不老不死の幻想入り   作:人生脇役

28 / 29
薬師の弟子

ふと目に入ったのは、綺麗な黒髪だった。

いつものように置き薬の販売のため、人里に来ていた鈴仙は、八百屋の店主と会話していた。

「ねぇ、おじさん。あの人は?」

鈴仙の会ったことのない人間、だろうか?

肉屋の店主と会話している彼女は、人里の人々とは違う雰囲気を纏っている。

「あの子かい?少し前から、里の外れの家に住んでるんだよ、慧音さんの紹介でな」

「慧音さんの?」

「なんでも、寺子屋の子供が妖怪に襲われていたのを助けてきたらしい。人当たりもいいし、俺はいい子だと思うよ」

「へぇ、そうなんですか…」

返事をしながら、鈴仙は彼女を観察する。

最初に目についた、艶のある黒髪。腰くらいまで伸びたそれを、普通の紐で乱雑に纏めている。

肉屋の店主と比べてみると、かなり小柄で、華奢なほう。しかし、すらりと伸びた手足がそれを感じさせない。服装は男物らしい。こちらに左側を向けているので、よく見えないが、右腰になにか提げている。

「お代はこれでいいかい?」

八百屋の店主が、そう言ってお金を差し出す。

「あ、はい。いいですよ。いつもありがとうございます」

「あぁ、こちらこそ。助かってるよ」

店主と別れ、鈴仙は彼女に話しかけようと近づいた。ちょうど、彼女も買い物を終えたらしい。

「すみません」

「ん?」

彼女がこちらへ振り向いた。

ちらり、と鈴仙の頭の傘を見る。

「私、鈴仙といいます。ときどき、竹林の永遠亭から人里に、置き薬を売りに来ています」

「ああ、どうもご丁寧に。俺は、ルート・フォンクといいます」

彼女がこちらへ体ごと向き直り、自己紹介する。と同時に、鈴仙は彼の右腰のものが何かを理解した。標準的なサイズの銃と、そのホルスターだ。

「これが、気になるか?」

彼が鈴仙の視線を察して、訊いてくる。

「はい」

「その様子からして、何かはわかるんだろう。まぁ、自衛用さ」

「外来人の方で?」

「ああ。旅人なんだが、迷い混んでしまってね」

「へぇ………」

「それで、何か用だったかな?」

「いえ、見慣れない方だと思ったのと……」

鈴仙は一瞬、言い淀む。顔つきなど、一見して綺麗な少女だが………。

「綺麗な男の方だと思って」

骨格など、よく見ると男のものだった。

「お、わかったのか」

「多少、医術の心得がありますから」

「なるほどね。まぁ俺は多分、医者にかかることはないだろうが」

「どうしてです?」

ルートと名乗る彼の物言いを、鈴仙は考える。自信だろうか?

「ここだけの話だがな」

彼は少し声を小さくして言う。

「不死身、なんだ」

「え?」

鈴仙は、驚いた。

不死身?どういうことだ?治癒力でも高いのだろうか?

それとも。まさか?

「なんで、そんなことを?」

何故、急に?

「永遠亭なら、君も知っているはずだからな」

「姫様や、妹紅さんみたいな?」

「ああ」

それは、なんというか納得だ。蓬莱の薬のせいかはわからないが、彼は少なくとも、あの二人と同じような体質なのだろう。

言われてみれば、人里の人々と違う雰囲気も納得できる。老い、と言うものを感じさせないのだ。

「失礼ですが、お歳を訊いても?」

「30だ。まぁ、普通さ」

「普通、ですかぁ」

どうみても15くらいだ。

それはさておき、人間としてなら、確かに30は普通の歳だ。

「ところで、鈴仙さん。あなたは、兎の妖怪か何かかい」

「玉兎で、地上の兎です。今は、永遠亭で薬師の見習いをしています。…妹紅さんから、ですか?」

「そうだ。やはり兎なのか。………ふむ」

「?」

「永遠亭に、伺ってもいいだろうか?」

「永遠亭に?はい、大丈夫だと思います。人里の方も、たまに来ていますから。ただ、道案内がないと迷いますよ?すぐですか?」

「今日でもいいのか?」

「はい。私は、仕事が終わり次第帰りますから。案内しますよ」

「ありがたい。なら、これを置いてからにしよう」

風呂敷に提げている肉を、彼が示す。

「それなら、私はここのお店をまわっていますので」

「ああ。また後程」

そう言って、彼は歩き去っていった。

その後ろ姿を見て、鈴仙は思った。

───髪、もうすこしきれいにまとめればいいのに。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。