偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
読み込んで描写を取り込もうとするから・・・。
「そう。そうだったのね。私は朱奈の為に祈っていた。世界が書き換わる寸前にせめて朱奈が幸せに過ごせる様にと祈っていた・・・」
円環の理に召されて綾女は全てを悟り思い出していた。
思い出すのではなく付け足されたと言うのが正解かも知れなかった。
幾つもの時間軸に置いて朱奈の幸せを願い果たす事無く《魔女化》してしまった事を・・・。
「朱奈。あなたの幸せを、私はここから見守っているわ・・・」
《全ての魔法少女》の魂が行き着く最後の場所。
円環の理。
今、筒地綾女は戦いを終え円環の理に行き着いていた。
そして思い出していた。
失われた時における自らの歩みを・・・。
それが良い事であれ、良くない事であれ、綾女にとっては自分の大切な通過点だった。
朱奈の幸せを願う思いの根源でもあった。
もう綾女が戦う事は無い。
ただ愛する朱奈を見守り続ける。
それが筒地綾女の愛の証だった。
○
夕方の公園で一組の少年と少女が歩いていた。
2人は歩調を会わせて楽しげに会話しながら歩いていた。
少年の方は松葉杖を付いており足に何か不具合があるのか見て取れる。
しかしそれでも歩調はしっかりとしており傍目には問題が無い様に見える。
「上条君。手の具合はもうよろしいのですか?」
清楚な雰囲気を纏った少女、志筑仁美は隣を歩く灰色の髪を生やした少年、上条恭介に声を掛けた。
その声には教室でクラスメートと話す時とは違うトーンが混じっており仁美はそれを自覚していた。
それは自分でも抑えられない響きでもあったからだ。
「うん。大丈夫だよ。とても調子が良くて怖い位だよ。自分の体にこんな奇跡が起こるなんて・・・。世の中には本当に信じられない様な事が起こる物なんだね」
そう言って恭介は自分の右腕を感慨深そうに見つめていた。
実際の所、仁美の声がいつもとトーンが異なる事に恭介は何となく気付いていた。
けれど恭介はそうした音の変化を異性と話して恥ずかしがっていると思っていた。
恭介の仕草を見ながら仁美は自分の胸中に抱き、周囲の人間にも隠し続けていた思いがより膨れ上がるのを自覚した。
(この思いを告げるべきなのでしょうか・・・。でも・・・。それではさやかさんが・・・)
思いが膨れ上がる一方で同じく恭介の事を自分と同じ位、恋している親友の少女の顔が浮かんだ。
この所、クラブ活動(そう言えば何のクラブかは聞いていない)に打ち込んでいるのか一緒に帰る機会が減ってしまっていた。
今度、一緒に学校から帰る時にはこの思いに関して少し相談をした方が良いのかも知れない。
ただ相手が恭介である事を伏せて相談した方が良いと思えた。
「それにしても今日は学校が休みなのに志筑さんも大変だね。色々な習い事をしていると聞いたけど」
「そうですわね。でもきっとリハビリをしている上条君の努力には及びませんわ。私(わたくし)が習い事をしているのはお父様やお母様がそうした事を求めているから」
そこまで言って仁美は口を告ぐんだ。
思い人である上条君につい自分がひた隠しにしていた本音を口に出してしまった。
気恥ずかしさから仁美は口を閉じてしまい2人の間に沈黙が訪れた。
「お互い大変だね。両親の期待に答えるのは」
暫くして恭介は仁美にそう答えた。
恭介も両親、特に父親からはバイオリンの演奏家となる事を求められている。
確かに自分の意志でバイオリンを演奏しコンクールに出場するほどの技術を手に入れていた。
けれどほんの時々だが恭介も迷う時があった。
自分が本当にバイオリンを好きで弾いているのか?
ただ両親の期待に答えようとしているだけでは?
そうした迷いを感じる時もあった。
迷いを感じる度に恭介はバイオリンを弾き続けた。
引き続けている内に迷いがはっきりとした形となって明確に意識しやすくなる。
バイオリンを引き続けて恭介は自分がバイオリンを心の底から好きだから弾いていると確信したのは交通事故に会う直前の事だった。
だからこそ右腕が動かなくなった時の落胆は予想以上だった。
現代の医学では治療が不可能だと言われた時、鬱々とした反動から恭介はつい幼馴染の少女に心無い八つ当たりをしてしまった。
あれは自分の犯した過ちの中でも最も重い物だと感じている。
強い決意と確信を持った言葉で少女は、恭介に告げた。
「奇跡も魔法もあるんだよ!」
少女がそう告げた夜、奇跡は起こった。
動かなかった筈の右腕が動いたのだ。
その時に抱いた感動はとても言い表す事が出来る物では無い。
以来、バイオリンを弾く事に迷いを感じなかった。
ふと恭介が気付くと仁美は少し驚いた表情で恭介の方を見ていた。
「僕がこんな事を言うなんて意外かな?」
苦笑した顔を見せる恭介に仁美も笑顔を見せた。
「いいえ。でも私(わたくし)は、まだ色々と心に決めかねている事がありますの。でも逆に心に決めた事もあります」
思いは熱の様に高ぶる。
予期せぬ方向に火が燃え広がらぬ様に心を強く保ち仁美は恭介の方を今までに無い真剣さを抱いた目で見返した。
「志筑さん?」
植え込みの影で立ち止まった仁美の視線に変化が生じたのに気が付いた恭介が立ち止まる。
「私(わたくし)は」
「きゃっ」
「わっ」
意を決し、仁美が自分の胸中のままに言葉を紡ごうとした時、恭介の脇にある植え込みの影から《茶髪の少女》が歩いて来て恭介とぶつかった拍子に転んで同時に倒れてしまった。
幸い2人共、尻餅を着いた位で怪我をした様子は無かった。
「上条君!大丈夫ですか?」
出鼻を挫かれる形となった仁美だが、まず倒れた恭介に駆け寄った。
その声には他者を心配するトーンが混じっているのが、恭介には、はっきりと感じる事が出来た。
「僕は大丈夫だよ。志筑さん。それより君は大丈夫なの?」
恭介は自分とぶつかって倒れたの《茶髪の少女》に声をかけた。
良く見ると茶色の髪はおかっぱ状に切り揃えられ赤味がかっているがとても可愛らしい顔立ちをしていると恭介も仁美も思っていた。
《茶髪の少女》の横には一緒に歩いていた紫色の髪をショートカットにしている少年が助け起こしている。
「大丈夫なんか?朱奈」
その声は少年と言うよりも女性だけが持つ柔らかさを秘めた声であり恭介と仁美は《茶髪の少女》を助け起こしているのが《ショートカットの少女》だと確信した。
ボーイッシュな服装をしている上に鋭い目つき、ショートカットと言う髪形が性別を余計に分かり難くしていた。
ただ2人とも外見年齢で言えば恭介や仁美より下の世代に見えた。
「ごめんなさい。さっちゃん。わたしは大丈夫」
朱奈と呼ばれた《茶髪の少女》は、さっちゃんと呼ばれた《ショートカットの少女》に答えて立ち上がろうとすると顔を顰めた。
見ると転んだ拍子に左足の脛を切って少しだけ血が滲んでいた。
「まあ大変ですわ!直ぐに洗わないと!さあ向こうに水道がありますからそこで手当てして差し上げますわ」
そう言って志筑仁美は少女に手を差し伸べた。
朱奈は最初、さっちゃんと見比べて少しだけ躊躇ったが、さっちゃんが頷くのを見て緊張しながら仁美の手を取った。
「さあ行きましょう」
仁美は優しく朱奈を先導した。
その後を恭介とさっちゃんが付いて来ている。
「すんませんね。余所見していたもんやから」
紫色の髪をさらりと揺らしながら、さっちゃんは恭介に謝罪を述べて来た。
「いや。僕の方こそ道を塞ぐ様に立っていたのが悪かったんだよ。本当にごめんね」
「まあお互い様と言う事やね」
そう言ってさっちゃんは少し悪そうな笑みを浮かべていたが恭介には少し悪いのかも知れないと感じていたが告げるつもりは無かった。
4人は少し歩いて公園にある水道に辿り着いた。
近くにベンチがあり仁美は、まず朱奈をベンチに座らせると自分のハンカチを水で濡らして屈むと朱奈の左足にある傷に優しく濡れたハンカチで擦った。
「痛!」
「大丈夫ですか?でも少し我慢してください」
そう言って仁美は濡れたハンカチで朱奈の傷を丁寧に拭いた。
「ハンカチ・・・。汚しちゃってごめんなさい」
痛みに耐えているのか涙目で朱奈は仁美にそう言ったが仁美は気にしていなかった。
「気にする事はありませんわ。汚れたら洗えば良いんですから。後は・・・。何か乾いた布でもあれば良いんですけど・・・」
仁美が思案したのを見て恭介より先にさっちゃんは直ぐにポケットからハンカチを差し出した。
「これがお誂え向きやろ」
「まあ。ありがとうございます。それじゃあ傷に巻き付けますから動かないで下さいね」
さっちゃんはしてやったりと、言った顔を見せ仁美はハンカチを受け取ると朱奈の左足に丁寧に巻き付けた。
「お姉さん。ありがとう」
「良いんですよ。でも歩く時は周りを注意しなければ行けませんよ」
そう言って仁美は立ち上がって優しい笑みを見せていた。
ただ目の前にいる朱奈と言う少女が大きな怪我をしなくて安堵している仁美の姿が恭介には幼馴染の少女と重なって見えた。
(そっか。きっと同じ気持ちなのかも知れない)
恭介がそう思っていると朱奈が声を掛けて来た。
「お兄さん。ごめんなさい。私、よそ見してたから・・・」
朱奈はとても申し訳無さそう言った。
言葉の端々や悲しみを見せる表情を見ると恭介は朱奈に怒りを覚える事は無かった。
「いや。僕も周囲の注意を怠ったからお互い様だよ。まだ旨く歩けもしないのにね」
答えながら恭介は自分の杖を示した。
「お兄さんは足が悪いんか?」
さっちゃんが恭介に質問をして来る。
「うん。交通事故に合ってね。でも、もう直ぐ治るから大丈夫だよ。この杖とも、もう直ぐお別れかな」
恭介は感慨深げに自分が使う松葉杖を見ていた。
すると朱奈は意を決した表情を見せて仁美の方を見た。
「あの・・・。私、お姉さんに聞きたい事があるの!」
「何を聞きたいんですの?」
対して仁美はきょとんとした表情を見せていた。
突然、朱奈から話し掛けられても仁美はそれが答えられる範囲の質問であれば答えるつもりでいた。
「お姉さんは《魔法少女》ですか?」
朱奈の言葉に仁美と恭介は顔を見合わせてしまった。
脇で見ているさっちゃんは少し苦笑している。
仁美と恭介も釣られて苦笑しながら朱奈に向き直り答えた。
「ごめんなさい。私(わたくし)は生憎、魔法を使う事が出来ませんわ。だから《魔法少女》ではありませんわ」
仁美の答えを聞いて朱奈の表情に少し影が走った。
期待していた答えが得られなかったと言う表情だと仁美と恭介にも感じられた。
「お姉さん。お兄さん。ぶつかってごめんなさい。それから怪我の手当て、ありがとうございます。わたしとさっちゃんはもう行かなきゃいけないから」
「そやな。そろそろ行った方がええで。朱奈」
さっちゃんは右手の腕時計の時間を気にしている様だった。
「僕の方こそ悪かったね」
「怪我をしているからゆっくりと歩いた方がよろしいですわよ」
「お兄さん。お姉さん。ごめんなさい。わたし探してる人がいるから、もう行きます!さよなら!」
「迷惑を掛けてすいません。さあ行くで」
そう告げると朱奈とさっちゃんは、ゆっくりとした歩調で街の方に向かって手を繋いで歩いて行った。
遠目から見ると朱奈とさっちゃんは女の子同士とは思えず小学生のカップルの様にも見える。
「何だか不思議な女の子でしたわね」
仁美は恭介の横に立ちながら言った。
「うん。そうだね。でも《魔法少女》って何の事を言っていたんだろう?アニメの事を言っている訳でも無さそうだったし・・・」
そこまで言って恭介は仁美が自分の隣に来ている事に気が付いた。
こんな近い距離で仁美を見るのは初めてだった。
異性でこんなに近付いたのは幼馴染位だ。
「探している人がいると言っていましたし、探している人が《魔法少女》なのでしょうか?」
「きっとそうなのかも知れないね。だとしたら会えると良いね」
「はい。私もそう思います」
恭介と仁美はお互いの笑顔を向け合いながら本心からそう思っていた。
仁美は先程の感情の高ぶりを再び感じていたが、恋のライバルとも言える存在に対して自分が先んじるのは何か申し訳無いと思えて感情の高ぶりを押さえていた。
恭介と仁美。
2人の願いは叶えられ朱奈が探し人と会える事を恭介と仁美は知る事は無い。
○
1時間ほど前、見滝原展望台の展望室。
そこでは、恭介と仁美が出会った少女、朱奈とさっちゃんが2人で展望台から街を覗いていた。
「綺麗な街・・・。やっぱりこの街はキラキラしてる」
「そうやな。そこはウチも同感やな」
「前見た時よりもキラキラが増えてる感じがする」
「見滝原は再開発が活発やからな。どんどん真新しい建物が増えてるんやろ」
「夜空とどっちがキラキラしてるかな?」
「そうやな。地上から見る夜空じゃあ敵わないやろな」
他愛無い言葉を交わしながら2人は展望台から一所懸命に見滝原の景色を見ていた。
「さっちゃん。今日はわたしを誘ってくれてありがとう」
「別にええで。貰ったチケットを使わにゃ損やろ。そろそろ時間やし出るか?」
右手に付けている腕時計を見ていたさっちゃんが朱奈に告げると朱奈は頷いた。
「うん。そろそろ時間だね」
さっちゃんに先導されて朱奈は展望室を後にした。
2人は時間を気にしていたが今の時間は夕方に差し掛かった所だった。
「でも何処へ行ったら良いんだろ?」
見滝原展望台を出た朱奈は首を回して街の景色を見ながらさっちゃんにきいて見た。
正直な所、朱奈は夜に近い時間に路地裏に行けば良いのかな?と考えていた。
しかし電車や展望室から見た見滝原の風景を考えると闇雲に歩いて見つけられるのか不安でもあった。
「そうやな。とりあえずはウチが会った場所に行ってみるか?丁度、近いで」
さっちゃんは右手で左の方を指し示した。
「うん。行ってみよう」
そう言ってさっちゃんよりも先に数歩踏み出した朱奈だったが、直ぐに立ち止まり後ろにいるさっちゃんの方を振り向いた。
「さっちゃん・・・。出来たら・・・」
恥ずかしそうに俯いている朱奈を見てさっちゃんは直ぐに左手を差し出した。
「手、繋ぎたいんやろ?ほい」
慣れてる、と言う表情を見せながらさっちゃんは朱奈の右手を掴んで手を繋ぐとそのまま2人で歩き出した。
広い道では2人で手を繋ぎ横に広がって歩いていたが狭い道ではさっちゃんが朱奈を先導する形を取った。
手を繋いで歩く2人に気が付いた周囲の人が見せる視線は比較的、好意的だった。
朱奈は年相応な服装をしていたが幼い容姿の為に13歳と言う実年齢よりも2から3歳は幼く見えてしまう。
その点、さっちゃんは意図してか少年の様な服装をしており一見すると、少女であるにも関わらず線の細い少年の様にも見えていた。
2人を見た周囲の人々はきっとお兄さんと妹が一緒に歩いていると思っているのかも知れないとさっちゃんは感じていたが、朱奈には伝えない。
朱奈は自分が幼く見られる事にほんの少しだけ不満を持っている一面があり、そこが可愛いのだが伝えてしまうのは台無しにしてしまう気がした。
20分程歩いてさっちゃんが出会った場所に辿り着いた。
そこは大きなマンションとマンションの間にある更地だった。
「朱奈。何か感じるか?生憎、ウチは普通の人間やから《魔獣》の気配は感じられないで」
「何も感じない。時々、夜に感じる変な気配は感じない・・・」
朱奈は綾女と右目を交換した後、《右目の呪い》は失った物の何か嫌な気配を感じる様になっていた。
綾女が円環の理に召されてから暫くして気持ちが落ち着くと、その気配が《右目の呪い》で引き寄せた《魔獣》の気配と同じ物だと気が付いた。
《右目の呪い》による引き寄せは確かに止まっていたが、どうした訳か朱奈には《魔獣》の気配を感じる感覚だけは残されていた。
「なら少し休憩するか。近くに公園があったからそこへ行くで」
「うん」
朱奈が頷いたのを見るとさっちゃんは手を繋いだまま先導して歩き出した。
歩く間、2人は言葉を交わす事は無かった。
さっちゃんはただ黙って先を歩き、朱奈は繋いだ手を離さない様に付いて行く。
公園に着くと道が広くなり朱奈はさっちゃんと手を繋いだまま横に移った。
「あっちにベンチがあった筈やで」
さっちゃんが朱奈の方を見ると街が夕焼けに照らされて輝いているのが見え朱奈はそれをじっと見ていた。
(余所見は危ないで)
さっちゃんはそう思い朱奈に告げようとした時、植え込みを曲がろうとした時、
「私(わたくし)は」
「きゃっ」
「わっ」
先述の通り、恭介と朱奈は植え込みの影でぶつかってしまった。
その後、ベンチで仁美が朱奈の怪我を手当てした後、さっちゃんと朱奈は再び街中を歩いていた。
もう直ぐ日が暮れる事は空が切ない色に染まっている事から朱奈にも分かっていた。
「さっちゃん。もう少し探して行こう」
「ええで。けどな、朱奈。本当に会えるのかどうかは分からないで」
「良いの。それでも、探したいから・・・」
「まあウチは付きあったるで」
さっちゃんはそう言いながら再び朱奈と手を繋いでビルの裏にある路地裏へ向かった。
暫く間、2人は言葉を交わす事無く歩き続ける。
「ねえ」
「何や?」
「さっちゃんは怖くないの?」
「・・・。ウチも怖いで」
「どうしてわたしと一緒にこんな事をしてくれるの?」
「ウチも・・・。きっと《魔法少女》に会いたいからやな」
答えながらさっちゃんは思い出していた。
一年前に見滝原市を訪れた折にさっちゃんは《魔獣》に襲われた。
命を奪われそうになった刹那に《黄色い髪の魔法少女》が颯爽と現れて《魔獣》を倒すと逃げ出す《魔獣》を追ってそのまま去って行った。
さっちゃんにとってそれは鮮烈な出来事でもあった。
やがてある出来事をきっかけにさっちゃんは《魔法少女》に関する知識を手に入れ朱奈と出会う事になる・・・。
さっちゃんが《魔法少女》に関する知識を手に入れた出来事はここで詳細は語らない。
既にさっちゃんが感慨に耽る間もなく事態は動いていたからだ。
急に朱奈が足を止めたのでさっちゃんも怪訝に感じ合わせて足を止めた。
「朱奈?」
「感じる。何か怖い物を感じる!怖いよ!」
朱奈がさっちゃんの左腕に抱きついて来たと同時に目の前にある景色が歪んだ。
咄嗟にさっちゃんが周囲を見渡すと瘴気による歪みの中から次々と朱奈に恐怖を感じさせたモノ・・・。
《魔獣》が次々と姿を現して来た。
見たと同時にさっちゃんは朱奈を引っ張って《魔獣》の姿が見えない方向に向かって走り出した。
「まさか本当に出会うとは思って無かったで」
思わずそう叫ぶが朱奈は答えない。
と言うよりも答えられなかった。
「朱奈!?」
返事が無いのは別段、気にしないが妙な感覚を覚えて振り向くと朱奈はぼんやりとした表情をさっちゃんに向け走るのを止めてしまった。
「しまった。もう感情を食われてるんか!?」
《魔獣》は人の感情を食らう。
人の感情を食らい瘴気を帯びたその身体を増殖させ続ける普通の人には見えない存在。
さっちゃんも普段は《魔獣》を見えない筈だが朱奈と一緒にいる為に《魔獣》を見る事が出来たらしい。
「朱奈!しっかりしい!まだ《魔法少女》とは会ってないやろ!」
さっちゃんが必死に大切な目的を叫んでも朱奈は反応を示せない。
《魔獣》が迫って来るのが見えたのでさっちゃんは朱奈の頬を叩いた。
朱奈の頬が赤くなると同時に、その涙目には感情の色が戻って来た。
「えっ!?痛い。何!?」
「良いから走るで」
再び逃走を開始する。
朱奈は状況を判断出来なかったがさっちゃんが必死に走り出したのに合わせて走り出す。
走りながらも先程、感じた怖い物=瘴気から《魔獣》が間近に迫っている事を認識して軽いパニックになりかけるが意志の力で押さえ込み走った。
「あかん!挟まれたで!」
前方に《魔獣》が出現したのを見て引き返そうと背後を見たさっちゃんは自分達が《魔獣》に挟み込まれた事を知った。
《魔獣》に襲われても死ぬ事は無い。
だが《魔獣》に感情を食われると言う事は心を失い廃人となる事をさっちゃんも朱奈も知っていた。
生きる喜びや悲しみも全て感じなくなる廃人になりたい訳が無かった。
どうしたら良いのかとさっちゃんが思案を纏められないでいると意識がぼんやりとして来ている。
隣では朱奈も意識が虚ろとなり2人はそのままでは《魔獣》の餌食になろうとしていた。
《魔獣》の手が2人に伸びようとしたその時、さっちゃんと朱奈を守る様に、無数の剣が上空から次々とさっちゃんと朱奈の周囲に突き刺さり楽譜状の青い光を放った。
青い光に怯む様に距離を取る《魔獣の群》。
「何や・・・!?」
虚ろな意識のまま、さっちゃんは呟いた。
その言葉に答える様に真上から無数の剣が次々と《魔獣の群》に撃ち込まれた。
怯む《魔獣の群》だったが2・3体を倒したに過ぎずその場に留まっていた。
同時にさっちゃんと朱奈の目の前に2人を庇う様にして白いマントをはためかせた人物が降りて来た。
「もう大丈夫だよ。これ以上、怖い思いはさせないから」
声からさっちゃんはようやく白いマントをはためかせた人物が少女である事を認識すると同時に悟っていた。
目の前にいるこの少女こそが朱奈の探していた《魔法少女》なのだと言う事を。
白いマントをはためかせ髪と同じ色をした青い衣装に身を包んだ《青い髪の魔法少女》はチラリと2人の方を向くと直ぐに《魔獣》へと向き直った。
青い髪に付いているfを2つ重ねた髪飾りが印象的にさっちゃんには見えていた。
(この子達を守る為にはあたしが《魔獣》を倒さなきゃ行けない!)
心を引き締めると《青い髪の魔法少女》は両手に剣を構えると一気に《魔獣の群》と距離を詰めると一体、一体《魔獣》を次々と切り伏せて行く。
《魔獣の群》はなす術も無く切り伏せられ消滅して行く。
一体の《魔獣》がさっちゃんと朱奈のいる方へ向かおうとする。
「行かせない!」
《青い髪の魔法少女》は右手で握った剣を《魔獣》に向けると柄に存在する引き金を思いっきり握った。
同時に右手で握る剣の刀身が発射されてさっちゃんと朱奈に向かっていた《魔獣》を貫き消滅させた。
右側に生じた隙に応じて《魔獣》の一体が爪を《青い髪の魔法少女》へ振り下ろそうとした。
「あっ!?」
気付いた《青い髪の魔法少女》が右手で防御しようとするが既に刀身を発射してしまい柄しか残っていなかった。
さっちゃんも《青い髪の魔法少女、本人》もやられると思った時、一発の銃声が響くと《魔獣》の頭を撃ち貫き消滅させた。
「美樹さん。あなたはまだ契約をして間もないんだから先走っては駄目よ」
そう言いながら路地の奥から1人の少女が銃の様な武器を構えて姿を現した。
怯む事無く次々と出現させた銃で《魔獣》を銃撃して行く。
《青い髪の魔法少女》よりも年上に見える、落ち着いた雰囲気をさっちゃんは感じ取っていた。
同時に以前、自分を助けたのがこの《黄色い髪の魔法少女》だとさっちゃんは確信した。
「マミさん。ごめん。でもこの子達を助けずにはいられなかったから・・・」
言いながら《青い髪の魔法少女》は最後の《魔獣》を切り刻んだ。
「ええ。分かっているわ。でも油断をしては駄目よ。油断をすればあなたも感情を奪われていたのかも知れないんだから」
《青い髪の魔法少女》は素直にマミさんと言われた《黄色い髪の魔法少女》に謝った。
既に周囲の《魔獣》は全滅していた。
《魔獣》が存在していた場所には所々、グリーフキューブが落とされており《2人の魔法少女》はそれを拾い集めるとさっちゃんと朱奈に向き直った。
「大丈夫よ。もう怖い思いはさせないから」
《黄色い髪の魔法少女》はなるべく刺激しない様にさっちゃんと朱奈に話し掛けて来た。
さっちゃんが答えようとした時、隣で立っていた朱奈はそのまま倒れてしまった。
「朱奈!しっかりしい!朱奈!?」
○
朱奈が目を覚ますと知らないベッドに寝かされていた。
そこは知らない部屋であり窓から見える外は既に夜の闇に包まれている。
ふと隣の部屋から話し声が聞こえてきた。
知らない人の声が2つ程、混じっているけれど、さっちゃんの声を聞いて朱奈は隣の部屋に顔を出した。
そこでは、さっちゃんと《黄色い髪の魔法少女・巴マミ》、それに《青い髪の魔法少女・美樹さやか》が三角のテーブルを挟んで座りお茶を飲んで喋っている風景があった。
マミもさやかも既に変身を解いて見滝原中学の制服に戻っていた。
けれど朱奈はさっちゃん以外、知らない人物なので顔を出したけど緊張して声を出せなかった。
「あら。気が付いたのね」
マミは、朱奈に気が付くと手招きしてこちらに来る様に促した。
朱奈は応じてさっちゃんの隣に向かいそのまま座った。
「もう大丈夫見たいね。本当に良かったわ」
マミは笑顔でそう語りかけて来た。
その優しい笑顔に朱奈も警戒心を緩めていた。
「話はあなたのお友達から聞かせて貰ったわ。私は巴マミ。この見滝原を守る《魔法少女》よ」
緊張を解す為になるべく気を使ってマミは喋っており同席している美樹さやかにもはっきりと感じ取る事が出来た。
「あたしは美樹さやか。マミさんと同じ《魔法少女》よ。と言ってもまだ契約したばかりだけどね」
さやかはマミ程、器用でない事を自覚していた為に軽く手を上げ朱奈に向けて振った。
さっちゃんの隣に座る朱奈は緊張しながらこくりと小さく頷いた。
「わたしは・・・。朱奈。筒地朱奈」
余り大きいとは言えない声で朱奈は自分の名前を告げた。
「あなたの事はお友達から聞いているわ。どうして《魔法少女》を探していたの?それがどれほど危険な事かは分かっているんでしょう?」
朱奈が落ち着いたと見るとマミは質問をしてみる事にした。
既に朱奈が眠っている間にさっちゃんから大体の事情は聞いていた。
さっちゃんは朱奈の方を見ると少し視線を逸らして答えた。
「朱奈が寝とる間に事情はある程度、話しといたで。後は朱奈しだいや」
さっちゃんの言葉を聞いて朱奈は心を決めた。
「わたし・・・。円環の理について聞きたいんです」
思い切って朱奈は自分が疑問に思っていた質問を一気にマミとさやかに打ち明ける事にした。
2人は《魔法少女》なのだからどんな形でも答えを得られると言う朱奈の打算もあった。
「あなたはどうして円環の理について知りたいの?」
マミは慣れた手付きでテーブルの上にあるティーポットから紅茶をティーカップに注ぐと朱奈の前に差し出した。
マミの声には疑問の響きと同時に朱奈を労わる優しさが滲み出ていた。
さやかはその優しさを羨ましいと感じさっちゃんはウチと違うと思っていた。
両者とも抱いた感情を表情には出さなかったが。
「わたしの大切な人がそこに行ってしまったから。わたしの大切な人は《魔法少女》だったから・・・」
告げながら朱奈の脳裏にはあの時の事が思い出されていた。
大切な人・・・。
朱奈を守り続けていた筒地綾女が消えてしまった時の事を・・・。
取り残された朱奈はずっと公園で泣き続けていた。
そうして泣き続けた後、朱奈は通報を受けた警察官によって保護された。
警察官に保護された後、過去の記憶の無い朱奈はグループホームへと送られた。
けれど朱奈は大切な人が死ぬ間際に語った《魔法少女》にとっての天国、円環の理について知りたかった。
円環の理がどこにあるのか?
どうすれば行く事が出来るのか?
朱奈はどうしても知りたかった。
これからを生きて行く為に朱奈はどうしても知りたかった。
だからこそ施設の人達に許可を貰ってさっちゃんの家へ外泊する機会を利用し見滝原市に来た。
せめて円環の理について朱奈は出来る限りの事を知りたかった。
「そう・・・。朱奈さんにとって大切な人は円環の理に行ってしまったのね・・・」
マミは本当に悲しそう言って朱奈の隣に座ると朱奈の頭を撫でた。
頭を撫でられると綾女の事を思い出し朱奈の頬を涙が伝った。
「とても悲しかったのね・・・。大切な人がいなくなって・・・」
マミも大切な家族を失っており朱奈の悲しみが痛いほど分かった。
2人の様子から、さやかもさっちゃんも朱奈とマミが同じ悲しみを心に抱えている事を既に感じていた。
「それで円環の理について知りたがっていたって訳か。うーん。マミさん。あたしも聞きたかったんだけど円環の理とそもそも何なのさ?」
さやかはそう言って紅茶を一杯で飲み干した。
少しでも場の雰囲気を和らげようとした行動でもあり直ぐにマミは反応を示した。
「そうね・・・。円環の理と言うのは、私達《魔法少女》が行き着く先。朱奈さんの言う様に天国とも言う事が出来るわね」
言いながらマミは自分のティーカップを引き寄せて紅茶を一口啜った。
「私達《魔法少女》は契約によってソウルジェムを作り出しこの世に災いを起こす《魔獣》と戦い続ける事を受け入れた存在・・・。その私達のソウルジェムが全ての力を使い切った時、私達のソウルジェムはこの世界から完全に消滅する。その現象を《歴代の魔法少女達》は円環の理と名付けて口伝として残しているわ・・・」
マミは右手に黄色く輝くソウルジェムを出現させながら告げた。
「円環の理の現象を天に召されると言う《魔法少女》もいるし単に消滅したと言う《魔法少女》もいるわ。けれどまだ生きている私たちには円環の理が本当に天国かどうかは分からない。けれど言えるのは、《歴代の魔法少女達》はその円環の理を口伝として残して希望を求める事の正しさを伝えているのよ」
少し熱を帯びたマミの話し方にさやかは少しだけ驚いていた。
普段のマミならそこまで熱っぽい話し方をしないと思っていたからだ。
「ふーん。何だか難しい話ですね。けれど・・・。天国の様な場所があるのなら少しは安心して戦えるかな?」
もう少し雰囲気を和らげようと言った一言だったが直ぐにマミの鋭い視線がさやかを捉えた。
「美樹さん。変な冗談はやめなさい」
その視線から感じられる叱責をさやかが感じられない訳でも無かった。
さっちゃんもその視線に気が付いた自分に向けられた訳では無いので無視した。
「あっ。マミさん。すみません・・・」
直ぐにさやかはそう言って頭を掻きながら謝った。
マミの話を聞いて朱奈は円環の理が何なのかを完全に理解したとは言い難かった。
だから朱奈は一番、知りたいと思う事を聞いて見た。
「どうすればわたしは円環の理に行けるんですか?」
その言葉を聞いてマミとさやかは思わず顔を合わせた。
2人ともそんな問い掛けをされるとは思っていなかったからだ。
「朱奈。円環の理が本当に天国かどうかは分からないんやで。それに存在するのかどうかも分からへん。どうしてそんな所に行きたいんや?」
朱奈の問い掛けにはさっちゃんも疑問を抱いた。
そう思いながらもさっちゃんは自分で答えを考え朱奈の答えとの答え合わせを望んでいたが・・・。
「あのね・・・。円環の理があるのかどうかは死んでみないと分からないんだよ。それにあんたは《魔法少女》じゃ無いから円環の理には行けないんじゃないの?」
さやかは少し言葉を強く朱奈に言い聞かせた。
正直、さやかは朱奈が自殺願望でもあるのかと疑い始めていた。
自殺願望でも無い限り円環の理に関心を抱くとは思えなかったからだ。
「美樹さんの言うとおり、《魔法少女》ではない朱奈さんが円環の理に導かれる事は無いと思うわ。けれど、どうして円環の理に行きたいと言うの?本当にあるのかどうかは私にも分からないわ」
少し困った顔をしてマミも苦言を呈した。
苦言と言ってもなるべく優しく言い聞かせる様に語り掛ける様にしていた。
既にさっちゃんから朱奈は精神的に幼いと言う事を聞いていたマミの選んだ言葉のやり取りと言えた。
「わたし・・・。直ぐに死にたい訳じゃないんです。けれど大切な人はきっとわたしの事を心配していると思うからわたし、出来たら《わたしはちゃんと生きているよ》って伝えたいの・・・」
そこまで言うと朱奈の目からは涙が流れていた。
「朱奈。使いな」
慣れているさっちゃんは黙ってハンカチを取り出すと朱奈に渡した。
朱奈も素直に受け取って涙を拭いていた。
「あなたは大切な人にその事を伝えたかったのね」
マミは再び朱奈の傍に寄り添い頭を撫でながらそう答えた。
頭を撫でられながら朱奈は泣きながら頷いた。
そんな中、さやかは自分なりに朱奈を励ます為に言葉を選び告げた。
「じゃあ、その伝言。あたしかマミさんが円環の理に行ったら、朱奈がちゃんと生きているって事を伝えてあげるよ」
「え!?」
泣いていた朱奈は驚いた顔をさやかに向けていた。
さっちゃんもマミも驚きの表情を向けていた。
そんな中でマミは何かを言おうとして止めた。
さやかがどう自分の言葉に責任を持つのか、全ての発言を聞き終えてからでも遅くないと思ったからである。
「だーかーら、このさやかちゃんが、代わりに朱奈の大切な人に伝言を伝えてあげると言っているの!だからさ、もう泣く事は無いよ」
さやかの言葉を聞き終えマミはそれがさやかなりに朱奈を励ましているのだと思い発言に対して口を挟む事はしなかった。
一方でさっちゃんは朱奈が少しは落ち着いたのを表情から察していた。
「それで朱奈の大切な人の名前はなんていうのさ?」
さやかの質問に朱奈は直ぐに答えた。
「綾女ちゃん。《魔法少女》の筒地綾女ちゃん!」
「筒地綾女ね。よーく分かりました。もしさやかちゃんが円環の理に行ったらその筒地綾女ちゃんに私から朱奈がちゃんと生きているって伝えてあげるよ」
さやかは右手の人差し指で天井を指しながらそう言った。
「ありがとう。さやかさん」
朱奈は笑顔で答えるのを見てさっちゃんは少し安心していた。
マミはさやかの軽口は後で少しだけ注意を促そうと決めたが今は告げない事にして朱奈に優しい笑顔を向けていた。
「じゃあ朱奈。円環の理に言ったらちゃんと伝えてあげるよ。朱奈はちゃんと生きているって事を」
さやかは朱奈の脇に移動して朱奈の頭を撫でた。
誰しもが朱奈の頭を撫でる様子にさっちゃんは朱奈の頭がそんなに撫で心地が良いのか?良いから撫でるのだろうと想像していた。
「ありがとう。わたし、頑張って生きるから・・・」
朱奈は恥ずかしそうに笑顔を見せた。
その表情には悩みが解決した人だけが持つ表情があった。
答えを手に入れた人達の表情が・・・。
朱奈は改めて生き抜く事を心に誓っていた。
もう迷ったりしない。
円環の理にいる綾女の為にも朱奈は生きる。
これから先、どんなに辛い事があっても何かを失う事になっても最後まで生き続ける。
「良かったな。朱奈」
さっちゃんは笑顔を朱奈に向けていた。
こんなにも朱奈を思う友達もおり朱奈は自分が生きて行く事に対する不安を解消して行っていた。
○
夜の街を走る影が2人分、在った。
その影は華奢なシルエットから2人の少女と言うのが分かる。
ただ走っているのは普通の場所では無い。
所々にある建物の屋根や屋上を跳躍していた。
更に跳躍する2人の少女はそれぞれ1人ずつ少女を抱き抱えていた。
跳躍する2人の少女は華美な服装をしていたが、やがて目的の場所に辿り着いた。
そこは平凡な一軒家の庭先だったが、電気は点いておらず誰もいないのは明白だった。
「ここで良いのね?」
《魔法少女》としての姿をしたマミは自分が抱き抱えているさっちゃんに聞いた。
「うん。ここがウチの家や」
マミが優しく降ろされさっちゃんは朱奈の方を見た。
朱奈は《魔法少女》としての姿を取ったさやかに抱えられて来たがまだ目を瞑ったままだった。
「ほら。朱奈。着いたって」
「本当に着いたの?」
「大丈夫やで。ほら」
さっちゃんが促すと朱奈は目を開いた。
そこには馴染み深いさっちゃんの家があった。
「さやかさん。マミさん。今日は本当にありがとうございます」
朱奈はさやかに降ろして貰うと直ぐに2人に向かって頭を下げた。
「良いって。良いって。あたしは礼を言われるほどの事はしてないから」
髪を撫でながらさやかはそう答えた。
そうした髪を撫でる動きは照れ隠しだとさっちゃんには思えた。
「でも2人とも、夜の街を不用意に出歩いては駄目よ。いつ《魔獣》が現れるとも限らないわ。私や美樹さん、《他の魔法少女達》も常に駆け付けられるとは限らないわ。だから気を付けて」
マミは朱奈とさっちゃんに釘を刺すのは忘れなかった。
この風見野市は自分とさやかの縄張りでは無い為、忠告する事だけが自分達に出来る事だったからだ。
「それじゃあ、マミさん。あたし達も帰りますか」
「ええ。それじゃあ2人とも。また、いつか・・・」
そう言ってマミとさやかはそのまま跳躍して帰って行った。
「それじゃあ朱奈。もう夜も遅いから風呂に入って寝るで」
「うん。ねえさっちゃん。お願いがあるんだけど」
「なんや?」
さっちゃんは大体の答えを分かっていたが、聞いてみる事にした。
「寝る時は一緒の布団で寝て・・・1人で寝るのは怖いから・・・」
朱奈は恥ずかしそうに告げて来た。
「良いで。ただウチは一緒の布団で誰かと寝るのは、始めてやから蹴ってしまうかも知れへんで」
「良いの。綾女ちゃんも寝相はそんなに良くなかったから大丈夫だから」
「そうなんか?じゃあとにかく家に入るで」
さっちゃんに連れられて朱奈は家に入った。
その日、朱奈は少なくとも悪夢を見る事無く眠る事が出来た。
○
「マミさんはあの2人、大丈夫だと思いますか?」
「ええ。きっと朱奈はこれからの人生を自分の足で歩いていけるわ」
「そうですね。マミさんが言うのならきっと大丈夫何でしょうね」
「ええ。せめて・・・。これからは《魔獣》と出会う事の無い人生を送れると良いわね」
さやかとマミはそう語り合いながら見滝原へと帰って行く。
○
それは時空を越えた邂逅。
失われた《魔女》のいた時間で朱奈はマミと邂逅し精神的な成長を遂げた。
同じ様に朱奈はマミやさやかとの邂逅を通して成長していた。
《呪いの右目》を綾女と交換してなお、朱奈は《魔法少女》との邂逅を時空を越えて繰り返していた。
もしかしたらではなく確実に朱奈は必ず《魔法少女》と出会う運命を生きているのかも知れなかった。
これから先もずっと・・・。
そしてこの出来事は《美樹さやか》が円環の理に導かれる数日前の事だった。
だいぶ遅くなりましたが更新しました。
次はかなり変わった物語となる予定です。
ちょっとだけネタばらしをすれば円環の理の中にいる綾女ちゃんの様子をお届けします。
では次回を待て!
何時になるか分からないけど。