偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA   作:ジャックノルテ

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第3話 とても辛い事を経験していたのね・・・

 ぼくはとても暖かい場所にいるみたいだった。

それはとても懐かしい感じでもあった。

ぼくのぼんやりと開いた瞳に誰かが心配そうに除くのが見えた。

それを見てぼくは安心して再び眠ってしまった。

(そうだ・・・。ぼくは・・・。昔もこんな風に大切な人に熱を出した時に看病された様な気がする・・・。でもぼくは・・・。思い出せない)

過去の思い出をぼくは思い出す事が出来ない・・・。

苦しかった。

今のぼくには苦しい思い出しか記憶に無かった。

「あっ・・・」

目を覚ますとぼくの目には知らない天井が写った。

自分が知らない場所にいる事にぼくは混乱していた。

部屋の照明は落とされていたけれど、ぼくはとても心細くなってベッドから降りた。

目の前に階段があったので降りて行くと近くにガラスの窓があった。

窓から見える景色は朝焼けとも夕焼けとも取れる景色が広がっていた。

「ここは、どこ?くしゅん!」

 ぼくは思わずくしゃみをしてしまった。

 その時、窓から少し離れた位置にあったソファーから布の擦れる音がするとソファーから人が起き上がって来た。

《黒い髪の少女》からぼくを助けてくれた《黄色い髪のお姉さん》だった。

「気付いたのね」

 毛布に身を包んでいた《黄色い髪のお姉さん》は身を起こすと立ち上がりぼくに近寄ろうとした。

 ぼくは思わず後ずさりしようとしてしまった。

「大丈夫。怖がらないで。あなたに危害は加えないわ」

寝巻き姿の《黄色い髪のお姉さん》は努めて優しい表情を見せていた。

その表情を見てぼくの警戒心は薄れた。寝巻きのまま《黄色い髪のお姉さん》は、 ぼくの傍に来るとぼくの額に手を当てた。

とても暖かい手だった。

「ちょっとまだ熱があるわね。さあ、ベッドに戻って眠りましょう」

《黄色い髪のお姉さん》に優しく右手を握られてもぼくは抵抗する事無く《黄色い髪のお姉さん》に先導されるままベッドに戻って横になった。

「じゃあ熱を測らせてね」

《黄色い髪のお姉さん》に促されるままに体温計で熱を測って貰った。

「もう熱は下がったみたいね。市販の薬で治って本当に良かったわ」

《黄色い髪のお姉さん》の言葉にぼくは少し安心した。

「ありがとう・・・」

精一杯、振り絞った僕の言葉に《黄色い髪の少女》はぼくに安心した笑みを見せた。

「良いのよ。私は巴マミ。あなたの名前は?」

《黄色い髪のお姉さん》は自分の名前をぼくに伝えた。

 それを聞いてぼくは自分の名前を巴さんに伝える事にした。

「ぼ・・・。ぼくは・・・。朱奈(しゅな)」

「朱奈?変わった名前ね。苗字は無いの?」

巴さんは柔和な笑顔を崩さずに聞き返してきた。

「分かんない・・・。ぼくには記憶が無いから・・・」

ぼくは首を振って答えながら巴マミさんから目を逸らした。

記憶の無い事が悪い事なのか分からなかったけれどぼくはまるでいけない事をしたかの様に巴さんと目を合わせられなかったのだ。

「そうだったの・・・。でも記憶が無い事は朱奈さんに責任がある訳では無いわ。だから安心してここで休むと良いわ」

 巴さんはぼくのおでこを優しく撫でた。おでこを撫でられてぼくは少し落ち着きを取り戻した。

「1つだけ質問をしても良いかしら?」

 巴さんは人差し指を立てて質問をぶつけて来た。

「なあに?」

「朱奈さんはどうしてあんな男の子見たいな服装をしていたの?あなたは・・・。女の子なのに?」

巴さんにそう言われてぼくは掛け布団を少し上げてみて自分が着ている物を確かめた。

ぼくが普段、着ていた男物の服では無くぼくが来た事が無い様な可愛らしいパジャマをぼくは着ていた。

「ぼっぼくは・・・」

 そう。隠したくて隠していた訳では無いけれど、ぼくは女の子だった。自分の事を《ぼく》と言い男物の服を着ていると大抵の人はぼくを男の子だと思っていた。

 けれど決してぼくは好き好んで自分を《ぼく》と言っていた訳では無いし男物の服を着ていたのでは無かった。

「何か事情があるのね・・・。言いたくないのなら無理に言わなくても良いわ。けど朱奈さんが話したくなったらいつでも話してね」

 巴さんはそう言ってぼくから無理に事情を聞きだそうとはしなかった。

「だから・・・。もう少し寝ていて良いわよ」

 優しい笑顔の巴さんに促されるままにぼくは目を閉じて眠りに付いた。

 今日は久しぶりにとても良く眠れる気がした。

 

 再びぼくが目を覚ますとお腹がグーと鳴った。

「お腹・・・。空いたな・・・」

 少し頭が軽くなったのでぼくはベッドから降りると時計を見てみた。

 時間はお昼である。

階段を下りてリビングに向かうと巴さんは机にノートを広げて勉強をしているみたいだった。

ぼくに気が付くと優しい笑顔を向けて来た。

「朱奈さん。起きたのね。お腹空いてない?」

 巴さんにそう言われてぼくは素直に頷いた。

「お粥を作ったから椅子に座って待っていて」

 巴さんに促されてぼくはテーブルと向かい合う椅子に座った。

 すぐに巴さんはお粥の入った器をぼくの前にスプーンと一緒に持って来た。

「はい。おかわりもあるから遠慮なく言ってね」

「はい。いただきます」

 ぼくはそう言ってお粥を食べた。久しぶりに食べた手料理はとても美味しかった。

 お粥と言う簡単な物かも知れなかったけれど人の作った手料理を食べるのは本当に久しぶりだった。

「おいしい」

 ぼくはぽつりとそう言った。

「ありがとう。そんな風にお粥を褒められるのは初めてだわ」

 巴さんはちょっと驚きを見せたけれど優しい笑顔でぼくに返事を返した。

 それから数分間、ぼくは無言でお粥を食べ続けた。

一杯じゃ足りなかったのでぼくは巴さんの方を見た。

(おかわりを頼んでも良いのかな?)

 ぼくは少し迷っていた。家に泊めさせて貰っている上にお粥をおかわりしても良いのかなと・・・。

「朱奈さん。本当に遠慮しなくて良いのよ。おかわりが欲しかったら私が持ってきてあげるわ」

 そう言われてぼくはもう一杯食べたかったのでおかわりを頼む事にした。

「巴さん。おかわりしても良い?」

「良いわよ。ちょっと待っててね」

 巴さんは優しく微笑むとおかわりを持って来てくれた。

 ぼくはお粥を残さずに全て食べた。

「食欲は戻った見たいね。じゃあ薬を飲んでまた眠りましょうか」

 巴さんはガラスのコップに入った水と市販の風邪薬をぼくの前に置いた。

 ぼくは頷くと薬と水を飲んでベッドに戻った。

 最初、ぼくは巴さんの事を少し怖がっていた。

けど記憶の無い上に熱を出していた、ぼくを巴さんはなんの見返りも無いのに助けてくれた。

 だから・・・。

 巴さんの事を信じてぼくは、覚えている範囲のぼくの事を全て話さなきゃいけないと感じていた。

 ベッドで横になるぼくを巴さんは優しく見下ろしていた。

「巴さん。ぼくの話を聞いてくれる?」

「どうしたの?朱奈さん」

 ベッドの端に座った巴さんは不思議そうな顔をぼくに向けていた。

 そう言えば、ぼくから巴さんに話を持ち出したのは初めてだった。

「ぼくには記憶が無いの・・・。自分の名前以外何も覚えてなかったの・・・。気が付いたら一人ぼっちで街を彷徨ってたの・・・」

 ぼくが一生懸命に言葉を選んで語るのをマミさんは横で頷いて聞いてくれた。

「何故か分からないけれどぼくは・・・。ぼくといると誰かが傷付いてしまう気がしてずっと1人で街を彷徨ってたけどお巡りさんに保護された事があるの・・・。でも・・・。その日は金曜日でぼくの右目が《魔女》を引き寄せてしまったの・・・」

「右目が《魔女》を引き寄せるってどうして?」

 巴さんは困惑した目でぼくを見つめていた。

 その瞳にはぼくを道具の様に見ていた少女達とは違う優しさを感じる事が出来た。

「後で分かったんだけど・・・。ぼくの右目には《呪い》があるの。一週間に一度、毎週金曜日になると《魔女》や《使い魔》を引き寄せてしまうの・・・。引き寄せられた《魔女》や《使い魔》はぼくの事を襲わないけれど、ぼくの周りにいる人達は《魔女》や《使い魔》に殺されちゃうの・・・。だから、ぼくは金曜日には必ず結界に閉じ込められてしまうの・・・。金曜日にぼくの周りにいた人はみんな殺されちゃったの・・・」

「呪い・・・。そんな物があるなんて知らなかったわ。でも・・・。朱奈さんはどうして《魔女》や《使い魔》の事を知っているの?呪いで引き寄せてしまうだけでは分からない筈よね。もしかして・・・。《魔法少女》の事を知っているの?」

《魔法少女》・・・。

 その単語を聞いた瞬間にぼくはビクッとした。

 ぼくは《魔法少女》を怖がっていた。

 でも巴さんは《魔法少女》だけどぼくに優しくしてくれた。だからぼくは話を続ける事にした。

「うん。ぼくは《魔法少女》の事を知っているの。初めて結界に閉じ込められてぼくを保護してくれたお巡りさん達が死んだ後、ぼくは怖くなってその場を逃げ出してまた街を彷徨ったの。でも二度、三度と金曜日に《魔女》を引き寄せる時に右目が疼く事に気が付いたの。ぼくが誰かの近くにいると誰かを死なせてしまう。その事が恐ろしくてぼくは1人で逃げ続けたの・・・。でもある時、《3人の魔法少女》がぼくを捕まえたの。ぼくの右目にある《呪い》が《魔女》を引き寄せると知ってぼくを何処かに閉じ込めたの・・・」

 脳裏にぼくを閉じ込めた《3人の魔法少女》の姿が浮かんだ。

 余り思い出したく無い事なので、ぼくは視線を壁に向けてしまった。

「朱奈さん。話すのが辛いのならまだ話さなくても良いのよ」

 そう言って巴さんはぼくの手を握ってくれた。

 巴さんの手の温もりを感じ取りながらぼくは話を続ける事にした。

「辛いけど話すの。だって巴さんはぼくにこんなに優しくしてくれたから・・・。《3人の魔法少女》はぼくの《呪い》を使って《魔女》を引き寄せて狩っていたの。その見返りにぼくに食べ物をくれたりしたけれど、ぼくに暴力を振るって来る事もあったの。ぼくは怖くて反抗出来なかったからただ耐える事しか出来なかったの。でも気が向いた時にはぼくに《魔女》や《使い魔》の事を教えてくれたの。その内の1人がカワイイのがムカツクと言い出して、乱暴にぼくの髪の毛を切って男物の服を着る様に強要して来たの。言葉使いもぼくと言う様に強要されたの。男の子の姿をしたぼくを見て《3人の魔法少女》は笑っていたの・・・。それから暫くして《3人の魔法少女達》の内、二人だけ部屋に帰って来たの。2人とも深刻な表情をしていてぼくには目もくれなかった。暫くして悲鳴が聞こえると急に部屋の明かりが消えちゃったの。怖くなったぼくがそこから逃げ出そうとすると普段は魔法で出られなくされていたのに出られちゃったの・・・。ぼくはそれを見て怖くなってその場から逃げ出したの・・・。それからずっとぼくは街を放浪して、ぼくが引き寄せた《魔女》や《使い魔》に殺された人達からお金を盗んで生きていたの・・・」

 ぼくが長い話を終えて巴さんの顔を見た。

 巴さんの顔からは優しさが消えていなかった。

「朱奈さんはとても辛い事を経験していたのね・・・」

 そう言って巴さんはぼくの額を撫でてくれた。

「だけどもう大丈夫。私はあなたの事を《魔女》を引き寄せる道具みたいに扱ったりしないわ。私があなたを守ってあげるから・・・」

「本当?」

「ええ。本当よ。今まで本当に辛かったのね・・・。だけどもう大丈夫」

 そう言って巴さんは優しい笑顔をぼくに向けた。

 巴さんがそう言ってくれてぼくは安心感に包まれていた。

 瞼が急激に重たくなりぼくはそのまま瞳を閉じてしまった。

 カラフルな世界が黒くなって行くのを感じながらぼくの意識は急速に眠りに付いてしまった。

 ぼくの視界にはぼくを優しく見つめる巴さんの姿が写っていた。

 

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