偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
彼女は、自分の事を《エディター》(編集者)と呼ぶ様に僕に求めて来た。勿論、ボクは従う事にした。特に意味を持たない事だとも思ったからね。
呼び名が、どうであれ彼女が持つ能力がボクに取って有益な物ならば、どうでもいい事だからね。
彼女が持つ能力は、文字通りの能力だよ。
解りにくいって?
そうかも知れないね。
じゃあ噛み砕いて説明するよ。
最もボクはそうした噛み砕きが、苦手だから君たちでも分かるレベルに話を落とすとも言えるけどね。
不快感を抱いたみたいだけど怒らないで欲しいな。
ボクがそう言う存在だって知っている筈だろう。
だから話を続けさせて貰うよ。
彼女が持つ能力だったね。
文字通りあらゆる物を編集する能力だったよ。
木を鉱物に変えたり空気を分解したりとあらゆる物を分解し自分の都合で再構成する能力を持っていた。無敵な能力の様に思えるけど最大限の効果を発揮するのは直接、直に手で触れている時なんだ。
そして彼女が最も関心を寄せ、最も興味と行動力を発揮したのはね・・・。他者の精神を編集する事だった。
犯罪なんて行わない様な善人を凶悪な犯罪者に変え、狡猾で嫌われた人間を邪な事を行えない様な小心者に変え、恋愛対象を一人としていた人が、多くの人間に色目を使い浮気をする様な人間に改良したり・・・。
彼女は、それを楽しんでいる様子だったよ。ボクに対していつも誰を編集したのかを詳細に報告していたからね。
特に《魔法少女》の精神を編集するのは、イジリ甲斐があると語っていたよ。
実際、彼女が精神を編集したお陰で強力な《魔法少女》となった子もいたからね。
ボクにとっても都合の良い能力だったからだったからこそ、ボクは彼女に不利益となる様な行動は避けていたんだけどね、そんな関係も長く続かなかった。
彼女は、何らかの理由でソウルジェムの秘密と《魔法少女》がいずれ《魔女》となる事に気が付いてしまったんだよ。
問い詰める彼女に対してボクは事実を認めてありのままを話した。結局、彼女は今までの《魔法少女》と同じ様にボクと敵対する様になってしまった。
勿論、説得は試みたけど駄目だったよ。
どんなに彼女の犠牲が尊いものかを説いたけど彼女は、話を聞こうともしなかった。
それから彼女は、変わってしまったよ。自暴自棄になり手当たり次第に他人の精神を改造していった。《魔法少女》を自殺するまで編集された時はボクも驚いたよ。
あれじゃあエネルギーの回収が行えない。
彼女は、最早、ボクにとって有益な協力者では無くなってしまった。
早速、ボクは他の《魔法少女達》に、彼女ことエディターの討伐を依頼したよ。
討伐を依頼したのは、真実を知りつつ協力してくれる《協力者としての魔法少女達》に絞ったけどね。
当初、ボクの考えた予想では、《エディター》は、一人だから直ぐに倒されると思ったよ。
でもここで《エディター》は、ボクの予想を超えた能力を見せて来た。
まともにぶつかっても勝てないと考えた《エディター》は、一旦は逃亡したと見せかけると後日には、《契約したばかりの魔法少女》を襲撃して拉致した。
《協力者としての魔法少女達》が、《エディター》の潜伏先に攻め込んだ時、まったく同じ姿と形をした《エディター》が2人現れた。
《協力者としての魔法少女達》の推測では、《エディター》が拉致した《契約したばかりの魔法少女》を編集し直して限りなく同一の存在を増やしたのではないか言う結論に至った。
ボクも同じ様に思っていた。
《2人のエディター》の前に《協力者としての魔法少女》は、敗退して囚われた《魔法少女》は、《エディター》へと編集されてしまった。
やがて《数人に増殖したエディター》は、各地で《エディター》を増やし、《魔女》を暴走させて《多くの魔法少女》を死に追いやった。
ボクも対処の方法を直ぐに提示する事が出来なかったからね。
けど《エディター》は、皮肉にも自分達の能力が原因で滅びる事にも繋がった。
《エディター》が数を増やし続けて暗躍を始めた時にちょうど《魔法少女隊グロリオーサ》を率いる瑞光璃阿が、活動を始めた時期だった。
仲間を増やしていた瑞光理亜は、仲間を指揮する過程において、自らの能力が足りていない様に思っていた。ボクはたまたま、瑞光璃阿に、《エディター》の討伐を依頼して《エディター》の能力を説明してあげたんだ。
すると瑞光璃阿は、
「それは、璃阿が欲っする能力。だから理亜の指揮下に入れて使わせて貰います」
瑞光璃阿の行動は素早かった。
直ぐにボクが教えてあげた場所へ赴くと単独行動をしていた《エディター》の一人を捉えて指揮下へと組み込んでしまった。
《エディター》の能力を収めた瑞光璃阿は、自らの精神を指揮者に相応しく編集すると直ぐに残りの《エディター》を討伐した。
討伐と言っても殺害した訳じゃ無くて捕らえて指揮下に加えた《エディター》は一名を除いて元の魔法少女へと戻して指揮下に加えた事によって《グロリオーサ》の戦力は増強され日本における最強のチームとなった。
それでも《ワルプルギスの夜》には、敵わなかったけどね。
指揮官である瑞光理亜の精神が、《ワルプルギスの夜》の攻撃を受けて変異してしまった結果、《グロリオーサ》は指揮能力を失い壊滅し離散してしまった。
けど瑞光璃阿の指揮能力から解放されて自由意思を持った魔法少女の中に《エディター》も含まれていた。自由意思を取り戻して直ぐに状況を理解した《エディター》は精神に変調を起している瑞光璃阿を捕らえると、今度は自分がリーダーとなる為に瑞光璃阿の精神を改造して操ろうとしているんだ。
君達にとって《グロリオーサ》の復活は、避けたい事だろう?
○
夜の闇に包まれた公園の中。都合良く外灯の下に設置されたベンチに座っている筒地綾女の膝の上に座っていたキュウべえは、長い話を終えた。
ベンチに座る筒地綾女の前に4人の少女が、難しい顔をして佇んでいた。
年は近い少女達だったが、服装は思い思いに着ており共通するのは、中指に付けている指輪だけだった。
同じ様な形状をして同じ種類の文字が刻まれたソウルジェムの指輪を持つ、筒地綾女と同じ《魔法少女》である事は明白と言う事でもあった。
「それで、私達にどうしろと言いたいのですか?」
赤茶色の髪を生やしたエリーゼと言う少女がキュウべえに問い掛ける。直ぐに質問を返した事から積極的に次に動こうとするエリーゼには、リーダーシップの様な雰囲気が垣間見えていた。
エリーゼの瞳には、誰にでも分かる不信感が、筒地綾女とキュウべえに向けられていた。
それを異に返す事無く筒地綾女は、口を開いた。
「簡単よ。《グロリオーサ》を倒すのに協力して貰いたいのよ」
静かにエリーゼ達4人を筒地綾女は見つめたが、向けられた不信感は筒地綾女が口を開いた事で倍増したのは火を見るよりも明らかだった。内心では自身がそこまで嫌われている事にショックよりも驚きの方が大きかった。
(これでも愛想良くしているのに)と思ったが言葉にはしない。した所でこの場の雰囲気をより悪くするだけと言うのは、改めて言うまでもなく火を見るより明らかだからだ。
「そんな事をしてあたし達にどんなメリットがあるんだよ?」
こまちと言う少女は、胡散臭げに筒地綾女とキュウべえを交互に見ながら口に出した言葉には、嫌悪と猜疑が分かりやすく現れ彼女の人間性や気質とも言える物を表している様に筒地綾女には思えていた。
「分かりやすく言うなら縄張りを守る事に繋がるわ。たとえば自分達より強い敵との戦いが避けられないのだとしたら、倒せるチャンスが目の前にあるのなら倒すでしょう?」
「要は《エディター》を倒せる内に倒したい。でも自分一人では倒せないからわたし達に協力をして欲しい。結局の所、《エディター》を倒さなければ、わたし達も何らかの被害を負いかねない。そう言う事ですね?」
「その通りよ」
筒地綾女の発言を聞いて冷めた表情をして話を聞いていたクレアが話を分かりやすく話し筒地綾女は肯定する返事を返した。
「エリーゼさん。どうするの?」
自らの迷いを隠す事無く、少し気弱そうなひよりと名乗った少女はエリーゼに回答を求めた。こまちもクレアもエリーゼの答えを聞きたがっている。
このチームのリーダーがエリーゼだからこそ3人の魔法少女は、エリーゼの答えを求めていた。信じるリーダーの答えを。
「仕方ありませんね・・・。筒地綾女さん。今回はあなたの提案に乗る事にします」
エリーゼの答えにこまちとクレア、ひよりは沈黙し答えていた。その沈黙がエリーゼの提案に従うと言う答えと言う事に筒地綾女にも感じ取れた。
「助かるわ。正直、断られると思っていたから」
「ええ。最初は断るつもりでした」
「じゃあどうして断らなかったの?」
表情を崩さないエリーゼに驚きを隠さない筒地綾女は素直な質問を告げていた。
「筒地綾女。あなたの事は、《魔法少女》の間で流れている噂である程度、知っています。縄張りを持たない《流浪の魔法少女》。《魔女》を引き寄せる少女を保護している」
「全て事実ね」
エリーゼが今の所、告げて来た言葉に肯定で答える筒地綾女。
「これは極一部の。ソウルジェムの真実を知る魔法少女達の間では、こうも言われています。キュウべえの意に沿わない《魔法少女》を、自らの手で始末したり情報操作によって《他の魔法少女》に殺害させたりする、厄病神の様な存在とも」
「それも真実ね」
エリーゼの言葉に静かに筒地綾女は頷き、その様子を見ていたこまちとクレア、ひよりの表情が曇り無意識の内に身構えていた。
「厄病神の様な存在であるあなたが持って来たグロリオーサの追討への協力要請。断るのが当然ですが、グロリオーサの復活を避けたいのは、あなたと利害が一致します。それに断れば今度は私たちが追討されかねないでしょう?」
「そこまで読んでいるなら問題は無いでしょう?読まれている様な事をしても上手くいかないのは身に染みているわ」
「そうでしょうね。では、私達はこれで。後の連絡はキュウべえを通して下さい。協力はしますから」
仲間達を促しエリーゼ達は筒地綾女の前から去って行った。
ひよりだけは筒地綾女に頭を下げたが他の面々は胡散臭げな表情を隠す事無く去った。
○
「あれで良かったのかい?綾女。僕には上手くいった様に思えなかったけど」
筒地綾女の膝の上に座っていたキュウべえが疑念をぶつけて来た。
「ええ。協力を得られれば、それで良いのよ。どうせ今回だけしか組まないんだから」
『でも、あんな言い方は、無いんじゃ無いんですか?無いんじゃ無いんですか?』
ノイズの混じった声と同時に筒地綾女の目の前に突然、人影が現れた。筒地綾女は特に驚きもせずに人影が実体化するのを待った。
実体化した人影、ツインテールと言われる髪型を生やした少女《安藤すずか》は、実体化しながら笑みを浮かべていた。
「あら、すずか。あなたに言われたくは無いわ。あなただってトラブルメーカーみたいなモノでしょう?」
『弊社にはそんなつもりは無いんですがね。無いんですがね』
相変わらずふざけた喋り方をする《魔法少女》だと筒地綾女は感じていた。と言っても目の前にいる《安藤すずか》は、実体では無い。何らかの魔法によってこの場に虚像を送り込んでいるに過ぎないからだ。それに《安藤すずか》は、虚像でしか他者と接触をしない。だから筒地綾女も本当の姿を知らなかった。目の前に現れた虚像が真の姿とは限らないし自由に姿や声を変えられると言う事を《安藤すずか》本人が以前、語っていた。つまり隠す様な能力では無いし本当の姿が見つかる心配も無いと言う確信もあるのだろうと筒地綾女は推測していた。
「まあ今回、あなたとは利害が一致している訳だし必要な協力はして貰うわよ」
『分かってます。弊社だって綾女さんを敵に回したくは無いですからね。無いですからね』
《安藤すずか》は、敵に回したくないと言っているが、筒地綾女に言わせれば、《安藤すずか》こそ敵に回したくない《魔法少女》でもあった。
その理由は、《安藤すずか》の持つ情報ネットワークと固有魔法にあった。実際問題として《安藤すずか》を敵に回した《魔法少女》は全て歯向かえなくなっている。その事実だけで《安藤すずか》が、敵に回さない方が良い相手だと証明していた。《安藤すずか》の持つ固有魔法を知っている筒地綾女だからこそ敵に回さない方が良いと分かっていた。
「良く言うわね。第一、私じゃあなたに勝てないでしょう?」
『そんな事はありませんよ。弊社にもソウルジェムは、あるし弱点はありますよ。ありますよ』
「私には、あなたが何処にいるかも分からないじゃない。これじゃあ戦い様も無いでしょう。まあ・・・。良いわ。それじゃあ手筈通りに頼むわよ」
『勿論。弊社から持ち込んだ話ですからね。成功させねば評判に傷が付きますから。それでは。それでは』
筒地綾女に向かって一礼すると《安藤すずか》の虚像は消滅した。
「すずかは相変わらずね。さてじゃあ私も帰るとするわ。キュウたん」
ベンチから立ち上がる筒地綾女の動きに合わせて膝の上に座っていたキュウたんと言う愛称で呼ばれたキュウべえも地面に降り立った。
「分かった。じゃあくれぐれもグロリオーサの件は、よろしく頼むよ。綾女」
「分かっているわ。これは私にとっても必要な事だから」
そう告げると筒地綾女もキュウべえの前から去って行った。
「そうだよ。筒地綾女。これは君の目的にも必要な事なんだから」
ベンチを灯していた外灯が揺らいだと同時に誰に言う事無く呟いたキュウべえも夜の闇へ去って行った。
○
耐震基準が満たされない違法建築とされた大型ショッピングモールとなる建造物があった。違法建築である事が発覚して行政の処分により取り壊しが決まったのだが、費用の負担を巡って泥沼の争いを法廷で繰り広げており今は立ち入り禁止の場所とされていた。
不幸にも周囲に建造された建物の地価にも影響を与えて軒並み建築を中止してしまっていた。
つまりこの場所は、廃墟の塊とも言えた。誰もこの場所に立ち入らないし関係者も殆どこの場所を訪れる事は無かった。
けれどそんな廃墟の一つを囲むフェンスの隙間から一人の少女が飛び出して来ると、廃墟の間にある道を通って廃墟から離れようとしていた。
腰に大きな剣をぶら下げ人間離れした跳躍で必死に駆け抜ける少女が、《魔法少女》だと言う事は、知っている人間なら直ぐに分かる。
「ちっ。やってられるかよ。アタイが、あんなカルトに従ってられるかよ」
大剣の少女の名前は、ここでは告げない。必要の無い事だからだ。これから語られる物語においても、かつて語られた物語においても名前が記録される様な存在では無い。
名前の無いただの人物。それが大剣の少女。
必死に駆け抜ける大剣の少女は、逃げようとしていた。
自らがカルトと評した《グロリオーサ》を危ない集団と見なして逃げ出そうとしていた。ソウルジェムの真実を知らされ同盟相手からの誘いを受けて参加したのは、《グロリオーサ》と言う有名な集団へ帰属する事で、グリーフシードを得やすいと思えた事が理由だった。
しかし一度壊滅した《グロリオーサ》が復活させると言う名目は立派だったが、内部はリーダーである瑞光璃阿を《エディター》と呼ばれる《補佐役の魔法少女》が補佐していたが、余りの独裁振りと不満を掲げた《魔法少女》を洗脳する所を見せられては、参加する気を無くしていた。
だからこそ逃亡する事を選びさっさと逃げ出そうとしていた。
「!?」
大剣の少女の眼前に一つの人影が現れた。赤茶色の髪を生やし特徴的な服装をして、なによりもこちらを見ても動じない事から直ぐに《魔法少女》だと判断した大剣の少女は、自分への追手だと判断して直ぐに腰に下げていた大剣を構えた。近づくに従って知らない顔の《魔法少女》だと分かったが《グロリオーサ》には、自分が知らない《魔法少女》が多数参加していた事を思い出して迷う事無く斬りかかろうとした。
ところが真横から音楽の旋律を聴いたと同時に音が大剣の少女の体を大きく揺らした。
足元に星型の魔法陣が広がると同時に大剣の少女の体を大きな衝撃が貫いた。
まるで静電気を起こした時の様な痛みで今の攻撃が電撃だと悟るも、直後に《白い蛇の様な影》が手足に巻き付いて体の自由を奪った。
「上手くいったみたいですね。エリーゼ」
「ええ。クレア達のお陰で簡単に捕える事が出来ました」
エリーゼの両手からは《白い蛇の様な影=クラウドスネーク》が伸びて捕らえた大剣の少女を拘束しており周囲の建物からは、電撃を放ち先ほどの声の主であるクレア、音楽の旋律を流したひより、星型の魔法陣を展開したこまちが姿を現した。
「流石のチームワークね」
遅れて筒地綾女も愉快そうな様子を隠す事無く姿を現した。
「何だよ・・・。アタイを洗脳して自分達は助かるつもりかよ。手前ら見たいな奴が、あんなカルト集団をのさばらせるんだよ!」
「何を言っているんですか?」
「どうやら私達を《グロリオーサ》と《エディター》の仲間だと思っているみたいね」
大剣の少女が敵意を向けて来た事に疑問を抱いたエリーゼに筒地綾女が的確な解説を行っていた。遠巻きに、その様子を見つめるクレア、こまち、ひよりの3人からは、ハッキリと筒地綾女と大剣の少女の双方に対する不信感が見えていた。
「お生憎さまね。私達は、《グロリオーサ》の一員じゃ無いわ。キュウたんに頼まれて《グロリオーサ》と《エディター》を討伐しに来た《模範的な魔法少女》よ」
大剣の少女に対する筒地綾女の答えにエリーゼ達4人は、《何を言っているんだ?》と言う表情を見せたが、筒地綾女は、構う事無く話を続けた。
「見た所、《グロリオーサ》からの脱走者でしょう?私達の存在が《グロリオーサ》にバレルのは、困るのよねえ。ここであなたを殺すのもアリよね」
「筒地さん!」
クレアが制そうとしたのをエリーゼが片手を上げて止めるとそのまま沈黙を続けた。
大剣の少女に武器である箒を突き付けながら語り続ける筒地綾女の出方を見る。エリーゼ達の考えをそう捉えた筒地綾女は、話を続けた。
「でもね、私達に協力してくれるなら、あなたを見逃してあげても良いわよ。私達ならキュウたん、キュウべえとも交渉が可能なんだから」
「何を言って!?」
「さあどうするの?」
そう言いながら筒地綾女は、大剣の少女に選択を迫った。
最も一方的に武器を向けて強制的に自らが望む答えを引き出そうとする行動に選択肢があるとは、その場にいる全員が思えなかった。
○
《グロリオーサ》が拠点とする廃墟に怪しまれる事無く戻った大剣の少女は、廃墟の中に割り当てられた部屋に一度、戻った。
部屋と言っても店舗予定だった一区画にテントを張っただけだったが立派な個室ではあった。
廃墟の中は、《エディター》に洗脳されて従順にされた《魔法少女》が巡回をしている。
隠れて行動を起こす為の準備をする為には、個室に戻って手順を確認しなければならない。
筒地綾女と名乗った《魔法少女》と、その仲間4人に頼まれた事は、《グロリオーサ》と《エディター》を倒す為に廃墟の内部4ヶ所に受け取った《魔法の種》を仕込む事だった。
《魔法の種》の効果は、特殊な障壁を作り出して廃墟から出られない様にする効果だと筒地綾女は説明したが、大剣の少女は、その言葉を信じていなかった。信じてはいないが、《グロリオーサ》や《エディター》が、筒地綾女達に倒されれば追われる心配も無くなると言う考えに傾いていた。
(何でアタイがこんな事を・・・。でも《グロリオーサ》に追われるよりはマシだよな。あいつら5人なら一人ずつを狙えばまだ勝ち目がある・・・)
そう考えて自分を納得させると直ぐに廃墟の中を散歩する振りをして《魔法の種》を指示通りに廃墟の内部、4ヶ所に仕掛けた。建物が丁度、四角形の形である為、それぞれ四角の角に仕掛けて廃墟を包囲する形を取った。
幸い《グロリオーサ》と《エディター》は、廃墟の真ん中に作られた一際、警戒が厳重な本部とも言える場所に籠っている為に見張りに怪しまれる事が無ければ簡単に動く事が出来た。
今、この廃墟に《グロリオーサ》と《エディター》以外で残っている《魔法少女》は、逃亡する気概を持つ事も出来ず、そうかと言って反抗する勇気も無い惰性で残っている連中だけだからこそ誰も大剣の少女が何をしようと気にもしなかった。
準備が整うと大剣の少女は、携帯電話を取り出した。
この携帯電話は筒地綾女から預かった連絡用の品物であり普通に電話をする事が出来た。
けれど今、大剣の少女は、電話をする為に携帯電話を取り出した訳では無い。合図の為に筒地綾女に電話を掛けただけだ。準備が整ったら筒地綾女に電話をする。
筒地綾女は電話に出ない。それはつまり電話が切れたと同時に作戦が始まる合図だと言う事を大剣の少女は聞いていた為に周囲への警戒を始めて逃亡するタイミングを見計らっていた。
○
持っていた携帯電話に着信が来たのを確認した筒地綾女は着信を切ると隣にいたエリーゼに「初めて頂戴」とだけ言った。エリーゼは直ぐに持っていた自身の携帯電話から所定の位置に待機していたクレア、ひより、こまちの3人に予め用意していた未送信のメールを送信した。メールには「作戦開始」とだけ打ってある。
「送ったわ」と言うエリーゼの返答を聞いた筒地綾女は、直ぐに《魔法少女》に変身すると同時に魔法を発動した。
筒地綾女とエリーゼは、《グロリオーサ》と《エディター》が拠点としている廃墟の近くに魔力を抑えて潜んでいた。筒地綾女が大剣の少女に渡した《魔法の種》に仕込んだ魔法を発動させるのにギリギリの距離に潜んでいた。筒地綾女が魔法を発動させたと同時に魔力によって作られた障壁が廃墟を包み込んで行く。
それに合わせて廃墟を囲む様に外側3ヶ所からクレア、ひより、こまちの3人が《魔法少女》としての姿を現すと障壁に向かってクレアが手にした杖を伸ばした。杖の先から電撃が迸り障壁に向けて障壁を突いたと同時に増幅された電撃が障壁内部を駆け抜けた。
それに合わせるように、ひよりが手に持ったハープを奏でて戦慄の音色を奏でると音色が音符の形を取って障壁を潜り抜けて障壁内部を破壊して行く。
こまちも手に持った長刀を障壁の前で振るうと、切っ先から魔力で固定された斬撃が飛ばされ障壁内部へと吸い込まれ障壁内部を破壊して行った。
筒地綾女が大剣の少女に仕掛けさした《魔法の種》に仕込まれた魔法は、障壁の外側から放たれた攻撃を障壁の内側に威力を増して通す魔法だった。なお内部から攻撃をしても防ぐ盾の役割を果たす便利な魔法ではあったが燃費は最悪だった。
使用するには、筒地綾女の魔力では、四つの《魔法の種》を生成するのにグリーフシードを四つも使用したのだ。とてもでは無いがこうした障壁魔法が効果を発揮するのは、相手を囲い込んで殲滅する、《対魔法少女戦》以外には使い道も無かった。
最もこの魔法は筒地綾女の物では無かったが、今は、その事情を話す時では無い。
クレア達3人が障壁を通して《グロリオーサ》と《エディター》の配下である《魔法少女》のいる廃墟を攻撃するのを暫く静観していた筒地綾女とエリーゼだったが、障壁が効果を失うと同時に廃墟に向かって駆け出した。
同時に攻撃を行っていたクレア達3人は、魔力を絞って《魔法少女》としての気配を絶って一般人を装うと、その場を去って予め3人で決めていた合流地点へと移動していた。
廃墟への突入は、筒地綾女とエリーゼの二人で行い、直前の攻撃で魔力を消耗したクレアとひより、こまちの3人は、後詰として後方で待機すると言う作戦の通りに事は進んでいた。
廃墟の内部に侵入する筒地綾女とエリーゼの視界に先程の攻撃で倒れている《魔法少女》の姿が目に映ったが、気にする事無く2人を廃墟の奥を目指していた。
「随分と便利な魔法ですね。建物を破壊せずに内部にいる《魔法少女》にだけ攻撃を仕掛けられるなんて」
「ええ。でも燃費は最悪よ。正直、二度と使う気は起きないわ。来たわよ」
訝しげな様子を見せるエリーゼの感想に筒地綾女が答えたと同時に前方から武器を構えた《魔法少女》が4人程こちらに向かって来た。先程の攻撃で傷付いているが、分かりやすい殺気を2人に向けていた。
「エリーゼさん。頼めるかしら?」
「分かっています。では、あなたは、手筈通りに行って下さい」
右手から白い蛇の様な影=クラウドスネークを引き延ばしたエリーゼは、奥へ向かう筒地綾女と別れて武器を構えた《魔法少女達》に向き直った。
魔力も気力も十分な《ベテランの魔法少女》であるエリーゼに対して、大小様々な傷を負って魔力を消耗し切って精神的にも疲弊している《4人程の魔法少女》。
冷静に見れば勝敗は明らかだったが、逃げると言う選択をその場の誰も選ぶ事が出来ないのも明白だった。
「さて。恐怖と後悔に沈みたいのは、誰からですか?誰だって構いませんよ。結果が変わる事は無いんですから」
静かに語るエリーゼの表情は崩れない。
○
廃墟の真ん中にある本部にいる《エディター》と《グロリオーサ》を目指して筒地綾女は、迷う事無く進み、途中で襲い掛かってくる《魔法少女》の存在には、いち早く気が付いて迎撃して戦闘能力を奪うとその場に放置して先を急いだ。
この解析魔法は、筒地綾女の固有魔法では無く瑞光璃阿から奪ったソウルジェムを強引に接続して使用している魔法だった。しかし未だ半分位の能力しか発揮していないがそれでも十分な解析結果を提示していた。
(やっぱり便利ね。瑞光璃阿の解析魔法は・・・。この反応は?)
最近、感じ取ったばかりの反応を探知して筒地綾女は思わず足を止めて探知した方向を見つめるとそこには、大剣の少女が立っていた。けれどその様子は、先程仕掛けたクレア達3人の仕掛けた攻撃で全身に傷を負って武器である大剣を杖の代わりにしてやっと立っている様子だった。
「てめえ!アタイがこうなると分かってて攻撃したのか!?」
怒りと憎しみを筒地綾女に向けて来た大剣の少女だったが、筒地綾女にとっては、どうでも良かった。正直、生きていようと死んでいようとこれから先の事には何の影響も無い。
今の大剣の少女の状態では筒地綾女に勝てない事は明白だし《エディター》や《グロリオーサ》を壊滅させる事の方が重大だったからこんな言葉が口から出ていた。
「生きてたのね。じゃあさっさと逃げたらどう?逃げてくれるなら死なずに済むわよ」
「質問に答えろ!」
筒地綾女の答えに怒りを見せた大剣の少女に仕方なく筒地綾女は答えと行動を示した。
「そうよ。正直、死んでくれるならそれで良かったわ。でも生きているなら逃がしてあげるわ!」
筒地綾女は、そう言って大剣の少女に近づくと同時に魔力を一点集中して大剣の少女を胸から蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた先には窓があり大剣の少女は、そのまま落下して行った。
「これで生き残れたんだから良いでしょう?返事はいらないわ」
そう言い捨てると筒地綾女は、再び廃墟の真ん中に位置する本部を目指した。
一方で筒地綾女に蹴り落とされた大剣の少女は、傷付きながらも生存していた。怒りと憎悪で顔を歪ませていたが、今の状態では、どうする事も出来ないと判断してその場を離れる選択をして、ゆっくりとだが廃墟から離れていった。
「筒地綾女・・・。いつか、必ず復讐してやる・・・」
口から零れた言葉は自ら発した物だが声に出したと同時に復讐心は、燃え上がった。
大剣の少女は、この後、筒地綾女の事を調べ《魔女》を引き寄せる《右目の呪い》を持った少女、朱奈の存在に行き着いた。
けれど大剣の少女の復讐は、果たされる事は無く残された怒りと憎しみの矛先は、自然と朱奈へと向けられたが、行き場を失った憎しみは、朱奈にぶつけるだけでは収まらず周囲の《魔法少女》へと拡散し本人が知り得ない間に巡り巡って自らの首を絞める事になるとは、思いもしなかっただろう。大剣の少女の願いを象徴するソウルジェムの輝きが珍しかったが故に。
大剣の少女が姿を消したと同じ頃に筒地綾女は《エディター》と《グロリオーサ》のいる本部へと辿り着いていた。筒地綾女の足元には、護衛だったと思しき《2人の魔法少女》がいたが、既に戦闘力を奪われて沈黙していた。本部の入り口前には、悔しそうな表情を見せる《エディター》の姿が筒地綾女には滑稽に映っていた。
「久しぶりにあなたと戦ったけど、随分と弱くなったわね。《エディター》。さっさと降伏して《グロリオーサ》を引き渡してくれないかしら?」
「・・・・・・・・!」
筒地綾女の言葉に魔力を消耗した《エディター》が何か反論するが、何を言っているのか早口過ぎて聞き取れない。話を聞くつもりは無かったが。
「もう良いわ。悪あがきをしないで。今のあなたじゃあ《グロリオーサ》をコントロール出来ないでしょう。私ならあなたよりも有効活用出来るわ。だから、あなたを倒して奪うから」
筒地綾女が《エディター》に向けて歩を進めた時、咄嗟に《エディター》は、右手に魔法陣を出現させると本部の入り口に向けて右手を向けると同時に魔法陣は消滅した。
《エディター》は、筒地綾女に表情を向けていた。その表情は、歪んで勝ち誇った笑みを作っていた。
同時に本部の入り口から魔力の放出が起こった。筒地綾女にとっては、何が起こったのかは、容易に想像が付いていたが、思う通りの結果が得られるのかは、博打その物だった。
だからこそ望む結果に誘導する為に、出来るだけの手を打っていた。
本部の壁が崩れ落ちて《エディター》の魔法によって操られている《グロリオーサ》を構成する瑞光璃阿を中心とした数人の魔法少女達の姿が筒地綾女の瞳に映ったが直ぐに《グロリオーサ》は、魔力を放出させて廃墟の天井を魔法で強引に破って何処かへと飛び去ってしまった。
《グロリオーサ》が飛び去った方向を少しの間、見ていると《エディター》が勝ち誇った笑い声をあげていた。
「《グロリオーサ》は私の手の届かない所に暴走させて飛ばした。作戦が失敗して残念だった・・・。と言いたげね」
その時、初めて《エディター》は、筒地綾女が言葉を選び語りながらも冷静さを失わずにいる事に気が付いた。悔しさや焦りと言った様子を一切見せていないのだ。
「どうして驚かないのと言いたげね。教えてあげるわ。私の目的は、《グロリオーサ》を奪って手駒にしようなんて事じゃ無いわ。私の目的は、《エディター》。あなた、その物なんだから」
冷めた視線を向ける筒地綾女の言葉に驚愕の表情を見せた《エディター》は、反射的に逃亡しようとしたが、筒地綾女の動きの方が速かった。逃亡しようとした《エディター》の前に瞬時に跳躍すると同時に右手に魔力を集中させた。
「トッコ・デル・マーレ」
呟きながら《エディター》の体からソウルジェムを奪い取った。と同時に《エディター》の肉体は死亡してしまった。魂であるソウルジェムは健在だが。
本来なら《魔法少女》は、ソウルジェムが肉体から離れても100メートル以内ならば意識を失う事は無い。魔法が一時的に使えなくなるだけだ。ソウルジェムと肉体を再度、密着させれば魔法を使う事は出来る。筒地綾女が使用した魔法、トッコ・デル・マーレは、自身の魔力でソウルジェムを包み込む事でソウルジェムと肉体との繋がりを強制的に断ち切る事が出来る、《対魔法少女用の魔法》だった。ソウルジェムと肉体の繋がりを強制的に断ち切られれば、《魔法少女》は意識を失い肉体もソウルジェムも無防備な状態となり勝敗を簡単に決する事が出来る。
最もこの魔法は筒地綾女のオリジナルでは無く、あすなろ市で活動する《プレイアデス星団》のメンバーが使用する魔法を、キュウべえからデータを提供させた筒地綾女が《エディター》との戦いの為に再現した物だ。本物よりも魔力消費量は多いが、威力は同等。
至近距離でしか使えないが、《対魔法少女戦》に特化していれば仕方の無い事だと割り切って使っていれば気にならない事ではあったが・・・。
「あなたには私の役に立って貰うわ」
右手で握りしめた《エディターのソウルジェム》に語りかける様に告げながら筒地綾女は、左手に魔力を集中すると携帯電話が現れると、器用に片手で操作すると電話を掛けた。
掛けた相手は、エリーゼでもクレア達3人でも無い。
『目的は果たせた様ですね。様ですね』
電話を掛けて直ぐに掛けた相手である《安藤すずか》が筒地綾女の背後に何時の間にか実体化していた。この原理は筒地綾女でも簡単に推理する事が出来る。まず筒地綾女の使っている携帯電話は、《安藤すずか》から買い取った魔法によって改造が行われた携帯電話だった。魔法によって電話やメールを電話会社を経由せずに割り込む形で行う事が出来る《魔法少女》にしか使えない海賊品とも言えた。この携帯電話から《安藤すずか》に電話を掛ければ、発信源を割り出してアバターを実体化すると言う手筈の魔法なのだろうと思っていた。
『お陰で弊社も大儲けですよ。大儲けですよ』
「あなたが儲けるかどうかはあなた次第よ。まあこれだけの《魔法少女》がいれば材料には困らないでしょう?」
『そうですね。そうですね。これだけあれば色んな武器やドレスを作って売る事が出来ますよ。出来ますよ』
そう言いながら《安藤すずか》は、先程、筒地綾女が倒した二人の内、一人の《魔法少女》の傍によって手を翳して魔法陣で包み込むと魔力を注ぎ込んだ。
その瞬間に、《魔法少女》の肉体は、その身を包んでいた魔法少女としての姿のを司るドレスへと同化してしまっていた。更にソウルジェムは、その《魔法少女》が使っていた武器へと変化してしまった。しかし筒地綾女の目にはただ同化や変化しただけで無い事が分かっていた。ドレスに関しては、《魔法少女》の肉体と同化した事で強度が、跳ね上がり身に纏えば全身を流れる魔力が流れ易くなっている事が実感出来るだろう。
武器に関してはソウルジェムが直接、変化して強化された武器なのだ。威力が跳ね上がるのは、製造過程を見ていれば分かる事だった。
『おっと。逃がしませんよ。逃がしませんよ』
《安藤すずか》は、商売に関してはシビアな性格でもあり逃げようとした《もう一人の魔法少女》を見逃す程、甘くは無い。《もう一人の魔法少女》もまた、武器とドレスに変化させられてしまった。
「相変わらず不気味な製造工程ね」
『勘弁して下さい。弊社はこれで生き残って来たんですからね。来たんですからね」
「そうね。私は、約束通り《エディターの死体とソウルジェム》が貰えれば良いわ」
『分かってます。分かってます。それが契約ですからね。契約は守ります。守ります」
《安藤すずか》と筒地綾女が交わした契約。それは、《グロリオーサ》と《エディター》の討伐の際に《倒した魔法少女》は《安藤すずか》の物に。
《エディターの死体とソウルジェム》は、筒地綾女が受け取ると言う契約となっていた。
なお《グロリオーサ》に関しては、その戦闘力の高さからチャンスがあれば捕縛して《安藤すずか》の物となる予定であったが、元から捕縛は難しいと筒地綾女と《安藤すずか》の意見は一致していた。
この地域の近辺では、既に《グロリオーサ》と戦える様なチームは、存在していなかった。だからこそ今回の様なピンポイントの襲撃戦を選ばざるを得なかったとも言える。
《エディターの死体とソウルジェム》を求める筒地綾女と《多くの魔法少女の死体とソウルジェム》を求める《安藤すずか》は、計画を考える上でお互いの欲しい物を把握した上で計画を立てていた。
「エリーゼさん達のチームには、随分と役にたって貰ったわね。せめてお礼の品位は、渡さないとね」
『元々の計画では、《グロリオーサ》と戦って貰う予定でしたから、戦わずに済んで運が良いですね。良いですね』
《安藤すずか》の言う通り、当初の予定では、エリーゼ達、4人のチームと《グロリオーサ》を戦わせて漁夫の利を狙うつもりでもいた。でも復讐心に凝り固まった《エディター》は、筒地綾女が《グロリオーサ》を奪いに着たと勘違いして《グロリオーサ》を奪わせない為に何処かへと解き放ってしまった。
「だから本当にあなた達は、運が良いのよ。エリーゼさん?」
「気付いていたんですね」
解析魔法で存在に気が付いていた筒地綾女が声を掛けるとエリーゼは直ぐに柱の陰から姿を現した。その表情は酷く不信感に満ちている。先程の会話を聞いていたのなら仕方の無い事だと筒地綾女は思った。
「一つだけ教えて下さい。私やクレア達が、あなた達の言う通りに《グロリオーサ》と相討ちになったらどうするつもりだったのですか?」
「決まってるじゃない。すずかに引き渡す予定だったわ。良い材料になりそうだし」
筒地綾女の答えにエリーゼは、右腕から白い蛇の様な影、クラウドスネークを展開させていた。そんな状態にも関わらず《安藤すずか》は、興味が無いのか二人の様子を静観していた。
「よりにもよって《安藤すずか》とあなたが手を組んでいたなんて・・・。最初から私達を捨て駒にするつもりだったのね」
怒りを見せるエリーゼに対して何か答えようとした筒地綾女だったが、捨て駒にするつもりだったのは確かだった為、特に反論をしようとは思わなかった。だからこれ以上の無益な争いだけは終わらせる事にした。
「その事に反論は無いわ。だから報酬を渡すから、それで引き下がってくれないかしら?」
そう言ってポケットから取り出した紙製の箱をエリーゼに投げ付けた。クラウドスネークを使って器用に受け取ったエリーゼだったが、直ぐに中を確かめなかった。
「これは、何ですか?」
「あなた達、4人の働きに対する報酬よ。これに関しては、私も約束を破るつもりは無いわ。中身は約束通りの品物よ」
筒地綾女の言葉を聞いてエリーゼは、箱を開いて中身を確かめた。確かに約束通りの品物が入っている。これ以上の戦いは無駄にしかならないとエリーゼにも思えて来た。
「分かりました。今回は、引きましょう。そしてこの報酬である4つのグリーフシードは、約束通り頂きます。ですが・・・。筒地綾女。私は、いえ。私達は、二度とあなたや《安藤すずか》には会いたくありません!あなた達の様な《最低の魔法少女》には!」
「まあ当然よね。それで良いんじゃ無いかしら?」
馴れた反応を軽く流した筒地綾女にエリーゼは、軽蔑の視線を見せながら去って行った。
「じゃあ私も行くとするわ。すずか。後は大丈夫なんでしょう?」
『ええ。弊社はこれから大忙しですよ。感謝感激雨あられですね。ですね』
見ると《安藤すずか》は分身して散って行った所だった。恐らくエリーゼやクレア達が倒した《魔法少女達》を、武器やドレスに変化させに行ったのだろう。
『綾女さん。一つ質問を良いですか?良いですか?」
その場に残った《安藤すずか》の一人が、話しかけて来た。
「何かしら?」
『瑞光璃阿のソウルジェムの中にある《任意の自らが選んだ相手を自らの指揮下に相手から進んで入り忠誠を誓う能力》を使えば《グロリオーサ》を操れたんじゃ無いですか?無いですか?』
「それは出来ないわ。下手に瑞光璃阿のソウルジェムを刺激する事でもし意識を目覚めさせて《忠誠を誓う能力》が発動されれば私やあなたも指揮下に加えられる事になるわ。私だって自由意思でいたいのよ。あなただってそうでしょう?」
『それもそうですね。そうですね。弊社は、常に自由な商売を志しているので。いるので』
「分かってくれたのなら良いわ。また会いましょう。すずか」
『今後とも御贔屓にお願います。お願いします」
《エディターの死体とソウルジェム》を持って筒地綾女は、廃墟の出口へと歩を進めた。
進みながらこれからの事を考える。
(ようやく手に入った《エディター》の死体とソウルジェム。これさえあれば・・・。朱菜に寂しい思いをさせずに済むかも知れない・・・)
《ワルプルギスの夜》から逃亡する事を経験して筒地綾女は自身の死を強く意識する様になっていた。だからこそ自らが奇跡で生み出した、愛する存在、朱奈に寂しい思いをさせない為に自身の延命策を練っていた。
(編集する魔法を使う《エディター》をベースに、《エディター》を私、自身、その者に編集する。そして《プレイアデス星団》の行っている実験を参考にすれば私をもう一人、作る事が出来る筈・・・)
そう。筒地綾女の真の目的は、自分をもう一人作る事だった。仮に《魔法少女》である自分が《魔女化》しても、戦いの中で戦死したとしても朱奈の事を守る為に・・・。
最も筒地綾女自身は、この実験が上手く行くとは、何故か思えなかった。
きっとそれは、個々の存在、個人と言う人格の独立性が関係していると思っていた。
この実験が後に筒地綾女の行った他の実験を施された人物と出会う事で引き起こされる事件の始まりとなるとは、この時点で、筒地綾女が知る事も無かったのは、幸せだったのかも知れなかった。
大剣の少女に憎しみを抱かせ、エリーゼ達4人からは、軽蔑の感情を。
《安藤すずか》は、多くのドレスと武器を手にし、筒地綾女は、《エディター》その物を手に入れた。
飛び去った《グロリオーサ》の行方は誰も知らない。
愚かな戦いはこうして終わりを告げた。
それぞれの物語は、辿り着くべき結末へと流れて行く。
川面を流れる落ち葉が何時か海に呑まれて行く様に・・・。
「でも・・・。《エディター》は、後、何人いるのかしら?多くは無いけれど何人かは存在する筈。倒しても、やがて再び現れる。前の時もそうだった様に。何か私達の知らない方法で《エディター》を、増やす方法があるのかも知れない。ソウルジェムを調べても、その方法だけは記憶から消されていた・・・。また《エディター》との戦いが始まるのならその方法が分かるかも知れないわね。だから《エディター》。私、筒地綾女は、何度でもあなたと戦ってあげるわ。あなたに編集された《魔法少女》の1人として」
今回の話は執筆中のじゅりあ☆くりすマギカのプロローグとも言える話です。
また登場するキャラクター、エリーゼ、クレア、こまち、ひよりの4人は、魔法少女まどか☆マギカモバゲーに登場するオリジナルキャラクターです。
安藤すずかは、魔法少女まどか☆マギカオンラインの広報担当とされるキャラクターです。
彼女達、5人の設定は、判明している事柄以外は作品用に創作しました。
なおこの話が、外伝扱いなのは、朱奈が登場しないからです。