目を覚ました。真っ暗な空間の中で、朝焼けのまどろみなどはなくただただ得も知れない恐怖に脳裏が冷やされる。
「・・・・・・えっと」
記憶が混濁している中なんとか僕は現状を確認しようとした瞬間に気付いた。
手足が椅子に縛り付けられているということに。ガチャガチャととりあえず動かしてみるも鎖の前に無残に敗退。
とりあえず動かせる首を巡らせて辺りを伺い見る。
わかるのは誰かの部屋だということ。暗闇にもだいぶ目が慣れてきてベットや机など、生活感が感じられる部屋だということが判明した。
なんだか所々に見たことがあるような。ないような。
(拉致られた・・・のかな?)
段々と意識が覚醒していく中で思考もクリアになっていく。
とりあえず僕以外には誰もいないが、普通に警察案件。普通に事件だろうこれ。どうしようまじで。
なんか改造とかされんのかなーとか、バッタの改造人間にはなりたくないなー虫とか嫌いなんだよなーとか。
その時の僕は半ばあきらめたかのように目が死んでいた。それというのもなんとなーくこの部屋の主がわかってしまったからだろう。
ガチャリ。と、扉が開く。
「ことり」
南ことり。亜麻色の髪の少女で、昔馴染みである。
そのことりの登場に僕はたいして驚かない。なんとなく見たことがあったのは前に一度ことりの部屋に来たからで、その時もなんだかヤバい目にあった気がする。
僕が封印した記憶に苛まされている間、ことりは一切の表情を忘れたかのような無表情で、後ろ手に静かに扉を閉めた。
「な、なんだよー。脅かさないでよ。もうびっくりしちゃうなーもう」
ダラダラと冷や汗が止まらない。背中がビチョビチョだ。こんなんならショッカーのほうが大分マシな気がする。
なぜって?だって今、僕には特殊な状況が発生しているからだ。
そう、嫌われスイッチ。あれが押されてしまっている以上。きっとことりからも嫌われているはずなのだ。
クラスメイトからはもう本当に近寄らないでほしいといった扱いだったので、心をバッキバキに折られた。
もし、ことりにも似たような扱いを受けたら。僕は今度こそ死ねる。なんの躊躇もなくビルから飛び降りる自信がある。そんな自信いらねえ。
ことりだけじゃない、穂乃果にだって海未にだって。他の皆にも絶対に嫌われたくはない。
・・・・・スイッチだってことはわかっている。だけど、それでも嫌だ。みんなに憎悪の感情をぶつけられるのは死よりも痛い。
だから絶対に会っちゃいけなかった。行けなかったのに。
(なんで向こうから来るんだよ・・・!)
不幸が歩いてやってきた。死神でも憑いているんじゃかろうか僕の人生は。
「・・・・・・・」
「こ、ことり?」
なんて考えている間中、ことりはずっと無言だ。部屋の暗さも相まって少々怖い。
いや、ていうかそもそもなんで拉致られたんだろうか僕は。きっとことりも多分に漏れず僕のことを嫌っているはずで、ならばわざわざ近づいてこないと思うのだが。
だが、僕のその考えは甘かった。それはあくまで男子的な考えであり、女子の嫌いと男子のきらいは違う。そんなことついさっき味わったばかりだというのに。
「キモイ」
「え?」
「キモイキモイキモイキモイキモイキモイ!ねえ!なんで生きてるの!?なんで私の視界に入ってくるの!やめてよ!ねえ!」
理不尽。圧倒的理不尽。
女子の癇癪を起こすスピードは恐ろしい。生理的に無理、なんかムカツクなど理由などあってないようなものなのだ。
そんな思考に現実逃避をするくらいには今の僕の心身的ショックは計り知れなかった。鏡を見ればきっと白目をむいていることだろう。
普段の可愛い天使のような笑顔。いつも僕のことを案じて心配してくれる女の子。
そんなことりの姿は今は微塵もない。
鬼のような形相で、僕のことを心底嫌っているとわかる視線。幾千の槍が飛んでくるかのような罵詈雑言。
「ねえ、なんで黙ってるの?」
「ヒィェ!ご、ごめんなさい!」
思わず謝ってしまうくらいにはその迫力は凄まじかった。VRなんか比じゃない。どうやら僕の現実はヴァーチャルを凌駕したらしい。
「うるさい黙れ」
「・・・・・・ごめんなさい」
理不尽!正にこの世の如し!
「大体なに?いつもいつもこっちのアピールなんかてんで無視してるくせに偶に出てくるアライズには結構コロッといくのは。どう考えても正ヒロインが一番大事なのはわかるよね?」
「・・・・・・・」
えっと、あれ?これ何の話?
「天然とかホントそういうのもういいから。もうそんなんじゃ誤魔化せないからね。あーもうホントムカツク。死ねばいいのに。日本中の女の子から刺された挙句に東京湾に沈められればいいのに」
ことりさん!?嫌われスイッチだよね!?嫌われスイッチで心にもないことを言っているんですよね!?途中から嫌に具体的になってきましたけどそういうことですよね!?
若干涙目。というかもう泣いてる僕の顔を見て、ことりは心底嬉しそうで。
「あーほんとウザイ。ムカツクから————————————————痛めつけちゃおーっと 」
真っ黒なハートが瞳の奥に見える。きっと幻覚だろうけど、なんだかヤバいということだけは現実だと分かった。
ことりは自分の机の引き出しから”ムチ”を取り出す。先が動物の尻尾のようにふさふさしているタイプのやつだ。
だがそんな可愛らしいもんじゃないことは誰だってわかる。
ガタガタと椅子を動かしてどうにかして逃げようと「むーだ♪」ダメでした。
僕を縛っている鎖の余りをことりは自身の左手に巻き付けて、どうやら僕を絶対に逃がす気はないらしい。
右手にムチ、左手には鎖。なにこれ?いったいこれどういう状況?SMクラブに来た客みたいになってるんだけど!
そんな僕の焦りも意にも介さずに、ことりはうっとりとした表情で僕を眺める。
右手のムチの感触を確かめているのか、机に何度も打ち付けて。
そしてことりは僕に近づく。
ゆっくりと。
恐怖を纏って。
逃げたい。超逃げたい。脱兎のごとく逃げたい。
けれど、それを許してくれないのはことりが握っている鎖であり、この異様な空間である。
「ちょ!なに!?なんで脱がすの!?」
おもむろにことりは僕のシャツに手を伸ばす。何をするのかと思いきや、ボタンを外していくという暴挙。
「え?だぁってー、”素肌の方が痛いでしょ”?」
痛めつけるつもりだ—————っ!!心の底から痛めつけるつもりだ———————っ!!
「ちょ!やだ!やめて!!」
「もう、大人しくして・・・・おい、動くな」
「ヒェっ」
本当にイラついたのだろうか、普段の何倍も低い声でプラスα真顔で本気のトーンで釘を刺された。
ことり、そんな声も出るんだ。
なんてあまり知りたくなかった新たな一面が垣間見えたことで僕のシャツは無様にも脱ぎ捨てられる。心なしか、シャツが泣いているように見えたのは僕の深層心理を反映してのことだろうか。
上半身素っ裸で、目の前には鎖とムチを持った少女。
もう一度だけ言わせてください。なんだこれ。特殊すぎるだろこの状況。16歳には刺激が強い!
「うふふ」
「ぎゃう!!」
本当に強い!物理的に強い!
「こ、ことりさん。もうちょっと手加減して」
「なに?聞こえなーい」
ああ、もうムチで叩かれることは許容している自分が憎い。なんでこんなに無抵抗なんだろうか。
僕ってばどこまでいっても社畜気質なんだな。
ダブルで悲しくなってきた。心身共にダメージあるぞこれ。
「ねえ?痛い?痛い?」
素肌にビシバシ決まるムチは常にクリティカルヒット。ガリガリHPもMPも削られていく。
「う、うう・・・・」
「あらあら、泣いちゃった?」
悪魔だ!地上界に降りてきた悪魔が今ここに!
「ホント泣き顔まで気持ち悪ーい」
あ、死ぬ。
瞬時に僕はそう悟った。クスクスと嘲笑されるように最大限こちらにダメージを与えようという意図が明確に伝わってきて、僕は死ぬ寸前だった。
「その顔もナヨナヨした性格も、傷も体もあなたの過去も未来も全部嫌い。嫌いで嫌い嫌い嫌い嫌い」
一言一言が馬鹿正直に僕の心に差し込まれて。
そして、いつの間にか目と鼻の先にことりの顔が迫った時。
「大っ嫌いで—————————————大嫌い、」
「むぐっ!?」
はむっと。まるで自然に、そうなるのが必然だとでもいうように。
僕は。ことりにキスをされた。
下唇を甘噛みされ、上唇は優しく触れる。
「————————————っ」
とろりと溶けだしそうな表情で、ことりは唇を離した。
「ねえ?どんな気持ち?今、どんな気持ち?女の子にこんなに痛めつけられて、挙句の果てに初チューまで奪われて。ねえ?なっさけなーい 」
ニタニタと真っ黒な笑顔と心から楽しそうなその声色。
まだ残っている柔らかい感触と、チューをしてしまったという高揚感が入り混じった何とも言えない夢見心地ではある。
僕は起こったことにパニック状態で、つい言ってしまった。
「は、初めてじゃ、ないし」
意地だったのだろうか。なけなしのちんけなプライドだったのだろうか。けれど、この時ほど自らの言動に後悔したことはない。
「・・・は?」
ことりの表情から笑みは消え。さきほどまであんなに楽しそうに嬉しそうにしていたのに、纏った空気は正反対。
「初めて、でしょ?あなたみたいな屑で愚鈍で甲斐性なしで安定性も将来性もない男の子が女の子とチューなんかできるわけないもんね」
「嘘じゃないし」
「・・・ああ、もしかして二次元の女の子とは経験済みですってこと?大丈夫?頭?」
「そんなんじゃないよ!」
心配された!根も葉もない憶測で勝手に頭を心配された!
「え・・・じゃあ、もしかして・・・男?」
「違うわ!」
なんでそうなるんですかね?普通に女の子とって発想はないのか。
「誰?」
「え?」
まあ、当然その疑問に行き着くわけで。
「・・・・えーっと」
ありていに答えを言ってしまえば。ツバサさんと絵里先輩である。
あれはいつだったかことりが働いている店でツバサさんに一回。絵里先輩がミューズに加入するかどうかで悩んでいた時、僕が説得したあの時に一回。他にも、ツバサさんには第二回ラブライブ決勝進出の時に一回された。
まあ、どれもほっぺなんですけど。
でもほら三回もされればキッスに進化するとかそういうシステムない?ないかー。
「言わないとお仕置きだよ?」
鞭をしならせて、ことりはあまりにも恐ろしい。
あんまり言いたくないのは、意地を張った手前ほっぺでしたなんて恥ずかしいからだけど。
でも言わなかったら、もっと恥ずかしいことにされそうだったので僕は言う。今のことりならそれくらいやりそうである。
「ツバサさんに絵里ちゃん」
ぶつぶつと何度か口の中で言葉を繰り返していることり。後ろにあるドス黒いオーラが増えている気がするのは気のせいだと願いたい。
「————ふっ」
あ、笑った。それも嘲笑交じりに、見下す感じで。
「あー、あれ?もしかしてほっぺのやつ言ってる?あんなお子様のやつと一緒にしないでもらえない?ほーんとお子様なんだから」
ケタケタと心底おかしいとでも言いたげに笑うことり。
「ねえ、どうする?ここで一生監禁される人生か、それとも私のペットとして醜く生きていくか」
「いやそれどっちも変わんないですよね!?」
その二つは実質同義だ。選択させているようでいて、実際のところ出口は一つ。
ならば、作るしかない。出口がないのだというのなら作るほかにない。
(ごめん。ことり)
心の中で一言。ことりに謝ってから僕はおもむろに椅子を後ろに傾けるべく体重をかける。
「きゃっ!」
するとどうだろうか。僕の体をぐるぐる巻きにしている鎖の先をことりは握っているわけで。
つまりは僕が椅子を思いっきり引けば、おのずとことりの体はつんのめる。
「てやっ!」
そこをすかさず頭突き!かちわるおでことおでこ。手放す意識。離れる鎖。勝ち得る自由。
「ごめんねことり」
今度は口に出して謝罪をする。いくらなんでも女の子に頭突きをするというのは罪悪感でいっぱいだ。
それでも、僕はやっぱり脱出しなくちゃいけない。こんなふざけた空間には一秒たりともいたくはなかった。
目を回して倒れこんでいることりに両手を合わせて、僕は外へと出た。
一時の危機は脱出できた。とはいえ、まだまだ危険はいっぱいだ。主に僕の精神衛生上という意味で。
僕は先ほどの教訓を生かし、逃げ隠れるように物陰から物陰へと移動する。
前方確認はもちろん、後方から上空から地下まで。危険確認は怠らない。
いつまた襲われて意識昏倒の事態になるかわからないからだ。
そして、慎重に慎重に自分の家へと進む。
「ここだな」
ことりの家から僕の家へと変える場合に通らなければならない場所が一つ。
そう、音の木坂学院である。
こっそりと木陰に隠れながら僕は大きく深呼吸をする。
最大の難所であると同時に、ここさえ抜けてしまえばもう他に恐れるものは何もない。
偶然ばったりと出くわさない限りは。
普段ならこれで安心できる。だが、今回はそうもいかない。嫌われスイッチのなにか神様的な運命のいたずらが作用しないとも限らない。
ありえないって?いや、これが現にあり得るんですよね。さっきのことりだってきっと普段なら会わなかっただろうし。
そも、ありえないというのなら嫌われスイッチという存在があり得ない。
「そうだよ。ありえないよこんなの。元に戻ったら絶対班長に文句言ってやる。絶対に給料を上げてもらう」
こんなことを考えるあたり、実はまだまだ余裕なんじゃないかとも思う。
が、そこはほら。僕の人生経験上こんなに簡単に問題が解決するはずなどないわけで。
困難は向こうから笑顔で手を振ってやってくるし、回避しようとした問題は後になって倍返しを食らう。
それが、僕の人生である。
残念ながら、そう、本当に残念だ。
「「「「「「「「みーつけた!!!!!」」」」」」」」
「・・・・・あ、見つかっちゃった」
本当に嫌になるほど自分の人生というやつが恨めしい。
「せめて一人ずつにしてくれませんかね神様」
元に戻ったら絶対に神様に給料を上げてもらおう。
「あ、ちょっと!にこちゃんもうちょっと優しく縛って!いたっ!絵里先輩痛い!つーかあれ?ツバサさんまでいるし!海未はなんか呪いの言葉紡いでるし!なんなのもう!」
嫌われスイッチ編。次回へ続く。
「続くんだ!やっぱ続くんだ!もう終わってもいいんだけどね僕は!あれ?真姫ちゃん?その注射はなに!?ねえ!?つーかなんで誰も喋らないの!?怖いんだけど!!」
・・・・次回へ続く。僕が、生きていれば。
「ぎゃああああああ!!」
どうもキーブレード使い高宮です。
ps4がほしい。俄然ほしい。最近欲しいゲームタイトルがありすぎて何が欲しいのかも忘れました。
とりあえずキングダムハーツは楽しみにしています。受験が終わったら買う。
あとはポケモンとー、モンハンとー、フェイトとー、ffとー。あれ、結構覚えてるな。
ということで次回もよろしくお願いします。