ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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番外編 お店でサプライズで誕生日を祝われるときの恥ずかしさは異常

 矢澤にこという人物を知ったのは、俺が初めて行ったベビーシッターのバイトでだった。

 そのベビーシッターは契約が簡単で早く、何よりも安いということが売り文句の仕事で契約は最短は一時間から最長は制限なしの条件で、お客からすればまさに破格の条件だった。そんなベビーシッターの会社がなぜ売れなかったかというと俺のような存在を簡単にバイトとして雇ってしまう情報網のザルさからだっただろう。

 とにかく、そのバイトの初めての仕事は家から幼稚園まで子供を送るというものだった。

 それまでしていたバイトは基本的に人に合わないか、あっても支障のない人にしか合わない仕事だった。だが、そのベビーシッターのバイトは最低限一回は親に会う。じゃないと不審者として通報されかねない。ただでさえ不審なのに。

 なのでどうしようかと思考に思考を重ねた結果。変装をしていくことにした。

 眼鏡にマスク。厚底を嵩増しした靴にダボダボの父親の服。

 冷静に考えればむしろ不審者度が上がっているな気もするのだが、とにかく当時の俺はこれで行ける!と思った。

 指定された場所にあったのはどこにでもありそうなアパートだった。灰色の壁が四方を囲んでいるなかで、ほこりをかぶったインターホンを震える手で押す。

 ピンポーン、と間抜けな音が漏れ響く。

「はーい」

 ドアを開けて出てきたのは二十代くらいのスーツを着た若々しい綺麗な女の人だった。

「あ、え、っと頼まれたベビーシッターとしてきました」

 予想外に若く、また綺麗な人が出てきた驚きと、それまでの緊張とバレないかどうか不安でしどろもどろになりながら何とか自己紹介をする。

「ああ!さ、入って入って悪いけど私もう行かなきゃだから後お願いね」

 やや強引に引っ張られ、俺は玄関へと引き込まれる。入れ替わりとなるようにその女性は慌ただしく出かけて行った。

 まあベビーシッターを頼むくらいだ。忙しいのだろう。

 さて、とひとまず身元がばれるようなことはなく、これは無事にこの仕事ができそうだと将来についての不安が消え去って行ったころ。玄関で佇んでいた俺の背中に衝撃が走った。

「お兄ちゃんだれー?」

 振り向くと背中の方にタックルしてきた活発そうな女の子が、こちらを不思議なものを見る顔で見つめている。

 なるほど、この子を幼稚園まで送り届ければいいわけだ。だが、確か後子供が三人ほどいると聞いていた気が。

「ここあ、ベビーシッターさんが来るってさっきお母さんが言ってたでしょう?ほら、失礼だから早くそこをどきなさい」

 俺の背中にしがみついているのは、どうやらここあというらしい。ぴょんぴょん?

 それを青い顔になって必死に引きはがそうとしている女の子はきっとお姉さんなのだろう。それでもここあちゃんは俺の背中により一層力を込めている。

 そんな押し問答によりただでさえ慣れない厚底を履いてきているのに、バランスがぐらぐらと揺れる。

 案の定、バランスを崩し、お尻から床に倒れ込んだ。

「うわーお兄ちゃん大丈夫?」

「あわわ、だから言ったじゃない!ごめんないさい!」

 転ばしてしまったと、お姉さんの方が謝ってくる。それに大丈夫と答えているとあることに気づいた。厚底の靴がすっぽ抜けてしまっていたのだ。

「・・・・・・・・!!」

 その事に気づいた俺はとにかく体勢を立て直し、なんとか靴を履こうと四苦八苦していたのだが、ここあちゃんとお姉さんの二人に腕を掴まれ起き上がらせられてしまう。

 明らかに小さい。ここあちゃんはともかく、お姉さんの方はその背に明らかに驚き、段々とその表情が不審なものに変わっていく。

「さっきから何の音!?さっさとしないと学校遅れるわよ!」

 まだ何の仕事もしていないのに大ピンチだった。奥から、恐らく朝ご飯を用意していたであろう中学の制服を着た黒髪の少女が顔だけをひょっこりと出している。

 その表情は不審一色だ。不思議と目の前にいる妹と似ていると場違いな感想を抱いてしまった。それくらい動転していたということだろう。

 ちなみにもう一人いた子供は男の子だった。何事もないかのように朝ご飯をもぐもぐと食べている。

 ここあちゃんはきょとんとし、二人の名前もわからないお姉さんから不審な瞳を向けられ、俺は早々にこのバイトを辞めようと誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家族会議があった。

 今日の朝。ベビーシッターだと名乗る男が現れたのがそもそもの元凶だった。

 ベビーシッターを雇うのはまだいい。いやそれも本当は反対だったのだ。自分が弟と妹の面倒を見れば、そんなどこの誰とも知らない部外者に家族を任せるなど、そんなことをせずに済むのだからと。

 だが、自分はまだ中学一年生だ。昔から家でママの帰りを待つことが多かったため、一通りの家事は自然と身につきはしたが、まだ子供だ。中学に上がるとお母さんの仕事が忙しさを増し流石に娘一人に押しつけるわけにはいかないとベビーシッターを雇うことを決めた。

 流石にそんなことを言われれば渋々承諾するしかない。

 だが、そのベビーシッターが問題だった。

 早急に来てもらわなければならないということで、とりあえず急場しのぎで頼んだベビーシッター。書類上は大学生ということだったが、会ってみると明らかに幼い。それも変装をしていたのだ。

 マスクにメガネに厚底の靴。それらバレバレの変装道具を取っ払ってみると、完全に私より年下、小学生くらいにしか見えない。流石にこころと同い年なんてことはないだろうけどそれでも明らかにおかしい。というか詐欺、詐称だ。訴えれば勝てると思う。

「とりあえずこいつはどうするの?」

 逃げないように縛って、ママが帰って来るまで待っていた。処遇をどうするかは流石に一人では判断できなかったからだ。 

 一応水と食料を与えたものの気づけばもう深夜。良い子なら眠っている時間帯だ。

「そうね~。流石に小学生とは思わなかったわね~」

「・・・・・・・」

 先ほどから少年は一切口を開かない。最初の方こそ違うだのなんだの言っていたようだが、流石におとなしくなった。

 とにかく会社に連絡して会社もグルだった場合はそこからどうすればいいだろう?

 そんなことを考えていたのだが、ママのとんでもない発言で思考が停止する。

「平日は面倒見てもらえないわね。頼むとすれば休日かしら」

 は?とポカンとなっていたのは私だけじゃなかった。隣を見ると縛られている少年もまた同じような表情をしていた。彼からすればこれからどんな処分を受けるかと想像していたところにこの発言である。そりゃポカンともなるだろう。

「ちょっと!まさかこのままにしておくつもり!?」

「ええ。ダメかしら?」

「当たり前でしょ!」

 わが母ながら何を考えているのか。極端な話、目の前にいるのは犯罪者だ。そんな野郎に妹達の面倒を見てもらうなんて話にならない。そんな人間信用できるわけがない。

「あの、平日でも大丈夫です」

「え!?そうなの?」

「あんたは黙ってなさいよ」

 いきなり口を開いた犯罪者に回し蹴りを食らわせて物理的に黙らせる。 

「ママ正気!?こんなのじゃなくても他にもいっぱいいるでしょ!?」

 いくら時間がないからってこんなのに任せるくらいなら自分がやった方が千倍マシだし、なによりもっとちゃんとしたベビーシッターなど五万といるだろう。

「えー?でも今子供を狙った犯罪とか増えてるし、その点この子ならそんな心配いらないし、なによりここあ達と打ち解けそうじゃない?」

「・・・・それは」

 確かに信頼できるベビーシッターを探すとなるとそれなりに時間はかかるかもしれない。その点彼なら小学生だ。軽犯罪ならともかく誘拐や性犯罪などを起こす危険性は少ない。それに見た感じここあたちとも打ち解けられそうな雰囲気は感じた。

 だとしても、小学生を雇うなんて非現実的すぎる。

「ね?良いでしょ?決定ー!なにより安く済むし♪」

 それが本音か。と呆れるうちになにやら強引に決定してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初は耳を疑った。

 実は小学生でしたとばれたことで完全に終わったと、いかに最小限の被害で済むかどうすればこの局面を乗り切れるかばかり考えていると、なにやら母親とにこちゃんと呼ばれた一番上の中学生が言い争っていた。

 言い争うというよりかは、家主である母親が決定したことに対して文句を言っているようだった。

 それもそうだろう。きっと俺が逆の立場だったらにこちゃんとおんなじように反対していた。

 なにせ、俺をそのまま雇うという話になっているのだから。 

 自分にとっては万々歳な話のはずなのに、目の前にいる女性の頭を疑った。

 普通に考えればありえない。普通は良くて説教を受ける。悪けりゃ警察だ。それを普通に雇うなんて。

 だが、その事実がありがたいことなのは明らかだった。俺はそれを受け入る以外の選択肢は端から存在していない。

 それからというもの、まずは警戒心を解くことから始めた。一応は、母親から了承が出たという形にはなっているものの、些細なことで解雇なんてことになりかねない。

 周囲に常に気を配り、送り迎えは勿論、ここあちゃんや虎太郎の遊び相手。幸い小学生は中学生より学校が終わるのが速いためそのままにこちゃん家に直行。ついでに買い物も済ませ、洗濯物を取り込み、主夫顔負けの働きを見せていた。

 そんな精力的な活動が認められたのかは分からないが、着実にここあちゃんやこころちゃんからは懐かれるようになった。にこちゃんにしても最初はきつく言葉を浴びせられたものの、俺の頑張りに反比例するようにそれもなくなってきた。

 もう三ヶ月は経った頃。そんなある日のことだった。

 いつもどおりここあちゃんを迎えに行き、家に帰った時だった。

 いつもは大抵虎太郎と遊んでいるか、家事をしているかだったにこちゃんが珍しくテレビを見ていた。内容は深夜にやっているアイドルのバラエティだった。

「にこちゃん?」

 ビクッ!!

 名前を呼ぶとにこちゃんは大きく肩を震わせた。そんな反応、今まで見たことがなかった。 

 にこちゃんは大抵学校が終わって直帰する。部活に入っていなければ、友達と遊ぶこともない。すべてが家庭中心の生活だった。

 俺はそんなにこちゃんに自分を重ねていた。かわいそうな自分をかわいそうなにこちゃんに重ねて、そして図々しくもにこちゃんに幸せになってほしいと考えるようになった。にこちゃんが不幸だと勝手に決め付けていた。にこちゃんが救われれば自分も救われるのではないかと思った。

「・・・・・なによ」

 いつもより一段と低い声で即座にテレビを消していた。見られたくないのか。

「アイドル、好きなの?」

「・・・・・だったら何?文句あんの?」

 俺はその時、喜びを感じていたんだと思う。滅私奉公で自分を犠牲にしていたにこちゃんに好きなものがあるのかと。別ににこちゃんに犠牲にしているという気はさらさらなかっただろう。本当に自分がしたい事が家族だったというだけだ。

 でも当時はそんなこと気付かずに、ただ嬉しかった。

「ううん。あるわけないじゃないか」

「・・・・・そう」

 そう言ってそっぽを向いたにこちゃんはちょびっとだけ嬉しそうだった。

 それからはにこちゃんとの話の半分はアイドルの事だった。正直、俺はアイドルについては何一つ分からなかったけど、にこちゃんの話は面白かったし、なによりにこちゃんの笑顔を見るのは単純に嬉しかった。

 一度だけ、聞いてみたことがある。

「にこちゃんは、アイドルになりたいの?」

「-―――――――どうでしょうね。憧れはあるけど、憧れが強すぎて失敗する気がするわ。アイドルって今は基本グループだし、本気でアイドル目指すなら今からオーディションとか受けた方がいいんでしょうし」

「そっか」

 その顔には憧れと、なにか別種のものも感じた。それがなんだったのかは今でもよくわからない。

 思えばそのときくらいからだった、殺風景だったにこちゃんの部屋にアイドルのグッズが増えだしていったのは。

「そういえばもうすぐお姉さまの誕生日なんですよ」

「え?そうなの?」

 いつも通りここあちゃんを心ちゃんと共に迎えにいった帰りだった。

「にーたん何かプレゼントあげるの?」

「そうだなー、リアルにお世話になってるし考えなきゃな」

 何か欲しいと言っていたものはあっただろうか。

「・・・・はっ!洗剤か!?」

「それはいくらなんでもナンセンスです」

 そっか、そうだよね。とりあえず買って帰ろう。

 その日、一日中考えてようやく決まったプレゼントを買いに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誕生日おめでとう!」

 家に帰るとすでに準備していたのかこころとここあ、虎太郎までがクラッカーを鳴らしてきた。

 頭に飛び出てくる紙テープを乗っけながら、呆気にとられているとリビングまで連れられてケーキが出てくる。

「誕生日おめでとう」

 にっこりとした笑顔でケーキを持ってきたのは彼だった。そうか、私今日誕生日だったんだとそこで気づいた。

 妹たちに囲まれる誕生日は嬉しくって、でも今年はそこに一人加わっていることに不思議と違和感がなかった。

 最初こそ警戒していたのにいつの間にか懐に入っている。いつの間にか輪に入っていて。いつの間にか色々助けてもらっていた。

 不思議なものだなと、ハッピーバースデーソングが流れる中想いを馳せていると、妹達がプレゼントを持ってくる。

 こころからは化粧水だった。これは何か最近肌が荒れてるよとかそういう遠まわし的なやつか。女子にありがちなやつか。

 などと勘繰ってしまったものの素直に嬉しくて、お礼を言う。そんなんないよね。まだ小3だもんね。

 ここあからは肩たたき券だった。ここあの肩たたきは気持ちが良いので嬉しいと言ったら、輝く笑顔が帰ってきた。ああ、うちの妹は世界一かわいい。

 虎太郎は何でも言うこと聞く券だった。いますぐに使って、おもちゃを片づけろと命令した。

 そこで終わるはずだった。想像すらしていなかった。三人にお礼を言って、ケーキを食べようと話していたところだった。

 まさか、彼が用意しているとは思わなかった。

 照れたように、もじもじとしながら実は・・・・と差し出してきた。

 驚きながら手にとって、開けていいか確認する。いいよと言われ、開けるとかわいい髪ゴムだった。

「ほら、最近にこちゃんが一押しのアイドル、確かそういうのしてたよね?それでさ、そのアイドルと同じ髪型にすればきっと似合うと思うんだ」

 アイドルと、同じ。確かに、その話をした時似ていると言われた。嬉しいような恥ずかしいような複雑な気持ちだった。

 前に、アイドルになりたいのかと聞かれた事がある。それまで意識したことはなかった。アイドルはかわいくて、きらきらしていて憧れではあったけど。自分がなるという発想にはならなかった。あくまで趣味だった。

 明確に想像し出したのはその頃からだったと思う。

 アイドルになる自分。みんなの前で歌って踊る自分。どうすればなれるだろう。アイドルになりたい。

 いつしか憧れは目標に変わり、目指すべきものとなっていた。そして一から学んだ。ファンとしてではなく、叶えるべき目標として。

「・・・・あ、あれ?気にいらなかった?」

 きっといつまでも反応のない私に、不安そうに顔を落とす彼に私は言った。

「そうね。カンナちゃんがしているのはここにリボンがついた髪ゴムだけどね」

「ええ!?そうだっけ!?」

「-―――-―――別にいいわよ。同じものであろうがなかろうが、どっちでも」

 彼なりに背中を押そうとしてくれたのだと思う。彼に自覚があるかどうかは別として。

「にっこにっこにー」

 早速もらったゴムでツインテにして、最高の笑顔をさらけ出した。最高のプレゼントだった。

「うん。やっぱり似合うね」

「当然よ。このにこならなんだって似合っちゃうのよ」

「うん。・・・・にこちゃん。俺はねにこちゃんに幸せになってもらいたい。だからなってね。アイドル」

 その表情は言葉と反して決して明るくはなかった。だから思った。笑顔にさせようと。目の前にいる少年に、笑顔を届けようと。そんなアイドルになろうと。

 思えばきっと。その時初めて人を好きになったんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

「-――――――あ痛っ」

「何寝てんのよ」

 部室でパーティの片づけをしていた。今日はにこちゃんの誕生日だ。世間的には猛暑になりつつあるがこの部屋はそれをふっ飛ばすくらい、暑かった。

「良く寝れるわね」

「そう?最近寝不足だったからかな?」

「そう言うことを聞いてるんじゃないわよ」

 バカ、と語尾に付けたされる。昔からにこちゃんは辛辣だ。 

「みんなは?」

「ゴミ捨てとかじゃない?」

 しまった。寝てる間に片づけがもろもろ終わっていたようだ。なんとなく悪い気持ちになる。

「そういえばさ、昔の夢を見たよ」

「夢?」

「うん。初めて会った時の夢」

「ああ、あの詐欺の時の」

「詐欺って言わないでよー、ちょっと年齢ごまかしてただけだよー」

「それを詐欺っていうのよ」

 にこちゃんは、なんでとは聞かない。なんで年齢ごまかしてたかは聞かない。

 気を遣わせてしまっているんだろうなとは、なんとなくわかった。それでも言えない。少なくとも今は。

 人には誰しも触れられたくないものがある者だから。

「にこちゃん。誕生日おめでとう」

「・・・・・ああ、ありがとう」




どうも高宮です。すこしの遅刻ですけど、セーフですよね?セーフだと言ってください。にこちゃん愛してる大好き。
ということでにこちゃんハッピーバースデー!!誕生日おめでとう!!
遅くなってごめんね。次は早くにあげられる予定です。予定です。
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