「どうしてこうなった・・・・・」
やっと、ホームレス生活から抜け出したはずだったのに。
ボロボロの長屋。それでも僕にとっては帰る場所だった。
長屋には空き部屋が十数個。
その空き部屋は今は、もう、半分以上が埋まっている。
「雪?どうしたの?」
それも全部ミューズのみんなで。
「い、いや。鍋美味しいね?」
「あ、当たり前でしょ?私が作ったんだから」
「具材切って入れるだけだけどね」
「うるさい!もう!」
今現在は、正真正銘の僕の部屋。つまり、真姫ちゃんがいる部屋。
最初は真姫ちゃんから始まった。家に連れて行けと言われて、渋々承諾してしまったのが運の尽き。
そこから雪崩れ込むように、みんな家に。それも隠すように別々の部屋へ、上げてしまった。
絵里先輩の言うとおりだ。僕は女の子を家に連れ込んでいる。しかも、九人も。それぞれに内緒で。
自己嫌悪に殺されそうだった。
と、同時に、普段のみんなを思い出してバレても殺されそうである。半殺しは確定だ。
また色々と揶揄されてしまう。それは絶対に嫌だ。
つまり。どうにかこうにか、やり過ごさなきゃいけない。みんながこの狭い長屋で鉢合わせすことなく。飽きるまでうまくやる必要がある。
「あ、あの真姫ちゃんさ。このことは誰にも言ってないよね?」
「このことって?」
「僕の家に泊まってるってこと」
「言ってないわよ。お母さんには友達の家に泊まるって言ったわ」
それがどうかしたの?と、真姫ちゃんは不思議に首を傾げる。
「い、いやほらみんなにはまだこのこと言わないほうがいいと思うんだ。混乱させちゃうだろうし、真姫ちゃんも嫌になったらいつでも帰っていいんだからね?」
やんわりと、それとなくニュアンスを伝える。
「ば、馬鹿じゃないの?///雪ったら、もうそんなことまで考えてるのね。いいわ。予行演習ってことね」
全然伝わってなかった。怖いくらい伝えられてなかった。
なんだか僕の言葉を真姫ちゃんはいいようにとったようで、一人そっぽを向きながらニヤニヤしている。
「だからほら、あんまり外とかも出歩かないでください。用があるときは僕が済ましますから」
「あら?意外と束縛屋さんなのかしら?雪は。でも駄目よ。そういうのは主婦の仕事なんだから」
真姫ちゃんの部屋を出て、数メートル先にいる、絵里先輩の元へ。
説得しようとしたけど、どうやらダメみたい。
「ここら辺はギャングとか裏社会の住人が住んでいる、いわば社交場なんだ。凛みたいな可愛い女の子が外を出歩いたら解剖されちゃうからね」
「か、かわいい!?凛、かわいい!?」
説得、失敗。
「ほら、にこちゃん家の方も大変でしょ?だから、ほら、ね?」
「大丈夫よ。そのうちここあたちも来るし」
「いや来るの!?無理だよ!スペース考えてよ!」
これまた失敗。
「大丈夫だよ雪君♪みんなにはちゃんとしてから報告しようね?(包丁)」
「セリフの前に一回包丁置いてもらっていい?いや、ホント他意はないと思うんだけどね?ちょっと危ないかなってね?」
説得云々以前の問題でした。
「雪、こういうことはちゃんとしておかなければなりません。そ、その私たちは同棲しているということでよろしいですね?///」
「いやよろしくないよろしくない!そんな話したっけ!?」
「違うんですか?では雪はその気もないのに平気で女の子を自分の家に上げるようなクズだったのですか?」
すいません、反論のしようもございません。だってそれ以上のことやっちゃってるもの、×9倍だもの。
これも失敗。
「ほら雪君?ここにサインするだけで雪君は幸せになるんやで?」
「なにその悪徳商法みたいなやり口!サインしないからね!置いとこ!一回結婚のことは置いておこ!」
ここは論外。
・・・・・花陽はとりあえず、スルー。
「あれぇ!?なんでえ!?」
「いや、僕としてはいつまでもいてもらっていいんだけど。穂乃果たちは嫌になったら、それはしょうがないし僕が止める権利は・・・・」
「ねえ雪ちゃん!子供は何人欲しい?穂乃果はね、女の子と男の子が欲しいなって思うんだけど」
「こ、子供とかはちょっと早いんじゃないかな!?それよりもほら!ちゃんと現実的なこと考えて!ホントに家に泊まるの大丈夫!?こんな狭いのに!」
「それでね、今はこんな家だけどそれもほら愛を育むにはいいかなって」
最後も失敗。
「ぜ、ぜ、全滅したぁぁぁぁぁぁぁ!!」
一人も説得できなかった!つーか誰一人として僕の話聞いてねえ。全員僕のことなんか見てねえ。
長屋から少し離れた脇道でがっくりと膝をつく。
何なんだよ。なんで全員居座るつもり満々なんだ。なんで全員同棲気分!?
しかし、嘆いていても仕方がない。
これ以上戦火が拡大する前になんとか穏便に帰ってもらわなければならない。
そのためには、自己犠牲の精神だ。
同棲気分?いいだろう、乗ってやろうじゃないか。そっちがその気なら僕にだって考えがある。
作戦その一。
同棲した彼がめんどくさがり。
「ねえ海未。洗濯しといてよ。あ、あとお風呂掃除もね」
「はい♪」
なぜか嬉しそうである。
失敗。
作戦その二。
「ゆ、雪君?・・・・その、なんでパンツ一丁なの?」
「い、いやー、僕家ではいつもこれだからさー。ごめんね。嫌だったら帰ってもらってもいいからね///」
これは、普通に自分が恥ずかしい。が、仕方ない。
「(パシャリ)」
「なんで撮った!?なんで撮ったの!?」
失敗。即刻消して。
作戦その三。
セクハラ。
「わ、わー」
勇気を振り絞り後ろから、真姫ちゃんを思いきり抱きしめて、布団にダイブする。
「わ!///だ、駄目よ雪。今日はその・・・・・危ない日だから」
ちょっと待ってええええ!!!だからなんでちょっとうれしそうなの!?なにその「きゃっ!言っちゃった」みたいな反応!ちょっと頬を赤らめてるのなんで!?あと危ない日とかいらないから!そんな情報知りたくないから!逆に今日じゃなかったらいいの!?危ない日じゃなかったらいいの!?
これは失敗。絶対失敗!
作戦その四。
マザコンな彼氏は嫌われると以前どこかの誰かが言っていた気がする。
「・・・・・・・」
「どうしたのかにゃ?」
お母さんいなかった!
失敗!
作戦その五。
元カノの話をする彼氏は嫌われると以前どこかの誰かが言っていた気がする。
「それでね、その時ここあがね」
「・・・・・・・」
だから元カノいないって!!
失敗!
作戦その六。
シスコンな彼氏は以下略。
「それでね、姐さんがずっと僕を支えてくれていたんだ。だから今の僕があるんだよ」
「そっか。良かったね。雪ちゃん、お姉さんに感謝だね。その内穂乃果も挨拶に行くからね!」
・・・・・・いや作戦じゃねえよコレ!!普通の話になっちゃったよ!!
作戦その七。
同棲した彼氏が甘えた。
「ねえ絵里先輩ー。膝枕してよー」
もう恥じらいとかなかった。
「もう、しょうがないわね雪は」(ナデナデ)
「・・・・・・・・」
受け入れられちゃった!頭ナデナデさえてるしどうしよう!すげえ恥ずかしくなってきたんだけど!
失敗。
作戦その八。
「ねえ雪君。入籍の日はいつにしよっか?」
「だから一回結婚は置いとこっていったじゃん!」
作戦すらさせてもらえずに失敗。
作戦その九。
スルー。
「だからなんでぇ!?」
「ありゃ?」
玄関の前で見つかった。
失敗。
「全滅したああああああ!」
長屋の陰で一人、再度がっくりと膝をつく。
誰一人として引かねえ。驚異の心の広さだよ!でもそれが今は仇となってるよ!なんだよ!みんないい子かよ!
いかん。このままじゃいかん。もうすでに万策尽きた感で一杯だ。
ぶっちゃけこの人たちを追い返せる気がしない。けれど、このままじゃ修羅場という名の地獄だ。
もう一人じゃ無理。ていうかこの状況を一人で抱えきれない。
ということで僕は頼りになるあの人に電話を掛ける。
すると、すっ飛んできてくれた。
「・・・・・ということなんだよ。助けてよ書記エモーン」
「だれが書記エモンよ。しばくわよ」
「しばくの!?」
心なしか書記さんがいつもより怖い。なんか僕を見る目がいつもより冷酷だ。
「はぁ。じゃあ余計なことしちゃったかもね」
「え?」
書記さんの言葉の意味が分からずに聞き返す。
返事は帰ってこなかったけど、言葉の意味は分かった。
「へー、ここが雪の家。何気に初めて来たわね」
つ、つ、ツバサさんんんんんん!?
「ちょ!なんでえ!?なんでツバサさんがここにぃ!?」
長屋の陰から見えるのはツバサさんの後ろ姿。だがはっきりとわかる。
「ごめんね、ここに来る前にツバサさんに会っちゃって。海田君の家に行くって言ったら・・・・」
付いてきちゃったのか。
くそ、よりによってなんでこんな時に。
「いつの間にか書記さんもどっか行っちゃったし、先に雪の家で待ってればいいかしら」
そう言ってインターホンを押そうとするツバサさん。その家は今、穂乃果が担当している家だ。
横目でその事実を知るや否や、僕は猛然とツバサさんのもとに駆け寄り後ろから抱き着く格好になる。
「ゆ、雪!?」
「し、しー!」
突然の僕の登場で大きな声を上げて動揺しているツバサさんの口を塞ぎながらなんとか空いてる部屋に連れ込むことに成功した。
傍から見たらヤバい光景だなんてこと今は気にしていられない。
「あれ?なんか今雪ちゃんの気配がしたような?」
か、間一髪。危ねえ。
「どうしたのよそんな慌てて」
「い、いや」
どうしよう。説明したほうがいいかな?でもなんかツバサさん許してくれそうにないしな。前もなんか穂乃果の家に居候してるとき怒られたし、絶対怒られる。
「なんでもないさ!」
ということで全力で誤魔化した。
「あれー?ツバサどこいっちゃったんだろ?」
あんじゅと英玲奈先輩!?
ふと声がしたほうを見やるとキョロキョロとあたりを見回す二人の姿。
「雪君の家に行くだなんて自慢してくるから後をつけてきたのに」
なんかさらっと恐ろしいことが聞こえたんだけど。後をつけてどうするつもりだったの?
けど、このまま放っておくわけにもいかない。ピンポンと押した瞬間に終わる。
ほら!今まさにインターホンを押そうとしてるもの!手を伸ばしてるもの!
くそ、あそこは誰がいたっけ?
と、頭を巡らせて気づいた。あそこは空き部屋だ。
しかし、二人はどうする気だろう。あの部屋に二人いるのは狭いし、何より物音でばれる可能性が高まる。
すると、二人はまるで示し合わせたかのように別々の部屋へと入っていった。
「いやなんでだよおおおお!おかしいだろ!なに!?僕の家どんな家だと思われてんの!?つーかバレてんだろもうこれ!完全に知ってるやつの動きだったよあれ!」
「雪?バレるって何?」
ああう。ツバサさんがこっくりと首を傾げている。
「あ、えと。あ!僕用事思い出した!!」
もはや耐え切れなくなった僕は一旦、用事があるといってツバサさんの家を空けた。
そして書記さんに助けを求める。
「どうするの海田君。このままじゃどうせいつかバレるわよ」
「わかってるよ!つーかなんでいつの間にかアライズまで全員集合してんだよ。八時じゃないぞまだ」
なんとか打開策をと、乏しい頭を必死でフル回転しているとまたもやto roveる。
「あれ?おかしいな。お姉ちゃんからここだって電話で聞いてきたんだけど」
雪穂!?
「いっぱい部屋があってどれかわかんないね?」
亜里沙ちゃん!?
・・・穂乃果ぁ!!
あのバカ!絶対言うなってちゃんと釘さしておいたのに!
「あら?亜里沙?」
「お姉ちゃん!?」
ぎゃああああああ!!
そこには偶然買い物袋を引っ提げた絵里先輩が。
いつの間にぃぃぃ!?つーか僕の願い一切聞き入れてもらってないよ!!やっぱり僕の話聞いてなかったよ!!
「あ、おーい!雪穂こっちこっち!」
お前は何をそんなに嬉しそうに手を振ってんだ!お前のせいであそことここがガッチャンコしちゃってんだろーが!
「あれ?穂乃果?どうしてここに?」
「絵里ちゃんこそ」
もうダメだあ!!もう無理!もう僕は何にも知りません!
草葉の陰から頭を抱えてすべて投げ出したくなる。
が、それでも声だけは聞こえてきて。
「私は、ほら・・・同棲っていうか」
ちょっとおお!絵里先輩!?何喋ってんのお!?
「え!?お姉ちゃん同棲してるの!?」
「へー、奇遇だね。私も同棲してるんだ」
お前も喋るんかい!!
「ふ、二人とも相手は・・・?」
聞かないで!そこは聞いちゃダメ雪穂!ブラックボックスだから!開けちゃダメな奴だから!
「「それは、口止めされてるから・・・・///」」
もう駄目だと思ったが、なんとかギリギリで生き残ったようだ。口止めも無駄ではなかったらしい。
ていうかもうずっとツライ。もうずっと心臓が痛い。もうずっとグランドキャニオンを綱渡りしてる気分。もうずっと綱がトイレットペーパーで綱渡りしてる気分。
「へー、そうやったんやねエリチ。いい人見つかったんや」
増えたああああ!なんで今出てきた希!?
「・・・・てことは希ちゃんも?」
「うん。ウチはほら、今式場をどこにしようかって。彼ったら、海外がいいなんて言い出して、困ってるんよ」
そんなこと一言も言ってませんけどお!?つーかいつ式場決めようなんて言った!?いつ結婚した!?
「そ、そっかあ。いや穂乃果の旦那さんもね。今はこんなところだけど、いつかは丘の上に白い家を建てて大きな犬を飼って二人の子供を作ろうって言ってるんだよ?」
だから言ってねえよ!!なんでそこで見栄張っちゃうの!?つーかいつ旦那さんになりましたか!?
「あれ?穂乃果ちゃん?」
「ことりちゃん!」
「やっぱり。声がすると思ったんだ」
うぎゃあああああ!なんか一番見つかっちゃいけない人に見つかった気がする!
「てことは、ことりも?」
絵里先輩の問いに、ことりは頬を赤らめる。
「うん。私の彼ベンチャー企業の社長なの」
いや初耳ですけどお!?ベンチャー企業の社長だったの僕!?だったらなんでこんなクソ狭い長屋に住んでんだよ!
「そうなんですね、ことりも穂乃果もいい人ができたんですね。これで私も心配せずに済みますね」
「ていうことは海未ちゃんも?」
穂乃果の問いに、海未は誇らしげに。
「ええ。私の彼は火影なんです」
だから初耳だっつってんだろーがあああ!!つーか火影なんていねえよこの世界に!
「あら奇遇ね?にこのとこも雷影やってるのよー。やっぱり宇宙スーパーアイドルである私に釣り合うのは五影くらいよね」
「へー、ま私はそんなん関係ないけどね。でも確か私の彼大国を収めてるって言ってたわね。よく知らないけど、なんか、風、風何とかっていう」
結局真姫ちゃんも入ってくるんかい!つーかそれ風影だろ!風、まで出てるなら影まで言えよ!
いやだからやってねえよ!!火影も雷影も風影もやってねえよ!君らどんだけ見栄張りたいのよ!
「わ、私も土影やってるって言ってた」
花陽もおおおおお!?なに!?スルーしたの根に持ってるのかな!?
つーか五影ほぼ構成員僕しかいないじゃん!9割僕しかいねえよ!?あんなトンデモ超人たちがいる世界僕なんかがまとめられるわけねえだろ!
いやもう無理!隠し通せる気がしない!着々とガッチャンコしていってるし!このままじゃバットエンド一直線なんですけど!
「みんな雪ちゃんのことは諦めついたんだね。良かったにゃ」
「いや、まあ?正直、雪ちゃん将来に不安があるし。やっぱりねえ?」
ねえってなに?ことり!そこふわっとさせないでよ!
「ぶっちゃけ天然で鈍感って救いようないやん?」
「根暗でネガティブでマイナス思考で暗いしね」
絵里先輩それ全部意味一緒ですが!?どんだけ暗いと思われてたの僕!?
「そうですね。
姉と書いてコブと読むんじゃねえよ!そういう風に見てたの!?
「苦労しそうだし」
「ぶっちゃけそんなイケメンでもないし」
「女癖悪いし」
泣いていいですか!?
なんなの!?なにこの新手のイジメ!なにこのいちいち心のグサッとくる言葉たち!
そんな風に思ってたんだ。第三者から漏れ聞く心の本音が一番つらい。
草葉の陰で見守るというより、最早泣き崩れメンタルがボロボロ。
「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・ニヤリ」」」」」」」」」
「あ、あのー。私帰るね。海田君、その。頑張って」
なにかにひどく怯えたような書記さんもついに逃げるように帰ってしまった。
そんなにひどいのか僕は。そりゃ明るい性格とは言えないし、将来だって明るくないけど。
グスンと泣いているとふいに後ろから肩をたたかれる。
「え?・・・・・・・・あっ」
後ろにいるのは勿論ミューズの皆さん。
そこで、すべてを察した。
みんながとうに僕の隠し事に気付いていると。
「えっと、テヘペロ?」
ボコボコにされましたとさ。
「あれ?なんかアライズ忘れ去られてない!?」
忘れられてましたとさ。
どうも今期アニメは「このすば」と「ギャル子」「GATE」「僕だけがいない町」「落語心中」辺りが好き、高宮です。
いやー、今期はいっぱい楽しみなアニメがあっていいです。
それではまた次回。