ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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劇場版 シーン2 異国の地で

「・・・・・・・・・・・」

 やあみんな!一週間ぶりだね!前回の結末は覚えているかな?え?ここがどこかって?そりゃもちろん——————————。

「シャラップ!」

「いやだあああああ!!」

 パトカーの中さ(^_-)-☆

 一晩立って、やっぱり密入国したのが僕だと判明して、今まさにアメリカの留置場に送られている最中。

「なんでだよおおおお!!なんでアメリカまで来てまたパトカー!?なんでまたパクられてんの!?神様俺の事嫌いだろ!俺も大っ嫌いだバーカ!!」

 盛大にパトカーの中でシャウトする。

「ファッキュー!」 

「うるせえ!バーカ!バーカバーカ!!」

 どうせ日本語なんかわかんないだろうと、思いっきり罵声を飛ばす。

 大体劇場版だよ!?最後だよ!?なのになんでパクられんの!?密入国?あーはいはいやったやったやりましたよ。でもそんなんなあなあでいいじゃん!空気読めよ!なに律儀にとっ捕まえてんの!?

 現地の警察官の方に怖い顔で睨まれたので脳内でスパークする。

 しかし、いくら嘆いても現状は変わらない。

 ていうか、パトカー多すぎじゃね?

 がっくりと項垂れながら荒廃した景色を見ているとそんなことに気付いた。普通一台あれば事足りるはずなのに、このパトカーをぐるりと囲むように何台ものパトカーが厳重に警護している。

 ちらりと、僕は隣を見た。たぶんこの人が元凶。

 スキンヘッドの頭に顔に無数の傷をつけた大男。なんだかグルグルと体を拘束されている。ミノムシみたいだ。

 きっと、凶悪犯罪者とかそんなんだろう。いやまあそれはいいんだけど。

 なんで僕とおんなじ車両に乗ってるの?

 普通こういうのってわけるよね?なんでちんけな密入国者とテロリストの首謀者みたいなこの男が同じ車両で護送されてんだよ。おかしくね?

 とは思うものの、どうせ抗議したって伝わらないわけで。

 大人しくしてる他になかった。

 と思ったら。

 急に、後方から爆発音。

 何事かと後ろを振り向くと次々とパトカーが爆発していく。

(あ、あ、アメリカ半端ねえええええ!!!)

 こんな何もない辺り一帯何もない地域でまるで映画のようにダイナミックにパトカーが次々と爆発していく様を見ながら、僕はガクブルと震えていた。

 やっぱアメリカ半端じゃない。規模が違う。

「ファッキュー!!」

 なんか警察官も慌ただしい。どうやら不足の事態らしい。

 パトカーを止め、バタバタととび出していった。

 残されたのは、僕とその大男。

(・・・き、気まずっ!!)

 なにこれ、なんでこんなことになってんの?

 もう何がなんやらてんでわからない。ついていけない。

「・・・・・・ふう」

 ガチャリと、隣から聞こえるはずのない音が。

 まさか。とあり得るはずのない仮説を組み立てながら振り返る。

 と、そこには拘束具を外したであろう大男が体を動かしながら座っていた。

 後ろではなんか、ヤバめの音が聞こえる。銃撃戦みたいな。いやいや。

 もう現実逃避し始めた脳に、声が聞こえる。

「お前、密入国したんだって?」

「・・・・・はい?」

 その声の主は大男だった。

 日本語だとか、なんで僕に話しかけてきたのかとか、まあ色々疑問はあったけれど次の言葉で吹っ飛んだ。

「俺らは、これからアメリカのギャング共をぶっ潰しに行くんだが。どうだ、お前もついてくるか?ここで会ったのも何かの縁だろう」

「ええええええ!?」

 まさかの勧誘。それもギャングを潰すとか言ってる組織に。

「いやいやいやいや!!無理無理無理無理!!!僕そんなギャングとか無理です!!」

「そうか、協力してくれるならお前の密入国なかったことにできるんだがな。もちろん安全に日本にも返してやる」

「OKブラザー!ターゲットはどこだい?なんでもやるぜ」

「・・・俺が言うのもなんだが、変わり身早いな」

 僕、ギャングを潰すことになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃっはははははは!!!」

 両手に持ったサブマシンガンをこれでもかと打ちまくる。が、どうやら腕がないらしい。そのほとんどが当たらない。

 ああ、僕は変わってしまった。ついつい目の前に甘い汁があると飛びついてしまう。ほんとダメだなあ。

「死ねおら!!!!」

 手榴弾の安全ピンを抜き、投げ、爆発。一連の動作に迷いがなかった。

 四方八方に飛ぶ銃弾のせいで、辺り一帯の明かりは消え去っていた。

 ここはギャングの巣窟。でっかい白のような豪邸に、あの大男に導かれやってきた。

「うぎゃああああ!!」「た、退却!!退却!!」

 そこかしこに火が燃え盛り、悲鳴が鳴り響く。まったく、ひどいBGMだぜ。

「逃がすかボケええ!!」

 そんな蜘蛛の子のように散り散りになっていく後姿めがけて銃を乱射する。

 あれ?僕ってこんな性格だったっけ?言動とは裏腹に、頭で?マークが浮かぶ。

 カチッカチッ。

 どうやら、弾切れのようだ。

「・・・・・・チッ」

「おう!よくやったぞお前!正直ここまでやるとは思わなかった!」

 大男に褒められて、気分がいい。

「どうだ、俺らと一緒に世界を駆け巡らないか?」

「・・・・・・・・」

 ああ、もう僕ここに就職しちゃおっかなー!永久就職決めちゃおっかなー!ここが僕の居場所なんじゃね?これ以上しっくりくるとこなんて来ないんじゃね!?

 大男の言葉にユラユラと僕の気持ちが絶壁に打ち付けられている儚い橋のように揺れていると。

「ちょっと!何考えてんの!?」

「あれ?・・・・お姉さん」

 前回、僕を荒廃したニューヨークから救ってくれた橙色の髪を腰のあたりまで伸ばしたお姉さんがなぜかそこにいた。

「いいから!あなたはこんなトコにいちゃいけないから!」

「そ、そんな!待ってください!僕は、やっと、やっと居場所を見つけたんです!ここでなら、僕、輝ける気がするんです!」

「馬鹿なこと言ってないで行くよ!!」

 ああー!僕の将来がー!輝かしい未来がー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。穂乃果たちは。

 夕食時、レストランでなぜか花陽がむせび泣いていた。

「どうしたのよ」

 真姫ちゃんがクルクルと髪の毛を弄びながらそう尋ねる。

「にこちゃん!かよちんに何したにゃ!?」

「何もしてないわよ!」

「・・・・く・・・・・が」

「え?」

 よく聞こえなかったのだろう。穂乃果が聞き返した。

「白米が!食べたいんです!!」

 勢いよく立ち上がる花陽に、一同は・・・ああ。という空気。

「白、米・・・?」

 絵里が困惑した声を出した。 

「そう!こっちに来てからというもの朝も!昼も!夜も!パンパンパンパン!パンパパンパパパン!白米が全然ないの!」

 途中若干なんか別のビートに切り替わったが、それでも真剣なその表情にみんな困っていた。

「でも、昨日の付け合わせでライスが」「白米は付け合わせじゃなくて主食!パサパサのサフランライスとは似て非なるもの!!」

 ズズイと、花陽らしからぬ怖い顔で海未に迫る。海未が圧倒されるほどだった。

「ごに飯と書いてご飯!!ああ、あったかいお茶碗で真っ白いご飯を食べたい」

 泣きながら店員に出されたパンを食べる花陽。もはや病気だった。

「あ、このパンおいし」

 ああ、パンもちゃんと食べるんですね。

「凄い白米へのこだわり・・・」

 穂乃果のつぶやきに希は。 

「真姫ちゃん、どこか知ってるとこないん?」

「まあ・・・・知らなくはないけど」

 

 

 

 

 ということで一行は食べ物屋さんが並ぶ繁華街に。

「ニューヨークにもこんなところがあるんだね」

「まあ、世界の中心だからね」

「はああー、美味しかった♪やっぱり白米は最高です」

「良かったねーかよちん♪」

 恍惚とした表情を浮かべる花陽。やっぱり病気だよね?怪しい薬とか入ってないよね?

「さあ、遅くなる前に帰りましょう」

「—————なーんか、こうしてると学校帰りみたいだね」

「そうね。不思議な感じ」

 穂乃果の言葉に真姫ちゃんが同意する。

「みんなとこうしていられるのも、もう、わずかなはずなのに・・・」

 その絵里の言葉にも、表情にも哀愁と残りを慈しむようなそんな感情が手に取れる。

「この街は、不思議と、それを忘れさせてくれる」

 地下鉄の電車で、カードを通して先へ進む。

 そんな絵里の言葉に胸を撃たれながら、穂乃果も同じようにカードをかざした。

 が、カードからは不吉な音が。

「あ、あれ?・・・・そ、ソーリー」

 後ろの外国人に謝りながら、おかしいなと首をかしげる。

 その間にも、皆はグングンと先へ進んで行ってしまっていた。

「ああ!ちょっと!」

 ここで迷子になるだなんてシャレにならない。お金が足りないのかもと思い、急いで券売機の方へダッシュする。

「うわあ!え、エクスキューズミー」

 思ったより人込みで混んでいる。わたわたと慌てながら電車が構内に着いた音が、駅に響く。

「ああ!」

 焦り、穂乃果は急いで電車に向かう。

 長い階段を転びそうになりながら、最後はジャンプし、電車は今にも発車する。

 

 

 間一髪だった。

 

 

 ほっと、穂乃果は一息つく。どうやらギリギリで間に合ったようだ。

 

 ()()()()()()()()

 

 穂乃果の後ろでは、海未たちがサイレントで何か捲し立てているも、勿論穂乃果は気づかない。

 そして、数秒もしないうちに電車は動き出してしまった。

 

 

 

 やがて、誰もいない駅構内でようやく穂乃果は一つの事実に追いつく。

「もしかして・・・・・はぐれた?」

 ザッツライト!!

「どうーしよー!!!」

 

 

 

 

 

 

 とにかく、じっとしていても始まらないと思った穂乃果は階段を上り地上へと出る。

「ホテルの駅、こんなんじゃなかったよね」

 深いため息。これからどうしようという不安に、穂乃果は胸が押しつぶされそうになった。

「あ、すみませ「ソーリー」

 思わず、人とぶつかりそうになってしまう。

「・・・ソーリー」

 違う環境。違う人。そして、違う言葉。

 その何もかもが、不安を煽る材料にしかならなくて。

 当てもなく歩く穂乃果。

 一応、昨日一日ニューヨークを散策したのだ。どこかに見覚えはないかとキョロキョロと見回すも。

 やがて、下を向いてしまう。

 それでも必死に、歩くことだけは止めずにいると。

 どこからか、声が響いてきた。

 美しくて、力強くて、芯があって。

 聞くものを魅了する。そんな歌声が。

 穂乃果はフラフラと、自然とそちらに足が傾く。

「センキュー!」

 そして、歌が終わると。自分の状況などすっぽ抜けてただ感動して両手を叩いていた。 

「はい!お金はこちらによろしくお願いしまーす!お気持ちだけでも結構なんで!恵んでくださーい!どうせ日本語わかんないだろうけどーなんとなくのニュアンスで分かんだろ!?ね?」

「ゆ、雪ちゃん!?」

 その刺々しい声とは裏腹に満点の笑みを浮かべた雪が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆ、雪ちゃん!?」

「あれ?穂乃果」

 あのギャング抗争からお姉さんに助けてもらって、そのお礼と言うことで僕はお姉さんのお手伝いをしていた。

 なんでもお姉さんは路上シンガーらしい。ぶっちゃけ手伝うことなど特にないので、荷物持ちやこうして集金行為を手伝っている。

「なんでここに?」

「こ、こっちのセリフだよ!黒服の人たちに連れていかれてたじゃん!」

「ああ・・・・それは、なんていうか・・・うやむやになったっていうか。帳消しにしてもらったっていうか」

 あんまり人に胸を張って言えない行為をしてしまっているせいか、面を向いて穂乃果の目を見れない僕である。  

 クイクイと、裾を引っ張られ耳元にお姉さんの声が。

「ねえねえ、知り合い?」

「え?ああ、まあ」

「——————!!」

 そう言われ、ちらりと見ると穂乃果は雷に打たれたような衝撃に見舞われていた。

「・・・・・外国で、愛人・・・?」

「おーい、憶測で物を言わない」

 なんかとんでもない誤解をさせてしまっているようだ。

「あははは!迷子ぉ!?」 

 誤解を解くついでに、穂乃果の話を聞くとどうやら迷子になったらしい。ニューヨークで。ぷぷ。笑える。

「たまにいるよ。そういう人」

「雪ちゃんもお姉さんも笑わないでよー。ホント怖かったんだから」

 とりあえず電車で移動して、お姉さんと穂乃果が座っている。

「でも、まさかホテルの名前もわからないとは」

「うー///」

「穂乃果、顔真っ赤」

「うるさい!」

「あはは」

 なんだか、こうして見てみると嫌にそっくりである。いや、穂乃果とお姉さんの話だ。

 従兄弟とか、姉妹とか言われれば僕はきっと普通に信じる。なんていうか、外見もそうだが、特に内面が似ているのだ。

(ああ、だからか)

 僕はここで一つ合点がいった。

 なんだか最初に会った時から妙な親近感を抱いていたのは、きっと穂乃果に似ていたからだ。

「それにしても、よく穂乃果の言葉だけでわかりましたね」

「当然よ。駅の近くでおっきなホテルでしょ?」

「はい!」

「おっきなシャンデリアもあるでしょ?」

「あります!」

「じゃあ、あそこしかないわね」

 ふーん、確かにあそこいかにも高級そうなホテルだったしこっちに住んでる人ならわかるのかもしれない。

「あ!」

「ど、どうかしたんですか!?」

「マイク・・・・忘れた・・・?」

「ええ!?」

「いや、ここにあるから」

 お姉さんの隣、そこにマイクケースはどっしりと座っている。おかげで僕が座るスペースがない。別にいいんだけど。ていうか、誰が持ってきたと思ってるんだ。

 こういうところとか、すげえ似てる。他人のそら似という奴だろうか。

 まさか、ドッペルゲンガー?

 談笑している穂乃果とお姉さんを見ながら、たらりと冷や汗が頬を伝う。

 ぶるりとした寒気。

 なーんて、ないか。

 自分のその考えを振り払うように、電車は着く。

「これでも、昔は仲間と一緒にみーんなで歌ってたのよ。日本で」

「へー」

「でも、色々あってね。結局、グループも終わりになって。当時はどうしたらいいかよくわからなかったし。次のステップに進めるいい機会かなーって考えたりしたわね」

 そのお姉さんの言葉に、穂乃果は立ち止まる。まるで、今の穂乃果たちのような、そんな話に。

「それで、どうしたんですか?」

 力強く、それでいて繊細に。穂乃果は聞いた。

「簡単だったよ。とっても、簡単だった」

「————————————、」 

「今まで、自分たちがなぜ歌ってきたのか。どうありたくて、何が好きだったのか。それを考えたら、答えは簡単だったよ」

 そして、また歩き出す。

「あのー、わかるようなわからないようななんですけどー」

 この時ばかりは、話を聞いていた僕もおんなじ感想だった。

「今はそれでいいの」

「えー!」

「それでいいの!」

「やですー!」

「いいの」

「えー!」

 

「すぐにわかるよ」

 

 そう言ったお姉さんの横顔を、僕はただ黙って見ているだけだった。

「穂乃果!!」

 いつの間にか、ホテルまで着いていたようだ。

 海未の真っ直ぐな声が、道路に響いて伝わった。

「みんな!」

 穂乃果は駆け出す。横断歩道を超えて。

「みんなー!」

 

「なにやっていたんですか!!!」 

 

 駆け寄る穂乃果に、鋭くぶつけられる海未の声。

 辺りが静まり返る。

「海未、ちゃん」

 海未のその瞳には涙が溜まっている。

「どれだけ探したと思ってるんですか」

 きっと、本当に心配したのだろう。その性格を穂乃果は一番知っているはずだ。

 ぎゅっと、穂乃果を抱きしめる海未に、穂乃果も満ち足りた顔をしている。

「ねえねえ、僕は?僕は?」

「ああ、雪、あなた居たんですか」

 ・・・・あれ?

「死んだんだと思ってたわ」

「真姫ちゃんひどくね!?」

 つーか扱いの差ありすぎじゃない!?なんで海未に限って言えばもったいないとでも言いたげにさっきまでの涙が引っ込んでるの!?なんで全員虫けらを見るような目なの!?しまいにゃ泣くぞ!この野郎!「僕も結構心配されるような別れだったはずなんだけどなあ・・・・・」

 思わず、遠くを見つめてしまった。

「冗談よ。雪のことも、みんなちゃんと心配してたわ。もちろん、私もね」

「えりぜんばいいいいいい」

 そう言って抱きしめてくれる絵里先輩に、その暖かい包容力に思わず泣きそうになる。ていうか泣く。

「よしよし」 

 ああ、人の体温ってこんな暖かかったんだ。やっぱり僕がいるべきなのはこっちだ。決して、あんな殺伐としたライフじゃない。

「ちょ!わ、私だって別に心配してなかったわけじゃなかったっていうか・・・・別に・・・・」

「いいよもう。真姫ちゃんは」

「ちょ!嘘!嘘よ!心配してたわよ!そ、そうだ!雪帰りの飛行機はどうするの!?良かったらここにチケットがあるんだけど」

「お金でちょろまかそうとしてない?」

「うぐっ」 

 形成逆転。わっはっは。

「あ!そうだ!実はここまでね———————」

 穂乃果は、ここまで連れてきてくれたお姉さんを紹介しようと思ったのだろう。

「あれ?」

 だが、振り返っても、そこには誰もいなかった。あるのは横断歩道と急ぐ車。そして暗闇だけだ。

「途中であった人と、ここまで・・・・」

「人?」

「誰もいなかったにゃ」

「そんな!」

 思わず悲痛な声を上げる穂乃果。僕も、その凛の言葉には疑いたい。

 まさか・・・・本当に。

 ドッペルゲンガー?

 って、まさかね。暗がりでよく見えなかっただけだろう。   

「まあいいわ、明日に向けて早く部屋に帰りましょう」

「あ!穂乃果ちゃん帰ってきたやん」

 ひょっこりと、ホテルのドアから希やにこちゃん、そして花陽も顔を覗かせる。みんな、穂乃果が帰ってきて安心している。そんな表情だった。

「あの!ごめんなさい、穂乃果、リーダーなのに。みんなに心配かけちゃった」

「もういいわよ」

「その代わり、明日はあなたが引っ張って最高のパフォーマンスにしてね」

「絵里ちゃん・・・・!」

 ん?明日?

「私たちの最後のステージなんだから」

「ああ、そういえばライブしに来たんだっけ」

「忘れてたん!?」

「いや・・・・まあ・・・・あはは」

 思わず苦笑い。

 そうか、そういえば明日で本当に最後なんだ。

 なんだか今まで目を背けていたことが急に否応なく現実として襲いかかってくる。

 最後、は、もう迎えたはずなのに。決意も覚悟も、できていたはずなのに。

 いざこうやって目の前にすると、いともたやすく崩れ落ちて行ってしまう。

 もろいものだなあ。

 本当は訪れなかった、ボーナストラックのようなもの。

 うん。だからまあ、複雑なまま、それでもただ楽しもう。

 彼女たちのライブを。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ていうか、雪。あなた今日はどうするの?ていうか昨日はどうしたのよ」

 絵里先輩が、心配したように訪ねてくる。

 けれど、心配はご無用だ。

「昨日は、あの、取り調べ室みたいなとこで一夜を明かしましたけど・・・・今日は違いますよ!」

 そう、なんたって。

「僕には今!お金があるのだから!!」

 バッサリと札束を片手に抱える。

「ど、どうしたのかにゃ!?それ!?」

「ふふふ。まあ、色々とね」

 あの大男からもらった。ギャングを潰した報酬に。

 なーんて、当然言えない。

「さあ!今の僕は言わばスターを獲ったマリオ状態!無敵!ヘブンさ!」

 意気揚々と、ホテルのカウンターに札束を叩きつける。

「おらあ!最上級のスイートなルーム用意しろやコラあ!」

 まるで田舎のヤンキーのような見事な首の曲げっぷり。

「はあ、雪がお金を持つとロクなことにならないわね」 

 なんか言いましたか?真姫ちゃん!?

 ていうかよくよく見てみると、昨日僕を引きずりだした黒服だった。

 ふふんと、勝ち誇ったように鼻で笑う僕に、その黒服は無表情なまま部屋に案内してくれる。

「そうそう、お客様の言うことは絶対だからな!」

 調子に乗ってばしばしと肩を叩き続ける僕に。

「大丈夫ですかね・・・・あの子」

「大丈夫じゃないと思うな。ことりは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、通されたのは、なぜかボロイ部屋。

 所々に蜘蛛の巣とかあるし、埃っぽいしベットはあるけど、逆に儚い。 

「あれえ?」

「」(ニッコリ)

 僕がおかしいなと首をかしげていると、扉が閉まって鍵がかけられた。

「・・・・あれえ?」

 窓から差し込む月の光が、切ない。

「ちょっとおお!?おいおいおいおい!!ここのどこがスイートだ!全然甘くないだろむしろ苦いだろ!」

 ガンガンと扉を叩く。

「金ならあんだよ!」  

「オカネ、タヨル。ヨクナイ」

「————————————っ!!」 

 ドア越しに聞こえてくるその声は、なぜか荒んだ僕の心になぜかふんわりと染み込んでいく。

 そうだ。僕は今までお金がないならないなりに、工夫して暮らしてきた。

 それがどうだ。ちょっとお金を増やせるかもしれないという誘惑に負け、全財産をカジノですり。ちょっとお金をもらったからって横暴な態度。

 くそ、お金の魔力に取りつかれていた。お金があったって幸せになるとは限らないのに。

「ソコ、ケシキ、トッテモ、スイート」

「——————————、」

 いわれて、窓に近づく。

 そこから見える夜景は、確かに綺麗だった。ニューヨークの全貌を見渡せ、もう夜も更けているというのに一向にその煌きは止まるところを知らない。

 さすがは眠らない街。世界の中心ニューヨークだ。

「って、ごまかされるわけねえだろ!!いいからスイートルーム用意しろやあああああ!!!」

 我慢、できませんでした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうー、いつまで泣いてるの?雪君」

「だって、一生に一度のチャンスだったのに。あんなホテルに泊まれるなんて」

 空港。飛行機が来るまでの待ち時間、僕は悔しさに唇を噛むしかなかった。

 結局、僕はあそこで一夜を過ごすことになり夢のスイートは本当に夢となり儚く散ったのだ。

「もう、鬱陶しいわねー」

「真姫ちゃん」

「そんなに行きたいんなら、その、私が連れてってあげるわよ。もっと・・・・すごいとこ」

「まぎじゃあああん」 

 思わず泣いた。

 結果から言って、ライブは大成功だった。

 異国の地で輝くミューズは美しくて、来てよかったと思える。まあ、方法はちょっとアレだったけど。

 けれど、やっぱり生で見たいというのはファンなら当然の心理と言えよう。え?なに?そんなんじゃ正当化されない?・・・・ごめん。

 そんでもってもう、帰る時間だ。

 終わりというものがあって、終わったのだと思ってた。けれど、もう一度だけミューズが見れた。それも最高の。

 それだけで法律を犯した甲斐はあったと思う。え?なに?綺麗にいってもやっぱり駄目?・・・・ごめん。

 そんなこんなでもうそろそろ飛行機に乗り込む時間だ。

 今度は行きとは違い本当にあの大男の言った通り一緒に飛行機に乗って帰ることができた。感謝感激雨霰である。

 ピンポーン。

 ことりの後ろに並び列の最後にあのゲートのような金属探査機を潜り抜けると、そんな間抜けな音が響く。

「え?」

「雪、ちゃん?」

 ものすごーく不安そうな顔。おいおい、そんなに信用ないのかい僕は。

 誓って変なものは持ち込んでませんよ?

「あーはいはい!ベルトねベルト」

 どうやらベルトが引っかかったらしい。現地の人が腰のあたりを指さして気づかせてくれる。

 あれ?でも僕そんなギラギラのベルトとかつけてきたっけ?

 頭の片隅に疑問を抱きつつも、ベルトを外し、再度挑戦。

 ピンポーン。

 再度、間抜けな音。

 そして、身体検査。

「あっはっは、大丈夫だって。そんな心配そうな目で見ないでよみんな」

 ものすごーく、心配そうな顔だった。

 そして。

 ゴトリ。

 と、重厚な音がする。

「んんん?」

 出てきたのは、 拳銃が一丁。

「・・・」

 場が、静まり返った。

 僕の頭は、予想の斜め上すぎる出来事に脳がついていかない。

 拳銃。拳銃って、そんなの僕が持ってるはずが————————————。

 一瞬フリーズした脳は、やがて急速に回転していく。

 今日あった出来事が、まるで映像のように鮮明に早送りされていく。

「あああ!!大男に拳銃借りっぱだった!!」

 ようやく思い出した。サブマシンガンやらなんやらが物騒すぎて、拳銃の価値が軽くなってたもんで忘れてた。

「つーか待って!またこのオチ!?僕この二日間でどんだけ警察の厄介になるの!?」

「雪ちゃん、更生してちゃんと出てくるんだよ?」

「何言っちゃってんの穂乃果!?殺った前提ですか!?」

「雪君、何年経っても、何十年経っても、ことり。雪君のこと忘れないよ?」

「諦めが早い!!」

「雪、大丈夫よ。保釈金はちゃんと払ってあげるから」

「わーいありがとう真姫ちゃん!ってバカ!そもそも殺ってねえっつってんの!!」

「雪・・・・やはり、アメリカがあなたを変えてしまったのですね」

「ねえ誰か一人でも僕の話聞いてくれます!?」

「雪君・・・・・どんなになってもウチの婚姻届けの半分は雪君のやからね」

「ああわかりました!僕の信用って地に落ちてるんですね!」

「ハーイ、ショデクワシイコト、キキマース」

「ああちくしょう!まだ全員のボケにツッコんでないのに!!」

 ずるずると力強い腕に床を引きずられる。

 

「やだああああ!!もう警察はいやだあああああああ!!」

 




 どうもお願いシンデレラ!高宮です。
 全然関係ない話ですけど、カクヨムというサイトがあってですね。そこで僕も小説を投稿とかしてます。「ようこそ、世界の終焉へ~福谷利太郎の手記~」というタイトルです。
 詳しいことはサイト内で。興味ある人は是非。興味ない人も是非。
 それではまた次回もよろしくお願いします。
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