仮面ライダーディケイド 《インフィニット・ストラトスの世界》 作:URUTORA
それは、弱々しい笑顔だった
「セシリア、お前はあの人とよく似ている」
名家であるオルコットけに婿入りした父は、いつも周りに頭を下げて相手の顔色を窺っていた
――――お母様と?
「ああ。この綺麗な髪は、私の愛する人のものと同じだ」
仕事で忙しく家に帰ってくることも
――――でも、お父様はいつも頭を下げているだけですわ
「………セシリアは、私を情けないと思うかい?」
母は、強い人だった。ISが世に出回る以前から、女でありながらいくつもの会社を経営していた
――――………
「確かに、私の立場はとても弱い。お前から見れば、とても情けない父親に見えているかもしれない」
父は、弱い人だった。ISが世に出回る以前から、自分のプライドなど持ち合わせていなかった
――――……やっぱり
「だけどねセシリア。私は、他人からどんな評価を受けようが、そんなことはどうでもいいんだよ」
だから。だからこそ。
今でも鮮明に覚えている。
父のその表情は、いつもと変わらなかった。
媚びを売って、顔色を窺って、自分のプライドなど持ち合わせていない。
もはや癖となって張り付いてしまった、その場を穏便に切り抜けようとするための。
そんな、弱々しい笑顔で、確かに紡がれたその言葉を。
――――どうして?
「ははは。そんなこと、決まっているさ」
「私は――――を、――――――――だ」
父が次に出した言葉を聞くと、私は走って部屋から出て行ってしまった。
いきなりの事で耐えられなかった。聞き間違えだと思った。
だけど、いつか
私は―――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「………なんのようですの」
当の士本人はそんなものはどこ吹く風で、首から下げているマゼンタの二眼カメラを構えて勝手にセシリアを撮り始めた。
「別に。一夏達と別れて寮に帰る途中たまたま通りすがっただけだ(カタンッ)」
「ふん。そういえば、もう片方の方は何やら女性にすがりついていると聞きましたけれど(カタンッ)」
セシリアは挑発混じりの笑顔を浮かべる
「あなたの方はこんなところを呑気にお散歩だなんて、よっぽど試合で醜態をさらしたいのですね。まぁ、一週間程度鍛錬したところでわたくしとの差は埋まりはしない。つまりは無駄な事ですわ(カタンッ)」
「ああ。そんな無駄なことをしなくても、お前に勝つなんてのは朝飯前だ(カタンッ)」
「ほんっとに(カタンッ)口の減らない方(カタンッ)ですわね(カタンッ)っっていつまで撮ってますの!!!」
どっちが挑発されたのか分からない感じだが、とりあえずは言い出しっぺの法則を綺麗になぞる形になったらしい。
そんな事よりも、士には少し気になっていることがあった。
ファインダーを閉じるとむぐぐぐ…、とこちらをほっぺたを膨らましながら睨んでくる(令嬢としていかがなものかと思わなくもなかったが)のを無視して聞いてみることにした。
「お前、なんでそこまで男を毛嫌いする?」
「……はぁ?」
それは、他の女子達からは感じられなかった、セシリアと彼女達の明確な差異。
「女尊男卑社会の根源であり象徴であるISを動かすことが出来る、ただ2人の男。今のこの腐った世界に染まり切った連中からしたら、俺達は1番やっちゃいけないことをやっちゃったわけだ。疎ましく思われていたとしても、まぁ納得はしないが理解は出来る」
この世界に来てからまだ数日。クラスメイト達の自分や一夏を見る目が男性IS適正者が珍しいという物ばかりではないという事は士にも感じ取れた。
それは言わば『嫉妬』や『妬み』。
男でありながら
「
セシリアの士や一夏に対する態度は、女尊男卑のそれとは少し違うような気がしていた。
どちらかと言われれば。
それは『威圧』。
「単純な嫉妬や妬みじゃない。他の連中とは違う、根源的な
ただの直感だったが、士は自分の直感があながち外れていないと、セシリアと周りのズレについての読みは間違っていないと確信していた。
そして、セシリアの答えは士の確信を一蹴する。
「そんなことは決まっています。男は全て、弱いものだからですわ」
当然の事だ、と言わんばかりに。
「私の母はISが世界に浸透する以前から、女でありながらいくつもの会社を経営していましたわ。くらべて婿入りした父は、いつも周りの顔色を伺うだけ……情けないと言ったらありませんでしたわ」
心底うんざりしているといったような目つきで
「だから私は、母のような女性になると決めているのです。父のように他人に媚びることなく、オルコット家にふさわしい
士はセシリアの目を見て、ゆっくりと息をはいた。
「…それが、お前が男を目の敵にする理由か?」
「ええ。まったく、本当に頼りない人でした。他人に簡単に媚を売るあの姿、見ているこっちが情けなくなるなりましたわ」
「……随分と自分の父親をコケにしているようだが、例え弱くても男であるお前の父親がいなけりゃ、お前自身も生まれてこなかったんじゃないのか?」
「私は、両親とはすでに三年前に死別しています」
感情を感じさせない声色で、セシリアはすらすらと言い淀むことなく続けていく。
「………なに?」
「先に言っておきますけれど、同情なんて偽善を振りまくのはやめてくださる?そんなものを貰ったところで、不愉快になるだけですわ」
それは、これまでに散々同じことを言われ続け、騙され続けた事を言外に語っていた。
「何のことは無い、単なる鉄道の脱線事故でしたわ。普段仲の悪かった両親がなぜその日に限って一緒にいたのかは分かりませんけど」
セシリアは真っすぐに士を見据えて言い放つ。
「その日からわたくしの生活は一変しましたわ。オルコット家を守るために、文字道理茨の道を歩んできたと自負しています。母のようになるために、父のようにならないために」
その瞳には、確かに、覚悟の意思があった。
「わたくしは、あの人とは違う」
その瞳を見て、士は静かに思う。
「あなたを倒して証明してあげますわ、門矢士さん。男であるあなたでは絶対に越えられない、私が越えなくてはならない、その境界線を」
士が思考から脱する前に、セシリアは士の横を通りすがる。
語るは戦いの中で、ということらしい。
士も振り返らず、何事もなかったように寮への帰路へと戻っていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―1週間後―
クラス代表決定戦当日。士はセシリアと共にアリーナのBピットにいた。
第一試合は士対一夏、そして勝利した方がセシリアと第二試合を行い、これに勝ったほうをクラス代表とする。相手のシールドエネルギーを0にするか、タイムアップ時にまで相手より多くシールドエネルギーを残していることが勝利条件となり、ブザーが鳴れば試合開始だ。
以上のことを早口で二人に説明し終えた真耶は「次は織斑君の方にも行かなくちゃいけないので、合図が出たらちゃんとアリーナにでてくださいねー!」と言い残しパタパタと駆け足で行ってしまった。
どうやら反対側にいる一夏にも今の説明と、先程届いたらしい『専用機』を届けに行かなくてはならないらしい。
「決まりましたわね」
「なに?」
いよいよ試合開始間際となって、セシリアが唐突に呟いた。
「言うまでもなく、この勝負の結果ですわ」
ピットの前に鎮座するIS『
「同じレベルの者同士が戦う場合、勝敗は武器に依存する。これはISも例外ではありませんわ。多少知識量の差があったとしても、『訓練機』が『専用機』に敵うはずがありませんもの」
ISには、人間の意識と似たようなものがあるとされている。
それは使い続けることによってISが使用者の事を理解しようとするからであり、ISの使用時間に比例して『
そして『訓練機』とは、最適化を行って突起した能力を得るのではなく、
「たとえ勝ち進んだとしても、IS…専用機の稼働時間で圧倒的に勝っているわたくしに、あなたが勝つことなどはできませんわ!」
武者鎧のような形態をしているIS『
しかし、セシリアとセシリアのISは稼働300時間の中で、すでに打鉄との戦闘を経験、及び勝利している。
多少防御面に優れた機体だと言っても、一度勝った、しかも今度は操縦者が素人も同然の相手に、セシリアは負ける理由が見当たらなかった。
「だったらどうした」
しかし、門矢士は動じない。
「なっ……」
絶句するセシリアをよそに、士は懐から手の平大サイズぐらいのピンク…いや、正確には原色であるマゼンタの物体を取り出した。
「専用機だか何だか知らんが、自分だけの…ってのなら」
取り出した『それ』を腰に押し当てると、ロックを解除する機械的な音と共に
「俺も持ってるぜ、そういうの」
そこでセシリアはようやく、士の取り出したものがとあるアクセサリーの一部だと気付いた。
「…ベルトの、バックル……?」
士の纏う雰囲気が、明確に、変わる。
そして、訝しみながらも、セシリアは気付き始めていた。
ISには『待機状態』とよばれる形態が存在する。武装の質量を気にせず戦闘に臨めるISの基本能力の一つ『量子変換』の応用であり、最適化をすませると個々に応じたアクセサリーへと変化する、訓練機にはない専用機単一の機能だ。
セシリアは、無意識に自分のIS『
「ま、さか」
ザッッ!と、アリーナと青空がみえる吹き抜けとなっているピットへと赴く。ここのちょうど反対側では、一夏が自分の新しい『専用機』と共に同じく戦いの合図を待っているはずだ。
未だ明確にこの世界で何をすべきなのか、それはまだ士には分からないけれど。
それでも。どうやら尻尾らしきものは見えてきた。
その尻尾の正体を掴む為に、こんなところでは負けられない。
巻きつけられたベルトの左サイドに現れた、一見本にも見える遠近兼用武装――ライドブッカーから一枚のカードを引き抜く。
その行為が意味するは、門矢士が臨戦態勢にはいったという事に他ならなかった。
「遊ばせてもらうぞ、インフィニット・ストラトス」
明確な意思を体現するために、門矢士は叫ぶ。
自分の全てを忘れてしまっていた男がそれでもたった一つだけ覚えていた、戦う者へと己の姿を、自分を『変える』その言葉を――――
「――変身!!」
【KAMEN RIDE】
バックルからウィンドウが投射され、サイレンのような警告音が鳴り響く。
バシンッ!!とカードを裏返しにして、そのままバックルの挿入口にカードを装填。バックルの両脇についているハンドルを左右から両手で叩き込んだ。
【―――DECADE】
バババババババババ!!!と。複数の『影』がその存在をぶらしながら、セシリアの前に現れた。
それと同時に、門矢士自身も『黒』へと変わっていく。
瞬きをしたその一瞬、いくつもの影が黒を包み込み、重なっていった。それはカメラのピントを合わせたように、現像された写真のように、色を、姿を、存在を明確にしていく。
そして、ドライバー内部に埋め込まれたオーパーツ『輝石:トリックスター』が
「それは……IS………?」
呆然と呟くセシリアを尻目に、両手を軽くパンパン!と叩きながら誰ともなしに告げる。
「さあ、初陣と行くぜ」
新たに『
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