ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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決意の正体

「―――――――――おかしい」

「・・・・・え?」

 穂乃果家で恋愛映画を見た?っていえるのかどうかはわからないが、一応みたということにして、その帰り道。

 真姫ちゃんが急に言い出した一言が僕の心を揺さぶってくる。ツバサさんに言われた一言が脳裏によみがえる。

 挙動不審だったのがいけなかったのか、それとも最早外見だけ取り繕ったところで既にバレていたのか、どちらにせよ僕は深く後悔した。こんなことなら空気がなんだ、休日がなんだと言ってないでさっさと打ち明けていればよかったと。

「実は――――――――――」「希と絵里。なんだかおかしいわ」

 こうなったら先に打ち明けてしまおうとなんとか口を開いた瞬間、真姫ちゃんの声とかぶる。

「・・・・・へ?」

「ん?何よ?」

「いや、なんでもないんだなんでも」

 なんだー。希の話だったのかー。危ない危ない。

 いや、危なくねぇだろ。

 額にかいた冷や汗をぬぐう手が途中で止まる。

 なぜって、僕は打ち明けると決心したはずだ。みんなに自分の問題を話して―――――――話してどうすればいいんだろう。協力してもらう?何に?気が楽になる?ツバサさんに話した時点でもうなってる。

 あれ?僕がみんなに話す理由って何だっけ。ツバサさんの時は有無を言わさない迫力があって、半ば諦めたように打ち明けた。打ち明けられた。

 自分の中で解決法も何も見えてないのに、ただ話すだけで良いんだろうか。それは皆に押しつけているだけではないだろうか。

「――――――――――――。」

 考え込んでしまうのはいけないことだ。僕の悪い癖だ。そう頭ではわかっていても、心は止められない。僕の心が渦巻く。なぜ?どうして?と。

「・・・・・・・言っとくけど。雪もよ」

「へ?」

 僕はさっきから情けない声しか出ていない。それでも真姫ちゃんは言葉をつむぐ。

「雪がおかしいのなんて皆もう知ってるわ。それでも何も言わないの。なんでか分かる?」

「えっと、めんどくさいから?」

「違うわよ!!あんた私達をどういう風に見てんの!?」

 真姫ちゃんに尋ねられて正直に答えたのに、パンチをもらう。それもグーで。

「・・・・みんな待ってるのよ。あなたが自分から打ち明けるのを。無理やりにでも聞き出すことは簡単で、きっとそうすれば雪は話してくれるんでしょうけど。私達はそれじゃ意味ないと思うから。だから待つの。あなたの心が整って、いつか話してくれるのを。本当は今すぐにでも、強引でも聞きだして力になりたいって思ってるはずなのにね」

 真姫ちゃんは僕の一歩先を歩いていて、すぐには表情が見えないけれど、声でわかる。声だけでもわかる。慈しむような、優しい声だから。いつもの、真姫ちゃんの声だから。

「うん。分かってる」

 分かってるんだ、本当は。自分が嘘が下手なことも。誰かに隠し事するのが下手なことも。自分の問題を自分一人でためこんでいられるような器用な人間じゃないことも。

 だから打ち明けようと思う。たとえそれが皆の負担になったとしても。別に僕は問題を解決するのに協力してほしいんじゃない。ましてや気が楽になりたいわけでもない。僕にとってこの問題はきっとそういうものじゃなかった。重くても持ちにくくても、一生背負っていかなければいけない。あの人一人に背負わせてはいけないし、するつもりもない。そういうものだ。

 僕はただ、聞いてほしかったんだ。そんでもって相談したかったんだ。答えが出るかどうかなんてどうでもよくて、ただ悩みを共有したかったんだ。皆で笑って、皆で悩んで、そう言うことがしたかったんだ。

 それが、ありふれた僕の、決意の正体。

 多分、ツバサさんに言わせれば、それが仲良くなりたいということなのかもしれないけれど。

「―――――だから真姫ちゃんは好きだよ」

「なっっ!!//」

 それまでは口に出さずに、それからは口に出した。口出して、伝えたいと思ったから。ツバサさんの言うとおり、仲良くなりたいと思ったから。

「ふ、ふん!私がいつもいつもそんなんで動揺とかすると思ったら大間違いよ」

 口ではそう言いつつも足元はバタバタとせわしないし、口元はだらしなくにやけている。手元は指がタンタンと一定のリズムでビートが刻まれているし、流石作曲家。

「リア充うざいにゃー」

「り、凛!?いつからそこに!?」

 声のする方を振り返ると、暗闇から凛と花陽がにゅるっと抜き出てくる。そして無言で脛を蹴り続けている。

「ちょ、痛い痛い。凛、痛いって。そこは弁慶さんも泣いちゃうところだからマジで痛いって」

 どうみても凛が不機嫌だ。なぜ?

「それで?何の話してたの?」

 なおも無言で脛を蹴り続ける凛を宥めていると、花陽から質問される。気のせいか声のトーンがいつもより低い。

「――――――――ううん。今は、なんでもないよ」

「?」

 別に、焦ることはない。真姫ちゃんが言ってくれた通り、皆待ってくれている。だから皆に話そう。ちゃんと自分で整理をつけてから。その時もう一度決心したらいい。

 自分がした決心など、いつだって都合よく変えられる。変えないものが強くて偉いんじゃなくて、変えられてもそれでも成し遂げられるのが、きっと本当の決心ってやつだと思った。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが昨日のやり取りで、今日真姫ちゃんに呼び出された理由が僕には思いつかなかった。

「いやだから!!希と絵里がおかしいって話をしてんの!昨日から!!」

「ああ、言ってたね」

 そもそもなぜそんな話になるのかが分からないのだが。

「そうかにゃ?ラブライブ最終予選突破するために新曲を、そんでもってやったことないラブソングを。っていうのは分かるけど」

 開けた場所にある喫茶店で、オレンジジュースをチューチュー吸いながら凛ちゃんは絵里先輩たちを擁護する。

「それにしたってこだわり過ぎよ!何も一から新曲を今から、それもみんなで作ってやる必要なんてないじゃない!」

 クオリティだって、どうしても下がると思うし。と俯いた真姫ちゃんは言う。

 なるほど、聞いてる限りでは希と絵里先輩がラブソングで最終予選を挑もうと言っていて、真姫ちゃんなんかが反対してるわけだ。

 まあ普通は真姫ちゃんの言うとおりだ。時間だってそうあるわけじゃない。一から曲を作るとなると、一から衣装も振り付けも作るということだ。そして作ったものを覚えなければいけない。新曲というのは時間がかかる。

 その時間がかかる新曲をやるほど、時間に余裕はなさそうだ。

 それでもやりたいという理由が、二人にはあるんだろう。

「恋愛映画を見ようっていうのも、もともとその話が元だったの。詩への良いインスピレーションになるんじゃないかっていう」

 事のあらましが分かっていない僕に花陽が説明してくれる。

「そうよ!妙にあの二人だけこだわり過ぎなのよ!絶対なんか隠してるわ」

「そうかにゃー?」

 真姫ちゃんは妙に勇んでいるが凛はさして興味がなさそうだ。

「あんた、もうちょっと本気出しなさいよ。そんなんじゃラブライブ優勝できないでしょ!?」

「えー、だって凛ねむいー」

 確かに先ほどから目が開ききっていない。昨日不機嫌だったし眠れなかったのかな。

「それに新曲でも、今までの曲でもやることは変わらないでしょ?皆に見てもらって恥ずかしくないように精一杯やるだけだよ」

 その言葉に、文字通りいきり立っていた真姫ちゃんもむぅと口を結んで椅子に座る。

 僕も花陽も顔を見合わせてほっこり笑った。

「いやー、凛はたまに良い事を言うね」 

 思わずテーブルに突っ伏している凛の頭をなでなでしてしまう。

「えー?凛なんでなでなでされてんのー?えへへ」

 どうやらそのまま眠りに落ちてしまったらしい。その言葉を最後に凛に反応がなくなる。

「――――――あの凛ちゃんも考えてるんだから、絵里ちゃん達もきっと何か考えがあるんだよ」

「にしても、その考えを言ってくれればいい―――――――」

 言葉の途中で、真姫ちゃんは何かを見つけたように目線が固定される。

 かと思うと再び勢いよく立ちあがり、僕の手をぎゅむっと掴んでそのまま走る。

「え?ちょ、なに!?」

「絵里!!」

 その名前で、僕も真姫ちゃんが見ている方向を見る。すると本当に絵里先輩とそして、一緒に帰っているのであろう希がいた。

「・・・・真姫?」

 なぜここに?という顔で歩みを止める絵里先輩。

 お互い数秒間見つめあい、何かを察したのかとりあえず家に来る?と僕たちを誘う希。

「い、いや僕はこれからバイト―――――――――――」

「いいからあんたも来るの!!」

 強引に真姫ちゃんに引っ張られ、希の家に連れて行かれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 希の家は、簡素なアパートだった。この辺によく見かけるアパート群の一角。その二階に希の部屋はあった。

「・・・・一人暮らしなの?」

 真姫ちゃんがそう尋ねるのも無理はない。部屋にあるのはどれも一人暮らしを連想させる量のものしかなかった。洗い場に綺麗に置かれている食器も、椅子も机もその部屋にある物すべてに見覚えがあった。

 僕と一緒だった。

 なんとなく勝手に親近感を覚えていると、真姫ちゃんが事の本題に入る。

「で?絵里達は何を隠しているの?」

「別に隠してなんかないよー?」

 希はお茶を淹れる最中に真姫ちゃんの問いに答える。

「―――――――実はね」

「えりち」

 希が抑えるように口を開いた絵里先輩を制する。

「ここまで来て言わないわけにはいかないでしょ。それに、隠してないんでしょ?」

 その言葉に希は観念したように口を開いた。

「――――――別に、そんな大層なもんやないよ。ただ、夢やってん」

「ラブソングを書くのが?」

 真姫ちゃんが驚いたように声を出す。

「ううん。みんなで曲を作るのが。夢やってん。―――――――――うちね、親が転勤族で友達ができなくて、それが嫌で一人暮らしして音ノ木坂に入って、そして見つけたの。うちと同じ不器用で周りに壁を作ってしまう、でも周りの事を誰よりも考えている子。この子とやったら友達になれる。ううん。なりたいって思ったの。そう思ってたらいつの間にか、そんな子が一人、また一人って増えていって気づいたら九人になって、それでこんなみんなと一緒に曲が作れたらええなあって」

 そう話す希はいつものエセ関西弁ではなく、きっとこれが素の話し方なのだろうと思う。

「でも別にええんよ。ラブライブで優勝するってのが一番の目標やし」

 希の表情は柔らかい。そんなにも簡単に自分の事を話せるんだ。

 ・・・・今か?今話すタイミングなのでは?いやでもみんなが揃ってた方が。

 なんてダラダラと脳内で模索している僕はほおっておいて話が進む。

「・・・・・そんなこと言われたら反対できないじゃない」

 そう言う真姫ちゃんの表情も穏やかだ。見ると絵里先輩と二人携帯を取り出している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 携帯を取り出したのは、他のメンバーを呼ぶためであった。この決して広いとは言えない部屋に十人も集まる。

「よーっし、もう今日は泊っちゃおー!」

 さっきまで希の話を聞いて泣いていた穂乃果が勢いよく手を上げる。

「泊るって言うてもホンマに狭いでウチ」

「いいのいいの。みんなで押しくらまんじゅうしながら寝れるじゃん?」

 押しくらまんじゅうって、別にそんなに魅力的な寝方でもないのだが不思議と穂乃果はテンションが上がっている。

 というか既にベットには眠りこけている凛が。

 そんな凛を起こそうと奮起していた花陽がある物を見つけた。

「あれ?これって―――――――」

 花陽の手にあったのは、あの日。ことりが留学しそうになって、何とか引き留めてライブをしたその時の写真が、写真立てに飾られてある。なぜか真ん中に移った僕の表情がにやけていて恥ずかしい。

「へー、みんないい表情ですね」

「あ!」

 海未が覗いていると、希が勢いよく写真立てを強奪する。

「・・・・これは、駄目」

「えーいいじゃんいいじゃん。穂乃果にも見せてよー」

 きゃーきゃーと騒がしい部屋を僕は見つめる。もう外も暗くなってきた。

 言うタイミング、完全に逃しちゃったな。

 そろりそろりと気付かれないように部屋を出て行こうとすると、目ざとく絵里先輩に見つかってしまう。

「どこに行くの?」

「あー、いや。僕これからバイトだし、それに僕も止まったら流石に狭いでしょ?」

「女の子の部屋に泊まることについては良いんだ」

 なんだかにこちゃんがジトっとした目でこちらを見ている気がするが、この際は無視。

「私達は良いよー。それに雪君前はよく泊ってたじゃない」

「・・・・・前は、良く?」

 ことりが引きとめようとするものの、やっぱり僕は遠慮する。多分今日は僕がいないほうがいいと思うから。あとなんか絵里先輩が怖い。

「それはそうだけど、やっぱり今日はいいよ」

「・・・・・それは、そうだけど?」

 相変わらず怖い絵里先輩に逃げるように、そそくさと希家を退出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、穂乃果」

「なあに?絵里ちゃん」

「雪って、自分の事を僕、って呼んでたかしら?」

「ああ!それ!私も気になってた」

「真姫も?」

「・・・うーん、小学生までは僕って言ってたよ。こっちに来てからは聞いてないけど」

「そうなの海未?」

「・・・ええ。確かに穂乃果の言うとおりです」

「あったんでしょうね。何か」

「「「・・・・・・・・」」」

「話してくれるまで、待つしかない。よね」

「甘いのよことりは。そんなもんこっちからガンガン聞けばいいのよ。待ってるだけじゃいつまでたっても変わらないでしょ」

「にこ。でもきっと聞きに行っても変わらないのよ。・・・・・根本的なことが」

「・・・・・それは、そうかもだけど」

「―――――雪」

「え?」

「なんですか穂乃果?雪ならもう行きましたよ。見間違いじゃないんですか?」

「違うよ雪だよ。天気の雪!降ってるよ!!」

「――――――わあ!本当だ!凛ちゃん起きて!雪だよ!」

「―――――――――うえ?雪ちゃん?雪ちゃん。雪だにゃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪だ」

 自分の名前を言ったわけじゃない。天候の雪だ。雪が降っている。バイトの帰り道何気なく見上げると雪が降っていた。道を見るに、結構前から降っていたらしい。

 そんな些細なことに一抹の感動を覚えつつ。家まで後数メートルのところで久しい人物に会った。

「お隣さん」

「お姉さんだ。そう呼べって言ったでしょ」

 お隣のお姉さん。どうやら出勤帰りのようだ。顔も服も、華やいでいる。

「そういえば、前にお隣さん。のお姉さん、困ったことがあったら言えって言ってましたよね?」

 お隣さんと言った瞬間、こぶしが飛んできそうだったので語尾にお姉さんをつけることで何とか回避する。なぜそこまでお姉さんにこだわる。

「ああ?言ったっけ?」

 うわ、ひどい。僕は覚えてるのに。

「冗談だよ。で?」

 僕の顔を見て笑うお姉さんは一言で続きを催促する。

「実は―――――――――――」

 

 

 

「――――――――――――――――ふーん」

 やっぱりそうだ。お姉さんやツバサさんにはするっと言えるのに、打ち明けられるのに。ミューズには、皆にはできない。

 その理由が分からない。最近、分からないことだらけだ。

「一つ言えるのは、お前の父親はクズってことだな」

 ツバサさんにも言われた。どうやら共通見解らしい。

 家の階段を上りつつ、一段上を行くお姉さんはもう一つアドバイスしてくれる。

「そうだな、強いて言えばこの前も今回もお前は考え過ぎだってことだな。友達ならそう言うの気にしない」

 友達なら、そういうの、気にしない。

 お姉さんはそれだけ言うと、最後にお休みを言い残して部屋へと消えた。

 結局そう言うことなのだろうか。僕が、心を開いていないだけなのだろうか。友達だと思っていないということだろうか。結局僕はそういう人間なのだろうか。あの人の血が流れてる僕は。

 ・・・・・いや、そうじゃない。仲良くなりたいんだと、ツバサさんに言われた。僕もそう思った。それと同時にやっぱり、ミューズが浮かんだ。皆の顔が浮かんだ。

 それだけで、理由としては十分じゃないか。打ち明ける理由としても、仲良くなる理由としても。

 決意して、理解して、決心して、それでも僕はまた――――――――言い訳を探している。

 大して意味もない鍵を開け、誰もいない、薄暗い部屋へ足を踏み入れる。

 ゆっくりと、扉が閉まった。




どうも理想を抱いて溺死しろ!って言われてみたい高宮です。
活動報告でも書きますが、明日からおじいちゃん家に墓参りにいき、おばあちゃん家にも墓参りに行くのでしばらく更新できません。と言っても週明けには帰ってくるのでそこいらで更新できるはずです。
明日は、間に合えば新作を登校する予定です。間に合えば、まだタイトル決まってないけど。
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