ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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幼少時代のアレ

「で、この子は誰?」

 僕がお風呂から上がると、不思議なことに人が一人増えていた。

 長い黒髪が顔を覆っている幼女。どう考えても知り合いじゃない。

 いやまあ、あり得ないことを言っている自覚はある。

 普通の家で人が一人増えるなんてありえない。親戚の集まりじゃないんだぞ。意味がわからん。

「ほら、お菓子食べる?」

「なにして遊ぼっか?穂乃果、なんでもできるよ?」

 と、困惑しているのはどうやら僕だけのようでなんか普通に喋っている。普通に打ち解けてる。

「いやいやいや、説明してよ」

 ていうか、いやちょっと待て。

 なんか、なんだろう、どっかで見覚えがあるぞこの子。

 どこでだったか、いやでもこんな子供との面識なんて確実にないぞ僕は。

「はっ・・・!まさか!!」

 まさかと思うが、隠し子!?

 頭がその考えに至った瞬間、雷に撃たれたような衝撃が走る。

 この既視感も、隠し子だと言われれば納得がいく。会ったことはなくても、どことなく似ていると言われればそうなのだろう。

「あれ?だとしたら誰の!?」

 一番重要な点を失念していた。

 お爺さんと、おばあさん。は、現実的に不可能だろう。

 あれ、だとしたら自然に候補は絞られて・・・?

「ねえ、お父さん。二人目、欲しくない?」

「ツバサさん!!?」

 思いっきり大きな声が出た。なぜだかツバサさんが右隣にぴったりとくっついていた。

 つか二人目って何!?一人目もいないからね!?

「雪・・・・ちゃん?」

 なんで穂乃果は驚いてるんだよ!!ちょっと考えればわかるでしょ!?

「フフフ、穂乃果さん?あなたも結婚式の二次会くらいには呼んであげるわ」

 悪魔みたいな顔したツバサさんと、なぜだかキーッと悔しがっている穂乃果。

 そろそろ声に出してつっこもうか、そう逡巡していると。

 

「なにしてんだてめえら」

  

「ひゃ!」

 恐ろしいほどに冷たい声と共に姐さんがぬっと現れた。

 どうでもいいけど、姐さんの子とかじゃないよね。大丈夫だよね。

 ヤンキーにありがちな、できちゃった結婚とかじゃないよね。

「お前の中の私のイメージがよーくわかった」

 どうやら途中から声に出てたらしい、ばっちりと聞かれていた僕は姐さんのヘッドロックの餌食になる。

「いてて・・・で、本当に誰さこの子は」

 気が済むまでヘッドロックをかけられ、頭がぐわんぐわんなりながらも僕は再度確かめる。

「それがね、近所の子なんだって」

 僕をからかうのに飽きたのか穂乃果が真実を教えてくれる。

 ま、ですよね。隠し子とかよりよっぽど現実感のあるその言葉に僕はほっと一息胸をなでおろす。

「一人でこの家まで遊びに来てるそうよ」

 ツバサさんは、姐さんにガン付けられて不貞腐れているのか体育座りのまま教えてくれた。

 ふーん、一人で、ねえ。

 僕はちらとその子を見る。

 先程から一言も喋らないし、微動だにせず畳の上に座っている。  

 あれ?隠し子じゃないとしたらこの僕のデジャブはじゃあ一体なんなんだろう。どっかですれ違ったりしたのかなあ。

 うーんうーん、と頭を悩ませる。子供と触れ合うイレギュラーなんてこの僕にないと思うんだけど。

 

 あ。

 

 いや、あった。イレギュラーなこと。

 思い出した。そういえばここに来る前、姐さんがお世話になっている教会に行ったんだった。

 そんでもって、そこで会ったわ子供に。

 きっとその時にちらっと見たのだ・・・・いや。

 そんな自分の考えを否定する。

 もう一つ思い出した。

 いた。教会の庭で遊んでいる子供達の輪から一人外れていた子供が。

 自分から声を掛けたのに忘れていた。あまりにもその後にインパクトが沢山ありすぎて。

 だから決して、僕の記憶力のせいだとか忘れっぽいわけではない。

「でも、さっきから少しも心を開いてくれないんだよ~」

 穂乃果が泣きついてみても、その子供の口は開かない。

 もしかしてずっとそうやってたのかな、だとしたら大分鬱陶しいけど。

「ごめんねえ、ちょっとお布団敷くの手伝ってくれない?」

 そんなとき、おばあさんが人手を求めて僕らがいる部屋に来た。

「はいはい!手伝います!」

「それくらいお安い御用です。おばあさま」

 ここぞとばかりに二人は元気よく挙手をする。

 いかん、タイミングを逃した。二人め、気まずい空気を吸いたくないからってエスケープしやがった。

 機を逸した僕は、当然その部屋に残らざるを得ない。

 ご飯は食べた。お風呂にも入った。この空間から逃げる手がない。

「どこ行くの姐さん?」

「トイレだよ」

 ついに、姐さんまでいなくなってしまった。

「・・・・・」

「・・・・・」

 うわあ、きっついなあ。

 ただでさえ、心休まる時がないというのに尚更きつい。

 なんで見ず知らずの幼女と二人っきりにならなきゃいけないんだろう。 

 子供と何話せばいいのかなんてわからない。

「えっと、名前は?」

 それでも沈黙に耐えきれずに僕は会話のきっかけを探すように口を開いた。

「・・・・・・・」

 はい無視頂きました-!つらい!!

 子供の無視ってなんでこんなに心に来るんだろう。

 完全に一発KOを食らって、僕の心はポキリと折れた。

 もう黙ろう。

 そう決意して、数分後。

「・・・・伊織」

「うん?」

 小さな声でぼそりと聞こえたその言葉は、確かに「伊織」と聞こえた。

「伊織」

 僕が聞き返したからだろう。もう一度、彼女は口を開く。

 あまりに間が開いていたので一瞬なんのことかわからない。

「ああ!名前?伊織っていうの?」

 数分前に名前を聞いたことを覚えていて、今名乗る気になったのだろうか。

 どれだけ気分屋さん?マイペースにもほどがあるよ。

「・・・・・」

 いや、違うな。

 頬を赤らめて、気恥ずかしそうに目をそらす彼女の姿を見て僕は考えを改める。

 きっとずっと話したかったのだ。

 ずっと僕の質問に答えようとして、でも答えられなくて。

 そして、ようやく間が開いたけど自分の名前を言うことができたんだ。

 その気持ちは、痛いほどよくわかる。 

 僕だって同じだからだ。 

 話すことが苦手で、諦めて、一人はつらいとそう思っていたくせにそれでもその道しか選べなくて。

 穂乃果がいなかったら、きっとこの子のようになっていただろう。この年になってもまだ。

 まったく、感謝しかないね。

「僕はさ、雪って言うんだ。海田雪」

 さて、名前を教えてもらったんだ。こちらも自己紹介しないと不公平というものだ。

「・・・・あ、えと」

「呼び方は、なんでもいいよ」

 困ってる様がなんだか可愛くって思わず微笑んでしまう。

 ああでも、なんでもいいって言っちゃうと困っちゃうかな。

「じゃ、じゃあユキさん。で」

 伊織ちゃんの態度はしどろもどろでせわしなく、慣れていないのだと一目でわかった。

「ん、よろしくね。伊織ちゃん」

 いつの間にか最初の緊張も、気まずさもふっとんでどこかに消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

  

 

 

「な、な、な!雪ちゃんが幼女を懐柔している!!!」

 程なくして、布団を敷きにいくという口実でここから脱出した二人が帰ってきた。

 穂乃果はショックを受けたように膝から崩れ落ちている。懐柔なんて難しい言葉よく知ってたね。

「やっぱりだわ!やっぱり雪はロリコンだったのよ!道理で私になびかないはずだわ!!」

 やっぱりって何!?なにその前々から疑ってたけど決定的証拠がなかったみたいな言い方!

 いやていうかちげーよ!?ロリコンじゃないよ!?幼女を手中に収めようとかしてないからね!?

「お前、一体どういう生活してんだ?」

 なんでこういう時に限っているんですかね!?姐さんは!

 なにこの三竦み。なにこの状況。

「・・・コワイ」

 ヒシ、と僕の腕を弱々しく握る伊織ちゃん。怖いよね。僕も怖い。

「あ、ご、ごめんね」

「それはそうと雪に近づいていいのは私だけだから」

「もう、ツバサさん。そういうのが怖がられるんですってば」

 伊織ちゃんを体で後ろに隠しながら、僕はツバサさんを宥める。

「ちょっと!なんで私が悪者みたいになってるの!?」

 あ、ごめんなさい。ちょっと涙目になっちゃってるツバサさんを見て反省。

「そういえば、家の方は大丈夫?もう暗いけど」

 ていうかこの暗い中、一人でこの家まで来たのかな?近所といってざっと見た限り田んぼばっかりで近くに家なんてなかったけれど。

「・・・・・」

 ああ、しまった。

 どうやら僕はまた地雷を踏んでしまったらしい。  

 ここにきてから、失敗ばっかりだな。

 いやここに来る前からか。何かで成功したことなんて、僕にあっただろうか。

 

「泊まるかい?ここに」

 

 だから、失敗なんてしたくないから。せめてよりマシな選択肢を選べるように。

 僕らは考えなくちゃいけないんだろう。

「ちょ!雪ちゃん!?」

「いいの?勝手に?」

 二人は各々こんな反応だったけど。 

「大丈夫でしょ。あんなに部屋余ってるんだし」

 絶対二人で住む家とは思えないほど広いわけだし。こんな時くらいしか活用方法ないだろ。

「いや、そうじゃなくてね———————————、」

「ん?」

 

 

 

 

 ああー(/ω\)。 

 恥ずかしい。またやってしまった。

「ごめんねえ。あんまりお客さんこないから布団の数が足りなくって」

 部屋は余りあるほどに足りているのに、布団が足りないらしい。

 数は一個。つまり。

「あの、私帰ります」

「待って待って」

 ここで帰してみろ。僕のことだ絶対引きずる。帰る最後の方までなんなら帰ってからも引きずる。

「僕はほら、畳でもなんでも寝れるから。伊織ちゃんは布団を使いなよ」

 大丈夫。慣れてるし。

「駄目よそんなの。一応家主みたいなものでしょ?」

 僕の提案を一蹴するツバサさん。他に案でもあるのだろうか。

「ということで、穂乃果さん。あなた色々鈍そうだから畳でも大丈夫よね。ああ、安心して。雪の隣はちゃんと私が守るから」

「なんでさ!ツバサさんの方こそ偶には畳の感触でも味わったらいいじゃん!雪ちゃんの隣はわ・た・し!」

 なんだろう、二人とも気のせいかもしれないけどちょっと仲良くなった気がする。ツバサさんの穂乃果に対する呼び方が変わってるし。

「ほら!ちゃんと布団も三つに並べたんだよ!」

 スパン!と、勢いよくふすまを開けると、確かに言う通り布団が三つ並べられている。

「真ん中は喧嘩するから雪ね」

 喧嘩?真ん中がいい理由ってなに?

 なんかよくわからないけど、一ミリも嬉しくない気遣いをされたところで一つ気づいた。

 ・・・なんかもっこりしてる。

「あれ?」

 穂乃果も気づいたようで真ん中の布団だけやけにもっこりしている。

 ていうか絶対人いる。かくれんぼしてる幼稚園児みたいになってるもん。

 そしてここにいない、かつこんなことをする可能性のある人間は。

「もう、穂乃果~。いつまでそんな子供っぽいことしてるのさ」

「・・・・いや雪ちゃん!?」

 あれ?

「私ここ!!いるから!ていうかさっきまで会話してたよね!?」

「いやー、ごめん。ついさ、こんなことをするのって穂乃果以外思いつかなくて」

「穂乃果ももうそんな子供じゃないよ!!」

 ぷんすかと怒る穂乃果。じゃあ一体誰だろう。

 僕がクエスチョンマークを頭の上に浮かべていると、思いついたようにツバサさんが言う。

「じゃあ私の布団で一緒に寝ましょう!大丈夫!体をくっつければ二人で一つの布団でも大丈夫!」

 大丈夫じゃないね。それ。主にツバサさんの頭が。

「ちょっと待って!それなら穂乃果の布団のほうが大きいよ!たぶん!一ミリぐらい!」

 よくそんなミリ単位のことで大きな声で言えたね。すごいよ。何がすごいってまったく心が動かないのがすごい。

 そんなバカをやってると、不意にガバリ!と布団がめくれる。

 そこに横になっていたのは姐さんだった。

 いや確かに消去法で考えれば自明の理なんだけど、なにやってるんだあの人。柄じゃないにもほどがあるぞ。

 

「何か問題でも?」

 

 一段とドスの利いた声で、一段と影を増した表情で言葉をぶつけてくる姐さんに。

「いえ」

「何もありません」

「すいませんでした」

「・・・・・グス」

 なぜか僕まで謝ってしまった。伊織ちゃんに至っては泣きそうだ。

「じゃ、じゃあ。僕らあっちで寝るから」

「ちょ!待ってよ雪ちゃん!」

「そうよ!私達を見捨てるつもり!?」

 ひどいなあ。言い方が、ただ姐さんとねるだけじゃないかあ。ハハハ。

 乾いた笑いしか返せなかった。

 

         

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと・・・」

「いいよ、遠慮しないで。僕はここで寝るよ」

 部屋の真ん中にポツンと敷かれてある布団。伊織ちゃんは何度か僕とその布団に視線を巡らせて。

 そして何か一つ意を決したように口を開いた。

「あの、一緒に・・・・」

 言葉足らずではあったけど、言わんとしてることはわかった。

「・・・そうだね。一緒に寝ようか」

 その言葉に僕は甘えることにしよう。

 まったく、人生何が起こるかわからないなあ。

 だって、今日会ったばかりの子と一緒の布団で寝ることになるんだから。

 伊織ちゃんは小さくて、僕のそう広くない胸の中にすっぽりと収まる。

「あの、お家には」

「大丈夫、おばあさんが連絡したよ」

「そう、ですか」

 ほっとしたような、バツが悪いような。そんな顔。

「家に、帰りたくない?」

 僕は、努めて重くならないように気を付けながら。あくまで世間話を装ってそれを聞いた。

 答えは、コクリと頷く伊織ちゃんの反応。

「そっか」

 家に帰りたくない。その理由はわからないけど、きっと色々あるんだ。こんな小さな子だって。

「僕もね、帰りたくなかったよ」

 そしてそれは僕だって例に漏れず。色々あった。色々あってここまできた。

「寝よっか」

 それ以上は何も言わずに。

 大丈夫だなんて無責任は言えないし、絶対なんてわからない。

 それでも、できることまでしないわけにはいかないんだ。

「うん」

 体温の温もりと、月明かりに照らされて。

 僕らは眠りに落ちた。 

 

 




どうも少女革命高宮です。
・・・次回もよろしくお願いします。 
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