仮面ライダーディケイド 《インフィニット・ストラトスの世界》   作:URUTORA

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お久しぶりです。お待たせ致しました。


第11話 VS ブルー・ティアーズ 1

第1試合、クラス代表を決定する第1戦は門矢士の完勝という形に終わった。

 

白式がディケイドへと与えたダメージが0という理由から、試合の合間に行うはずだったシステムチェックをとばしてそのまま第二試合に進むことになったらしい。地に立つディケイドの複眼ディメンションヴィジョンは、『輝石:トリックスター』の世界のあいまいな辻褄合わせ(・・・・・・・・・・・・・)によって得たISの『解析』によって敵の姿を確認していた。

 

「最後のチャンスをあげますわ」

 

「チャンスだと?」

 

セシリア・オルコット。そして彼女の操るIS『蒼い雫(ブルー・ティアーズ)』。遠距離射撃型のISで、特殊兵装として2mを超える大型レーザーライフル『スターライトmkⅢ』を有している。すでに試合開始のブザーは鳴っているが、砲身は下げたままギロリとこちらを睨み下ろしている。

 

「あなたが既に専用機を手にしていることには少し驚かされましたが、所詮は私の強さを証明するためのお膳立てにすぎないという事ですわ。このまま戦ってもわたくしが勝利するのは自明の理。惨めで滑稽な姿を晒したくなければ……そうですわね、土下座でもすればゆるしてあげないこともなくってよ?」

 

「全く、相変わらず大した自信だ」

 

セシリアの挑発に、ディケイドは大きく息をはく。

 

「わかりませんの?あなたが先に試合を行ったという事は、私に情報を与えたということですのよ?」

 

それでも、ディケイドはその飄々とした態度を崩す事はない。

仮面の下で。不敵に、笑う。

 

「言ったはずだ、俺は破壊者だと。お前は俺に勝つことは出来ない。」

 

「ふん、最後の最後まで口の減らない方ですわね。まあ、言っても分からないのならそれでもいいですわ。それなら――」

 

セシリアがようやくスターライトを構える。

 

 

 

「ここでお別れですわね!」

 

「っ!!」

 

セシリアが引き金を引くのと同時、ディケイドは素早い動きで後ろへと跳躍し回避する。ギュインッッ!という耳を劈つんざく音とともに青白いレーザーが放たれ、ディケイドが一瞬前まで立っていた地面を抉り飛ばした。

 

「ならば踊りなさい!わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

ドシュンドシュンドシュン!とセシリアはスターライトmkⅢを連続で打ち放つ。

ディケイドは跳躍を繰り返しながらマシンディケイダーに素早く飛び乗り、アクセルを思い切り回した。グラウンドにいくつものクレーターを作りながら迫りくるレーザーを匠なライディングテクニックでギリギリ回避していく。

 

「逃げるだけですの!?」

 

「アホ言え。これも戦略の1つだ」

 

「とことんバカにして……っ!?そんな幼稚な戦略擬きがいつまでも続くとお思いですの!?」

 

ディケイドは観察し、思考する。

 

先程の白式戦と合わせても、ディケイドの動きを観察できたのは十数分にも満たないはずだ。その僅かな時間で得られる情報など実戦に使えるかも分からない、文字通り雀の涙程のものだろう。

しかし実際には、セシリアの狙撃は確実にディケイドを追い詰め初めている。バイクで高速に移動し続けるディケイドの回避パターンをセシリアが予測し始めているのだ。

 

「ふん。大口は叩いても、所詮はやはり第一世代の全身装甲(フルスキン)ということですわね」

 

「なにが言いたい?」

 

「スラスターやアンクロックユニットもなく、ISの基本性能である飛行すらもできない。地面を無様に駆けずり回るしかできない、男のあなたに相応しいISということですわよ!」

 

両者は互いに言葉を交わす。

その間にも確実にセシリアの狙いは正確さを増していく。このままではスターライトの光弾が命中するのに、それほど時間は掛からない。おそらく高度な計算処理能力によって戦闘データを正確にトレースし、逐次操縦者へと伝達しているのだろう。

 

(これが、IS)

 

宇宙空間での稼働を原則として開発されるも、搭載されているハイパーセンサーの恩恵によって得られる力の巨大さゆえに軍事利用されるようになっていった、この世界のライダーとも呼べるべき存在の力。

 

 

ディケイドライバーに内蔵されている『輝石:トリックスター』の世界のあいまいな辻褄合わせとは、いわばディケイドの存在を世界に違和感のないようなじませている(・・・・・・・)というようなものだ。

 

ただそれはあくまで『ふり』をしているだけに過ぎない。龍騎の世界でミラーワールドに行き来できたりブレイドの世界で死ぬはずのないアンデッドを完全に消滅させることは出来ても、ベントカードそのものを使用したりラウズカードで封印してその力を使役したりという能力まではトリックスターはそのままでは(・・・・・・)再現できない。

 

(だが、このまま回避しててもジリ貧だ)

 

ディケイドは左手をハンドルから放し、片手でライドブッカーに触れた。ヴゥン!というバイクの低いエンジン音とともに、一瞬でブックモードからガンモードに展開される。

 

射撃と射撃の間にできる、ターゲットに狙いを定め直すその一瞬。セシリアからの弾雨を大きく弧を描くように回避しながら、マゼンタのエネルギー弾をセシリアに向けて撃ち放った。

 

「くっ…!」

 

あえて狙いを絞らずセシリアとその周り広範囲へ撃たれたことで、セシリアは一端射撃を中断し回避に専念する。

 

ディケイドはそのスキを見逃さない。

 

「はっ!!」

 

ディケイダーを蹴り上げその跳躍力をもって、セシリアに一瞬で肉薄する。すでにライドブッカーはガンモードからソードモードへと変形しており、回避した先で油断したところを即座に攻撃する算段だ。

 

「甘いですわ!」

 

しかし叫ぶと同時、ブルーティアーズの肩翼ユニットから4つのユニットが射出された。

 

「なんだ……?」

 

「おいきなさい、ティアーズ!」

 

多角的な直線軌道でそれでいて不規則に動き回るフィン状のその先端には、直接レーザーの銃口が開いている。セシリアは迫り来るマゼンタのエネルギー弾を無視して、四機のビットから一斉にレーザーを放った。

 

「ぐあっ!?」

 

ライドブッカーでかろうじて防御するものの、何発かがⅩマークの入っているアーマーへと着弾する。

踏みとどまることのできない空中で食らった攻撃によりディケイドはそのまま吹き飛ばされ、ドウン!!という派手な音と共に地面へと墜落した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイパーセンサーから送られてくる情報を横目で見ながら、しかしセシリアは忌々しそうに眉を歪める。

多少なりともダメージは与えられたようだが、試合終了の合図であるブザーはまだ鳴っていない。

 

ライドブッカーの攻撃にいくらか被弾した事で、自らのシールドエネルギーも減少していた。

 

結局、いくら卑下したところでまだ自分はあの男を仕留めきれていないという事だ。

 

その事実が、セシリアの苛立ちをさらに加速させる。

 

「っ……!!分からないのなら教えて差し上げますわ!あなたの敗因は手の内をわたくしに見せすぎた事……そんな状態でたかだか第一世代の機体が、第三世代のブルーティアーズに勝てる道理などありませんのよ!!」

 

 

ぶつけられる言葉に対して立ち上がるディケイドの表情は分からない。

ただ一度両の手をはらって、彼は再び走り出した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

全身装甲(フルスキン)?」

 

同じ頃、モニター室へと移動した一夏はセシリアから出た単語に首を捻っていた。

 

「それって、士の奴が使ってるISのことだよな?確かにテレビとか見てても全身を覆ってるISとかって見たことなかった気がするけど…そんなに珍しいものなのか?」

 

「ただ珍しい、というだけではない」

 

千冬がモニターから目を離さずに教師の顔で(・・・・・)答えた。

 

全身装甲(フルスキン)とは、現在世界で浸透しているISの基盤となった『第一世代型』ISの別称だ。その名の通り全身を鎧のように装甲で覆っていることからついたものだが――」

 

「?」

 

「……ISには『シールドエネルギー』や『絶対防御』がある。技術ラインが確立された第二世代型以降では余計な装甲はすべて取り除かれ、第一世代型とともに使われなくなったもはや『死語』のようなものだ」

 

千冬の言葉に一夏は、そして箒までもが訝しむ。

 

『ディケイド』と呼ばれるISが第1世代というならば、第3世代型であるセシリアのブルーティアーズとは性能差は天と地ほどの筈だ。負けは必至。操縦者の技量や稼働時間以前の問題、プロトタイプが完成形に勝てることなどあり得ない。

 

それほどまでに、ISの世代差というものは大きい。

 

(それにセシリアは、俺と士との試合でディケイドの性能を多少なりとも把握してるんだぞ。なのに…)

 

ギリッ、と。思わず一夏は強く拳を握りこむ。

格上同士の戦いを見て、自分の力の無さが嫌でも分かってしまう。

 

その悔しさに、隣にいた箒はすぐに気が付いた。

 

「一夏……」

 

「…ああ。悔しいけど、今の俺じゃあ全然届かない」

 

どうしようもないほど、追いつく相手との距離は遠い。

けれど目は背けない。離されているならば、追いつくだけだ。

 

変わらずに一夏は戦いの行方を見続ける。

 

(『今の俺じゃあ』か…変わらないな、一夏)

 

幼馴染の昔のままの性格が、箒にはたまらなく嬉しかった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「さあ、いい加減理解出来たのではなくて?私とこのブルー・ティアーズに貴方ごときが勝る事など出来ないと」

 

試合開始から数分が経過したが、ディケイドはいまだ決定打となるダメージをセシリアに与えられずにいた。

 

「やはりティアーズが相当お気に召さないようですわね」

 

セシリアはその理由を、ビットによる多角的な遠距離攻撃によるものだと分析していた。

 

「わたくしの専用機『蒼い雫(ブルー・ティアーズ)』は、イギリスが独自に新開発した特殊兵装『ブルー・ティアーズ』の試験搭載機第一号。搭乗者のイメージを反映・具現化することで手動では不可能なレベルでの操作性を獲得した、最新鋭の第三世代型ISですわ!」

 

「聞いてもいないのにベラベラと。後悔するなよ!」

 

セシリアの言葉を遮るようにディケイドは再度光弾を放つ。狙いはセシリアではなく、ティアーズと呼ばれた特殊兵装。帯のように広範囲で貼られた弾幕が、1機のティアーズに襲いかかった。

 

「話したところで、どちらにしろあなたに勝機はありませんわよ!」

 

セシリアのイメージに感応し、四機のティアーズが舞い踊る。

思考型イメージを反映したビットがマゼンタの弾丸を避けながらディケイドの周りに接近する。正面左右と前方上空の4点に等間隔でビットが配置された。

 

「……!」

 

「機動力の無いあなたには、このティアーズは攻略できない。さあ、そろそろフィナーレと参りますわよ!」

 

逃げ場のなくなったディケイドに、ブルー・ティアーズの集中砲火が襲いかかった。正面左右と前方上空よ4点から放たれたレーザーは、敵を撃ち抜かんと一直線に突き進んでくる。

 

多少時間は掛かったが、ようやくこのふざけた男を屈服させられる。セシリアはそう確信した。

 

 

 

 

 

 

「…なるほど。大体分かった」

 

【ATTACK RIDE――INVISIBLE】

 

直後、ディケイドの姿が景色に溶け込むように消えていった。

 

 

 

 

「………え?」

 

標的を失ったティアーズの正確無比な光弾がそれぞれ衝突・弾け飛ぶ。

 

目の前で起きた現象に理解が追いつかず、頭の中がいっぱいになる(・・・・・・・・・・・)

 

(そんなばかな……確実に捉えたはず!一体どこーーー)

 

「こっちだ」

 

答えはすぐにやってきた。ハイパーセンサーからけたたましいアラートが鳴らされている。

 

「くっ、後ろ!?インターセプター!!」

 

「遅い」

 

【ATTACK RIDE――BLAST】

 

セシリアが近接用武装『インターセプター』を展開するのと、ライドブッカーの銃口が5倍に増加するのはほぼ同時だった。

 

(くっ、間に合わない!?一体何がどうなって――)

 

ディケイドは躊躇いなく、引き金を引く。

ズガガガガガガ!!と連続した銃声が響き渡った。

 

 

超至近距離で撃ち放たれた《ディケイドブラスト》は、分散し対象を正確に追尾する(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

放たれた光弾はセシリアを避けるように軌跡を描く。浮遊していたブルー・ティアーズの代名詞『ティアーズ』4機全てが一瞬にして撃墜された。




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