人が輝ける瞬間はきっと、そう多くはない。
人生で何度も訪れるわけではく、もしかしたら一回として訪れない人だって中にはいるのかもしれない。
そう思えば逆に、”人が輝く瞬間を見る”という行為もそう何度も人生の中では訪れないのであって。
もしかしたら自分が輝くのよりもずっと少ない可能性だって——————————。
そう考えると僕は。
僕という人間は、そんな、人が輝いた瞬間を人生で二度も見ることが出来る。
そんな幸運は、他の誰よりも持っていたのかもしれない。
「バカ千歌!!あんた開始時間、間違えたでしょ!?」
静かな、そして寂し気な体育館に響く大きな声。
その声は頼り甲斐に満ち満ちていて。
全員が一斉にその瞬間振り返るには十分な、明るい声だった。
「み、美渡姉ちゃん!?」
最初に姿を見なかったから、今日は来ないものだと思ってた。最後までスクールアイドルには懐疑的だったし。
雨と暴風吹き荒れる外を見れば、美渡さんが連れてきたのか数十台の車が止まっている。それこそ、学校の駐車場が満杯になるくらいには。
もしかしたら、その先にだって溢れるくらい沢山車があるかも。
そう期待を抱かせるには十分で。
そして、そんな期待を具現化したように急に電気が戻る。
「あ・・・・・・」
隣にいた書記さんが思わず声が漏れてしまうほどに、それは圧巻の光景だった。
この学校の教師から、多分誰かの保護者。
この学校の生徒から、多分他校の生徒。
美渡さんの知り合いから、多分ここにいる誰も知らない人まで。
宣伝の効果も、美渡さんの頑張りも、このライブを作ろうと必死になってやっていた生徒たちも、全部、何一つ欠けていたらこの光景は見れなかったはずだ。
玄関はびしょ濡れになった靴で埋まり、体育館は人の熱気と密度の濃さで埋め尽くされていた。
「—————————っ」
その光景に、ステージ上の千歌ちゃんたちは感極まっている。
老若男女問わず、千歌ちゃんたちを見に来た。期待してきた。
その眼差しを一身に背負って、さあ、君はどうする?
なんて投げかけも、千歌ちゃんには必要ないだろう。
そして、止まった時は再び動き出す。
今までよりも何倍も力強い声で、歌で、踊りで。
きっと感謝の意を表そうとしていた。
やがて曲は終わり、会場はさらなる熱気で包まれていた。
自然と笑顔が綻び、拍手が止まらない。
「思い出すわね。昔のこと」
「・・・そう、だね」
十年前より何倍もいい結果を出した彼女たちを見ながら書記さんは呟いた。
それは僕に向けた言葉ではなかったかもしれないけれど、それでも僕は答える。
「でも、彼女たちはμ'sじゃないし、僕はもう大人になった。あの時とは違うよ」
同じ結果になるとはまだ言えない。
だけど、だからこそ。
「僕は応援するよ。昔と一緒で」
「そう、そうよね」
人が多くて書記さんの表情はあまりよく見れなかったけれど。
でも多分、笑顔だったと思う。きらきら輝いたものを見る良い笑顔だったと思う。
そんな大成功といってもいいファーストライブが幕を閉じて数日。
「あああ!先生だああああ!!!」
「うん、今日もテンション高いね。高海さん」
あれから数日たったというのに、千歌ちゃんのテンションは落ちるどころかむしろ日に日に上がっているような気さえしてくる。
学校の廊下で会っただけだというのに、雄叫びと共にタックルしてくる彼女を受け止めながら、渡辺さんの辛辣な言葉も受け止める。
「ちょっと!先生!千歌ちゃんに近づかないでください!」
「見ればわかると思うけど近づいてきたのは千歌ちゃんの方だからね!」
「男の人は皆そう言うんです!汚らわしい!」
「衛生兵!誰か衛生兵を呼んできてくれ!僕の心を直してくれる衛生兵を!」
早くしてくれ!できれば暖かい毛布、暖かい食事、及び暖かい家庭を用意して!
「そうよ、千歌ちゃん。先生との距離が近いのよ」
「そう言う梨子ちゃんだってぴっとり背中にくっついでるじゃん!」
「ち、ちが!これは!先生が千歌ちゃんに手を出さないようにって!」
「おーい、君達の中で僕どんな存在?」
放課後の生徒もまばらになってきた廊下でそんなやり取りをするくらいには、千歌ちゃんだけでなく三人のテンションも上がっていた。
「それで?最近どう?スクールアイドル活動は」
「うん!順調だよ!」
あの時、ちゃんとどこかで見ていたのだろう。理事長である小原鞠莉さんは彼女たちの活動をノリノリで承認してくれたという。
生徒会長は、未だに良い顔はしていないが。
「順調ついでに、ちょっと頼み事、なんだけどぉ」
なんだか裏を感じる笑顔で千歌ちゃんは僕に言う。渡辺さんはふくれていたようだけど。
「ほほう、これが順調ねえ」
「お願い!流石に三人じゃ厳しくて」
両手を合わせて懇願してくる千歌ちゃんの目の前には埃と荷物でいっぱいの部屋。
「ここを、部室としてもらったんだね」
「そうなんです。でも、あまり使われてなかったようで」
そこはしばらく物置部屋として教師たちが使っていた部屋だ。
が、そんなことを言うと千歌ちゃんからぶーすか文句を言われそうなので敢えて伏せておくけど。
「しゃーない、手伝ってあげるよ」
「ほ、本当!?わーい!先生大好きー!ぐえ!」
「はいはい、千歌ちゃんはこっち」
千歌ちゃんの首根っこを捕まえながら渡辺さんはキッとこちらを凄い形相で睨んでくる。
一体僕が何をしたというのだ。
もし、千歌ちゃんの家に居候しているとしれたらどうなるのかな。
恐ろしい想像に身震いしつつも、僕は部屋の荷物を片付けるところから始める。
「そーいえば先生、ライブ見に来てくれてありがとうね」
ある程度片付けも終わりが見え始めて、それまで掃除に専念していた千歌ちゃんは口を開いた。
「いいや、いいものを見せてもらったし」
「え?先生いたの?」
「いたよぉ渡辺さん。だからそんなに嫌そうな顔しないでね」
「・・・どうでした?私たちのライブ」
桜内さんはやや不安そうに言葉が揺らぐ。まだ、自信がないのだろうか。
「良かったよ。アクシデントもその他諸々、全部含めて良かった」
「本当に!?」
僕の言葉に千歌ちゃんは目を輝かせて前のめりになる。
「でも、千歌ちゃんはまだステップがおぼつかないし、渡辺さんはターンが苦手だね。桜内さんはもうちょっとお腹から声を出したほうがいい」
完成度という点で言えば改善点はまだまだある。
「うぅ、厳しいよ先生」
「でも、それでもあのライブは良かった。そう言えるだけの力があった」
だから、と僕は言葉を続ける。
「これからも頑張ってね。応援してるよ」
最後に残った荷物、多分図書室の本であろうそれを千歌ちゃんに手渡しつつ僕は伝えた。
「うん!」
「先生に言われなくても頑張ります」
「あ、あの!これからもよろしくお願いします」
元気一杯の千歌ちゃんと、不満げな渡辺さんと、丁寧な桜内さん。
存外、本当に良いスクールアイドルになるんじゃないだろうか。
今はまだ憶測だけど、この時は本当にそう思った。
三人が数冊の本を図書室に持って行った後。僕は一人、窓から顔を出しながら部室に残っていた。
「何やってるんですか?先生、もう生徒会の時間ですよ」
「ああ、ごめん黒澤さん」
「・・・彼女たちを見ていたんですの?」
僕の視線の先には図書室があり、そこに千歌ちゃんたちはいた。
なにやら国木田さん、そして目の前にいる生徒会長の妹である黒澤ルビィさんと話し込んでいるようで、内容は、聞かなくてもなんとなくわかる。
誘っているのだろう、部活に。スクールアイドルに。
スクールアイドルの活動を続けることを認めてもらったとはいえ、部活として続けるには結局五人必要だ。
「楽しそうだよね。本当に」
「・・・・・」
スクールアイドルが本当に学校を救う。そんな御伽噺のようなお話を僕は知っている。
彼女たちがそんな風に輝けるかどうかはわからない、だけれども。
「楽しそうで、嬉しそうで。それが僕には一番嬉しい」
「・・・・それは、暗に私は楽しくなさそうだと、そう仰っているんですか?」
ぎゅっと、口を真一文字に結んで。
そこで初めて僕は振り返った。
そんな言葉を言ってほしかったわけじゃなかったから。
艶やかで綺麗な黒髪は床に垂れ、硬い瞳はじっと、床を見つめている。
「そうは言ってないよ。ただ、
「・・・・・」
黙りこくってしまった黒澤さん。
少し踏み込み過ぎなのかもしれない。でも、どこか抜け殻になったような彼女を見るのは僕も辛いんだ。
「
「先生」
その、氷のような一言に。
その、切ないような表情に。
僕はそれ以上何も言えなかった。
「・・・ごめん。今のは余計なお世話だった。忘れてくれ」
揺らいでいたのは僕の方か。
揺さぶられて、期待していたのは僕の方だ。
マリーちゃんが、いや。
小原さんが返ってきてからずっと。
また、もしかしたら彼女たちが一緒になる日が見れるかもしれない。
また、もう一度やり直せるのかもしれない。と。
そんなことは、ありえるわけがないのに。
失ったものはもう二度と、戻ってくることはないと僕自身が一番よくわかっているはずなのに。
黙って、僕はそのまま気まずさで部室を出ていってしまう。
どうやらまだまだ、大人になるのは難しいらしい。
こんな時にふと空想する。
もしも、僕が彼女たちと同じ学校に通っていたら。
もしも、十年前の僕だったらどうしただろうか。
そんな意味のない空想を。
あれから数日、僕の元に千歌ちゃんがやってきた。
「はい!センセ!部活承認してください!」
職員室の片隅で千歌ちゃんが元気な笑顔でそう言うので、僕は。
「五人集まったのかい?」
と尋ねると。
「うん!花丸ちゃんと、ルビィちゃんが!」
千歌ちゃんは変わらぬ笑顔でそう言った。
見れば後ろには新加入の二人もいて、おずおずと頭を下げる。
あれから、なんだか気まずくて黒澤さんとは喋っていない。
勿論教師である僕は、彼女のクラスに授業をしに行くこともあるし、顧問である僕は彼女と同じ部屋で会議を見守ることもある。
けれど、会話がない。
会話だけがない。
「そうか、それは良かったけど。部活承認なら生徒会長の元に行くのが筋だろう?それをすっ飛ばしてってのは褒められないなあ」
だからだろうか、多少意地悪な言い方になってしまった。
「ふっふっふ」
それでも千歌ちゃんはそんな僕の様子には気づかずに不敵な笑みで答える。
「じゃーん!生徒会長の承認ならもう貰ってまーす!」
・・・腹立つ顔をしている。
「そんなの僕には一言も言ってなかったじゃないか」
「だぁって、先生ここんところ家でもなんだか暗かったじゃん」
「—————————!」
見抜かれていたのか、家では隠して振る舞っていたつもりだったけど。
存外、聡い子だ。
「だから、秘密にして驚かしてあげようと思って」
「・・・まさか君に気遣われるとはね」
「なにー?先生、私のことちょっとバカにしてる?」
膨れた面でそう言うので、僕は思わず笑ってしまう。
そうだ、こういう子だった。
知ってか知らずか周りを無理やりにでも明るくさせてしまう。
そんな子だったよ。
君達は。
「わ、笑ったなー!」
「はは、ごめんごめん。でも、バカにはしてないよ?」
「本当にー?」
「本当に」
むぅっと信じていない顔をしていたのでぐりぐりと頭を乱暴に撫でる。
本当になんだか千歌ちゃんを見ていると昔のことを思い出す。昨日のように。
暖かくて懐かしい、そんな良い思い出を。
「じゃあ、はい。承認しました」
理事長と生徒会長のハンコが付いたその紙っ切れ。
最後の空白を埋めて僕は千歌ちゃんに手渡す。
千歌ちゃんはその紙っ切れをまるで宝物みたいに大事に抱えて、仲間の元へと走っていった。
廊下は走らないように。僕のそんな忠告も聞こえてはいないらしい。
「本当に良い生徒だよ」
聞こえてはいないだろうから、つい、そんな余計なことまで口走ってしまうけど。
「なあにが、「本当に良い生徒だよ」よ!?ええ?あんなに堂々とイチャイチャしくさりやがって!おおん?」
なあんて良いこと言って締めようとしていたのに、後ろを振り返ると般若と見間違うほどのそっくりさん。もとい書記さんが仁王立ちで構えていた。
見れば職員室中がなんだかちょっと恥ずかしいモノを見たような、誰も彼もが顔を赤らめている。
怒気で赤らめている書記さん以外。
「しょ、しょしょしょ書記さん?」
「アンタさあ、ここがどこだかわかってる?職員室よ?職員室。よくもまあそんなに堂々と出来るなあええ!?」
「痛い!痛い痛い痛い痛い痛い!痛い!ヘッドロックが決まっちゃってるから!マジでシャレになってないレベルで決まっちゃってるからあ!」
あと口調が田舎のヤンキーみたいになっちゃってるから!怖い顔と怖い口調でもうリーチかかっちゃてるから!
「アンタにゃ、口で言っても分かってないようだからもう体に覚えさせるしかないようだね!」
「どこのお仕置きババア!?」
ぎゃああああああ。
と、いう悲鳴が職員室に響き渡ったのはそれから数秒後のお話。
ちゃんちゃん。
「なんだこのオチ!?」
どうも!クリアカード編高宮です。
受験終わって家に引きこもってゲームばっかしてます。
なので書くことが全然ありません!当たり前だね!
ということで次回もまたよろしくお願いいたします!
ってここまで書いて忘れてました!お気に入りが1000件突破しました!減ってなければね!
これもひとえに読んで、そしてポチっとしてくれる皆々様のおかげでございます!
ということはつまりなに?少なくともこの作品を1000人は読んでるってこと?なにそれ?怖くね?下手なこと書けないじゃん。ちんこちんこ!
これからも変わらずこんな感じでやっていきますので、どうか、どうかよろしくお願いいたします。
次は1111人を目指して、レッツ!バディファイト!