ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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劇場版 シーン4 そして、終わりが終わる。

 僕らは中庭に集まった。

 なぜなら、今後の活動を話し合うために他ならない。

 本来なら、結論付けられていたはずの、最後。

 その最後を。

 

 

 

 

 

「続けてほしい?」

 そのちょっと前。理事長室に呼ばれたのは穂乃果とことりと海未。

「あの、これ、僕いります?」

 そして僕だった。

 場違い感が半端ない。完全に僕いらないよね?完全に三人だけでいいよね?

「いるよ!」「いるね♪」「いります」「いるわよ」

 ああ・・・そうですか・・・。

 四人から一斉に言われて萎れる僕。そうも強く言われてしまうともはや何も言えません。

「——————————スクールアイドルとして圧倒的な人気を誇るアライズとミューズ。ドーム大会を実現させるためには、どうしてもあなたたちの力が必要だとみんなが思っているのよ」

「みんなが・・・」

 穂乃果が呟いたとおり、みんな期待しているんだろう。ミューズの力に。僕だってその()()()の中の一人だ。

「でも、そう考えるのもわかります」

 今や、ミューズはアライズと肩を並べるほどの二大巨頭だから。

「ここまで人気が出ちゃうと・・・」

 だからそう考えるのは自然だ。

「三年生が卒業して、スクールアイドルを続けるのが難しいというなら別の形でも構いません」

 別の形。それは僕の願いで。

「とにかく、今の熱を冷まさないためにもみんなミューズには続けてほしいと思ってる」

「そんな——————」

「ですが——————」

 二人とも、浮かない顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、さっきまでにあったこと。

 そして、中庭。

「困ったことになっちゃったね・・・最後のライブの話をしていたところなのに」

 花陽はベンチに座る。

「私は反対よ。ラブライブのおかげでここまでこられたのは確かだけど。ミューズがそこまでする必要があるの?」

 真姫ちゃんは強い口調でそう言った。その言葉に穂乃果は曖昧に返事する。

 みんな、真剣な表情だった。

 当たり前か。自分の将来のことで、自分の今後のことなんだから。今話し合っているのは。

 大事なことだと、空気がそう言っている。

「でも、大会を成功に導くことができれば。スクールアイドルはもっと羽ばたける」

 絵里先輩の言う通り。

「海外に行ったのもそのためやしね」

「待ってよ!ちゃんと終わりにしようって、ミューズは三年生の卒業と同時に終わるって、決めたんじゃないの!?」

 真姫ちゃんの想いは正くて。

「真姫の言う通りよ。ちゃんと終わらせるって決めたんなら終わらせないと。違う・・・!?」

 にこちゃんの言うことはごもっともで。

「にこっち・・・・。いいの?続ければドームのステージに」「勿論!出たいわよ」

 けど、とにこちゃんは言葉を紡ぐ。

「私たちは決めたんじゃない。九人で決めたんじゃない。みんなで話し合って。あの時の決心を簡単には変えられない!・・・・わかるでしょ」

 僕は他人の心の中を読めるわけではないから、想像することしかできない。

 できないけど、それでもにこちゃんがどんな思いなのかそれは手に取るように分かった。

「もし、ミューズを終わりにしちゃったらドームはなくなっちゃうかもしれないよね・・・・」

「凛たちが続けなかったせいで・・・そうなるのは・・・・」

 花陽の寂寥感も、凛の重圧感も当然のもので。

「・・・・・雪君は・・・・?」

 ことりが、尋ねる。

「雪は、どう思うの?」

 絵里先輩が重ねて尋ねる。

 

「・・・・僕?僕は、ほら、ミューズじゃないから」

 

 笑顔でそう言った。

 

「———————————っ!」

 

 言った瞬間、にこちゃんに胸ぐらを掴まれたけど。

「あんたは!また!そんなこといって!あんただって・・・・あんただって」

 その言葉の続きは、どんな言葉だったろう。にこちゃんの口から発せられる前に、僕はにこちゃんの手を優しく握った。

 その続きはきっと。僕の心を満たしてくれるようなそんな優しさだと思う。

 だけど、いやだからこそ。その続きは僕が言わなきゃ。ちゃんと自分の言葉で。

「うん、だけどねにこちゃん。でもやっぱり僕はミューズのメンバーじゃあないんだよ。そこを曲げたら多分僕は僕以外の何か別の人になっちゃうんだ。僕はミューズのマネージャーでもプロデューサーでも作曲家でも作詞家でも振付師でも衣装担当でも、もっと言えば同じ学校でもない。ただの一ファンなんだ。だからこそ、今まで僕はミューズと笑ってこれた。そりゃ、何かを一緒に作るのも楽しそうだけど、でもそれは僕じゃない。今の僕じゃない。僕は今の関係が好きだよ。笑いあって、怒られたり、泣いたり心配したりできる今の関係が好きだ。ミューズのファンで良かったって心の底から思ってる」

 だから僕は。僕の気持ちを言えるんだ。

「そんな一ファンからの意見を言わせてもらえば、みんな正しいんだ。間違っているなんてこと一つもない。だから僕はどっちでもいいよ」

「どっちでもいいって・・・・」

 凛の呆れた声に僕は笑顔で振り向く。

「だって、続けてほしいけど。どんな形であれ、例え皆から非難を浴びる形になろうとも、僕は続けてほしい。だけど、それは()()()()()()()()()()()()()()()。だから、僕はどっちでもいい。穂乃果が、皆が決めた選択なら。どちらだって構わない。だって、僕がミューズのファンだっていう事実は揺るがないから」

 それが、嘘偽りのない。僕の正しい気持ちだった。この気持ちは間違いなんかじゃない。

「だから、穂乃果が、皆が決めて。僕はそれについていくよ」

 そう言い終わって、視線が穂乃果に集中する。

 

 大きな木の下で、穂乃果は———————————。

 穂乃果は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんでこんなことに?」

「いいじゃーん!ウチに泊まるの久しぶりでしょ?」

「いや、そういう問題でなくてね」

 なぜか、僕は一人、穂乃果の家に泊まることになった。あれよあれよという間に決定して口を挟む余裕すらなかった。

「お風呂沸いたわよー」

 穂乃果のお母さんの声がリビングに木霊して穂乃果が答える。

「じゃあ、雪ちゃん入っちゃって」

「はーい」

 結局、僕は穂乃果には逆らえないんだなあ。なんて、乾いた笑いが漏れ出る。

 お風呂場で上を脱いで、ほふっと一息つく。

 なんだかこの一年色々あったなあなんて、ガラにもなく思い出したりして。

 思い出したりしたのは、やっぱり結末を僕はもう悟ってしまっているからなのだろうか。

 あーヤダヤダ。ヤダねーこういうのって。なんか老けた気がして。

 僕まだ高1よ?まああとちょっとで2になるけど。

 なーんて感傷をティッシュにくるんで捨てていると。

 不意に扉が開いた。

 え?ああ、下ですか?もちろん脱いでますけど?だってお風呂に入るときは全部脱ぐでしょ?

 そんでもって扉を開けたのは顔を茹でたタコみたいに真っ赤にした穂乃果。

「あ、っと・・・・」

 さっき僕がお風呂入ったの見たよね?なんで今のタイミングで開けたの?確信犯?あとふつう逆じゃね?こういうのって僕が穂乃果の裸を見ちゃってラッキースケベになるんじゃないの?誰が得するのこの状況?誰が喜ぶのこの状況?なにこれ、何て呼ぶのこれ。絶対ラッキースケベではないよね絶対。

 頭の中がツッコミで埋め尽くされた。ここまで、わずか0,2秒。

「雪ちゃんのバカーーーーー!!」

「なんで!?」

 ボフンと、穂乃果が手に持っていたタオルを投げつけられる。だからなんで?僕何にも悪いことしてないよ?冤罪だよ!こうやって罪のない人たちが苦しめられていくんだよ!

 どうやらタオルを持ってきてくれたらしいのだが、できるなら、もうちょっと遅くに持ってきてくれたらうれしかったんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふー、とようやくお風呂からあがって二階の階段を上がっていた。次は穂乃果だよと言うために。

「————————————だから、私たちはミューズに負けないくらい楽しいスクールアイドルを目指そうって」

 扉に手をかけて、声が聞こえてきた。雪穂の声だ。

「だから、ミューズにはいつも楽しくいて欲しいです♪」

 どうやら亜里沙ちゃんもいるらしい。

 いつも、楽しく。

 その言葉にやっぱり僕は現実を知らされる。

 いつだって、叶わない願いは、どうやら今回も叶わないままらしい。

 そして、電話が鳴った。

「・・・・・ツバサさん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと・・・・・だからこれ、僕いります?」

「いるよ!」「いるね♪」「いるな」「いるわよ」

 ですよねー。わかってた。僕わかってた。だって冒頭で同じような下りあったもん。

 ツバサさんに呼び出された僕は、なぜか穂乃果と共にリムジンに乗せられていた。

「ちょ、大丈夫?」

 リムジンなんか初めて乗る僕は、端的に言って酔っていた。

「車酔いとか、するんだねー」

「いや、これ、高級酔いです」

「高級酔い?」

「普段なれないこんな高級車に乗っているという事実が、僕をむしばんでいるんです・・・・うえっぷ」

 気持ち悪い。気分が悪い。早く終わらせて、早く降ろして。

「なにそれ?病気?」

 冷たい目で見られた!ツバサさんから病気扱いされた!

「まったく、しょうがないわね。ほら」

 先ほどからなぜか何度も組み替えられている足に、ポンポンと誘導される。抵抗する元気なんかない。

 いつの間にか、膝枕が完成していた。

「なっ・・・・!」

 先を越されたとばかりにプルプルと震える穂乃果と勝ち誇った顔をするツバサさんを目上に、なんだか気まずい。

「海外でのライブ、お疲れさま」

 あ、この状態で会話するんですね。本格的に僕いらなくない?

「次はどこでライブするの?」

 その言葉で気づいた。そういえばアライズにもミューズの今後は言っていなかったのだと。

「・・・それは」

 浮かない穂乃果の顔で察したのだろう。ツバサさんは目を細める。

「その顔は、どうしようって顔ね」

 流石ツバサさん。略してさすツバ。言わんとしていることを察してくれる。

「ミューズは、三年生が卒業してそれで終わりにする。それが一番いいと、私たちは思っていました。でも、今はすごいたくさんの人たちが私たちを待っていて、ラブライブにまで力を貸せるようになって!」

「期待を裏切りたくない?」

「応援してくれる人がいて、歌を聴きたいと言ってくれる人がいて。期待にこたえたい。ずっとそうしてきたから・・・」

「だったら続けたら・・・」

 あんじゅが言う。でも、その選択はそう簡単ではない。

 一度、終わりを選んでしまった彼女たちには。

「・・・・思います。でも」

 それでも、後悔しないために。()()()()()しないために。

「あなたがどういう結論を出すか自由よ」

 でもね。とツバサさんは続ける。憂いを帯びた瞳で。

「やっぱりなくなるのは寂しいの。この時間をこの一瞬をずっと続けていたい。ってそう思うの」

 正しくて、正しくて。正しいからこそ、こんなにもつらくて苦しい。いっそのこと間違っていたのなら。間違っていると思えるのなら、それは楽なことなのかもしれない。

 いや、でもやっぱりそっちもそっちでつらいんだろう。だって結局間違っているのだから。

 どの道もつらいのなら、穂乃果はどの道を選ぶんだろうか。

「だから、私たちはあなた達に続けてほしい」

 ツバサさんははっきりとそう言った。僕と同じ願いを。

 

 

 

 

 

 

「で、あの。降ろしてもらえません?」

「駄目よ。外今雨降ってるんだから、送って行ってあげる」

 穂乃果はもうとっくにリムジンを降りたというのに、僕だけがまだツバサさんの柔らかくて温かい膝の上だ。

 むぎゅっと、両手を顔に押し当てられてのぞき込まれる。

「まったく、急にニューヨークなんて行っちゃうんだもの。・・・・・心配したわ」

「あ、・・・ごめんなさい」

 でもそのニューヨークでも色々と、それこそ国家レベルの事件に巻き込まれたことは絶対に黙っていよう。

 真剣な表情のツバサさんに、僕はたまらず瞳をそらす。

「・・・む」

 それが気に食わなかったのだろうか。

 

 むぎゅうと、抱きしめられた。 

 

 いや、膝枕をされた状態だからぬいぐるみを抱きしめたような体勢に近いが、それでもおなかがすぐ目の前っていうか密着している。なんか良い匂いするし。制服越しに体温が伝わってくる。

「はい!おしまい!もう着いたわよ!」

「え?・・・・でも」

 外を見ると、まだ家まではもうちょっとあった。

 ツバサさんを見ても、顔を逸らすばかりなので。ていうか流石に家まで送ってもらうのは申し訳ないので素直にここで降りることにした。

「あれ?あんじゅ——————」

 降りたら、なぜかあんじゅまでついてきて。

 

 また、むぎゅっとされた。今度は立っているので丁度顔がおっぱいに。

 

 おっぱいがおっぱいでもうおっぱいおっぱいだった。

 

「えー、っと」

 

 何も言わずにあんじゅはリムジンに帰っていく。ここからは窓が黒くて中が見えない。ということはあっちからも見えない。

「なんだったんだ・・・・」

 わかんない。わかんないから考えるのをやめた。

「つーか傘持ってないんだけど」

 一回降りてきたのなら傘を貸してくれればよかったのに、なんて無理な願いだ。

 降りしきる雨足が強くなってきた。急いで雨宿りできそうなところを探す。

 すると。

(・・・・・なんか、聞き覚えのある声が)

 どこでだったか、いつだったか。確かに聞いたはずのその声。美しい歌声が、僕の耳を優しく包む。

「あれ?穂乃果?」

「雪ちゃん」

 まるで蜜に集まる昆虫のように、フラフラとその音の出所を探していると。

 不意に出会った。

「・・・・なんで、目逸らすの?」

「へ?いやいや、別に」

 先ほどのことがあったせいか、上手く言葉にできない。なんだこれ、なんかすごい背徳感。なんか浮気してるみたいじゃないか。馬鹿言うな。

「そ、それよりこの声!」

 若干強引だっただろうか。穂乃果のジト目が抜けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも行ってみると、やっぱりあのお姉さんだった。

 ニューヨークであった。あのお姉さん。橙色の長い髪を腰まで下ろして、優しそうな雰囲気を放つ。真実はいつも一つ!とか言いそうな、そんな人。

「なんでここにいるんですか!?あの時も突然いなくなっちゃって!」

 質問攻めにする穂乃果。相当驚いているらしい。

 僕としては話がそれてくれて一安心。

 ああ!と、また一つ大きな声。

「このマイク!私の家にもあります!ちゃんとお礼言いたかったんですよ!」

 ああそうだ!と、穂乃果は忙しない。

「ウチすぐ近くなんで寄っていって下さい!マイク返したいですし!」

「ええー!?いいよー!」

 嫌がる?お姉さんをやや強引に引っ張っていく穂乃果。

「ちょっと!助けてー」

「いやー、僕には無理ですー」

 助けを求められ、ズルズルと引きずられていくお姉さんを前に。僕はどうすることもできない。

 

 

 

 

 

 

「ほら!ここです!どうぞ入っていってください!」

「いや、やっぱりいいよここで」

 そう言うと、本当に彼女は歩いて行ってしまう。僕が持ってきた荷物を受け取って。

「なんで?せっかく再開できたのに」

「・・・・・・答えは見つかった?」

 それは、文脈も何もすっ飛ばした質問。

「目を閉じて・・・・ほら、君も」

 穂乃果。そして僕。疑問を浮かべる間もなく、二人とも目を閉じた。

 突風。突然に吹き荒れる風に、穂乃果の傘は飛んで行って。

 次、目を開けると。そこにあったのは花畑だった。

 真ん中に大きな水たまりがある。花畑。

 これは夢?幻?

 どちらでもいいと思った。だって、目の前の景色はこんなにも綺麗で美しいのだから。

「飛べるよ!いつだって飛べる!あの頃のように!」

 それが何を指しているのか、わかるけどわからない。わからないようでわかる。

 やがて、穂乃果は飛んだ。あの頃のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは九人の物語だ。きっと僕一人いなくても成立する、していた物語だ。

 だけど、この世界には僕がいる。誰でもない僕がいる。ミューズと関わってきた僕がいる。

 だから、胸を張って言える。これは僕の物語だと。誰でもない僕のための物語だと。

「ライブをするんだよ!」

 穂乃果の言葉を屋上で聞きながら。

「スクールアイドルがいかに素敵か!凄いのはアライズやミューズだけじゃない!」

 僕は、そう思った。

「それを知ってもらうライブをするんだよ!」

「で、具体的にはどうするの?」

 そう思ったから聞いた。そう思えたから聞いた。僕の物語で、彼女らの物語だから。

「実はね!すごいいい考えがあるんだよ!」

 あ、嫌な予感がする!ものすごーい嫌な予感がする!大体こういう出だしで始める話ってロクなもんじゃないもの!経験がそう言ってるもの!

 

 

 

 

 

「一緒にライブを?」

 場所を移して、UTX。目の前にはツバサさん。

「やっぱり僕いらないよね!絶対お邪魔だよね!」

「・・・はい。やっぱりミューズはここで終わりにしようと思います。まだそのことをメンバー以外の人に伝えられてはいないのですが・・・」

「あれ?ついに無視?だったらやっぱり帰っていい!?」

 けれどぎゅっと穂乃果に掴まれた裾は微動だにしない。

 そんなことお構いなしに、やっぱりいつもの調子で穂乃果の言葉は弾んだ。

「でも!スクールアイドルの素晴らしさをみんなに伝えたいんです!」

「・・・なるほど。私たちスクールアイドルが心から楽しいと思えるライブをやれば、たとえ私たちがいなくなってもドーム大会に必ず繋がっていく。というわけね」

「はい!」

「あなたらしいアイデアね。面白いわ。皆がハッピーになれるというのも悪くないわね」

 チラと、なぜか僕の目を見るツバサさん。

「いいわ。協力する」

 ただし、とツバサさんは付け加える。一つの条件を。

「みんなで一つの歌を歌いたい。スクールアイドルみんなの歌。せっかくみんなでライブをするならそれにふさわしい曲というのがある。それをあなた達に作ってもらいたい」

 それが、唯一の条件。

 その条件に穂乃果は。

「やりたいです!それすごくいいです!私もそうしたいです!」

 爛々と目を輝かせながらはしゃいでいた。新しいおもちゃを買ってもらった子供のように。

 颯爽とお茶を飲み干して、飛び出していった穂乃果を呆気にとられながら見送る僕とツバサさん。

 ツバサさんはそんな穂乃果に微笑みながら。

 一言。

「・・・・熱い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で。

 有言実行。颯天のごとく。

 早速、穂乃果は行動に移していた。

 スクールアイドルってのは、その名の通り学校のアイドルだ。ということは学校があるだけアイドルの数はある。理論上はね。

 流石に全部とはいかないだろうが、全国に相当数のアイドルたちがいるはず。

 そのアイドルたちに、出来る限り全員に僕らはメールを送った。

 内容は、わざわざ言わなくてもわかると思う。

「うわー!すごいです!メールを送ったらすでに何件か返信が!」

 花陽は驚きと喜びが入り混じった表情でそう言った。

「ほんと!?」

「でも、中には話を聞いてからにしたいってグループもいて・・・」

 まあ、当然だろう。いきなりメールで言われたって全部は信用できない。

「確かに、いきなり出て欲しいって言われても戸惑ってしまうわよね・・・」

「電話でちゃんと説明したほうがいいかもしれません」

 絵里先輩も海未も当然の対応だ。

 だけど。

「のんびり構えていていいの?時間はもうそんなに残されてないのよ?」

 にこちゃんの言う通り。時間がなかった。

 もう三月も半ば。桜の蕾もちらほらと開花し始めたころだ。

 ミューズは終わってしまう。残された猶予は数えるほどもない。

「じゃあどうするの?」

 真姫ちゃんが聞いた。

「会いに行こうよ!」

「そう、会いに行く・・・・ってヴェエ!?」

 あ、なんか久しぶりに聞いたその声。

 穂乃果の言葉は真姫ちゃんの眠っていたその声を引き出したようだ。

 

「「「「「「「「「会いに!?」」」」」」」」」

 

 どうやら驚いたのは真姫ちゃんだけでなかったらしい。声には出さなかったけど、僕も含めて。

「ほんきなん?」

「行ける範囲は限られるだろうけど。直接会って、直接話したほうが気持ちも伝わるよ!」

 穂乃果らしい、無鉄砲で無謀な、けれど他の人には誰も口に出せない希望だった。

「でも、どうやって?」

 ことりの疑問は皆の総意らしく、穂乃果の次なる言葉をみんな待っていた。

「簡単だよ!」

 驚いた。策があるらしい。いつもの穂乃果とは違うということか、これが成長なのか。

 少しだけ、僕は穂乃果をみくびっていたらしい。 

 

「真姫ちゃん!!電車賃貸して!!」

 

「「「「「「「「なるほど!」」」」」」」」

 

「なるほどじゃない!!」

 

 ごめん。僕の勘違いだった。全然穂乃果は穂乃果だった。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、いうことで。

「よし!じゃあメンバーを振り分けるよ!」

 ホワイトボードには、行く場所とメンバーが早々に決まって書かれている。

 ひとまず、ホワイトボードをそのまま写そう。

 東京。隅田川。

 花陽、にこちゃん、ことり。そして僕。

 ふんふん。僕は隅田川か。いいんじゃないかな、一番近いし。僕だって暇じゃないしね。

 そして原宿。

 真姫ちゃん。穂乃果、絵里先輩。そして僕。

 ・・・まあ、ね。ちょっとくらい僕も貢献しないとね。

 最後に井之頭公園。

 残っているのは凛。海未、希だった。そして僕。

「これで決まりだね!」

 

 

「いやツッコめええええええ!!!」

 

 

 部室に盛大なシャウトが響いた。

「ツッコめよ!!ボケてんだろどう考えても!なんで僕がオール参加になってるんだよ!?僕だけ労働環境おかしいだろうが!疲労パンパンだろーが!!」

「しょうがないじゃん。もうこれで決まったんだから」

「しょうがなくないよね!?完全に穂乃果たちのさじ加減一つだよね!?嫌がらせだよねどう考えても!?」

「いい?雪」

 僕の悲痛な訴えを絵里先輩は手を肩において優しく諭す。

「悔しいけど今はあなたのその”女たらし”が役に立つ時なの。ここは我慢してちょうだい?」

「褒められてるの!?けなされてるの!?どっち!?」

 一つだけわかるのは絵里先輩が本当に悔しそうだというだけだ。思いっきり下唇を噛んでいる。

「そうだよ。雪君のそのどーしようもないほど女の子にだらしない性格が、今やっと人様の役に立てる時が来たんだよ」

「もう絶対けなしてるよね!悪意の塊みたいなもんだよね!」

 ことり、泣いていい?ホントにここで涙枯らしていい?

「良かったわね。雪」

「いや良くないよ?けなされた挙句に不当な労働を強いられてるわけだからね?」

 なんで真姫ちゃんはそんなに嬉しそうなの?そんなに僕に対して思うところあったの?

 とやかく言っても、いつものように、いつもの通り。結局、僕に選択肢はないわけで。

 

 

 

 

 ~隅田川~

「1、2、3、4、5、6、7、8」

 木陰から、スクールアイドルと思しき女の子たちが練習しているのを三人で覗き見る。

 どこも練習風景はそう変わらない。頑張っている女の子たちの姿だ。

「ど、どうしよう・・・!一生懸命練習してるよ?」

 だから、声をかけるのも躊躇う。

「雪」

「ええ!?僕!?」

「当たり前でしょ!?なんの為に連れてきたと思ってるのよ!」

 グイグイとにこちゃんに背中を押され、僕は散歩を嫌がる犬みたいに足をブレーキ代わりにしていた。

 だって気まずいんだもん。大体、初対面の人になんて声をかければいいかもよくわからないのに、ライブに誘えってそれ無茶過ぎない?

 と、思っていたら一人足りないことに気付いた。

 僕、花陽、にこちゃん。でここにいるのは三人。

 そう。あと一人、ことりが足りない。

「こんにちわ♪初めまして。ミューズの南ことりです♪ちょっとお話しいいですか?」

 なんか百点満点のスマイルで一人、ことりは練習していたアイドルたちのもとに向かっていた。

「うわー!」「かわいいー」

 一気にアイドルたちはスクールアイドルから、普通の少女に戻っていた。恐るべしことり。

「な、なんでしょうか————————————?」

 やれやれ。やっぱりこれ、僕いらないんじゃないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~原宿~

「ステージに立ってほしかったら勝負よ!!」

 いや、ポケモントレーナーか!!なに!?目が会ったら問答無用で勝負とかそういう世界でしたっけこれ!?

 また、しちめんどくさいことになった。

「あのー、お話しを聞いてもらうだけでいいんで。勝負とかでなくてですね」

 二度目ともなり、多少は慣れた僕が出来る限り円滑に、かつ常識的に話を進めようとすると。

「勝ったら出てあげるわ!」

 あれえ?もしかしてこの人たちも人の話を聞かない系女子?

 まったく。こんなのに誰が乗るんだ「ふふーん♪いいわ!面白そうじゃない!」あれえ!?言ったそばから!?絵里先輩!?あなたこっち側の人間だと思ってたのに!

「ミューズの本気見せてあげる!」

 ていうか、勝負ってなに?持ってないよ?僕ポケットに収まるモンスター持ってないよ?欲しいけども。欲しいけども!

 驚く穂乃果が使いものにならない今。僕が何とかするしかない。

「いけ!ユッキー!」

「・・・なにそれ?僕のこと?僕のことじゃないよね!」

「ふぶき!」

「いや使えねえから!技とかないから!」

「あるわよ、ツッコミの性、心の闇、女たらし、劣等感がね」

「なにそれ!どんな効果があんだよ!」

「ツッコミの性はひたすらツッコむわ。心の闇は、発動したと同時に数日間はひきこもる。女たらしは相手がメス以外だと使えないし、劣等感は使ったら最後逃げ出すわ」

「一個も使えねえ!ユッキー全然使えねえ!ほとんどゴミじゃねえか!コラッタのほうがまだ使えるレベルだよ!」

「ちなみに特性は天然よ」

「うるさいわ!もうほんと何から何までやかましいわ!」

「うぐ・・・・負けたわ」

「なんで!?なにに負けたの!?今のやりとりのどこに敗北感じ取ったの?感受性豊かだなおい!」

「しかと見せてもらったわ。漫才を」

 漫才だった——————————————っ!漫才で勝負を決するつもりだった—————————————っ!

 ということで、勝利。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~井之頭公園~

「よろしくお願いしまーす」「ライブやりまーす」

「みんな凛たちと一緒だ」

 良かった。最後はマトモそうだ。

 ビラを配っている二人の女の子たちを見ていると、一番初めにビラ配りを手伝った時のことが甦る。あの頃はまだ三人で。人も一人も来なくて。まさかここまで大きくなるなんて思ってもみなかった。

「どうします・・・?突然、話しかけるわけには」

「あ!あの!」

 さて一体どうやって話しかけようか、悩んでいたところに女の子のうちの一人が向こうからやってきた。

「この前、一緒に猫を探してくれた人・・・ですよね」

「ああ!この間の!」

 いわれて気づいた。そういやそんなこともあったと。

 後ろの空気が冷え込んでいるのには気づかずに、僕はそのスクールアイドルの女の子と談笑する。

「そ、それで・・・・お礼とか、したいので。連絡先!教えてください!」

 まるで大仰に、意を決したようにがばっと携帯を差し出してくる女の子。

「・・・いいよ。その代わり僕らのライブに出てくれない?」

「ライブ、ですか?」

「そう」

 二人は顔を見合わせて。

「「はい!!」」

 良かった。OKしてくれた。

 これで僕も、ちょっとは役に立ったかな。

 ピースサインしながら後ろを振り返ると。

「・・・・チッ」

「・・・・ペッ」

「・・・・・・」(ポキポキ)

 あれ?なんか歓迎されてない感じ?なんで?僕ちゃんとミッションコンプリートしたよね!?褒められることはあってもなんであんな殺伐とした雰囲気になんの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メールが来ました!東京だけでなく、全国から何校も!」

「すごいわ!」

「これで二十校目だにゃー!」

 カキカキと、ホワイトボードにネコチャンマークを書き加える凛。参加してくれるスクールアイドルの証だ。

 僕は・・・まあ、その。見てるだけだった。金輪際、スクールアイドルの女の子たちと関わることを禁止された。なぜだ。

「ハロー」

「あんじゅさん!」

 そういえば、手伝いに来ると言っていた。後ろには英玲奈先輩もツバサさんもいる。

「わー、かわいい衣装」

「穂乃果ちゃんに言われて急いで作ったんだ♪」

「沢山必要でしょ?手伝うわ。お互い、強引な相方を持つと苦労するわね」

「ねえ雪ちゃん!どっちが似合う!?」

「雪?ちょっと聞いてるのあなた?」

「痛い痛い、ちょ、引っ張らないで」

 目を合わせ、二人苦笑しているとも知らずに僕はツバサさんと穂乃果に虐げられる。

「いてて・・・・」

 なんとか部室から脱し、フラフラ校舎内を歩いているとピアノの音が。

「ぐぬぬぬぬ・・・」

「にこちゃん」

 音楽室を覗くと、先客が。

「ぎゃあ!雪!」

 ちらと、僕も同様に見やると、そこには真姫ちゃんとツバサさん。あれ?あの人さっきまで部室にいたよね?瞬間移動?

 人間離れしたツバサさんの行動に、だけどツバサさんだからと言われれば納得してしまう。

 そんなことを考えながらにこちゃんを見ていると。

「・・・・ふん!なによ!」

「嫉妬?」

 蹴られた。

「そもそも!この前聞いた真姫の曲をやるんじゃないの!?仲よさそうにまた新しい曲作ってるし」

「やっぱり嫉妬じゃん」

 はっはっはと、笑いながら言ったら、今度は殴られた。

「うちも聞いたんやけど、あの曲はミューズの九人で歌いたい曲やからって」

 いつの間にか後ろにいた希が答えてくれた。

 その答えに、にこちゃんも不満はないみたいだ。

 

 

 

 

 生徒会室。そこには英玲奈先輩と海未がいた。

 みんな、なにかしらライブのために尽くしている。何もしていないのは僕だけだった。

 でもなぜだろう。以前ほど焦燥感も不快感もないのは。

 それは、僕が成長しているからだと、少しは己惚れてもいいのかな。

「・・・・ま、でも僕も何かやろうかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みなさん!こんにちわ!今日は集まっていただき本当にありがとうございます!今回のライブは大会と違ってみんなで作る手作りのライブです!自分たちの手でライブを作り、自分たちの足でお客さんに呼び掛けて、ライブを成功に導いていきましょう!」

 そして街頭にはライブをするために集まったスクールアイドルたち。こうしてみると、その数の多さが知れる。

「お姉ちゃーん!!」

「雪穂!手伝ってくれるのー?」

「うん!」

「もちろんでーす!」

 隣には亜里沙ちゃんもいた。

「でも私たちまだスクールアイドルじゃないのに参加しちゃっていいのー!?」

 ていうか、なんで君たち拡声器で会話してるの?近所迷惑だからやめなさい。

 

「「「「「「「「だいじょーぶ!!」」」」」」」」

 

「・・・百人乗っても?」(ボソ)

 

「「「「「「「「だいじょーぶ!!」」」」」」」」

 

 うわー、ノリいいなー。

 

 

 

 

 

 段々ガヤガヤと騒がしくなってくる。ライブのため今から準備するためだ。

 一方では風船を膨らませたり、飾りつけを作ったり。穂乃果がいったように手作りで、全てをまかなっていた。

「すげーなー」

 ただ、馬鹿みたいに僕はそう呟いた。こんなに人数と力があれば、秋葉のビルを飾り付けることだってできるんだ。

 その光景に圧倒されて、圧巻されて。魅了された。

「よし。僕もがんばろ」

「いらっしゃいませー!スクールアイドルが考えた美味しいメニューありますよー」

「どれどれ君たち、順調かね?」

「オーナー!」

 そう僕がしたこと。それは、この一種お祭りとも呼ぶべきこの場所に出店を開くこと。

「どうしたのかにゃ?」

「いや、ちょっと、オーナーなんて縁がない響きだと思ったら・・・泣けてきちゃって」 

 お祭りといえば、出店。お祭りといえば少々値段の張ったものでもお祭りだからと許される。財布の紐も緩くなる。

 そして僕の財布もあったかくなってみんなは楽しくなって一石二鳥いや、一石三鳥くらいあるんじゃなかろうか。

「加えてスクールアイドルが考えたという付加価値をつけることによってうんたらかんたら」

「はいはい。商売の邪魔だからどいてなさいよ」

 にこちゃんはにこにースマイルでかなりの量をさばいていた。

「やっぱり僕の睨んだ通り、にこちゃんには販売員の才能があるよ!」「なにその現実的すぎる才能は!」

 海未の書いた書道が掛けられて。形は不揃い、所々ちょっと曲がったりしている。でもなんていうか、これが彼女らの最高のステージだった。

 どこにもない、唯一で無二の。彼女らのステージだ。

「あのー、この白米スムージーって」

 すぐさまドロップキック。

「なんでもないですよー?あ、このストロベリー味とかお勧めだなー僕は」

 花陽め。後できつく言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に大きなハート形のアーチを掛けて。

 完成だった。

「よーし!みんなで練習だ!」

 テンションの上がった穂乃果がまた無茶なことを言い出す。辺りは夕暮れに染まっていてもう夕方だった。

「ていうか、ライブ明日よ?」

 真姫ちゃんのいう通り。

「そうよ、それにアライズだって急に」

「構わないが?」

 うわー、メラメラしてるー。英玲奈先輩闘争心メラメラさせちゃってるー。

 だけど、そんなのお構いなしなのが穂乃果だ。

 そんな穂乃果にみんな、やる気になっていた。

「・・・・ね、メール。見てないわね?」

「・・・・うぐ」

 そんな中、絵里先輩が近づいてツンツンと指でつついてきた。

 メール。先日、絵里先輩から送られてきた一通のメール。なんの脈絡もないそれを、僕は開けなかった。

 だって、開かなくても内容はわかっていたから。

「・・・・あのね、私たちはやっぱりスクールアイドルであることに、こだわりたいの」

 たった一言。その一言がきっと一番伝えたかったことなんだろう。

「はい」

 だから、僕は返事した。わかってたことを、知っていたことを。それでも無様に祈っていたことを。

「あの!私たち、みんなに・・・伝えなきゃいけないことがあるの」

 穂乃果の言葉に、一挙手一投足に。みんなが集中していた。穂乃果はそういう不思議なものを持っている。具体的になにかといわれると、ちょっとわかんないんだけど。

「ミューズは・・・私たちミューズは・・・このライブをもって活動を終了することにしました」

 穂乃果の後ろには寄り添うように海未とことりの姿。

「私たちは、スクールアイドルが好き。学校のために歌い、みんなのために歌い、お互いが競い合い、そして手を取り合える。そんな限られた時間の中で精一杯輝こうとするスクールアイドルが大好き!」

 静まり返った現場で、穂乃果の声だけが響き渡る。

 僕は、一つ、大きな息を吐いて。

 僕にできることは何だろうって、ずっと考えてた。劣等感に苛まれたこともあった。

 でも、それでもやっぱり僕は探してる。自分のできることを。自分のしたいことを。

 それが、今。終わりを迎えている。

 どうしようもないほどの、終わりを。

「ミューズはその気持ちを大切にしたい!・・・みんなと話して、そう決めました」

 これほどまでに時間を恨んだことはない。今の一瞬が永遠だったならなんて叶わない願いを痛いほど必死に願ったこともない。

 やっとできた自分の居場所。やっと見つけた大切なもの。それこそ命より大事だと思う、そんなものに出会えるのはきっと奇跡だ。

「———————————————っ」

 ああ、もう穂乃果の言葉が聞こえない。耳に靄がかかったように、自分でロックをかけてしまっている。

 もしも、過去に戻れたら。

 いや、きっと戻っても一緒だ。変わらないんだ。僕も、彼女らも。きっと同じように間違えて、正されて、笑いあう。そんな気がする。

 だから、だからこそ。今を僕は生きなきゃ。いつだって今にしか僕らは生きられないのだから。

「私たちの力を合わせれば、きっとこれからもラブライブは大きく広がっていく!」

 大きく深呼吸して、前を見据えた。最後くらい僕は泣かない。涙で前が見えなくなるのはもうちょっと後でいい。

 すすり泣く声があちこちで聞こえて。

 穂乃果の目に涙が溜まっていくのを見て。

 海未とことりが背中を支えているのを知って。

「だから!明日は終わりの歌は歌いません!スクールアイドルと、スクールアイドルを応援してくれているみんなのために歌いましょう!」

 そして、穂乃果は最後の言葉を紡ぐ。

「想いを共にしたみんなと一緒に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。ライブ当日。 

 晴天に恵まれたライブ日和。

「雪」

「ツバサさん」

 僕はUTXにいた。ライブ会場が一望できる特等席だ。もうすでに人は全員集まっている。

 昨日よりも何倍も増えた人たちで。

 何倍も増えた人たちが同じ衣装を着て、同じ歌を歌って、同じ踊りを踊る。

 それはきっと、想像しているより何倍も圧倒的なものなんだろう。

「なにしてるの?早く行きましょう」

「僕は・・・・ここで見てますよ。綺麗な景色を」

 僕はスクールアイドルではない。だからあそこにいるのは無粋だ。

 真っ白いキャンバスに、黒は似合わない。

「何言ってるの?あなたも行くのよ。あそこに」

「はい?」

 僕の言葉の真意が伝わらなかったのかと、もう一度口を開こうとするとあんじゅが来た。ついで英玲奈先輩も。

 その手には、衣装が携えられている。

 ツバサさんもあんじゅも英玲奈先輩も、もうとっくに衣装に袖を通していた。

 嫌な予感がする。そして嫌な予感というものは、大体あたるものである。

 ニンマリと笑うツバサさんに、僕の頬は引きつるばかりだった。

 どうやら僕に、白になれと言う気らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「穂乃果!」

「————————っ」

「あなたたちの言葉に、これだけの人が集まったのよ」

「・・・・すごい」

「これは大会じゃないから今はライバルでもない!」

「私たちは一つ!」

「———————で?雪ちゃんは?」

「もうとっくに着いてる頃だと思うんですが・・・・」

「ふふ。それはサプライズよ!」

 ずーっと、黙って穂乃果とツバサさんたちのやりとりを聞いていた。

 すぐ後ろで。

 はいここで問題です。すぐ後ろにいながら気づかれなかったのはなぜでしょう。

 答えはCMのあと!

「ゆ、雪ちゃん・・・その恰好」

「ええやん♪」

「うん♪よく似合ってるよ♪」

 とはいかなかった。

 ニーソックスに揺れるスカート。ウィッグを付けた髪はなんだか慣れない。赤くなった顔をそれでも必死に笑顔にして。

「ねえ、ツバサさん。これはいったい?」

「だって、あなたがいないと始まらないでしょ?」

 そんなことないよ。全然始まるよ。僕は袖で見ているだけでよかったのに、それがSS(サイドストーリー)の僕の終わりだったのに。

 どうしてこうなった。

「いいよ!すごくいいよ!雪ちゃん!」

「でも!こんな僕が!」

「雪、振り付けは?」

 絵里先輩に聞かれる。

「完璧」

「歌詞は?」

 今度は真姫ちゃんに。

「二番までアカペラで歌える」

「じゃあ大丈夫じゃない」

 にこちゃん。なにが?どこらへんが?一番重要なスクールアイドルって点が僕には欠けていると思うんですけど。

 けれど僕のこういう願いが叶えられたためしはなくて。例外なんて認めてはもらえなさそうだ。

 踊るしかない。

 歌うしかない。

 ほんっとに、しょうがないなーまったくもう。僕は望んじゃいなかったのに。こんな形は。

「雪ちゃん、顔がにやけてるにゃ!」「ふふ、隠しきれてないよ」

 凛と花陽にそういわれ、思わず顔を手で隠す。

 けど。

「・・・いいんだ。隠す気はないから。今日の僕は、ちょっと違うよ?」

 こうして、ライブは始まった。

 あっという間で、濃密で、忘れがたい瞬間が火をつけたように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うふふ。あはは。

「じゃあ撮るよー?」

 笑い声が木霊する。幸せな時間に、幸せなメンバーと。

 ああ、僕はきっと今この瞬間を迎えるために生まれたんだ。

 ちょっと大げさかな?でも全然そんな感じはしない。

 もっと、もっとってのは人間の欲深さだけど。

 でも、幸せだ。そう思うのも幸せのうちの一つだ。

 欲ってのは人が幸せになるために必要なものなのだと僕は思う。否定するのではなく、受け入れる。

 そう言えるのは、僕が受け入れたから。汚い僕も、それでも綺麗でいようと、いたいと願う僕も。

 僕はきっと生きていける。この先何があっても、例え地獄のような毎日になったとしても。

 それでも今日この日があれば。僕の中に今日という日がある限り、ずっと、生きていられる。

 そう思わせてくれた、教えてくれたミューズは最高で。スクールアイドルは素晴らしい。

 カメラが、定点した。

「じゃあ練習したあれ!やるわよ!」

 ツバサさんの声が聞こえて、シャッターに乗せてみんなの声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「ラブライブ!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 と。

 過去を振り返って惜しんで、未来を見上げて不安になって。

 それでも僕は、ちゃんと前に進めるだろう。

 だって教えてもらったから。

 いつだってどこでだって、大事なものがあると。

 ふふ。ねえそう思うだろ穂乃果。

  

 今が最高だって。

 




 どうも!はいふり!高宮です。
 ということで劇場版編最終話、いかがだったでしょうか。
 え?長い?まあまあ。
 いやね、前回次がラストだって言っちゃったもんだから引くに引けなくなっちゃって。えーっと、なになに一万六千文字?ああ、いつもの約三倍ですね。なんてことないなんてことない。
 ・・・・なんで俺前回次がラストなんて言っちゃったんだろ。激しく後悔しています。
 まあ最終回出血大サービスってことで!いいでしょ?
 気づけばこのssも70話を超えて・・・そう考えると感慨深いものもありますが、でもまだ終わりじゃないですから!もうちょっとだけ続くんで!ちゃんとラストまで考えてあるんで!ちゃんと考えてるタイプの作家だから!作家じゃないけど!
 ということでこれまで読んでくれた人たちに感謝と、そして同時にこれからもあとちょっとだけよろしくお願いします!
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