ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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信じない道

「ほら雪ちゃん、昨日徹夜して考えたんだ」

 そう言って俺にダンスを見せてくるのは、いつも以上にテンションの高い穂乃果であった。

「徹夜って、穂乃果、あなたいったいいつ休んでるんですか?」

「えっと、授業中?」

「いや、ダメでしょ」

 首をかしげる穂乃果を窘める絵里先輩。

 久方ぶりに練習に顔を出すと、みんなラブライブ出場に向けて気合が入っていた。とくに穂乃果は次のライブである学園祭にむけ、新曲をやろうと提案したり、今のように踊りを考えてきたりしているようだ。

 ラブライブ。それに出場できれば、この学校の存続どころか、来年から生徒が増えすぎて困るくらいにはなっているのではなかろうか。

 少し前まではそんなこと夢のまた夢であった。しかし今はすぐそこまで現実としてやってきている。

 ミューズの目標であった学校の再建。それが夢物語ではなく、現実に。

 そう考えると、みんなの気合の入りようもうなずける。とくに穂乃果は、先頭に立ってやってきたから。本人に自覚はないだろうけど。

「そういえば雪ちゃんは学園祭、もちろん来るよね!?」

 穂乃果の事で感慨に耽っていると、本人の声で意識が引き戻される。

「―――――――――うん。ライブ、見に行くよ」 

 正直、最近は特にバイトのほうが忙しいので一日も無駄には出来ないのだが、ミューズのライブとあっては別だ。

 ミューズは俺にとって、特別だから。

「そんで、ダンスは今から増やすのは厳しいと思うけど?」

 にこちゃんが厳しい表情で聞く。学園祭まで残り一週間だ。スケジュール的にはカツカツなんだろう。

「えー?でもこっちのほうがいいよー。頑張って練習すればいいじゃん」

「――――――そうやね。うちもそう思う。次のライブは、今までよりも凄いものにせなあかんしな」

 穂乃果の意見に頷く希。希に呼応するかのように他のメンバーも渋々といった様子で頷いた。

「それじゃ、張り切って練習行くにゃー」

「あ、まってよ凛ちゃん!」

 凛がさっそうと部室を飛び出し、そのあとを追う穂乃果。

「ちょっと、まだ休憩は終わってませんよ!」

 勢いよく飛び出していった二人の後を海未の声が虚しく響く。

「仕方ないわよ、私たちも行きましょう」

「まったく、すぐ行動に出るんだから」

 にこちゃんと、真姫ちゃんが後に続く。二人に引っ張られるように他のみんなも屋上へと向かった。

「――――――?どうしたのことり?ほら行こう?」

 一人、俯いていることりの手を握る。

「――――――あ、雪君」

 まるで今気付いたかのような反応を見せることり。

「どうしたの?まさか、どこか怪我?」

 普段見せない表情を見せていたことりに、心配になり手首や足首をチェックする。

「わ!わわわわ、ち、違うの。ちょっと考え事してて」

「怪我じゃない?」

「怪我じゃない」

 照れたように笑うことりを見て、ひとまず安心する。

「それで、考え事って?」

「―――――――雪ちゃんは忙しそうだね」

「???」

 あれ、俺、考え事って?って聞いたはずだよな。なんでそんな話になるんだろう。

 疑問には思うものの、ことりの憂いげな瞳を見ると答えないわけにはいかなくて。

「・・・そんなこと、ないよ」

 答えないわけにはいかないんだけど、それでも胸の中のもやが、なぜか認めたくなくて意地を張った。

「そんなこと、あるよ」

「・・・・・・」

 握りっぱなしだった掌に、なぜかお互いの体温は感じられない。

 ついさっきまでみんなで休憩していた部室を、妙な空気が支配する。

 その空気を壊すように、扉が勢いよく開いた。

「ちょっと、雪ちゃんことりちゃん何してんの?!はやく屋上にこないと練習始められないでしょ!」

 声の主は穂乃果。分かりやすく怒った穂乃果に、謝りつつ「とにかく、いこうか」と催促して。

 握ったままだった掌を何かを掴もうと、もう一度強く握りしめようとして、ことりの手は、するりと滑り落ちた。

「うん!いこう」

 滑り落ちた掌とも先ほどの声とも対照的に、明るい様子でことりは行ってしまう。

 それ以上は深く考えないことにして、俺も、ことりの後を追った。このとき窓に映った俺の表情はとても冷たかったんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、採用」

「いや、まだ何も言ってないんですけど」

 あれから数日、学園祭がもうすぐそこに迫ったある日の夕暮れ。

「いや、うちそういうのめんどくさいから。もうお前採用な」

 目の前にいるめちゃくちゃな事を言う子の人は、面接者。無精ひげをしきりに触りながら、俺が持ってきた細工してある履歴書をそこらへんにポイした。

「ちょ、何するんですか」

「あー、いらねいらね。どうせお前みたいなもんは本当の事なんて書いてないんだろ」

 な、なぜばれた?自慢じゃないが潜り抜けた面接は両の手じゃ数えきれないぞ。

「――――――図星か」

「!!!」

 しまった。カマを掛けられたのか。

 いままで数多くの何かを偽った上での面接に通ってきた、こんな展開は初めてだ。

「はい、じゃ早速だけど明日から働けな。俺のもとで手となり足となれ」

「な、なんで?」

 なんで採用?

「ああ?いっただろ、そういうのめんどくせぇんだよ。それとも不採用にしたほうが良かったか?」

 ぶんぶんと勢いよく首を左右に振る。

 どこか納得いかないものの、採用されたことには違いないと思いなおし、素直に受け入れることにした。いつも緊張との闘いであったのに、こんなあっさりと決まったのは初めてだ。

「ああ、それと俺の事は社長じゃなくて班長と呼ぶように」

「なんでですか?」

「なんか社長より班長のほうが偉そうじゃねぇか」

 煙草を一本吹かしながら意地の悪そうな笑みを浮かべる。というか社長だったんですね。そりゃ横暴も通るわ。

 そして翌日。

「おい!新入り、きびきび動け」

「はい!」

 仕事は土木現場の作業。今まで力仕事系はやったことがなかったのだが、そんなこと言っていられない時給の良さ。 

 力に自信があるわけじゃないけど、きっとやっていくうちになれると思う。

 休憩が入り、腰を下ろす。

「よう。どうだい首尾のほうは」

 お茶を飲んでいると、社長、じゃなくて班長が横に座る。

「なんとか、やっていけそうです」

 いややっていかなきゃならない。それはこのバイトに限らずだ。

「なんで俺、採用なんですか」

 昨日から気になっていた事を聞く。後回しにしてもしょうがない。俺以外の人だっていたはずだ、なのになぜ不正をしている俺を採用したのか。

「他に人がいなかったからだ」

 がっくりとうなだれる。そんな理由?

「いやいや、それにしても普通採用しませんって」

「普通?そりゃどこの普通だ?お前が今までいたとこはそうだったかもしんねぇが、ここじゃ違う。客のため、会社のために働く。それが俺らの普通だ。そんでもってお前はその普通だったから採用した。ただそれだけだよ」

「そんなの、わかんないじゃないですか。問題だって起こすかもしれないし」

 おかしなことを言ってる、だって俺は法律を犯しているんだ。そんな人間、信用されない。

「何だ、お前問題起こすの?」

「い、いやそういうわけじゃ・・・」

「ほらな、お前は普通だよ。普通にうちの社員と同じだ」

 そう言い残して、班長はその場を後にする。

 違うだろ?違うはずだ、だって俺以外は正規に手順を踏んだ人たちで、俺はそれをすっ飛ばしてしまっている。

 それを同じだなんて、そんなこと、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園祭当日。俺はどうにも気乗りしなかった。昨日、班長に言われたことが、自分の中に反響していて、こんがらがっていた。俺は、正しいのか、そうじゃないのか。

 圧倒的後者だとばかり思っていたのに、それが揺らいでしまって。正直、ライブどころじゃない。

 家にいても一人なので、秋葉原に出ることにした。外に出れば、多少気は紛れると思った。

 スクリーンの前で、ふと足を止める。アライズ。

 スクリーンに映し出されていたのは、アライズだった。きっとアライズも、ラブライブに向けて精一杯頑張っているのだろう。映し出された映像から、普段の顔とは違う、プロの顔だと分かる。

「あ、練習してたところだ」

 練習していたターンが三人ともそろって決まる。頑張ったのも、頑張っているのも彼女たちなのに、なぜだか俺も嬉しくなってしまう。

 そのままスクリーンを見続けていると、後ろから肩を掴まれた。

「やっと、見つけた」

 振り向くと、走っていたのであろう、汗だくの雪穂。後ろには、涼しげな亜里沙ちゃんがいた。

「なんでこんなところにいるの?」

「それはこっちのセリフです。なんでこんなところにいるんですか、もうすぐ始まっちゃいますよ?」

 亜里沙が柔和な微笑みを携えながら言う。

 空を見上げるとゴロゴロと、雲息が怪しくなる。

「そう、だね」

 俺の反応を見て、雪穂が大きな声を上げる。

「まさか、行かないの!?」

「行くよ、行くけど・・・」

 行かないわけはない。みんな頑張っている。アライズも、ミューズも。そんな頑張りに、関わることはできないから、せめて見届けようと、最初のライブに誓った。

 だけど、見度とけることになんて本当に意味があるのか。みんなの頑張りを、ただ見てる事しかかなわない自分にそんな資格あるのだろうか。その行為に意味はあるのか。今のミューズに自分は必要なのか。

 ぐらぐらと自分の中の何かが揺れて、今にも崩れそうになる。

「ほら、行くよ!」

 右手を雪穂に引っ張られる。結局、なんだかんだ言っても、俺の脚は音ノ木坂へと、ミューズのもとへと向かう。向かってしまう。

 ぽつり、またぽつりと肩が濡れる。どうやら雨が降って来たらしい。

 すぐに土砂降りとなり、急いで音ノ木坂へと向かう。

 講堂に行こうとして、亜里沙ちゃんに止められた。「そっちじゃないです!屋上です!」

 今度は左手を、亜里沙ちゃんに引っ張られる。

 屋上までの階段を、駆け足で駆け上って。

 ドアを開けた。

 開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、雨の中ミューズを応援しているファンでも、踊っているミューズでもなくて。

 ただ、ゆっくりと倒れこんでいく穂乃果の姿だった。

 

 




どうも、グリザイアの高宮です。
スケジュール管理間違えたぁ!でも乗り切って見せる、それが俺の愛。
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