生徒会長となった俺は、ただでさえ、多忙を極める毎日にさらに仕事が増えてしまった。
・・・・というわけでもなく、生徒会長となる前と、日常にさして変わりはない。
理由としては、前生徒会長であるツバサさんのもとで働いていた、優秀な生徒会役員がほぼそのまま残っているので、仕事が俺まで回ってこない。というのが一つ。ちなみに、俺を応援してくれていた女の子たちを差し置いて、あんじゅは副会長に立候補し見事当選した。
なぜか、俺が生徒会長になると聞いた次の日に、もう書類を提出していたらしい。当選するまで知らなかった。教えてくれてもよかったとも思う。
「海田君。今日は生徒会行くの?」
「書記さん。うん、行くよ」
「役職で呼ばないでっていってるでしょ?」
隣の席の、にこちゃんに似ている女の子。この子もなぜか生徒会に立候補していたらしい。きっとアライズとお近づきになりたいとかそういった理由だろう。
生徒会長としての、俺の初仕事は引き継ぎと部屋の整理だった。今のところ、それが最初で最後の仕事である。
「・・・・またいるし」
生徒会に着くや否や、目に飛び込んできたのは他の生徒会役員と楽しそうに談笑するツバサさんの姿であった。
俺が生徒会長になって以来、ほぼ毎日来ている気がする。この人は、俺に仕事が回ってこない原因の一つでもある。
「あ!雪!やっと来たわね。もう仕事終わっちゃったわよ」
この人は、生徒会長であったときは仕事など笑っちゃうほどしてなかったくせに、その座を退き、俺が座ると猛スピードで俺の仕事をこなしていくのだ。
もともと、優秀ではあったのだから本気を出せば俺の出る幕などはなく、この結果は当たり前なのだが。それにしても一抹の罪悪感も覚えてしまう。なにせ、生徒会長として俺はまだ何の役にも立っていないのだ。
―――――――いかんいかん。この思考はまずい。日蔭ばかりに目を向けていると、光の刺激にやられてしまう。
「終わっちゃったって、俺まだ生徒会長としてろくに仕事もしてないんですけど」
そっぽを向き、少々嫌みたらしい自覚はあった。
「ええ~?いいじゃない、仕事さぼれるんだから。その分、時間使えるでしょ?」
「そりゃ、そうですけど・・・」
俺だって一応悩んで、それなりに覚悟を決めて決断したのだ。その矢先がこれじゃあ、少々ふてくされるのも仕方ない。
「―――――今だけよ。生徒会が終わって、ちょっと暇なのよ。だから遊びに来てるだけ。・・・・もう来ないわ」
「あ、いえ、そういう意味で言ったわけでは・・・」
自分の言ったことを省みて、あたふたする。
「そう?じゃあこれからも毎日来ていいの?」
「もちろんです!」
ん?なにか違和感がある気がするが。ツバサさんを見ると、こいつちょろいな。とばかりにほくそ笑んでいる。
そこで気づいた。しまった。やられた。上手く言質をとられてしまった。と。
「あ!それに、仕事なら一つあるわ。この資料を音ノ木坂の生徒会長に持って行ってくれない?」
そういって、ひと束の資料を渡される。
「生徒会長って、穂乃果にですか?いいですけど、何の資料なんです?これ?」
「それは、あと少しすればわかるわ。中身は見ちゃだめよ」
「はぁ」
まぁ、こういうことは珍しくない。音ノ木坂に行く口実としては、良く使う手だ。
それとも、何か本当に重要な資料なのだろうか。
考えても仕方ないので、俺はおとなしく、音ノ木坂に資料を届けに行く。
「いってらっしゃーい」
「あ!穂乃果!」
音ノ木坂にて、廊下をのほほんと歩く穂乃果を見つける。
「あれ?雪ちゃん?最近よく見るね」
「そうだね。それより、これ」
俺は手に持っていた、ツバサさんから預かった資料を穂乃果に手渡す。
「何これ?」
「ツバサさんから穂乃果に渡してくれって頼まれたんだけど、心当たりないの?」
「う~ん?なんだろ?ま、後で見てみるね」
封の中身など、見当もついてなさそうな表情を見せる穂乃果にそこはかとなく不安ではあったのだが、とりあえず仕事は完了した。あとで海未に聞いておこう。海未なら何か知ってるかもしれないし。
「それよりみんな屋上にいるよ?早くいこ?」
「わかったよ」
「大変です」
穂乃果と共に屋上へと立ち入ると、花陽が真剣な表情でスマホを見ていた。
「どうしたの花陽?」
練習を終えたのだろう。タオルで汗をぬぐっていたにこちゃんが訪ねる。
「今度のラブライブ、予選で使用する曲は世に未発表のものに限られるそうです」
「――――えーっと、どういうこと?」
重苦しい空気を醸し出す花陽に、穂乃果はきょとんと首をかしげるので、説明する。
「未発表ってことは、新曲ってことだね」
「え?新しく曲作んなきゃいけないのかにゃ?」
そういうことになる。ミューズの曲は、どれもすでにライブで使用している曲だから新しく作らなきゃいけない。
「なんでそんなことになってんの?」
真姫ちゃんが不満そうに言う。作曲を担当している真姫ちゃんからすれば、相当の負担を強いられるわけだから、不満の一つや二つも出るだろう。
「それは、ラブライブの予選にエントリーするアイドルが予想以上に多くて。中にはプロのアイドルのコピーをしている人たちもいるらしくて」
「それでオリジナルじゃなきゃだめってことですね」
海未が仕方なしと言った様子で呟く。
「でも、ラブライブ予選までもう時間もないやん?」
そうなのだ。ラブライブ予選まで残り半月。今から新曲を作り、新曲を作るとなるとそれに見合った衣装も必要だ。さらに振り付けを覚えるとなると至難の業だ。
「―――――仕方ないわね。真姫!」
絵里先輩が、何事か思案する表情を見せたのち、真姫ちゃんの名前を呼ぶ。
「な、何よ?・・・・・・まさか」
何かに気づいた真姫ちゃんは絵里先輩の顔を見た。この切羽詰まった状況を打開する策でも思いついたのだろうか。
皆が絵里先輩へと期待の視線を注ぐ、当の本人はその視線を受け止めた後。くるりと一回転し、ダイナミックな手つきで空を掲げこう言った。
「合宿よーーーー!!!」「え?何その動き」
ということで合宿だ。この危機的状況を乗り越えるには、合宿で短期間のうちに曲と衣装と振り付けを考えなければいけない。
「真姫ちゃんやっぱり凄いにゃー」
合宿ということはつまり、真姫ちゃんの別荘である豪邸のご紹介である。今回は夏とは違い、周りが山々に囲まれた、緑豊かな自然の大地で合宿を行う。
そんな緑生い茂る景色に、ぽつんとお城のように立っているのが真姫ちゃんの別荘。周りの景観を崩すことない優雅な色調と、にじみ出る荘厳さが、流石別荘と呼ばれる所以である。
一体いくらするのだろう、なんて野暮なことを考える俺はザ、庶民である。
「ねぇ真姫ちゃん。これからもずっと一緒にいようね?」
一緒にいて、そしてあわよくば養ってもらおうそうしよう。
「な!ななななな、何言いだすのよ!///」
「ほーら雪?眼の前に私と同じ名前の物が広がっていますよ?」「いや広がってないよ!めちゃめちゃ山々だよ!海未には何が見えてんの!?」
「雪君。本当に自分の発言には気をつけようね。じゃないとことりのおやつにしちゃうぞ?物理的に」「物理的に!?」
「雪ちゃんは将来、凛に背中を刺されて死ぬにゃ」「決定事項なの!?」
「でも本当に気を付けてね?誤って今すぐ刺しちゃうかもしれないから」「それはどちらかというと絵里先輩が気をつけてほしいかな!?どちらかというとね!?」
「・・・・・・・・」「ちょ、痛い痛い!なんで無言で脛蹴ってくるのにこちゃん!?」
「良い景色やねー。ほら自然のパワーを受取れそうやん?」「・・・・普通かよ!良いんだけどね!?良いんだけどなんか来るかなって構えちゃったじゃん!」
「まあ雪君はいつもの事だから放っておいて、それより一人足りなくない?」「何気に一番傷ついたよ花陽。何よりその本気で言ってそうな顔とトーンが。できれば構ってくれます?いやホント、できればでいいんで」
ほら、俺うさぎ年だから。うさぎは寂しいと死んじゃうんだよ?
「一人?えーっと、ひーふーみー・・・」
俺の頼みなど誰も聞いてはくれず、海未が花陽の言ったことを確認する。
数えてみると、確かに一人足りない。本来ミューズフューチャリング俺、で10人いなければいけないはずが、9人しかいない。
「・・・・・・穂乃果、は?」
俺の指摘に、みんな辺りを見回す。
「「「「「「「「「・・・・あ」」」」」」」」」
穂乃果。リーダーなのにな。不憫だ。
「もう!みんなひどいよ!!」
「ほ、穂乃果がいけないんですよ!?寝過ごしたりなんかするから」
どうやら、電車の中でぐっすりと眠っていたらしい。田舎だから、反対方向の電車も見つからず、降りたところから走ってきたらしかった。不幸中の幸いは、乗り過ごしたのが一駅だったということだろうか。
「と、とにかく。別荘で一休みしましょ?」
絵里先輩が、穂乃果を宥める。穂乃果は納得していない様子で、頬を膨らませながらも、渋々ついて行った。
「だ、暖炉がある!」
別荘に着くや否や、穂乃果は、部屋に鎮座する暖炉に夢中になっていた。もうすっかり機嫌は直ったようだ。
「真姫ちゃん!火つけていい?」
凛がはしゃいで、真姫ちゃんに聞く。
「だめよ。今つけたら煙突が汚れて、サンタさんが来てくれなくなるでしょ」
「「・・・・・・・え?」」
唐突な真姫ちゃんの発言により、空気が一瞬止まる。
「嘘じゃないわよ?ほら、暖炉のところ見てみて」
なぜか勝ち誇ったような笑みで暖炉をさすので、皆で覗く。すると暖炉のところに、メリークリスマスとサンタのイラストと共に白いチョークで書かれている。
「毎年必ず来てくれるんだから。みんなのところには来ないの?」
首をかしげる真姫ちゃん。どうやら本気で言っているらしい。本の気と書いて本気で言っているらしい。
「ぶふっ!!あんたもしかしてまだサンタなんて―――――」
耐えきれなかったのか、にこちゃんが噴き出す。その行為を絵里と花陽が止める。
「駄目だよにこちゃん!それは重罪だよ!ギルティだよ!」「そうやで!!」
そして穂乃果と希がにこちゃんに注意する。
「へー。真姫ちゃんのお父さんも大変――――――ぐふぅ」
言葉の途中で、凛からドロップキックを食らう。
「ちょ!なにするの!?ドロップキックってプロレス技だから!シャレにならないから!」
「言ったらギルティって言ったはずにゃ」
今まで見たこともない凛の冷徹な声と冷酷な表情だった。
マジですか。これもあかんのですか。ドロップキック食らわされるのですか。
「なにしてるの?」
「なーんでもなーいよ?凛はそんな真姫ちゃんも大好きだにゃ」
「?ありがとう?」
凛が振り返り、1000パーセントスマイルを真姫ちゃんに向ける。
「そんなことより、早く曲を作り始めないと。時間ないんだし」
花陽が本筋を思い出させてくれる。
「そうね。せっかく全員いるんだし、作曲班と作詞班、衣装班に分かれましょう。振り付けは曲ができてからみんなで考えるってことで」
絵里先輩の提案に皆頷く。くじ引きの結果、作曲班は絵里先輩とにこちゃん。作詞班は希と凛。衣装班は穂乃果と花陽が加わることになった。
「さぁ凛!早く行きますよ!」
「やだにゃー!登山なんてしたくないにゃー」
作詞班であるところの海未と凛が何やら揉めている。
「雪ちゃん!止めてー!」
「何してるの?」
「今から山頂アタックを仕掛けに行くんです!」
海未がきらきらとした表情で言う。山頂アタックの意味は良くわからないが。
「へー。良くわからないけどいってらっしゃい」
「うわー!雪ちゃんのばかー!」
ずるずると海未に引っ張られていく凛を見送る。他の面々もテントを用意して外で作業をするようだ。
「暇だなー」
こうして一人、取り残された俺は別荘のリビングでくつろぐ。俺も何か手伝おうとしたのだが、あいにく手伝う余地がなかった。
ぼーっと天井で回り続けている扇風機みたいなあれ。シーリングファンといったっけ、を見つめていると段々と意識が遠のく。睡魔の奴が襲ってきた。
一応抗ってみるもしかし、人間は一生睡魔には勝てない。人間であるところの俺としても勿論例外じゃなかった。
―――――――――――――。
広い広い別荘は静寂に支配される。物音ひとつせず、人の気配が感じられない別荘は、元の何倍も広く感じた。
薄れゆく意識の中。ふと、そんなことを感じてしまう。こんなに広い家に一人なんて状況、俺の人生に与えられなかったためかひどく居心地が悪くなった。もそもそと何度も寝がえりを打つ。落ち着かない。
いつの間にか睡魔の奴はどこかへ行き、代わりに寂しさが唐突に襲ってくる。
「あ、あー。あれだなー。様子ぐらい見に行ってもいいよねー」
何の意味もないがとりあえず大声を出す。広い家に空虚に残る自らの声が、むしろより一層、孤独感を露わにした。
寂しさに耐えきれず、外に散歩に行くことにした。
散歩に行くと川を発見する。川沿いに歩いて行くと花を摘んでる花陽に出会った。
「何してるの花陽?」
「あ!雪君。今ね、お花を摘んでるの。一つ一つ違うから衣装の参考になればと思って」
花をかざして言う花陽の表情はいつにも増して穏やかだ。
「そっか。あ!じゃあこれなんかどう?」
「わー!うん!すごくいいと思う」
その後もそんなやりとりを花陽としているうちに、辺りは夕日に照らされてきた。
「じゃあ、私そろそろことりちゃん達のところに戻るね?」
「うん」
花陽とお別れし、また歩く。
段々と辺りが薄暗くなっていく中。ぼんやりと明るい場所があることを発見した。その場所に向かって歩くと、テントが見えてくる。明りの正体はガスランプだった。みると木々が積まれている。どうやら焚き木をしようとしていたらしい。
「全然火つかないわねー」
焚き木をしようとしているのはにこちゃん。それを真姫ちゃんが髪の毛をいじりながら見ている。
「早くしてくれない?もう薄暗くなってきたんだけど」
「ちょっと待ちなさいよ!」
どうやら、火をつけるのに苦戦しているようだ。
「手伝おうか?」
「雪じゃない!」
ランプを大事そうに抱える絵里先輩が俺に気づき声を上げる。
「あんた火つけれんの?」
訝しんだ目線を向けるにこちゃんが手に持っているのは、縄文時代にその名を馳せた火起こしだった。シュコシュコと頑張って火を起こそうとしている。
「失敬な。火くらいつけれるよ」
どいて、とにこちゃんが座っていた場所に座りこむ。
そして火種に、持っていたライターをつけ、そこから新聞紙、細い木々、太い木々と、順番に火を移し替え、やがて小さな火は業々と燃え盛る炎となった。
「ほらね?」「いやほらねじゃないわよ!」
なにがいけなかったのだろう?ちゃんと火をつけたのに、にこちゃんが憤慨している。
「ライターあるんならそりゃ火つくわよ!現代っ子!」
「まあまあ、なにはともあれ明りがついたんだからいいじゃない。本当に」
絵里先輩は先ほどからなぜか表情が暗い。相変わらずランプを大事そうに抱えている。
「ん?」
絵里先輩が抱え込んでいるガスランプが点滅し出した。かと思うと、辺りを照らしていた黄色い光が消える。
「あ、あれ?う、嘘?嘘よね?」
絵里先輩が振ったり逆様にしたり、つけたり消したりしているが、明りが復活する気配はない。
その事を悟ったのか絵里先輩の表情から見る見るうちに血の気が引いて行き、顔面蒼白となる。
確かに、ランプが消えたのは重要だが、そんな人類滅亡したかのような表情を見せるほどだろうか。幸い、火はついたのだし、焚き木のおかげで辺りが真っ暗ということはない。
「・・・・はっはーん。絵里。あんたもしかして暗いのが怖いの?」
にこちゃんが意地悪そうな笑みを浮かべる。
なるほど、それなら合点がいく。
「べ、別に!?どうだっていいじゃないそんなことイミワカンナイ」「真姫ちゃんみたいになってるよ絵里先輩」「どういう意味よそれ!」
口をとがらせる絵里先輩。振り返るとなぜか真姫ちゃんまで怒っていた。
「ね、ねぇ雪?別に暗がりが怖いというわけじゃないんだけど、良かったら一緒に寝ない?ほら、独りじゃ寂しいじゃない?」
不自然な笑みを浮かべながらお誘いを受ける。が、しかし。
「え?嫌だよ野宿なんて」
素直な感情を述べたのだが、皆なぜかショックを受けたような顔をする。
「それじゃ、俺戻るね?」
なんだかよくわからないのだが、皆の反応がなくなってしまったため、別荘に戻った。
別荘では、昼と違い人の気配がする。どうやら穂乃果達がお風呂に入っているようだった。
お風呂から聞こえてくる声に耳を傾け、またリビングでくつろぐ。今度は孤独感も寂しさも感じなかった。
代わりに、昼寝ができなかったせいか。昼の睡魔が、勢いを増してやってくる。
眼を閉じると、すぐに意識を手放してしまいそうになる。
俺が睡魔と争っていると、不意に、ピアノの音が聞こえてくる。そしてミシンの稼働音。澄んだ歌声。
その音を聞いていると、睡魔と争っていたことも忘れ、不思議と安心して自然と眠りに落ちた。
翌朝、眼が覚めるとすでに皆がいて、朝食を食べているところだった。
皆の晴れやかな表情と、昨日の晩の、聞こえてきた音を思い出して分かった。
こうして、ミューズの新しい曲が完成した。
どうも、技名を叫んでから殴る高宮です。
書くことないので野球の話。
巨人の堂上選手が応援したくなります。昨日は二安打にダイビングキャッチ。別に巨人ファンというわけじゃないのですがこのまま活躍していってほしいものです。
セリーグはあとはDNeAですねー。まさか首位を走るとは思いませんでした。貯金10はなんでも17年ぶり?だとか。こちらもこのまま頑張って行ってほしいものです。
それでは次回も頑張ります。