ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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番外編 新妻という言葉の響きは最高

「次の患者さんどうぞ」

 西木野病院、この街の一番大きな病院である。その病院の跡取り娘。それが西木野真姫であった。

「どうにも頭痛が治まらんのですが、これはどういう病気かの。先生」

 職種は内科。まだ勤め出して三年の若輩者だが、その美貌となんだかんだ言いつつも面倒見の良さから、患者から人気が出るのも時間の問題であった。

「それはねおじいちゃん。思い込みよ。おじいちゃん思いこみ激しいからすぐそうやって体に異変が出るの。おじいちゃんの体は健康体そのものよ」

「そうかのー。これ多分何かの病気だと思うんだがのー。先生もっと診察してくれんかのー」

「それが狙いね、このエロジジイ」

「フォッフォッフォッ」

 声高々に笑いあげると、おじいちゃんは診察室を後にする。

「はい、じゃ、ホントに具合悪くなったらまた来てね」

 かと思いきや、真姫ちゃんが椅子から腰を浮かした瞬間を、まるで獲物を狙うために研ぎ澄まされた鷹のように狙っていたおじいちゃんは真姫ちゃんのお尻を一撫で。

「きゃっ!」

「まだまだ、甘いのー先生」

「この、エロジジイ!!」

 真姫ちゃんの一喝をものともせず、今度こそ本当に笑いながら診察室を後にする。

「はぁ、まったくもう・・・」

 こうやって、たまには変な患者の相手もしながら西木野真姫は今日も業務を全うする。

 これが、今現在の西木野真姫の日常であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日常はまだ終わりを告げてはいない。

「ただいまー」

 家の玄関から帰ってきたことを告げる。

「おかえり」

 すると廊下から向こう。エプロン姿の海田雪の姿が見える。左手の薬指には、キラリと光る指輪。

「それ、着てるんだ」

 雪が着ているエプロンは、先日の誕生日に真姫ちゃんから雪にプレゼントしたものであった。それを早速使っているのだ。

「うん!真姫ちゃんがくれたものだから、飾っておこうかとも思ったけど、やっぱり使いたくて」

 満面の笑みでまっすぐこちらを見て言う雪に、真姫ちゃんは顔が赤くなる。それがばれたくなくて少し顔を反らす。

 真姫ちゃんが雪と結婚したのは、ほんの一年前。つまり人妻であるもののまだ新妻なのだ。

 一緒に住みだしたのも同じ時期であるため、真姫ちゃんはいまだ同居生活に慣れない。些細なことでドキドキしてしまうのだ。

「そう///ま、まぁ物置に置かれるぐらいなら使ってくれたほうが?まだマシかもね?」

「うん!大事にするね!」

「そ、それより、お腹、すいたんだけど」

「ああ、待ってて、今用意するね」

 キッチンにへと向かう雪の背中を見つめる真姫ちゃん。そして思いを馳せる。

 かつて、ともにアイドルをしていた人たちの事を、みんなに雪は好かれていたことを。

「どうしたの?」

 気づくと、雪の背中に頭を預けていた。

「別に、ちょっと疲れただけ」

「そっか、じゃあ早くご飯用意しないとだね」

 こうして、めんどくさい自分を受け入れてくれる。告白した時もそうだったように、笑って。

 そんな、多分雪にとってはなんでもないとこに、いちいちキュンとしてしまう。

 思わず、腰にまわした手に力がこもる。

「・・・動きづらいよ?」

「いいでしょ。別に」

 そんなわがままも、やっぱり優しい笑顔で受け止めてくれる雪に、真姫はこの人の事が好きだと再確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――おいしい」

 結婚して気付いたことがもう一つある。それは意外と雪が専業主夫向きだということだ。

 掃除、洗濯、買い物など、私より上手だし、何より料理がうまい。やっぱり料理できる男はモテるのか。

 この間、私だって女なのだからと、料理を頑張ってみて、絶望的な結果になった時から完全に雪に任せてある。それにしてもやっぱりおいしい。

 おいしいおいしいとうわ言の様に呟いていると、雪が照れているのに気がつく。

「何照れてんのよ。こんなの言われ慣れてんじゃないの?」

 なんだかいつも真姫ちゃんのほうが責められているというか、恥ずかしい思いをしているので、なんだかその逆というのは新鮮に思えて、つい意地悪をしてしまう。

「うん、まぁそうなんだけど、やっぱり好きな人に褒めてもらえるのは、なんだか嬉しくなっちゃって///」

「ごほっごほっ」

 あはは、と頭をかく雪に、真姫ちゃんは食べていたご飯をのどに詰まらせる。

「だ、大丈夫?」

 心配そうに真姫ちゃんを見つめる。雪は素でこういうことを言うから侮ってはいけなかった。この天然でいったい何人の女の子を奈落へと落としたのだろう。

 上がっていた気分が、少々下降する。考えると少々複雑になるので、考えるのをやめる。

 プロポーズされた時も思ったが、いつも唐突なのだ。

 いったん落ち着き、またご飯を食べながら会話していると雪から口を開く。

「えーっと、それでね、今日が何の日か、真姫ちゃん覚えてる?」

「?何だっていうのよ?」

「やっぱり忘れてた。はいこれ」

 そう言って差し出す一つの箱。何なのか疑問に思いながらも受け取る。

「ハッピーバースデー」

「あ!」

 そうだ。今日、4月19日は西木野真姫の26回目の誕生日だ。

「ケーキもあるんだ」

 冷蔵庫から飛び出してきたのは、真っ白なクリームに縁取られたフルーツケーキだった。

「お、覚えててくれたんだ」

 当の本人の真姫ちゃんですら忘れていたというのに。

「もちろん!一年に一回だもん。忘れるわけない」

 その笑顔に自然真姫ちゃんも笑顔になった。過去のことはもう忘れよう。今この瞬間に雪は目の前にいて、自分の誕生日を祝ってくれているのだからと。

「開けていい?」

「うん」

 箱の包装紙を丁寧に解いていくと、中から現れたのはクマのぬいぐるみだった。

「あ、これ私が欲しがってたやつ」

 以前デートした時に見つめていた奴だ。

「―――――ありがとう」

 真姫ちゃんにとって、今日は忘れられない一日となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそんな忘れられない一日の翌日も、いつものように出勤する。

「いってきます」

「いってらっしゃい」

 いつものように言葉を交わし、いつものように電車に乗り、いつものように病院に着く。

 ただ、いつもとは違う、そこにいるはずのない人間がそこにいた。

「やぁ、真姫ちゃん。今朝振りだね」

「な!なんでいるのよ!?」

 目の前にいるのは、先ほど行ってらっしゃいを交わした今は家にいるはずの雪だった。

「いやー、真姫ちゃんに養われるのもそれはそれは魅力的なんだけど、家に一人でいるのさびしくなっちゃって、来ちゃった♪」

「来ちゃったって――――――」

 それだけならまだいい。だがそれだけではないと言い切れる要素が服装にあった。

「じゃあ、その看護師みたいな服装は何?」

「ああ、これ?ただ仕事場にお邪魔するのもなんだし、真姫ちゃんのお手伝いしようと思って、お義父さんに借りたんだ。ああ、大丈夫。知識はあるよ、勉強したし」

 そんな奇想天外なことをしゃべっている雪に、呆れを通り越して若干嬉しくなってしまう。そんなに私に会いたかったのかと。

「そ、そう。まぁパパがいいならいいけど」

「うん。そういうことだから、これからしばらくお世話になるね」

 日常に、変化が生じた。

 だけど、そんな変化も数日もすればまた日常となる。

 雪は、持ち前の人たらしで患者だけでなく、同じ職場の看護師からも人気があったし、良く働くということで医者にも好かれていた。

 幸い、真姫ちゃんが常に目を光らせているため、そういう事は起こらないのだが、これがもし、真姫ちゃんがいない職場であったならとぞっとする真姫ちゃんであった。と、同時に今後パートの類は禁止にしようと決意した。

「次の患者さんどうぞ」

「いやー、またきてしもうたわ、真姫ちゃん」

「またアナタですか」

 呆れたようにつぶやく真姫ちゃんの反応を楽しむおじいさん。しかしその目線が真姫ちゃんの隣に映るとおじいさんの瞳は見開かれる。

「あ、あの真姫ちゃんが、男とおる。あんなに誘っても誰にもなびかなかった真姫ちゃんが・・・」

「あ、どうも。いつも真姫ちゃんがお世話になっております。西木野雪です」

「西木野・・・?てことはお前さんが・・・」

 ちらちらと二人の間で視線が交差する。

 するとおじいさんは一つ息を吐いた。

「そうか、ついに旦那が来ちまったか」

 どこか遠くを見つめるおじいさん。

「俺のセクハラも、これまでってことだな・・・」

「セクハラ?」

「な!ち、違う。断じて違うわ!」

 必死に雪に弁明しようと後ろを向く真姫ちゃん。しかしその行為がいけなかった。後ろを向くことにより、真姫ちゃんの首筋から覗くうなじ、そして背中からお尻にかけてのラインがおじいさんの本能に火をつけてしまった。

 すぐに戦闘態勢となるおじいさん。隙間を狙って手を差し込む。

 しかし、その手を阻む手が一つ。

「なにしてるんです?おじいさん」

「ぐっ」

 しっかりと、おじいさんの手首をつかむのは雪の手。

「やりおるな。仕方ない、俺らの真姫ちゃんと幸せにな」

 そんな手を振り払って、捨て台詞を吐き颯爽とその場を後にするおじいさん。

「困ったおじいさんだね」

「・・・・そうね」

 二人、お互いの顔を見ながら苦笑する。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、雪君」

「あ、ナースさん」

 おじいさんが帰った後、お昼の時間になり二人で歩いていると、向かい側からナースが歩いてやってきた。

「もーう、私の事は美希って呼んでって言ったでしょ?」

「そうでしたっけ?」

 もちろんそんなことは初めて言われたのだが雪は気付かない。隣にいる真姫ちゃんの事も。

「誰?」

 クイクイと、服の裾を引っ張られ尋ねられる。

「先輩だよ。看護師の仕事を教えてもらったりしてたんだ」

「そうなの。それよりこの後お昼でもどう?」

 普通、奥さんが隣にいる状況で、こんな誘いはしない。完全にあてつけだった。

「そうですね。あ、じゃあ三人で行く?」

 そんなこと考えもしない雪は、真姫ちゃんに振る。

「私はいいわよ、二人で行ってくれば」

「そっか、じゃあ行ってくるね」

「え?」

 真姫ちゃんは、当然自分を優先するものと思っていたのだが、そこは雪。言われた言葉の裏など気にせず、そのまま受け取ってしまう。

 そして、本当に二人で行ってしまった。

「な、なによ・・・」

 雪がそういう人物であると知っていたのに、軽率な行動をとってしまったことと雪への怒りでその場で立ち尽くしてしまう。

 しかし、このまま二人で行かせてしまうと、何されるかわからない。主に雪が。女の勘であの美希とかいう女が、普通の女じゃない事は分かった。

 なのでこっそりと二人の後をついていくことにする。サングラスをかけて。

 

 

 

 

 

 

 入ったのはカレー屋さん。

 真姫ちゃんも後ろからばれないように細心の注意を払いながらお店へ入店する。

 遠くに座ったので、話し声は聞こえない。だが仲睦まじくおしゃべりをしていて楽しそうなのは、傍から見てもわかった。

 何とか聞く方法はないか模索していたのだがその方法は発見できず、二人は店を後にしてしまう。

「じゃあ、メアド交換して」

「いいですよ」

 なんとか出口に隠れて、二人が交換しているのだけは聞き取れた。

「それじゃ、今日は、この辺で。またね」

「はい、また」

 楽しそうに手を振る雪を見てもやもやが濃くなっていった。

 その日の夜。所用で遅くなると、雪はパソコンを開いて何かの動画を見ていた。

「何見てるの?」

「あ、真姫ちゃん。お、おかえり」

 なぜか動揺する雪に、お昼の事もあり不審に思った真姫ちゃんはパソコンを強引に見る。

「ちょっと、見せなさいって」

 そうしてパソコンに映っていたのは、昔、高校生の頃やっていたスクールアイドル。ミューズのライブ映像だった。

「――――――なんでこんなの」

「いや、たまたま見つけちゃって、懐かしいなーって」

 懐かしい。確かに懐かしい。だがその映像は真姫ちゃんの奥にしまっておいたある感情も呼び起こす。加えて今日の出来事により、真姫ちゃんは自分に歯止めが利かなくなっていた。

「・・・なんで私だったの?」

「え?」

「だって、あんなにみんなあなたの事好きだった。選ぼうと思ったら私以外だって選べたでしょ?それなのに、なんでこんなめんどくさいの選んだのよ」

 顔はうつむいてまともに相手を見れない。めんどくさい事を言っている自覚はあった。それでも聞かずにはいられない。

「うーん、選んだっていう気はないんだけど、そうだね。強いて言うなら真姫ちゃんが好きだからだよ」

「嘘」

「嘘じゃないよ。嘘だったらここにいない」

 静かで、だけど力強い言葉に、真姫ちゃんの顔を上がる。

「じゃあ、あの女は?」

「女?女って、美希のこと?」

「ほら!美希なんて呼び捨てにするくらい仲良いんでしょ?」

「いや、仕事を教えてもらってるだけだよ」

「じゃあライン見せてよ」

 そういうが早いか、真姫ちゃんは雪の携帯をとり、ラインを見る。内容を見ると、どうやら雪は狙われているらしいということが分かった。きっと本人に自覚はないんだろうけど。

「もうこの女に近づかないで」

 気づくと、真姫ちゃんは泣きじゃくっていたが本人は気にせず続ける。

「わ、わかった。とにかく涙拭いて」

 剣幕に押されたのか頷く雪。

「うん」

 そういうと雪が着ているシャツで涙をふく。

 そうしてようやく落ち着いた後に、これは私が何とかするしかないと思う真姫ちゃんは、一つの行動に出ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、真姫ちゃんが行動する前に、すでに先手を打たれる。

「ねぇ、雪君。私とも良いことしよっか」

 はだけるナース服。覗く肌色。雪は今、押し倒されていた。

「なるほど、近づくなとはそういう意味だったのか」

 ようやく合点がいく。しかし、時すでに遅く、どんどんと顔と顔の距離が近くなる。

 後数センチといったところでしかし、雪が相手の肩に手を置き一気に上下が逆になる。

「あら、雪君はこっちのほうがお好みかしら」

「すいません先輩。真姫ちゃんに怒られちゃうんで」

 そういうと、すぐに乱れた衣服を整えて仕事場へと戻って行く。まるで何事もなかったかのように。

「あれ?」

 残っているのは、着衣が乱れた美希だけであった。

「なんなのよ」

 ずんずんと廊下を歩きながら不満を呟く。後少しのところだったのに、邪魔をされた。西木野真姫に。彼女が来るまでは美希がこの医院の人気者であった。しかし彼女が来てからそれがあっさりと崩れたことに多少の不満を感じていた。

 ならばと、今度は直接宣戦布告をしてやろうと、彼女を探している最中。偶然にも彼女もまた、美希に用があった。

「あら、西木野さんじゃない。ちょっとあっちでお話ししない?」

 先ほどの表情から声音からころりといつもの調子に戻す。

「あら、奇遇ね。私も用事があるの。あなたに」

 ナースステーションの一角、誰にも見られないであろう場所に二人が入って行く。

「あのね、あなたの旦那さんだけど――――――――――――」

 美希が言い始めようとする瞬間。真姫ちゃんが壁に手をぶつけて阻止する。そしてそのままの体勢で真姫ちゃんが告げる。

「あの人は、雪は私のものだから、だから手を出さないでもらえる?」

「・・・・物扱い?それってちょっとひどいんじゃない?」

「ひどくないわ。だって雪の笑顔も言葉も愛情も、全部私のものだから。何一つ、あなたにはあげないわ」

「―――――――っ!!」

 ひどく真剣な顔に恐怖を感じて、そのままずるずるとその場に座り込んでしまう。

 その様子を見届けて、真姫ちゃんはすたすたと歩いていく。まるで何事もなかったかのように。

「あれ、真姫ちゃん」

 ちょうどナースステーションを出た瞬間。バッタリと雪に会う。

「ふふっ♪ちょっと耳貸して」

 雪は言われた通り真姫ちゃんに顔を近づける。

 すると、思いっきりチューされた。

「これで、あなたは私のものだから」

 にっこりとほほ笑む。首筋には赤い赤いキスマークが。

「ははっ。こりゃまいった」

「あら、どうしてまいるの?」

「いや、大人っぽくなったなと思ったんだ。外見は」

「何それ、意味わかんない」

 二人仲良く談笑しながら、愛が深まった、そんな出来事だった。

 




どうも高宮です。
思ったよりぎりぎりってかやばい。いがいと長くなっちゃったのが拍車をかけた。
とりあえず真姫ちゃんハッピーバースデー!!愛してるー!!!
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