恐るべき亀更新……これもどれも全部私に文章力って奴が無いからなんです!誰か、誰か私に文章力をォォォ!!(泣)
それではお待たせ致しました。
さあ、みなさん!キノコ狩りの時間だーーッ!!(笑)
「作戦開始」
明朝……伊奈帆の声を合図に静かな空に突如赤い閃光が上空に上がる。数は三つ、その意味は戦闘開始。
当然ながら火星人であるトリルランもクリムもそんな事は知らない。だが向こうが何かしろの行動に出るつもりなのは明白であった。
『見つけたぞ、ネズミめ』
そしてその動きをニロケラスの鷹の目はいち早くキャッチした。オレンジ色のカタフラクト――現在は高校での兵科教練などで使用されている一世代前の地球製カタフラクト《KG6スレイプニール》が三機にトレーラーが一つ、そのトレーラーを殺し損なった子ネズミが運転しているのを見てトリルランは狂気の笑みを浮かべる。
「クリム卿、貴公はあのカタフラクトを始末しろ。私はトレーラーを追う」
了承するクリム。これで誰の目を気にする事も無くネズミを始末出来る。痺れを切らして自ら殺されに来るなど愚かな選択をしたものだ……彼はその程度にしか考えていなかった。
突如ニロケラスの視界が真っ白な煙に襲われなければ。
「なっ?!何が起きたのだ!!」
「カタフラクトから煙幕弾が放たれています!まさか鷹の目の存在に気づいているのか?!」
オルティスのモニターでは二体のカタフラクトが上空にライフルを向け煙幕弾を次々と撃っている姿が映っていた。
ニロケラスの鷹の目、その正体はUAV(無人航空機)という外部カメラである。バリア発動中は外界の情報が一切遮断されるニロケラス、その視界を確保するためにあるのが上空に打ち上げられた無数のカメラなのだ。
伊奈帆達がこの存在に気づいたのはニロケラスと初めて会った時、奴が死角である筈のビルの裏側からでもこちらの位置を正確に把握しているかのように追って来た事、そしてトンネルに入った瞬間にすぐさま追跡を諦めた事だ。奴の視界は別にある……そう考えた伊奈帆の予測は見事に的中した。
曇天のような空。カメラが捉えるのは真っ白な煙ばかり、視界を奪われたニロケラスの動きは一瞬で止まってしまう。
「あの小賢しいオレンジ色を止めます」
だがオルティスのメインカメラは正面にあるので上空の煙幕も意味が無い。勿論視界が取り辛いビル群の中に入っていくのは危険だが条件は向こうも同じ筈……彼は市街地を目指し自らの愛機を動かす。
その時、上空を一つの黒い影が通り過ぎていった。
「い、一体何が……トリルラン卿!これは一体!」
黒い影スカイキャリアのコックピット内で幼さの残る顔立ちの少年の戸惑った声が響いた。彼の名前はスレイン・トロイヤード、クルーテオ伯爵の使用人でありトリルランをこの地まで運んで来た少年だ。
そんな彼はこの異常な空模様を見てトリルランに尋ねたのだが……
「トレーラーだ!」
「はっ?」
「道を教えろ!奴はどこだ!!」
返って来たのは自分の疑問に対する答えでは無くそんな怒声であった。全く訳が分からないが激昂しているトリルランのあまりの迫力に特に意味を考えずにその尋ねているであろうトレーラーを上空から探し出す。
「街の中心部に向かっているようです」
その言葉を聞いてトリルランはニロケラス動かす。自慢のバリアで
「地球の……カタフラクト」
下を見るとそこには此方に向けてマシンガンを構えているオレンジ色のカタフラクト……そこで漸く彼は此処が戦場のど真ん中であった事に気がついた。そして自分はあのカタフラクトに狙われているという事も……
未だに続く銃撃。このままでは墜とされる……!そう判断したスレインはスカイキャリアを旋回させそのカタフラクトの正面に回り込んだ。そして――
「ご、ごめんなさい!」
と一言謝りスカイキャリアに搭載されている榴弾砲を発射。1発目、2発目、3発目とダンダンと地面を抉り、4発目はそのカタフラクトに命中……しかし、脚部のスタビライザーを盾のように展開させた事でそのカタフラクトは直撃を免れた、恐らくパイロットも無事だろう。
その光景に変な話だが内心スレインは良かったと胸を撫で下ろした。そもそも彼は戦士ではなくただの一使用人……当然ながら命のやり取りなんていう恐ろしいことをしたことも、またしたいとも思わないような善良な一般人なのだ。
それともう1つある。それは彼スレイン・トロイヤードは火星人ではなく地球人であるという点だ。
彼の父は科学者であった。物心ついた頃から母はいなく父と共に各国を回る生活……そんなトロイヤード博士がアルドノア研究のために最後に訪れた場所が火星だったのだ。
その後、父は亡くなり彼はクルーテオ伯爵に引き取られた。そのため彼は地球人でありながら火星に住まうという複雑な環境で生活することとなった。各国を回る父に付いていったため故郷と呼べる場所は無く地球という星への愛着は正直言ってしまえば希薄だが、自分と同じである地球人に攻撃するという行為に気が引けてしまうのは当然だろう。
「なっ?!き、機体が……!!」
しかしホッとするのも束の間、大きな衝撃がスレインを襲った。
それと同時にモニターは左翼の異常を示す。何とか持ち直そうと操縦棍を動かすも片翼が全く機能しないスカイキャリアでは高度を上げる事は最早不可能だった。
不時着の衝撃に耐えようと身構えるスレイン。そんな彼が最後に見たのは此方に向けて銃を構えている先ほど自分が撃ったのとは別のカタフラクト。
そしてそのカタフラクトに接近していく一体の火星カタフラクトの姿だった。
「おのれ……!」
クリムは頭に血が昇ってくるのを感じていた。事は数分前、上空をスカイキャリアを飛んでいるのに気づいた事から始まる。
いくら火星の技術といえどもスカイキャリアは輸送機……武装は最低限の物しか搭載されておらず、こんな戦場にいるべきではない。早々に立ち去るように忠告しようと追い掛けようとした丁度その時だった。突如敵のカタフラクトがスカイキャリア発砲したのだ。
まあ彼らにしたら突然戦場に明らかに火星側の機体が現れたら援軍だと勘違いするだろう。つまり迎撃したのは当然の判断だと言える。
しかし彼は違った。武器を持たぬ者に攻撃するとはなんたる卑劣!卑怯!そのような非道をのさぼらせてよいのだろうか?否!例え天が許そうともこの騎士道が断じて許さぬ!!
「堪忍するのだな地球人!!」
「嘘?!」
「なっ?!もう一体!?」
ドスン、ドスンと地響きを鳴らしながら二機のスレイプニールに近付いて来るオルティス。それに気づいた二人は驚嘆の声を発した。
よりによって2体……それも今新しく現れたらこいつはあのダンゴムシとは違って何の能力を持っているのかは不明なのだ。そんな未知数の敵との遭遇とは彼らが最も避けたかった最悪のケースに違いなかったであろう。
それでも――
「韻子、プランBだ!」
それでも彼らが止まることはなかった。生き残るため、友達の仇を討つため……彼らに戦わないという選択肢は端から存在していなかった。それに彼らには戦うための手段もある……
プランB……それは敵側の援軍が来るという最悪のケースを想定した伊奈帆が建てた作戦だ。その内容を聞いた時はあまりの衝撃に二人揃って口をあんぐりとさせてしまったのは記憶に新しい。
だがその作戦には一つだけ懸念事項があった。
「でもカーム、機体が……」
それはカームの機体の損傷具合だ。というのも韻子にはこのプランBを行うのは必然的にカーム一人だけとなる。勿論できるだけのサポートはするつもりだがそれでも少なくない損傷を受けているカームのスレイプニールをあれと戦わせるのは心許無い。
だがそんな不安そうな表情の韻子を安心させるようにカームはハッと鼻を鳴らして不敵に微笑んだ。
「こんなん屁でもねえぜ。俺に任せて先行け、韻子!」
「でも……」
「いいから!大丈夫だ、逃げ回るだけなら得意だって!!ほら、急がねえと遅れるぞ!!」
「…………気をつけてね」
韻子のスレイプニールはその場を後にして伊奈帆に指示された予定ポイントへと走って行く。この場に残されたのは自分のスレイプニールただ一機……手負いのそれを動かしてカームは目の前の敵に銃を向ける。
「……どういうつもりだ?」
だが銃を向けられた当の本人クリムは応戦の構えを取らず眼を細め怪訝な視線を対峙しているスレイプニールに投げ掛けた。
というのも彼らの作戦を知らない彼からしたら二対一で戦える状況をわざわざ自ら手放すという愚かな行為にしか思えなかったからだ。
勿論例え二体同時に攻めて来たとしても彼には絶対に勝てるという自信はある。だがしかし、だからこそ数の有利を自分から捨てた意味が分からない。
何か意図があるのでは?彼はそれを理解しようと精一杯考える。考えて考えて考えて――――
「そうか…………」
そしてある一つの結論に辿り着いた。一人だけ残された敵、この一対一という状況……まさか……いや、これはそうとしか考えられない!彼は眼を大きく見開き嬉しそうに口元を綻ばさせた。
「成る程――――――――
決闘か!一対一の勝負を所望とは……!!この地にも同じ志を持つ者がいて私は嬉しいぞ!!」
…………全く持って勘違いではあったが。だがこうなってしまった彼は止まらない。まさかこのような地にも我らと同じ
そんな勘違いを寸分も疑いもせずオープン回線を開いて彼はその勇敢なる敵に名乗りを上げた。
「我こそは火星軌道騎士三十七家門が一人クルーテオ伯爵が騎士、クリ――」
「うるせえぞ火星野郎!!」
だがそんな事はお構い無しと名乗りを上げる前に撃ちまくるカーム。(本人にとっては)突然の不意撃ちを食らいオルティスは無数の弾丸を浴びる事となる。
「クソッ、かてえ!」
「おのれ……!名乗りを上げる前に攻撃するとは不粋な……!!」
しかしオルティスの身体には傷一つつける事も叶わなかった。堅牢なオルティスの装甲はマシンガンから放たれた75ミリの銃弾を見事に全部弾く。
機体は無傷……だが彼の怒りは頂点に達していた、騎士の戦いに騙し討ちとは……!!許せん!!クリムは怒りのままにオルティスの巨大な両腕の指先をカームが乗るスレイプニールに向けた。
「受けよ!忠義の嵐!!」
そこから放たれたのは弾丸、指に設置された計10個の砲門が火を噴き次々と弾を吐き出していく。
「へぇ?…………マズッ!」
まさか指が銃口になっているなんて……予想外の攻撃に思わず驚くカーム。しかし、あまりにも呆気に取られ過ぎて反応が遅れてしまったのは痛恨のミスだった。回避運動を行わず直立不動のまま…………つまり彼は動かない的と同じなのだ。このままでは蜂の巣になることは想像に難くないだろう。
「…………あ、あれ?」
「クッ!やはり駄目か……!」
だがその弾が届くことはなかった。弾はスレイプニールを逸れて建物や道路に穴を開けていく。
……はっきり言うと外れたのだ。というのも実は彼――クリムは射撃が大の苦手なのだ。訓練も全体的に高成績を修めていたのに射撃が全てを引っ張り主席を取り逃がしたという苦い経歴を持つほどのノーコン……
まあ彼のこの欠陥には幼少期に養父クルーテオ伯爵から教わった”飛び道具など無粋、接近戦こそ戦場の華”という言葉を真に受け接近戦の特訓しか行わなかったというのが大半を占めているのだが……それをさておき。
片や当たることの無い攻撃、もう片や当たっても効かない攻撃……このままでは戦いは平行線になることは誰から見ても明白であった。
「ならばこれで……!」
これ以上撃ち続けても埒が空かん!クリムはオルティスに装備された第2の武装を使用する。それは肩に設置されていた先が鋭く尖ったスパイク……それが正面を向き射出された。
「貫けぇぇ!!」
それはまるでミサイルのような恐るべき速さでカームのスレイプニール目掛けて飛んでいく。その威力は先ほどの銃弾の比では無い、直撃すればスレイプニールなど木っ端微塵に砕けてしまうだろう。だが――――
「――――よっと!」
だがカームは機体を90度旋回させてそれを回避した。
確かに速度こそ脅威ではあったが真っ直ぐにしか飛ばない飛び道具を避けれない道理は無い。案の定少し回避運動を行っただけでその飛び道具はあさっての方向へと飛び去っていった。
だがそこで彼は気づく、そのスパイクが飛んでいた跡を辿るように一本の細いワイヤーが通っていることに
「なっ?!クソッ!」
後ろを振り返るとそこに見えていたのは予想通り自分に迫り来る巨大な先端だった。まさか追尾式!……だが気づいた時にはもう遅く避けることなどできない。その巨大なスパイクは右脚を貫きスレイプニールは前のめりに倒れてしまう。
片脚を失いながらも起き上がろうとジタバタするスレイプニール。そんなスレイプニールにオルティスは伸ばしたリードを素早く引き戻し回収しながらその指先を向けゆっくりと歩いて来た。
「さらばだ、地球人」
「うおおぉぉぉ!!!」
「なんと?!」
止めとばかりに至近距離で弾丸を撃つオルティス……だがカームは咄嗟にスレイプニールの大腿部に設置されている巨大な翼――スタビライザーについているブースターを逆噴射させてその全てを避け切る。ガリガリとその身と道路を削りながら機体はもの凄い速さで後退していく。
「―――――クッ!無駄な足掻きを!!」
その後を追い掛けるべくオルティスを進ませるクリム。だがそんな横から来た衝撃――韻子のスレイプニールが放った長距離ライフルの弾がそれを邪魔した。
小癪な……!そう思い応戦しようと試みるが如何せん距離がありすぎて届かない。仕方無いので建物の陰に入りそれをやり過ごしていると今度は白い煙が辺りを包み込む。カームが残りの煙幕弾を全部発射したのだ。
「しまった……!」
視界を奪われ一瞬で敵を見失ってしまうクリム……煙が晴れた時にはあのカタフラクトの姿は何処にも見当たらなかった。あの煙に乗じて何処かに逃げられたのだ。まんまと逃走を許してしまった彼は自分の不甲斐なさに歯噛みをした。
だがそこで彼は気づいた。それは自分の目の前に広がる抉られた道路……結局立つことができなかったスレイプニールが移動する際につけてしまった足跡のようなものだ。
「フッ……頭隠して尻隠さずという奴だな」
ある少年から教えて貰った覚えたての諺を呟きクリムは引導を渡すべくその跡を追った。
その先に待ち受けているものも知らずに……
削られた跡を追っていくこと数分、辿り着いたのは軍の基地だった。人気は無くあるのはカタフラクト用の格納庫や弾薬庫……目的であるオレンジ色のカタフラクトはその格納庫の外壁に寄り掛かるようにして倒れ込んでいた。
「……抵抗せぬか」
何かの策かと思い慎重に近づいてみるが動く気配は少しも無かった。諦めたのか燃料切れか……どちらにせよ一思いにやるのが礼儀というものであろう。そのまま近づき銃口を向ける。
「……さらばだ」
五つの砲門が一斉に火を噴く。スレイプニールは機体を穴だらけにしてさっきまでの抵抗が嘘のようにあっさりと爆発した。
「…………」
何ともあっけない、という感想を抱いてしまった。姫様の命を奪い、我らを敵に回したのだからそれなりの戦力があるのだろうと予想していたのだが正直拍子抜けだった。…………本当に我々と戦う覚悟があったのかと疑問に思ってしまう程には……
…………考えても仕方がない。ともかく1機は倒したのだ、後は残りの2機を倒しトリルラン卿に合流すればいいだろう……そう思い踵を返しそうとしたその瞬間だった。
「なっ?!」
思わず声を発してしまう程の衝撃が彼を襲った。突如彼の周りで爆発が起きたのだ。それも1つや2つではない……数十もの爆発が一斉に、だ。
敵襲?!そう思い周りを見渡すがこの場にはカタフラクトどころか人っ子一人もいない。何処だ、何処から狙ってきた……!!メインカメラだけではなく索敵能力をフルに使って探ってみるがその攻撃の発生源を見つけることはできなかった。
「まさか――――」
ハッとして咄嗟に上空を見上げる。そこには青い空をバックに白い筒状の物体が後ろから火を噴きながらこちらに向かって墜ちようとしていた。あれは――――
「ミサイル、だと?」
その正体は無数のミサイル。それらが一斉にこちらに向かって飛んできていた。それを見て彼はその攻撃の正体がこちらの索敵範囲外――海からの攻撃だと気づいた。
しかし1つだけ分からないことがあった。何故、どうして奴らはこちらの位置を把握できている?海の向こう側からこの障害物が並ぶ街中のこちらの位置など分かる筈が―――――
「――ハッ?!まさか……!」
そこで漸く彼は気づいた。奴らの不自然な動きの正体を……つまり自分は逃げている奴を追いかけているようで実は誘い込まれていたのだ。
さらにここは軍の基地、燃料やら弾薬やらが大量に保管されているここでミサイルが爆発すれば――――結果は火を見るより明らかだった。
「なんとぉぉぉっ!!」
そんな叫び声をバックにミサイルは着弾し爆風と共に熱を吐き出す。その熱は周囲の燃料や火薬に着火、それによって発生した爆炎はオルティスを包み込むのであった。
所変わって先程攻撃を行っていた揚陸艇……そのブリッジではさっきまで基地であった場所から大きな黒煙が立ち昇っているのを全員が静かに見つめていた。
「……やりましたかね」
「…………さあ」
心配そうに呟いた界塚ユキの言葉に艦長であるダルザナ・マグバレッジが答える。
この船の目的は新芦原市に取り残されてしまった避難民の救助だった。それはここにいる界塚ユキが誘導してくれたので滞りなく無事完了したのだが、問題はその後、ユキが言った思わず耳を疑ってしまう言葉であった。
それがあの火星カタフラクトの撃退するというもの……さらに驚くべきは彼女の弟――界塚伊奈帆が立てた作戦だ。
周到に敵を調べ相手の能力を把握、それから予測される敵の能力と最も有効であろう手段、更にはイレギュラーにへの対策まで……どれもがただの一高校生が考えた物とは思えない見事なもので思わず脱帽してしまうほどであった。
そして先ほど敵の援軍というイレギュラーに対して伊奈帆の作戦を実行したのだ。
それが敵を地球軍新芦原市基地に誘導し、基地諸とも爆破させるというものであった。座標は分かっているので後は発射角の計算をし待機、そして先ほど敵の誘導成功の信号弾を確認した彼女は攻撃の指示を出し現在に至る。
まあ本来なら軍の基地への攻撃なんて許されざる行為なのだが、もうあの基地は放棄することが決定していたのは幸いだった。おそらく伊奈帆もその点を考慮してこの作戦を立てたのだろう。
本当に末恐ろしい少年ですね、とマグバレッジは未だ見たことない界塚伊奈帆という少年に思いを馳せていた。
「安心するのはまだ早いぞ」
だがその沈黙を壊すように哀愁漂う男の声が響いた。全員が声を発した方向を振り向く。
「鞠戸大尉……」
「あいつらのカタフラクトには常識なんて通用しない。謂わば化け物だ」
染々と、どこか遠くを見るような瞳で呟かれた鞠戸の言葉は一気に周りの空気を重くした。それもそうだろう、彼は言外にあいつはまだ倒せていないと言っているようなものだからだ。
勿論彼はここにいる全員の不安を煽るためにそんなことを言った訳ではない。彼は知っているのだ、
だからこそ、その言葉は周りに影響を与える重みを持っているのだ。
「……みなさん、次の準備に取り掛かって下さい」
ともかくあの敵は後回しだ。伊奈帆の作戦のお陰で敵の合流という最悪の状況を防ぐことができたのだ、このチャンスを逃す手は無い。
マグバレッジの指示で全員が次の作戦へと取りかかるのだった。
味方がそんな危機に陥っているとは露知らずトリルラン駆るニロケラスはトレーラーを追いかけて橋の上を進んでいた。
速度は互角……だがこちらが腕を振り回してもトレーラーは紙一重で避け切る。巨大なカタフラクトとは違い小回りが効くトレーラーは狭い橋を縦横無尽に動き回るためニロケラスは捉える事が出来ないでいた。
「ちょこまかと……!私をコケにするかッ!!」
頭に血が上ったトリルランは橋の一部を抉り取りトレーラー目掛けて飛ばして来る。
必死に回避するトレーラー……しかし無数の一つがフロントガラスに激突し怯んだ所をニロケラスが腕を振り落としトレーラーの後部が消滅してしまう。
「……逃げて」
額から血を流しながらライエは助手席の少女セラムに話し掛ける。自分を見捨てて逃げれば助かる、と……
何故なら彼女は知っているからだ。あのカタフラクトの目的は自分だと……
トリルランが言っていた子ネズミ……それは彼女ライエ・アリアーシュなのだ。彼女の父ウォルフ・アリアーシュはアセイラム姫暗殺の実行犯のリーダー的存在だった。
だからあいつがここにいるのも、ここにいるみんなが危険に晒されているのも私のせいだ。二人一緒に逃げることが無理なら、せめて無関係の貴女だけでも……
「いえ、合流予定時刻まで後。時間を稼ぎます」
しかし、セラムは柔らかい声色の中に断固とした意思を含ませてその申し出を拒否した。
そのまま彼女はトレーラーから降り立ち自分たちを追い掛けてきたニロケラスを見据える。
「命乞いとは見苦しいな、地球人」
「控えなさい!目に余る狼藉、赦せません」
トリルランは目の前の少女に嘲りを孕んだ言葉を投げ掛けるが、少女から期待していたような言葉は返って来なかった。
では何故わざわざ出て来たのか……その理由はすぐ分かることとなる。
「ヴァ―ス第一王女の名において……」
彼女の身体から眩しい光が溢れ出す。その光の正体は光学迷彩……アルドノアの恩恵で技術が革新的に発展した火星に於いてのみ許された技術だ。
そしてその光が晴れ、現れた少女の姿を見てトリルランは驚愕した。
流れるような金糸、純白のレースがふんだんに使われたドレス、それに強い意志を覗かせる翡翠色の瞳を持つ彼女の名は―――――
「ア、アセイラム・ヴァ―ス・アリューシア姫殿下?!」
そこにいたのは暗殺された筈の火星第一皇女アセイラム姫だった。彼女は一歩前に出て覇気を込めて目の前の二ロケラスに毅然と言い放つ。
「下がりなさい!無礼者!」
「馬鹿なッ?!そんな馬鹿なぁッ!!」
もし彼が優秀な男であればアセイラム姫、そしてライエも命を落としていたであろう。この戦争の発端であるアセイラム姫が生きていたとなれば彼らにとっては最大の障害、最悪その生存が明るみに出れば長年に渡る計画が瓦解することは明らかだからだ。この場で殺さないなんていう選択肢を選ばないような余地は無い筈であった。
だがしかし――――彼は所詮小物であった。冷静な判断力も決断力も持たない彼はただただ取り乱し、後ろに下がることしかできない、その光景は見るものが見ればさぞ滑稽に見えるであろう。
そしてその絶好のタイミングを狙ったかのように揚陸艇からミサイルが放たれた。
その頃、新芦原市にある地球連合軍の基地……先ほどミサイル攻撃を受けた此所に広がるのは無惨な姿に成り果てた建物に焦土……そしてそこに佇んでいる一体の巨人――オルティスだ。全身は爆炎を受けて黒焦げ……その姿は最早の行動不能、一歩も動くことはあたわず――
「…………危なかったな」
――という事は無かった。モノアイに光が灯ると同時にオルティスはその巨体をゆっくりと起こす。その満身創痍の見た目に反してコックピット内の計器は何の異常も来たしていないかった。それもこれもオルティスの甲冑の硬度の高さとアルドノアの力のお陰……それがなければ流石に行動不能、最悪消し炭になっていたであろう。
それにしても……
「一刻も早くトリルラン卿と合流しなくては……」
相手の戦力をみくびっていた……先ほどの攻撃で冷静になった頭でならそう断言できる。戦力と言ってもそれはカタフラクトの性能という訳では無い。彼らの最大の武器――それは戦略に連携……個々の戦いしか知らない火星騎士には想像もつかないような戦い方だ。
そんな彼らがただ逃げるためだけに出て来た筈が無い、少なくとも先ほどの爆撃は確実にこちらを倒しにきていた。次元バリアの攻略方法など皆目検討もつかないがそれでも…………奴らはニロケラスを倒しにきている、そんな確信が彼にはあった。
レーダーは次元バリアの前では意味を為さないので探すには目視に頼るしかない。クリムはオルティスのメインカメラをせわなく動かす。
暫くするとそれらしきシルエットが橋の上をいるのを発見。望遠カメラで覗くと今まさに二ロケラスがミサイルによる攻撃を受けている瞬間だった。
当然ながら次元バリアの影響でミサイルは二ロケラスに触れると同時に消滅するが、それが本命ではないことがさっき彼らに一杯食わされた彼にははっきりと分かった。
そして今度はミサイルとは別方向から銃弾が放たれた。弾は二ロケラスの肩に向かって飛んで行くがそれも先ほどのミサイル同様バリアで消される。
それでも銃撃は続いた。一発、二発と最初に当たった位置からずれ、遂には二ロケラスを完全に外し橋に命中した。しかし全く外れたというのに銃撃の勢いは抑まることはない、乱射にも近い間隔で撃ち続けられた銃弾は次々と橋を削っていき――――
ま、まさか!!奴らの狙いは――――
「トリルラン卿!すぐにそこを離れ――」
だがその言葉は届くことなかった。銃弾でボロボロになった橋は二ロケラスの重量を支える事が出来ず足元が崩壊、二ロケラスは真っ逆さまに落下した。
だが彼の瞳は既にそれを映していなかった。その視線は先ほどまでニロケラスが追い掛けていたトレーラーの近くにいる一人の少女に釘付けとなっていた。
その頃、橋の下では水に浸かり動きが鈍くなっている二ロケラスを一機のスレイプニールが睨みつけていた。
そのパイロット――界塚伊奈帆は最後の一手を打つべくこの近くにいるもう一人に無線で声を掛ける。
「カーム」
その人物とは先ほどまでもう一体の火星カタフラクト――オルティスを相手していたカーム。彼の近くにはあの基地から拝借した軍用バイクが一台置かれていた。
「まったく……人使いが荒いぜ伊奈帆」
そんな軽口を言いながらも手を止めず小型の偵察機を操り二ロケラスの周囲を探る。二ロケラスの周りは次元バリアの影響で水が吸い込まれる。だがある一ヶ所だけその現象が起きていない所があった。そしてそれこそが伊奈帆が予測した完全無敵に見える二ロケラスの唯一の弱点……
「見つけた!水が吸い込まれない、背面装甲インテーク右下、爪の隙間!!」
その場所を聞くやいなや伊奈帆のスレイプニールはナイフを構え走り出す。そして突き出されたナイフは寸分違わずその場所を刺し貫いた。
「ば、馬鹿な……」
「お前のバリアに隙間があることは分かっていた。例えば接地面、足の裏にバリアは張れない。そんな事をすればお前は立つ事すら出来なくなる。お前のバリアはその無敵さ故全身を覆うことが出来ない」
有り得ないとばかりに目を見開くトリルラン、伊奈帆は淡々と説明する。
ニロケラスの次元バリア……その弱点は
だから意図的にバリアの隙間を作る必要が生まれるのだ。1つは地面との接地面である足の裏、そこにバリアを張ってしまえば次元バリアが地面を吸収してしまいニロケラスの身体は沈んでしまう。
そしてもう1つは……
「外部カメラのデータ受信部、バリアの隙間の一つさ」
そのまま装甲を斬り裂き、銃口を向ける。
「友達の分だ」
鳴り響く無数の発砲音……マズルフラッシュと同時に放たれた弾丸は全て無防備なニロケラスを撃ち抜く。ニロケラスは撃たれるたびにその身を振動させ、機能が停止すると同時に前のめりに倒れ込む。幾人もの命を奪った恐るべき敵は漸く倒されたのであった。
ほっと安堵の息を吐くと同時に上を見上げる伊奈帆。するとそこにはライエと――見知らぬ少女が立っていた。
いや――伊奈帆は一度彼女を見た覚えがあった。それはあの時――火星の第一王女のパレードの時に要人護送用のリムジンから出て来て飛来したミサイルの直撃を受けた人物――
「火星の……プリンセス」
同刻、その少女を同じように見つめている者が二人もいようとは流石の伊奈帆も知る由は無かったのであった。
やはり伊奈帆には勝てなかった(笑)
さてここら辺でオルティスの武器をおさらいしてみましょう。
①指から銃撃;そのまんまです(笑)しかしノーコンの彼にとっては牽制程度にしか使えません(笑)弾の無駄遣いです(笑)
②肩から飛び出すスパイク; モチーフはコードギアスに登場するスラッシュ・ハーケンです。オート機能で追尾するのでノーコン(笑)の彼が重宝しているという設定があったりします。
③硬い装甲;とにかく硬いです。マシンガン程度なら弾き返せますがあの爆発に耐えきったのは別の要因だったりします。
さて……もうそろそろオルティスのアルドノア能力が明らかになるのではないでしょうか。もしかしたらもう気づいてしまった方もいるのでは……とちょっとビクビクしてます(笑)
それでは次回の投稿は未定……だけど出来るだけ早く更新したいな~もうそろそろ夏休みだし……