「雪。抗議遅刻しますよ」
「あとちょい。あと五分」
春。朝。in自宅。
一年前の春。俺は晴れて大学生となった。海未のあとを追っかけて必死に勉強して、やっとの思いでこの大学に入ったのが去年の出来事。
桜が舞い散るこの季節は、朝起きるのがつらい。いや年中つらいけど。
「はぁ、まったく仕方ないですね」
呆れたため息をつく海未。すると、掛け布団を素早く畳んでしまう。
「寒ーい」
春とはいえ、まだ少し肌寒さが残る。
「早く起きないのが悪いんです。ほら早くご飯食べていきますよ」
俺たちはひらひらと舞う桜を尻目に、キャンパスライフを充実させていた。
「あ!先輩、今度二人で食事にでも―――――」
大学内で声をかけられる。この子は最近講義で隣になった後輩。名前は、名前は・・・。なんだっけ?
「何か用でも?」
「あ、いえ、なんでもないです・・・」
俺が必死に名前絵を思い出そうとしていると、海未が怖い顔で後輩を追い払ってしまった。
「雪!何度も言ってますが、気をつけてください。女の子が下心もなしにあんな誘いするなんてありえませんからね」
「え?そういうもん?」
「そういうもんです。だいたい、あなたは昔っから―――――」
海未が小言モードに入る。こうなると、止まらない。
大学生になってから、特に今年、こういうことが増えてくるようになった。具体的には女の子に何かしらされて、それを海未が阻止するみたいな。
でも俺はあんまり気にしていない。なぜなら―――――。
「でも、海未がいるから。あんまり関係ないよ?」
「な!ば、っもう!!///」
怒らせてしまっただろうか。海未がこっちを向いてくれなくなる。
「おーい海未?大丈夫だよ、俺は海未しか見てないから」
「そういうことを素で言わないで///」
あれ?どうやら逆効果だったみたい。
「そういえば、もうすぐサークルの歓迎会だね」
「・・・そうですね」
よかった。なんとか機嫌直してくれたみたい。
俺と海未は弓道やアーチェリーなんかをするサークルに在籍している。
弓道やアーチェリーもやったことなかったけど、海未がいる。それだけで入るには十分だった。
今日の大学の講義は午前で終わる。
ので、これからどうしようかという相談。
「デートしよう!」
「わっわかりましたから、そんな大きな声で///」
海未が照れる。かわいい。にやにや。
にやにやしていると、怒ったような拗ねたような顔で手を引っ張られる。
「もう、早く行きますよ」
「―――――うん」
やっぱり俺の海未は、世界一かわいい。
映画館の中でポップコーンを片手に映画を見る。内容はアクションだ。
口をぽっかりと開けて映画に夢中になる海未。右手はポップコーンを持ったまま空中で止まっている。
そういえば昔、ってほど昔でもないけど海未と、ミューズのみんなで映画を見たことがあった。あれは確か、恋愛映画だった気がする。
ミューズ。海未が、みんなが高校生の時に結成していたスクールアイドル。
「雪、雪。凄く面白かった!」
いつの間にやら、映画はエンドロール。海未が興奮した口調で俺に詰め寄る。あまりこういうところに行かないタイプだし、珍しいんだと思う。
正直、後半は映画の内容が頭に入ってこなかった。
ミューズのみんなはどうしているだろう。俺が海未と付き合いだしたころから、みんななんとなく、疎遠になっていた。
もし、もしも俺と海未がつき合っていなかったら、また違う未来もあり得たんだろうか。ミューズのみんなと笑いあう。そんな未来が。
考えても仕方ない事に、頭を左右に振る。
「特にあの銃撃戦は迫力がありました!」
この笑顔が見られるだけで、少なくともこの世界の俺は幸せだ。
「とりあえず、でようか」
「そ、それもそうですね」
我に返ったのか、少し顔を赤らめているのが暗がりでも分かった。
映画館からほど近い場所にあるカフェで映画の感想を言い合った。言い合ったというよりかは、もっと一方通行だった気もするけど。
「明日は歓迎会ですね。雪」
「そうだね」
カフェの帰り道、海未が諭すように語りかけてくる。
「いいですか、世の中には危険な女の子がいっぱいなんです。とくに雪は昔から無自覚に女の子をたらしこんでいますから明日は気を付けてください」
「たらしこむって」
心外だ。そんなホストみたいな事、した覚えはない。似たようなバイトならあるけど。
「いつも私が傍にいるわけじゃありませんからね」
「え?いてくれないの?」
「っ///い、います!ずっと一緒にいますよ!」
「よかった」
一瞬捨てられたかと思った。
「もう、絶対離しませんから」
するりと腕をからめとられる。その顔に、ちょっといやかなり、ドキッとした。
そして翌日。歓迎会の日。
大学からそう遠くない居酒屋を貸し切って行われた歓迎会に、俺は少し野暮用で遅れて到着した。
「すいません、遅れました」
のれんをくぐって戸を開ける。
「あ、先輩ー。こっちですこっち」
今朝の後輩が手招きしているところに座る。
あ、しまった。海未に注意されたばかりだった。まぁでも他にも人がいるし、大丈夫だろう。
「海未は?」
「・・・園田先輩はまだ来てないですよ」
「そっか」
確かに、周りを見渡してもいないみたい。
それから、新しく入る新入生の紹介がありお酒も回ってきたころ。
「せーんぱーいわー。園田先輩と付き合ってるんですか」
「うん」
「やっぱりー」
うわ―んと泣きついてくる。重い。
「園田先輩のどこがいいーんですかー」
「全部」
「ぎゃー」
「私じゃダメ?」
いつの間にか新しいのが増えていた。影分身?
「いや、君の事知らないからなー」
「じゃあ、私の事教えてあげます」
なんてどうでもいい会話を繰り広げる。その時は多分酔っていたんだと思う。
「すいません遅れ―――――」
だから気付かなかった。海未が俺と女の子がしゃべっている姿を目撃したことを。
「・・・・・・雪」
その日は結局、海未と会うことはなくて。
次の日も、そのまた次の日も海未と連絡がつかなかった。
海未を見かけたのは、週明けの大学だった。
「あ、海未―――――――」
「えー、そうなんですかー」
そこにいたのは、サークルの男の先輩と仲良くしゃべってる海未だった。
・・・少し胸が苦しい。
なんだか味わったことのない感情に胸がいっぱいになる。
「――――――――。」
その後も何度もその先輩と一緒にいるところを見かけてしまう。
なぜだか、その時声をかけることはできずに中庭にでてしまった。
「せーんぱい」
「あ」
後輩だ。名前はまだない。
「どうしたんですか、こんなとこで」
「うん」
「元気、ないですね」
俺は話した。この胸の感情を。誰かに聞いてみたい気分だった。
「・・・それって嫉妬ってことですよね?」
「嫉妬?」
そっか、嫉妬なのか。
そういえば、昔から海未の周りにいる男なんて自分しかいなかった。自分だけだと思ってた。
嫉妬なんてしたことなかった。それが当たり前になっていた。
「そっか、嫉妬か」
腑に落ちたというか胸のつかえが消える。
「そっか、ありがとう後輩さん」
「はるかです!」
はるかね。覚えた。
立ちあがって中庭を後にする。もう帰ってしまっただろうか。
「あーあ。なんか私、噛ませ犬見たい」
「海未!」
辺りも暗くなりかけたころ、ようやく見つけた。
海未は弓道場で、一人、弓を構えていた。
「・・・・雪は」
俺が来ることを予想していたのか、海未はおもむろに喋り出す。
「雪は、私の事、どう思っていますか」
「どうって」
そんなこと、きまってるじゃないか。
「好きだよ」
「じゃあ、私があの人と話しててなんにも思わないんですか?!」
「思うよ!思うから、こんなにむかつくんだ」
そう、むかついていた。嫉妬している自分にも、ほかの男と仲良くしていた海未にも。
「じゃあ、止めればいいじゃないですか!」
「そんなの、しょうがないだろ!さっき気づいたんだ。自分が嫉妬していること」
「私は、こんなにも雪の事好きなのに、大好きなのに、雪は私の事何とも思ってないみたいで」
「なんとも思ってないわけない」
「じゃあ、なんで他の女にも優しくするの?!やめてって言ったのに」
「それは、しかたないだろ!あんまり考えたことないんだ」
「じゃあ、考えて!他の女と仲良くしないで」
そこまで一気に言って、二人とも息切れする。
「仲良くしないでよ」
「が、がんばる」
そこではたと気づく。
「海未こそ、あの楽しそうに話していた先輩はだれ?」
「あれは、その」
言いづらそうにする海未。まさか、言い寄られてるとか?
「まさか、あの先輩の事―――――」
「そ、そうじゃない!そうじゃなくて、雪に嫉妬してほしかったんです」
「え?」
「だーかーらー、雪は私の気持ち分かってなかった見たいでしたから私の気持ち分からせてやろうと、そう思ったんです」
「そ、そうだったんだ」
良かった、捨てられるかと思った。
「・・・・・」
「・・・・・」
二人の間に流れる静寂。そしてどちらからともなく笑いだした。
「私たち、馬鹿みたいですね」
「ほんとに」
ひとしきり笑いあった後で、二人、手をつないで満月の月明かりを浴びながら、歩いて行った。
以上が俺と海未が初めてした喧嘩という喧嘩だった。
どうも、海未ちゃん誕生日おめでとう。高宮です。
番外編の内容が全然思いつかなくて、めっちゃぎりぎりです。すいません。
最後にこれだけ、海未ちゃん大好き!!!