ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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EX 雪、ミューズに守られる。の巻 その1

 海田雪の生活は安定していた。

 依然よりも目に見えて支出が減り、余計なお金が必要なくなったというのが一番の理由だが、安定した一番の理由はやはり掛け持ちのバイトを辞めたことだろう。

 これまで彼の生活はバイト頼りであり、補助金だけでは到底暮らしていくことができなかった。

 そのため、五個も六個もバイトを同時に掛け持ちしていたのだ。それもどれもが保証されていなかったり、違法スレスレだったりと彼が年齢を偽っても働かせてもらえるような悪環境だった。

 そのバイトを辞めることができた。”普通”になったというのが、彼が安定になった一番の幸せだろう。

 だが、人生において安定=良いことだとは限らない。

 借金をしていた人が、借金を完済するためあくせく働いていたのに返し終わった途端働かなくなってしまった。なんて、よくある話だ。

 とはいえ、海田雪がそうなったわけではない。

 彼が安定を手に入れたのは、ひとえに仲間のおかげであり、誰かのおかげである。それを重々承知している彼は所謂”燃え尽き症候群”にはならなかった。

 ならなかったのだが、いかんせん彼は完璧ではない。どころか優秀というわけでも秀才というわけでもない。

「・・・・ごくり」

 だから、こうなってしまったのは必然というべきものだったのかもしれない。

 緩んだネジから亀裂が生まれるように。それは起こるべくして起こったのかもしれない。

「ちっくしょー!」「なんでそこで抜かれるんだ!!」「あー!!」

 周りはまさしく阿鼻叫喚。喜ぶもの、嘆くもの、悲しむもの、うなだれるもの、怒り狂うもの。喜怒哀楽が入り混じる空間。

 その中で一人。自身の手にした一枚の紙片。その紙片をぎゅっと固く握りしめ、呆然としている者が一人。

「あ、当たった・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ状況を説明しよう。呆然としているのは彼、海田雪。

 ここがどこかと問われれば、都内某所の”競馬場”だった。

 なぜ彼がこんなところにいるのかと問われればそれは前述のように、ネジが緩んだからに他ならない。

 生活が安定し、ミューズが解散し、春休みに突入した今。彼は暇を持て余していた。

 一年前までなら、書き入れ時だったのだがバイトをする必要がなくなった今、彼は超絶に暇だった。

 今まで自分が使っていた時間。バイトとミューズという二大巨頭。彼の軸とも言えるその二つを同時に失った彼は、急に時間が余った。

 普通の人間なら、趣味やら勉強やらとにかく時間を潰す術を知っている。

 だが、彼。海田雪にはその普通は当てはまらなかった。急にポンと時間を渡されても上手い活用法がわからない。

 結果、家でぼーっとするだけというある種ヤバい人間になりつつあるのを、これじゃイカンと思い直しとにかく外に出ようと一念発起。

 ニートまっしぐらだった己の生活を改めるべく、とりあえず散歩を始めてみたのだ。

 だがこれがいかんせんつまらない。結果退屈になるだけ。

 一回目で既に辟易とした雪は、そこで見つけた。

 否、見つけてしまった。

 そう、競馬場を。

 競馬というものがどういうものなのか。勿論彼は知っていた。彼の父親がよくラジオで競馬中継を聞いていたのを子供ながらに覚えていたからだ。

 だが、彼は競馬をしたことがない。知識なんてゼロだ。

 それでも、何か惹かれるものがあった。

 フラフラと、まるで光に集まる蛾のように。彼はそこに入っていった。

 その競馬場は簡素、というか廃れているようなもので、中央に馬券を買う窓口。目線を上にあげると、競馬中継しているテレビがあるだけのいたってシンプルな作りだった。

 辺りを見回す、ほど広くはないが他に来ているのは酔っ払ったおっさんや背広を着たお兄さんやら、こんな真昼間からこんな所にいる時点でまあロクな人間ではないだろう。

 そんな人達は目の前の新聞や、自身の予想に忙しいのかシンとした静脈音すら聞こえてくるほど静かだ。

 閑古鳥も思わず引いてしまいそうなそんな場所で、中継のテレビだけが騒がしい。

(やべ・・・思わず入っちゃったよ)

 外見からしてその廃れた中身は予想できたが、あまりに想像通りで逆に怯える雪。

 そもそも、馬券などやり方も買い方もわからない。それに多分法律では二十歳以下は買えないんじゃかっただろうか。こういう類は。

 やっぱり引き返そう。いくら暇だからと言っても、こんな時間の潰し方はダメだ。ダメ人間になるぞ。

 そう思い直し、引き返そうとする雪。

 すると、そんな雪の耳にテレビからコメントが聞こえてくる。

『えー、三連単配当は五万四千九百五十円。54、950円です』

 五万四千九百五十円。競馬は百円からが最低の掛け金だ。つまり、百円で三連単を買ってもし当たれば、五万四千八百五十円の利益。

 ごくり。と、雪は生唾を飲み込む。

 たった、十数秒。三連単を買うだけで、それだけの大金が手に入る。

 コメントが頭で反芻され、よからぬ欲が彼をじわじわと支配していく。

(いやいやいや!三連単だぞ!三連単!素人が当てられるようなもんじゃない!)

 ブンブンとそんなよからぬ欲を打ち消すように頭を振る。

 そうだ、帰ろう。こういう時は大抵ロクなことにならないと僕はニューヨークで学んだはずだ。

 それに散々ニューヨークで違法を働いてしまったのだ。ニューヨークという異国にはしゃいでしまっていたとはいえ、これ以上犯罪者に片足をツッコむわけにはいかない。

 片足っつうかもう全身泥に浸かっている気がしないでもないが、泥まみれになっている気がしないでもないが。雪はそんなことからは目を逸らす。

 とにかく、過去の失敗を踏まえ学習能力を発揮し踵を返す雪。

『それでは、もう間もなく馬券購入締め切りです』

 ピタリ。彼の足が止まる。思考が駆け巡る。ニューヨークでの失敗と、今回の賭け。今までの人生体験を照らし合わせても、どう考えても分が悪い。

 無茶だ。

 無謀だ。

 無粋だ。

「おばちゃん!1-9-3の三連単で!!」

「・・・はいよー」

 

 買・っ・て・し・ま・っ・た。

 

 財布から百円玉を取り出して、唯一の窓口であるおばちゃんに叩き付ける。

 ま、まあ百円だし?外れてもそんな痛くないし?ていうか当たるわけないし?

 そんな感じで自分で自分に言い訳する。しゃがみこんで頭を抱えて、馬券を手にして。

 周りも異常な人間ばかりだが、彼も相当奇妙な人間に映っていることだろう。

 一瞬で自分を客観的に見てしまい三連単を買ってしまった高揚感が一気に萎む。

 恥ずかしそうに立ち上がる雪。

 いや、まあそもそも。三連単など当たるはずがないのだ。オッズが高いということはそれだけ当たらないということで、難しいということだ。

 それがこんな競馬の”け”の字も知らないようなガキに当てられるわけがない。ましてやこんな風に締め切りギリギリに考えなしに勢いだけで買ってしまった馬券などは特にだ。

 まったくもって自分という人間がつくづく嫌になる。なんど同じ失敗を繰り返せばいいのだろう。百円といえどお金はお金だ。いくら生活が安定したといえどこんな風に娯楽、ましてやギャンブルに使える金などないというのに。

 レースがスタートする前に、意気消沈してしまう雪。

 ああ、本当に僕はダメな人間なのだと。やはりダメ親父の血が流れているのだと。

 ミューズという支えがなくなった今。自分はこんなにも脆いのだと痛感し始めた頃。競馬中継からスタートの合図が。

 周りは先ほどと打って変わって、異様な熱気に包まれる。「いけ!」「そこだ!」「追い込め追い込め!」等、先ほどまで静けさを保っていた狭い空間は一気に熱気を帯びる。

 そんな空気にあてられながら、雪も鬱屈とした気分のままテレビを見た。

 周りのような熱気もなく、最早結果に興味もなかった。

 ただ、自分を猛烈に嫌いになっていた。

 そして、レースはあっという間に終結する。

 

『出ました!結果は・・・・先頭から1-9-3。1-9-3です!』

 

 実況の声が木霊して、競馬場の中は阿鼻叫喚の渦だ。

 そんな中で、海田雪だけがポカンと口を開けていた。

(1-9-3?1-9-3・・・って、なんだっけ?あれ?どっかで見たぞこの数字)

 当たるわけがない。自分の父親だって何度悔しがる姿を見たことか、その確率がどれほど低いかなんて身をもって知っている。

 だけど、確かめないわけにはいかなかった。確かめずにはいられなかった。

 震える手で、震える両手で、自身が手にしているその馬券を。

 

 1-9-3と書かれたその馬券を。

 

 何度も何度も目をこすった。何度も何度も結果と自身が手にしているその紙片とを見比べた。

 結果は変わらない。1-9-3と表示されているし、自身が手にしている紙片もまた、紛れもなく1-9-3と書かれている。

 

「あ、当たった・・・」

 

 ビキナーズラック。超高校級の幸運。今までの人生の中で一番のラッキー。

 色んな言葉が駆け巡ったが、どれも現実味がない。

 でも、当たった。その事実だけが彼の体を奮い立たせた。

「なんだよ・・・・人生捨てたもんじゃねえなおい!」

 思わず声が漏れ出る。

「おばちゃーん!当たった当たった!1-9-3の三連単!!」

 はしゃぎ有頂天になった雪。小躍りなんかしながら、窓口に換金しに行く。周りの恨めしそうな視線など気にもせずに。

「・・・ん?ああ、1-9-3ね。1-9-3」

 丸い老眼鏡を近づけたり遠ざけたりしながら、思い出したようにお金を取りに行く。少しボケが入っているのかあちこちを引っ掻き回し、ようやく。

「はい、三連単の一倍ね」

 封筒のようなものに雑に入れられたお金。それを雪は受け取る。

 軽い。あまりにも簡単であまりにも軽かった。

 そしてそんな軽い封筒に影響されるように受け取った瞬間、よからぬ思いが。

(こんな奇跡あるんだなぁ。・・・・これ、もう一回やったら当たるかな)

 立派なギャンブラー、いや、依存症に一歩近づいていく雪。こうやって歯止めが利かなくなっていくんだよ。みんなは気を付けようね。

 そんなことを言っている間に、雪の思考は物凄いスピードで進んでいく。今なら小宇宙とか燃やせそうだ。

(こんなチャンス滅多にないぞいやでもなー流石にこれ以上はヤバいきがするしなーでもこの流れは確実に”俺”に来ているしなーいやでもなーそもそも違法だしなーでも違法ってんなら今までも別にやってるしなーいやでもなーだからって今回もやっていいって理由にはなんないしなーでもこんなに楽にお金を手に入れられるのなんてこういう機会しかないしなーいやでもなー失敗したら意味ないしなーでもそもそもこれがラッキーと考えれば失敗しても所詮プラマイゼロなんだよなーいやでもなーいやでもなー・・・いやでもなー)

 こういうのを天使と悪魔の囁きと言うのだろうか。久々に一人称がブレていた。

(いやでもなー買うならもう一回1-9-3かなーいやでもなー今度はちゃんと考えて買いたいしなーいやでもなーそもそもいくら突っ込むかって問題がなー)

 あ、天使死んだ。

 いつの間にか天使と悪魔ではなく、悪魔と悪魔になっていた。というか雪が悪の権化みたいになってた。 

「よし!決めた!おばちゃん!もう一回1-9-3三連単、一万円分ね!」

 迷いとかなかった。罪悪感とか微塵も感じられなかった。完全にクズになってた。お金って怖いね。

「はいはい」

 おばちゃんはろくに顔も見ないまま、すっと馬券を取り出してくれる。

 三連単を一万円分。つまり百円で等倍なので、一万円ならその百倍。もし勝てば5、495、000円なり。五百四十九万五千円。549万5千円だ。

(もし負けても残りの4万円は手元に残り、勝てば莫大な利益。やっべー、僕って天才かもしれない)

 自身の別に大したことない策に酔いしれながら、間もなく第二レースが始まる。

 しかしまあ、こういうのは大抵当たらない。そんな簡単に当たるなら世の中苦労していない。

 特に雪は苦渋をがぶ飲みしているのでそこらへんはちゃんとわかっているはずなのだが、やっぱりお金って怖いね。

 周りの熱気に雪も加わり、大声で馬の名前を叫んだり罵倒したりしながら、レースは進む。

 血走った雪の目はレース終盤をくっきりと捉える。一秒、一瞬でも見逃すまいと。

 そして。

 

『一着ぅうううう!!!一着は一番「ジャスタウェイ」続いて、3-9と並びましたぁあああ!』

 

 結果が発表された。

 

「・・・・・・・・・・」

 

 大きく口をあんぐりと開けたのは勿論雪。

 

 まさかまさかの二連続。それも一番確率の低い三連単。ありえない。天文学的確立である。

 今度は震えるなんてもんじゃない。全身から変な汗が噴き出し、背中なんてこの一瞬でビチョビチョだ。

 目はキョロキョロとせわしなく、頭の中は空白で。

「あががががが」

 歯と歯は噛み合わず、既に手に持った券は汗でしわくちゃになってしまっている。

 傍から見れば具合が悪いどころじゃない。完全に正気を逸していた。

 これが500万円の魔力か。 

「・・・あ、当た」

 そこでハッと気が付き、雪は自分で自分の口を塞ぐ。

(さっきの三連単を一万円買ったことはきっとここにいる人たちには知られているはず!だとしたら当たったなんて反応をしてみろ・・・・!)

 雪の思考は再度フル回転。

 雪、三連単当たったと大はしゃぎ➡周りに「ああ、あいつ当たったんだ」と知られる➡一万円分当たったということはその額は➡・・・強盗だ。奪い取ってやろう。

 こう思うに違いない。と雪は確信する。先ほど当たった時の反応といい、ここの奴らはやる、平気でそういうことをやる人間だ。大体こんな平日の昼間っからこんな所にいる大人がロクな大人であるはずがない。犯罪者だ。犯罪者。

 ちなみにここで雪のスペックを思い出すと、不法入国経験あり。年齢詐称、飲酒、喫煙、賭博罪。これは現在進行形。

 他人のことなんか言えたものじゃないはずだが、勿論本人は自分のことなど棚に上げ、周りの大人たちを勝手に犯罪者に仕立て上げていた。

(危ない。危うくバレる所だったぜ)

 とりあえず、危機は脱したと雪は額の汗を拭う。

(しかし、どうする?多分、というか絶対ここに500万円以上あるとは思えないぞ)

 かといって、彼は他にどうやって換金するのかなんて知らない。なぜなら、素人だから。今日が競馬デビューだったから。

 とにかく、ここにいてもしょうがない。危険なだけだ。

 そう思い、雪はそろーりそろーりと出来るだけ気配を消して競馬場を去る。

「や、やった!まずは第一関門突破——————」

 ドン。

 危機が去ったことによる一瞬の気の緩み。その瞬間を背後から狙われた。

「すいません!すいません!もう本当ごめんなさい!この通りですから!靴でもなんでも舐めるんで!ホント金目の物とかマジ持ってませんから!競馬で500万とかマジ当ててませんから!」

 振り向きざまに瞬間土下座。地面に額をこすり付け何度も謝っていた。

「あ、あのー。顔をあげて下さい。ちょっと当たっただけですから、怪我とかしてませんから」 

 ぶつかったのはなんとも人の好さそうなお兄さん。早い話が雪の早とちりだった。

 だったのだが、雪は冷静さを失い幻聴が聞こえるようになる。

(ちょっと、アタリ屋してただけ!?)

 いや、言ってない言ってない。

「あの、本当に大丈夫ですか?なんかおかしいですけど」

(なんかおかねほしい!?)

 だから言ってない言ってない。

(ま、マズイぃいいい!警戒心と焦燥感から聞こえるわけない言葉が聞こえてくるぅううう!皆僕の胸にある紙切れを狙っている気がするぅ!)

 ギョロギョロと忙しなく動く目ん玉に、恐怖を感じ取ったのだろう。人の好さそうなお兄さんも関わっちゃまずいと思ったのか、足早に去っていった。

 そんなことにも気づかず、雪はなおも一人で戦場にいる兵士のように四方八方を警戒していた。

(だ、ダメだ!ここは人通りが少ないとはいえ、周りが開けすぎている!どこからスナイパーが狙っているかわからん!)

 雪の頭の中では、暗殺者に狙われる総理大臣並みに危険が及んでいた。

 少し光が目に入っただけで、地面にヘッドスライディングするし。少し人が多いからって人を恐れる獣のごとく人を近づけないし。

(はぁはぁ。ダメだこのままじゃいずれ死ぬ)

 完全に憔悴しきっている雪に、ようやく救いの手が差し伸べられる。

「・・・・雪?アナタ何やってるのよ。こんな所で」

 クリクリと自身の毛先を遊ばせややつり目がかった美人。

 

「真姫ちゃん・・・・」

 

 そう、そこにいたのはお嬢様でありお金持ちの、西木野真姫だった。




どうも!リーヨリーヨリーヨリーヨ、高宮です。
えー最近ひっさびさにイナズマイレブンを引っ張りだして遊んでます。やっぱ曲が良いアニメ、ゲームっていいわー。
個人的には2が一番好きです。ウルビダさんとか。本名が可愛い。
あと佐久間とかー、アフロディとかー、不動とかー、バーンとガゼルとかー、ヒロトとかー緑川とかー。
主に敵キャラを好きになる傾向があります。
では、また次回で。
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