偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA   作:ジャックノルテ

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世界再編の章
第1話 まだ・・・。やれる事があるわ・・・


 公園のベンチに座る私の意識は闇の中に沈もうとしていた。

 もう直ぐ私は《魔女》になる。

 予感に身を委ね無駄な抵抗をせず、ただ運命を受け入れる。

その時、声が聞こえた。

 

 

「諦めないで!」

 

 

 それは私が今まで聞いた事が無い優しさに溢れた声だった。

 薄れていく意識の力を振り絞って私が目を開いた時、目の前にピンク色の光が現れ、《ピンク色の髪を生やした少女》へと変わった。

(魔法・・少女・・・?)

 直感的に私は目の前に現れた《ピンク色の髪を生やした少女》が自分と同じ《魔法少女》だと思えたが奇妙な事に目の前に存在するにも関わらず存在感と言った物を感じ取る事が出来なかった。

 奇妙な現象に好奇心を抱きながらも私は身体を動かす魔力を残していなかった。

《ピンク色の髪を生やした少女》が優しい表情で私の左手に手を伸ばすと、左手の中にあった赤と青の二色に輝く私のソウルジェムを浄化した。

 驚く私だったけれど何故か物凄く安らいでいる私も存在していた。

 安堵した私は手の中にあったソウルジェムが消えて行くのを受け入れていた。

 このままでは《魔女》になれずキュウちゃんとの約束が果たせないと言う思いが頭の中を掠めたけれど慈愛に満ちた《ピンク色の髪を生やした少女》が持つ安らぎには勝てなかった。

(今はこの安らぎを受け入れたい。《魔女》になる前に少し休憩したって良いでしょう?キュウたん)

 キュウたんからの答えは無かったけれど私はキュウたんがきっと許してくれると思い目を閉じた。

 

「ここは・・・。何処?」

 今、私は虚空としか形容の出来ない空間に浮かんでいた。

 周囲を見渡して見たが、私はただ浮かんで流されるだけだった。

 その時、周囲の虚空に何かが映り込んで来た。

 写り込んで来たのは何処かを映した映像らしかったが一つ一つは異なる物を映し出しており全てを把握するのは困難だった。

 けれど私は1つの映像に引き寄せられて行った。

 引き寄せられた映像が私の目の前に広がって行く。

 始め、映像に映り込んで来たのは《異形の腕》だった。

「《魔女》の腕・・・?」

 私の持つ《魔法少女》としてのカンが、画面に映る《異形の腕》を《魔女》の腕だと断じていた。

 あの独特の禍々しさなら間違いないだろう。

 その時、映像に1人の少女が映し出され私は自分の感情が大きく高ぶるのを感じ取った。

「朱奈!?」

 映像には朱奈が映っていた。

 映像の中では《異形の腕を持つ魔女》の腕が朱奈に掲げられていた。

 同時に私は自分の右手に奇妙な感覚を覚えた。

 まるで何かが流れ込んでくる様な感覚・・・。

 映像に呼応する様に・・・。

 でもその感覚には違和感が存在していた。

 呼応・・・。

 

 まさか!?

 

 頭の中に1つの考えが真っ直ぐな道となって形成されて行くのを私は感じる事が出来た。

 もしかしたらこれは、《魔女化》した私の視点から映る映像なのかも知れないと思えた。

 では私の魂はどうなっているのだろう?

 ソウルジェムがグリーフシードに変化する際に消滅するのは無いだろうか?

 そう思っていると映像の中では《異形の腕を持つ魔女=私が変化した魔女》が大きく腕を振り回していた。

 映像の中の朱奈は虚ろな瞳を私に向けている。

「朱奈!逃げなさい!朱奈!」

 振り回される《異形の腕》に何か危険な動きを感じて私は叫ぶ。

 けれど映像の中にいる朱奈に私の言葉が届く事は無い。

「朱奈!お願い。聞こえて!」

 届く筈が無くても私は叫び続けていた。

《私が変化した魔女》が左腕を朱奈に向かって振り上げた時、私は呪いとは関係無く《私が変化した魔女》が朱奈を殺してしまうかも知れないと予感してしまった。

 目を背けたかった。

 でも目を背けられない。

 見たくなくても私は目撃してしまう。

 その時、《私が変化した魔女》の左腕に黄色い布が幾重に撒き付き左腕だけで無く全身を押さえられた様だった。

 同時に朱奈の身体に黄色い布の様な物が巻き付かれ《黄色い髪の魔法少女》が朱奈を手元に引き寄せようとしていたのが目に映った。

《黄色い髪の魔法少女》が以前、目にしたかも知れないと頭に過ぎったがこの際、朱奈が無事ならどうでも良かった。

 でも《私が変化した魔女》は力任せに黄色い布を引き千切ると《黄色い髪の魔法少女》に向かって走り出すと同時に跳躍した!

《黄色い髪の魔法少女》が手にした銃を1発、撃って来たがそれだけでは《私が変化した魔女》は止められない。

《私が変化した魔女》が《黄色い髪の魔法少女》に迫ろうとした時、《黄色い髪の魔法少女》の足元に引き寄せられていた朱奈が虚ろな瞳のままでゆっくりと立ち上がった。

己の身体を盾にする様に両手を広げて《私が変化した魔女》の前にその身を晒していた。

「駄目よ!朱奈!」

 叫んでも無駄だと悟っても再度、叫ぶ。

 映像は私の心情を無視して先へ進む。

 朱奈の顔の右半分に《私が変化した魔女》の鋭い爪が食い込み、顔から血をダラダラと流して朱奈はそのまま地面に倒れた。

 驚き、私は叫べなかった。

 ただ呆然とした。

 無情な映像は私の心を無視して先を映し始める。

《私が変化した魔女》が何かをされたのか身体のバランスを崩してしまう。

 視界には新たに現れた《黒い髪の魔法少女》が目に入った。

《黒い髪の魔法少女》と《黄色い髪の魔法少女》は何事かを話すと《私が変化した魔女》に向かって攻撃を仕掛けて来る。

《黒い髪の魔法少女》が手にした銃で《私が変化した魔女》を撃ちながら横へ回り込むと何かを投げて来た。

 直後に起こった爆発で爆弾だったと悟るも正面にいる《黄色い髪の魔法少女》は再度、《私が変化した魔女》を拘束すると新たに出現させた巨大な銃を私に向けて来た。

 巨大な銃からは膨大な魔力が感じられこれなら《私が変化した魔女》を殺す事が出来そうだった。

「殺して」

 無意識に私の口から出た言葉に呼応する様に《私が変化した魔女》は膨大な魔力の閃光に飲まれた所で映像は終わった。

 暫く私は呆然としていた。

「今のは・・・。何なの・・・・・。あれは・・・。事実なの・・・・。朱奈はどうなったの・・・」

「大丈夫。朱奈ちゃんは無事でいるから」

 その時、私に向かって優しい少女の声が聞こえて来た。

 声の方を振り返るとそこには私のソウルジェムを浄化した《ピンク色の髪の少女》が私の近くに出現していた。

「この世界の朱奈ちゃんは右目に傷を負ってしまったけど、呪いから開放されたから。綾女さんとの記憶を取り戻したけど、これからの事は、わたしと綾女さんが、決めなきゃ行けない事なの」

《ピンク色の髪の少女》の声には何故か真実味があり信じても良いかもしれないと思えた。

 朱奈が右目と引き換えに《右目の呪い》から解放された・・・。

 朱奈は傷付いたかも知れないが、《右目の呪い》が無ければきっと幸せに生きられるのかも知れなかった。

「ねえ。あなたは誰なの?」

 私はまず一番、気になっている事を聞く事にした。

「わたし、鹿目まどか。よろしくね。綾女さん」

 そう言って右手を差し出して来た。

 拒む事も無いと思ったので右手で握り返す事にする。

 どうやら《ピンク色の髪の少女》=鹿目まどかさんは私の事をある程度、知っているらしい。

 先程の会話において《右目の呪い》が解除される条件を知っていたかの様な言動を見せていたのが証明とも感じられる。

「鹿目さん。1つ聞きたいのだけど・・・。あなたは私の事を何処まで知っているの?」

 私の質問に鹿目さんは少し困った表情を見せた。

「えーとね。今の私は、《魔法少女》に関する事なら全て知っているかな?」

 何となく歯切れが悪い答えに聞こえていた。

「取り敢えず、順を追って説明してもらうと助かるわ」

「うん。じゃあ順を追って話すね。とても長い話になるけどここでは時間なんて関係が無いから・・・」

 私に促された鹿目さんは順を追って説明を始めた。

 それはとても壮大な願いを叶えた《魔法少女》の物語でもあった。

 余りに壮大で私の稚拙な思考では収まらない程だ。

 ただ1つ、確かなのは、《鹿目まどか》と言う1人の少女が、《全ての魔法少女》を救いたいと願い、キュウべえと契約して《魔法少女》となり、その願いを叶えたと言う事だった。

 破格の因果律を持つ《鹿目まどか》が願ったのは

 

 

「全ての《魔女》を生まれる前に消し去りたい。全ての宇宙、過去と未来の全ての《魔女》を、この手で!」

 

 

 と言う壮大な願いだった。

 鹿目さんの願いは叶えられ今、この宇宙は鹿目さんの定めたルールに従って再編されている最中だと説明された。

「そうだったの・・・。でも1つだけ疑問があるわ。鹿目さんはどうして私と朱奈を気にするの?」

 そこが一番の疑問だった。

 私と鹿目さんには面識が無い。

「それは・・・。わたし、こうなって初めて分かったんだけど、わたしは別の時間の中で朱奈ちゃんと出会ったの。《右目の呪い》に苦しむ朱奈ちゃんを助ける為にわたしは《魔法少女》になったけど朱奈ちゃんを救う事は出来なかった・・・。だから今度は私が朱奈ちゃんをせめて《右目の呪い》から救いたいの。世界が再編される今ならある程度、綾女さんの願いが反映される筈だから・・・。わたしじゃ無くて綾女さんの祈りでないと朱奈ちゃんを救えないから・・・」

 ようやく話が飲み込めて来た。

 それ程、物覚えが速い方では無い私でも話が理解出来て来た。

「私が朱奈の幸せを祈れば、それは反映されると言う事なのね?」

「でも・・・。朱奈ちゃんを存在させる為には綾女さんが《魔法少女》にならなきゃいけないの。時が来れば綾女さんは朱奈ちゃんの前から消滅してしまう・・・。残念だけどわたしにはそれしか出来なかったの・・・」

 鹿目さんは申し訳ないと言う様な表情を私に向けていたが私はそうは思わなかった。

 私が《魔法少女》となったのは愛する存在を生み出す為だ。

 そこに後悔は無い。

 朱奈に辛い別れを経験させてしまうかも知れないが人は生きて行く上で別れを経験しない筈が無い。

 私も酷く歪な形ではあるが家族と別れた。

 生きていれば私は朱奈より速く死ぬ。

 当然の事だ。

 辛い事や悲しい事を乗り越えてこそ人生は面白いと感じれる。

「鹿目さん。謝る必要は無いわ。私は、愛する存在が欲しかった。だから朱奈を生み出す為に《魔法少女》となった。そこに後悔は無いわ。それに私の祈りで朱奈が幸せになるのならそれで良いと思うわ」

 偽りの余地が無い気持ちを真っ直ぐに言い放つ。

 鹿目さんは少し驚いた表情を見せたけど私に向かって頷いた。

「じゃあ。綾女さん。朱奈ちゃんの為に祈りを・・・。どんな形で朱奈ちゃんが幸せになるのか私にも分からないけど、綾女さんの祈りは必ず叶えられるから・・・」

 鹿目さんの言葉を聞き私は祈った。

 

 ただ朱奈が幸せに生きる事を・・・。

 

「ありがとう。鹿目さん。私にチャンスをくれて。朱奈に幸せを与えるチャンスをくれて・・・。本当にありがとう」

「良いんです。わたしも朱奈ちゃんに救われたから・・・」

 鹿目さんが右手を差し出したので私も右手で握り返した。

 私と鹿目さんは天上へと上って行く様に何処かへと向かって行った。

 その時、目の前にある画面に朱奈が映りこんで来た。

 ショートヘアーで紫色の髪をした少女と楽しげに道を歩く朱奈。

 そこには私が望んだ・・・。

 幸せに生きる朱奈の姿が映っていた。

 その隣に私がいなくても構わない。

 幸せに繋がるのなら私は幾らでも私の消滅を受け入れる覚悟があった。

「朱奈。私はあなたを・・・。愛しているわ」

 朱奈の笑顔が綾女の気持ちを落ち着かせ私の意識は遠のいて行った。

 

 世界再編後

 

 後、どれ位、私は朱奈の傍にいられるのだろう?

 私の横で安らかな寝息を立てる朱奈の様子を見ながら私はずっと同じ事を考えていた。

 朱奈を作り出してから3年が経過して私のソウルジェムには無数の傷が走り穢れも十分に落とす事が出来なかった。

 円環の理に導かれるのもそう遠い日では無いのかも知れなかった。

 気掛かりなのは、私が召された後の朱奈の事だった。

《魔獣》を引き寄せる《呪いの右目》を持つ朱奈の事を考えるとこのままではいけないと言う思いが私を駆り立てる。

 けれど私の持つ魔法では現状、朱奈の右目に存在する《呪い》を消滅させる事は不可能だった。

 右目を取り除くと言う方法もあるが朱奈の右目を傷付けると言う行動にも私は嫌悪を抱き実行に移す事が出来なかった。

「どうすれば良いのかしら・・・・」

 迷い続け何も出来ない自分に嫌気が差す。

 そっと寝室を出てリビングに出てソファーに座るとテレビを付けた。

 最近、眠れ無い時はテレビを見て時間を潰す様にしていた。

 時間は深夜だがこのマンションは防音設備がしっかりとしているから問題は無かった。

 そこが暫くの間の住まいとしてこのマンションを選んだ理由でもあった。

 念の為にイヤホンを耳に付けてテレビのスイッチを入れてチャンネルを回すとドラマが放映されていた。

 

 幸せそうな男女が登場する恋愛ドラマらしかった。

 内容は何処にでもありふれた様な稚拙で斬新さの無い単純なドラマだった。

 特に目新しい内容は無いが私の心に引っ掛かるシーンが存在していた。

 それはヒロインの女性が心臓に病気を患っており自分は長く生きられないと告白するシーンだった。

 けれど相手の男性は絶望に陥っていたヒロインの全てを受け止めると宣言し2人は結ばれた。

 しかし直後に2人で出かけていると相手の男性は発作と共に死亡してしまった。

 けれど直ぐに男性からヒロインに心臓移植の手術が行われる事になった。

 実は主人公は既に余命を過ぎており何時、死んでもおかしく無かった事が判明する。

 遺言として自分が死亡したら自らの心臓をヒロインに移植する事も手筈していた。

 ヒロインは相手の男性から遺言ともとれる手紙にある一文に従いこれからの人生を歩む事にした。

 それは・・・。

 

「君が生きる事が僕の望みだから・・・」

 

 何と言う事も無い稚拙なドラマだ。

 でも私の頭に朱奈を救う為の筋道が示されたのは確かだった。

「そうよ・・・。まだ・・・。やれる事があるわ・・・」

 道は示された。

 後はただ進むだけ。

 その先に私が召される事が確実だったとしても・・・。

 私は茨の道を突き進むだけ。

 

 

 

 

「綾女ちゃん!嘘だって言って!綾女ちゃん!?」

「朱奈・・・。ごめんなさい。でも私はもう直ぐ死んでしまうの・・・」

 

 

 

 私はもうすぐ死ぬ。

これまで行って来た行為に後悔は無い。

他者を手に掛け人生を踏み躙り、ただ自分の欲望のままに魔法を使い続けた。

悔いは無い。

けれど1つだけ気掛かりな事があった。

朱奈の事だ。

私の胸の中で泣きじゃくる朱奈を1人にしてしまう。

その事がとても気掛かりだった。

《魔獣》を引き寄せてしまう《呪いの右目》を持つ朱奈の将来が不安だった。

 だから私は一ヶ月掛けて朱奈の持つ《呪いの右目》に対する対策を練っていた。

 既にテストは済んでいる。

 知り合いの《魔法少女》に協力を要請し既に魔法は完成していた。

愛する朱奈の為の最良の選択・・・。

(ここ一ヶ月の間、ずっと抱いていた難問に私は最良と思える選択をする事にしよう・・・)

 心にそう誓い少しだけ落ち着いた朱奈に言葉をかける。

「朱奈。これが私からの最後のプレゼントよ」

私は左腕に魔力を集中させた。

ここ一ヶ月における成果とも言える《魔法の種》が私の左手に出現していた。

「綾女ちゃん?」

驚いて私の方を向いた朱奈の右目に私は右手を添えると、残る魔力を注いで痛覚遮断を施した。

《魔法少女》が行う痛覚遮断を他者に施す魔法の応用技だった。

 同時に右目に痛覚遮断を施し私の右目は見えなくなった。

「何をするの!?」

驚く朱奈だったが私からは離れようとしなかった。

もう何も残らなくても良い。

ただ朱奈が生きてさえくれれば良いのだ。

朱奈を《右目の呪い》から開放出来れば良い。

私と朱奈の右目周辺の感覚を喪失したのを見計らい左手の《魔法の種》を握り潰した。

魔力から生じる光の帯が私と朱奈の右目の間を流れた。

流れに乗って私の右目と朱奈の持つ《呪いの右目》が互いの位置を入れ替える・・・。

新しい《魔法の種、交換の種(バック&フォースシード)》の効果によって私と朱奈の右目は痛み無く入れ替わった。

これが私の決意。

朱奈に施してしまった《右目の呪い》は私が背負い円環の理へ向かう。

「朱奈・・・。これであなたは《右目の呪い》から開放されたわ・・・。私の右目を持って生きて頂戴」

「これ・・・。綾女ちゃんの右目!?やだよ。わたし、1人で生きていたくない!綾女ちゃんと一緒が良い!」

 再び朱奈は目に涙を浮かべている。

 少しだけ手荒な説得が必要かも知れない。

「朱奈!」

私は朱奈の頬を左の平手で叩いた。

「!」

朱奈はハッとした顔となった。

叩かれた朱奈の左頬は赤く染まっている。

見る見るうちに朱奈の瞳には涙が溢れていた。

初めてだった・・・。

朱奈に手を上げたのは初めてだった。

凄く心に痛みが走った。

それを我慢して朱奈に言葉を続け説得を試みる。

「朱奈。私は《魔法少女》にとっての天国。円環の理に行くの。だから私は、そこからあなたの事を見守っているわ。だから・・・。自分の人生を生き抜きなさい」

「そんな!?わたし、1人になるのは嫌だよ」

「大丈夫よ。いつでも見守ってあげるから生きなさい」

満面の笑みで私は朱奈にそう告げた時、周囲に瘴気が走ったのを覚えた。

咄嗟に左手に《防御の種》を生成して地面に撃ち込むと私と朱奈をベンチごと魔力による防護壁が包んだ。

周囲には何時の間にか現れた《魔獣》が大挙していた。

「やっぱり現れたのね・・・」

 私はこの事を計算していた。

 朱奈は怯えて私に抱き付いて来た。

「私が《呪いの右目》を持ってしまえば、私に残された魔力と《呪いの右目》が共鳴して《魔獣》が現れるのは十分、予想していたわ。だから・・・」

 立ち上がり、私は《魔法少女》としての姿に変身すると武器である箒を構えた。

「これが私の最後の戦いよ!」

 そう言って私は防護壁を通り抜けて《魔獣》の群へと突っ込んで行った。

 この防護壁は私だけはすり抜ける事が出来る。

「綾女ちゃん!行かないで!」

 防護壁の中に残された朱奈の叫びがこだまする。

 箒を構えて次々と穂先を《魔獣》に向けて撃つ。

《魔獣達》は群を成しており前方にいる相手は難なく穂先を刺して消滅させる事が出来た。

 朱奈のいる方向から少しずつ離れると《魔獣達》は私に付いて来ていた。

(やはり《呪いの右目》を持つ私を狙っている・・・)

 追い駆けて来る《魔獣の群》に対して右手に出現させた《爆発の種》を投げ付けた。

(恐らく《右目の呪い》を通して私の感情が強力な臭いとなって《魔獣》を誘っている・・・。なら好都合!)

 爆発に飲まれた仲間を踏み躙り《魔獣の群》は再度、私に迫って来た。

 咄嗟に私は右手に魔力を集中するが《魔法の種》は生成されなかった。

(魔力切れ!)

 慌てながらも私はそのまま《魔獣の群》へと突っ込み目に付く《魔獣》を次々と箒の穂先で次々と切り刻んで行く。

 魔力の減りが速過ぎる。

 これもソウルジェムが限界と言う事なのかも知れなかった。

 とにかく《魔獣》を刻んで行くが箒の穂先は《魔獣》を刻む度に傷んで折れて行く。

「!」

 不意に放たれた《魔獣》の全身を構成する四面体から放たれた瘴気が私の身体を抉った。

「痛っ・・・」

 痛みに意識を失いそうになるので痛覚遮断をして瘴気を放った《魔獣》を叩き切る。

 今ので全ての穂先は失ってしまった。

 後は握り締める柄だけが、残された武器だった。

「綾女ちゃん!」

 朱奈が防護壁に持たれかかり私の方を必死に見ている。

 その表情は不安に押し潰されそうだった。

 瞬間、感情を沸騰させた私は残された魔力を一気に柄に集中すると足に力を込めて一気に跳躍し再び《魔獣達》に接近すると同時に思いっきり叩き切る!

 必死に武器を振り回す。

 自分の身を顧みず、ただ、ただ、武器を振り《魔獣》を倒し続けた。

 戦いの中で魔力はどんどん消耗して行く。

 それだけ私が召されるのが誓いと言う意味なのかも知れなかった。

 もう迷いは無い。

 例え私が《魔獣》に敗れて殺されたとしても朱奈だけは助かる様に手は打ってある。

 だから私は迷わない。

 目の前の戦いに全ての意識を向ける事が可能だった。

 残る全ての魔力を体の中で凝縮した時、《右目の呪い》が突如として動き出した。

「なっ!?私の魔力に反応している!?」

 不意に生じた異変に私が足を止めてしまった時、《魔獣》の放った瘴気が私の身体を次々と貫いた。

 膝から崩れ多量の血を流して私は倒れた。

 動かない事は無いが身体の反応が鈍かった。

《魔獣》が近付いて来るのが私にも分かる。

「綾女ちゃん!?起きて!綾女ちゃん!?」

 朱奈が必死に私に呼び掛けるが私は答える事も出来なかった。

 けれど私の中では既に勝利の方程式は組み上がっていた。

 この《魔獣の群》を倒すにはもうこれしか手段は存在しない。

 再度、魔力を凝縮する。

 今度は《右目の呪い》が発動しようとお構い無しだ。

 次いでテレパシーを朱奈に向けた。

 もう言葉を交わせる距離では無い。

 朱奈と最後に言葉を交わすのはテレパシーでなければ不可能だった。

(朱奈・・・。お願いだから生きて・・・。生き抜くと約束して・・・)

私のテレパシーを受けた朱奈は苦悶の表情を見せた。

嫌々する様に首を振っていた。

(お願い・・・。これが私の最後の願いよ)

 もう一度、朱奈にテレパシーを送った。

 それを聞いた朱奈は苦悶の表情を浮かべていたが・・・。

 やがて泣きながら頷いた。

(分かった・・・。約束する・・・)

(朱奈・・・。今まで一緒にいてくれてありがとう・・・)

 もう思い残す事は無い。

「綾女ちゃん!?」

朱奈の叫びが耳に聞こえた。

同時に私は笑みを浮かべて立ち上がると胸のソウルジェムを外すと限界まで魔力を高め箒の柄に取り付けた。

「これで良いのよ!呪いは私と共に消える」

 私に向かって来る《魔獣》に向けて私は己の魔力全てを解放して駆け出し地面に向かってソウルジェムを取り付けた箒の柄を思いっきり叩き付けた!

 同時に凄まじい爆発が起こった。

 その場に現れていた全ての《魔獣》が爆発に飲まれ消滅して行った。

 私の身体も消滅して行くのが感じられる。

 防護壁の中にいる朱奈が無事なのは分かっている。

 だから私は思い残す事無く・・・。

 

 

 

 

「綾女ちゃん!」

 防護壁の中からわたしは《魔獣》と一緒に大きな爆発に飲まれる綾女ちゃんの姿に向かって叫び続けた。

 笑みを浮かべた綾女ちゃんは答えてくれなかった。

 爆発が収まると同時に防護壁は消滅した。

 わたしは1人、ポツンと公園に取り残された。

 公園は《魔獣》と綾女ちゃんの戦いの影響で凄まじい状態だった。

 地面はグチャグチャにされ遊具は折れ曲がり周囲の木々にはちらほらと火が付いている。

 途方にくれながらもわたしは綾女ちゃんが爆発に呑まれる直前までいた場所に向かった。

「綾女ちゃん・・・何処?私を1人にしないで・・・」

 周囲を見渡しても綾女ちゃんの姿は何処にも無かった。

 その時、綾女ちゃんが立っていた場所に何かが光ったのが見えた。

 慌てて走ろうとして躓いてしまった。

 痛かったけど我慢してわたしは再度、走った。

 綾女ちゃんが立っていた場所にはわたしが見慣れた棒切れの様な物が落ちていた。

「これ・・・。綾女ちゃんの箒の破片・・・」

 私が拾おうとすると箒の破片は、その形を維持出来なくなり砂の様に崩れてしまった。

 箒の破片が崩れた事でわたしは認めたくない事実を認めなきゃいけない事実が付き付けられた。

 綾女ちゃんは死んでしまった。

 わたしを《右目の呪い》から解放する為に自分の右目と《呪われた右目》を魔法で交換して《魔獣》との戦いで死んでしまった。

 この場に1人、取り残されたわたしは途方にくれていた。

「綾女ちゃんは円環の理に行ってしまったの?」

 1人呟くわたしの声には誰も答えない。

 でもわたしは綾女ちゃんの魂が円環の理と言う天国に向かったと信じたかった。

 今までずっとわたしを守って戦ってくれたから・・・。

 心の中には綾女ちゃんからのテレパシーが今でも声となって響いている。

(朱奈・・・。お願いだから生きて・・・。生き抜くと約束して・・・)

(朱奈・・・。今まで一緒にいてくれてありがとう・・・)

 綾女ちゃんからのお願いもあってわたしには、後を追うなんて気持ちは芽生えていなかった。

 綾女ちゃんと生き抜くと約束を交わしたから。

 だから・・・。

 わたしは生きる。

 たとえどんな苦しみがこの先に待っていようと生き続けると決めた。

 自分の右手で右の頬をなでる。

 わたしの右目は綾女ちゃんの右目・・・。

 きっとこの右目を通して綾女ちゃんはわたしを見守り続けてくれる。

 そう思うと少しだけ安心感を得られた。

 心に決めた強い決意を言葉にする。

 そうする事で決意を固める為に・・・。

「綾女ちゃん・・・。わたし・・・。生きるよ。これからの人生を生き抜いて見せるよ・・・」

 わたしは始めて自分の心に強い決意をしていた。

 




鹿目まどかの祈りが世界を書き換えた結果、綾女と朱奈の運命も書き変わりました。
この別れは最初から決めていた事でした。
綾女と朱奈は離れ離れになりましたが話は後、少しだけ続きます。
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