いろいろ拙いですけど、お暇なかたおいでませ
愛用の細剣を振り下ろす。それと同時に目の前のモンスターが光となって消滅していった。雲散していく光の粉を見つめながら、思わずため息をつく。
時間帯は夜のため、見上げれば満点の星々が空を覆い尽くしている。
その様はとても綺麗で、都会では決してお目にかかれないものだろう。
見惚れる。
生い茂る木々も、風にそよぐ草も、咲き乱れる花も。その全てが作り物であるというのに。
この世界は現実世界ではない。完全なる仮想世界を実現したSword Art Onlineというゲームの中。世間の関心を多大に集める中βテスト期間を終え、正式サービスとして稼働したのが一年前なわけだが。
現状、その話題のMMORPGはログアウト不能のデスゲームと化している。
HPがゼロになった瞬間に死ぬ。
現実の世界で無理にナーヴギアをはずせば死ぬ。
ゲームなのに常に死が隣り合っているのだから、冗談でも笑えない。
さて。まずは身の上話でもしよう。
僕の家族構成は父、母、弟が一人の四人家族だ。それなりに充実した日々を送っていたと思う。学校ではそこそこの成績を残しながら、部活に打ち込んでみたり。たまにサボって友達と遊びに出たり。楽しかった。死という事柄に無縁の平和な日々だった。
将来に漠然とした夢を持ち過ごす中、話題沸騰中のSAOに興味を持ったことが運の尽きだったのだろう。
そのまま意気揚々とログインして現状に至る。
まあここまでは他のプレイヤーたちと似たり寄ったりな感じだ。だけど一つだけ、おそらく自分だけだろう特異点があるということをここに述べておこうと思う。
ゲームクリアまでここを出られないとゲームマスターが宣言した瞬間。ああ、ここはソードアートオンラインだと自然に思えたことだった。もちろんゲームではなく、小説のということだが。
顔のない血のようなマントの
悲鳴や戸惑いの声。
主人公の迅速判断と疾走。
第一層のクリアに費やされる予想外の時間と死んで行く命の数。
血盟騎士団の台頭。
主人公とその周りのキャラたちの葛藤。
ゲームではないこの世界を垣間みたことがあると、感じた。
なんというか、複雑な気持ちだった。
今までの十四年間に異物が入り込んだかのような感覚だった。前世に関して小説の話以外の記憶はあまりない。とりあず自分は男であったということだけは思い出せるが、名前も、どこに住んでいたかも忘れてしまっている。
これがいわゆる転生ものと呼ばれることなんだと思う。転生といえばチート、チートといえば無双。御都合主義万々歳のまさに誰もが一度は夢見る状況だ。
だけど僕の中にはすでに、現実世界で生まれ育ち過ごしてきた時間がある。その価値観と前世の小説の話を摺り合わせれば案外答えを出すのは簡単だった。
必ず、生きて還る。
現実に還って心配をかけている家族にごめんと言う。ただ、それだけだ。
そのために例え物語の終わりを知っていても。
いずれ主人公が決着をつけるとわかっていても。それを悠長に待ってやる気はさらさらなかった。
さっさと攻略やら看破やらしてこのゲームを終わらせる。
………そう息巻いていた時分もありました。
正直にいうとこのゲームまっじ半端ねえ!転生者ってチート与えられてどんぱちやるもんじゃないの!?
敵ボス強すぎ、僕弱すぎ。
一年経ってようやっとまともになってきたけど時間かがりすぎ。
これじゃゲームクリアなんて夢のまた夢、道遠っ。
どうせ転生するならすごい能力とか力を授けてくれてもいいではないか。
ああ、いや。そうだな、一つだけあったか。ある意味チートかなってやつ。
「ようし、今日はここでレベル上げだぜ!」
「おうよ」
「今日こそレベル70にいくぞ!」
「あ、あの……」
わらわらとやってきたプレイヤーたち。
まさかここで狩りを始めるのではなかろうなという危惧はばっちり当たっていて。
僕のことなんかそっちのけで戦い始めている。
そう、俺の自慢できないありえないチート能力。
それは―――、めちゃめちゃ影が薄いということ。
そこにいても気づかれない。話かけてもこっちむかない。
これのせいでギルド加入できないし、ろくにパーティーも組めやしない。フレンドリストだってたったの三人しかいないのだからもうこれは相当だと思う。
そして必然的にソロになるという、目も当てられない状況だ。
この時点で僕は自分だけの力でクリアすることを諦めた。そうだよね。現実はこうも厳しいもんだよね。……仮想世界だけど。
まあそれでもいつかは主人公が決着をつけるのだ。来るべき日は必ず来る。
それまでに。少しでも犠牲者が減ればと思い、僕はソロとして攻略組に参加している。
改めて、自己紹介だね。
僕の名前は
現時点でのレベルは79で、攻略組に参加するソロプレイヤー。
転生者。チート能力は
こんなところだ。どうぞよろしく。
□
「客と連絡がとれない?」
店の商品を見回していた僕は、相手の呟きに顔を上げる。僕にとって数少ない友人とも言える桃色の短髪姿の彼女は神妙に頷きながら口火を切った。
「そーなのよ。予定日になっても品物を取りに来ないからメッセージとばしたのに。まったく返事ないし」
「それは、まあ。なんというか。ご愁傷様」
「前金だから損はないけど、職人としてなんかすっきりしないのよ! 一体どこで何してんだか」
そう文句を吐きながらも僕が依頼した武器の調整をしている。なかなか器用なことをする。それにしても彼女のいう客はどうしたというのだろう。
聞く所によると素材を集めての武器新調だったらしい。それなら早く完成を見たいし、使ってみたいと思うものではないか。
「武器生成ってそんなに時間かかるもんなのか?」
「んなワケないでしょ。あたしにかかればちょちょいのちょいよ!」
「ああ……うんそだね。それじゃ客の方が時間なかったの?」
「アンタ今絶対流したわね。そーよ! どうも約束があるとか」
「ふーん」
「ほら、終ったわよ」
カウンターに出される僕の細剣。相も変わらず灰色と微妙な色合いをしている。どうせならもっと見映えの良いものがよかった。たとえば聖剣エクスキャリバー的な黄金ど派手なやつとか。
何度かの素振りを終え、状態を確認して腰の鞘へと納める。その際チリン、と鈴のような音が鳴った。これはこの剣の付属みたいなものだ。
整備してくれた彼女へ指定の代金を支払っていると、不意に彼女は言った。
「アンタ、これからの予定は?」
「35層に向かう。そこのチーズケーキがまた美味いんだよ」
「ミーシェか……。例の客、マルサっていうんだけど見かけたら声かけといてくれる? 30、40層あたりをうろついてるって言ってたから」
受け持った依頼は必ず完遂する。それが彼女の職人としての信念ということだろう。それを察することができるくらいには交友関係は続けてきたつもりだ。友人が困っているなら断る理由もない。
僕は彼女の頼みを快諾した。
「それじゃまたよろしく、リズベット」
「はいはい。またのご来店お待ちしてまーす」
第35層・居住区ミーシェ。オレンジの灯籠が夜に浮かぶ幻想的な階層だ。この層に辿り着いて最初に食べたのが名物のチーズケーキ。あのときの衝撃は忘れまい。
基本この世界の食べ物ははっきりいって微妙な味が多い。料理スキルを高めて作られたものは美味だが、NPCがやっているいわゆる誰でも手に入れられるものだといまいち満足感が持てない。ちょっとNPCに失礼かもだけど。
チーズケーキは原作でもビーストテイマーのシリカがけっこういける、と推していたというのもあり購入したのだがあの時の判断に間違いはなかった。
「それにしても、マルサかあ……」
友人リズベットに頼まれたはいいが、この名前に聞き覚えはない。しかし彼の所属するギルドにはどこかひっかかりを覚える。
―――シルバーフラグス。絶対どっかで聞いたことある気がするんだ。うーん。
「きょ、今日こそ俺たちとパーティー組んでくれるよねっ!?」
「頼むよーシリカちゃーん」
「そ、そんな、急に言われても……」
考え込んでいると前方でちょっとした騒ぎができていた。男三人組が一人の女の子に頭を下げているという摩訶不思議な現象だった。
一瞬何事だろうと思ったが、聞こえてきた名前と少女の横にいる小さな竜を見れば一目瞭然。
か、感動だ! こんなひょんなところでメインキャラシリカを拝めるとは! 弟しかいないからわからんけど、あの子みたいな妹がいたらブラコンは確実だな。彼氏は要チェックな上、お兄ちゃん呼びは以外は断固として拒否する。うん。
話しかけてみようかな。変態って思われないかな。大丈夫かな。
葛藤の末、意を決して足を踏み出そうとした瞬間。無視できない単語が人ごみから聞こえてきた。
マルサが……そんなっ。
うそだ、ありえない!
聞き耳について多少なりともスキルをあげている。確実にこの人ごみから聞こえてきた。そのまま聞き耳をたてて、声の人物たちを特定する。彼らは顔面蒼白で路地にいた。
四人とも一様に同じギルドの紋章が刻まれている。
「くっそ。あいつだ、あの女に違いない」
「ロザリアの奴……。とんだ牝狐だ」
「問答している場合じゃない。急いで迷いの森に行くぞ!」
そんな会話の後、駆けて行く四人。……なるほど大分状況が掴めてきた。
"シルバーフラグス"。どこかで聞いたと思ったがあれだ、原作でいうモブキャラたちだ。
キリトがオレンジプレイヤーであるタイタンズハンドを監獄送りにする出来事。あの依頼をしたのが騙され嵌められたシルバーフラグス生き残りのリーダー。
マルサはきっとそのギルドの一員なのだろう。おそらくこのままだと原作通りリーダー以外は全滅なんてことになりかねない。
どうする。行くか? いくら転生者として原作の知識を持っていたとしても、僕も所詮はプレイヤーの一人。HPがなくなれば当然死に至る。そのリスクを背負ってまで見ず知らずの奴を助けに行くのか。
「………迷うくらいなら進んでみようか」
思ってからの決断は案外早かった。
結論的にいうと。事態はかなりやばかった。四人の後を追い迷いの森へと辿り着くと、すでに戦いが始まっていた。ひらけた場所で互いに背を向けるようにして固まるシルバーフラグスの面々。
そんな彼らを嘲笑うようにじりじりと包囲を縮めていく多数。その先頭にはやはりというかなんというか。赤い髪に深紅の口紅を携えた女、ロザリアの姿があった。
いやあ原作でもアニメでも思ったことだけど。悪そうな顔してるなほんと。あれこそ悪女というのだろうか。
とにもかくにもこの人数相手に四人は無謀すぎる。どちらもレベルはそう変わらないだろうがやはり数には勝てない。
潮時だ。そう思うのと同時、四人の体勢が崩れた。襲いかかってきたタイタンズハンドの死角攻撃に一人が前に出てしまっている。
「あばよおっさん!」
「う、うあああああああ」
踏み出す時は静かに。充分に呼吸を整えて。
風のように速く、水のように静寂に。
柄に手を置きながら前衛姿勢で構える。
たとえ影薄で友達三人しかいなくても、きちんと戦えるんだってことここで証明してやるんだぜ。……さ、寂しいとかじゃないんだぜ。
□
見えなかった。多分、そう表現するのが正しいんだと思う。
絶望的な状況だった。俺たちギルドは四人、加えて向こうは十人もいる。こうして仲間同士背中を守り合って対抗しているがいつ崩されるかは時間の問題だった。そしてその瞬間が訪れてしまう。
仲間が絶叫している。助けに入りたいが、こちらも目の前の敵で手一杯。背中を向けたが最後背後からぐさりだ。
誰か。誰かだれか彼を助けてくれ。
そんな時だった。エフェクトを表す発光が現れた瞬間、仲間を襲う敵が吹っ飛んだのは。
突然の出来事に俺たちを含めたこの場に一時の静寂が訪れる。
「んなっ………」
誰かが、絞り出すように放った呻きは次なる効果光で霧散する。明らかにソードスキルのそれだ。
つまり今ここで、誰かが助力してくれているということ。
理解はできる。だが、その姿がまったく見えない。辛うじて影しか確認できないのだ。
二人目を斬ったその残像が消え、同時に俺の肩に手が乗せられる。驚き振り向けば、いつの間に立っていたのかそこには茶髪の少年の姿があった。
ダークブラウンの短髪に、軽装な服の上に灰色の短めポンチョ。そしてその手には得物であろう灰色の細剣。全体的にねずみ色というのが印象的な格好だった。
「助太刀する。状況説明」
「あ、ああ…。仲間が一人、こ、殺されて。転移結晶を使う間もなくこいつらが」
「それはマルサというやつ?」
「そうだ。知り合いなのか?」
「いいや、名前だけ。了解した。僕が奴らを引きつけるから君たちは街まで転移するんだ」
少年の言葉に直ぐさまわかったと返答できなかった。目の前の奴らは仇だ。ここでのPKはつまりは現実の死を意味するというのに、躊躇無く仲間を殺した。
ならば一矢報いでもしなければ気が収まらない。
そんな俺の心情を茶髪の少年も察したのだろう。冷静な声色で諭してくる。
「僕一人ならこの人数でもいけるけど、四人は守れない。早く転移を」
「……わ、わかった」
茶髪の少年は満足そうに一度頷くと、意識を敵に集中し始めた。
さっきは一人でもいけると言っていたが、もしかしたら俺たちを安心させるための虚勢かもしれない。これ以上ここに留まっていては逆にこの少年を危険に晒してしまう。
「転移、ミーシェ!」
特有の光因子に包まれながら数かな視界で俺は、見た。
とてつもないスピードで敵に疾走し、連打連打の剣技をあびせる少年の後ろ姿。
今更だが、気付く。彼はもしかすると。攻略組のあの―――。
そこで俺の視界は切り替わってしまった。
□
「な、なんなんだよアンタ!」
狼狽えたように叫ぶロザリア。すいませんね、弱いものいじめみたいなことして。だがしかし、この世界でPKほど許されないことってないわけだしお互い様ということで。
僕はたった今投擲したナイフの最後の一本を片手で弄びながら、赤髪の彼女と相対している。
ナイフに付与されている麻痺の効果はしっかりお仲間たちを地面にへばらせている。起き上がるのにはしばらくかかるだろう。残るは親玉の彼女だけというわけだ。
「クソが。大体そんなに強いのになんでこんな低層にいるわけっ」
「………」
「索敵は抜かり無かったのに、気付けないし」
「………」
「影薄すぎんのよ!」
イラっ。しまった、つい女の人に殺意が。やり直しやり直し。
ウザっ。しまった、ついパワーアップした。
なんにせよ今の影薄は聞き捨てならない。この不愉快きわまりないチート能力好きでもらったんじゃにのに。それを攻撃するとは時限爆弾の上でヒップホップ決めるようなもんだぞ。実に良くない。
「強いなら攻略自殺でもなんでも勝手にすればいーのよ。アタシらの仕事邪魔しないでくれる?」
「PKが仕事?」
「レアアイテムが目当てなだけだけど。PKはついでね」
「ふーん」
PKはつまりのところ仮想世界と現実世界での死を意味する。だからほとんどの人はPKはしないし、いけないことだと理解している。もちろん僕だってその一人だ。
ただ、自分の命が危険に脅かされた時。大多数の人はそれでもやはりと殺しの手段は取らないだろう。
ここだけ、僕は大多数とは違う意見を持つ。現実世界へ還ると決めている僕は何があっても死ぬ訳にはいかない。よって、襲ってきた人間の命よりも自分の命を優先する。それが僕の考えだ。
つまり、場合によっては人殺しもいとわないということ。実行したことはないけど。けど、多分。その時が来ても僕は迷わないだろう。
だけど彼女の言うのはちょっと違う気がする。
「それじゃあ僕のこともPK狙ってたりする?」
「…はっ、あったりまえじゃないの。つ、強ければ? そんだけレアもん持ってるかもしれないでしょう?」
「ふーん」
こういう人は言葉で言っても通じないだろう。そんな奴現実世界ではたくさんいた。ならば、少しだけでもそれを味わってみればいい。攻略組は毎回必死の思いでフロアボスを倒している。
この層だって、僕を含めた多くの人たちの力によって解放された。その苦しみを、恐さを、この人はわかっていない。
影薄の僕だって頑張っているのだ。これくらいしてもバチは当たらんだろう。
剣を構える。姿勢を低くして、手ぶらの方を前に、剣を顔の横で静かに引く。
僕の視線から何かを感じ取ったらしいロザリアが慌てて守りに入ろうとするが、遅い遅い。
この間合いなら、絶対にはずさないよ。
「………シューティングスター」
それは一瞬。それは刹那。
ソードスキルの発動光を置き去りにするような加速と、その分の力が突き出す剣先に集約する。届け、断ち切れ、ここは仮想世界であって現実世界でもある。
原作の中の悪人でもそれをわかってほしい。っていうかわかれ。
そして程なく遅れて音が動きに追いつく。僕はロザリアさんの後ろへ抜けており、振りかぶった動作のまま止まっていた。
「はっや……」
右手首から赤いエフェクトが絶えず溢れる。それは部位欠損を示すものだった。
この世界での体の欠如は異常状態として認識される。HPがゼロで無い限りは死なないし、時間が経てば生えてくる。命に別状はない。
「よかったね。手首で」
「くっ……」
これ現実世界だったらかなりグロッキーだよなあ。いや仮にゲームでも女の人の手首狩るとか頭ヤバイ人みたくなるかもだけど、攻略組の味わう恐怖はこんなもんじゃない。それに、殺されたと言っていたマルサだって恐かったはずだ。
よし、もうここらでいいだろう。これ以上やると本当に僕嫌な奴になる。シルバーフラグスの人たちも気になるし、おいとましよう。
「アンタ。……アンタの噂聞いたことあるわ。攻略組のくせにソロでやってるっていかれた野郎」
「心外だ。それは多分僕じゃない」
いるだろもう一人。抱え込んで頑にソロを貫く最強剣士が。
「それじゃあ悪いオネエサン。PKなんてもうやめなよ」
決まった。僕のドヤ顔振り向き様スマイル。昔これを弟に披露したところ大魔王だ、とか恐れられた。失礼な。
もうあの時とは違うからきっとハンサムな感じに仕上がっているだろう。そう願っている。
僕が転移結晶でその場を去った後で。
「……許さない。クソガキが」
よりいっそう悪意を増長させていたなんて、知る由もなかった。
「も、戻ってきた!」
「ほんとか!?」
街につくと、先転移していたシルバーフラグスの面々が一目散に寄ってきた。怪我はないかとか、よかった無事でと本当によく心配してくれた。そして一通り騒ぐと今度は肩を落として意気消沈。
やはり仲間をPKされたことにかなりのダメージを受けている。当然だ。僕だって知り合いが死ねば悲しい。その憤りは計り知れない。
「なあ……あんた、かなり強いんだろ? 協力、してもらえないだろうか」
「PKとか言わないよね」
「………」
やられたらやり返す。否定はしないけど、できればこの人たちにはそんなことしてほしくない。
「僕には関係ない。助けられたのは偶然」
「ああ、ああ。わかってるよ……だけど」
「一つだけ情報。監獄エリアを出口に設定した回廊結晶があるんだ。値段ははるけど、それを使えばゲーム終了時までプレイヤーを閉じ込めることができる」
こうでも言えば後は原作通り主人公がぱぱっと解決して終らせるだろう。肝心なところをまかせっきりというのもちょっと悪い気するけど、僕に比べたらよほどチートっぽいし。
なんとかしてくれるとシンジテル。信じてますとも。
監獄エリアのことを話しても彼らはまだ渋ているようだった。そこからは彼らが出す答えだ。たとえ前世では小説の中のお話だったとしても、今の僕にとってはまぎれもない現実。
当事者にしか出せない答えってあると思うんだ。
お元気で、という言葉を残してそそくさとその場を後にする。リズベットは悲しむだろうな。仕事柄、お客が死んでしまうことが何回かあったらしい。その度に落ち込んでいた。
どうにかして、傷つかないように伝えることできないかな。そういえば、すっかり忘れていたけど原作キャラのシリカに話しかけてみようとしてたんだっけ。まだいるかな。
「リーダー」
「……なんだ」
「あの茶髪のってもしかして。攻略組の」
「ああ。『灰かぶりの疾剣』だな。姿は初めて見るが、あの剣技や特徴からして間違いない」
「そっか。ほんと、運よかったのな俺ら」
後日、彼らシルバーフラグスはメンバー全員でのお金を合わせて監獄指定の転移結晶を購入。攻略組最前線の転移門前で、協力者を捜したらしいということを風の噂できいた。
これで主人公キリトの活躍かあ。こっそり見に行っちゃおうかな。
やっぱり前世の記憶があるから小説のオリキャラとか見聞きするとテンションあがっちゃうよね。
そんなもんだよね。
2024年02月14日現在、54層まで攻略。最上階到達まで残り46層。
先は長いようで、短い。
シルバーフラグスのマルサは勝手に名前つけちゃった
モブすぎてわかる人いないかもしれん