仮面ライダーディケイド 《インフィニット・ストラトスの世界》   作:URUTORA

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第18話 約束の意味

「どーゆーことよ一夏ァッッ!!!!アンタ、そそそそ、その女と同棲だなんてっっ!?!?」

 

時刻は夜の20時頃。そろそろ学生達は定められた門限に間に合うよう自室に戻り始めている頃合いだが、織斑一夏と篠ノ之箒が暮らす1025室には遅めの来客があったようだ。

 

「貴様、いきなり入ってきて何を不躾な!?」

 

「どうしたんだよ鈴!?ひとまず落ち着けって――」

 

「うっさい!これが落ち着いてられる訳ないでしょーが!」

 

ややあって、士が開けっ放しになっている扉へと近づいていく。

 

隣室に突撃していった鈴を見送り早々に喧騒が響いてきたあたりでそのまま自室に戻ることも割と本気で考えた彼だが、『箒と同室』というワードと共に飛んで行ったあたり一夏に対して若干の罪悪感がないでもなかったので、とりあえず様子を見に来たのだった。

 

(鈴のあの感じ(・・・・)……まあ大体分かっちゃいるが、一夏の奴が穏便に話を丸く収めらるような器量を持っているとも思えないしな)

 

士を知る周りの人間が聞けば激しく「お前が言うな!」と突っ込まれそうな感想を抱きつつ、部屋の中を覗いてみる。

 

「だーから、同棲とかそんなんじゃないって!!」

 

「何が違うってのよ!!同じ部屋で寝食を共にしてるってことでしょ!?」

 

「そりゃまあしてるけど…」

 

「それが問題だって言ってんのよ!!!」

 

「一緒の部屋だから何だというのだ!それは私と一夏の問題であって貴様が入りこんでくる様な事ではない!」

 

「箒の言うとおりだぞ!他の女子達ならまだしも、俺たちの間に鈴が思うような事は――」

 

「貴様は黙っていろ不埒物が」

 

「なんでお前まで俺に矛先むけてんだ!?!?」

 

覗いた先ではぎゃあぎゃあと3人が騒ぎあっており、思った以上にひっちゃかめっちゃかな状況だった。

 

「それに同室なのが箒で正直助かってるんだぞ?士はいいとして、これが見ず知らずの女子相手だったらそれこそゆっくりなんて出来ないだろうしな」

 

と、一夏の言葉にパッと目を見開く鈴。

 

「なによ、じゃあ幼馴染だったらいいわけ?そんなら話は早いわ」

 

しゅぱっと向きを変え、目標をファースト幼馴染へとチェンジ。

片方の手を腰に当てて、もう片方の手の平をくるりんと返し差し出すようにして箒へと突き出した。

 

「てことで篠ノ之さん、聞いた通りよ。あたしと部屋変わって?」

 

「ふ、ふざけるな!!いきなり何故そうなる!??」

 

「ほらさ、男と同室だなんて篠ノ之さんも迷惑してるでしょ?疲れるし、気を遣ってゆっくりもできないし」

 

「べ、別に迷惑だとは思っていない!それにその理屈なら貴様だって同じことだろう!」

 

「だいじょぶだいじょぶ、私も幼馴染だから」

 

「だからそれが理屈に合っていないと言っている!!!」

 

(絶妙に会話が嚙み合ってねえ……)

 

開けっ放しとなっている部屋の扉に体重を預けながら、士は遠い目で痴話喧嘩を傍観する。

 

会話の主導権をお互い一歩も譲らないというのもあるだろうが、そもそも話の主題が『意中(いちか)の相手との同室』なので、それを口にする事を箒と鈴が躊躇(ためら)いそこへ一夏の唐変木が重なることによって、話をよりややこしくしているのだった。

 

「ねえ一夏。あの時の約束(・・・・・・)……覚えてる?」

 

「あ、んん?約束??」

 

今度は箒を放り出し、なぜか若干もじもじしながら全く関係ない内容を尋ねだした。会話の振り切れ具合に流石の付き合いの長い一夏もついてこれず言葉を詰まらせる。自分のしたい事は多少強引にでもやってのけようとする奔放さは昔から変わらないようだが、この状況でもお構い無しなのは流石にどうなんだ、と鈴の対人処世術(コミュ力)に対して割と真剣に考える。

 

「ええいっ、私を無視して話を進めるな!!」

 

「とにかく、あたしもこの部屋で一緒に暮らすことにするから」

 

「ふざけるな、勝手な事ばかり!とにかく部屋は変わらない!さっさと自分の部屋へ帰れ!!」

 

「ねえ、あたしは今一夏と話してんの。関係ない人は黙っててよ(・・・・・・・・・・・)

 

「………っっ!!!!」

 

鈴の言葉に、篠ノ之箒の纏う雰囲気がザワッ!と変わる。

そのまま素早く座席に立てかけてある竹刀を掴み、鈴を睨みつけながら正面に構える。

 

(おいおい…!?)

 

気遣いなどない、怒りに任せた情動的な本気の殺気。静観を貫いていた士がそれを感じて動くも、箒までには距離がありすぎた。

 

「貴様程度……!!!力ずくでっっっっ!!!!」

 

「な、箒!?止め――」

 

一瞬遅れて一夏も制止の声を上げるが、我を忘れた彼女には届かない。

 

流れるような動きで上段の構えからの一閃。

防具も何も付けていない鈴に向けて躊躇いなしに竹刀を振り下ろした。

 

バギィッッ!!!、と。ものすごい音が部屋に響き渡る。

 

 

 

(……あれは)

 

「鈴っ!大丈夫か!?」

 

士は立ち止まり観察する。最悪の事態を想定し声を荒げた一夏も、一呼吸遅れて現状に気付く。

 

 

 

 

 

竹刀を振り下ろされた鈴は――――なんの問題もなく、至って平然とそれを受け止めていた。

 

貴様程度(・・・・)――ね。一夏に関してもだけどさ、全体的にあたしの事舐めすぎじゃない?」

 

 

 

 

 

竹刀を防いでいる華奢で小さかったはずのその右腕は、赤色で彩られた装甲によって覆われていた。

 

「大丈夫に決まってるじゃん。今のあたしは専用機持ちで――――『代表候補生』なんだから」

 

 

 

 

『部分展開』。竹刀が振り下ろされる直前、鈴は掲げた片腕に自身のISの腕部のみを展開し、箒の一撃を防いでいたのだ。

 

「ほう……あれが部分展開ってやつか」

 

初めて目の当たりにした士がつぶやく。

 

部分展開とは、腕部・脚部・兵装等の一部パーツのみを展開(オープン)する量子変換の応用技術の1つ。エネルギーの枯渇が大きな弱点となるISの戦いにおいて最も重要な『節約』が可能な事が最大の利点であり、エネルギーの消費を展開部のみに抑えることができる。

 

ISの装甲に叩き込まれた竹刀は剣先がへしゃげており、鈴はそれを流し目で軽く確認しながら目の前の現実が信じられず呆然としている箒に低い声色で告げる。

 

「どーゆーつもりか知らないけどサ」

 

一呼吸おき、部分展開した自身の片腕をガシャリと動かす。

 

ぐしゃぐしゃとなった竹刀を跳ね除けながら、鋭い眼光で箒を睨みつけ言葉を続けた。

 

 

 

「今の、生身の人間相手だったら本気で危ないよ」

 

「――――ッッ!!?」

 

(これが……鈴、なのか…?)

 

 

先ほど発した箒のそれと、同等かそれ以上の気迫。思い出の中の彼女との乖離に、一夏も同様に戦慄する。

 

そして、箒の一撃を受け止めた(・・・・・・・・・・)という事がどういうことかを遅れて理解する。

 

部分展開とは、ISを展開した状態でハイパーセンサーによる何百倍もの研ぎ澄まされた感覚の中で武器を呼び出し(コール)展開(オープン)するのとは違う。いくら実行から展開までの速度が速かろうが、その展開実行を判断するのは生身の人間だ。

 

つまり、ISの展開速度は人間の反射限界を超えない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

―――とどのつまり、剣道全国優勝の腕前を持つ『達人』である箒の一太刀を受け止めたのは、彼女の専用機の性能のおかげでもハイパーセンサーによる恩恵の賜物でもなく。

 

太刀筋を完全に見切った鈴が、箒同様『達人』であるという事の証明だった。

 

 

しかし、今の箒にそこまで考えは巡らない。

 

我を忘れたとは言え、自分は本気で『切る』つもりで竹刀を振り下ろした。防具も何も付けていない、ただの丸腰の女の子に向けて。

 

 

 

もし彼女が専用機を持っていなかったら。もし部分展開が追い付いていなかったら。もし太刀筋を読み切れていなかったら。

 

最悪に至る可能性を頭が勝手に順重と辿っていく。

 

 

 

そして、どんな結末だったとしても、そこに至る可能性を生み出したのは我を忘れて『襲い掛かった』自分にあるのだと、箒は否応無しに自覚した。

 

ようやく自身がやってしまった事を認識し、竹刀をだらりと下げて軽く後ずさる。

 

(わ、私は………なんてことを……)

 

 

ずきりと頭が痛み出す。迫りくる『なにか』を抑え込もうと、空いた手で無意識に額を覆う。

 

 

 

(これでは同じだ………あの時(・・・)から何も………)

 

 

 

ジジジジジジジジジジ!!!!!、と。

 

 

思い出したくない、だが忘れ去ってもいけない。

 

 

かつての自分の忌まわしき記憶(・・・・・・・・・・・・・・)が脳内を一瞬で駆け巡り、目を虚ろにしてがっくりと項垂れた。

 

 

 

 

「――ま、いいけどねどーでも。竹刀程度でどうにかなるほど、あたしもあたしの専用機も甘くないから」

 

対して鈴は調子を乱さず軽い調子だった。

 

部分展開された赤色の右腕が、光の粒子となって消失する。そのまま右手をひらひらとさせながら放ったその言葉が、箒の心に鋭く突き刺さった。

 

 

(またか…また『専用機』……)

 

 

そのまま黙りこくる箒を他所へ、鈴は確認するようにおずおずと一夏へ切り出した。

 

「ねえ一夏…覚えてる、よね?」

 

「………え?」

 

対して一夏はキョトンとした表情で生返事をする。

 

「だから、約束!小学校の頃の!」

 

「ああ、あれか!!たしか、鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を―――」

 

鈴が出すヒントに反応して、ようやく記憶の中からとっかかりを引き出したようだ。

 

パアッ、と鈴の表情に笑顔が灯る。後ろから見ている士にも分かるくらい、鈴の機嫌はみるみるとよくなっていった。

 

「そうそう、それよ!やっぱり一夏は覚えてくれてると思って「酢豚を奢ってくれるってやつか!!」…………は??」

 

と、一夏の回答を聞いた途端に咲き掛けていた鈴の満開の笑顔という名の花が枯れ散っていく。

 

 

「………なんて??」

 

「いやだから、酢豚!奢ってくれるんだろ?鈴の料理の腕が上達したらってやつ」

 

一夏は記憶を探るように上を見ながら、それでも自身の記憶の引き出しから正解を取り出せたことに割と得意げな様子で言った。

 

「やー、よかった思い出せて!ってことは、いよいよ酢豚奢ってくれ―」

 

 

 

 

パアンッッ!!!

 

 

途中まで言いかけて、一夏の言葉が唐突に途切れる。先ほどの竹刀と腕部装甲がぶつかり合ったモノよりも小さく乾いた音が響き渡った。

 

 

「………り、鈴……?」

 

「…………」

 

 

突然のことに理解が追い付かず、一夏は遅れて自身の左頬を抑える。

 

ジンジンと湧き上がってくる痛みが、鈴に思いっきり頬をひっぱたかれたのだと認識させた。

 

 

 

だがそんなことよりも。

 

 

 

一夏は目の前の現実に身を固まらせる。

 

そこには振り切った右腕をだらんとさせながら、こちらを睨みつけている鈴がいた。

 

 

「最っ低…………」

 

 

肩を小刻みに震わせ、フーフーと息を荒げながら顔を真っ赤にさせている目の前の幼馴染は……確かに泣いていた。

 

 

「最っっ低っっ!!女の子との約束を、ちゃんと覚えていないなんて!!見損なったわよ一夏!!!」

 

堰を切ったように、鈴が怒鳴りたてる。

 

冗談や軽いノリで繰り出すいつものそれではない、正真正銘の『怒り』。自身の記憶を辿っても、ここまで本気で怒った鈴を一夏は見たことがなかった。

 

そしてなにより、その原因は自分にあるという事が(・・・・・・・・・・・・・・・)、一夏の思考能力をひと時の間完全に凍り付かせた。

だが―――正直に言って、鈴がなぜここまで怒っているのかという肝心なところが一夏にはさっぱりだった。

 

直前まで話していたのは、小学校の頃に交わした鈴との約束について。

 

「―――いやちょっとまて、覚えてただろうがちゃんと!!」

 

「ぜんっぜん覚えてない!!約束の意味が違うのよ、意味が!!!!」

 

「意味なんて間違ってないだろ!?酢豚作ってやるって、奢ってくれる以外にどんな意味があるってんだよ!」

 

「そ……それを言わせる気なのあたしの口から!?!?唐変木にもほどがあるでしょうが!!!!」

 

再び口論が再開。煮え切らない鈴の返答に一夏もカチンときたのか、だんだんと彼の声も大きくなっていく。

そこから発せられたお互いの言葉はもはや感情を晴らすためだけのものとなり、中身なんてあってないようなものだった。

 

「あー、もういいわ。気にしてたあたしがバカだったみたい」

 

ぐいっと一度自分の目元を拭い、くるりと踵を返す。

 

「おい鈴!まだ話は終わって――」

 

「クラス対抗戦、覚えておきなさい。ギッタンギタンのコテンパンにしてやるんだから!!」

 

一夏の言葉を遮り踵を返す鈴。

 

そのままズカズカと扉まで進み、士の前を横切る。チラリと士を一瞥するも、結局何も言わずそのまま走って出て行ってしまった。

 

(あたしは……アンタに会う一心で―――)

 

走り去る鈴の頬に再び涙が零れるのを、士は黙って見つめていた。

 

 

 

___________________________________________

 

 

 

「一体なんなんだよあいつ……」

 

残された一夏は途方に暮れたように1人呟く。

 

ドッドッドッと心臓の鼓動が大きく早く聞こえる。額には汗が滲み、意識せず大きなため息をついた。1年振りに再会した幼馴染と昔の思い出で大喧嘩をしたという現実は、思いのほかメンタルにダメージを与えたらしい。

 

「一夏ァ」

 

「うん?」

 

と、部屋の入り口から名前を呼ばれ、隣室の士が部屋の扉にもたれ掛かっているのに気が付いた。

 

(そりゃそうか…あれだけ騒いだんだもんな……)

 

さてこの呆然としている同居人とほっぺたの奇麗な紅葉跡、そして破片と共に散らばっているバキバキの竹刀をどう説明しようかと思案するも、その前に士がやれやれといった様子で目をつぶりながら告げる。

 

 

 

「まあなんだ、とりあえず…馬に蹴られて死んどけ」

 

「なんでだよ!?」

 

 

 




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