ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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似た者同士は案外友達になりにくい

 彼が警察に連れていかれているころ。家の前に残った希は不安でいっぱいだった。

 勿論、彼が連れて行かれたことによる不安なのだが、彼は悪い事をやったわけではないので大丈夫かなとも心のどこかでは思っている。せいぜいが事情聴取くらいだろうなと。

 それよりも今、目の前にある不安に彼女はてんてこ舞いだった。

「で、アンタ誰?」

 彼が姐さんと呼んでいる人物。駅前のファストフード店で一度会ったその人物は海田千早(かいだちはや)と言っていた。海田。彼と同じ名字。

 偶然なのか、はたまた必然なのか。それを確かめるすべを彼女は、彼女たちは持っていなかった。まさか本人に直接聞けるわけもない。

「目上の人間にアンタ呼ばわりするような奴に名乗る名はない」

 もう一方は、希は知らない人物。また知らない女だ。

「なんでこう・・・・・」

 彼の周りの交友関係(主に女性)の広さというか、女性運みたいなものに落ち込みつつもちらりとその女の事を観察する。

 なんだかキラキラした化粧が不思議と邪魔にならずむしろそのキラキラが顔のパーツ一つ一つを際立たせている。

 控えめに見積もっても美人だ。仕草の一つ一つから醸し出される上品さも美人に拍車をかけていた。

 そんな美人二人が、真夜中のそれも警察が来たことによる騒然とした空気の中、バチバチとメンチを切りあっている。

 はっきり言って恐怖だった。怖すぎる。周りの野次馬もそのことを感じ取ったのか、そそくさと自らの家に戻って行く。

「まあ強いて言うならお隣のお姉さん、よ」

 お姉さんの方をことさらに強調して言うお隣さん。

「お姉さん・・・・?」

 その強調されたお姉さんに海田千早は引っかかったような顔をする。

「ええ、彼は私の事を慕ってそう呼んでくるわね」

 見栄張りたさの完全なる嘘だったが、お隣さんは実に堂々としていた。

「――――――――――ちっ。私でも姐さんとしか言われたことないのに」 

 希は完全に勝負の方向性が分からなかったが、お隣さんの方が勝ち誇っていたのできっと海田千早は負けたのだろうと適当に辺りをつける。

「あ!あなたは!?あなたはどっちの方がよりお姉さんっぽいと思う!?」

「へ!?」

「そうね。というか、ところであなた誰?彼の彼女?」「は?違うわよ。この子はあれよ。・・・・・・知り合いよ」

 自信なさげに顔をそむける海田千早だったが、知らない間に会話の矛先が希に向いたことで希には気に留める余裕がなくなった。

「わ、私はあの、東条希です」

 こんがらがった結果。お隣さんの質問が頭に残りとりあえず自己紹介する。

「東條・・・・?ああ!あなたあのミューズ!?」

「え、ああはい」

 このお隣さんもミューズのファンなのかと一瞬勘違いしたが、その後のお隣さんの言葉で気づく。

「彼から話は聞いてるわ。といってもそんなに詳しくないんだけど」

「そ、そうですか///」「ええ、ミューズミューズって、ミューズの話しかしないもの」

 希の知らぬところで彼から自分たちの事を話していると知って、多少嬉しハズかしな希。そして奇しくも話題が逸れたと内心でホッとしていたところ、話が詰まらなかったのか海田千早がぐっと顔を近づける。

「で?結局どっちよ」

「あ、そうだ。どっち?」

 海田千早の言葉に思い出したお隣さんもググイッと顔を近づける。

(う、うわー、顔近い近い。ていうか二人とも顔ちっちゃいなー、目もおっきいし。羨ましい) 

 どんどん近付いてくる二つの顔に圧迫されながら希はぐるぐると回る頭で、なんとかこの場を切り抜けようと模索する。

「い、いやそんなことより!雪君の方が心配じゃないんですか!?」

「逃げたな」「逃げたわね」

 ううう、とヨレヨレになりながらそれでも二人も同じ意見だったのかそれ以上追撃されることはなく。

「大ジョブよ。警察もバカじゃないし。事情聴取されてまあ一日、二日で退所ってとこでしょうね」

 その千早の妙な慣れみたいなものに疑問を残しつつも、大方、希と同意見でホッと胸をなでおろす。

「ていうか別に何もしてないし、彼はただの被害者なんだから心配する理由がないでしょ」

「ああ?警察にしょっ引かれたんだから心配すんのは当たり前でしょうが」

「は?だから、そもそもなんもしてないんだからなんもないでしょって言ってんの」

 ああ、せっかく雰囲気が殺伐としたものから柔らかくなりそうだったのに、一瞬でまたバチバチとやりあうバトルロワイヤル状態となってしまった。

 この二人、きっと根本的な部分でそりが合わないんだろう。似た者同士にも見えるけれど。

「そ、そういえば。千早さんはなんであそこにいたんですか?」

 彼と、彼の父親が揉み合っていた時、丁度タイミングよく表れたのが彼女だった。お隣さんは分かる。そもそもお隣なのだし、帰ってくる時間だっていつも通りだった。偶々こっちが居合わせたという感じだ。

 だけど、あの場所でただ一人。この人だけが不可解だった。彼の反応から見るにもともと家で交流があったようでもなかったし。

「別に。当たり前でしょ。そもそも会ってたんだから」

「え?」

 意味が分からず希は聞き返す。

「雪には言わないでね」

 彼女はそう前置きすると、ぽつぽつと口を開いた。

「最初ね。こっちに来た本当の目的は、旅行じゃなくて、あの人だったの」

「あの人って、雪君のお父さんですか?」

「そう。まあもう薄々気づいてると思うけど、あの人、私の父親でもあるの」

 ということはつまり―――――――――。

「うん。あの子は―――――――――――海田雪は私の弟」

「―――――――――。」

「私ね、ちっちゃい頃。捨てられたんだって話は前にしたよね。それからずっと孤児院で育てられて、中学の時、雪にあった。なぜだかね。本当になぜだか会った瞬間分かったの。あ、この子私の弟だって。顔も名前も覚えてないのに、分かったの。それから高校生になって、親切な人に拾われて、会ってみたくなって。私を捨てた人に。何を言おうかなんて考えてなかった。ただ、会ってみたかった」

「で、会った感想はどうだったの?」

「散々。会うまで何言うか考えてもなかったのに、会った瞬間汚い言葉ばっか湧いてきて、なんで捨てたのとか。聞いたって仕方ない、傷つくってわかってるのに、止められなかった。そしてあの人は逃げた。元から様子が変でなんだか虚ろだったから、一応後を追いかけてたらここにたどり着いたってわけ」

 そこまで言うと一つ息を吐き出す。真っ暗な夜空に、真っ白な息が浮かんで、消えた。

「――――――結構ね。似てるの」

 希は最初は何の話かわからなかったが、すぐに雪の話だと気付いた。

「なんとなしの仕草とか、ちょっとした言動とか、まつ毛の長さとか、自分でも気付かないところとか似てるの。あー、兄弟なんだなって。そう感じるの」

 彼の事を話している千早はさっきよりずっと表情が柔らかい。きっとこっちが本来の彼女の顔なのだろう。

「・・・・・・言わないんですか?」

 さっきも言わないでと釘を刺された。それが希には引っかかった。言わない理由が見当たらないからだ。

「私達ね。中学の頃ほとんど毎日、毎時間一緒にいた。そんだけいれば秘密の一つや二つは知る機会あるでしょ?でもって普通聞くでしょ?でもね、あの子は聞かないの。なんにも。まるで何もなかったかのように次の日にいつも通りの振る舞いをする。これは私の勝手な推測だけど、あの子には寄り添うモノがなかったんだと思う。だから無理やり私を添え木にした。その添え木が揺らぐのが、居場所が変わるのが怖かったんだでしょうね。だから、知ることを拒絶した。知らなければ変わることはないから」

 希は、雪の中学時代を知らない。知らないけれど当時がどれだけひどいか予想はできた。

「・・・・だけど、雪は変わった。いや、元に戻ったんでしょうね。だから、もし彼が知ろうと努力してるのなら、知ってもらおうと頑張っているのなら。手伝ってあげて?あなた達が」

 それは言外に、自分からは打ち明けないと、そう言っていた。

 中学時代の彼と付き合うのは、そうとう辛かったはずだ。例え変な事情を抱えていなくても。打ち明けようとしても、相談しようとしても、なかったことにされてしまうのだから。そのひどかった彼と三年も付き合ってた彼女を、それでも笑顔で昨日今日会った他人に預けられる彼女を、希はただ純粋に尊敬した。

 そして――――――。

「それは勿論、言われなくてもそうするつもりです。雪君には助けられてばっかりだから、今度はこっちの番だから。でも、この件に関しては私達の口からは言えません。たとえ雪君に聞かれても」

「――――――そう」

 それだけを言い残すと、それっきり千早は夜空を見つめて、静かに帰って行った。

 彼女がどうするかはわからない。彼女たちがどうなるかは、わからない。けれどきっと希ができることは、もうない。

「・・・・・・もう遅い。今日はうちに泊まってきな」

「え?いいんですか?」 

「ここで寒空の下ポイするほどお姉さんは鬼畜じゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 留置所。そこに、海田雪はブチ込まれていた。いわゆる刑務所ではないものの、詳しくない彼にとっては一緒だった。

 何回も取り調べされて、分かったことがいくつかある。

 まず罪状の事。

 雪は完全なる被害者、目撃証言多数、証拠も十分だったので変な罪には問われないらしい。 

 そして父親の事。

 まず、あの日の夜。父親は闇金に手を出していたらしい。それであの日は闇金の取り立てに追われていてあんなに切羽詰まったようにお金をせびてきたわけだ。それ以前の家に顔を出していないこともこれで納得できた。

 そして二つ目。クスリ。なんだかどこかおかしいとは感じていたが、薬物に手を出していたらしい。どこでどんな方法で手に入れたかは現在調査中らしい。

 三つ目、罪状。

 まず器物損壊。アパートのいたるところがナイフで切り刻まれていたらしい。きっと家に上がる途中で傷つけたんだろう。 

 次に覚せい剤取締法違反。

 そして最後に傷害罪。

 彼は、包帯で処置してもらった右肩をさする。痛みはない。

 それが、彼が警察から聞かされた父親の全貌だった。

 コツンと、灰色の侘しい壁に頭を預ける。

 結局、なんだったんだろう。彼が悩んでいたものすべては、なんだったのだろうか。

 決意したつもりだった。決心したつもりだった。理解したつもりだった。それでも打ち明けられなかった。打ち明けようと思って、できなかった。

 結局、そう言うことなんだろう。簡単なことだ。打ち明けたくなかったんだ。打ち明けて、引かれるかもしれないって、避けられるようになるかもしれないって、そう考えたんだ。

 そう考えてたから、打ち明けられなかった。

「はは」

 乾いた笑い声が壁に反響する。隣で寝ていたオジサンがちらりとこちらを睨んだが、気にしなかった。

 変わるのが怖い。このままがいい。このまま知らないまま、知られないままが良い。

 もう戻らない時をぎゅっと自らの膝を抱えて、その日は眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。留置所生活は明日で最後だと言われた。今日は面会もOKなんだそうだ。

 どうでもよかった。なんかすべてがどうでもよくなった。

 父親にとって、自分とはなんだったのだろう。愛する妻を奪った憎むべき存在?ただの奴隷?ストレス発散?

 なんだっていいか。別に。もうきっと会うこともなくなるのだろうから。

 面会の時間だと言われて、面会室に通された。ドラマとかでよく見るまんまでちょっとだけ感動した。

 薄い窓越しに、みんながいた。ミューズのみんながいた。

「面会時間は十五分です」

 見張りの警官が告げる。

「なんで来たの?別に明日退所できるのに」

「そうだけど、来ちゃいけない理由もないでしょ?」

 最初に口を開いたのは絵里先輩だった。流石に九人は狭そうだ。絵里先輩は突っ立っている。

「でも、良かったね!早く出所できて!あ!そうだ出所パーティやろうよ!」

 穂乃果はこんな場所でも穂乃果だった。

「いいねそれ!凛は飾り付けやる!」

「あ、じゃあ私はご飯炊くね」

「うんうん、じゃあ私は・・・・私は食べる担当だね!」

「また太りますよ」

「うわ!海未ちゃんが意地悪言うー。パーティくらいいいじゃん!」

「そういう油断がこの前のような事態を引き起こすんです。またあのダイエットをしたいのですか?」

「うううう」

「――――――まあパーティは明日じゃなくても明後日でもできるし、食べすぎなければ大丈夫よ。ね?雪」

「え?ああ、そうですね、いいじゃないですか。どうでも」

「・・・・・・雪君?」

 花陽が心配そうにこちらを見る。なんだかそれが無償にイラっとした。

「どうでもいいよ。別に。どうでもいい」

「どうでもいいって、みんな心配してるのよ」

 優しい優しい、とろけそうな絵里先輩の声。ガラス越しの声。

「ああ、そうですよね。育ちが良いご高尚な絵里先輩は僕みたいなのにも心配してくれますよね」

「・・・・・・雪」

 違う。こういうことが言いたいんじゃない。俯いたまま、自らの膝を抱えた。絵里先輩の顔が見れなくて。

「・・・・・でもね、違うんですよ。僕は違うんです。皆も見たでしょ?あれが俺の父親。ダメダメで、クズで。僕が必死に隠してた父親ですよ」

「・・・・・・・・・」

 視界に移るのはアスファルトから変わらない。

「俺にはね。あのダメな父親の血が流れてるんですよ。あのクズに育てられたんですよ。そんな僕が、クズじゃないわけないじゃん。今までは上手く隠せてただけなんですよ。むかついたりウゼェって思っても隠してただけ。そう言う人間なんですよ。本音一つ語れない、そんな奴」

 もう分かったでしょ。こんなに醜くて、こんなに醜悪なこんな人間って分かったんだから。もうそこの扉から出て行っても誰も咎めたりなんかしない。

「ああ、もうここで暮らそうかな。飯も意外と美味しいし、あいつがやってくることもないし、金の心配もしなくていいし」

 半分本気でそう言うと、急に何かを殴ったような、鈍い音が響いた。

 びっくりして顔を上げると、そこにはそれまで一言もしゃべらなかったにこちゃんが、ガラス越しに泣きじゃくった顔でこぶしを打ち付けていた。

「アンタ本気で言ってんの!!?何が父親よ!!そんなの関係ないじゃない!どれだけ父親がクズでもあんたには関係ないじゃない!私は少ないけど!ちょっとだけど!あんたの頑張りを知ってる!今考えればどれだけ頑張ってたか、知ってる!そんなあんたがクズなわけないでしょ!!」

 そこではたと自分が泣いていたことに気づいたのか、ゴシゴシと腕で乱暴に涙をぬぐう。

「親で子供の評価は決まらないでしょ。そんなこと言ったら私だって片親だし、あんたに比べれば十分の一にも百分の一にも満たないでしょうけど、あんたには私がかわいそうに見えるの!?」

「そんなの・・・・!」

 見えるわけない。僕は知っている。にこちゃんがどれだけ家族を大切にしているか。どれだけ家族のために頑張ってきたか。本当に心から嬉しそうに家族の話をするにこちゃんが、僕は好きだったのだから。

「僕は、僕は怖い。あのクズの血が流れているのかと思うと。あのクズの考え方が身にしみついているのかと思うと。にこちゃんみたいに理解しようとしたけどできなくて。俺もああなるかもしれないのかと思うと、怖いんです。そうならないように気をつけてきたけど、やっぱりどこかで漏れちゃって、前も、それで海未を傷つけた。今だってそうだし。これからそうならない自信がないよ。みんなを、傷つけたくない。いや。本当はみんなを傷つけて僕が傷つくのが、たまらなく嫌だ」

 僕は変わるのが怖かった。それはみんながどうとかじゃなくて、自分が傷つくかもしれなかったから。みんなが離れて、独りになりたくなかったから。今で十分だったから。みんなが僕を知らなくても。欲は出したくなかった。

 でも、出したくなかったのにどんどん寂しくなっていった。僕はみんなの事知ってるけどみんなは僕の事知らない。誰かの新しい一面を発見するたびにその思いは強くなって。

 寂しいのは嫌で、たまらなく嫌で。決意とか、決心とか、体の良い言葉で片付けて打ち明けようとしたけど。そんな表面だけの覚悟じゃ、打ち明けられなくて。それが僕という人間。取り繕って、塗りたくって、でも結局一番持ってほしいところでぺリぺリと剥がれ落ちていく。

「そんなの当たり前ですよ」

 下がった視線が、海未の言葉で自然とまた上がる。見るとみんな泣きじゃくってひどい顔をしてた。

「誰だって、自分が傷つくのは嫌です。そんなことであなたをクズだなんて思いません。あなたがどれだけ自分の事をクズだって言っても、ここにいるみんなは否定します。それはあなたを見ていたから。みんなちゃんとあなたを見ていてあなたの事を知っていますよ。もしかしたらあなたの知らないことも知っているかもしれません。それほどあなたを見てきたから」

「私もね。雪の気持ちわかるわ」

 真姫ちゃんも我慢しているようだったけど、こらえきれなかったのか涙がこぼれる。

「私、素直じゃないでしょ。素直に気持ちを言ったら全部受け止めなきゃいけない。良い事も悪いことも。もし拒絶されたら、もし嫌なこと言われたら、もし―――――――、もし――――――、そんなことないってわかってるけど、でも止められないのよね。止められたらこんなめんどくさい子になってないもの。でもね、私最近思うの。こんな自分も、自分なんだって。本音を言えない雪も、雪でしょ?変わらないわよそこだけは」

 そんでね、と真姫ちゃんは続きを口にする。

「そう思わせてくれたのは、雪なの。こんなめんどくさい私と、ずっと一緒にいてくれた雪なの。別に素直じゃなくても良いじゃない。素直じゃなくても素直でも、雪は雪よ」

「でも、でも僕は―――――――」

 これだけ言葉をもらって、それでもまだ僕は納得できない。こんな僕が皆の傍にこれからもいていいのか、納得できない。

 日陰から一歩踏み出そうって決めたのに、未だにその一歩が踏み出せないような僕が。

「あのね、雪君。みんな雪君が言うほど良い人じゃないよ」

 ことりがまっすぐに僕を見る。その顔にいつもの笑顔はない。

「みんな汚いくらい嫉妬するし、誰かを疎く思うことだってあるし、嘘だってつくし、嫌いな人の悪口だって言う、たまには意地悪だってする。こんな私達は雪君は嫌い?」

 ぶんぶんと力強く左右に首を振る。

「一緒なんだよ。私達も一緒。そんな汚い雪君も、綺麗な雪君も、全部ひっくるめて好きなの。雪君が、雪君だから好きなんだよ」

「そうだにゃ。大体雪君は難しく考えすぎなんだにゃ」

 凛は笑っているけれど、目じりに涙が溜まってるのが分かる。

「僕は、僕はみんなと一緒にいてもいいのかな」

「あのね、私達は雪君と一緒に居たいよ。いていいかどうかじゃなくて、居たいの。雪君はどう?」

 穂乃果の問いに、今度こそ力強く迷いなく答える。

「居たい!!僕はみんなと居たいよ!当たり前じゃないか!!」

 みんなと居たい。嫌われずにみんなと居たい。寂しくなりたくない。みんなと離れたくない。

「言えたね。本音」

 ああ、そうか。やっとわかった。僕は本音が言いたかったわけじゃない。本音を聞いてほしかったんだ。認めてほしかったんだ。

 みんなみっともないくらい泣いて、顔なんかぐちゃぐちゃになってる。きっと僕も同じ顔をしてるんだろうな。

 でももうそんなことはどうでもよかった。悩んでたこともどうでもいい。父親の事もどうでもいい。

 分かったから。みんなが僕と居たいと言ってくれていることが。僕が、みんなと一緒に居たいってことが。

 僕は欠陥品だ。自分の気持ち一つ確認するのにもこんなにも時間と労力を使う。

 最初は気になったガラスも、今は気にならない。

 みんないる。今なら自信を持って夢に出てきた昔の自分に言える気がした。

 『大丈夫だよ』って。




どうもその日暮らしと名付けられたセミうらやま高宮です。
眠い。次回も頑張るん!
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