ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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義妹とか義姉とかそう簡単にできるとか思うなよ!

「・・・姐さん」

 高坂穂乃果は海田雪の幼稚園からの幼馴染である。だがしかし、穂乃果は雪の過去の何もかもを知っているわけではない。

 それは物理的、そして精神的に離れた時期があるからなのだが、だが結局、そんなものはなくても人は人の事を何もかも知れるわけではない。

 しかし穂乃果にとって今、目の前にいる雪が、なにか自分が知らないことが起きていることが不安に感じた。

 目の前の幼馴染の少年が姐さんと呼ぶ女性は、幾重にも飛び交う車の流れをせき止めるように交差点のちょうど真ん中で佇んでいた。クラクションを鳴らされ、まるで現実に引き戻されたようにこちらへ駆けてくる。

 結局、なんだがお茶を濁されたようにその女性と街へ消えていく雪。先ほどまでダイエット中でありながらも誘惑に負け、花陽とご飯屋さんで自らの食欲を満たしていたところを見られていた事など完全に吹っ飛んでいた。

 そもそも、そのご飯屋さんに行くことだってダイエット目的のマラソンの合間に怪しまれないように配慮しながら行っていたのだ。

 帰りが遅い事を心配した海未が探しに来ることなど必然だっただろう。

「・・・・・はっはーん。いつもなぜかこのマラソンだけは張り切って行っていたので、怪しいとは思っていたのですが、よもやサボっているとは思いませんでしたよ」

「げ!う、海未ちゃん」

 まるで悪鬼のような笑顔で穂乃果達を威圧する海未に、しかし穂乃果は反撃の糸口を探す。

「ち、違うんだよ海未ちゃん!いま雪ちゃんがいてね?へんな女の人に連れ去られていったんだよ!緊急事態だよ!」

「・・・雪が?・・・・変な女の人に?」

 ブツブツと口元で考えるようなしぐさを取る海未に、穂乃果は内心でガッツポーズをとる、どうやら話を逸らすことに成功したようだ。

 だがまだ安心はできない。

 なぜならすぐそばには先ほどお腹を満たしたばっかりのご飯屋さんが鎮座している。勘のいい海未なら気づいてしまう可能性がある。

 穂乃果は一瞬で花陽とアイコンタクトをとる。二人の意思が共通したのを確認すると、まずは花陽がアクションを起こす。

「と、とにかく。これはもう、一度みんなと話しあった方がいいんじゃないかなぁ?」

「・・・いえ、ですが雪にも雪の事情というのがあるのでしょう。何か事件に巻き込まれたなどという事態でない以上、そっとしておいたほうがいいのでは?」

「何言ってるの海未ちゃん!あの感じはどう見ても元カノとかそんな感じだったよ!?ほっといたらまた雪ちゃん、どっか行っちゃうかも・・・」

 最初の方こそ力強さを感じたものの、言葉が進むにつれて、段々としぼんでくる。それはきっと、その可能性を想像してしまったから。その痛みを知ってりいるからこそのリアリティだったのだが、それが海未に不安を与える。

 海未もまた、その痛みを知るものだったからだ。

 

「・・・・皆を招集する必要があるようですね」

 

 海未の瞳に、力強い炎が宿ったのを確認して花陽は安堵する。穂乃果はというと、若干落ち込んでしまっているものの花陽にはその理由がよくわからなかった。

 元カノということで落ち込んでいるのなら、確かに雪とその女性は知り合いの様な雰囲気だった、が、元カノとかいうよりかはもっと別の、なにかややこしい複雑な気まずさを感じた。

 それに雪はその女性の事を姐さんと呼んでいたのだ。順当に考えれば雪の姉、という考えに至るだろう。

 勿論、雪と接してきた時間は花陽より穂乃果達の方が多い。雪についての知識だって花陽より多いだろう。雪に姉がいないことを知っている穂乃果は最初からその可能性を除外できている。

 だけど、花陽だってこの半年間、何も見てこなかったわけじゃない。何も知らないわけじゃない。

 少なくともその想いだけは持ち合わせていた。

「あ!そうだ忘れるところでした」

 神田明神へ戻ると話が固まったところで、海未が思い出したように声を上げる。

「なーに?海未ちゃん」

「ご飯、おいしかったですか?」

 ビッと後ろにあるご飯屋さんを親指で差す海未に、花陽はしまったとダラダラ冷や汗をかく。そんな二人に気づかず、隠していたという事さえ忘れてそのまま穂乃果は答えてしまう。

「うん!すっごく美味しかったよ!特にとんかつとご飯の相性がまた抜群で――――――」「ほ、穂乃果ちゃん!!」

 まさか天真爛漫な笑顔でバカ正直に答えるとは思ってなかった花陽は慌てて穂乃果の口を両手で塞ぐ。

「・・・・・はぁ、あなたがそこまでバカ(・・)だとは思いませんでした。大体、ダイエットだと言っているのになぜ食べてしまうんですか!雪穂にも聞きましたよ!家でもお団子やケーキも食べているらしいじゃないですか!自立精神が足りないのです!これはあなたの為に言っているんですよ!そもそも―――――――」

 最初こそ本当に呆れたような表情だった海未だが、段々と怒りが込み上げてきたのか語尾が強くなっていく。 

 そんな海未の小言を神田明神につく間中聞かされ、最後には泣きべそをかいていた穂乃果であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・元カノね」

「ええ!元カノぉ!?」

 神田明神で穂乃果と花陽を迎えに行った海未を待っていたメンバーは若干半泣きになっている穂乃果と、げんなりとした花陽、二人に説教をしている海未という皆が想像した通りの結末を迎えている事に苦笑しながら三人の話を聞いていた。

 当然ダイエットの話かと思いきや、なぜか雪が変な女に連れ去られたんだけどどう思う?と相談されたのだ。

 そして神妙な面持ちでにこちゃんが発した言葉に凛が反応した。

「でも、あの雪よ。誰かと付き合っているところなんて想像できないわ」

 すこし考えて絵里が否定する。

「でも、雪君理不尽にモテるし、そういう過ちがあっても・・・・」

 彼女を作ることを過ちと判断してしまうあたり、ことりの闇を窺ってしまった他のメンバーだったのだがその事については触れない。

「本人に聞いた方が早いじゃない、興味ないけど」

「真姫ちゃんの言うとおりだよ!一刻も早くこの問題を解消しなきゃ!」

「穂乃果はその前に己の贅肉を解消させることが一番ですけどね」

 先ほどから何とかダイエット失敗の話題を逸らそうと懸命に頑張っている穂乃果だが、悲しいかな、そのたびに海未によって轟沈している。 

 今も海未による辛辣な言葉にノックアウトされているところだ。

「でもここでこうして話してても結局憶測でしかないから答えはみつからへんと思うで?」

「それもそうね・・・・真姫の言った通り本人に聞くのが一番手っ取り早いわね」

 希の意見に絵里が頷く。

「でも雪ちゃん答えてくれるのかにゃー?」

「確かに・・・・さっきもなんだか触れてほしくないような空気だったし」

 花陽は先ほど、雪が自分たちに見せた困ったような影のある笑顔を思い出していた。

 あれは再会を喜んでいるようには見えなかったし、まして誰かに見られていいと思っているものでもなかったと思う。

 人には誰しも人には言えないものがある。触れてほしくない場所というのは花陽にだってあるし、暗い部分は持っているのが当たり前だと理解している。それは誰ならという話じゃなく、ひとしく皆自分ですら触れない、心の奥底に眠らせている場所だ。

 それを自分たちは今、パンドラの箱とも呼ぶべきものを勝手にこじ開けようとしているのではないか。

 それはその場にいた全員が共通して感じていた。人の過去を掘りだそうとしているのだと。

 だけど、それでも知りたいと思った。たとえ人の大事なものを暴きだしても、その奥の部屋に踏み入ったとしても。雪の最近の言動からなにかあるなんてことは火を見るよりも明らかだった。力になりたいなんてそんな大それたことは考えていない。ただ、一人で抱え込む怖さを知っている者がいる。背中を押してもらう勇気を与えてもらった者がいる。自らの事を必要以上に陥しめないように教えてもらった者がいる。つまらない意地を張ることの愚かさを気付かせてもらった者がいる。他にもたくさん助けてもらって、支えてもらった。

 皆一様に、口には出さないが自覚しているのだ。その人の大切さと強さと、脆さを。

「それでも」

 だから、その先頭にいたメンバーのリーダーは口を開く。

「それでも、私はもういやだ。何も知らずに勝手にいなくなられるのは。何も知らずに大切な人が傷ついているのは」

 その言葉に皆頷く。

「どうせ一人でウジウジ悩んでるんでしょ。めんどくさいからさっさと白状させましょう」

「でもどうするの?本人に聞いても素直に答えてくれないと思うにゃ」

「そこはほら、もう一人がいるじゃない」

 凛の疑問に絵里がしたり顔で答える。

「もう一人?」

 絵里の発言に希が首をかしげる。雪以外に雪の事を知っている人間がいるのだろうか。と。

「――――――――――その元カノよ」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということで絵里の提案により、元カノに話を聞こうということになったのだが、そもそもの問題が一つある。

「で、元カノはどこにいるの?ていうか誰?」

 もう辺りも暗くなってきたということで後日再び駅前のファーストフード店に集まり、第一声を発したにこちゃん。

「・・・・・穂乃果と花陽は会ったんですから知っているはずです」

「知るわけないよ!?見たことない人だったもん。少なくとも私たちの知り合いじゃないよ」

「・・・私もひと目見ただけだし」

 元カノ探し、早速難航。

 そもそも名前も素性も分からない人間を探し出そうということが無理難題なのだ。

 皆一様に頭をうならせてみるも妙案がそうそう簡単に閃くことはなく。 

 やはり雪に聞けばいいという方向で渋々固まりそうだった時。

「ねえあなた達。雪の知り合い、で合ってるわよね?」

「へ?そうですけど・・・・」

 急に一人の女性に声をかけられ、海未はきょとんとする。

 それに雪の知り合いかどうかを確認なんて、おかしい。そう気付いた時には穂乃果がもう声をあげていた。

「あ!あの時の!」

 あの時の、その言葉で他のメンバーも勘付く。この、目の前にいる女性が雪の元カノ(推定)だと。

「・・・な、なんでここに?」

 花陽が至極当然の疑問をぶつける。

「いえ、偶々ここに入って行くのが見えたから一つ、挨拶をしておこうと思って」

 皆の中にすこしの緊張感が走る。元カノをどうやって探すか、半ばあきらめかけてきたところに、向こうからやってきたのだ。思わぬ展開に息をのむ。

(ちょ、ちょっとどうするにゃ!?いきなり向こうからやってきちゃったにゃ!?)

(お、落ち着きなさい凛!ここは冷静になっていったんどこでもドアを探すのよ!)

「えりちが落ち着いた方がええんやない?」

 その後もいきなりやってきた事象にうまく立ち回ることができない絵里達の輪に加わらないものが一人。にこちゃんが意を決して質問する。

「あんた、雪のなんなのよ」

 セリフだけ聞くとものすごいが、とりあえずこの場にいる者が聞きたかった事をずばりとモノ申す。

 そして聞かれた彼女は目をぱちくりとさせながら、クスリと笑った。まるですべてを見通しあざ笑うかのように。

「何だと思う?」

 質問を質問で返す彼女の顔には余裕が窺える。もしも過去の彼女を知る者がこの場に一人でもいたならば、おかしいと違和感を感じ、その光景に唖然としていただろう。それほど昔の彼女とはかけ離れていた。

 一方、最初の頃の緊張感はいくらか弛緩されたとはいえ、メンバーの方に余裕はなかった。

「――――――――元カノとか?」

 どちらの回答にせよ、このもやもやを吹き飛ばしたいと思った凛が質問する。

「うーん、どうなんだろうね。いっそのこと彼氏彼女の関係になったほうが良かったかもね」

 いまいち釈然としない回答に凛は首をかしげる。肝心なところをぼかしているのは意図しているのか、はたまた天然か。

「・・・・そうね、付き合ってたわけじゃないわ」

 そんな空気を察したのか、少し考えて否定する。その答えに皆少なからず安堵した。やはり心配ではあったのだろう。

「じゃあ雪とどんな関係なんですか?」

 いくらかの余裕が生まれ始めてきた絵里、当然、元カノじゃなければ何なのかという疑問に行きつく。

「どんな関係なんて一口には言い表せないわ。皆もそうでしょう」

 例えば友達。それはそうだろう、ここにいる全員がそれは胸を張ってそう言うはずだ。

 例えばコーチ。練習を見てもらったり、一時期は雑用の様なものもやってくれていた。言い方を変えればマネージャーということもできるかもしれない。

 例えばライバル。UTXに通う雪はその過程でなぜだかアライズとも仲良くなっている。ミューズにとってアライズとは敵であり、壁であり、越えるべく目標だ。そのアライズと密接した関係の雪はライバルと呼ぶ時もあるのかもしれない。 

 例えば恋愛対象。という風に、確かにあげだすときりがないし、人と人の関係はそう言った多面的なものであるという彼女の指摘も理解できる。

 だが、だからといってはいそうですかとは引き下がれなかった。雪の問題であると同時に、自分たちの問題でもあったからだ。仮にも好きな人の事を多少は知っているつもりだった。

 天然なこと。あまり人に弱みを見せない事。誰かを頼るのが物凄く下手な事。色々な事を考えて気が回る人。その反面、人よりも多く悩んでしまう人。

 だが、それだけではダメだったのだ。それを知っていても雪が今現在抱える問題を解決できない。

 ならば知る。もっと過去を、人となりを、考え方を、知って理解したい。問題を解決したいと思う以前に、根本的に皆知りたいと願っていた。

 そんなメンバーの瞳をまっすぐに見つめる彼女。その表情は初めて昔の彼女と合致した。

「そうね、じゃあまず何を知りたい?」

「雪ちゃんが今抱えてる問題のそのすべて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――さっきは偉そうなことを言ったけど、私だって彼の何もかもを知っているわけじゃないわ。あなた達の方がよっぽど彼について詳しいほどよ」

「いやー、それほどでも」

「穂乃果。照れるところではありません」

 ひとまず先ほどの空気から脱却し、割と緩やかに彼女の言葉は発せられた。

「私が初めて会ったのは中一の冬だった。その頃は私もグレていたから夜な夜な街を徘徊していたわ。そんなときに年齢を偽ってやばいバイトばかりしている奴がいるって情報が耳に入ってきてね。物見遊山に見に行ってみたの。その時にいたのが彼だった。ひどく悲しそうな顔をしていたわ。ただでさえ危ないバイトを危ない方法でしているという雰囲気がなかった。そこに興味を引かれてね。声をかけたの。何やってるんだって。彼は隠そうともせずにバイトだよって言った。その頃はきっとネジがぶっ飛んでたんでしょうね。そう言った彼の笑顔が怖かった。それをきっかけに学校が一緒なのもあって毎日一緒にいたわ。それこそ周りからはそう言う目で見られたけど、関係なかった。私も私でまともじゃなかったから。依存していたんだと思う。彼といるのは居心地が良かったし、似ているなと思う部分も多少あった。だけど、明確に彼は変わったわ。きっとあなた達に会ってから。まるで自転車のギアを変えるように彼の中で何かが変わったんでしょうね。もともと二人とも口数が多い方じゃなかったから、お互いの事はそんなに知らない。今彼が抱えてる問題とやらも知らないわ。だけど、心当たりがあるとすれば、父親でしょうね。それに伴うバイトがらみかもしれないけど」

 彼女の言葉にメンバーはただひたすらに聞いていた。心に残るワードは危ないバイト。そして口ぶりから察するに今も続けている可能性がある。そして、一番は―――――――。

「父親って?」

 絵里が尋ねる。そういえば彼の家族構成や家の事を彼が話すのを聞いたことがなかった。きっとそれがいわゆる彼の中でのタブーなのだろう。

「・・・・私ね。昔親に捨てられたの。理由は財政難。うちは母親が私達を生んで死んだ。残ったのは父だけだったからきっと子育てが大変だったんでしょうね。もっともらしい理由をつけて、4歳のころに孤児院に預けられたわ。物心つく前だったらよかったんでしょうけど、捨てられるという意味も理由も納得してしまったから余計につらかった」

 急に関係のない話を初めて、場が混乱する。何を言っているんだろうと。

「私から言えるのはこれだけ。後は自分たちで何とかしなさい」

「ええ!?」

 そう言って彼女は立ち去る。結局最後のはなんだったのだろう。分かったこともそう多くはない。

 そういえば名前も聞いていなかった。そう思い、穂乃果は最後に声をかける。

「お名前!教えてくれませんか!?」

「・・・・海田千早(かいだちはや)

 そう言って立ち去る彼女がまたひとつ。問題をその場に残して。

「――――――――――――海田?」




どうも働かない一人高宮です。
なーつやーすみー。
ありがたやーありがたやー。夏休みになると色々楽しみが増えますねー。どうせ家に引きこもるんですけど。
ということで次回も頑張ります。
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