまったのね・・・」

「ふーん。とにかくお姉さん。この子は返すから」

「ああ。ごめんなさい」

私は《メモリー》から朱奈を受け取り抱き抱えた。

「お姉さん。その子の記憶。今見た部分だけを消したいって言うなら私が代わりにやってあげるけど?」

 思案する様な色を見せて《メモリー》は私に提案して来た。

 けど私は迷っていた。

 愛する朱奈に魔法を使ってしまう事に私は迷いを抱いていた。

「それは・・・。使わなくて良いわ。これは私が自分で解決すべき問題だから」

「そうなんだ。それとお姉さん。この子が噂になってる《右目の呪い》を持った少女ならもっと大切にしなきゃ駄目だよ。私は興味が無いから良いけどこの子、朱奈ちゃんを狙っている《魔法少女》も沢山、いる筈だからね」

 朱奈の事を知っても関心を抱かない《メモリー》には感謝していた。

 だから忠告をすべきだとも思えた。

「ありがとう。《メモリー》。私は明日にはこの街を去る事にするわ。それと1つだけ忠告するわ。自分の魔法の弱点だけは必ず把握した方が良いわ。弱点さえ知っていればあなたはもっと強くなれるわ」

《メモリー》は薄い笑顔を向けて手を後ろに組んで私の話を聞いていた。

「そうだねぇ。お姉さんの忠告は覚えておく事にするよ。朱奈ちゃんは暫くしたら目覚めるから。それじゃあお姉さん。バイバイ」

 そう言って《メモリー》は夜の街に跳躍して消えて行った。

「さて・・・。これからどうしようかしら・・・」

 朱奈を抱き抱えた私はこれからの事を思い苦悩していた。

 とりあえずはホテルに戻ろうとホテルの方向に足を向けた。

 

 ホテルの部屋に戻るとベッドに朱奈を寝かせて私は備え付けの椅子に座って外の風景を見ていた。

 どうすべきだろうか?

 朱奈に対して記憶操作の魔法を使い記憶を消去すべきなのだろうか?

 けど、そもそも朱奈はあの場で一体、何を見てしまったのだろうか?

 朱奈の見たモノが分からなければ記憶操作の魔法を使うべきかどうか判断する事も出来なかった。

 だから朱奈が目覚めるのを待つ事にする。

「う・・・ん」

 寝返りをしながら朱奈は目を覚ました様だった。

「あれ?わたし・・・。どうして部屋にいるの?どうして暗いの?」

「朱奈」

「!」

 私が声を掛けると同時に朱奈はビクっとした反応を見せた。

 私に向けられた恐怖がありありと感じられた。

 少なからずショックを覚える。

「ねえ朱奈。何を見たの?私に教えて頂戴」

「あっ綾女ちゃん。わっわたし・・・。何も見てないよ」

 私から目を逸らして首を振る朱奈。

 可愛らしいが嘘を付いているのがバレバレでもあった。

「朱奈。嘘を付いちゃ駄目でしょ。本当の事を言って。どうしてあの公園に来たの?」

 優しさに満ちた声で朱奈が答え易い様に誘導して見る。

 暫く沈黙が続く。

 やがて観念したかの様に朱奈は口を開いた。

「わたし・・・。綾女ちゃんが何か・・・。わたしに隠してる気がしてそれで・・・。後を付けようとしたの・・。でも見つからなくて夜が怖いからホテルに帰ろうとしてたら、右目が何かを感じたの。何かが見えた気がしたの・・・」

 ここで朱奈は言葉を切った。

 朱奈の言葉を待つ私は口を挟まない事にする。

「右目から感じる何かに従って歩いていたら公園に差し掛かったの。そうしたらわたしの目の前で知らないお姉さんが《魔女》になっちゃったの。それで・・・。その向かい側に綾女ちゃんと知らない子がいたのを見たの・・・」

「そうなの」

「どうしてなの?どうしてお姉さんが《魔女》になったの?それにどうして綾女ちゃんは知らない子と一緒にお姉さんが《魔女》になるのを楽しそうに笑って見ていたの?」

 言いたい事を全て言うと朱奈は傍にあった枕を抱き締めて怯えた目で私を見ていた。

 そっか。

 朱奈は人が《魔女》になる所と、私が笑みを浮かべてそれを見ていた所を見てしまったのか・・・。

 説得は出来るのだろうか?

 出来るだけの説得は試みる事にした。

「朱奈。私と一緒にいた知らない子は私の知り合いよ。あのお姉さんは《魔女》が擬態していたの。人間じゃあ無いわ。《新種の魔女》と言った所ね」

 勿論この回答は嘘だ。

 朱奈に真実を伝える必要は無い。

《魔法少女》が《魔女》になる事なんて朱奈が知る必要は無かった。

「じゃあどうして楽しそうに笑って見ていたの?それにどうしてわたし、ホテルにいるの?」

「笑みを浮かべたのはね戦いにおいて余裕を見せる為の演出よ。本当は苦しくても笑みを浮かべていると相手を挑発する事が出来るわ。まあ嬉しかったのもあるわね。ここ最近、ずっとあの《魔女》を探していたのは確かだったから。それと朱奈は公園に来て直ぐに倒れちゃったのよ。たぶん、《魔女》の魔力に当てられちゃったのよ。倒れた朱奈を私がホテルまで運んだよ」

 旨く言い繕う事が出来たと思ったが朱奈に嘘を付いた事に罪悪感を覚えていた。

(少し心が痛い・・・)

 けど心の痛みは私が我慢すれば良いだけの話でもあった。

「そうなの・・・。御免なさい。わたし・・・。綾女ちゃんが忙しくしてたのに!我侭を言って・・・。御免なさい。御免なさい。綾女ちゃん!」

 そう言って泣きながら朱奈は私に抱き付いて来た。

「良いのよ。私は朱奈の事を憎んだりしないわ。何があっても許してあげるから」

「良いの?」

「そうよ。朱奈は私にとって世界で一番、大切な存在なんだから」

「うん」

 泣き出す朱奈をあやしながら私は心の中に生じた罪悪感を心の奥に押しやった。

 ソウルジェムを見る事が無くても自分のソウルジェムに穢れが生じたのを感じ取る事が出来た。

 私に残された時は長く無いのかも知れなかった。

 

 




これにてホオズキ市編は終了。
すずね☆マギカの数か月前の出来事と言うイメージです。
次回からはあの《あすなろ市》を舞台にした《あすなろ市編》がスタート!
HINATA KAEDEに関する事や《プレイアデス星団》との交わりを語ります。
それでは次回を待て!
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