ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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変わらない事、変わる事。

 時は少しさかのぼって、穂乃果がみんなで遊びに行こうと呼び出した前日。駅前のファストフード店。

 絵里先輩が亜里沙ちゃんと熾烈な姉妹喧嘩を繰り広げている時、穂乃果からメールで呼び出されたのはこの件だ。そして待ち合わせ場所の駅前へとやってきた。

 内容は言わずとも分かっている。ミューズの今後の事だ。僕を加えて話し合う必要はないと思っていたのだが、呼び出された以上行かないわけにはいかない。

 店に入ると、もう既に僕以外は全員そろっていた。

 勿論、絵里先輩たち三年生を除いて。

「あ、雪ちゃん!おーい、こっちこっち」

 穂乃果の身ぶりに釣れられ何も買わずに席に座る。

「・・・・・・で、何の話」

 先も言ったが、内容は分かってる。だけど、僕をこの会合に誘った理由が分からなかった。

 僕は先日、部室での話し合いで意思表明をしたつもりだ。伝わっていなかったというのならもう一度伝えるまでだが、もし伝わった上での事なのだとしたらやっぱり理由が分からない。

「分かっているでしょう?ミューズの今後についてです」

 海未が当然のごとく今日集まった理由を告げる。

「分かってるよ。分かってないのは、なぜ僕が呼ばれたか。だ」

「そんなの当たり前じゃん!呼ぶに決まってるでしょ!」

 僕の顔が新規くさかったからか、普段より大きい穂乃果の声に、僕はきょとんとする。

 声量に、じゃない。その内容に、だ。

 あまりにもまっすぐで、論理や理屈で固められた補強なんていらない間髪いれずに放たれたその言葉に僕は圧倒された。

 ただ―――――――――――――呼ぶに決まってると。

「―――――――――そっか」

 ただ単純にその言葉が嬉しくて。同じところに立っている気がして。前髪をいじりながら、うっかり下を向いてしまう。

「それより、早く本題に入りましょうよ」

 真姫ちゃんが髪をいじりながら先を促す。

「そうですね。各々よく考えたと思います。これから私達はどうするべきなのか、どうしていきたいのか」

 みんな真剣な目だ。その眼を見ていると、なんとなくわかった。いや、最初からわかっていたのだ。みんなと僕の意見が、違うものになることくらい。

「私は、ここで終わりにするべきだと思う」

「真姫ちゃん」

 分かってる。分かってるはずなのに。情けない声が漏れ出しまって、唇を噛む。

「・・・・雪。私あなたの考えてる事、なんとなくわかるわ。私も、ミューズのおかげで、みんなのおかげで変われたから。ほんのちょっとだけ、些細なことだけど。それでも変われたから」

 そこで、真姫ちゃんは言葉を区切る。

「でもね、だからこそ。私はここで終わりにしたい。アイドルを、じゃなくて、ミューズを」

 そう言って笑う真姫ちゃん、そこにはいつものような羞恥心も、取り繕う言葉もない。

「私も、真姫ちゃんと同じ。私はこのみんなのミューズが好きだから。誰かが入って、誰かが抜けて、そういうんじゃなくて。みんなの、みんなだけのミューズにしたいから」

「私もかよちんや真姫ちゃんと同じだよ?そりゃ、なくなるのは嫌だけどさ。しょうがないじゃん」

「・・・・・・・・・・」 

「どうやら、みんな答えは一緒だったようですね。私も同意見です。一人で、一晩じっくり考えてやっぱり同じ結論になりました」

 海未が、みんなの顔を見渡す。

「待ってよ。まだ、ことりと穂乃果の意見、聞いてないよ」

 無駄な足掻きだ。そんなことは百も承知だ。穂乃果だってことりだって聞かなくたって分かる。

 でも、それでも。僕は聞かなくちゃいけない。たとえ想像してる通りの答えだったとしても、たとえそこに僕が望んだものがなかったとしても。僕は、聞かなくちゃならないんだ。

 そんな僕の意思を汲み取ったのか、ことりが口を開く。

「私も、ミューズはここで終わりにしたい。すべきだと思う。例え、常識から外れていても、例え、それが普通じゃないって言われたとしても、私達にとってはそれが一番だと思う」

「・・・・・・穂乃果は?」

 歯を食いしばって、唇を痛いほど噛んで、そうしないと今にもこぼれそうだった。すべてを聞き終える前に、自分の気持ちが口から吐き出てしまいそうだった。

 そして、最期の穂乃果が言葉を紡ぐ。

「私は、私はね雪ちゃん。最初は学校の為だった。学校が好きで、学校がなくなるのが嫌で、だからその為に、手段としてスクールアイドルを選んだ。これなら学校を救えるかもって、私たちにも何か力になれるかもって。だから、もしあの時スクールアイドル以外の道が見えてたら、私はスクールアイドルにはならなかったと思う」

 そんな穂乃果の表情は言葉と裏腹にとても穏やかで。

「でもね、今は違うの。スクールアイドルが好きで、スクールアイドルのミューズが好きで。ミューズのみんなが好きで。好きだから、だからこそ、ここで終わりたいの。みんなと一緒に。大好きなみんなと一緒に」

 まっすぐに、ただまっすぐに穂乃果は僕を見つめる。昔と変わらぬ、その瞳で。

 いつだってそうだった。どこでだってそうだった。

 穂乃果はただまっすぐに、いつだって自分の考えを通してきた。我儘に、聞きわけがなく、強引で、周りを巻き込んで、いつだって突っ走ってきた。

 ただまっすぐに。

 直してほしいと思うこともあるし、うざったくなる時もあるけれど、その呆れるほどまっすぐな穂乃果に、僕は憧れていたんだ。嫉妬したことも、ある種憎んだことさえあって、自分が醜く、歪んでしまっている自覚があったから。だから、焦がれる程に憧れた。

「・・・・・・・・そっか。じゃあ、僕はその意見には相容れない」

 憧れていたから。だからこそ、僕は真っ向から反対しよう。歪んでたって、醜くたって、批判されたって、彼女たちに嫌われたって。僕は反対する。

 他でもない―――――――――――僕の為に。

「うん。いいよ」

 まっすぐに僕を見ていた穂乃果は柔和に微笑む。

 驚いて、目を見開いて、俯いて、そして僕も笑った。やっぱり穂乃果には敵わないと。

「嫌いになるかもよ?」

「いいよ」

「汚い手を使うかもよ?」

「いいよ」

「みんなを貶めるかもよ?」

「それでも、いいよ」

 穂乃果の顔は変わらない。変わらないままだ。

 

「それでも、変わらず僕と、一緒にいてくれる?」

 

「いつでもどこでも何回でも言ってあげる。――――――――――いいよ」

 

 その言葉に、僕は安心する。バカみたいに言ってもらわないと分からない僕だけど、いつもひどく不安になって信用なんて殊勝なことできない僕だけど。

 その言葉があれば、僕は進める。自分の道を。

「そっか。じゃあそんな穂乃果は嫌いだ。僕はやめてほしくなんかないのに、勝手に決断して良い気になってるみんなは嫌いだ」

 僕の顔は今どうなっているだろう。鏡はないけど、でも笑っていると良いな。笑えていると良いな。

「「「「「「それでもいいよ!だって私達は好きだもん!」」」」」」 

 体を前のめりにしつつ、みんなそろってそう言ってくれる。

「・・・・・・ホント、みんなバカだなあ」

 僕の顔は今どうなっているだろう。鏡はないけど、でも笑っていると良いな。笑えていると―――――――――――――良いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――海。海に行きたい」

 そして時は戻って。

 そう言った穂乃果にみんなは顔を見合わせる。

「海って今から?」

 今日一日いろんなところに回って、もう日は傾きかけている。絵里先輩の心配も当然だろう。

「うん。ダメ、かな?」

 それでも穂乃果は意見を変えない。きっと本当に行きたいところなのだろう。

「うちはええよ。この時期に海ってのもなかなか乙やん?」

「まあ、それもそうね」

 希と絵里先輩が同意したところで、みんなで海に行くことが決定する。

 みんなで駅まで行って。今まさに発車しようとする電車にすんでのところで乗車した。

 ガタガタと揺れる電車。乗車している人数はスズメの涙ほどで。

 みんな思い思いの場所で目的地まで過ごしている。

「穂乃果、心の準備は出来た?」

 座席に座って真姫ちゃんが穂乃果に確認している。

「うん」

 その真姫ちゃんの言葉に、穂乃果は静かに頷く。

 瞬間的に流れる景色を見ながら、横目でその光景を見た。やがて目的地を告げるアナウンスが車内に流れる。

 ――――――――――――――終点だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ~!海だにゃー」

 海に着くや否や、さっそく走り出す凛。そのあとを追いかけるように皆海に走り出した。太陽はすっかり朱に染まりまさに今、海にその身を沈めんとしていた。

 靴底から感じる砂を踏みしめる感触が何とも言えない。さすがにこの時期に海にくる人はいないようで、辺りを見回しても僕たちだけだ。

 みんな思い思いに海を楽しんでいる。冷たい水を掛け合ったり、濡れないようにギリギリで逃げたり。

 そんな皆を見て穂乃果は隣にいたことりと海未に近寄る。顔を合わせて決心を固めたように見えた。

「みんな」

 そして、穂乃果は呼ぶ。呼んでしまう。その呼びかけに、遊んでいたみんなは振り向く。真っ赤に照らされたみんなの顔がこちらを見ていて。このまま、きっと穂乃果は昨日みんなで話し合った事をそのまま伝えて、それで物語は終わるんだろう。それが、最良の選択なんだろう。

 それがこの物語に取って、最高の結末なんだろう。

 だけど――――――――――――――。

「まってよ」

 だけどさ、僕は嫌なんだ。

 水を差すことになる。邪魔をすることになる。我儘をぶちまける事になる。

 例え最良の選択じゃなくたって。例え最高の結末じゃなくたって。僕は、それでもいいから続けてほしい。

 ただ、続けてほしい。

「うん。待つよ」

 背中を向けていた穂乃果は、振り向いてくれて。そう言ってくれる穂乃果は、きっと。僕がこうするんだって分かってたんだろう。

「・・・・・・つづけるよね?」

「ううん」

 確率が百パーセントでも、例えそこに1パーセントの望みがないんだとしても。

「辞めて、どうするの?名前を変えて形を変えて、アイドル続けるの?それなら今のままでもいいじゃないか。スクールアイドルじゃなくたって、普通のアイドルでもいいじゃないか。そこに何の意味があるんだ」

「意味はあるよ。だって形を変えちゃったら、スクールアイドルじゃなくなっちゃったら、それはもうミューズじゃなくなっちゃうもん。それは、嫌だから」

 卑怯だとしても、破綻していたとしても、みっともなくても。

「ファンは?ファンの気持ちはどうなるの?ないがしろにするんだ」

「ううん。ないがしろになんてしない。絶対納得してもらうように、私達が頑張る」

 それでも―――――――――――――辞めてほしくなんかなかった。

「僕が辞めるなって言っても?」

「うん。だから、雪ちゃんにだって納得してもらう。だって雪ちゃんは私達の一番のファンだもん」

 そう言った穂乃果の顔は、いや、みんな一緒だった。みんな一緒の表情だった。

 違うのは、僕だけだ。  

 寂しいのは嫌だ。辛いのは嫌だ。痛いのは嫌だ。苦しいのは嫌だ。死ぬのは嫌だ。

 嫌で嫌で仕方ない。

 嫌だから、また一人ぼっちになってしまいそうだったから。また誰からも見てもらえなくなってしまいそうだったから。

 僕の中の、やっと認められた光が、消えてなくなってしまいそうだったから。

 だからやめてなんか欲しくなかった。ミューズは僕にとっての土台で、僕にとっての一番太い芯で。僕にとってのすべてだったから。

 辞める事がみんなにとって一番良い結果なんだと分かっていても、みんなの為にじゃなくて、僕の為に、辞めてほしくなんかなかった。

 みんなはこの別れを、成長の糧にして今後も生きて行くことができるんだろう。

 

 なら僕は?

 

 僕はちゃんとその後も前を向いて歩けるだろうか。その後も後悔せずに、引きずることなく。良い思い出として胸にしまっておけるだろうか。

 不安だった。不安で不安でしょうがなくて、怖くて怖くてしょうがなくて。自分に自信がないから。自分がそんな出来た人間だと思えた事がないから。

 だからみんなで集まった時、穂乃果が言ってくれて安心したんだ。それでも僕と一緒にいてくれると。

 だから今日はめいいっぱい、せめて後悔だけはしたくなかったから。持てるすべてを、どうすればいいか考えた結果を、ぶちまけた。

 赤い赤い夕陽が、目に染みて、思わず天を仰ぎ見る。青かったはずの空は、夕日に染まっていた。 

 一晩かけて、どうすれば穂乃果に「やっぱり辞めない」ってそう言わせられるかどうか考えて。考えた言葉達をいともあっさり打ち崩されたのは、心のどっかでは納得してしまっていたからだろうか。今ここで、ピリオドを打った方がいいんだと。

 潮風が靡く。少し肌寒い。

 もう僕の口からは、何も出てこなかった。出てきてはくれなかった。

「それじゃ、改めて言うね。・・・・・・・せーっの!!」

「「「「「「私達はラブライブが終わったら、ミューズをおしまいにします!!」」」」」」

 その言葉が、広い海に響く。どうしようもない事実を、変えられない現実を、噛みしめるように。

「私も、穂乃果の言葉に賛成よ」

「絵里」

「うん。そうやね」

「希」

 希は俯いて、絞り出すように声を出した。

「当たり前やんにこっち。うちが今までどんな思いでミューズを見つめてきたか。どんな思いで名前をつけたか」

 変わって欲しくなくて、変えられて欲しくなくて、ずっとそのままでいて欲しくて、変わらない明日が来て欲しくて。

「でも!でも、やっと、やっと巡りあえたのよ。諦めてたのに、こんなにも!それを、雪の言うとおり、なにも辞めなくっても!」

「だからアイドルは続けるわよ!」

 にこちゃんの言葉に、真姫ちゃんが反論する。

「約束する!アイドルは続けるって!でもミューズはダメなの!にこちゃん達がいないとダメなの!にこちゃんと、私達のものだけにしたいの!」 

「・・・・・・・・真姫。でも」

「もういいよ。にこちゃん」

「・・・・・・雪」

 きっとにこちゃんは僕の為に反対してくれている。惨めでみっともない、最期まで自分しか通さなかった僕の為に。にこちゃんの意思とかけ離れているわけではないのだろうけど、でもさっきの真姫ちゃんの言葉できっとにこちゃんは納得したんだ。背中がそう言っている。だから、これ以上は無粋だ。僕の為に、その想いを汚しちゃいけない。

「あー!!」

「穂乃果?」

 急に大声を出す穂乃果に海未がびっくりして声を出す。

「終電!電車過ぎちゃう!」

「ええ!?」

 穂乃果の突拍子もない発言に、みんなぎょっとなる。

 そして走り出した穂乃果が僕の横を通り抜けて駅へと向かう。

 足が動かずに僕だけは、その場に立ち尽くしていた。

「・・・・・・・・・・なにしてるんですか?」

「海未」

「早く行かないと間に合わないよ?」  

 ことりも海未も、僕の一歩前で手を差し伸べてくれる。

 その二人の手に、僕は延ばしかけた右手を一瞬躊躇しながら、それでも二人の手を取った。

「はい!行きますよ!」「って、もうみんないないよ!早く!」

「――――――――――――――うん」

 この気持ちに名前をつけるとしたらなんていうのだろう。僕にはその言葉が見つからなかったけど、それでも良かった。

 ちゃんと言えて、ちゃんと僕の気持ちを通せてよかった。

 今はただ、本当にそう思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 二人に連れられる形で全速力で駅へと走った。先に来ていたみんなも息は絶え絶え、膝をついたりしながら体力を回復しようとする。

「穂乃果?まだ電車あるわよ?」

 絵里先輩が駅の決して多いとは言えない時刻表を見ながら事実を告げる。 

「・・・・えへへ。だって、あのままあそこにいたら泣いちゃいそうだったから。みんな、泣いちゃいそうだったから」

「―――――――――――穂乃果に一杯食わされましたね」

 海未は仕方ないという風に腕を組む。

「もっと海見てたかったにゃー」

「あはは、ごめん」

 ぺろっと舌を出す穂乃果に、どうやらみんなしてやられたようだ。

「―――――――――――ねえ、みんなで写真撮らない?」

「あ、じゃあ携帯あるよ?」

 花陽がポケットから携帯を取り出そうとすると、穂乃果がそれを制止する。

「そうじゃなくて、あれで」

 穂乃果が指をさすその先には、駅に備え付けられていた証明写真が。

「ちょ!押さないでよ!」

「もっとそっちに行ってにゃ!凛が入らない!」

「ていうか、流石に狭くないかしら?」

「まあええやんえりち」

「もっとしゃがんだ方がいいよね?」

「どうでもいいいから早くしなさいよ」

 みんなが狭い箱の中でぎゅうぎゅう詰めになりながらそれでもなんとか体制を整えている。

「ほら!雪ちゃんも早く!」

「え?」

 僕は、一人。その狭い箱の外側でその様子を眺めていたのだが、箱から顔をのぞかせた穂乃果に催促される。

「いや、僕は・・・・・・・」

「まーたそんなことを言っているのですか雪は」

「海未」

 だって、だって僕はミューズじゃない。ミューズのファンだけど、ミューズではないんだ。だから感覚を、思い出を共有しようというこの箱の中に、僕は入っていいのかどうか。分からない。

「入っていいに決まってるでしょ」

 僕の顔を見たことりは、簡単に箱から出てきて背中を押す。 

「確かに雪君とは一緒にステージに立ったことないし、一緒に踊ったことないし、一緒に歌ったことないけど。でもだからって思い出がないなんてことない。分かち合ったモノがないなんてことない!」 

「でも、僕はみんなの気持ちを邪魔したよ?」

 揺れる仕切りのカーテンの前で、僕はそう吐露する。

「それでもいいよって言ったでしょ?忘れたの?」

 カーテンを押しのけて、穂乃果が、僕の手をとって箱の中に引き入れる。こんなにも簡単に、こんなにもあっさりと。

 箱に入るとみんなが待ってた。笑顔で待ってた。

 

 

 

 

 

 

「なんで僕が真ん中なの?」

「雪ちゃんがなんか言ってるにゃ」

「ほら見て!希の顔、にこの髪が髭みたいになってる」

「凛ちゃん顔が切れてるよ」

 駅構内まで歩く。証明写真を見ながら笑いあって、なにかをごまかすように、吹き飛ばすように笑いあって。そして、その笑いはやがて湿り気を帯びてくる。

「ふっ・・・・・ぐっ・・」

「かよちん、なんで泣いてるの?」

「だって、あんまりにもおかしくて」

 そう言う花陽は、何かが決壊するように両手で顔を覆う。

「何泣いてんのよ。泣かないでよ。泣かないでってば・・・・・」

 気づくと、みんな泣いていた。みんな声も憚らずに泣いていた。

「なんで泣いてるの?みんな、変だよ」 

「穂乃果ちゃん」

 僕はそこでようやく気付いた。あんまりにも簡単で、あんまりにも当たり前の事に。今まで気づかなかった事に。

 ・・・・・・・・彼女たちの方が、辞めたくないはずなのだ。

 考えてみれば当たり前、誰もが分かるはずの事を。僕は今さらになって気づく。

 僕が辞めてほしくないと思うように、彼女たちだって、出来る事なら辞めたくなんかないのだ。終わりになんか、なってほしくないのだ。

 でもしょうがないからと、卒業してしまうから。変えがたい事実だから。だから、今まで涙をのんでそれでも一番良い方法を模索して、ようやく出来た答え。

 それが、ミューズを自分達のものにする。それがせめてもの救いであればと。そう答えを出して。

 ―――――――だけど、最後の最後に。止める事が出来なかった。ごまかす事が出来なかった。自分たちの思い。苦しくて、悔しくて、どうにもならない想い。

「何よ。なんでみんな泣いてんのよ」

「にこっち」

「何よ!泣かないわよ!私は泣かない!」

 希がにこちゃんを抱きしめる。強く。強く。

 やがて、むせび泣く声が一つ加わって。 

 人生とは理不尽だ。願った願いは叶えられないし、欲しいおもちゃは手に入らない。 

 思い通りになった事なんて一度だってない。駄々をこねたって、策を弄したって、どうにもならないものがある。それが現実で、どうしようもない現実で。

 だけど、苦しいけど。僕らはそんな現実に生きて行かなきゃいけない。苦しいほど理不尽な、だけど狂おしいほど愛してるこの人生を。これからも、前に進まなきゃいけない。

 みんな、泣いている。だけど、僕は泣かない。泣いちゃいけない。僕だけは。

 なにが自分の気持ちを言えてよかっただ。何一人ですっきりしてるんだ。とんでもないバカだ僕は。

 だから僕は泣いちゃいけない。泣いちゃいけないから。せめてちゃんと胸に刻みつけておこう。苦しいから。悔しいから。どうにもならない現実が、自分の人生が、悔しくて悔しくて悔しくて。悔しいから。

 だからせめてこの光景を、忘れないようにしよう。 

 赤い赤い夕陽が目に染みて。僕は空を仰ぎ見た。

「・・・・・・ああ、本当に人生ってやつはままならないな」 




どうも高宮です。
ホークス優勝やったね!危なげなく今年のホークスの強さを象徴したかのような試合でした。
とまあ、そんな話はどうでもいいんですけど。このssも終わりが見えてきて、ホッとするような寂しいような。
とにもかくにも、最期まで全力で走り去りたいと思いますので今後ともよろしくです。
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