ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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EX 父は大抵娘を愛しすぎている

 いつの間にか、僕はみんなの家を順番に回るという不文律が出来上がっていた。

 それは最初、僕が家を追い出されたのを哀れに思った穂乃果が「家がないならじゃあ穂乃果の家に来ればいいじゃん」という現代におけるマリーアントワネット的な解決方法を編み出したからであった。

 決して僕が女の子と一つ屋根の下で過ごしたいと思っていたわけではない。事実、家を見つける間のほんの数日間のはずだった。

 それがなぜかいつの間にかみんなの家を巡るちょっとしたホームレス状態になるなんて。

 甘えていた部分もあっただろう。暖かい家庭、暖かいお風呂及び暖かい料理。なにもせずともそんな贅沢ができることに、多少の甘えはあったと思う。

「あったと思いますよ僕も。でもね、これはあんまりじゃないでしょうか!」

 僕の言っていることが読者諸兄には何のことかわからないと思う。だから説明しよう。

 僕がいるのは海未の家。穂乃果→希→絵里先輩→ことり→海未という順番で今のところローテーションが回っている。ちなみに次は花陽らしい。そこから先は例によって教えてもらってない。

 そして僕の目の前で威厳たっぷりに鎮座しているのは三日ほど前に海未の家に来てから初めて会った海未のお父さん。  

「お父さんなどと呼ばれる筋合いはない!」

「いや言ってねえ!」 

 そこ地の文だから!読んじゃダメなところだから!

 ・・・・・・・話を元に戻そう。 

 つまりどういう事か、僕は海未のお父さんから目の敵にされているのだ。それはもう親の仇かというぐらいに。

 そのせいで色々と弊害というか、実害めいたものが起きている。

 今現在悩まされているものがそれだ。

 目の前にあるのは朝ごはん。海未の家は道場で主に剣道を扱っている。その所為か、いや完全にその所為であるが海未のお父さんから毎朝稽古をつけられていた。それはもう朝起きるのが嫌になるほど。

「男子たるもの強くならねばならん。強き肉体と強き精神には健全な魂が宿るのだ」

 何それ?どこのソウルイーターよ。

 と、ツッコもうものならあとさらに三十分は余計にしごかれるので黙る。 

 まあそれはいいのだ。今問題なのは朝ごはんの方。

 海未のお父さんにしごかれ、おなかも減っている。そこで出された朝ごはんがお米とたくあんとみそ汁。

 

 

 

 なにこの平安時代?タイムスリップしちゃったの?

  

 

 

 って疑うくらいに質素な朝ごはんだった。

 正直に言って食べ盛りの高校生男子だ。普段ならいざ知らず、朝稽古終わりでしかもここは自分の家じゃない。普段よりちょっと期待した朝ごはんがこれ。こんなんじゃ全然足りない。もうそれは笑っちゃうくらいに足りない。

 美味しいんだよ?味そのものは美味しいんだ。お米もなんかキラキラ光り輝いていて、噛めば噛むほど甘みが出るし、たくあんとお味噌は自家製らしくびっくりするほど美味しい。

 けれど如何せん量が少ない。少なすぎる。

「あはは、どうした!物足りない顔して」

 ニタァと意地悪い笑みを浮かべるおじさんに、僕は反論できない。居候であり食べさせてもらっている身である僕が何かを言える立場にないのだ。

「もう!やめなさい!」

 すると今度は清楚な和服に身を包んだ正に大和なでしこといった雰囲気の女性がおじさんの頭を思いっきり床にたたきつけた。ガッシャンという音が痛々しい。

 僕は何事もなかったかのように残っているお味噌汁を最後まですする。美人でいかにも良いとこのお嬢様みたいな海未のお母さんは意外とすぐに手が出る人だった。

 最初はそのギャップにそれはもうビビったが、もう慣れた。

「ごめんなさいね。雪さん。この人海未を取られて嫉妬してるのよ」

「とられてなどない!海未はこいつのものなんかじゃないぞ。俺のものだ!」

 いやあんたのものでもないよ。僕のものでもないけどね。

 ちなみに海未は寝ている。初日におじさんの執拗な稽古攻めから僕をかばってくれたおかげで今はおじさんが海未に隠れて僕をしごくようになった。どれだけ僕を疲弊させたいんだこの人。風雲上たけしかお前は。

「本当ごめんなさいね。食費までもらってるのに」

 そういって海未のお母さんはウインナーや卵焼きなどザ、朝食。といったおかずを持ってきてくれる。

「別にいいのよ食費は。どうせ将来一つの財布になるんだから」

 ことりと、目の前に食器を置く。言ってる意味はよくわからなかったし、何より今はおかずに意識が注がれている。

「ふざけるな!海未はこいつにはやらん!」

 おお、リアルで初めて聞いたそのセリフ。本当に言う人いたんだ。

「大丈夫ですよあなた。婿だから」

「何が!?」

 なにが大丈夫なの!?あと婿は決定なんですか!?おじさんにいびり倒される未来しか見えないんですけど!?

 内心で盛大にシャウトしつつ、とりあえずおかずに対してお礼を言わなければ。

 

 

「ありがとうございます!おばさん!」

 

 

 あ、しまった。

「――――――――――――、」

 おばさん、いや、海未のお母さんは周りの空気を一気に緊張させる。

 ピシッとラップ音が鳴った。

 誰がどうどの角度から見ても怒っていた。海未のお母さんはおばさんと呼ぶと物凄く怒る。それはもう怒る。未だになんて呼べばいいのか見当がつかない。一度お姉さんと読んだら今度は海未が怒った。完全に詰みである。

 あまりの恐ろしさにひゅぅと僕の喉の奥で音が鳴る。この家族は全員どこがネジがぶっ飛んでいると思う。

「・・・・・これは」

 ゆらりと立ち上がったおばさん、ならぬ海未のお母さんは背景にどす黒いオーラを纏いながら一度出したおかずが乗った皿が乗った手を引っ込めると。 

「もういりませんね?」

「ご、ごめんなさい」

 そういうしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、海未。朝だよー」

 結局おかずをもらい損ねた僕は海未が寝ている襖を開ける。海未は寝起きが悪い。ので僕が起こしに行くのだ。まあ罰ともいう。

 けれどこればっかりは仕方ない。おばさんを怒らせた僕が悪い。そう思わないとやってられない。

 襖を開けるとまだ海未は寝ていた。羽毛布団を頭までかぶり、顔が見えないがもっこりとそこだけ膨らんでいた。よくあれで寝れるなと思う。息苦しくないのかな。

「おーい、海未」

 ゆさゆさと海未を揺さぶる。できるだけ優しく、できるだけ機嫌よく起きてもらうために。

「―――――――――――――――っんん」

 布団一枚挟んだ向こう側でぐぐもった声が聞こえる。ああ、なんか嫌な予感がするなぁ。

 と思いつつもここでやめても意味はないのでなおも揺さぶり続ける。きっと凄く機嫌が悪い。声でわかる。

 どうやらその予感は的中したようだ。

「・・・・・うるさいなあ」

 いつもより何倍も低く、怒気のこもった寝起きの声で海未は目を覚ます。

「・・・・あれ?雪?なんで雪?」

 寝ぼけ眼でまだ意識が覚醒してない様子。ああ、なんだか真姫ちゃんの別荘に合宿した時を思い出す。あれ?これ、走馬灯じゃないよね?大丈夫な奴だよね?

 海未は半目で僕を捉えるとおもむろに両手を僕の顔に近づける。

 ああ、なんだろ。なにされるんだろ。

 ぎゅっと固くつむった目の奥でそんなことを考えていると、その両手は僕の顔を飛び越えて肩に回された。

「あれ?」

 驚いて閉じていた目を開くと、そこには寝ぼけている海未。顔はふにゃっとだらしない。まるで大好きな物を手に入れたような、恍惚とした表情だった。

「ふへ、雪」

 なんか物凄い力で布団へと引っ張られる。ああ、この力強さは母親譲りなんだなと場違いな感想を持った。

「雪、ゆき。ゆきー」 

 すりすりと頬を寄せてくる海未。なんだこれ?何がどうなったらこうなるんだ?

 怒られるかぶたれるかぼこぼこにされるかのどれかだと思っていたのに、なんでこんな?あれ?

 寝起きで若干汗のこもった匂いと、女の子特有の甘い匂いで頭が支配される。そして同時に思う。これをあのおじさんに、海未を溺愛していると言ってもいいおじさんに見られたら、僕は殺される。冗談ではなく本当に、完全犯罪的に殺される。この世に塵芥の一片も残さずに殺される。火サスになる。

 それにしても、寝起きの海未がこんなにも豹変しているとは。いつもは見せないような満たされた表情だ。 

 いかんせん、なんとかおじさんに見られる前に脱出しようと先ほどから画策しているのだが、完全に後ろで腕を決められているせいか、ついでに朝ご飯を食べ損ねたことも影響してか動けない。割合的には3対6で後者の理由が主だ。無意識でここまで強い海未、流石だな。

「ゆき?ゆーきー」「わひゃあ!」

 僕の反応が面白くなかったのか、海未は突然僕の肩を噛んできた。ていうかいい加減に起きてよ!

 肩をアマガミしチューチューと吸っている。何これ⁉なにこの状況!?くすぐったい、凄いくすぐったい!

 一応じたばたと抵抗してみるも、さして効果はない。まるで苦手なタイプのポケモンに出会ってしまったかのような絶望感だ。他に手持ちもいない。 

 観念してなすがままにされていると、ようやく海未が口を肩から話してくれる。糸を引いた唾液をぬぐう姿がなんだか、こう、エロい。

 しかし、それを堪能する間もなく海未は再度僕を引き寄せる。体と体が密着して、なんだか熱い。引き締まった体とそれでも感じる男との違い。女の子特有の柔らかさに意識を持っていかれる。

 そうだ。海未は女の子なんだ。

「・・・・ん」

 今度は子供のように、頬をぷにぷにしてくる。なんだかその行為が微笑ましい。海未の表情は穏やかそのもので、今まで見たことないなぁなんて思ってみたりもする。案外余裕あるな僕。 

 と、思ったらどんどんそのぷにぷにが力強さを増していく。ぷにぷにからぶにぶに位には強く、確信的になってきた。

 ぶにぶにぶにぶにと何度も頬をつねってくる。まるで何かを確かめるように。

「・・・・・・・・」

 いつの間にか、海未の顔は見たことのなかったそれではなく、いつもの凛としたきりっと涼やかな表情へと変貌していく。目に意識が宿るのを感じた。

 ああ、起きたんだな。って、瞬間的に悟る。

 僕の体の下敷きになっている海未はだらだらと冷や汗をかきだしたかと思うと、焦ったような表情からすぐに顔が真っ赤になったり、コロコロと表情が変わる。ちょっと面白かった。

「・・・・・・・忘れて」

「ん?」

「忘れてください」

 掛け布団を顔に引き寄せる海未は消え入りそうになった声でそう言った。

「んー、無理かな」

 けど残念ながら、僕は困った笑顔でそう返す。あんなにインパクトのあったものそうそう忘れられるわけがない。

「な、なんで!」

 海未が泣きそうになった声で糾弾してくる。

「なんでいつも、雪には私の恥ずかしい姿を見られてしまうのですか!」

 いや、僕に言われても知らないけど。そういえば過去にもラブアローシュート事件があった。あれは確認しなかった僕にも責任があると言われればあるようなないような、いやないな。

 まあとにかく今回僕に非はない。はず。

 問題は、それをあのおじさんが素直に聞いてくれるかどうかだが・・・・・・・。

「ううっ・・・・・」

 ガチ泣きだった。

「え、ちょ、待って待って。なにも泣くことないじゃん。大丈夫だよ。可愛かったよ」

 僕としては最大限フォローしたつもりだったのだが、どうやら火に油を注いでしまったようだ。海未の顔が燃え盛る炎のように赤く揺らめいている。

 

 

 

 ガンッ!!

 

 

 

 そして、最悪のタイミングで最悪の予感が当たった。

「貴様、何をしている?」 

 振り返ると仁王立ちのおじさんの図。そして僕は海未を泣かせている挙句、押しかかっているように見えるだろう。

 恐れていたことがついに。

「ふぅ・・・・・・」

 ため息をつく。これからの憂鬱な時間を考えるとため息の一つも付きたくなるものだ。

「じゃあ僕はこれで!」

 だから厄介になる前にさっそうと逃げることにした。

「マテ」

「ですよねー」

 のだが、ふすまのところでおじさんに首根っこをつかまれる。ああ、もう嫌だなー。

「ナニヲシテイタ」

「違うんです!起こそうとしたらなんやかんやあって偶然あんな状態に!」

「グウゼンデウチノムスメガナカサレルワケガナイダロウ!」

 わあ!言い返せない!だって正論だから!あとなんでさっきからちょっとカタコトなの!?読みづらくてしゃーないんですけど!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ拷問の始まりだ」

 そう言って用意されていたのはアイアンメイデンと石抱。石抱とはギザギザした三角木材の上に正座させ、その腿の上に石を積んでいく立派な拷問器具だよ♪

「なんでだあぁぁぁぁ!」

 なんで拷問器具がさも当然みたいな顔で鎮座ましましているの!?なんでアイアンメイデン!?和洋折衷過ぎるだろうが!その和洋折衷はだれも望んでないよ!

「さあ早く!」

 おじさんはアイアンメイデンを愛でながら手をこまねいている。

 

 

 やれってか!?あれをやれって言ってんのか!?おい!だれが折ってくれ!あの腕誰か折ってくれ!真逆の方向に!こうグリって!

 

 

「ふざけるな!普通に死ぬわ!」

 ただの虐殺だよこんなもん!不当だ不正だ却下だ撤廃だ! 

「あ、逃げるな!」

「ゆ、雪!」

 ちらと海未が見えた。が気にせず隙を見てダッシュで逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ」

 なんとか海未の家から脱出し、一息つく。危なかった。あのままだったら完全に殺られていた。

「雪!」

 ビックウと体が驚きで飛び跳ねる。まさか追ってきたのかと思ったが、その疑いは一瞬で取り払われた。

「海未」

 振り返り、そこにいたのは同じく走ってきたであろう海未だった。そもそもあのおじさんは僕のことを雪だなんて呼ばない。

「どうしたのですか雪。急に走ったりして」

 どうしたのですか?

「そんなの決まってるだろ!殺されかけたからだよ!」

 あんなモノホンでガチな拷問器具持ち出されたら誰だって逃げるわ! 

「殺されかけた?」

 何言ってるのこの人って顔してる。そりゃ海未はちらっと見ただけだろうけど、でも本当に僕は殺されかけたんだ。

「何言ってるのこの人?」

 口にも出された!

「海未は知らないと思うけど海未のお父さんは僕のことをすごく嫌っているんだ。今朝も朝ご飯をピンハネされたし、さっきだって拷問されかけたし」

 先ほどまでの光景を思い出し、わなわなと両手が震える。このままあそこにいたら僕は確実に殺される気がする。

「何を言っているのですか?確かにちょっと私のお父さんは雪を誤解した目で見ていましたが、何も殺されるなどということはありません」

「いや僕もそう思いたいよ!でも現実!目の前にリアル拷問器具を持ってこられたらもう何も言えないよ!」

 僕の必死の訴えにも、海未は瞳を閉じたまま凛としている。

 昔、穂乃果とことりと海未と毎日のように遊んでいたころ。穂乃果とことりの家には遊びに行っていたのになぜか海未の家には遊びに行かなかった。  

 それを僕は特に不思議に思わなかったけど、きっとそういうことなんだろう。僕を連れて行ったらあのおじさんがああなると、穂乃果たちは知っていたんだ。

 数年越しの穂乃果たちの思いが僕に届いたところで、僕は海未に別れを告げていた。

「とにかく!居候させてもらっておいてこんな事をいうのはアレだけど、僕はもうあの家には戻らない」

 次戻ったら今度こそ抹殺されそうだ。

「そ、そんな!まだ三日しか経ってないんですよ!?」

「三日しか経ってないからだよ!」

 三日しか経ってないのにこの惨状だからだよ!

「ず、ズルいです!」

 いや何が!?

「お父さんはそんな人ではありません。話せば分かってくれます」

 それは海未だからだよ!海未だけだよ!

「なんなら私から話します」「やめて!お願いだから!」

 逆効果だから!

「と、とにかく!戻るんです!雪と一つ屋根の下で一緒に過ごすんです!」

 なにか、趣旨が変わっているような気もするが、気にする余裕は今の僕にはない。

「もう正直に言う。いやだ!」

「な、なぜですか!」

「さっき言ったよね!?」

 なんだか、二人とも会話中に次第に熱を帯びてきたようで言い合いの模様を呈してくる。

「じゃ、じゃあ私の家を出て行ってどうするんですか!」

「それは・・・・花陽の家に行くか、穂乃果の家に泊めてもらうよ」

「だ、ダメです!」

「なんでさ!」

 頭ごなしに否定されてちょっとムッとなる。

「だ、ダメなものはダメなんです!」

 ぎゅっと固くこぶしを握る海未。意志は固いという表れか。

「海未に言われる筋合いはない!」

 その固さに呼応するように、また僕もどんどん意固地になっていく。

「もう!なんなんですか!私、せっかく頑張ろうと思ったんですよ!それなのに・・・・・」

 海未は固く握りしめたこぶしを開くことなく、走り去っていってしまう。

 いったいなんだというのだ。

 逃げていたのは僕のほうだったのに、いつの間にか立場が逆転していた。

「なんなんだよ・・・・・」

 ただ一つ違うのは、僕は追いかけなかったということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなんだなんなんだよなんだっていうんだよ」

 ずんずんとあてもなくぶらぶらと歩く。

 先ほどの海未が頭にこびりついて離れない。どれだけ考えても海未が走り去っていった理由がわからなかった。

「ぶべっ!」

 下を向いて歩いていたせいだろうか。前を歩いていた人にぶつかる。

「あ、すいません」

 押し倒してしまったのですぐさまに謝る。

「ああ、大丈夫ですよー?」

 ほんわかした聞き覚えのある声、甘い匂いがする人物に僕は心当たりがあった。

「ことり?」

「あれ?雪君」

 ぶつかったのはことりだった。後ろに穂乃果もいる。

「雪ちゃんじゃん!どうしたの?なんか急いでたけど」

「・・・・・別に」

 僕はおもわずそっぽをむく。なんとなく、二人に先ほどのことを話すのは躊躇われた。

「じゃあ僕これで」「待って!」

 ことりを抱き起して颯爽と立ち去ろうとしたその時、繋いだままの手を思いっきり引っ張られて足止めされる。なにこれすげえ力。

「・・・・・・これはなに?」

「え?」

 そういったことりの視線の先は、僕の首元。

「・・・・赤いね。まるでキスマークみたい」

 ことりの指摘に、穂乃果が冷静に分析する。なんだか怖い。主に目が。

 こころなしかあたりの気温がぐっと冷えた気がする。 

 

 

 

「「どういうこと?」」

 

 

 怖い怖い怖い!二人の顔が同時に迫ってきて僕はとてつもない恐怖を感じる。

「これは、その・・・・・」

「なんで言い淀んでいるの?なにかやましいことがあるの?」

「いや、そういうわけじゃ・・・・」

「さっきから何か隠してるよね。雪ちゃん。わかるよ。匂いで」

「匂いで!?」

 隠し事してる匂いってそれどんな匂い!? 

「ねえ、女?女なの?」

 ことりがぐいぐいと首元を絞めてくる。苦しい。ていうかその女って言い方やめてもらえる?いやに生々しいから。

「ちが、違うよ。海未にやられたんだ」

 この現状を脱出すべく仕方なしにそういうと、ことりはぱっと力のこもった手を放した。勢い余って僕はちょっとよろける。

「「なんで!?」」

 あれぇ?本当のことを言ったのに余計激しくなってる!余計目がきつくなってる!

「ちょっとまってわかった!わかったから!ちゃんと説明するからその目やめて!」

 心臓が知事まりそうになるからその目!

  

 

 ということでかくかくしかじか。

 

 

「なんだ!そういうことか!・・・・・じゃないよ!」

 あれぇ?ちゃんと説明したのにまた怒られてる!?

 ぷんすかと怒る穂乃果に僕は冷や汗もの。

「ん」

「ことり!?」

 ことりはというと、僕の首元に唇を近づけている。何してんのこの子!?

「いやだって、ちゃんと上書きしないとでしょ?」

 なにそのそれが当然でしょみたいな顔!やめてくんないそれ!?きょとんと小首をかしげないでくれます!?

「と、とにかく!そういうことだから、穂乃果さ、ちょっと家に泊めてくれない?」

 強引に話を元に戻す。このままことりたちに主導権を握られていたら何されるかわからない。

「それは、いいんだけど」

 穂乃果はなんだか渋っている様子。さすがに図々しすぎたか。

「ううん。そうじゃなくて、やっぱり海未ちゃん家に泊まるのがいいと思うよ?」

「・・・・・なんでさ」

 僕はちょっとその言葉が不服で、それが自分の言葉にも現れているのを自覚する。

「だって、喧嘩したら仲直りしなきゃ」

 そういう穂乃果の顔はいつもの笑顔。こっちまで勇気づけられる笑顔。

「別に、喧嘩したつもりはないけど」

「そうだよね♪喧嘩っていうよりイチャイチャだよね」

「いや、そのつもりはもっとないんだけど」

「うんうん。昔っから雪ちゃんと喧嘩できるのは海未ちゃんだけだもんね」

 そんなもんだろうか。自分ではよくわからないけど、他の人から見れば案外そんなもんなのかもしれない。海未はお節介だしな。

 ことりと穂乃果が勝手に盛り上がっている最中に僕はそんなことを考える。

「だから、仲直りしたほうがいいんだよ」

 穂乃果に言われて、考え直す。

 まあ?別に?僕も仲直りすることにやぶさかではないし?ていうかそもそもことの元凶は海未ではなく、あの厄介なおじさんなのだ。 

「わかったよ、僕から海未に謝ってくる」

「うん!ファイトだよ!」 

 まったく、本当に不思議だ。穂乃果に言われるとなんでもできる気がする。その気にさせられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 震える手で、インターホンを押す。もちろん海未の家のだ。

 でっかい家にピンポンという間抜けな音が響く。なにげに僕の周りの人はお金を持っている人が多い。これはもう養われるしかないな。確定だな。

『はい』

 しばらくして声がする。海未の声だ。

「あーっと・・・・」

 しまった。なんていうか考えてなかった。

 僕があたふたしていると不意に扉が開いた。海未だ。

「ごめん」

「・・・・・許してあげません」

 正直、自分が何を謝っているのかも、何が悪いのかもわからない。だから、それはあとで教えてもらう。

 ただ、今は謝るだけでいい。

「・・・・ごめん」

「どうせ、私が何に怒っていたのかもわかってないんでしょう?」

「う・・・・」

 全部筒抜けだった。

「もういいです」

 拗ねたような顔する海未。こんな表情はあまり見ないから新鮮ではある。

 いや、そんなこと言ってる場合じゃないな。

「いや、ごめんて。なんか僕もほら、熱くなっちゃったっていうか」

「じゃあ、私が何で怒ってたか40文字以内で簡潔に述べてください」

 めんどくせっ!思ったより海未めんどくせっ!

「無理だ」

 三文字以内で簡潔に述べた。

 扉が閉まる。

「ちょちょちょ!」

「なんですか?」

「いや、なんですかじゃなくて、簡潔に述べるのは無理だけど、でももう一回海未とちゃんと仲直りしたいんだ」

「本当に?」

「うん」

「じゃ、じゃあ!私と一つ屋根の下で一緒に暮らしてくれますか!?」

 ・・・・・うん?

 ちょっと言ってる意味が分からない。

 ぷるぷると両手に力を込めて、今にも僕の答えを待っている雰囲気。

「うん」

 僕がそう答えると、ぱあっと晴れやかな表情になる海未。なに?もうなにがなんだか僕終始わかってないんですけど?

 なんだかうきうきとした海未に家に入れてもらう。どうやら許してくれたようだ。

「いえ、許してはませんよ?」

「違うのかよ!」

 なんなんだよじゃあ!

「これから雪は私に貸し一つです 」

 本当に嬉しそうな海未。まあ、それくらいで許してもらえるなら貸し一つくらい安いものだ。

「あらあらまあまあ。おかえりなさい」

 玄関で最初に出迎えてくれたのは、おばさん、じゃなくて海未のお母さん、

「あら、いちいちめんどくさいでしょう?義母さんでよろしくてよ?もしくは義母上とか義母さんでも可」

「ただいまです。海未のお母さん」

 僕は何かを強調するようにそう言った。そこを譲ってしまったらどんどんなにかに引きずり込まれていく気がしたから。 

「あらあら、どうせ婿になりますのに」

 だから婿は決定なの!?僕の意思は!?

「ちょっと海未からもなんとかいってやって・・・・」

「そ、そんな婿だなんて。ああでもいいですね、園田雪。いい響きです」

 振り返って気づいた。この子僕の話など聞くような状態じゃない。

「そ、それよりおじさんは!?」

 話を変える意味と一番重要なことの二つの意味でそう聞いた。

「ああ、それならあちらに」

 そこには石抱の刑に遭っているおじさんの姿が。

「処されてる!」

 なんで!?なんで僕にかけようとした拷問自分で受けてんの!?

「あの人があんなものを用意するから、それを人様にやるからにはまず自分が耐えきって御覧なさいと」

 海未のお母さんは絶対零度のごとき冷えた目でおじさんをにらみつけている。ああ、本当に怖いのこっちだわ。

「あら、まだ石が残ってましたわ」

 一際大きい石、きっとあれは本当に死んじゃうレベルだからわきに押し込んでいた石。それを海未のお母さんは一切ためらうことなくおじさんの腿の上に乗せた。

「鬼だ!あの人鬼だよ!」

 仮にも自分の旦那さんだよね!?どんな高度なSMプレイやってんの!?

「それより、今日のお昼は親子丼ですよ。早く上がって召し上がりなさいな」

 ああ、それはいい。朝からお腹が減ってたんだ。

 そのことに今気づいた。海未のことで精いっぱいだったから。

「雪さん 親子丼 は好きですか?」

「ええ、ああ。まあはい」

 やたら親子丼を強調するおばさん(心の中だけの秘密)に僕はあいまいに返事をする。

「そうですか、親子丼 は好きですか」

 ふむふむといった様子で得心といった表情のおばさん。なんだというのだろう。

「くそおおおお!俺はこんな石になぞ負けんぞおおおお」

 うるさいおじさんを海未もおばさんも完全に無視だ。ああ、ないと思うけどもし僕が本当に園田家に婿に来たら将来あんなふうになるんだろうか。いやだな、なんか具体的で。

 けれどまあ、家族って感じだ。暖かい家族って感じがする。

 だから、悪くないとそう思う自分がいたってことも頭の片隅くらいには覚えておこう。

「絶対に俺はお前を許さないからなああああああ!」

 ・・・・・・やっぱり忘れたほうがいいかもしれない。   




 うわあああああああ高宮ですうわあああああああ。
 はい、ということでお久しぶりです皆さま。約一か月ぶりでしょうか。
 一か月たつとあれですね、後書に書くことが溜まっていいですね。
 色々ありましたこの一か月。ミューズMステ出演。紅白出場決定。劇場版の円盤もそろそろ発売です。
 嬉しいことばかりでまことに充実していた一か月でした。が、始まりがあれば終わりもある。光があるからこそ影がある。
 ということでミューズが6thで解散というね、非常に切ないような侘しい、ですがどうすることもできないこのやるせなさが襲ってまいりました。
 いやね、いつかは来ることなんですよ。わかってるんですよ僕だってね。でもいざ目の前にするとやっぱり駄目ですね。メンタルのもろさを露呈してしまいます。
 ああ、でも東京ドームですってよ。凄すぎてどれくらいすごいのかよくわかりません。誰かわかりやすく例えて!早く!
 とまあ、お見苦しいところをお見せしてしまったかもしれません。
本家ミューズは解散するのか、解散するする詐欺なのかどっちなのかわかりませんが、例え解散してもこのssはまだあとちょっとだけ続くので、どうかよろしくお願いします。
 次はなんでしょうね、劇場版のネタか、ちょっと飛んで花陽の誕生日企画か、妹編のifか、ヒロイン全員の同棲とか、いただいたネタがまだまだ残ってるし、やりたいこともまだあるし。
 あれやこれやとありますが、次回もまたよろしくお願いします。
 あ、あと区別をつけるために番外編をEXとすることにしました。
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