「来たよ、雪ちゃん。ついにこの時が。この問題を片づけないことには何も始まらないんだよ」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃないんだよ。みんなどれほどこの時を待ったか」
「花陽まで」
みんなで花火をし終わって、明日も早い、さぁ寝るぞと言った時。大仰な顔をした穂乃果が語り出したのだ。
「そう――――――みんながどこで寝るかという問題が!!!」
にこちゃんが力強く説明してくれたように、みんなの部屋割が決まっていなかった。見た感じどこも一緒だったけど、位置にこだわりでもあるのかみんな異様に気合が入っている。寝る前だってのに。
「俺はどこでもいいよ」
正直、もう眠い。今日は心身ともに疲れたから、いつもよりぐっすり眠れそうだ。
「雪君には聞いてない」
「ひどっ!?」
ことりが真顔で言うので傷つく。言うにしてももっとオブラートに包もうよ。
「いや、先ほどの勝負で私と凛が残ってたのですから、私と凛で勝負をつけるべきです」
「な!それはずるいよ海未ちゃん!」
「何がずるいものですか!大体、ほぼ私の手中に勝利はあったのですよ?このまま私が勝ちってことでもいいくらいです」
「そうにゃ、海未ちゃんと凛で決着付けるべきにゃ、いまこそバトスピが活躍する時にゃ」
「それだと、私が不利になるじゃないですか!もっと、クイズとかにしましょう。主に教養で」
「ずるいにゃ!それだと凛が不利だよ!」
どうやら、席決めの時と同様、部屋割でも揉めているみたい。早く決めてくれないだろうか、眠いんだけど。
「こ、このままじゃ結局夜遅くなるわ。どうかしら?ここはいっそのことここでみんなで寝るっていうのは」
「み、みんなで?」
「絵里?あんたウノ一番に上がった、いや負けたからってみんなを言いくるめようとしてない?」
「何言ってるのにこ、私がそんなことするわけないでしょ?」
「えりち、顔が引きつってるで?」
「うぐっ!」
「それに、それだとどっちにしろ雪君の隣は誰?ってことになると思うんだけど・・」
「いーや、私と凛で決着をつけるべきです。でないと何のためのウノですか」
「どうでもいいけど、早くしてくれない?もう眠いんだけど」
「真姫ちゃん、もう寝てもいいよ?ほらあそこの部屋で早く寝たら?」
「なんか冷たいんだけど
「―――――あ、今自然に名前呼べたやん」
「え?あ!・・・そうね」
「真姫ちゃんは素直やね」
「もう!素直じゃないって言ったり素直って言ったり、どっちなのよ!」
「どっちもってことやん?」
「意味わかんない!」
「ちょっと待って、みんな」
「どうしたの穂乃果?」
「雪ちゃんが、雪ちゃんがいないよ!?」
「雪?あれ?おかしいわね、さっきまでそこで船こいでたのに」
「雪君なら、あっちの部屋に行ったよ?」
「本当なのことり?」
「うん、絵里ちゃんがここで寝ようって言った時に、じゃあ俺はあっちで寝るねって」
「なんで止めなかったんだにゃ!」
「だって、眠そうにしてたし、後で行けばいいかなって」
「後で?そうか、その手がありました」
「―――――――みんな、リビングで寝るのは、どうかな?」
「花陽ちゃん!それナイスアイデアだよ!」
「それ私が言ったんだけど・・・」
「まぁまぁ、えりち。とりあえずお布団敷こうやないの」
「・・・そうね。お布団はどこにあるのかしら真姫?」
「それならあっちの押し入れに―――――――」
ぼすっと布団にもたれこむ。今すぐにでも寝てしまえそうな気がする。しかしこの布団良いにおいがするな。これが真姫ちゃん家のにおいなのかな。妙にふかふかだしうちのとは大違いだ。
耳を澄ませば、さざ波の音が聞こえる。そしてカントリーロード。いや、これは幻聴だね。きっと眠すぎるからだ。
みんなの声がする。喧騒の中にいると気付かないがこうして一歩離れて見ると本当に賑やかなのが分かる。
「雪ちゃんが、雪ちゃんがいないよ!?」
少しそうやって耳を澄ましていると、ひと際大きい穂乃果の声が。そのあとに、なにやら複数の足跡がする。みんなで寝ると言っていたからお布団でも敷いているのかな。
そしてやがて、声は聞こえなくなり、またさざ波の音だけが静かに木霊する。
こうして一人、静寂の中にいると、先ほどまでの騒がしさがまるで嘘のようだ。と、同時に寂しさやら孤独感やらが襲ってきた。
じっとしていると泣きそうになってくるので、いったんトイレに行こうと部屋のドアノブに手を駆けると、東條先輩の声が。「あー。真姫ちゃん何するのー」「は?何言ってるの!?」「やったなー」
また騒々しくなって、気になったので上からこっそりとリビングの様子を盗み見る。どうやらみんなでまくら投げしてるみたいだ。いいなー、たのしそうだなー。
いつの間にか眠気がどこかに行ってしまい、しばらく様子を見つめてしまう。真姫ちゃんもどうやら楽しんでいるようだ。きっと東條先輩が、またいろいろと気を使ったんだろう。本当に、あの人はいろんなことに気が付いてしまうから。
「なに、してるんですか。明日は早いから寝ましょうって言いましたよね」
あら。みんなの枕がどうやら寝ている海未に当たってしまったようだ。海未は普段、しっかり者だけど寝ているのを起こされるのだけは我慢ならないらしい。
いつこちらに気づいて飛び火するかわからないので、さっさと部屋に退散して、いっぱい寝ることにした。
「はぁはぁはぁ」
「まさか、海未がこんなにも恐ろしいだなんて」
「びっくりだにゃー」
「もうみんなやられちゃった」
見ると、生き残っているのは花陽と凛、希ちゃんに真姫だけだった。
すると凛が一つ、くあと大きなあくびをする。
「もう、寝よっか」
希ちゃんの提案にみんな頷く。
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みんなが寝静まった頃。ただ一人、もそもそと動き出す人物がいた。
「ひっ!」
その人物は、布団から出ようとした瞬間。足首を何者かに掴まれる。暗くて顔はよくわからないものの、隣で寝ている人物が誰であったかは流石に覚えていた。
「何するのことりちゃん?!」
小声でひっそりと、他の誰にもばれないように、けれどしっかりと抗議する。
「穂乃果ちゃんこそ、どこに行こうとしているのかな?」
「そ、それは・・・」
言い淀むのはやましい気持ちがあるからだ。
「まさかと思うけど、さっき私が言ったみたいに、雪君の部屋に行こうとしたわけじゃないよね?」
「ももも、もちろんだよ。トイレ、そうちょっとトイレに」
「そっか!ならいいんだ、ちゃんと言ってくるんだよ?」
「わ、わかったよ」
穂乃果は、しっかりと他の人が寝静まるのを待ってから講堂に移したのだが、ことりのセンサーはそれを遥かに凌駕した。
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また支配をとり戻す静寂。しかし、それを破る者が一人。
「今度は、絵里ちゃんか。どこに行くの?」
「なっ!ことり?おかしい、確かに寝ていたはず」
「ん?」
「くっ!流石ね、ことり。でも、あなた何か勘違いしてるわよ。私はちょっと眠れないから、風に当たりに行ってくるだけよ」
「そっか♪なーんだ勘違いしちゃった♪夜はまだ肌寒いから、カーディガン羽織って行ってね?」
「え、ええ。そうするわ」
敵を欺くためか、はたまた本当に風に当たりに行くだけなのか。カーディガンを羽織り、絵里は魔の海域から脱出する。
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そして、三度続く静寂。それを打ち破ったのは、一人ではなく四人だった「ま、まずいにゃ。このままだと、先の二人みたいにことりちゃんにつかまってジ、エンドにゃ」
「ど、どうしよう凛ちゃん」
「しかたない、ここは四人で協力して、危機を脱するわよ」
「というか、なんで雪の部屋に行く前提なの?」
「じゃあ、真姫ちゃんはここで一人で寝てればいいにゃ」
「な!そんなことは言ってないでしょ?」
「ふ、二人とも声が大きいよ」
「四人とも、寝なくていいの?」
花陽が止めた甲斐も虚しく。見上げると、そこにはことりが。
「ちょっと!あんたたちがうるさくしてるから見つかったじゃないの!」
「一番声出てるのにこちゃんだにゃ!」
「あんたの声もうるさいわよ!」
「もうみんなうるさいよ!」
あたふたしている四人を見ながら、ことりはいつもの笑顔を絶やさない。
「もう終わったかな?ところでみんなはどこに行くの?」
「・・・凛ちゃん、真姫ちゃんにこちゃん。先に行ってて」
「花陽?」
「ここは、私が食い止める。だから先に行って」
「だ、だめだよかよちん!かよちんも一緒に、雪ちゃんと一緒に寝ようってあの夕陽にやくそくしたじゃない!」
「うん、でも、約束は、守るから」
そう言った花陽の顔は、笑っていて。
「いくわよ」
「にこちゃん?そんな、かよちんを置いてくの?!」
「花陽が先に行ってって言ってるのよ。ここは花陽を信じて先に行きましょう」
「真姫ちゃんまで・・・」
埒が明かないと判断したのか、真姫は凛をかついで階段を登って行く。
「ここは通さない!雪君の寝顔も寝息も寝言もみんなことりの物!」
「相手は私だよ!ことりちゃん」
「―――――仕方ないわねあなたを倒して、雪君と添い寝をするのはこの私!」
「ごめんなさい。小泉家一子相伝の秘奥義!
「な、に!?」
花陽の秘奥義が、ことりの下腹部に炸裂する。要は白米を握ったただのパンチだけど。
ことりが倒れる。勝者は花陽に決まったようだ。
そのまま、花陽はみんなの後を追う。かと思いきや、身を翻して、ことりを担ぎあげる。
「・・・何してるの?あなたは勝ったんだから、雪君が寝てる間に何の邪魔物もなく好きなことしてればいいじゃない。私の雪君に」
「雪君はことりちゃんのものじゃないよ?」
その顔は、笑顔だった。怒りに満ちた、笑顔だった。
「雪君はみんなのものだから、ことりちゃんも一緒に寝よ?」
「―――――――わかった、負けたよ」
階段を登りながら、また一段とミューズのきずなが深まったところで、雪が寝ている部屋の前に着く。
「じゃ、開けるよ」
扉を開けると、寝ている雪君。と、ことりに見つかったはずの他のみんな。
「あ、あれ?みんないる.」
「希ちゃん?い、いつの間に。―――――――――ふふっ♪ほら早く花陽ちゃん」
「う、うん」
不思議といった様子の花陽を強引にベットに押し倒し、ことりは雪に覆いかぶさるようにして、一瞬で睡魔に負ける。
「も、もう寝ちゃったんだ」
無理もない。雪の貞躁を守ろうと、みんなが行動に移すまで寝た振りをしていたのだから。
ここで意識があるのは花陽だけ。その状況が、花陽を冷静にさせた。結果。ものすごく恥ずかしくなった。
「わー!わー!わー!雪君の顔が手の届くとこに///」
みんなを起こさないように注意しながら、それでも声を抑えることはできなかった。
「さ、触るだけ。触るだけなら大丈夫。全然いやらしくない」
にこはもう忘れているが、行きの列車で言われたことを、花陽は気にかけていた。顔をなでなでし、安心したのか、そのまま花陽の意識も深い底に落ちる。
「う~ん」
段々と意識が覚醒してくる。寝起き特有のまったり感が俺を襲う。にしたがって、自身の体が動かないことに気がついた。もしや世に言う金縛りというやつにかかったのではないかと、内心冷や汗をかいた。
のだが、唯一動く首を回して状況把握に努めると、動かない理由が分かった。
右手には、勝手に腕を枕にしている穂乃果と凛。左には同じく絵里先輩と真姫ちゃんが。目の前、つまり俺の体を拘束しているのはピッタリとくっついて離れないことりだった。
花陽とにこちゃんは分かりづらいが俺の手を握っている。
なぜ俺の部屋にみんないるのかは分からないが、別にいい。みんながゆっくり寝られるのなら何だっていい。
「うわっ!」
とはいえ、腕も痺れるのでみんなを起こさないようにそっと起きようとしていると、目の前に東條先輩の顔が。
「起きたね?なら、ちょっと朝日、拝みに行かん?」
「・・・そうですね、きっと気持ちいいでしょうし」
東條先輩に誘われて、ゆっくりと部屋のドアを閉めながら、外に出る。外に出る時、リビングを通ったのだが、その時、なぜか一人で爆睡している海未を見つけた。気持ち良さそうに寝ていた。
「うーん。きもちええな」
「そうですね」
まさに日の出という時間で、気温も丁度いい。
「うちな。ミューズのみんなの事、大好きなんよ。ミューズを作ったのは穂乃果ちゃんやけど、うちもそれなりにアドバイスしてきたつもり。思い入れもある。海田君も、同じやろ?」
「―――――俺はなんにもしてないですよ。でも、それでもミューズのみんなの事、東條先輩の事。俺も大好きです」
そう、俺は何もしていない。俺は結局、ただの部外者で、ただのファンだから。きっと俺がいなくとも、この状況は作られていたはずだ。違う世界で、俺がいない世界でも、きっとうまくいっていたはず。
「!そ、そっか。そこまではっきり言われると、なんだか照れるね?」
「?そうですか?」
「―――――これは、みんなが落ちる気持ちも分からんではないな」
「?」
一体何の話をしているのか、考え事をしている間に話が移ったか?聞こうとすると、後ろから真姫ちゃんが。
「ありゃ。みつかっちゃった。―――――最後にもう一つ」
「なんですか。東條先輩?」
「その、東條先輩っていうの。やめてもらえる?にこっちはにこちゃんって、えりちは絵里先輩やろ?うちだけ仲間外れみたいやん」
「え?ああ、いやそんなつもりはなかったんですけど・・・」
「だったら、うちも―――――そうやね先輩もちゃんづけももうあるし、呼び捨て、とか?」
若干照れたように言う東條先輩。―――――ああ、いや、こうか。「希?」
「は、はい」
照れる東條先輩。じゃなくて希。を見るのは新鮮で。もう三回ほど呼んでしまった。
「ちょっと、うちで遊んでない?」
「そんなことないですよー。それじゃ、俺も海田君はナシにしてもらいましょう。俺が希って呼ぶのに、希が海田君じゃちぐはぐでしょ」
「じゃ、じゃあ雪、君」
「はい」
呼び捨てに挑戦しようとしたが失敗した、そんな風な呼び方に返事を返して。今はまだぎこちなく、違和感もあるけれど、きっとすぐに慣れる。
二人して笑っていると、後ろからお声がかかる。
「なに二人してイチャイチャしてんのよ」
「うわ、真姫ちゃん!」
急に後ろに立っているからびっくりした。
「まぁ、それは後で聞くとしても、希、あなためんどくさい人ね」
「真姫ちゃん。聞いてたん?」
「気づいてたくせに」
「おーい、雪ちゃんー!」
見ると、穂乃果達がこちらに向かっている。
穂乃果達が来るのを見届けて。水面に映る朝日も、今まさに昇らんとする朝日も、どちらも違った美しさを見せていて。そのどちらも、俺は好きになった。
帰ってきた。我が家に。
今度は何のトラブルもなく、無事に帰ってこれた。海未ちゃんのスパルタによりみんな寝ていたというのが大きな影響だろう。
思えば、濃い二日だった。今思い出すだけでも思わず笑みがこぼれる。楽しいそして充実した二日だった。
家の隙間も今は気にならない。
もうすでに思い出になっている合宿の事に思いを馳せていると、不意にチャイムが鳴る。
この家にチャイムなど滅多にならないので不思議に思い、扉を開けると。
「お、父さん」
「よぉ。今日も来てやったぜ」
そうか。今日は
どうもやっはろー。高宮です。
またもや話すネタがないので野球の話。
やっとホークスの零更新が止まってよかったです。イデホは一回スタメン外すべきだと思う。
ヤクルトすごいね、連続14試合だっけ。三失点以下なの。ディーエヌエーとともに、セリーグが面白い事になりそうです。