ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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強いものには理由がある。

「ほら!雪見て!パソコン!!」

 放課後。生徒会室。仕事。

 この三種の神器がそろっている中で、ツバサさんはパソコンを手に持ち、資料に向けられた俺の眼の前で押し広げる。

「なんですか?」

 正直、仕事でやつれていた顔をそれでも何とか、パソコンの方へと向ける。

「ラブライブの予選結果!出てるの!!」

「え!?」

 そうなの!?今日だったの!?なんで俺は知らないの!?・・・・誰も教えてくれなかったからだ!!

「それで!ミューズは!?」

 誰も教えてくれなかったことはさておき、切羽詰まってツバサさんに尋ねる。   

「――――――――――――――――――。」

 その瞬間、先ほどまでの興奮したような、頬を紅潮させたツバサさんの顔は一瞬で、面喰ったような、想像してなかったところから攻撃されたような、何とも言えない表情になって。 

「ぎゃぶ!!」

 ゆっくりと、眼の前に広げられたパソコンが閉じられ、思いっきり俺の顔面にダイブした。ダイブさせたのはツバサさんだった。

「か、海田君!」

 傍で見ていた書記さんが駆け寄ってくれるものの、それに応答することすらできない。

 かろうじて、気配でツバサさんが生徒会室を飛び出していったのは分かった。

「あーあ・・・・」

 横に座っていたあんじゅが呆れる。開いた窓からは、もうすぐ冬を思わせる冷たい風が吹きこむ。

「いってて。パソコンを投げるなんて、正気の沙汰じゃないよ」

 ようやく、文字通りパソコンショックから立ち直る。パソコンは本当に凶器になるからな。重いし。

「まぁ、ツバサの気持ちもわからなくはないけど・・・・・」

 座ったまま、あんじゅに上から見下ろされる。その瞳には諦めというか悲しみみたいなものが入り混じっていた。

「えー?人の顔面にパソコンという名の凶器を投げつける人の事が?」

 俺にはさっぱりわからん。普通投げるかね。パソコン。

 投げつけられたパソコンを拾い、傷がついてないか確かめる。勢いよく投げつけられたのだから故障している可能性も考慮して、起動させる。

 一応起動するパソコンにほっと一安心。するとフリーズする前。つまりラブライブの予選結果が告知されている画面が映し出された。

 ランキング形式で記された結果を、いささか緊張感は欠けてしまったものの、それでも胸のドキドキをごまかせない。ゆっくりと画面をスクロールさせる。

 予選通過は4組。つまり4位までは予選通過組というわけだ。

「――――――あ、あった・・・」

 その予選通過ぎりぎり。つまりランキング第4位に、ミューズの名前が。音ノ木坂学院、スクールアイドル。ミューズの名前があった。

「そう、良かったね」

「うん!!」

 あんじゅが祝福してくれる。でもその声色にはたと疑問を抱く。俺と違って、喜びの色が薄いように感じられたからだ。どこか他人事のように感じたからだ。

 そりゃ、ミューズにかかわってきた時間は俺の方が多い。温度差があるのは当たり前だ。だけど、アライズだって、他のアイドルよりもミューズを特別視していたはずだ。自身の学校と、アライズの名前を貸したくらいなのだから。

「私たちも、予選通過したんだよ」

「は?」

 あんじゅが微笑む。ひどく悲しそうに。俺は意味が分からず聞き返した。だってそうだろ?アライズが予選通過するなんてあたりまえじゃないか。そこに関しては何の心配も疑問も持ち合わせてはいない。現にサイトのランキング。アライズは堂々の第一位だった。

 そんな俺の気持ちを察したのか、あんじゅが俯きながら、口を開く。

「そりゃね?私たちも勿論予選突破するって信じてるよ?でもね、世の中に絶対なんてないの。前回優勝という肩書も。アライズとしての知名度も、人気も、ファンのみんなも。そのどれもが、予選を通過するにおいて、プラスにもなるしマイナスにもなる」

「マイナス?」

「プレッシャーなんだよ。前回優勝者が、こんなところで失敗しちゃいけない。期待してるファンのみんなの前で手は抜けない。むしろ、前回よりも最高のパフォーマンスを―――――。期待を超えなきゃ、って。勿論、そのおかげで頑張れるのもあるけど、でも圧倒的にプレッシャーの方が強い」

 万が一にも、億が一にも、予選突破できませんでしたじゃ済まされない。

 あんじゅは静かにそう語った。その顔は微笑んだまま、腕だけがわずかにだが震えている。

 少し考えれば分かることだった。アライズほどのアイドルが、プロ顔負けと呼ばれる彼女たちが、なにも背負ってないわけがなかった。そこには想像を絶するような、精神面での重みがあるのは当然だった。プレッシャー。失敗など許されない。許される状況下に、彼女たちは置かれてなどいない。それをはねのけてきたからこそ、彼女たちはアイドルとして、こんなにも愛されている。だけど、あんじゅがいったように、世の中に絶対などない。

 光には影があるということは、誰でもない俺が、一番良く知っていた事なのに。

「―――――!ツバサさん!!!」

 そこでようやく気付く。ツバサさんが怒った理由に。ツバサさんが飛び出して行った気持ちに。

 ツバサさんが飛び出して行った扉を見やる、すると、あんじゅが口添えする。

「教室のロッカーの中。ツバサは落ち込むと、いつもそこにいるから」

 振り向くと、背中を押される。あんじゅは椅子に座ったままで、直接じゃないけれど。それでも、背中を押される。

「―――――――――――ありがとう」

「―――――――!!!」

 そう言って俺はあんじゅを抱きしめる。肩になびく髪も、華奢な体も、ふわりと香るシャンプーのにおいも。

 光には影があるという自分の言葉が頭をよぎって、光っていたあんじゅを、俺は力いっぱい抱きしめた。

「ありがとう」

 もう一度同じ言葉を発する。抱きしめているので表情は分からない。だけど何度言っても足りないだろう。気付かせてくれた彼女には。

 そっと体を離して、俺はツバサさんの教室へと走った。

「あ、フリーズしてる」

 書記さんが、あんじゅの顔を覗き込む姿も見ずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありえないありえないありえない絶対嫌われたいきなりパソコン投げつけるなんて論外も論外だし理不尽な暴力的女だと思われただろうし大体なんで怒られたかもわかってないんだろうしていうか別に怒るとこじゃなかったしその次でよかったのに一言褒めてと言えばよかったんだろうしあんな女自分でも意味わかんないしもし他の女があんなことしてたら私だったらその女殺してるだろうしそんなんで嫌われないほうがおかしいしてか大丈夫だったかないや大丈夫なわけないじゃんパソコンだよ凶器だよあんな重いものを投げつけるなんて非常識だしでもやっちゃたしホント私なんて地獄に落ちればいいのにありえないありえないありえないそうだ死んで詫びよう・・・・・」

「そんなことで詫びられても迷惑なだけだよ」

 ロッカーの中から聞こえる小さな声がびくりとした気配と共に止む。

 ロッカーの小さな隙間から覗く二つの眼球がこちらを捉えるのが分かった。

 なので無理やりロッカーの扉を開けようとする。

「な!なんでここが分かったの!?」

 ロッカーは開かない。あちら側でツバサさんが押さえつけているからだ。余計両腕に力がこもる。

「あんじゅに、教えてもらったん、だ!」

 語尾と共にロッカーを力強く開ける。その反動で扉を抑えていたツバサさんが俺に倒れこんだ。一瞬垣間見えたその顔は涙で濡れていた。そんな顔をさせたのは、俺だ。

 俺は誓った。大事な人を泣かせない事、じゃない。大事な人を笑顔にすること、だ。

「・・・・・ミューズはそんなに大事?」

「はい」

「私だって頑張ったよ?予選通過するの私たちだって必死だよ?全然、当たり前じゃないよ?」

「はい」

「・・・・・私たちの事もちゃんと見てよ」

「はい」

 まわされた腕に力がこもる。ギリギリと爪が立てられるけど、痛くない。こんなの全然痛くない。

 アライズは凄い。だけど、だからこそ。称賛されることは少ない。やっぱりと、当たり前だと、納得される。俺のように。それこそラブライブ優勝したとしても、頑張ったと、その労を正当に評価してくれる人は少ない。

 しかし、プレッシャーはやればやるほど、頑張れば頑張るほど。日に日に大きく、重くなっていく。

 ましてや彼女たちはスクールアイドル(・・・・・・・・)だ。学校の看板も同時に背負っている。プロ顔負けといえど、プロではない。頑張っている場面を公にすることもない。それだけに、そうした風当たりも一層強く、辛いのだろう。

 お金として形になるわけでもない、得られるのは名声のみだから。

 その中で、唯一。俺だけが知っていた。俺だけが理解していた。彼女たちの頑張りを。想いの強さを。全部とは言わない。だけど、確実に、当人である彼女たちを除けば、俺が一番よく知っていた。

「すいませんツバサさん。あんなに練習頑張って、予選通過するのだって、楽じゃないはずなのに」

 なのに俺は、それを忘れていた。一番最初にかけるべき言葉をかけるのすら、忘れていた。俺の中でこの気持ちは確かにあるものなのに。

「そうよ!楽じゃないの!みんなの期待にこたえなきゃいけないの!本番で一回でも失敗すれば今までの物なんか全部なくなっちゃうんだから!!」

 顔を上げるツバサ先輩は、まだ泣いている。だから、その涙を指でぬぐって。

「ええ。だから、おめでとうございます。凄いです。一位。あんなに頑張ってましたもんね。俺は知ってますよ。全部、ちゃんと知ってます」

 頑張ったねと、頭をなでる。彼女たちの実力を見れば、確かに、予選突破は余裕だ。一位だって驚くことじゃない。

 でも、だからと言って、頑張ってないわけじゃない。苦労してないわけじゃない。強者には強者の苦悩がある。強者であり続けるための苦悩が。

 だったら称賛されてもいいはずだ。労われてもいいはずだ。頑張ったと、凄いと、頭を撫でられてもいいはずだ。褒美の一つくらいあっていいはずだ。

「――――――――――うん」

 静かに、本当に静かにツバサさんは頷いた。背中にまわした腕に力が入る。けれど今度はそこに痛みは感じなくて。あるのはただの、温もりだけだった。

「ご褒美」

「え?」

 ツバサさんはともすれば消え入りそうなか細い声で呟いた。

「ご褒美ほしい」

 言葉を繰り返す。聞き取れなかったわけじゃないのだが、先ほどよりも大きな声で。

「・・・・そうですね。俺に出来る範囲の事であればなんでも」

「言ったわね?」

「え?」

「何でもと、今あなたはそう言ったわね?」

「え、ええ」

 にたりと、不気味な笑みを浮かべる。とてもトップアイドルの顔とは思えない。それ以上、ツバサさんは何かを要求するでも、提案するでもなく、ただ俺の胸にうずくまっただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツバサさん。そろそろ・・・」

「駄目。もうちょっとだけ」

 あれから何分たったのだろう。ツバサさんにぎゅっと抱きしめられてから、動くことすらままならない。いつの間にやら膝にのしかかられ、足を腰にまわされてがっちりとホールドされていた。

 少し困った。仕事を放ったまま、生徒会室を飛び出してきてしまったから。

 まあでもきっとあんじゅやら書記さんやらがこなしてくれていることだろうこなしてくれているといいなこなしてくれているはずだ。

「今、きっとひどい顔してるから・・・」

 俺の胸の内でぐぐもった声を出すツバサさんに、俺は何となく眼を逸らす。

「大丈夫ですよ。ツバサさんはいつだってかわいいんですから」

 誠に不本意ながら、女の子の泣き顔は見慣れている。誠に不本意ながら。

 その誠に不本意な経験上、特段顔が変になるなんてことはない。別に女の子の泣き顔を喜んで見る趣味嗜好はないけれど。

「他の女にもそんなこと言ってるの?」

「へ?」

 あっれー?おっかしーぞ?慰めたつもりなのに、なぜかどす黒い空気が辺りを蔓延している。

 先ほどまで泣いていたはずのツバサさんは、赤くはれた眼でこちらをガン見してくる。段々と、視認できるほどにその眼に涙が溜まっていく。

 そしてダムが決壊したように、また泣き出してしまった。

 再び訪れる沈黙。先ほどまでの心地よさは微塵もなく。そこにあるのは泣きじゃくる声が胃ををきりきりと締めつける謎の気まずさだけ。

 再度、まわされた腕に力が入る。ギリギリと食いこんでくる爪は、なぜか最初よりも痛く感じた。

 俺か!?俺が悪いのか?!俺が泣かせちゃったのか!?

 誰か助けて。心の中でそう叫ぶと不意に、扉が開く音がする。

 あんまりにも遅いので誰かが様子を見に来てくれたのか。そう思い、扉を見やる。

「あのー。もうそろそろ仕事してくれないと間に合わないんですけ――――――――」

 扉を開いて出てきてくれたのは書記さんだった。書記さんは前回にこちゃんにキャラ被りといわれて敵視されたのがショックだったのか、普段はツインテールの黒髪をおろしている。 

 ありがとう書記さん。かわいいよ書記さん。早くこの状況を打開してくれ書記さん。

 しかし、書記さんは固まったままだ。何かイケナイものを見てしまったような、そう。例えるならやぐっちゃんの不倫現場を見てしまった中村●也のように。

 冷静になってよくよくこの現場を見てみる。泣いているツバサさんが膝の上に乗り、しかも腕も足も腰やら背中やらにまわされている。

 そういうこと(、、、、、)に及んでいると、見えなくなくもなくもない。

「あ、あの。ごゆっくりー・・・・」

 ピシャッ。

 謎の捨て台詞?を残し、ゆっくりと扉を閉める書記さん。

「書記さんんんんん!!違う違う違う!!そうゆんじゃない!!そうゆんじゃない!!大丈夫だからR18禁になるようなことはしておりませんから!!確かにツバサさんを泣かせてしまったのは紛れもない俺ですが!!でも違うんです!!信じてくださいいいいいい!!」

 ツバサさんを一瞬のうちに下ろし、ドンドンドンと扉を勢いよくたたく。開けようとしても書記さんが扉をふさいでるせいか開かない。

「良いじゃない誤解されても。いやむしろ誤解を誤解じゃなくすればいいのよ。嘘を真にしましょう」

「何言ってんの!?バカみたいなこと言ってないでツバサさんも誤解といてください!!!」

 つまんないわね、と口をとがらせるツバサさん。その顔は未だに腫れているけれど、先ほどまでの悲壮感は感じられない。

   

 

 

 

 

 ツバサさんが書記さんの誤解を解く。俺の時は聞く耳持たなかったのに、ツバサさんが言うと素直に、一抹の疑いもなく信じるのだから流石というべきか、俺の扱いに不服を申し立てるべきか。複雑だ。

「い、いやー。ごめんね。そりゃそうだよね、いくらなんでもそれはないよね。学校だし」

「そうだよ。ていうか学校以外でもあり得ないよ」

 全く、少し考えれば分かることだろう。そんなことがあり得ないことだってことくらいは。

「あり得ないの?」

 自分たちの数歩前を歩くツバサさんが、振り向ききょとんと訪ねる。

「あり得ないでしょうが」

 そう。あり得ない。一介のただの生徒である俺と、アライズの綺羅ツバサがどうこうなることなど、あり得ない。

「そっか♪」

 なぜか嬉しそうにツバサさんはまた前を向く。

「それじゃあお仕事がんばってね♪」

 生徒会室の目の前につき、ツバサさんとはここでお別れだ。

 すると、まるでいつもそうしていたかのように、そうすることが普通だとでも言うように。まるで自然にツバサさんは俺の頬にキスをした。

「キスはこれで二度目ね。あら?でもこれじゃあ雪にご褒美あげた感じになっちゃうわね」

「はいはい。それじゃあ俺は仕事があるんで」

 もはやツバサさんに関することで、驚くことは少ない。この人はこういうことを、特に意味もなく。人をからかうという目的でできる人なのだきっとそうだそうにちがいないあれ俺結構動揺してる。  

 しかし、なんて絶望的な響きだろう。仕事があると、宣言してしまうこの状況に絶望する。バイトと違い、生徒会の業務は明確な褒美がない。それこそ、称賛されてもいいはずだ。この地道な作業を。

 だからまあ。俺くらいは知っていよう。皆の頑張りを。俺くらいは理解しよう。皆の苦労のその一端を。

 俺一人くらいは―――――――――。




どうも絶望した!!高宮です。
にこちゃん回にしようとしたのに、いつの間にかツバサさん回になってた。
ごめんねにこちゃん大好きだよ。
さて、もうそろそろ希ちゃんの誕生日!!ということで、本当はやりたい話があったのですが、本編が予想以上に、話進まなかったのでやりません。本編でいつかやります。多分。忘れてなければ。
ということで希ちゃんの話はいつも通り、あるかもしれなかった世界のお話にします。
それでは。
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