「夏休みかー」
季節は梅雨を過ぎ、本格的な茹だるような暑さが身に染みる。グラウンドに目を向けると、テニス部がラリーの打ち合いをしているのが見えた。
あの、一連の騒動とも呼ぶべきものから早一ヶ月。とうとう先週から夏休みが始まっていた。
ミューズは解散の危機を乗り越え、より一層結束が強まった気がする。とはいえ、すでに日常に変化はない。相変わらず、穂乃果は穂乃果だし、雪の心の闇とも言うべきものも、晴れたわけではない。
ただ、その存在を自らが認識し、認め、向き合おうとしている。さすれば、いつの日か、闇が晴れる日が来るのかもしれない。
「なーに、呆けているの?まだこんなに課題は残ってるのにー」
「ああ、ごめん」
教室。雪が昨日まで毎日通っていた教室に、今はアライズのメンバーの一人であるあんじゅと二人きりだ。
講堂で開かれた終業式の日、たまたま隣にいたあんじゅに勉強会をしようと持ちかけられたのだ。あんじゅも雪も、頭は悪くはないが、それは必死に勉強しての事。あんじゅは言わずもがなアライズで忙しいし、雪もまた、バイトで忙しい。つまりそもそも勉強する時間がないのだ。しかし、そのことは言い訳には使えない。雪が通うUTXはバイト禁止だし、もしアライズのメンバーが学業をおろそかにしているといわれようものなら、活動停止にもなりかねない。
そういうことで、似たような境遇の二人で勉強をしようということだ。
と、雪はそう思っているのだが。あんじゅは雪がバイトしていることなど知らない。
「早く課題終わらせて、アライズに専念できるようにしなくちゃね」
「そうだね」
あんじゅはただ、雪と二人っきりになりたかっただけである。そんなゲスな笑みを浮かべるあんじゅなど露知らず、雪は淡々と課題を進めていく。
今日の分のノルマが半分まで消化されてきた頃。二人きりの教室に、来訪者が訪れる。
「やぁ、課題は順調に進んでいるかい?」
「なんなら私たちが教えてあげようか?手とり足とり♪」
現れたのは、残りのアライズのメンバーである二人。ツバサと英玲奈だった。
「ツバサに英玲奈!?どうしてここに?」
この二人が来るとは予想だにしていなかったあんじゅは驚愕の表情を浮かべる。
「ふっふっふ。水臭いじゃないかあんじゅ。二人だけで勉強会を開こうなどと。私たちも誘ってくれればいいのに」
不敵に笑う英玲奈。その腕はがっちりとあんじゅの首にまわされ、離れない。
「そうそう!勉強なら私たち上級生が教えてあげるから!ね!」
「あーっと、それはとってもありがたいんだけど・・・」
両端からツバサと英玲奈の顔に囲まれ、たじたじになっているあんじゅに、雪が賛同の声をかける。
「教えてもらおうよ、あんじゅ。そっちの方がはかどるし」
「ゆ、雪君が言うなら・・・」
渋々といった感じで頷くあんじゅに、二人はにやけた笑みを送る。
「そうと決まれば、早速やろう」
「そうね、
これから、ということをことさらに強調して言うツバサに、あんじゅはがっくりとうなだれる。
あんじゅにしてみれば、せっかく二人きりで距離を縮めるチャンスだったのに、それをツバサ達に潰されたことになる。うなだれもするだろう。
抜け駆けしようとした感は否めないのだが。
「そういえば、二人は課題はどこまで進んでるんですか?」
そんな三人の隠れたやり取りなど気にも止めずに、雪は訪ねる。
「課題?私は生徒会のみんながやってくれるわ」
「は?それってどういう意味ですか?」
普通、課題というものは自分で終わらせるものだろう。友達に手伝ってもらったり、写させてもらったりすることはあるかもしれないが。
「生徒会長権限よ」
「またそれか!」
つまり、生徒会長だから、課題は他の人がやってくれるとそういうことなのか。いや、この学校はアライズ教信者が多いから、生徒会の中にそういう人たちがいて、ツバサさんの課題を喜んでやっている可能性もある。
「俺の周りにいる権力者、職権乱用しすぎじゃないか?」
絵里先輩といい、ツバサさんといい。立場をフルに使っている気がする。
「私は、一切やってないぞ。宿題なんて最終日にパパっと終わらせるものだろう?」
まるで当たり前とでもいうかのように、きょとんと首をかしげる英玲奈先輩。
「いやどこののび太の世界の常識?それ?つーか英玲奈先輩は頭いいんじゃないんですか?」
見た目クールビューティで、第一印象は大人びていて知的な印象だったものだが。
「私か?私は下から数えた方が早いぞ」
あっはっはっと笑う英玲奈先輩に呆れる雪。この人見た目で大分誤解されてる気がする。
「それより、ミューズはあれからどうなったの?」
ツバサさんが会話を方向転換する。
「ミューズですか?順調ですよ。みんな前より、仲良くなった気がします」
「あの日のライブ凄かったもんねー」
「あんじゅ。見てたの?」
「私も見てたぞ」
どうやらネット中継されていたライブを見ていたらしい。ツバサさんは俺の後ろに張り付いていたからあたりまえだけど。
「きっとこれから、ミューズはもっともっと凄いアイドルになるわ」
ツバサさんの呟きは、誰にあてたものでもなかったのだが、不思議とみんな同じ気持ちだった。
「さーて、勉強しないと課題終わらないよー」「課題なんてほっといてさ、今度みんなで海行こう。海」「いいわね。スイカ割したいわ。あとお祭りにも行きたい。花火見たい」
あんじゅが泣きごとを言い、それを英玲奈先輩が魅力的な提案で誘惑し、ツバサ先輩が乗る。
うるさいセミの鳴き声をBGMに、これからやってくる夏休みに思いを馳せながら、今日を過ごす。
課題は進まなかったけど、こういう一日もいい。夏休みは、まだ始まったばかりなのだから。
「――――――って言う話をこないだしてね」
場所は部室。風鈴の音が心地よい夕刻に、ミューズのみんなが、練習も終わり集まっていた。夏休みも、もう終盤。
「へー。女の子と二人っきりで教室で密室状態で勉強してたんだー。ねえそれってどんな勉強?保健体育?まさか保健体育じゃないよね?」
「いや、普通に数学とかだけど。保健体育に課題はないし」
ことりの表情は相変わらず笑顔だが、その笑顔は周りの温度を一段階低くさせていた。
「ていうか!そんなにアライズと仲良いのあんた!?」
今度はにこちゃんが雪に詰め寄る。
「ああー、そうだね、最近は勉強を見てもらってるかな?」
英玲奈先輩はともかく、ツバサさんは頭もいいし、教え方も上手だ。
「―――――勉強なら、なぜ私に頼らないのですか!?」
「ええ!?いや、タイミングというかなんというか・・・・」
海未が怒る理由がよくわからず困惑する雪に、絵里先輩が追い打ちをかける。
「そうよ、課題なんていくらでも手伝ってあげるのに。なんだったら今度うちに来る?色々教えるわよ?」
「え?いいんですか?」
絵里先輩の企みなど一切気付かずに、提案に乗りかける雪。
「へー、楽しそうやん。うちも行っていい?」
「・・・ええ。もちろん」
ツバサさん達に雪は、ミューズのメンバーは仲良くなったと言っていた。それはもちろん事実であるのだが、もうひとつ、強まったことがある。
それは、皆の雪に対する想いである。ライブが終わった後、雪は今まで隠してきた本音を打ち明けた。その結果、双方反省することになったのだが、それと同時に皆の中である感情が芽生えた。
守ってあげたいという感情が。今まで、弱みという弱みを見せなかった雪が初めて見せた弱い姿が、結果として、皆の母性本能をくすぐったのである。
そして、それに気づいたメンバーは、互いにある協定を立てた。
誰も雪に告白しないという協定だ。少なくとも、今の三年生、つまり絵里先輩たちが卒業するまでは。
もちろん、雪はこの事を知る由もない。内緒である。
「ていうか、そうじゃなくて!」
雪以外が、雪の事で盛り上がっている最中。雪は、聞いてほしい事があって声を張り上げる。
「だから、今日。みんなで花火大会行きたいなって。そういう話だったんだけど・・・」
恐る恐る、ちらりと皆を盗み見る。
すると、一拍置いた後。ものすごい勢いで「「「「「「「「「行く!!!!!!!」」」」」」」」」と、目をキラキラさせて言って来た。
皆きれいにハモっていたので、思わず笑いながら「じゃ、行こっか」と約束を取り付けたのであった。
それから一時間後。雪はそのまま部室から現地に行っても良かったのだが、皆に反対され、待ち合わせ場所で一人人ごみに紛れていた。
「――――――お待たせ。待ったかしら?」
声のする方を振り返ると、なるほど、浴衣姿の絵里先輩の姿。このために、皆現地集合にしたのか。
絵里先輩の後ろには、他のみんなの姿が。
「あ!雪ちゃんだにゃ!」
「ちょっと凛!下駄で走ったら転ぶわよ!」
「きゃっ!」
真姫ちゃんが忠告した通り、雪の数歩先で転びそうになる凛。
それをすんでのところでキャッチする。
「大丈夫?」
「・・・う、うん。ダイジョブ」
頬が赤くなっている凛を、ゆっくりと起き上がらせると、みんなも追い付いてくる。
「みんな、浴衣似会ってるね」
各々のライブでの担当色で統一された浴衣は、とても似合っていた。
「でしょでしょ?ことりちゃんが知ってるお店がすごく良くてね?そこで借りたんだー」
穂乃果がはしゃぐのをにこちゃんが呆れたように宥める。
「ったく。お子様ね。どうでもいいから早く行きましょ」
「にこちゃんも、そのキャラクター浴衣凄く似合ってるよ。全然違和感ない」
「それは褒めてんの?それともけなしてんの?」
「ほ、褒めてるんだよ」
頬を思いっきし引っ張りながら、不満を垂らすにこちゃん。
「仕方ないでしょ?サイズ合うのこれしかなかったのよ!」「いいじゃない。そんなのどうでも」
真姫ちゃんは髪の毛をいじりながら先を促す。
「真姫ちゃんも、いつもと雰囲気違うね」
髪をアップテンポにまとめ、赤い着物の首筋から覗くうなじが色気を醸し出している。
「そ、そう!?そうね着物なんてめったに着ないしね!?」
早口でまくし立てる真姫ちゃんを傍目に、凛が割り込む。
「凛は!?ねぇねぇ雪ちゃん、凛は凛は?」
「うん、凛もかわいいね」
黄色い着物に髪飾りが良く似合う。
「・・・・・ちらっ・・・ちらちらっ」
そんなやり取りを尻目に、ことりは何度もわざとらしく雪の方へと視線を向ける。そんな視線に気づいた雪は勿論ことりも褒める。
「ことりは凄い浴衣だね。似会ってるよ」
ことりの浴衣はオーダーメイドなのか、他のとは違い、色々とアレンジが加えられ目立っていた。
「えー?本当に?もっと近くで見てもいいんだよ?」
さらりと近くに寄ることりの腕を海未ががっしりと掴む。
「いけませんよことり。鼻緒が取れかかっています」
「いや?そんなことないよ?」
そんな二人のやり取りを見ていた希が海未をからかう。
「ははーん。海未ちゃん。今のはなにかな?なにかな?」「い、今のとは何ですか!?」
「ついに海未も、コマンド嫉妬を覚えた様ね」
絵里先輩がしたり顔で言う。
「今までは恥ずかしがりばっかやったもんな」
「そ、そんなことありません!」
「あの日以来、海未ちゃんは積極的になろうとしてるんだよね?」
「ちょ、それは言わないでと言ったはずですことり!!」
海未とみんなのやり取りを眺める雪は唐突に、花陽と凛に海未の前に押し出される。
後ろを振り返ると、二人ともにやにやしている。あれは悪いほうの笑みだ。
眼の前には同じく、ことりと穂乃果から押し出された海未が。
「ほら、海未ちゃん。積極的になるって言ったんでしょ?」「ファイトだよ!」
押し出した二人が小声で声媛を送る。
「ううう///あ、あの。雪、変じゃ、ないでしょうか?」
もじもじとする手つき、ゆらゆらと揺れ動く瞳に、雪は海未の全身を、碧い碧い着物をじっくりと眺めてから一つ頷き。
「えーっと、うん。変じゃないよ。とっても良く似合ってる」
満面の笑顔でそう言った。
「そう、ですか///」「頑張ったねー海未ちゃん」「分かる!分かるよ―その気持ち」
ことりが海未を後ろから抱きしめ、花陽が雪の隣でうんうん頷く。
「それより、早くしないと花火始まっちゃうよ?」
「はっ!!そうだった!早くしないと屋台全部回れないよ」
頭を抱える穂乃果に、一つ、絵里先輩が提案する。
「それじゃ、この人数で回ると時間かかりそうだし、三人一組で回りましょうか。花火の時間になったら集合ってことで」
「そうね。で?どうやって三人一組決めるの?」
真姫ちゃんが賛同しながら質問する。
「そんなこともあろうかと、くじを作ってきたんや」
ふっふっふと怪しげな笑みを浮かべる希に、皆は警戒心MAXになる。
「駄目だよそんな!希ちゃん有利過ぎるじゃない!」
穂乃果が希のクジに文句を言う。
「じゃあどうするん?他に方法ないやん?」
「それならあれで決めるにゃー」
凛が勢いよく指し示すのは屋台が並ぶ街道にある、射的屋の文字。
「射的で誰が一番景品ゲットできるかで勝負にゃ!」
「一番景品ゲットできた人が、雪君と回れるということだね」
「え?三人一組じゃなくて?」
ことりの発言に疑問を返す雪だったが皆、スルーして射的を始めた。
「な、なんで・・・・・」
射的の結果、凛が一番多くの景品をゲットしていた。
「ずるいよ凛ちゃん!一番得意なの選んだでしょ!?」
凛に抗議する穂乃果の手には、一個も景品は握られていない。
「そーんなことなーいにゃー」
ぴゅーぴゅーと口笛を吹く凛に、穂乃果は次の提案をする。
「じゃあ次はあれで勝負だよ!」
穂乃果がびしっと指をさす先には、ヨーヨー釣りの看板。
「いいよー。どうせ凛が勝つけどねー」
穂乃果の勝負に凛が乗り、今度はヨーヨー対決となった。
そんな傍ら。絵里先輩が難しそうに首をかしげる。
「どうやってやるのかしらこれ?・・・」
そんな絵里先輩に気づいた雪は、優しく回り込んで教える。
「これはこうやってやるんですよ」
自然と体を包み込むようにして、両手を握り、構え方をレクチャーする雪に、絵里先輩の鼓動が急上昇する。どうやら、攻められるのには慣れていないようだ。
「―――――どうしました?」
「い、いや、何でもないのよ。なんでも。・・・いいから続けて?」
その後もレクチャーする雪を、見つめる絵里先輩。そんなイチャイチャ、もとい不穏な空気をことりが悟る。そうか、この手があったかと。
「ゆ、雪君。私もうまく景品がとれないんだけど」
教えてくれる?と、必殺の上目遣い(涙目)で頼む。
そんなことりの様子を雪は笑って指摘する。
「何言ってるのことり?そんなおっきなぬいぐるみ抱えてさ。さすがに俺、それ以上は無理だよ」
「し、しまった」
両手に抱きかかえてもまだ、身に余るサイズのぬいぐるみを、ことりはゲットしていた。つい、目先の欲に駆られてしまった。
一方その頃の、ヨーヨー対決では穂乃果の圧勝で、幕を閉じていた。
「はっはっは穂乃果、これだけは小さいころから良くやってたからね」
「・・・・・・・」
「いやー、歳の功ってやつ?これで、雪ちゃんと回れ――――――「まってください」」
意気揚々と上機嫌で、雪のもとに行こうとした穂乃果を、海未が一段と低い声で止める。
「まだ、勝負はついていません」「そうにゃ、だいたい、さっきは凛が勝ったんだから、これで一勝一敗のはずにゃ」
凛が海未に乗っかる。しかし、海未には聞こえていないようで。さっきからぶつくさと何か言っている。
「まだ負けてないまだ負けてないまだ負けてないまだ負けてない」
「う、海未ちゃん?」
その恐ろしげな顔におっかなびっくり、声をかける花陽。
「次はあれで勝負です!!」
急に大声を出すので、花陽達はびっくりしながらも、海未の指さす方向へと、顔を向ける。
「金魚すくい?」
これもお祭りの定番。金魚すくいだった。
射的でレクチャーしていた雪と絵里先輩らも加わり、金魚すくいへと場所を移す。
「300円ねー」
金魚すくいのおじちゃんに無言でお金を渡すと、海未はそのまま精神統一を図る。
そして、かっと眼を見開いたかと思うと、ものすごい勢いで金魚をすくう。いや、それは最早狩りとも呼べる所業だった。
あっという間に、手元にあるプラスチックの箱は金魚で埋め尽くされた。
「――――――どうです?私の勝ちですか?」
ふふんと勝ち誇ったように言う海未に、皆は眼を逸らしながら「うん、勝ち、でいいんじゃないかな」「ちょっと!なんでみんな引いてるんですか!」
海未の圧勝劇の間に、今度は真姫ちゃんが、金魚すくいに苦戦していた。
「もう、なんでこうすぐに破れるの!?不良品じゃないのこれ!もう一回!」
すでに真姫ちゃんの足元には無残にも敗れたポイが積み重なっている。
「真姫ちゃん。金魚すくい初めて?」
見かねた雪が隣に座り込んで声をかける。
「う///そうよ初めてよ悪い?」
恥ずかしいのか、顔を逸らしながら初めてだと告白する真姫ちゃんに雪は破れたポイを一つ手に取る。
「これはまだ使えるね。ほら、見てて?こうやるんだ」
海未程じゃないにしろ、上手く端に追い込んで、金魚を一匹救う。
「ほらね?」
真姫ちゃんの方に首を傾けると、キラキラした瞳で、雪を見つめていた。
「す、凄い!どうやったの!?」「はい、じゃあポイ持って」
ポイを手渡し、右手を一緒に握る雪。
「!!!///」「こうやって、なるべく水平にして―――――」
教えるのに夢中な雪は、真姫ちゃんの表情の変化に気づいていない。
「――――真姫ちゃん聞いてる?」「え、ええ。聞いてるわ///」
その後も、教えられた通りにすると真姫ちゃんは一匹救うことができた。
「みてみて!雪の教えてくれた通りにやったら一匹救えたわ!」
子供の様にはじける笑顔に、雪は教えた甲斐があったと、嬉しくなる。
そんなやりとりをしているとは毛ほども思わず。他のみんなは、ひもを引っ張って、景品を当てるタイプのくじ引きに挑戦していた。
「カードによると、この紐がええみたいやね」
そう言うと間髪いれずに、ひもを引っ張り、一番でかいゲーム機を見事引き当てた。
「これは、うちの勝ちってことでええ?」
ゲーム機を抱え、皆を振り返る。
「ああ、いいんじゃないかにゃ」「いいと思うよ」「それより、今度は型抜きしようよ」
「ちょっと!なんでそんな興味ないん!?」
みんなまるで興味がないかのようにそっけない。
「だってー。希ちゃんの運の良さはもう見飽きたよ」「どうせ、一番大きいのとるってわかってたにゃ」「一番難しいのください」
最後のことりに至ってはもうすでに、型抜きの型をもらっている。
「へー。やっぱり上手いねことり。手先が器用だからかな?」
真姫ちゃんのレクチャーも終えた雪は、ことりの手元を覗き込んでいた。
「ふぇ?雪ちゃん!?」
雪に見られるなんて予想だにしていなかったのだろう。素で驚いた声を出すことり。
「あれ、みんな型抜きしてるの?」
「なにそれ穂乃果」
しばらく見ないと思ったら、どうやら海未と一緒に屋台を巡って、食べ物を買って来たようだ。右手にはリンゴ飴とフランクフルト。左手には綿あめ。口にはチョコバナナが、チョコバナナが咥えられている。その口元には、自らの体温で、溶けたであろうチョコが、垂れている。その口元をぬぐう姿はある種、扇情的だった。
海未の手元には、焼きそばやら、たこ焼きやら、イカ飯やらが抱えられていた。
「あ!花火!」
絵里先輩が声を上げる。皆その声に続き、空を見上げた。
真っ暗な空に、打ち上げられる閃光。そして花火特有の音が、騒がしかったお祭りを支配する。
結局、遊び過ぎて花火には間に合わなかったが、不思議とその時見た花火は、誰の心も魅了して、強く、強く残った。
そして知る。みんなで見る花火は、こんなにも美しいのだと。そして同時に願う。
「来年も、再来年もさ。また来ようね。みんなで」
皆はそれに答えない。けれど、口には出さずとも、分かりあえるものもあるのだ。口に出さないと、分からないものもあるように。
夏休みも、もうじき終わる。
「そういえば、にこちゃんは?」
「え?そういえばさっきから見てないわね」
絵里先輩が辺りを見回す。
「いつから見てないの?」
「凛は射的からだにゃ。かよちんは?」
「私も」
「うちも見てへんな」
誰一人として、にこちゃんの現在地を知る者はいなかった。
「みんな!どこ行ったのよー!!」
人ごみで、一人叫ぶにこちゃん。みんなと集合してすぐ。迷子になっていたにこちゃん。見上げる空には、最後であることを知らせる特大の花火が辺りを照らす。
夏休みも、もうじき終わる。
どうも、スクフェス大会行ってきました。高宮です。
瞬殺されました。普通に一回戦で負けました。何事もなかったかのように帰ってきました。参加賞だけもらってきました。
いやね、違うんです。眼の前には社会人であるだろう、スーツ着たカップル。横には動画で何度も予習しているイケメンのお兄さん。こんな状況で平常心装えっていう方が無理ですよ。
まぁ、その予習してるお兄さんも負けたんですけど。
だいたいね、なんでスーツ着てんの?っていう。土曜日ですよ土曜日。普通休みだろ。休みじゃないの?社会人ともなると週休二日制じゃいられなくなるの?っていう。
そんなこんなで次回もがんばりまーす。
あ、あと無駄にスクフェスのスタッフのお姉さんかわいかった。