「あなた達!今すぐ解散しなさい!!」
開口一番、そんなことを言ってくるのはサングラスにマスクにツインテールという見るからに怪しい人物だった。そして俺には、この人物に見覚えがあった。道を教えてもらった。
なぜこんなことになっているのか、話を数日前にさかのぼろう。
ミューズが六人になって、初めての朝練。
「ね、ねむい」
「あはは、頑張って星空さん」
「しっかりしなさいよ。これから毎日あるんだからね」
いつもの石段を登るのは、いつもの穂乃果達ではなく。
「あ、かよちん」
新しく入った星空さんと西木野さん。そして先に来ていた小泉さんだった。
「あれ、なんか雰囲気変わった?」
「う、うん。コンタクトにしてみたの」
いわれてみれば。いつもかけてたメガネがない。
「うわー、かよちんかわいいにゃー」
「そう、かな?」
こちらを向いて言う小泉さん。
「俺もいいと思うよ。ね、西木野さん」
「うん、いいんじゃない?」
「よかった」
本気で安堵している、きっと頑張ったんだろう。
「そ、それより。その西木野さんってのやめて」
「ええ?」
そっぽを向く西木野さんに怒られる。じゃあなんて呼べばいいんだろう。
「下の名前でいいわ。こ、こっちもそう呼ぶから///」
「そう?」
「うううう真姫ちゃーん!真姫ちゃん真姫ちゃん真っ姫ちゃーん」
「れ、連呼しないで」
星空さんに照れてる照れてる。かわいい。
「じゃあ、俺も。真姫ちゃん」
「な、なんでちゃんづけ?!」
「あれ、だめだった?」
「べ、べつに、いいけど///」
「あー!真姫ちゃんばっかりずるいにゃー。凛も凛って呼ばれた―い」
「わかったよ。凛に花陽」
「お、おっふ。これは、なかなかだにゃー///」
「結構、クるね凛ちゃん///」
なんだか、名前呼びで盛り上がっている最中。
「あ、雪ちゃ―ん!花陽ちゃんに真姫ちゃん達も」
「穂乃果」
見ると、こちらに駆け寄ってくる穂乃果達。後ろには東條先輩もいた。
「強引、だったと思いますか?」
「なにが?」
穂乃果達の練習を木陰で見守っている時、東條先輩に訪ねる。
「花陽達、強引に引っ張ってきちゃったから。もっとちゃんとすればよかったかなって」
「ちゃんとって?」
「それは、わかんないけど」
「ならいいんやない?現にあの子たち楽しそうやし。背中を押してくれる人がいてよかったんとちゃう?」
「それなら、いいんですが」
少し、不安になっていた。もっと円滑な方法があったんじゃないかって。花陽達の気持ち、もっと考えてやれたんじゃないかって。
「そんな不安なら本人たちに聞いてみればええんや」
おーい、と花陽達を呼ぶ東條先輩。
「え?ちょ、まって」
心の準備ががが。
「なんですか?」
「ほーら」
ポンと肩を一つたたかれる。少し気恥ずかしくって前髪をいじってしまう。
「えっと、なんか、その」
「なによ、はっきりしなさい」
真姫ちゃんにそう急かされて、思いきって言うことにした。
「後悔!してない?俺、強引だったから。ほんとはどうだったんだろうって」
「はぁ?」
少し大きな声に、びくっとなってしまう。
「してるわけないでしょ。確かにちょっと強引だったし、背中は押してもらったけど、それでも自分で考えて決めたことよ。後悔なんてするわけない」
「凛もおんなじだにゃ」
「私も」
そうか。
そうか。よかった。
胸のつかえが、とれた気がした。
「な、言ってよかったやろ?」
「はい」
練習に戻って行く三人の後ろ姿を見ながらそう思った。
ことりから相談を持ちかけられたのはその日の放課後だった。
「雪ちゃん」
近くのファストフード店で待っていたことりを見つける。
「それで、相談って?」
「うん。なんかね、近頃変な視線を感じるの」
「視線?」
それってもしかしてストーカーってやつじゃ。
「それもミューズの練習してるときに頻繁に」
「なんだろう、悪質なファンとかかな」
ミューズは最近、誰が投稿してくれたかわからないけどファーストライブの模様がサイトに投稿されて、少し人気も出てきた。
そういうのあっても不思議ではないけど。
「なんだか、そんな感じもしなくて。危害をくわえられているわけでもないんだけど、ちょっと怖くて」
すっ、と手を握ってくることり。よっぽど怖かったのだろう。その小さくて柔らかい手を握り返す。
「雪ちゃん」
「大丈夫。何かあっても俺が絶対にみんなの事守るよ」
「うん!!」
放課後の人が多い店の中で注目を浴びていたのは言うまでもない。
そして、話は冒頭に。
守ると約束した以上、練習には頻繁に顔を出すようになった直後の事だった。
そして、解散を強要してきたその怪しい人は一目散に逃げ出す。確かスーパーアイドルにこちゃんと言ったっけ。
「まって!!」
追いかける。一応真偽のほどを確かめておかないと。いたずらなのか、それとも。
それに少なくとも、ことりを不安にさせたんだ。説明してもらう権利くらいはある。
「なんで、追いかけてくるのよ」
「逃げる、からだよ」
意外や意外。にこちゃん足速いんだ。なかなか追いつかない。俺が長距離走苦手ってのもあるけど。
「はぁはぁ」
「ぜぇぜぇ」
しばらく、走りまわって。
橋の上に差し掛かったところで。
「追いつい、た」
というか、にこちゃんも体力の限界のようで二人とも、橋の上に倒れこんだ。
「しつこい、わよ」
「ごめん」
なんで謝ってるんだろう。でもなんだか、不思議とちょっと懐かしい気持ちになる。
「なんであんなこと言ったの?」
呼吸が整えられた頃合いを見計らって、話題を切り出す。
「気に食わないの。踊りも歌も全然だし、あんたたちのやってることは所詮真似ごとよ。プロ意識が足りないわ」
「真似ごと――――――――」
そりゃプロやアライズと比べればまだまだだけど、彼女たちだって遊びでやってるわけじゃない。
それに、俺はミューズのファンだから、好きな人たちのことを悪くいわれるのはあんまりよろしくない。
「そういうことだから私はこれで」
「まって」
「なによ、まだ何かあるわけ?」
「この前、アライズのDVD欲しいって言ってたよね」
「!!!」
「あれ、他にも欲しいって人がいて、どうしようか迷ってるんだ」
ごめん、花陽。
「そ、そんな!!私にくれるって約束だったじゃない!!」
「うん。だからあげる代わりにミューズの何が悪いか、しっかりとご教授願ってもいいかな」
「ぐっ。あんたいい性格してるわね」
「それじゃ、また後日。駅前のファストフード店でいい?」
「ちょ、まだいいとは「いらないの?」」
「い、いる」
まるで苦虫をかみつぶしたような顔をするにこちゃん。そんなに嫌かな。
「それじゃ。また」
そして後日。穂乃果達からは、部活がどうのこうのと聞かされた以外順調にやっているようだ。
ここに来る途中そう聞いた。
雨が降る中店に着くと、どうやらにこちゃんは先に来ていたらしい。多分。
それというのも、にこちゃんのファッションがあまりに奇抜で、声をかけづらい。何あのくるくるとした帽子。ソフトクリーム(チョコ)みたいな。そして色つきのサングラス。
「にこちゃん」
あんまり待たせるのも悪いので意を決して声をかけた。
「遅い。レディを待たせるんじゃいわよ」
「ごめん」
「それで、ブツは持ってきたんでしょうね」
「うん、ここに」
バックから取り出すと、すばやくかっさらわれた。
「―――――確かに」
そう言って立ち上がろうとするにこちゃん。
「ちょっと、約束がまだだよ」
「わ、わかってるわよ。でもちょっとまって。一回家に持ち帰らせて、じゃないと気が持たないわ」
そんなにか。
「わかった。ただし、俺も付いていく」
「へ?」
「返してもらおう」
「わかった。わかったわよ、家にでもなんでも付いてくればいいじゃない!」
ちょっと強引なのは、この前会ったときから続く、この違和感。懐かしさともいうべきそれの正体が知りたかった。
にこちゃんの顔とか、雰囲気がなんとなく懐かしい。けど、なんで懐かしいのかはいまいち思い出せない。喉まで出かかってる気はするんだけど。
そんなこんなでにこちゃんの家に到着。駅前から近い、しなびたアパートだった。
バリバリの既視感。なんだろう、ほんともうすぐそこなんだけど。ものすごくうれしそうなにこちゃんを尻目に、うんうん唸る。
階段を登り、玄関を開けた瞬間。バチッと電流が走るような、かけたパズルのピースの一部分がうまくはまったような錯覚を覚える。
「ただいまー」
「あ」
思い出した。思い出した、思い出した。
多分ここは――――――。
「おかえりなさい―――――あれ、雪さん!?」
「やっぱり、こころちゃん!」
ということは、にこちゃんのサングラスをとる。
「やっぱり!にこちゃんだ!!」
「はぁ、やーーっと思い出したわね?
呆れたように言うにこちゃんに、ようやく久しぶりと挨拶ができた。
どうもアッカリーン、高宮です。
ゆるゆり三期やったね!
ドラクエのBGMを流しながら今書いてます。ああ8がやりたい、なんでプレ2壊れたんだ。