ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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番外編 夢は大抵覚えてない。

 これは、夢。一夜の夢。

 泡沫に、消える、夢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたそこは見ず知らずの土地でした。

 見たことも、覚えもない。まったく、完全に、知らない土地。知らない場所。

 かろうじてわかるのは、ここが道路の歩道だということと、周りに中学生の制服を着た子たちが通学していること。

「かーよちん」

 ああ、だけど知らない場所だけど、知ってる人がいた。

「凛ちゃん」 

 いつもの元気なその声に、私は安心する。

 けれど、振り返って。その安心はすぐに不安に変わってしまいました。

「凛ちゃん。その恰好は?」

 凛ちゃんが来ていたのは中学の制服。それも、見覚えのない制服でした。つまり、私たちが通っていた中学の制服じゃないということです。

「?何言ってるのかよちん?寝ぼけてるのかにゃ?」

 まるで、私がおかしいというような反応。

 あれれ?

 

 

 急に回りが暗転、場面が変わって、授業中。

 

 

 周りには中学生ばかり。どうやらここは中学校のようです。

 そして私だけいつもの制服を着て、中学の授業を受けている。知らない土地。知らないクラスメイト。知らない先生。

 だというのに、なんだかちょっぴり懐かしくなる。

「あ、雪君だ」

 授業が終わって、移動教室。廊下を歩いていると、不意に雪君を見つけたんです。

 中学の制服を着ている雪君は新鮮で、思わず話しかけてしまいました。

「・・・・・・・・、」

 けれど、雪君は。

 いつもの、優しくて、不器用で、いつも一人で色々と考えている。笑顔が眩しい男の子。

 素敵な男の子。

 そんな思い出に蘇る彼とは、違うようでした。

「あっ・・・・」

 話しかけると、彼は冷たいまなざしで私を見て、足早に去って行ってしまいました。

「眼鏡掛けてた・・・・・」

 背も私とあまり変わらない、眼鏡をかけていて、温度が感じられない瞳。けだるい表情。眼の下のクマ。

 そのどれもが、記憶の中の彼と、一致しない。 

 一致しないのに、不思議と、納得しました。

 いつの日か感じていた彼の冷たさと、脆さ。

 うん。やっぱりあれは紛れもない、雪君だ。

 それから、私は雪君をつけまわ・・・・・観察することにしました。

 朝登校するときから、家に帰るまで。不思議とそのことに関して誰も咎める人もいないし、障壁もありませんでした。

 そのことで分かったのは、彼はどうやらバイトをしているということ。それもきっと健全な奴じゃない。

 そしていつも、赤い髪をしたちょっとヤンキーチックな女の子と一緒にいるというこの二つ。

 いつも一緒なのに、会話をしているところを見たことない。特別に仲が良いという印象もなぜだか受けません。

 寄生。そんな言葉が浮かびました。

 きっと、あの女の人は雪君のお姉さんでしょう。いろいろ考えて、それしかありえません。

 だったら、きっと。今のこの私に、できることはない。

 ぎゅっと握ったこぶしと、私の目に映る地面が、そう言っていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに?」

 この世界で、初めて彼に話しかけられました。

 ずっと観察していても声をかけられなかったのに。

「えっと・・・・・」

 急だと、どうしていいかわかりません。元々、あまりおしゃべりは得意じゃないですし。

 言葉が出てこない私を見かねたのか、彼はどんどん近づいてきます。

 なぜか、周りにいるはずの人たちがいなくなって、世界には彼と私だけ。

(あ、やっぱり雪君だ)

 近づく顔に、現在の彼の顔が被る。

 長い睫毛とか、柔らかそうな耳たぶとか、柑橘系の香りとか。

「今、つらい?」

「うん。辛い」

「そっか」

 いつの間にか、彼の顔は私を通り過ぎて、肩の上。

 もたれかかってくる体重が心地よくて。

 ぎゅっと握ったこぶしは、今は彼の背中。

 いつまでもこうしていたいような、いつまでもこうしていてはいけないような。

  

 

 そう思ってたらまた、場面が変わりました。

 

 

 それよりも、一体いつまで私はこのままなのでしょうか。少し不安になってきました。

 疑問に思うよりも先に、やっぱり彼の姿が目につきます。

「――――――――――――っ!」

「なんだよ、邪魔だよ」

「おいバカお前。こいつあの・・・・・」

「あ!・・・・・突っ立ってたお前が悪いんだからな」

 どうやら、揉めていたようでぶつかった二人はなんだかバツが悪そうに走って行ってしまいました。

 残った一人は、ぶつかった拍子に教科書やらなんやら床に散らかしてしまったようです。

 彼は、そのままじっと動きません。立てないほどの怪我を負ったようには見えませんでしたけど。 

「・・・・・・死んじゃえばいいのに」

 私がそばまで行くと、彼はそう口を開きました。表情のない、顔のまま。

「みんな、死んじゃえばいい。世界が滅んで僕一人になって、そんで、一人ぼっちのまま。死んじゃえばいい」

 私はなんて声をかけていいのか、分かりませんでした。

 世の中は大変です。生きづらいことでイッパイです。願ったようには行かないし、理想の通りには動けない。

 人間関係、仕事、勉強。そのどれも辛いこととか、楽しくないことが付きまとってくるのがほとんどだと思います。

 けれど、きっと。普通に生きていれば、彼のような言葉を発することはそうはないんじゃないでしょうか。

 思ってても、それを口には出さない。

 口に出すのは、きっと普通じゃないから。

「僕を笑っている連中が消えてなくなればいい。僕を傷つける連中が、失くなってしまえばいい。こんな世界、もう嫌だ」

 その世界は、きっと小さい。

 知らないことが多いその世界。わからないことが多いその世界は、小さい。

 だから、息苦しくて、生きづらい。

「嫌なら、投げ出しちゃえばいいよ。辛いなら逃げ出せばいいよ」

 それが、正解だなんてとてもじゃないけどそんなこと言えません。こんな難題私には分かりっこないです。

 だけど、正解じゃなくても、言葉をかけないとと思った。伝えないとと思った。

「けど、この世界は繋がってるから。だからずっとずっと後に、ずっとずっと後になって、その小さな世界も許せる日が来るんだと私は思うな」

 現在の彼を思い出して、現在の彼の笑顔を思い出して。

 現在の彼も、過去の彼も、そしてずっと先の彼も、地続きになって、繋がっている。

 だから、きっと今目の前にいるこの彼も。笑える日が来るんだ。ちゃんと。

 笑って、泣いて、怒って。理不尽に抗いながらも、大事なものを見つけて。

 そうやって、生きていくんだ。

「・・・・・・うん」

 彼は、静かに頷きました。けれどしっかりと、頷きました。

「よしよし♪」

 私は、思わず頭をぽむぽむと撫でてしまいました。現実では絶対できません。

 ええ、そうです。私はこれが、夢だとわかりました。

 一夜の夢。泡沫に消えて、失くなってしまう夢。

 起きたら、忘れてしまうのかもしれないけれど。泡となって屋根より高く飛んで行って、見えなくなってしまうかもしれないけれど。 

 けれど、きっと消えない。どこともわからないところにちゃんと刻んでいるから。

「お姉ちゃん」

 あれ?

 そう思っていたら、今度は目の前の彼がより一層幼くなりました。

 また、知らぬ間に場面転換していたようです。流石、夢。なんでもありみたい。

 場所は、今度はわかりました。穂乃果ちゃんの家の近くの公園。といってもなんどか通りかかったことがある程度ですけど。

「お姉ちゃん!」

「え?あ、ああ。どうしたの?」

 目の前の彼は、どう見ても幼稚園かそれ以下。

 どう見ても、女の子みたいな容姿。 

 ブランコに乗っている彼は、私を見上げていました。

「お姉ちゃんは、どうしてここにいるの?」

 そのまっすぐな目に吸い込まれそうになって、だけど、ちゃんと彼の質問に答えます。 

「うーんとね、最初はぎこちなかったんだけど段々とここが私の居場所なんだって感じるようになってきたの。それはみんなのおかげで、雪君のおかげなんだよ?」

 うん?これ、ちゃんと答えになってるかな?

 まあ、いいか。夢だし。

 きっと、これも現実じゃ無理。恥ずかしくて言えません。

 でも、たとえ夢でも、言えました。ちゃんと想ってる事。

 少しは変われてるってことなのかな。

 そうだったらいいな。

 きょどきょどと、恥ずかしくて、自分に自信なんて持てなくて。自分の一番好きなことも満足に言えない。

 そんな私は、きっとまだここにいる。だけど、そんな私の背中を押してくれる人ができた。

 だから、ちゃんと言える。

「僕の?」

「うん」

 そう答えると、また、場面が変わった。

 学校の桜が満開に。その間を私と、雪君が笑って歩いている。凛ちゃんも、真姫ちゃんも一緒に。

 

 

 そして、また、場面は変わります。

 

 

「それじゃあ、僕は生きててもよかったのかな」

 大人になった雪君。背なんかすっかり追い越されました。

「それは、雪君が決めなよ。雪君しか、決められないよ」

「そっか。・・・・・そうだね」

 どこか遠くを見つめる彼の周りは、桜の舞い散る花弁が舞い誇っています。

 瞬きの間に、彼は病床にいました。

 皺くちゃになった手。皺くちゃになった顔。いろいろと白くなって、けれど、しっかりと彼だとわかる。

「君は、今、幸せかい?」 

「うん、幸せだよ」

 電子機器に囲まれて、管や糸など入れられたり、貼り付けられている。

 そんな最期の彼に、私は答えました。

 ちゃんと答えられました。  

 これは夢。一夜の夢。泡沫に消える夢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 小泉花陽はそこで目が覚めた。

 辺りをキョロキョロと見回す。 

 どうやら自分の部屋で寝てしまっていたようだ。思い出せるのは、今日が自身の誕生日だということと、今まで仲間が祝ってくれていたということ。

 そこで、彼を見つけた。

「あれ?どうしたの花陽?」

 思わず、彼女は彼に抱き着いていた。

「・・・え?ええ!?な、泣いてるの?」

 彼女は泣いていた。それは、夢を引きずっていたのか。急な寂しさに襲われたのか、彼女自身も判別はつかなかった。

 夢を見ていたことはわかるのに、どんな夢だったのかがわからない。思い出せない。

 きっと、とても大切で、とても大事だったことだ。

「――――――――――。」

 先ほどまでわたわたと慌てていた彼に、ぽむぽむと、頭を撫でられる。

 その手は決して大きくない。力強くもない。

 けれど、彼女は安心した。

 

 安心して、現在の自分を自覚して、恥ずかしくなる。

 

「あわわわ!!///」

 思わず勢いよく距離を離してしまう。

 少しだけ寂寥感。

 ちらと花陽は彼を見ると、よくわかっていない顔で首を傾げている。

 なんだか、それがおかしくて。

 夢のことも忘れて笑った。

 夢は、一夜の夢。泡沫に消える夢。

 夢は夢で、現実ではない。

 だから彼女たちは、生きていくのだろう。この現実に。

「なーにかよちんを泣かしてるにゃ!」

「うわ!凛!」

「はい雪君♪そこに正座♪」

「なんで!?」

「・・・・・・(膝カックン)」

「にこちゃん!?」

「さあ、なんで花陽を泣かしてたのか言いなさいよ!」

「違うんだ真姫ちゃん!僕もわからないんだよ!」

「そんなわけないでしょう。どうせあなたが変なことを言ったとか、デリカシーのないことを言ったとか大体そんなんなはずです!」

「ひどいよ!泣いていい!?」

「はぁ、ほんと雪君は変わらんね」

「眼!おい色指定班仕事しろよ!全然光ってないぞ!作画ミスだぞ!」

「調教しなきゃ調教しなきゃ調教しなきゃ調教しなきゃ」

「怖い怖い怖い怖い!!帰ってきて穂乃果!・・・・あと絵里先輩はなんで僕の両手両足を縛ってらっしゃるんでしょうか!?」

「は?口答えするのかしら?」

「すいませんでした!!」

 ・・・・・・・生きていくのだろう。多分。きっと。




 どうもリバイバル!高宮です。
 花陽誕生日おめでとう!
 全然関係ないけど、活動報告にも書きましたが新作投稿しました。
「リボーン×ニセコイ‐暗殺教室‐~卒業編~」です。興味あるかたはどうかよろしくお願いします。興味ない方もよろしくお願いします。
 ではでは。
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