偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA   作:ジャックノルテ

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第24話 私は当然だと思った行動を取ったまでです

 あすなろ市での出来事から数ヵ月後・・・。

 秋になると私と朱奈は放浪の旅を再開していた。

 もしかしたらこれが最後の旅になるかも知れなかったが・・・。

 ヒイラギ町を抜けて私と朱奈は今、思い出深い風見野市を訪れている所だった。

「教会、無くなってる・・・」

「そうね。まさかこんな事になっているなんてね」

 手を繋ぎながら私と朱奈は同じ物を見ていた。

 そこは風見野市にある家出した朱奈を助けてくれた牧師さん一家の住む教会だった。

 けれどその場は荒れ果ててかつてあった人々の信仰の対象としての教会としての姿は存在しなかった。

「何があったんだろう?」

 朱奈は悲しげな瞳を見せていた。

 私は少しでも朱奈を励まそうと思うが止めておく。

 励ます代わりに朱奈を諭す事にした。

「朱奈・・・。形ある物はどんなに手を加えてもいずれ滅びる物よ。人がいつか死ぬのと同じ様に。決して同じ形の場所なんて地上には存在しないわ。この世界で変わらないのはこの青い空と夜空の星の輝き、太陽と月、流れる雲だけよ」

「でも・・・。わたし・・・。もう一度、会ってお礼を言いたかった・・・」

 途端に朱奈は涙を目に浮かべていた。

 大切な存在の悲しげな様子を見ていると私の心にも悲しみが走る。

「そうね。でも朱奈。形ある物はいずれ滅ぶ。それが自然の摂理よ。せめて・・・。心の中でお礼を伝えなさい。心から発する思いは誰しもが持つ伝えたいと願うモノだから・・・」

 朱奈の頭を撫でながら私はそう語る。

「神父さん。《赤い髪のお姉さん》ありがとう。わたしを助けてくれてありがとう。直接、お礼を言いたかったけど伝える事は出来ないかも知れないから・・・。ここでお礼を言うの。わたしを助けてくれてありがとう・・・」

「きっと朱奈の思いは届いているわ・・・」

 心にも無い言葉で私は泣きじゃくる朱奈を慰めていた。

 実際問題として人の思いなんて物は届くのは余程、分かり合った存在だけだと思える。

 私は遂に両親や兄さんと分かり合う事は無かった。

 それぞれがお互いに互いを利用し合っていただけだ。

 ただ自己中心的な利益を得ようとしていただけだった。

 けれど私が朱奈に抱く思いは違う。

 たとえ自分がどんなに辛い道を歩もうと私は朱奈には・・・。

 幸せに生きていて欲しかった。

 それが叶うのかどうかは分からなかったが・・・。

 それでも私はその願いを捨てる事は出来なかった・・・。

 

 

 

 

 次の日・・・。

 私と朱奈は風見野市と隣り合う見滝原市の五郷(いつさと)地区を訪れていた。

 朱奈にはただ旅の途中に通り過ぎるだけだと伝えていたが、本当の理由はそうでは無かった。

 キュウたんからの依頼で新たに見滝原市に誕生した《変わった魔法少女》の存在を見極めて欲しいと言う依頼からだった。

 私は時々、こうした依頼を引き受けたりしていた。

 依頼と言ってもキュウたんから指定された相手を観察し次いで直接会話した後にキュウたんへ報告するだけの簡単な仕事だった。

 キュウたんからすれば私は《魔法少女》の中でも珍しく貴重なインキュベーターに対して比較的、《友好的な魔法少女》との事だった。

 確かに考察してみると、大抵の《魔法少女》はインキュベーターの目的を知ってしまった後は敵対関係に至り易かった。

 最近では《プレイアデス星団》が一番、厄介な存在だろう。

 何せ現状、あすなろ市内ではキュウたんは契約を行う事が出来ないのだから・・・。

 話を戻すとキュウたんの言う所の《代わった魔法少女》は、きちんと学業にも専念して《魔法少女》としての活動は主に夜に行っているとの事だった。

 幸い今日は木曜日でもある。

 深夜を過ぎれば朱奈が必ず《魔女》を引き寄せる。

 旨く行けば一石二鳥となり依頼と魔女退治を両立出来るのかも知れなかった。

 明日は金曜日と言う事でホテルに泊まる訳には行かない為に五郷地区内で閉鎖されたペイント工場を見つけると敷地内にテントを設置して野営の準備をしていた。

 テントの周辺には《隠れの種》(ステルスシード)を設置しており誰かに見つかる心配は無かった。

「さて。じゃあ朱奈。買い物に行きましょうか」

「うん・・・」

 私に返事を返す朱奈はとても暗い雰囲気を出していた。

 大嫌いな金曜日が迫っており仕方の無い事とも言えた。 

《呪いの右目》を持ったままではずっと《魔女》や《使い魔》による殺戮を無理やり見せ付けられ続けるのだろう。

 そこまで考えながらも私は朱奈から《呪いの右目》を取り除こうと思えなかった。

 朱奈から《呪いの右目》を取り除いてしまえば朱奈が私の傍からいなくなってしまうのでは無いかと言う不安。

 朱奈を失いたくないと言う気持ちから私は《右目の呪い》に何の対処も出来ずにいた。

 私と手を繋いで歩く朱奈の瞳にはこれから起こる恐怖に対する恐れが見え隠れしていた。

 道を歩いているとコンビニが目に入ったので買い物はそこで済まそうと朱奈と2人で入った。

 店内には店員の他にホスト風の男とその彼女と思しき女が2人しか客はいなかった。

「朱奈。何が食べたい?好きなのを買ってあげるわ」

「綾女ちゃんの好きなので良い・・・」

 金曜日前はいつもこんな調子だ。

「じゃあ、いつも通りに私が選んであげるわね」

「うん・・・」

 朱奈の様子は一向に明るくならなかった。

 分かってはいたが正直、私も見ていて心が痛く感じた。

 だからこそ私が朱奈をしっかりと支えなければならないとも心に強く誓っていた。

 適当に夕食とデザート、お菓子や飲み物を選ぶと私はレジに向かった。

 その間に少女が2人、別々に入店して来たのが目に入ったが気にする事は無かった。

 朱奈は大人しくコンビニの入り口の近くで私の会計が終わるのを待っていた。

「待たせたわね」

 会計を済ませて朱奈の元へ行くと朱奈は化粧品のコーナーをじっと見ていた。

「もしかしてお化粧がしたいの?」

「えっ。そうじゃなくて・・・。わたしもいつか使うのかなって・・・」

 朱奈の返事を聞いて私は直ぐに何も答えられなかった。

 正直、私は化粧に関する知識が殆ど無かったからだ。

 同級生から教えて貰ったそれなりの知識はあるが本格的なお化粧となると知識不足でもあった。

 ぶっちゃけてしまえば私は朱奈の前でお化粧をした事は無い。

 せいぜい乾燥を防ぐ為に保湿クリームをたまに使う位だ。

 肉体を魔力で維持する《魔法少女》にはお化粧等、必要が無かったからだ。

 ただ朱奈がお化粧に興味を持ち始めたのは良い事とも言える。

 しかし私には教えられるだけの知識が存在しない。

(どうしたものかしらね・・・)

 と言うのが私にとって素直な感想でもあった。

 

 ヂャリーン!

 

 不意を付いて小銭がばら撒かれた音がして私と朱奈はつい音のでた方に視線を向けた。

 そこではレジの前では黒髪を揺らして《変わった服装の少女》がばら撒いた小銭を拾い集めていた。 

その時、レジの順番を待っていた《派手な女》がが野次を飛ばして来た。

「すげえ待ってるんですけどぉー」

「ち。うっぜえな。早く拾えよ」

その横にいる《ホスト風の男》も尻馬に乗るのを聞いて朱奈が悲しげな様子を見せた。

不意に怒りが急激に高まるのを感じた。

(朱奈を悲しませた。それに好き勝手な事を言って。人間の持つ唾棄すべき欠点。醜く歪んだ気持ち悪い顔。きっと性根も腐り果てているのだろう。最早、改善の余地は無い。そうだ。だったら殺してしまうのが世の為だ。その前に自分が生まれたと言う事を後悔させなければ。《痛みの種》を使って極限の痛みを与えてやる!)

「綾女ちゃん・・・」

 不意に怯えた目の朱奈が私の手を引いて来たので私はハッとした。

 今、私は物凄く感情を爆発させてあまつさえ魔法を発動させる一歩手前だった。

 朱奈が声を掛けなければ《痛みの種》を《派手な女》と《ホスト風の男》に撃ち込んでいた所だった。

 ここでもし《痛みの種》を撃ち込んでしまえば《派手な女》も《ホスト風の男》も極限の痛みによって筆舌にしがたい苦しみを帯びた表情を見せる所だった。

 無意識の行動とは言え私は朱奈に・・・。

 とても残酷で惨いモノを見せてしまいそうだった。

 私は朱奈を愛しているのに。

 朱奈だけが私の全てなのに。

 私は自分で自分を否定しようとした・・・。

 その事実は私の心を深く楔を打っていた。

「綾女ちゃん・・・。凄く怖い顔をしてる・・・」

 とっさに私は返事を返す事が出来なかった。

 全て、否定しようの無い事実だからだ。

「とっととしろよなー」

「後ろつかえてますので早くお願いします」

 歪んだ表情を隠す事無く《派手な女》も《ホスト風の男》も暴言を続けている。

《変わった服装の少女》は意にする事無くしゃがんで小銭を拾い続けていた。

 不意に隣で会計を済ませた髪を左側に束ねている《サイドポニーの少女》がしゃがんで一緒に小銭を拾うのを手伝い始めた。

「これで全部かしら?」

《サイドポニーの少女》は分け隔てない笑みを《変わった服装の少女》に向けていた。

「う、うん」

 照れているのか余り表情を変えなかった《変わった服装の少女》を見届けると《サイドポニーの少女》はそのままコンビニを出て行った。

「凄い・・・。あのお姉さんはどうしてあんな風に出来るのかな?」

 朱奈の言葉を聞いて私も同じ疑問を抱いていた。

「そうね。きっと強い人なのかも知れないわね。でもこう言うのは本人に聞いてみるのが一番よ」

「えっ?」

 そう言うと私は驚く朱奈の手を握ると2人でコンビニを出て《サイドポニーの少女》が歩きいて行った方向を見定めると追いかけて行った。

 直ぐに《サイドポニーの少女》を見つける事が出来た。

 幸い、この道には人がいない。

 質問をぶつけるには都合が良いと思えた。

「ねえ。そこのお嬢さん」

 私は思い切って後ろから声を掛けた。

「何ですか?」

 不思議そうな顔をして《サイドポニーの少女》は振り返ってきた。

 そう言えば彼女の着ている制服は確か有名なお嬢様学校の指定制服だったと聞いた事がある。

 と言う事は裕福な家庭のお嬢様と言った所だろうか?

 もしかしたら私と朱奈に多少の警戒を見せているのかも知れなかった。

 私の背後に隠れている朱奈は私の選んだ可愛らしい服装をさせていたが私はTシャツにジーンズ、カーディガンを羽織っただけのラフな服装だ。

 裕福な家庭の人間からすれば身分違いの人間かも知れなかった。

 それでも質問を続ける事にする。

 もしかしたら答えを得られるかも知れないからだ。

「さっきはコンビニでお嬢さんはとても勇気のある行動を見せたわね。最近だとあんな風に他人に優しくする人間なんて珍しいわ」

「そんな事は無いと思いますけど?」

 少し戸惑った様子を《サイドポニーの少女》は見せていた。

「私の目にした限りじゃあ見た事は無いわ。どうしてあんな風に他者へ優しく出来るのかしら?私はそれが知りたいのよ」

 質問に少し考える様子を見せた《サイドポニーの少女》はゆっくりと口を開いた。

「私は当然だと思った行動を取ったまでです」

 はっきりとした決意を込めた《サイドポニーの少女》は答えた。

「困っている人がいれば手を差し伸べて助けて差し上げる事がおかしい事でしょうか?」

 今度は《サイドポニーの少女》が私に質問を返して来た。

 けれど私は経験的に《サイドポニーの少女》が自分で口にした言葉に対してはっきりとした意志を感じる事が出来た。

「おかしくは無いわね。でもそれが薄れて行っているのが現実よ。間違っているとは・・・。思うけどね」

 告げながらも私は観察を忘れない。

 これはもうキュウたんの依頼で《他の魔法少女》の存在を見極めていた言わば職業病だ。

 観察しているとこの《サイドポニーの少女》は確かに一面では強い心を持っている。

 でもその強さは別の方向から力を入れれば簡単に割れてしまう様な印象を覚えた。

「わたし・・・。怖くて何も出来なかった。助けられたのに何も出来なかった。どうしたらお姉さんみたいになれるの?」

 私の後ろから顔だけを出して朱奈が《サイドポニーの少女》に勇気を持って語り掛けた。

 少しだけ《サイドポニーの少女》は困った様な表情を見せていたが私と朱奈の近くまで来るとしゃがんで朱奈と視線を合わせた。

「他者に憧れるのは良いのかも知れないけど・・・。生憎、私は憧れられる様な存在では無いわ。誰も本当の私を見ていないから・・・」

 その言葉に私は《サイドポニーの少女》の心が揺れたのを感じた。

 朱奈は言葉の意味が分からずにおろおろとしている。

 バツの悪そうな顔をした《サイドポニーの少女》は朱奈に対して言葉を続けた。

「御免なさい。でも無理をして人を助けるのはもっと良くない事よ。自分の心をすり減らせてまで他者を助けてもそれではあなたが傷付くだけよ。自分の心が他者を助けられるだけ強くなった時に他者に手を差し伸べるべきだと思うわ」

「うん。わたしも・・・。いつか人を助けられる人になりたい」

「ええ。立派な事だわ。貴女はとても優しい心の持ち主なのね」

《サイドポニーの少女》にそう言われた朱奈は少しびっくりした表情を見せていた。

「お嬢さん。時間を取らせて悪かったわね」

「良いんです。それでは」

 そう言って優雅に手を振りながら《サイドポニーの少女》は去って行った。

「わたしも・・・。あんな風になれるのかな?」

「きっとなれるわ。さあ。帰りましょう」

 私と朱奈は手を繋いで帰路に着いた。

 歩きながら私は朱奈ならば優しい大人になれるだろうと確信を得ていた。

 でも同時にそれは私がそれを目にする事は無いと言う楔ともなった。

 朱奈が大人になるまで私が生存している筈が無い。

 正直の所、私は自分の限界を悟り始めていた。

 グリーフシードを使っても落ちない穢れ。

 穢れが生じるのが速まって行く。

 先程の様に感情の爆発を制御出来ず衝動的な暴力行為を行おうとする等、穢れが原因となる狂気とも取れる行動を起こしていた。

(私は後、どれ位、朱奈と過ごせるのだろう?)

 大きな疑問を抱いたが私はそれを朱奈に告げる事は出来なかった。

 

 

 

 

 深夜・・・。

 仮眠を取ると私は朱奈を連れて近くにある五郷公園に赴いた。

 後、5分ほどで木曜日は終わり金曜日が来る。

「朱奈。直ぐに助けてあげるから我慢してね」

 私の言葉を聞いて朱奈はこくりと頷いた。

 怖がっているのか朱奈は声を出す事が出来ない様でもあった。

 そんな朱奈と2人でベンチに座りながら私は朱奈の頭を撫でた。

 朱奈の表情が晴れる事は無かったが仕方の無い事とも言えた。

 暫く朱奈を撫でて朱奈の感触を楽しんでいたが、唐突に終わりが来た。

 結界が張られたのだ。

 同時に私と朱奈は引き離され私は結界の中で戦闘態勢を整えていた。

《魔法少女》に変身すると同時に左手に箒を《魔法の種》で生成し歩を進めた。

 結界の内部で具現化して来る《使い魔》を次々と箒で叩き付け、離れた相手には鋭い穂先を次々と発射して消滅させて行く。

 箒の柄に仕込まれた瑞光理亜の持つ解析能力を使い結界の構造を探って見る。

 どうやら朱奈は結界の端の方におり《魔女》の方は最深部にいる事が分かった。

 朱奈の居所を把握して安堵した私はそのまま最深部へ進む事にした。

 どの道、《魔女》を倒さなければ朱奈を開放する事も出来ないからだ。

 前方から私の方へ《使い魔》が向かって来る。

 私を狙っているのは明白であり迎え撃つ為に歩を進めようとした時、膝がガクンと傾いてしまった。

「!?」

 驚いた私が攻撃の機会を逃すと同時に《使い魔》が私の腕に噛み付いて来た。

 幸い、痛覚遮断をしているので痛みは無く直ぐに右手で殴り付けて《使い魔》を倒した。

(またか・・・)

 最近、身体が思うとおりに動かなくなって来た。

 もしかしたらこれこそが《魔法少女》としての限界なのかも知れなかった。

「だからって・・・。朱奈を助けられない訳じゃ無いわ!」

 自分に言い聞かせる様に叫びながら結界の最深部に向かって進み続ける。

 気のせいかいつもより《使い魔》との戦いがきつく感じる。

 ただ倒すだけなのに何故?

 そうして疑問に答えは出ないままに私は最深部へと到着した。

 目の前にはまるで紫陽花の様な姿をした《紫陽花の魔女》が私に向かって威圧的な魔力を向けていた。

 まず距離を取って相手の動きを監察する為に《紫陽花の魔女》の周囲を回りながら箒の穂先を撃ち込んで見る。

 何本かは突き刺さったが目立った効果は無い。

 動きながら次の動きを決めかねていた時、突如として地面が揺れて地下から植物の根が伸びて来た!

(全身を流れる魔力で防御する!)

 ところが魔力が旨く動かなかった。

「なっ!?」

 そのまま私は《紫陽花の魔女》の根によって壁に叩き付けられてしまった。

 痛みは無い。

 けれど私は不安を覚えていた。

 魔力が旨く発動しなかった。

 このままでは勝利する事、自体が難しい。

 止めを刺す直前であんな風に魔力が旨く動かなければ勝てる戦いも勝てなくなる・・・。

 試しに《箒の種》を生成して見る。

 問題無く生成する事が出来た。

 けれどそれだけで勝利する事が難しいのもまた確かだった。

「どうしようかしらね・・・」

 勝利する為の戦い方をを考え続けていると強い魔力を感じ取った。

 私でも目の前にいる《紫陽花の魔女》の魔力でも無い。

 結界の外側から強力な魔力を持った何かが向かって来ている。

 

 ビキイ!

 

 結界が歪まされたのがはっきりと感じられる。

 すると目の前にある結界の壁が破壊されて強力な魔力の持ち主である《青い髪の魔法少女》がこの場に突っ込んで来た。

「うらあああっ!」

 掛け声と共に突っ込んで来たその《青い髪の魔法少女》は巨大な斧を持ち洋風の騎士とも言うべき服装をしていた。

 そのまま勢いに乗って巨大な斧を振り上げると《紫陽花の魔女》に向かって渾身の力を込めて振り下ろした!

 辺りに《紫陽花の魔女》の悲鳴が響いた。

 致命傷なのは明白だった。

《紫陽花の魔女》の魔力が急速に失われて行くのが私にも感じられる。

 結界が崩壊して私と《青い髪の魔法少女》は五郷公園の近くにある歩道橋の上に離れて実体化していた。

「うん?アンタ、《魔法少女》?」

 私に気が付いた《青い髪の魔法少女》が怪訝な表情で私の方を見ている。

 身体を僅かに動かして状態を確認する。

 悪くは無いが正直、長く戦闘は出来そうも無かった。

「そうよ。残念だけどあなたに獲物を取られたわ」

 少しだけ挑発して様子を窺って見る事にする。

 目の前にいる《青い髪の魔法少女、浅古小巻》こそがキュウたんからの依頼で存在を見極めて欲しいと言われた《魔法少女》だった。

「そう。残念だったわね。でもグリーフシードを譲るつもりは無いわよ。ここは私の縄張りだし、私だってこれが無いと困るんだから」

 ここまでの言葉を聞いて見ると比較的、一般的な《魔法少女》に思える。

 たしか願いは《私達を守って!》と言う願いだった。

 自分が決めた事を必ず行う。

 だから《魔法少女》もやっている。

(少し仕掛けてみるか)

 そう思うと私は箒を《浅古小巻》へと向けた。

「そうね。でも奪い取るのもアリよね!」

 そう言って穂先を《浅古小巻》に向けて発射した!

 慌てる事無く《浅古小巻》は斧に取り付けていた盾で箒の穂先を防いだ!

 同時に私は一気に跳躍して《浅古小巻》との距離を詰める。

 盾を斧に戻した《浅古小巻》は私の接近に驚きながらも斧を振り下ろそうとしたが私は右手に生成していたもう1つの《箒の種》を握って右手にも箒を出現させると《浅古小巻》の斧を押さえ振り下ろせない様にした。

 同時に左手に握った箒の穂先とは逆の部分、柄で《浅古小巻》を突いた!

「ッ!?」

 そのまま《浅古小巻》は吹き飛んで行くと思われたが、地面を蹴って一気に勢いを殺すと私に向かって跳躍しようとした!

 躊躇無く私は箒の穂先を向け発射した!

 手加減をしているので精々、10本位だ。

 咄嗟に《浅古小巻》は斧に取り付けられた盾を巨大化させる事で穂先から見を守った。

 動きを見ていると既に何度か縄張り争いを行っているのだろう。

 好戦的な面は否めないがキュウたんが特別視する程の《魔法少女》とは思えなかった。

(潮時ね)

 思うと同時に右手の箒を消滅させると新たな《魔法の種》を右手に生成して地面に投げ付けた。

 種類は《閃光の種》(ブレイズシード)!

 眼前に閃光が広がったと同時に私はその場から離れた。

私の逃げ方が旨かったのか《浅古小巻》は追っては来なかった。

 既に私は《浅古小巻》の事は関心が無かった。

《魔法少女》としての姿を解いた私が関心を抱いていたのは五郷公園にいると思われる朱奈の事だけだ。

 朱奈の着ている服に仕込んだ魔力の欠片から位置は分かっている。

 出来るだけ駆け足で朱奈の元へと向かう。

 途中、躓きかけるが体勢を立て直してもう一度、走る。

 身体が旨く動かない。

 ソウルジェムを出現させてみると穢れが少し溜まっていた。

 それだけでは無かった。

 ソウルジェムの表面には隠し様の無い小さな傷が表面化していた。

「経年劣化って事ね・・・」

 この小さな傷がやがてソウルジェムを引き裂く程の穢れを発生させてしまう・・・。

 予備のグリーフシードで穢れを落とすと少しは身体の動きが良くなった気がした。

 駆け足で五郷公園に駆け込むと心細そうにしている朱奈の姿があった。

「朱奈!」

 私の姿を認識した朱奈の顔に喜びの色が表れる。

「綾女ちゃん!」

 そう言って駆け足で私の元に来た朱奈は私に抱き付いた。

「待たせて御免なさい。さあ。帰りましょう」

「うん。綾女ちゃん。何かあったの?」

「どうして?」

「何となく何か考えてる、みたいだったから・・・」

 どうやら朱奈もそう言う事を感じ取れる様に成長したらしい。

 けれど朱奈に余計な心配を掛ける訳には行かなかった。

「大丈夫よ。大した事じゃ無いから。朱奈が気にする事じゃ無いわ」

「うん・・・」

 笑顔を浮かべながら朱奈からの質問を振り切ったが、少し心が痛んだ。

 でも私のソウルジェムに関しては朱奈には話す事は出来ない。

 朱奈に教えた所で朱奈を悲しませるだけだから・・・。

 それでもいつかは話さなければいけないのだろう。

 けれど今は・・・。

 まだ話すべき時では無かった。

 

 

 

 

(そう言う訳で《浅古小巻》に関しては特に警戒をする必要は無いわ。確かに多少、好戦的ではあるけど比較的、マトモな《魔法少女》じゃないかしら?)

(なるほど。綾女の意見は参考になるね。じゃあ《小巻》には最低限の接触だけに止めて置くよ)

 朱奈が寝静まったのを見計らって私はキュウたんを呼び出して《浅古小巻》に関する情報を提供した。

 声を出さずにテレパシーで会話を行っているのは念の為に朱奈に聞かれない様にする為でもある。

(それとキュウたん。あなたの為に今まで暗殺者や観察者を行って来たけど・・・。今日で最後にさせて貰うわ)

(どうしてだい?僕としては綾女の様な協力者は貴重なんだけどな?)

(これを見れば分かるでしょ?)

 私は自分のソウルジェムをキュウたんに見せ付けた。

(なるほど・・・。確かにソウルジェムが限界に達しているね)

(分かったでしょう?これじゃあ暗殺者や観察者としても不適格よ。私が《魔女化》する前に誰かに倒された尚の事、意味は無いと思うけど違うの?)

(そうだね。綾女からエネルギーを回収出来ないのは僕としても大きな損失だよ。それと綾女は今後、もう僕の協力はしないのかい?)

(そう言う訳じゃ無いわ。暗殺者と観察者は引退するけど、まだ幾つか行いたい実験もあるし、旨く折り合いが付けばキュウたんの手伝いもしてあげるわ。私はそれが現状では一番良い選択だと思うけど違くて?)

 キュウたんは少し押し黙った。

(確かに綾女の提案通りならこれからも協力関係が維持出来るんだし綾女の言うとおりにするよ。僕としても綾女との協力関係は出来るだけ維持したいからね)

(じゃあ交渉成立ね。キュウたん)

 そう言って私は屈んで隣で座っているキュウたんの頭を右手で撫でた。

(そうだね。これからも僕から情報提供は欠かさない様にするよ)

(ありがとう。そうそう。私の実験ってあなたも対象に入っているのよ。キュウたん)

(どう言う事だい?)

 初めてキュウたんが首を傾げた。

(新しい《魔法の種》を作ったのよ)

 言いながら私は左手に《新しい魔法の種》を生成した。

(これはね、《感情の種》って言うの。これを撃ち込まれた相手は人間が日頃から感じ取れる感情を擬似的だけど体感出来るのよ)

(まさかと思うけど綾女・・・。僕に差し込もうって考えてるのかい?)

(そうよ。だってこれはキュウたんの為に作ったのよ。キュウたんが人間の感情を《訳が分からないよ》って言うから作ってあげたのよ。これを使えばあなたも人間の感情をある程度、理解して更に効率的な契約が出来ると思うわ)

(それはちょって飛躍し過ぎじゃないかい?綾女。右手で僕を押え付けるのを辞めてくれないかい?)

(あら?動いたら旨く刺せないじゃない?押さえてるだけよ)

(僕はまだ同意してないよ!?)

(代わりは幾らでもあるんだから問題無いじゃない)

(いや。それでも困るよ。綾女。話せば分かるよ。綾女!?)

(大丈夫よ。ちゃんと責任は取るから)

 意図せずして私は笑みを浮かべキュウたんに《感情の種》(エモーションシード)を突き刺した。

(こっこれは!?これが感情なのかい!?)

 キュウたんは初めて感じる感情に戸惑っている様で身体を小刻みに震わせていた。

 

 

 ボン!

 

 

 急にキュウたんの身体は爆発して四散してしまった。

 幸い、私は念の為に魔力を使って防御していたので無傷だった。

(酷い事するなあ。勿体無いじゃ無いか)

 そう言って建物の脇から新たなキュウたんが現れた。

(でも感情は体験出来たでしょう?)

(そうだね。でもやはり僕らには理解しがたいよ。でも貴重なデータとして受け取って置く事にするよ)

(そうよ。それが大切よ。何事も地道にコツコツと蓄積して行って始めて分かる真実もあるんだから)

(そこは綾女に同感だね)

 こんな風にキュウたんと喋りあうのも後、何度出来るのか分からなかった。

 だからこそ私はなるべく後悔を残さない様に残りの時間を使おうと決めていた。

 朱奈の為にも・・・。

 




サイドポニーの少女は美国織莉子です。
気に入ってるキャラなんだけど時系列の関係上、これまで登場させる事が出来ませんでした。
朱奈の章では既に死んでいる為、登場したとは言えないし。
そして次回、綾女の章は最終回にする予定です。
長ければ二話に分割するかも知れませんがとにかく最終回に入る事だけは間違いありません。
では次回を待て!
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