仮面ライダーディケイド 《インフィニット・ストラトスの世界》   作:URUTORA

11 / 19
第10話 VS 白式

ピットから飛び出したディケイドは、ドリフトで地面に弧を描きながらアリーナへと着地した。そして、程なくして空中に佇んでいるISを纏った一夏を目視する。

 

白いIS。真っ白いIS。飾り気のない無の色で、まぶしいほどに純白なISだ。搭乗するのは、本来であれば女性にしか操ることのできないはずのそれを、男の身でありながら初めて動かした異端児、織斑一夏。

そんな恐らく今世界で最も歪な男は、自分よりもさらに突飛したモノ(・・)を前に、訝しげな目を向けていた。

 

すると、複眼(ディメンションヴィジョン)に一夏のISの情報が表示される。トリックスターがこの世界のライダー(IS)を読み込んだことで生まれた、この世界でのディケイドの力だ。

 

「――白式。それがお前のISか」

 

「その声……士なのか!?てことはお前のそれ…」

 

と、一夏が言い終える前にビービー!と連続した音が2人の耳元で鳴り始めた。すぐさま画面が表示されると、そこには血相を変えた真耶の顔が大音量と共に飛び込んできた。

 

『かかかか門矢君っっ!?あなたホントに門矢士君なんですか!?私の準備した打鉄は!?というか全体的にあなたのそれは一体なんなんですかっ!?』

 

突如未確認であるISの出現と、その搭乗者が士であるという異常事態でパニックを起こしているのか、真耶は浮かんだ疑問を矢継ぎ早に士へとまくし立てた。

 

割としっかり全部の質問を聞き取れていた士は、ライドプレートの埋め込まれた仮面の下で少しだけ顔をしかめて

 

「ギャーギャーうるせえ。俺の専用機ってやつだ」

 

『せ、専用機っっ?ていうかそれあんまり答えになってませんっ!』

 

一刀両断されいよいよ涙目気味になってきた真耶をどけて、今度は画面内に千冬が写り込んできた。

 

『門矢。1つ聞きたい』

 

「あん?」

 

有無を言わさぬといった圧力をかけてくる千冬をよそに、生返事でディケイドは応答する。

 

『そのピンク…いや、正確にはマゼンタといったところか。その機体はお前の専用機ということだな』

 

「ま、そういうことだな」

 

『何故黙っていた?』

 

「別に言う必要もねえだろ」

 

通信越しに2人の空気が戦慄する。ひうっ!?と小さく真耶が声をあげる声が聞こえた気がした。

 

『……いいだろう』

 

千冬はふっと一瞬だけ口元を綻ばせた。

 

「一夏、所属不明機を門矢士の専用機と認定。予定通り一回戦を続行しろ」

 

「ええっ?いいんですか織斑せ」ブツンッ

 

一夏の返事と真耶の言葉を聞ききることなく、千冬が通信を切った。

 

「よう一夏。とりあえずお許しが出たみたいだが、どうする?」

 

「………なんだかよく分かんねぇけど」

 

多分今ある問題は自分で考えても分からないだろう、と一夏は大雑把な結論を出した。

ガシャリ、と機械的な音を鳴らしながら、戦闘態勢へと入る。

 

「とにかくやるしか無い、って事だよな!!」

 

直後、一夏は圧倒的な疾さで肉薄する。

莫大な質量を持った鉄の塊が、ディケイド目掛けて一直線に突っ込んできた。

 

「おおおおおおおっっっ!!」

 

一夏の急速接近に対して、ディケイドはゆったりとした動きでディケイダーから降りる。

 

そして、あと1秒もない僅かな時間で互いが接触しあう、その瞬間。一夏の目には、士の姿が――――一瞬ぶれたように写った。

 

(え?)

 

「はッッ!!」

 

そして、気付いた次の瞬間。

ディケイドの回し蹴りが一夏を吹き飛ばした。

 

「ゴブッ!?」

 

ガガガガガッッ!!

地面に片手を付きながら体制を立て直し、周回遅れで自分が脇腹を蹴られたのだと認識した。機体のダメージレベル、シールドエネルギーの残量を知らせるアラートがけたたましく警告音を鳴らしている。

 

(隙をつかれて、逆にこっちがくらっちまったっていうのか…?)

 

正面から突っ込んだにも関わらずディケイドの動きが全く見えなかったことが、一夏には信じられなかった。ISのハイパーセンサーによって研ぎ澄まされた感覚を得たからこそ、ダメージを与えられたこと以上に攻撃を見切れなかったことが、一夏の精神に負荷をかけてくる。

 

「おいおい一夏。まさか、こんなもんじゃねえだろ?」

 

ディケイドは特に構えることもせず、だらりと両腕をさげながら一夏を挑発する。とにかく、このままもう一度突っ込んだところで、また返り討ちに遭うだけだ。

 

(く……っ!装備、何か装備は!?)

 

一夏の問いに応えるように、現在展開可能な装備の一覧が現れる。しかし――――使えるのは《名称未設定》とされた近接ブレードただ1つだけだった。

 

(何もないよりはましか!)

 

キィィィィン………

 

「ほう……」

 

近接ブレード《名称未設定》を呼び出し(コール)、展開。高周波音と共に光の粒子が放出され、一夏の右手に渡り1.6メートルにも及ぶ長大な片刃のブレードが現れた。

 

「……ああ。勿論、こっからだぜ!」

 

ガシャリと一夏はブレードを構え、再度ディケイドに接近する。

ディケイドはベルトに装備しているライドブッカーを引き抜き、グリップを引き上げ折りたたまれた刃・ブッカーソードを展開した。そして、『構える』というにはあまりにも隙だらけな独特の体制で、一夏を迎え撃つ。

 

「おう、来い!」

 

ディケイドが応じたその直後、二人の刃が連続的な斬撃音を打ち鳴らながら激突した。

 

 

 

________________________________________________________________________________________

 

 

 

 

「はぁぁ……すごいですねぇ…」

 

一夏の出撃したAピットでは、ディスプレイに表示された戦闘詳細データ、そして目の前で起きている戦いをリアルタイムモニター越しで見ていた真耶がため息混じりに呟いた。

 

「二人共、ISをまともに動かすのが初めてとはとても思えません。特に門矢君は……」

 

一夏は素人とは思えないスピードでISの動きを理解している。圧倒的に足りていない知識を、感覚の領分で補っているのだ。

しかし、試合は士優勢の一方的な展開になっている。白式のシールドエネルギーを確実に削っていき、なおかつ士自身はまだ一撃も食らわされていないのだった。

 

「織斑は白式の反応に追いつけていないな。自分が振り回されていては、いつまでたっても現状は打破できないぞ」

 

千冬は忌々し気に顔を歪める。その表情を少しの間ながめた真耶は思った事をそのまま言ってみることにした。

 

「…………やっぱり、織斑先生でも弟さんが心配」

「……………」

「いたたたたたっ!?ごめんなさい冗談でっ、はううっ!?」

 

そして、一も二も無くヘッドロックコースに向かった千冬と真耶を気にもとめず、箒はずっとモニターを見つめ続けていた。その表情は、一見するだけでは分からない様々な感情が渦巻いている。

 

「一夏……!」

 

勝負は確実に終わりへと近づいている。

 

 

____________________________________________

 

「はあ、はあ……!」

 

「………」

 

ディケイドはスラッとライドブッカーの刃を一撫ですると、地面に膝を着いている一夏への追撃を中止した。ことIS戦においてお互いが地に足をつけている、というのもかなり珍しい光景なのかもしれない。

そして、一夏を眺める仮面で覆われて見えないはずの士の表情は、ひどく失望しているようだった。

 

「この程度か。景気付けに派手に遊んでやろうと(・・・・・・・)思ってたってのに…」

 

「くっ…くそ、こんなにも差があるってのかよ……」

 

試合の制限時間はまだ2/3程度残している。しかし、一夏のシールドエネルギーはとっくに半分を下回っていた。

 

(士のISの機動性は後ろに停車してあるあのバイクに依存してるって考えで多分あってる……スピードでは断然こっちが優位だってのに、何で!)

 

一夏の白式には遠距離用攻撃武装が装備されていない。使える武器は己が拳と、展開している近接ブレードのみ。つまり一夏はディケイドに接近して直接シールドエネルギーを削るしかない。

慣れてきているとはいえ、一夏のIS操縦は素人同然。小学生の頃にやっていた剣道の太刀筋を応用するにしても、IS本体の細かい操作が出来ずどうしても接近するまでの動きが直線的になってしまうのだった。

 

それでも、バイクに乗らず、ふざけているのかと思ってしまうぐらい自然体で立っているだけのディケイドに対して、大雑把でもスラスターで加速できる一夏のほうが明らかに有利なはずだった。

 

 

 

だが、こちらの攻撃は届かない。

 

 

 

必要最小限の動きでこちらの斬撃を回避し、振り下ろした刃を受け流し、押し返し、そうして作った隙を見逃さず斬撃と徒手空拳を叩き込んでくる。

 

素人じゃない。対等じゃない。

明らかに戦闘経験値が違いすぎる。

 

(お互い条件は同じぐらいだと思ってたんだけどなぁ…参るぜ)

 

どうにもできない差を感じながら、それでも一夏は立ち上がった。

 

「だけど、まだだ……!」

 

このままじゃ、終われない。『相手に一撃も食らわせられませんでした』じゃあいくらなんでも格好がつかない。

こんなことじゃ、俺はダメなままだ。

 

「こんなことじゃ!!俺は―――」

 

「これ以上やっても時間の無駄だ」

 

一夏の叫びを無視しながら、ディケイドはゆっくりとした動きでライドブッカーからカードを1枚引き抜く。宣言するように一夏へと向けながら、カードをベルトへと挿入し、バックルを閉じた。

 

【ATTACK RIDE――BLUST】

 

「残念だぜ、一夏」

 

決着の言葉と同時に、トリガーを引く。ガンモードとなったライドブッカーの銃口が、砲身ごと5倍に増加した(・・・・・・・・・・・)

 

《ディケイドブラスト》

 

一夏が避けるよりも広く、早く。

50口径から繰り出されたマゼンタの追尾光弾が、容赦のない爆発を引き起こした。

________________________________________________________________________________________________

 

 

『フォーマット・フィッテング完了。確認ボタンを押してください』

 

 

____________________________________________________________

 

 

 

 

 

立ち上る煙と砂埃によって一夏は完全に視認出来なくなっている。

 

ディケイドはライドブッカーをブックモードに戻しながら一夏がいた場所に背を向け歩き出した。

 

「おい、聞こえてんだろ?試合は終わりだ。とっとと次を始めてくれ」

 

ディケイドはモニター室から見ているだろう千冬に2試合目の催促を出す。それは自分が勝ったことを疑っていない、疑問にすら思っていないという事を如実に表していた。

 

(世界でただ1人ISを動かせる男、織斑一夏…期待しすぎたか)

 

正直に言って拍子抜けだった。確かにISを動かすのが2回目とはおもえない程の健闘ぶりだったが、所詮それは素人と比べたらの話。

最後の方に『それらしい兆候』は見て取れたが、いずれにしろ自分の敵では無かったというつまらない結末だった。

 

遅れてピットから通信がはいってくる。自分の弟がコテンパンにやられたらあの鬼教師はどう出てくるのか少し気になって、そのまま通信を聞くことにした。

 

しかし、通信に応じた千冬の声は、ディケイドへと向けられたものではなかった。

 

 

 

機体に救われたな、馬鹿者め(・・・・・・・・ ・・・・)

 

 

 

「っ!?」

 

ディケイドはバッと後ろを振りかえる。そこには変わらず濛々(もうもう)と煙と砂埃とが立ち込めていた。

 

しかし、変化もあった。

僅かに生まれ始めた煙の隙間から、白い光が漏れ出していたのだ。

 

なんだあれは、とディケイドが思わず呟いてしまうその直前。

 

 

 

ドゴウッッ!!と煙が二つに切り裂かれた。

同時に閉じ込められていた光が解放され、その正体を現す。

 

一夏の――白式の形状が変化していた。

最初の工業的な凹凸は消えて、どこか中世の鎧を思わせるようなシャープなデザインへ。唯一の装備である近接ブレードは形状のみならず、その名前まで変えていた。

 

雪片弐型(ゆきひらにがた)

 

『雪片』

それはかつて、第一回モンドグロッソで優勝した選手の使っていた武器と同じ名前だった。

 

「……はは、俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」

 

一次移行(ファースト・シフト)』。初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)を試合中に終えた白式が本当の意味で一夏の専用機となった瞬間だった。

 

「――――このままじゃ、ダメなんだ」

 

自身の思いを再確認する。

 

両親に見捨てられ、天涯孤独となっても、千冬は自分を守ってくれていた。自分はずっと守られていた。

 

そんな何もできない自分が、心の底から情けなくて、嫌いだった。

 

だからこそ思った。

 

 

 

『変わりたい』と。

 

 

 

「もう、守られるだけの関係は終わりにしよう」

 

一夏の意思に呼応するように雪片がさらに変化していく。刀身がガシャン!と2つに分割され、そこから膨大な光の奔流が溢れ出した。それは次第に形を成して、反りのある一本の『刃』となった。

 

「とりあえずは――千冬姉の名前を守るさ!」

 

「っ!!」

 

一夏の宣言と同時。士は迷いなく迅速に新たなカードをライドブッカーから引き抜き、バックルへと叩き込んだ。

 

直後、恐ろしい速度で一気に間合いを詰めてきた一夏が雪片を抜刀するのに合わせて、こっちから叩き潰さんとディケイドもライドブッカーを振り下ろす。

 

(問題ない)

 

そして、一夏の一次移行(ファースト・シフト)を受けても、ディケイドは冷静だった。

 

(やつのISが進化してどんな能力を得たとしても、それを使う判断を下すのは操縦者である一夏自身だ)

 

刃が交差するその一瞬手前、ドライバーがカードの力を二次元から三次元へと昇華させる。

 

【ATTACK RIDE――SLACH】

 

ガイダンスが投影されると、今度はライドブッカーの刀身が5倍に増加した。

 

(一夏が一直線にこっちに向かって来るってんなら好都合。タイミングを合わせて逆にこっちからねじ伏せてやる!)

 

ライドブッカーとマゼンタの刀身の計5本の刃で繰り出す《ディケイドスラッシュ》。

どんな相手でも問答無用で切り捨てる、絶対の攻撃力をもった一撃を迷いなく振り下ろした。

 

そして、2人の刃が鍔迫り合いを起こす―――ことはなかった。

 

 

 

バリィィィン!!!、と。

 

ガラスを割る様な乾いた音が辺りに響き渡るのと共に、雪片弐型がマゼンタの4つの刀身を粉砕した(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「なっ!?!?」

 

「おおおおおおっっ!!」

 

予想外の事態に、頭の中が真っ白になる。細身のライドブッカー単身だけでは肥大化した雪片弐型を受け止めきれず、そのまま後方へ吹き飛ばされた。なんとか体制を整えながら着地をするも勢いを殺しきれず、試合の中で初めて膝を付かされる。

 

ようやく出来たその隙を、一夏は見逃さなっかた。

 

(いける……!)

 

ダンッッ!!と一夏は地面を蹴り上げ、スラスターの加速力をもって一気に勝負をつけに行く。

 

 

 

 

 

 

「一夏は負ける。」

 

「ええっ?どうしてわかるんですか?」

 

突然の敗北者決定宣言に、真耶は声を裏返してしまった。一夏に勝機が訪れ、わずかに安堵の表情が出ていた箒もおもわず振り返る。

 

「どうしてです!?勝負の流れは完全に一夏に傾いてる!なのに――」

 

「自分の左手を閉じたり開いたりしているだろう?」

 

「「え?」」

 

言われて2人は画面を注視してみる。猛スピードでディケイドへと接近している一夏の左手は、確かにガッシャンガッシャンと忙しなく動いていた。

 

一体それが、と箒が言葉に出す前に、答えは自分から現実となってやってきた。

 

 

 

 

「これで、決まりだぁぁぁあああ!!!」

 

必殺の一閃を繰り出そうとしたその瞬間。

 

 

 

 

ビーーッッ!!

 

『試合終了 勝者:門矢 士』

 

 

 

 

「「「「……は?」」」」

 

ディケイドと一夏、箒と真耶が見事にシンクロする。雪片弐型の巨大化した光の刃がみるみる小さくなって霧散していった。

 

「一夏があのクセを出すときは、決まって簡単なミスをする」

 

ただ1人、千冬だけはやれやれといった感じで首を振っていた。

 

「武器の特性を考えずに使うからだ、馬鹿者め」

 

しかし、その顔は生徒を叱咤する教師というよりも。

 

いくつになっても手間のかかる、出来の悪い、それでも心配してしまう自分の弟を見るような、そんな優しい顔で彼女は笑っていた。

 

 

____________________________________________

 

 

 

 

「ふふふ…」

 

そして、Bピットの中では今の試合を見ていたセシリアも静かに笑っていた。

 

「次の勝負…貰いましたわ……!」

 

それは、勝利を確信した者の、愉悦からくる悦びだった。

 

「見ていなさい、門矢士……私を侮辱した罪、その身で償ってもらいますわ!」

 

光がセシリアを包んでいく。乙女の涙の色をそのままおこしたような、青色のISが展開された――――

 

 




感想などなど、お待ちしております
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。