ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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再生と輝き

 携帯が着信が来た事を知らせる。しかし持ち主である俺がその携帯をとることはない。ここ数週間、その携帯が用途を満たすことはなかった。

 もともとあまり使っていなかったのだが、ミューズとの関係を拒絶した今、携帯に触れる時間が目に見えて減った。それほど、俺の中でミューズが大きな割合を占めていたことの証拠なのだが。

 最後のコールがやみ、着信が途切れる。ディスプレイには園田海未の文字。昨日あたりから、なぜだか着信が増えた。

「はい今授業中だからねー。没収だからねー」

「あ、・・・・すいません」 

 後ろから来ていた先生に携帯を取り上げられる。最近こういうことが多くなっている気がする。バイトでも、目に見えるミスは減ったものの、それでも前より仕事効率は悪くなっている。

 ミューズのみんなと関わることをやめ、悩むことはなくなった。誰かについて頭を抱えることも、何かしようということもなくなった。

 結果、日常は何事もなかったかのように廻っていく。まるであの日々が、夢であったかのように。

 チャイムが鳴る。昼休みを知らせるチャイムだ。

「海田君!一緒におひる食べよ?」

「うん。いいよ」

 この子とは最近一緒にお昼を食べるようになった。両サイドに綺麗に結ばれている黒いツインテールがにこちゃんに似ていると思った。関係ないけど。

「海田君さー、正直なところー、アライズのメンバーとはいったいどういう関係で?」

 この子の話題の8割がアライズに関することだ。アライズがいかにかわいいか、他のアイドルに優れているかなど、いつも力説される。

「どういう関係って、うーん。練習見てるだけだよ」

 アライズとどういう関係といわれても、一口には説明しづらい。

「練習見てる!?それってどういうこと!?もしかして海田君実は凄いダンサーとか!?」

 ものすごい勢いで前のめりになりながら聞いてきた。まず口の中呑み込んでからしゃべろうか。

「そういうわけじゃなくて、なんでも緊張感を持たせたいんだって」

「緊張感、なるほど。トップアイドルたるもの、練習も創意工夫してるってことね」

 納得してくれたのか、うんうん頷きながら椅子に座りなおしつつまたご飯をもぐもぐし出した。

「待って!?そこでなんで海田君なの!?なんで私じゃないの!?」

 忙しい子だな。

「それは、たまたま補習で居残ってたらその教室がアライズの練習場所だっただけだよ」

「なるほど!じゃあ私も居残ればいいのか!」

 そういうことじゃないと思います。普通に。

 こうしてお昼休みに色々な話をするものの、大抵アライズの話しかしないけどそれはともかく、いつも心のどこかが埋まらなかった。いつも何かが足らなかった。それはいくらご飯を食べても、いくら暖かいベットで寝ても、いくら誰かと喋っていても、埋まらない何か。この気持ちに名前をつけるなら、いったいなんてつけるだろう。

「あ!やばいおひる終わっちゃう!」

 予令のチャイムが鳴り、そこでいったん思考は途切れる。残ったパンをお茶で飲み込みながら、次の授業の準備をした。

「・・・・パンとお茶って合わないな」

 今さらそんなことに気づきながら、俺は、何かが足りないひび割れた日常を過ごす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな日常に唐突に変化がやってくる。

 放課後、バイトに行く途中。

「――――――――海未」

「私が馬鹿でした。電話にもメールにも応答がないのなら、直接会いに行けば良かったんです。そしたら、もっと簡単だったのに」

 校門で待ち伏せていたのは、幼馴染の海未だった。その険しい表情からただ事ではない雰囲気が伝わってくる。

 何かあったのかと声を掛けそうになって、けれど思いとどまる。もう俺には関係ないことだ。久しぶりに会った緊張か、それとも険しい表情のせいか、気まずくて目が合わせられない。

 そんな気持ちは、もちろん知る由もなく。海未は続きを口にする。

「ことりが、留学することになりました。もう戻ってきません」

「・・・・・・・・・え?」

 突然の事に、思わず声が裏返った。ことりが留学する。確かに海未はそう言った。なんで?

「それだけじゃありません。ことりは、悩んでいたんです。穂乃果にもあなたにも相談しようとしたけど、できなくて。それに穂乃果がショックを受けて、ミューズを、アイドル活動をやめると言い出しました。もう学校は救ったのだからやる意味はないと」

「ちょ、ちょっとまって!?」

 色々な情報が一気に出てきて頭がこんがらがる。

 ―――――――やめる?穂乃果がミューズを?

        ―――――――――それにことりも留学するって、もう会えないってこと?     ――――――――いや、もう合わないと決めたのだから関係ない。

     ――――――ていうか学校救ったって何?            ―――――――関係ないじゃんもう俺には――――――――そんなこと言ってる場合か―――――いやでも――――――

 でも――――――でも――――――。

「やはり、メールも見てくれてないのですね」

 そんな俺の迷いを見て、海未が物憂げに呟く。

「・・・・・それで、こんなとこまで来てなんでそれを俺に?」

 とりあえず状況だけは分かり、落ち着く。しかし、口が開いて出てきた言葉は、そんなどうしようもない言葉だった。

「なんでって・・・・何とも思わないのですか?もうことりに会えなくなるのですよ?穂乃果がアイドルやめちゃうんですよ?」

 海未の言葉が次第に熱を帯びていく。

「別にいいじゃないか。学校救ったってことは、存続したんでしょ?ならやめたっていいじゃん。学校を救おうとして救ったからやめる。何がおかしいの」

 言ってて本心じゃないことはすぐに気がついた。そういう話じゃないということも。でも、一度口から出た言葉は、火がついたように止まらない。

「ことりだってそうだよ。ことりが自分で決めたことに、他人がとやかく言うことじゃない」

「・・・・・・他人って、それ本気で言ってるんですか」

「・・・・・・・・。」

 視界に映る景色は、アスファルトから変わらない。なので今、海未がどんな表情をしているのか、分からなかった。

「あなたは、雪は、私にとって、いえ、私たちにとって大切な存在だと思ってました。でも、そう思ってたのは私たちだけだったんですね」

 声が湿っていることに気づく、だけど、今さらもう、止まれなかった。

「・・・・・うるさい」

「え?」

「うるさいって言ってんだ!俺の気持ちも知らないくせに、好きかって言いやがって!お前らはいつも眩しすぎるんだよ!日向にいる奴が日蔭者の気持ちわかるかよ!!!」

「ううう、うるさいって何ですか!!」

「うるさいからうるさいって言ったんだバカ!!」 

「ば、バカ!?こ、この!バカって言ったほうがバカなんですよ!!」

「黙れ!!小学生みたいな返ししやがって、そういうところがバカっていってんだよ頭でっかち!!いつも丁寧語で清楚ぶりやがってこの清楚ビッチが!!」

「な!!び、ビッチって、そんなことしたことありません!!」

「そんなこと言ってラブアローシュートとか観客の声援にこたえる自分とか隠れて妄想してたじゃんかよ!!このむっつり!!」

「むむむ、むっつり!!??」

「それとな!合宿の時水着で恥ずかしがってたけど誰もお前の貧相な体見てねえんだよ!希や絵里みたいになってから出直せ!!」

「あああ!!言った!!あなた言ってはいけないこと言いました!!それにあの時はそういうつもりで恥ずかしかったわけじゃありません!!」

「あといつもいつも上から物言ってきやがって、歳一つしか違わねぇのにお姉さんぶるんじゃねえ!むかつくんだよ!!」

 そこでいったん、乱れた呼吸を整える。酸素が脳に行きわたって、ああ言ってしまったと、今まで我慢してたものが溢れ出てしまったと、後悔する。しかし、その後悔はもう遅い。

「とにかく!もう俺には、関係ないんだ。関係ないって決めたんだ!!」

 気まずくなってまともに海未の顔も見れずに走り去る。

「ちょ、ちょっと雪!?」

「うるさい!追いかけてくるな!!」

 大声で喧嘩してたからだろう。周りの生徒の好奇の視線が痛い。体に穴が開きそうだ。

 そんな視線から逃れるべく、全力で走った。なんか最近走ってばっかだなと、的外れなことを思いつつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けど、前回と違い、今度はちゃんと目的地がある。バイト先という目的地が。ただし、あの班長のバイトという点では同じだ。

「おお?なんでそんな汗だくなのお前?」

「そんなのどうでもいいでしょ」

 いつもは自転車なのに走ったから大粒の汗をかいた。距離もあって喉がざらつく。

「どうでもいいって、お前冷たいなー。冷たい奴には熱くなれるこれをやろう」

 そういって手渡してきたのは松岡修造の日めくりカレンダーだった。

「いいぞーこれ、元気がもらえて熱くなれるぞ」

「いや、いらない」

 自分の手に渡った瞬間投げ捨てる。

「おいおい、修造さんは丁寧に扱わないとまた今年の夏も記録的な猛暑になるぞ」

「いや別に修造さんが日本の天候操作してるわけじゃないからね」 

 ただのテニス上手いオジサンだよあの人。会ったことないけど。

「冗談だよ。本命はこっちだ」

 ニタニタしながら机の下から一升のビンを差し出した。

「これ酒じゃねえか!」

 何が本命だ。こっちのほうがよほど冗談だろ。

 俺の正当な糾弾は意にも介さず、そこらにあった紙コップに酒を注ぐ。

「紙コップじゃ風情はないが、まあいいだろ」

「いや、その前に俺未成年なんですけど」

「あ?おかしいな、履歴書には20って書いてあったけど?」

「うぐっ・・・」

 痛いところを突いてくる。これで飲むしかなくなった。飲まなければ未成年だと認めることになる。そうすればクビだ。

「ていうか仕事は?」

「今日は休みだよ」

「はあ!?」

 じゃあなんで俺だけばっちりシフト入ってんだよ。

「ほら、喉乾いてんだろ」

「あんたそれでも大人か」

「ああ大人だね。大人ってのは意地汚いんだ。社会が意地汚いからな」

 今の俺では一つの嫌味を返すので精いっぱいで、それすらも返されてしまったのだが、差し出された紙コップを受け取ってしまう。

 こうなれば仕方ないと意を決し、紙コップを傾ける。

 ついに、年齢詐称、労働基準法違法、だけでなく、飲酒もやってしまった。良い子は真似しないでね?本当だよ?

 一気に飲んだからか、それとももともとの体質か、一気に体の内側から焼けるように熱くなってくる。

 カーッとして頭の中がぼやける。

「それで、何があったんだ」

「何がって何です?」

「お前見てれば分かるよ。急に仕事できなくなりやがって、プライベートで何かあったんだろ?」

「班長には関係ないです」

「関係あります―。お前の上司ですー。仕事に影響出るんですー」

 いいからさっさと話せ、とめんどくさそうな顔で言われる。少しムッとしたので全部言うことにした。

「―――――――幼馴染が、留学するんです。それで幼馴染がアイドル辞めちゃって、そしたら幼馴染が俺のとこ来て、喧嘩になって。そういえば、喧嘩したのなんて初めてだ」

「ちょっと待て待て、お前いったい何人幼馴染いんの?」

「あん?そんなの三人に決まってるじゃないですか。あれ?にこちゃんも入れれば四人か」

「いやそのにこちゃんってのは知らねーが、要するに何に悩んでんだお前は」

「何に?」

 何に悩んでいたんだっけ?ぼやける頭で考える。確か最初は忙しくてなかなか会えなくて、それで、確か考えたんだ。俺がミューズにいる意味を。そしたらわかんなくなって、そしたら穂乃果が倒れて。俺がもっと注意してればって思って。注意してたら何かできたのかって思って、そういえば俺今まで何したっけって思って、何かの力になれたかなって、そして気づいたんだ、何の役にも立っていないクズだってことに。

「あ!お前それ俺の」

 目の前にあった紙コップを再び傾ける。あれ?なんでもう一つあるんだ?ま、いいや。

「はぁ、そんで?お前はいったい何がしたいんだ?何がしたかったんだ?」

「それは決まってます。みんなの役に立ちたかった。みんなみたいになりたかった」

 とっさに口に出た言葉に同意する。そうだ、みんなみたいになりたかったんだ。俺は。みんなみたいに見知らぬ誰かを勇気づけて、見知らぬ誰かを元気づけて、見知らぬ誰かを笑顔にしたかった。俺は、分不相応にも憧れたんだ。みんなに。みんなの強い光に。

 ようやく、本能の声が聞こえた。

「何だよお前、俺がお節介するまでもなかったんじゃねーか」

「もう一杯」

「駄目だ。もう飲ませねえ。あ、後お前クビな」

「え!?なんで!!!」

「なんでってお前、ミス連発する奴雇い続けていけるほど、うちは裕福じゃねーのよ」

 けど、と班長は言葉を続ける。

「けど、お前が問題を片つけてまた、働けるようになったら、そんときはまた来い。何度でも雇ってやるよ」

 初めて見る優しい笑顔。きっと、この人の優しさにはずっと触れていた。それが今初めて顔を出したんだ。

「――――――――――はい」

 不覚にも、泣きそうになった。これは酒のせいだ。絶対にそうだ。

「もう一杯」

「だからもう駄目だって、これ以上は俺のもんだ。ってつぶれてるしよ。まだ2杯しか飲んでねーよな」

 最早最後の班長の言葉は聞こえなかったけど、きっとその顔は今までよりマシだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あったまいてー」

 ガンガンと中で鐘が鳴ってんじゃねーかってくらいガンガンする。

「ちょっと、大丈夫?」

「ああ、うん大丈夫」

 隣の子に心配されてしまう。いかん、昨日飲酒したことは何が何でも秘匿せねば。

 というか昨日、何話したかあまり覚えていなかった。

 唯一思いだせるのは、みんなに憧れていたことを気付いたくらい。いや、気づかないふりをしていただけで、本当はもっと早くに気づいてた。

 それじゃ私帰るから戸締りよろしく、と隣の子が挨拶して帰って行く。辺りを見回すと、どうやら俺が最後の一人の様だ。

「え?もう放課後?」

 気付かなかった。恐るべし二日酔い。そして気づかなかったことがもう一つある。あんじゅからメールが来ていたのだ。携帯を開き、大量にある未読メールから、あんじゅのものを見つけ出す。内容は、放課後、自分の教室で待っているようにということだった。

 正直、がんがんする頭を引きずって今すぐ帰りたかったのだが、こんなわけ分からないメールの内容を確かめたくもあった。

 待っている間、少しでも気分を回復しようと、窓際に移動すると、何かが落ちていることに気がつく。拾ってみると、煙草の箱だった。

「なんでこんなもんが」

 クラスの誰かが、落としていったのか、それとも先生か。

 箱の中身はまだ残っていた。吸ってしまおうかと痛む頭で考える。飲酒してしまったんだから一本くらい別にいいか、と。どうせなら、落ちるとこまで落ちようと。

「――――――――まっず」

 幸いライターは持参していたので、それで火をつけ、吸って吐く。あまりのまずさに思いっきり喉に詰まってゲホゲホとむせた。

「――――――あんまり感心しないわね」

「おわっ!!」

 煙草を吸っているという負い目からか、後ろから聞こえた声に過剰に反応してしまう。自分の声にズキズキと頭が痛む。

 後ろにいたのは、ツバサさんだった。いたずらをしている子供を見つけたかのようににやにやしている。

「これは―――――――その拾って――――――」

 慌てて箱を隠す。が、現場を押さえられてしまっては意味ない。ここでも、俺は中途半端だった。悪になってみようとしたが、所詮こんなものだ。

「そうなの?」

 言いながら、隣まで来て、窓の外を見る。するとツバサさんが箱を取り上げて、自らも煙草を吸いだした。

「ちょ!なにやって――――――」

 取り上げようとすると、ツバサさんも俺と同じく、ゲホゲホとむせる。

「まずいわねこれ」

「――――――――なに、やってんですか。アイドルなのに」

 静かに煙草を取り上げ火を消す。気を使われているのが分かってしまい、余計辛い。

「あら、優しいのね。安心して、煙草なんて吸うの初めてだから。あ!これであなたに初めてを捧げるのは二回目ね♪」

 晴れやかな笑顔。そんな笑顔を見てると、不思議と頭の痛みなんて忘れていて、やっぱりアイドルは凄いと、綺羅ツバサは凄いと、再認識した。

「それとね、あなたが何に悩んでいるのか、何を思っているのか、聞かないし聞く気もない。あなたがどう思ってようと、これからもあたしはあなたに関わり続ける。だから忘れないで。あなたの居場所はここにもあるから。だから安心して。振られたら私の胸で泣かせてあげるから。いつでも」

「それってどういう―――――――」

 意味ですかと続けようとするも、ツバサさんは答える気がないようで教室から出て行ってしまう。代わりに現れたのは、絵里先輩だった。

「な!なんで学校内に!?」

「ふふん。生徒会長権限よ」

 胸にかざすのはお客様であることを証明する証明カード。

「・・・・職権乱用じゃないですか」

 きっと、ツバサさん達が呼んだのだろうと思う。それであのメールだったのだ。

「いいのよ、たまには」

 優しい声。出会ったころとは違う、練習の時とも違う、きっと素の声だ。

 ゆっくりと近づき、俺の携帯をとる。俺はとっさに煙草の箱を隠す。けれど、その手にはもうない事に気づいた。落ちたのかとも思い、辺りを目線だけで探すものの見当たらない。そこでようやくツバサさんが持って行ってくれたのだと分かった。ここでも自分に嫌悪感。

「なんで電話でないの?」

 ポチポチといくつかボタンを押し、着信履歴を見せられる。そこには何百件もの不在着信が。

「それは―――――――」

 ここまでお膳立てしてもらって、それでもなお言いだせない。打ち明けられらない。

「聞いた?明日、ことりが日本を立つの。このままじゃ、嫌な別れ方になるわ」

 明日。明日ことりが日本を立つ。そしたらもう会えない。

 急に現実味が増し、危機感が募る。

「雪は――――――――私たちのこと嫌い?」

 悲しそうな笑顔で悲しい事を言う絵里先輩を見たら、意地もかっこつけもどこかに吹っ飛んだ。

「違うんです!そうじゃなくて、そうじゃなくて嫌いなのは自分なんです。俺は、非力で弱い人間だから。いつも日蔭に目を向けていたから、みんなの光は眩しくて、目が開けられなくて、よりいっそう劣等感が増したんだ。こんな俺なんかがって、みんなの強い光が俺を焦がしたんだ。だからより一層暗闇に目を向けて、見ていなかった。見守るって誓ったのに、見た振りをしてた」

 みんなのことは大好きで、大好きだからこんなにも苦しいんだ。

 でも、と続きを精一杯口にする。誰でもない、自分の言葉で。

「でも気付いたんです。俺はただみんなに憧れていたんだって。俺も日向に行きたかった。俺もみんなと対等に接してたかった。光になって、誰かを照らしていたかった。誰かに必要とされたかった。どんな些細なことでもいいから、みんなに!必要とされたかった!役に立ちたかった!」

 気づくと、頬を涙が伝っていた。みると、絵里先輩も同じだった。二人とも不様で不恰好だった。

「馬鹿!そんなのもうとっくに役にたってるわよ!みんなあなたを必要としてるの!ただそこにいるだけで傍にいるだけで私たちは幸せなのに」

「それじゃ、駄目なんです!傍にいるだけじゃ、何もしないのは、俺が俺を納得できない!」

「何もしてなくなんかないわ!忘れたの?花陽を穂乃果の家まで引っ張って行ったのは誰?真姫と凛の背中を押したのは誰?私に勇気と、つまらない意地を取り去ってくれたのは、他でもないあなたでしょ!?そんなあなたが役に立ってないなんて言わせない!必要ないなんて、私たちが言わせない!!」

 誰もいない教室に、二人のすすり泣く声が響く。

 二人とも、涙で顔がぐしゃぐしゃだった。

 俺は、力になれていたのだろうか。絵里先輩の言うとおり役に立てていたのだろうか。必要とされていたのだろうか。

「あなたの価値をあなたが勝手に落とさないでよ」

 泣き崩れる絵里先輩を目の当たりにして、ああそうかと、ようやく納得がいった。俺は日向に行きたくて、彼女たちみたいになりたくて、彼女たちを光そのものなんだと思ってた。けど違うんだ。彼女たちは人間なんだ。俺と変わることのない人間なんだ。泣くし、笑うし、悪口だって言うし、悪いことだってする。どうしようもない人間なんだ。そこに日蔭も日向も関係ない。俺は彼女たちをどこか偶像の様に、完璧だと思ってた。自分とは違う種族だと。けど違うんだ。そんな簡単であたりまえなことに、俺はここまでしないと気がつかなかった。とんだ大馬鹿野郎だ。

「すいません絵里先輩」

 震えた声で、震えた指で、震えた腕で、絵里先輩を抱きかかえる。

「俺は、みんなにどう思われているか怖かったんです。実は嫌われてるんじゃないかって。でも、絵里先輩が証明してくれました。―――――――俺はちゃんと必要だったんですね?」

 最早声も出ない絵里先輩は、それでも力強く首を縦に振った。

「俺は、一度逃げました。絵里先輩たちの事を突き放しました。忘れようと思いました。こんな最低な俺でも、もう一度、必要としてくれますか?」

「あたりまえよ!!だから自分の事を、私たちの大切な人を、最低なんて、そんな悲しい事言わないで」

 俺は日向に行きたかった。けど、日陰から踏み出す一歩をためらっていた。だってあまりにも光がまぶしすぎるから。でもずっと見続けていれば、光はやがて慣れる。そして気づくんだ。日向も日蔭も大差ないということに。同じ、一つの世界だということに。

 そこで、もう一つ気づく。埋まらない気持ちの正体を。俺はただ、寂しかったんだ。誰かに構って欲しかったんだ。まるで子供みたいに。

 でも、そんな寂しさは俺の中にはもうない。誰かの中に俺がいると分かったから。俺を思ってくれる人が、いると分かったから。

 さて、今からやるべきことが、やらなきゃいけないことが、山ほどある。間に合うだろうか。いや、間に合わせなければならない。間に合わなければ俺は償えない。そんな度胸俺にはない。

 だから死に物狂いで頑張ろう。

 割れたガラスは元に戻らないけど、けれど破片を集めて、また作り直すことはできる。もとの形には戻らないかもしれないけど、きっとそのガラスも、美しい。 




どうもCCG高宮です。
話をまとめる力が欲しい。どうしてこうなった。一話にまとめるつもりだったのに。
次回で終わるかなこれ。
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