「よろしくお願いしまーす」
「よろしくお願いします」
ビラ配り。穂乃果達がライブの告知をするというので、音ノ木坂までくると、やや強引にビラ配りをさせられていた。
正直、周りからは奇異な視線と好奇の視線が容赦なく浴びせられている。これも穂乃果達のためだと言い聞かせ、なんとか我慢できている。
しかし、その甲斐あってかビラ配りは順調で、束になっていたビラも残すところ数枚まで減っていた。
ただ一人を除けば。
「海未ちゃん!ビラ全然減ってないじゃん!」
「だ、だって!」
穂乃果やことりの手には、もうビラが残っていない。穂乃果は持ち前の明るさで器用にさばいていたし、ことりも人を選んで笑顔で受け取ってもらっていた。
残すは、海未だけ。
「見ててあげるから、ちょっとやってみてよ」
「わ、わかりました」
穂乃果に言われ火がついたのか、はたまた自分ひとりだけビラが残っている状況を良しとしなかったのか、きっとその両方だろうけど、海未はきゅっと口を結びこくりとうなずいた。
「あ、あの今度ライブをやるんです。良ければ受け取ってください」
おお、しっかりと渡せている。やっぱり恥ずかしがってただけだったんだろう。
なんだか娘の成長を見守る父親みたいな気分に浸っていると、後ろから声がかかる。
「あ、穂乃果ちゃん!ライブの告知?」
「ひだか、えみこ、みか!」
誰だろう?穂乃果の友達?
頭にはてなをつけていた事を見抜いたのだろう。海が近寄って耳打ちをしてくれる。
「前にライブの手伝いをしてくれる人がいると話をしたでしょう。その人たちです」
「ああ」
(ううっ!ち、近いっ///)
そういえば言っていた。この人たちがそうだったのか。ど、どうしよ。挨拶とかしたほうがいいのかな?でもなんて言おう。
海未の様子には気付かず、あれこれ考えているとこちらに気づいたらしく、一瞬で囲まれた。
「あー!これが噂の雪ちゃん!?」
「あー!いつも、穂乃果が雪ちゃん雪ちゃん言ってるあの?」
「すごーい、実在したんだ!」
「ちょ、ちょっと三人とも!そんなに言ってないよ!?」
どんな噂になっているんだろう。あんまり悪い噂じゃなきゃいいんだけど。
「いってたじゃーん。最近はおさまったけど、一時期雪ちゃんが帰ってきた帰ってきたって、うるさかったじゃん」
「そ、それは、嬉しくてつい・・・」
「で、どの子が本命なの?穂乃果?海未?ことり?」
「「「――――――――!!!」」」
「本命?」
話の矛先があっち行ったりこっち行ったりで忙しい。これが女子高クオリティか。
「だれと、付き合ってんのかってことよ」
「いや、付き合ってないですよ」
「またまたー、あ、それとも三人とも、とか?」
「「「きゃー!!!」」」
「俺の話聞いてくださいよー」
見事に三人だけで会話が成り立っていた。
気づくときゃっきゃっきゃっきゃっと、盛り上がっている三人の後ろにことりが立っていた。
「三人とも、雪君が困ってるでしょ?」
「えー、いいじゃん、少しくらい。男の子なんて珍しいんだから」
「こ・ま・っ・て・る・で・しょ?」
「「「きゃー」」」
先ほどのきゃー、よりいくらか低いきゃーだった。
「こ、こわい」
「ことり、おそろしい子」
「どす黒いオーラが、オーラが」
先ほどまであんなに盛り上がっていたのに、一気にしぼんでいる。女の子ってちょっと面白い。
「あ、あの」
三人とことりを見ながら、ビラ配りを再開しようとする。とはいっても、もうあと三枚しかない。一枚は俺がもらうとして、残り二枚か。そういえば生徒会の手伝いをしなければいけないんだった、東条先輩に学校に入れてもらう代わりに出された条件を思い出す。と、するともう一枚は生徒会長さんに渡そうかな、ライブを見に来てもらえれば何か変わるかもだし「あ、あの!」
気づくと、後ろに人が立っていた。肩に髪先がつくくらいのショートヘアにメガネ。全体的によわよわしい感じの女の子がそこに立っていた。
「あ、ああごめん。気付かなかった。呼びました?」
「あの、そのビラ」
「ビラ?」
手に持っていた一枚をかざす。
「く、ください」
今にも消え入りそうなか細い声で告げられる。
「ああ、なるほど。はい、どうぞ」
今まで、下校中の生徒に手渡すことはあっても、こうやって求められることはなかった。ので、少し嬉しくなる。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
ぺこりと頭を下げ小走りで走り去っていく彼女を見ながら、うーんと伸びをする。ノルマ達成だ。
「海未、俺ちょっと生徒会のほうに行かなきゃだから、これで失礼するね」
「あ、はい。雪、今日はありがとうございました」
「ごめんね、私たちが呼んじゃったから仕事しなくちゃいけなくなって」
穂乃果と、海未が申し訳なさそうな顔をする。ことりを見やると、いまだ三人と何やら話をしていた。
「いいんだ。生徒会の仕事なんてそうそう手伝えることなんてないし、それに、こういうときくらい役に立たなきゃね」
力こぶを作りなんてことないんだと、そう証明する。
「そう、ですか。私たちは、このままビラ配りを続けます」
「何かあったら言ってね?」
いつの間にか後ろに来ていたことりの不安げな顔。
「何かって何さ。大丈夫だよ、取って食われるわけじゃなし」
ひらひらと手を振りながら、生徒会室へと向かう。
昇降口には、制服姿の東条先輩がいた。
「ほな、いこか」
「はい」
パタパタと、上靴と来客用のスリッパの音を響かせながら東条先輩に聞く。
「生徒会長さんって、どんな人なんでしょう?」
「うーん、意地っ張りで、頑固で、責任感が強くて、愛が深くて、さびしがりやで、弱い人」
「弱い人?」
「うん、きっと誰かが支えなきゃ、簡単に崩れてしまう。でも意地っ張りやから、そんなこと周りには微塵も感じさせない。ほっとけない、うちの親友や」
「仲がいいんですね」
「そやね、かわいいかわいいうちの親友や」
きっと、その生徒会長さんは悪い人ではない。東条先輩の話を聞いてそう思った。きっと、穂乃果達の事もいずれはは認めてくれるだろう。もちろん簡単ではないだろうが。
生徒会室の前に着く。扉をノックする音。ちょっと緊張する。
「どうぞ」
中から聞こえた声は、とても澄んでいてきれいな声だった。
「失礼します」
生徒会長さんの第一印象はクールだった。金色の髪を頭の上で結び、藍色の目ときめ細やかな雪のように白い肌。ハーフ、なのだろうか?
「こちら、UTXからきた海田雪君」
「はじめまして、ここ音ノ木坂の生徒会長をしている
「は、はじめまして。海田雪です。あ、高一です」
「どうぞ、座って」
「失礼します」
近場にあった椅子に座る。
「それで、希。これはいったいどういうことかしら」
「どういうって、話したやん?前に男手があればっていってたから連れてきたの」
「あれは、・・別に本気で言ったわけじゃなくて」
「まぁまぁ、人手が増えるのはいいことやん」
「はぁ、希が何考えてても私は認めないわよ」
「何も言ってないけど?」
あ、あれ?もしかして俺がいることで、空気悪くしてる?
「あ、あの。お邪魔ならすぐに出ていくんで」
「――――――別にいいわ。男手が欲しいってのも別に嘘でもないし」
「そ、そうですか」
浮き上がった腰をもう一度下ろす。
「ね、素直じゃないやろ?」
東条先輩がこそっと耳打ちしてくる。
「何かいったかしら?」
「ううん。なんでも」
どうしよう。もうこの学校来れないかもしれない。
痛くなるお腹をさすりながら、密かに穂乃果達に謝った。
と、思ったのは最初だけで。
仕事をこなしていくうちに慣れてきて、生徒会長も、笑う回数がだんたんと増えていった。
「今日は、ここまでにしましょ」
「そやね、もう遅いし」
見ると、時計は6時過ぎ、バイトの時間だ。バイトの―――――――。
「ああっ!!」
完全に忘れていた。バイトの存在を、意外と生徒会が居心地良くて。
「うわっ。なに?急に大声出して」
「い、いやすいません。バイトがあるんで今日はこれで」
「バイト?確かUTXってバイト禁止じゃ―――――」
「じゃ、お疲れ様です」
「あ」「逃げた」
危ない。うちはバイト禁止だということがばれるとこだった。うちは校則、そんなに厳しくないけど、ばれないならそっちのほうがいい。
というか、それより早くバイトに行かなければ。走って間に合うかどうかぎりぎりの時間だ。確か、真っ白い粉(小麦粉)を目的地まで運ぶという内容(小麦粉)だったはず(小麦粉)。それに、今日はお給料日だし、現金支給だし。
それに
少し、憂鬱な気分になりながらそれでも足は止めず、何とかバイトには間に合った。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
「お帰りお姉ちゃん」
「ただいま」
ぐったりと椅子に倒れこむ。今日は、学校でビラ配りをしたあと、校外でもビラ配りをした。海未ちゃんは恥ずかしがってたけど、配り終えて良かった。
ライブまであまり日にちがない。最近は練習のおかげが、笑顔で踊ることも苦にならなくなってきた。衣装も順調だってことりちゃんもいってたし、あとは曲があれば。
「お姉ちゃん。なんかポストに届いてたけど?」
「なーにー?」
「CD、みたいだけど?」
「!!雪穂!それどこ?!」
「ここ」
がばっと起き上がり雪穂に詰め寄ると、確かにCDが目の前に。
「これって、まさか――――――」
さっきまでの疲れなんてどこ吹く風。気づけば海未ちゃんとことりちゃんに大急ぎで電話していた。
そうだ、雪ちゃんにも電話しなきゃ。きっと驚いてくれる。その姿を想像するだけで、なぜかにやにやが止まらなかった。
バイトも無事終わり。間に合ってよかった。真っ白い粉(小麦粉)も無事に届けられたし。
なにげなく携帯をみるとランプが点滅している。みると穂乃果から着信が入っていたようだ。というか、この携帯、だいたいバイト先か穂乃果達からしか鳴らないもんな。
ちょっと悲しい気持ちになりながらかけなおす。ワンコールもしないうちに穂乃果が出た。
「雪ちゃん!!バイトは終わった?」
「うん、今終わったけど」
「じゃあ、今すぐうちに来て!すごいから」
「いますぐって―――」
もう時刻は夜の9時を回ったところだ。そんな時間に行っていいものなのだろうか。
そんな心の機微を察したのだろうか、穂乃果は先ほどよりも大きな声で「いいから、今すぐ来て!」と言ったきり、途切れてしまった。
いつもの事だけど、穂乃果はよくわかんないところで鋭いなぁ。
お許しが出たので、急いで向かおう。
「あら、雪君じゃない」
「どうも、こんばんわおばさん」
「おばさんはやめてっていつも言ってるでしょ?お義母さんと呼びなさい」
「ちょっとお母さん!ごめんね雪君」
「雪穂も、こんばんわ」
「ちょうどいいところに。これ和菓子、余ってるから食べてくれない?海未ちゃんはダイエットしてるらしくて」
「あはは、じゃあ、いただきます」
穂むらの和菓子は、おいしいから好き。
「やっぱり、食べざかりの男子がいるっていいわねー。うち女の子ばっかだから。なんならうちの子になってもいいのよー」
「ちょっと、お母さん」
ヒートアップするおばさんに雪穂がなだめる。
「あら、ごめんなさい」
「穂乃果に呼ばれたんですけど」
きりのいいところで本題に入る。
「お姉ちゃんなら上にいると思うけど」
「そっか、ありがと」
階段を上って二つ目の部屋、穂乃果のネームプレートが下げてあるドアを開ける。あれなんかこれデジャビュが。
「ラブアローショートー。ばぁん」
パタン。開けた瞬間、見覚えのある人が、見覚えのない事をしていた。しかも今度は鏡つき。思わず扉を閉める。
ドタンッ。勢いよく扉が開く「ふーっ、ふーっ、ふーっ」海未がいた。パジャマ姿で変な息遣いの海未がいた。
「なんで!」
「穂乃果に呼ばれたんだ」
「そういうことじゃなく!なんで、こんな、二回も恥ずかしいところを」
「いや、流石に二回目はないかなって、二回目はないだろうと。すいませんすいません」
あまりの恐さに平謝りしていた。
「なにしてるの?」
これもデジャビュだ。穂乃果とことりが俺の後ろで不思議そうな顔でこちらを見ている。
「なんでも、ありません」
目まで完全にいっしょだった。
「それで、なんで俺は呼ばれたの」
穂乃果達はパジャマ姿になっており、明らかにもう寝るだけの状態だ。少ししっとりと濡れた髪と、上気した頬がお風呂上がりだということを連想させる。
「じつはねー、じゃーん」
手渡されたものを見る。CD?
「これ、たぶん西木野さんが作ってくれたミューズの曲が入ってるんだと思う」
「え?マジで?」
ミューズの曲、作ってくれたのか。すごいな。
ミューズの曲。それが今、目の前にある。だめだ、手が震えてきた。
「それでね、まだ聞いてないから一緒に聞こうと思って」
それで、呼んでくれたわけだ。
でも。
「俺を待たなくてもよかったのに」
バイトが終わるまで待っててくれたのはうれしいが、なんかちょっと申し訳ない。
「ううん。これは、海未ちゃんと、ことりちゃんと、雪ちゃんで最初に聞きたかったから」
そっか―――――――そっか。
「じゃあ、早く聞こう」
こんなにうずうずしたのは何年振りだろうか。パソコンにセットして、再生ボタンを押した。
「これが、私たちの」
「歌だよっ海未ちゃん!」
「すごい、すごいよ!」
はしゃぐ三人。そして多分俺も。
「いい曲だね」
海未が歌詞を考えて、西木野さんが作った曲。一介の高校生のクオリティじゃないと思う。贔屓目に見ても。
「それにしても」
きれいな歌声だ。きっと西木野さんの歌声なんだろうけど、すごくひきこまれる。入ってくれないのかな、ミューズに。
「よーし!あとはこれを完璧に歌って踊って、笑顔でファイトだよっ!」
「ええ、ライブまであまり時間もありませんし」
「衣装も、頑張って作るよ」
「俺も、最大限サポートする」
「もうなんか、居ても立っても居られない。練習しにいこっ?」
「流石に、この時間は無理です。明日、頑張りましょう」
「あうー、興奮して寝られないよー」
最難関だった曲ができて、これでいよいよ現実味を帯びてきた。
すごい。本当に。
高揚したまなざしでカレンダーを見やる。ライブまで、あと、三週間。
どうも、お客様の中に大天使様はいっらっしゃいますでしょうか。高宮です。
ここのサイトの事、まだよくわかってません。活動報告って何ぞや。
なので、厚かましいですが教えてくれるという大天使様がいらっしゃれば教えてくれると助かります。宛先はこちらまで↓↓↓