「あら、雪じゃない」
「綺羅先輩」
ミューズがまたさらにメンバーが増えた翌日。俺は一人、秋葉原に来ていた。というのも、秋葉原にスクールアイドル専門ショップができたという噂を聞きつけたからだ。
ミューズが九人となって、またさらに人気を増やすだろう。そうなると、こういうところにもグッズなんかが置かれることになるかもしれない。その下見というわけだ。
「違うわ。私の名前はツバサよ。教えたでしょう?」
「・・・ツバサ先輩」
「まぁ、よし」
なぜか、ばったりと会ってしまったのはアライズの綺羅ツバサ。先輩。
縁があって知り合いになったのはつい先日の話。練習を見て欲しいと頼まれたのがきっかけ。
正直、まだ実感は湧かない。
「何してるの?」
「あっと、スクールアイドルのショップができたって言うので見に行ってみようかと」
「そう」
それだけ言うと、なぜか腕を組んでついてくる。
「あの、ツバサ先輩は何してるんですか」
「ん?何か変かしら?」
「いや、変っていうか」
変じゃないのか。そう強くいわれると自信をなくしてしまう。まぁ、腕組むくらい普通、かな?
「さ、いきましょ」
「あ、はい」
自問自答を繰り返していると、腕を引っ張られるついでに疑問もどこかへ飛んで行ってしまった。
結局、終始腕を組むことになってしまい、ツバサ先輩は変装しているもののファンからばれたりしないかとしきりに警戒してしまう。
「私、男の人と街中を歩くの初めて」
「そうなんですか」
たわいもない会話を繰り広げていると目的地に到着する。
「ここね」
見ると、雑居ビルの一階にアイドルショップがある。
中に入ると、ポスターやプロマイド。クリアファイルやバッジなど、色々な種類のグッズが所狭しと並べてある。そのすべてがスクールアイドルのものだというのだから驚きだ。
「あれ?」
中を見て回っていると、なんだか既視感に襲われる。数歩後戻りして、その正体を確かめる。
「あ!!!」
「うわっと、急に大声出して、びっくりするじゃない」
「す、すいません」
だがしかし、大声も出てしまう。なんてったってそこにはミューズのグッズがあったのだから。
他のグッズと同様、バッジやプロマイドなどが置いてある。
不思議な気持ちだ。つい昨日会っているというのに、そこに映ったみんなはどこか遠い人みたいで、別世界の住人のように感じられる。
「・・・ミューズ、好きなの?」
「え?ああ、まぁ」
ツバサ先輩は俺がミューズと関わりがあるとは知らない。そもそもミューズの事知っているかも怪しいし、たとえ知っていてもわざわざ言うことじゃない。
と思っていたのだが、一つの事に気づく。
「というか、ミューズの事知ってるんですか?!」
ミューズの名前が出たことに軽い驚き。
「ええ、知ってるわ結構前から」
マジでか。アライズにも知られてるって凄いな穂乃果達。なんだか、ますます遠い存在になっていく。
――――――クリアファイルでも買っていこうか。
「んんっ」
俺がお会計を済ませようとレジに向かうと、ツバサ先輩が不自然な格好で立っている。見るとどうやらアライズのコーナーらしい。流石にでかい。
「わ、わー。新しいグッズが出てるー。これすっごいレアなんだけどなー」
そう言って、何度か交差する視線。
・・・なるほど。数秒たってようやく理解した。
クリアファイルのついでに、ツバサ先輩が言っていた携帯ストラップも一緒に購入する。ツバサ先輩バージョンのもの。
「め、目の前で買われるとちょっと恥ずかしいわね」
レジにて会計を済ませ、ツバサ先輩のもとへ。
「はい、ツバサ先輩」
手には先ほどの携帯ストラップ。欲しいけど流石に自分では買いづらいのだろう。きっとあの目配せはそういう意味。
「あ、ありがとう。――――――そういう意味じゃなかったんだけど、ま、いっか」
よかった。喜んでくれたみたいだ。
「ところで、お腹すいてない?私行ってみたいところがあるの」
「ええ、どこですか?」
先輩が指を指示しているのは、すぐそこにある、メイド喫茶?みたいなもの。
「なんでもね、あそこには伝説のメイド。ミナリンスキーさんがいるらしいのよ」
「ああ、それなら知ってます」
結構有名だ。おそろしく仕事ができるわ美人だわで、バイト界隈だけでなくこうした一般人にも名前が広まっているらしい。
実際に見たことはないけど。
「そう?なら話は早いわね。行ってみましょ」
カランコロンと、お客が来たことを知らせるベルが鳴る。すぐさま傍にいたメイドさんが満面の笑みで接客する。
「おかえりなさいませ。二名様ですか?こちらのお席に――――――」
メイドさんが俺の顔を見て固まる。持っていたお盆を落としてしまうほどに。
「ゆ、雪君」
「あ、ことり。そっかここで働いてるんだっけ」
「し、知ってたの?!」
「うん」
やだなぁ。幼馴染がどこでバイトしてるか、健全なバイトか調べるのは当たり前でしょ。
「ところで、俺達ミナリンスキーさんに会いに来たんだけど、今日いる?」
いちいち探すより、ことりに聞いたほうが早いと思ったのだが、隣から肘をちょんちょんとされる。
「海田君、あなた筋金入りね」
「はい?」
先輩が呆れている。何かしただろうか、考えても心当たりがない。
「この人よ」
「何が?」
「だから、この人がそのミナリンスキーさんよ!」
「・・・」
ええええええええええぇぇぇぇぇぇ??!!
もう一度、しっかりとまじまじとことりの顔を見る。ことりは恥ずかしそうに顔を俯かせた。
「ま、まじですか・・・」
びっくりだ。びっくりした。びっくらこいた。
まさか、あの伝説とも呼ばれるミナリンスキーさんが幼馴染だったなんて。ことりだったなんて。
というか全然気付かなかった。見ただけじゃミナリンスキーさんだとは気付かないけど。それにしても気付かなかった。
「ば、バレた。よりにも寄って雪君に」
がくっと、両膝をつくことり。完全にノックアウトされていた。
「だ、大丈夫?」
「雪君」
がしっと、両肩をつかまれる。
「・・・このことは二人だけの秘密だよっ♪」
語尾を上げ、いつもの1000%笑顔で催促してくることり。
「い、いいけど」
あれか、音ノ木坂もバイト禁止なのかな。
「そ、れ、と♪そっちの女の人はだぁれ?」
一瞬で空気が凍りつく。首をグルんとまわし先ほどまでの笑顔は消え去り、目の輝きが失われていた。
急に話題に出たからか、それともことりの急激な変化に驚いたのか、一瞬冷や汗をたらしながらもツバサ先輩は気丈にふるまう。
「私は、そうね。初めてを捧げあった仲。かしら」
「は?」
ことりから顔の表情という表情がストンと抜け落ちる。
「ど、どいうこと。雪君」
心なしかことりが怖い。
「え、えーっと」
この人が綺羅ツバサだといってもいいものなのか。答えあぐねていると、ことりの顔がみるみるひきつってくる。
「ほ、ホントなの?」
練習の事かな?確かに、誰かに見られながら練習するのは初めてといってた。男の人と歩くのも。
「うん、成り行きで」
「成り行きで?!」
「自分から仕掛けておいて何だけど、凄いことになってるわね」
なにやらツバサ先輩が笑っている。笑う要素あったっけ。
「は、ははは、はははは」
今度はことりも笑い出した。どうやらあったようだ笑う要素。
「ことりちゃん!やっと見つけた―――――あれ?」
「穂乃果!?」
ことりがぬけがらみたく、乾いた笑いを響かせていると穂乃果達が来店してきた。
「あれ?雪ちゃんだにゃー」
「凛たちも」
後ろには凛や真姫ちゃん、絵里先輩や東條先輩までミューズが全員集合していた。
「どうしたの、こんなところで」
「どうしたのって、そっちこそどうしたのよ」
困ったような顔を浮かべる真姫ちゃん。
「これは―――――「あ、みんな」」
どう説明したもんかと悩んでいると、ようやくことりが再起不能から立ち上がる。
「雪君が、雪君の貞躁がぁぁぁぁ」
「ちょ、ちょっとどうしたのですかことり」
「そこの泥棒猫にぃぃぃぃぃぃぃ」
泥棒猫って、もしかしなくてもツバサ先輩のことだろうか。
「奪われちゃったのぉぉぉぉぉぉ」
泣き崩れることり。ていうかちょっとまって、俺の貞躁が奪われた?いつ?どこで?誰に?
「「「「「「「は?」」」」」」」
「面白いことになっとるやん」
東條先輩以外、見事にみんなシンクロしていた。顔の表情から声のトーンまで何から何まで怖かった。
そして視線が横にいるツバサ先輩へと向けられる。
先輩はススス、と俺の横にくっついたと思うと、「えい」思いっきり抱きついてきた。
その瞬間、周りのお客がビビって今にも逃げ出しそうなほど8人の怒りのオーラが噴出していた。出入り口塞いじゃっててごめんなさい。
「まって、まって話が見えないんだけど」
いまにも、ファイトクラブしそうな勢いに氣圧されつつも現状の把握に努めようと必死になる。
「話?大丈夫です。話ならそこの雌豚に聞きますから」
「う、海未?!」
まさか海未から雌豚などという単語を聞くことになるとは、バイトではしょっちゅうだけど。
「白米の恐ろしさ、分からせてあげます」
「それどういう意味!?」
「大丈夫よ、私医者の娘だもの。たとえどれだけ血を流そうとも内々に処理できるわ」
「怖い怖い怖い。とても現実的で怖いです真姫ちゃん」
「こうなるんだったら、小学生の時無理やりにでも」
「んんんんんんにこちゃん?!」
「・・・・・・」
「無言が一番怖いって知ってる?穂乃果!」
「か、会長」
思わず、昔の呼び名で呼んでしまうほど切羽詰まっていた。誰か助けて。
「大丈夫よ、雪」
良かった。会長なら話を聞いてくれそう。
その柔和な微笑みに気がほどけたのも一瞬。
「ああ、かわいそうに。他の女に汚されてしまったのね。大丈夫。私がきれいにしてあげるから」
そういうと、会長は俺のほっぺを舐めようとしてくる。
「わわっ、ちょ、やめ」
「どうして逃げるのよ」
何とか逃げようと四苦八苦していると、ドンとぶつかる。
「あ、ごめん」
ぶつかったのは凛だった。
「クンクン。他の女のにおいがするにゃ」
凛もかよ!
「はいはい、みんないったん落ち着いて」
手を叩いて静まらせようとしたのは東條先輩。
「まずは、話を聞こうや。それからどうするか話し合いしたらええやん?」
「東條先輩」
ありがとうございます。俺には本当に女神のように見えた。
「なーんだそういうことかー」
穂乃果が明るい声で笑う。
何とか説明してわかってもらえた。
なんで貞躁うんぬんなんて話になったんだろう。不思議だ。
「でも、まさかアライズの綺羅ツバサと一緒にいるなんてね」
にこちゃんが恨めしげな目を送る。にこちゃんはアライズのファンだからあまりよく思っていないはず。
「た、たまたま会っただけだって」
「「「「「「「「ふーん」」」」」」」」
なぜかみんなから訝しげな視線をもらう。
「それにしても」
「なんであんな紛らわしい事」
「してたんだにゃー」
一年生組がセリフを分ける。順に花陽、真姫、凛だ。
「それは、ほら。私帰国子女だから。あっちじゃこんなの普通よ?」
へー。そうだったんだ。ならうなずける。
「嘘です!そんなのウィキには載っていませんでした」
「まぁまぁ、そんなのどうでもいいじゃない」
「ていうか、前から知ってたけど雪ちゃんの周りにはなんでこんなに女の子が・・・」
「穂乃果ちゃん」
「穂乃果」
なんでしんみりしてるの?
「お、俺の話より穂乃果達は?なんでここにいるの?」
「私たちは、ねぇ」
「もうどうでもよくなっちゃったわよね」
どうでもよくならないで!話終わっちゃうじゃない。
「私、何にもないから。海未ちゃんや穂乃果ちゃんみたいに」
・・・・・無理だよ。もうこっからシリアス無理だよ。
「というかなにちゃっかり手つないじゃってるにゃ」
「私、何にもないから。海未ちゃんや穂乃果ちゃんみたいに」
「無視するにゃー!」
べしっと、手をはたかれる。
「ちっ」
「し、舌打ち?」
カランコロンとお客が来る。
「あ、接客しに行かなきゃ!」
「いい、凛。あれが天然(腹黒)ってやつよ。覚えておきなさい」
「に、にこ先輩」
「なんの話?」
「「ひぃぃぃ」」
悲鳴が聞こえたので振り返ってみると、ことりがにこちゃんと凛ちゃんを震え上がらせている。
「あ、このジュースおいしいわよ。一口飲んでみて」
「ちょっと、綺羅ツバサさん、だったかしら。ゆっきーは炭酸飲めないのよ。ごめんなさいね」
「いや、飲めますけど」
痛い。かかとで足を踏まれた。なんで?
というかゆっきーって。初めて呼ばれましたけど。
「そうなの、仕方ないわね。じゃあこの上に乗ってるアイスを「ごめんなさい。ゆきゆき甘いものも駄目なのよ」」「いや、むしろ好物ですけど」
痛い。また踏まれた。
「そして、あれが天然(本物)よ」
「よくわかったにゃー」
「さて、それじゃあそろそろ私は失礼するわ」
ツバサ先輩が席を立つ。なんだかんだいって、忙しい身なのだ。
「最後が普通ってわけにもいかないわね」
「?」
ちょいちょい、と手招きされ目の前に立たされる。
「ちゅー」
襟元をつかまれ、引っ張られ、絵里先輩と同じく、同じところにキスされた。
「じゃあね」
「な、ななな」
ガシャン。
動揺していると、なぜか両手に手錠される。そして椅子にくくりつけられる。この間わずかに二秒。
「もう怒りました。私たちはカンカンです」
穂乃果の顔は言ってることと裏腹に、とても楽しそうで。
「なので今から順番に、雪に
「真姫ちゃん?!」
見るとみんなの眼がレイプ目見たいになっていた。
「東條先輩!」
女神なら、先ほどと同じように助けてくれるかもしれない。淡い期待を込めて東條先輩を見たものの。
「並んでるし!」
みんな一列にきれいに整列していた。
みんなの顔が迫ってくる。どんどんどんどんどんどんと。
「うわぁぁぁっぁっぁぁぁ」
「ああああぁぁぁぁぁぁ」
息が荒い。窓の外を見る。太陽がまぶしい。小鳥のさえずる音が聞こえてくる。
息を整え、時計を見ると午後5時。場所は部室の椅子の上。唇が妙にヒリヒリするのを我慢しながら。
ひとつ、深呼吸をして。状況を理解する。
それじゃあ皆さんご一緒に。はい、せーっの
「夢オチかよ!!!!」
・・・・夢オチだよね?
みなさんご無沙汰です。やっはろー。高宮です。
広島から無事、帰ってまいりました。もう全身が筋肉痛です。
野生の鹿に遭遇したり、いとこの伯父さんでなぜか昔より笑えなくなっていたり、非常に楽しい旅行でした。
これからは、また更新頑張りますので、忘れないでいてください。